「魔法少女ちゅうかなぱいぱい！」 第21話「東大の家庭科」

」
　行男「これ？」

　ぱいぱいが選んだのは青いブラウス。具体的にどのくらいの値だったのかは分からない。

　
　行男は仕事があるからと先に帰り、4人は、商店街のサービスで貰った風船を手に、まったりと街をぶらつく。

　いかにもシャドームーンさん（会社経営）が出てきそうな場所ですね。

　そして三バカは広場で思いっきり風船を飛ばす。

　バックには心和むバラード（曲名不明）が流れ、空はくっきりと澄み渡っている。

　
　日差しを、敬礼のような仕草で遮りながら、小さくなっていく色とりどりの風船を見上げるぱいぱい。

　この導入部は、まるっきり普通のホームドラマっぽくて、「ぱいぱい」らしさは微塵もない。

　だが……、

　
　無論、このまま何事もなく終わる筈もなく、そのまま飛んでいくべき風船が、急に重くなって三人の頭上に落ちてくる。

　ぱいぱいが咄嗟に押しのけたので、トオルとシンゴは無事だったが、アキラはそれをまともに脳天に受けてしまう。

　
　アキラ「ぐわっ……」
　ぱいぱい「アキラ君！」

　タイトスカートのぱいぱいが思わず駆け寄る……、管理人はここで念の為にコマ送りをして、もしかしたら見えないかなぁ（何が？）とチェックしたことを告白せねばならない。

　そして、見えなかった（だから何が？）ことを報告しておかねばならない。

　
　ぱいぱいが心配そうに見守っていると、不意にアキラが意識を取り戻してバネのように起き上がる。

　
　顔付きが変わり、ついでに服装まで、詰襟の学生服に牛乳瓶の底メガネと言うガリ勉スタイルに変貌する。

　
　ぱいぱい「アキラ君！」
　トオル「どうなってんだ？」

　アキラは立ち上がると、ぱいぱいたちを押しのけ、何処かに向かって脇目もふらず歩き出す。

　風船の動きと言い、アキラの異変と言い、この時点で魔法の力が関与しているのに気付きそうなものだが、何故かぱいぱいはそのことには触れない。

　
　んで、アキラがやってきたのは、他ならぬ東大の赤門前だった。

　アキラ「俺は東大に行くぞーっ！」
　ぱいぱい「えーっ？」

　唐突に、突拍子もないことを宣言するアキラであった。

　
　言うだけではなく、アキラは帰宅するなり机に噛り付き、狂ったように勉強に励む。

　いや、かつて「5分と机に向かっていることが出来ない」と言われたアキラにすれば、完全に狂ったとしか言いようのない姿であった。

　
　もっとも、別に悪いことをしている訳でもないので、ぱいぱいたちは口をぽかんと開けてひたすら見守るしか出来ないのだった。

　
　行男「風船のショックで、アキラの頭脳がヘ長調からハ短調に変調してしまったと言う訳か」
　ババア「でも結構じゃないか、あの勉強嫌いのアキラが勉強しだしたんだから」
　行男「それもそうだなぁ……じゃあみんなでアキラのことを応援してやるか」

　と、シンゴが、ぱいぱいが買って貰った服の包みを持ってきて、着てみるように勧める。

　
　ぱいぱいが、包装紙をぴりびり破って服を取り出そうとすると、いきなりコンパスが飛んできてテーブルに突き刺さる。

　うーん、この鉛筆アタッチメント式のコンパス、懐かし過ぎて泣きそうになるなぁ……。

　今のコンパスって、どんなんだろう？

　
　見れば、いつの間にかアキラが立っていた。

　アキラ「ぱいぱい、うるさいよ、勉強が出来やしない！」
　ぱいぱい「あたし、なにかしましたか？」
　アキラ「今これを、ぱりぱりって剥いだでしょう？　音で気が散る！」

　
　ババア「そうだよー、東大受験を目指す子は腫れ物に触るように扱わなきゃいけないんだよね、ぱいぱい、気をつけなさいよ」

　ババア、アキラに迎合してぱいぱいを注意するが、アキラは「おばさんが一番うるさい！」と、定規でその頭を引っ叩く。

　初期の、狂った野獣のようだったババアの姿は今いずこ……？

　
　ババア「あたし、静かにしてんじゃないの」
　アキラ「顔がうるさいんだよ！」
　ババア「顔が？」
　アキラ「そんな騒々しい顔が僕の目の前に存在して、僕が勉強できると思うの？　さーっ帰ってよ！」

　メチャクチャなことを言われて、困惑するババアが可愛いのである！

　アキラ「起立、回れ右、前へ進めーっ！」

　アキラの号令に従って立ち上がるババアの胸が、割とでかいことに気付いた管理人は、なんとなく落ち込むのだった。

　ババア、アキラの迫力に押されて言われるまま家を出て行く。インターフォン越しに子供のような悪態をついてから、フェードアウト。

　
　その後もアキラは一心不乱に勉強に没頭する。

　ぱいぱい、抜き足差し足忍び足で音を立てないように静かにアキラのところに、カップラーメンを運んでくる。

　
　それでも、お盆を置いた時の「コトン」と言う音に、アキラは「うるさい！」と過敏に反応するのだった。

　ぱいぱいが1階に降りてくると、行男たちがひそひそ声で話しかける。

　シンゴ「お兄ちゃん、ちーっとも遊んでくれないよ」
　トオル「東大なんて諦めてくれないかなぁ」
　行男「ぱいぱい、なんとかならんかね」

　
　ぱいぱい、目をつぶって顔を横に振り、

　
　ぱいぱい「祈りなさい……」

　
　三人は素直に廊下に正座して両手を組んで、何事か念じるが……、

　
　コトリとも音を立ててないのに、2階から大量の水が降ってくるのだった。

　アキラの声「うるさいっ、勉強の邪魔をするなーっ！」

　もう、気分はほとんどリーガンの母親のような行男たち。

　無責任な行男は、家にいるのはまっぴらだと、仕事を口実にさっさと出て行ってしまう。
　それを見送るぱいぱいも、つい溜息が出る。

　ぱいぱい「はぁーっ、私もあんな家、息が詰まりそう」
　タクラマカン「ぱいぱい様、でしたら中華魔界にお帰りを」

　
　ぱいぱいのその台詞を待っていたように、商店街の法被を着て赤い風船を手にしたタクラマカンが現れる。
　頭の回転の速いぱいぱいは、即座に今回の騒動が全て彼らの仕業であり、その真の狙いも見抜いてしまう。

　ぱいぱい「あんたね、あんなことしたの……東大受験生を抱えた家は雰囲気が重苦しくなる。私が高山家にいるのを嫌にさせて中華魔界に帰そうって魂胆でしょ？」
　タクラマカン「よくお分かりです、さ、お帰りを」

　忘れがちな設定だが、ヌルハチとタクラマカンは、五目殿下と結婚するのが嫌で人間界へ逃げたぱいぱいを、中華魔界に連れ戻す使命を帯びているのだ。

　ぱいぱい「あっかんべーっだ！」

　逃げるぱいぱいを必死に追いかけるタクラマカンであったが、そこへアキラが現れ、「うるさいよ、おじさん」とタクラマカンを追い払う。

　
　アキラ「ぱいぱい、これ取れちゃったんだ、つけてくれない？」
　ぱいぱい「ボタンぐらい自分でつけなさいよー、赤ちゃんじゃないんでしょ」
　アキラ「そんな暇ないの、俺今英語やってんだから」
　ぱいぱい「何が英語よー、英語が神様の言葉じゃあるまいし！　たとえ東大に入れたにしても、身の回りのこともろくに出来ないようじゃ、一人前じゃないわー」
　アキラ「ぷっ、俺に家庭科やらせようって言うの？　残念でした、東大の試験には家庭科なんてないもんねー」

　憎たらしげに言うと、ぶつぶつ英文を唱えながら歩き出すアキラ。

　ぱいぱい「ようし、こうなったら徹底的に家庭科仕込んでやる！」

　家政婦の仕事を馬鹿にされて怒りに燃えるぱいぱいは、中華魔女の姿になって文部省の前にテレポートする。

　
　ぱいぱい「文部省に魔法！」

　ぱいぱいの魔法のステッキから、ピンク色の光が放出されて文部省の建物を包み込む。

　その結果、

　
　アキラ「大学受験講座の時間だ」
　ぱいぱい「では、ただいまから、裁縫の勉強を始めます」
　アキラ「さ、裁縫？　変だな」
　ぱいぱい「このたび、文部省では大学入試科目の全面改訂を発表しました。英語、数学などの科目は全部なくなり、試験は家庭科のみで行われます」
　アキラ「な、なんだって！」
　ぱいぱい「すなわち、裁縫、料理、洗濯、掃除などです。これらが出来なくては何処の大学にも入れません。では今日は雑巾の縫い方を学習します……」
　アキラ「……英語なんて勉強して損した。よし、俺も塾に入るぞ！」

　などと言う、奇想天外なことになる。

　このように、一度捻られたものを元に戻すのではなく、さらに捻っておかしな方向へ持っていくのが、「ぱいぱい」のストーリーテーリングの特徴であり、魅力なのである。

　で、アキラは早速、家庭科専門の塾へ入る。

　
　ぱいぱい「では、今日はお結びの作り方を学習します。皆さん、手はようく洗いましたか？　それでは、始め！」

　そこの講師は、おかっぱのカツラにメガネをかけたぱいぱい。

　うーん、このコスプレははっきり言ってハズレだな。

　
　家事はぱいぱいに任せっきりのアキラ、ご飯をガチガチに固めてぱいぱいに叱られる。

　ぱいぱい「君、お結びはやたら力一杯握ればいいってもんじゃないの！　手のひらで、このように優しく結ぶの、だからー、お結びって言うのよ」
　アキラ「なるほど」
　ぱいぱい「君は今まで何勉強してきたのっ」

　ぱいぱい、アキラを気持ちよく叱り飛ばして、さっきの鬱憤を晴らすのだった。

　ついでに、これは、ペーパーテスト重視の大学受験に対する軽い風刺にもなっている……ような気がする。

　
　ぱいぱい「では、皆さん、あっちの部屋でパンツと靴下を脱いで来て下さい」

　次のシーンで、突然とんでもないことを言い出すぱいぱい。

　アキラ「はっ、なんでですか」
　ぱいぱい「下着ぐらいは自分で洗うものです。それもできないようじゃ、東大には入れませんよ」

　仕方なく、受講生たちは別室で下着と靴下を脱ぎ、バスタオルを腰に巻いて戻ってくる。

　
　ぱいぱい「皆さん、準備は出来ましたか、それじゃあ、始め！」

　このシーン、ぱいぱいが、フルチンの若い男たちに囲まれているのだ……と言うことに気付いた人が勝ちです。

　
　最後の掃除の時間、ぱいぱいは、「さぁ、その汚い顔を拭いて！　雑巾で顔ぐらい拭けなくて東大に入れますか？」と、メチャクチャなことを言い出す。

　ぱいぱい、雑巾を取って、アキラの顔をごしごし拭いてやるのだった。

　
　その後、赤門の前に立っているアキラを見ながら、ぱいぱいが変装を解く。

　
　ぱいぱい「ちょっとやり過ぎちゃったかしら？」

　タンが出てる、タンが！

　と、そんなアキラに白いスーツの胡散臭い男が話しかける。
　男は、東大の受験に、どんな問題が出されるか知っていると言うのだ。アキラは目の色変えてその男についていく。

　……と言っても、まだ小学生のアキラが、今年の受験問題を知ったところで意味はないのだが。

　詐欺師めいた男は、アキラを人気のない森へ連れて行き、テーブルの上に乗せてあるひとつのリンゴを見せる。

　
　男「テーブルの上のリンゴを剥くんです、5分以内に」
　アキラ「それくらい、俺にも出来るようになったもんねー」

　アキラは自信たっぷりに言うと、椅子に座ってナイフで皮を剥き始める。

　笑いながらそれを見ていた男、アキラの背後に回るとパッと姿を変える。そう、例によってパイカルが化けていたのだった。

　アキラ「あれ、さっきの人は」
　パイカル「どうでもいいだろう、そんなことは……剥けたか」
　アキラ「ほうらっ、これで俺も東大合格だね」
　パイカル「いや落第だ、私は言った筈だ、テーブルの上のリンゴを剥けと……ようく見たまえ」

　
　パイカルに言われてもう一度見ると、いつの間にか、テーブルの上にリンゴが山盛りになっているではないか。

　アキラ「わっ、うわっ、うわーっ！」

　
　パイカル「あと3分以内にこのリンゴの皮を全部剥かなければダイナマイトが爆発する仕掛けになってるんだ」
　アキラ「どわーっ、どわーっ、どわーっ！」

　アキラ、テーブルの下にダイナマイトの束があるのを見て、すぐ逃げようとするが、いつの間にか鉄球の付いた鎖が足首に嵌められていて、動けない。

　パイカル「針がここへ来るまでにリンゴを剥き終わらなければ、ふっふっふっふっ」

　どう考えても間に合わないのだが、アキラは一心不乱に皮を剥き始める。

　
　その様子を物陰から見守っていたぱいぱい、アキラを助けようと出て行こうとするが、いつの間にかヌルハチとタクラマカンが後ろに立っていて、刀の切っ先をぱいぱいの背中に押し当てる。

　ヌルハチ＆タクラマカン「すいませんね、ぱいぱい様、これもパイカル長官のご命令でして」
　パイカル「ぱいぱい、中華魔界に帰れ、そうすればあの子は助けてやる」

　ぱいぱい、悔しそうに唇を結ぶ。

　
　導火線が刻々とダイナマイトに近付いていく絶望的な状況の中、全身から汗を吹きながら必死にナイフを操っていたアキラだったが、さすがに「もうダメだぁっ、ああーっ」と悲鳴を上げる。

　
　ぱいぱい、パイカルがアキラの方を向いている隙に、ヌルハチたちにこっそり尋ねていた。

　ぱいぱい「あんたたちぃ、あいつ好き？」
　ヌルハチ「ううん」
　タクラマカン「嫌いです」
　ぱいぱい「でしょっ？」

　この辺のなあなあぶり、いかにも「ぱいぱい」らしいのだが、ヌルハチたちはあっさりぱいぱいに寝返り、わざとやられたふりをしてその場にひっくり返って見せる。

　自由になったぱいぱいは、すぐ中華魔女に変身し、テーブル上のリンゴを一瞬で全て剥いて、その大量の汁で導火線の火を消す。

　
　パイカル「くそお、ダイナマイトを消したな」
　ぱいぱい「いいえ、まだ一本残ってるわ！」

　ぱいぱいはダイナマイトをパイカルの足元に放る。

　パイカル、ドリフのコントみたいなズタボロの黒こげになって、ふらふらと去って行く。

　そして、そろそろ潮時なので、ヌルハチが残していった風船にぱいぱいが魔法をかけ、再びアキラの頭上に落下させる。

　最初の時と同じように、アキラは大の字になってぶっ倒れ、それからいつものアキラになって起き上がるのだった。

　アキラ「なんだか疲れるなー」
　ぱいぱい「アキラ君、まだ東大行きたい？」
　アキラ「もうっほんとにもうっ、冗談はやめてよ！　俺が東大に入れる訳ないでしょって！」

　
　ぱいぱい「そうだよね！」

　ぱいぱい、両手をぐるぐる回してから、

　
　ぱいぱい「入れる訳ないもんね！」

　右手人差し指を向ける、お得意のポーズを久しぶりに決める。

　こうして、事件（？）は解決を見るが、

　
　ラスト、ぱいぱいのあの服が、急に家庭科に目覚めたアキラたちによってバラバラにされ、雑巾に仕立てられると言う悲劇がぱいぱいを見舞う。

　ぱいぱい「私の服を雑巾に？　ひどい、ひどすぎる！　許せなーい、ふゃーん」

　
　さらに、泣き喚くぱいぱいの顔を、その雑巾で拭いてやる鬼畜のようなアキラであった。

　ぱいぱい「ふゃーん！」

　まぁ、家庭科の塾で、アキラを必要以上に苛めた報い、と言えないこともないが、さすがに服を雑巾にしてしまうと言うのは、いくらコメディと言ってもやり過ぎで、珍しく後味が悪いエピソードとなっている。

　おわりです。