第12話「愛は死線を越えて」(1984年12月22日)
お待たせしました。「スクール☆ウォーズ」のお時間です。
前回のラスト、新楽で働いている圭子のところへ、圭子の父親である富田義道が部下の影山を引き連れやってきたシーンからスタートです。

影山「第四秘書の影山です。どうぞ」
滝沢「なんですか、これは?」
影山「お嬢様が二、三日、あなたのおたくでお世話になったそうで……社長からホンのお礼です」
滝沢「僕はそんなつもりで」
富田「きみぃ、人間死ぬ時以外は金が役に立つ。邪魔にはならんだろう」
滝沢は断固受け取ろうとはしなかったが、影山がその内ポケットに無理矢理ねじ込む。
富田は、圭子をそのまま連れて帰ろうとするが、圭子はあくまで拒否する。
圭子「先生、私、光男さんのそばにいて良いですよね?」 愛しの光男の腕にぶらさがって、甘えるように滝沢に許しを求める圭子。
違う、こんなのモナリザじゃない! ……あ、別人か。

しかし、滝沢はさっきの封筒を影山の内ポケットにねじ込みながら、「いや、君は一度家に帰るべきだ」と自分の考えを述べる。
ここでひとつギャグを考えたのでメモしておく。
影山(うっ、こんな正々堂々と人の懐から金を抜こうとするとは……こいつ、只者ではない!) ……ご清聴ありがとうございました。ボツにします。
他にも滝沢と影山が喋る度にいちいち互いの内ポケットに封筒を突っ込んでいく……みたいなネタを考えましたが、面倒臭いのでやめました。
話を戻して、
滝沢「子供が親のそばにいないのはやはり不自然だよ。縁談がイヤだったら断る権利だってあるんだし……もう一度お父さんとじっくり話し合って良く分かって貰った方がいいじゃないか」
圭子「……」
富田「さすがは先生、話が分かりますな」
滝沢の常識論を聞いて、富田が我が意を得たりと言う顔をする。
だが、その場には「金輪際、話の分からない奴」、いや、「是が非でも分かろうとしない奴」が約1名いた。
大木「おう、おっさん!」 どんなまとまりかけた話も一撃でぶち壊してしまう談合クラッシャーの異名をとる大木であった。
呼ばれてもないのにしゃしゃり出てきた大木は、「森田さんは立派な点取り虫だ」と変な誉め方をする。
富田「馬鹿な、落第するような点取り虫が何処にいる?」
大木「ほんとだって、森田さんは点を取れるようになりたいってそりゃあ頑張ってんだぜ、ばっちりトライ決めてーってよ」
富田「ラグビーの話か。あんなもんは馬鹿のすることだ。だいたいスポーツは頭の悪い奴のやるものだ」
大木、要するに何が言いたかったのかさっぱり分からないのだが、富田の不用意な一言は、

滝沢「そりゃ断じて違いますよ! 選手は自分にボールが来たらどうするか、相手のディフェンス……(中略)……ラグビーは頭を使わなくては出来ないですよ! (中略)……どうして馬鹿なんですか?」
ラグビー馬鹿こと滝沢を興奮させ、その饒舌を引き出す結果となる。
富田(なんかすげー面倒臭いのに関わっちゃったなぁ。早くおうち帰りたいなぁ……) 富田は滝沢など相手にせず、力ずくでも圭子を連れて行こうとするが、今度は下田がしゃしゃり出てきて、「営業妨害はやめてくれませんかね」と、圭子を守ろうとする。
結局、圭子が奥の部屋に引き篭もってしまったので、富田と影山は一旦出直すことにして、店を出て、
2次元の世界(書き割りの街)へ消えて行くのだった。

二人が帰った途端、下田はいきなり光男を「この意気地なしが!」と怒鳴りつける。
下田「肝心のお前が圭子さんと付き合わせて下さいって一言も言えねえで、何ポケッと突っ立ってやがんだ」
そして、光男の姿が画面下に消えるほど思いっきり光男の頭をはたく。
その夜、入院しているイソップのことが気がかりで滝沢はタクシーで病院へ向かう。
事前に連絡していたのだろう、滝沢がタクシーから降りると、すぐイソップの父親が姿を見せる。

父親「わざわざ、どうも」
滝沢「あ、はぁ、何もして上げられる訳じゃないんですが、じっとしてられなかったもので……」
父親「医者は一ヶ月もすれば退院できると……しかし問題はそれからなんですよ。浩は何ヶ月か先の死を控えたまま、生きることになるんです」
父親は、イソップが余命僅かであることを決して本人には知られないようにと、改めて滝沢にお願いする。

ここでOPになるが、それが終わると早くもドラマの中では一ヶ月が経過し、イソップが滝沢に伴われてラグビー部の部室に顔を覗かせると言うシーンになる。大木たちは驚き、且つ、イソップの退院を喜ぶ。
イソップ「みんな、いつも見舞いに来てくれてありがとう」
大木「この野郎、帰って来るなら来るで一言くらい知らせろよー」
加代「みんなイソップが退院したら、パーッと快気祝いやろうって言ってたのよー」
だが、イソップはそれよりも部員たちの練習風景を見たいと言い、グラウンドに移動する。
部員たちの技量も上達し、試合形式での練習を軽くこなしてしまうほどになっていたが、あるプレーで、大木が早々にボールを追うのを諦めたのを見て、思わず滝沢とイソップが同時に「大木ぃ!」「大木君!」と大声で叫ぶ。

イソップ「大木君、どうしてボールを最後まで追いかけないんだ?」
大木「今のはどうせ、タッチ(ライン)を割るって分かってたからよ」
イソップ「ボールが生きてる間はベストを尽くさなきゃ! 最後まで諦めちゃダメだ!」
大木「うっせぇなぁ、いちいち」
見てるだけのイソップに説教されて、大木は不服そうにそっぽを向く。

だが、イソップは物怖じせず、
「小さなひとつひとつのプレーが大事なんだよ、先生がいつも言ってるじゃないか。どんなことがあっても諦めない心、それが大きな勝利に繋がるんだって! たとえ負けると分かってる戦いでも、最後の最後まで戦い抜く、それが男だろう、ラガーマンだろう?」と、重ねて叱咤する。

大木「……参ったなぁ、以後気をつけます!」
さすがの大木も降参して、冗談めかした口調ながら、イソップに対してペコリと頭を下げる。
その後も、イソップは「オイ、もっと
ハッスルしろよ!」などと言う、
訳の分からない檄を飛ばすのだった。
だが、ただ一人、イソップの病気のことを知っている滝沢だけは、イソップが元気な姿を見せれば見せるほど、心が鉛のように絶望の淵に沈みそうになるのを感じていた。
滝沢、イソップの「ハッスル」ぶりを職員室でも話題にしていた。
教頭「じゃあ、もう病気の方は良いんだね」
滝沢「……ええ、後は時々薬を貰いに通院すればいいって言ってました」
そんな偽りを平静を装って言う時、滝沢は、喉を空気の塊が塞いでいるような息苦しさを感じずにはいられないのだった。その滝沢に、校長だけは複雑な視線を送って寄越す。
現時点で、イソップの死病について知っているは学校では滝沢と校長の二人だけであったのだ。
このまま何事もなく進めば、イソップは自分の病気のことを知らずに明るく学園生活を送った末、ガクッと穏やかな死を迎えられたのかも知れないが、運命の神は、いや、大映ドラマのスタッフは酷薄であった。

ある日、医者から渡された新しい薬のラベルをひょいっと見たイソップの目が、信じがたいものを見たと言う風に凝結する。
それはK16と言う記号に過ぎなかったが、この時点では視聴者にも明かされない事情から、イソップは自分の命が残り少ないことを瞬時に悟ってしまったのだ。
医者や看護婦の前では何とか平静を保ったイソップであったが……。

河原に立ち、あの薬瓶を握り締めていたイソップは、川に向かってそれを投げ捨てる。
そして橋の下に走っていくと、コンクリートの橋脚に手をつき、何度も何度も拳で壁を叩く。
しかし、頭上を通過する電車の音に潰されて、イソップの悲痛な嗚咽は誰の耳にも届かなかった。

ふと、イソップが視線を土手の方に向けると、ちょうど、揃いの白衣を着た光男と圭子の人も羨むカップルが肩を並べて歩いているところだった。やがて元気良く駆け出す二人の影。
涙を浮かべて見上げるイソップの目には、それは眩しいほど輝いて見えたことだった。

ナレ「一度で良い、自分も恋をしてみたい。浩はそう思った」
あの……、そのナレーション要ります? このドラマのナレーションって、80パーセントは不要なナレーションだと思う。
そうやっていちいちキャラクターの心情を説明しないと理解できないだろうと、視聴者のことをバカにしているのではあるまいな?
思い立ったが吉日、イソップはいそいそと川浜高校へ行き、中庭で、洗濯した部員たちのラガーシャツを干している加代のところへ向かう。

加代「イソップ、おはよ」
イソップ「……」
加代「良い天気ね、干すの手伝ってよ」
イソップ「……」
加代「なんか用?」
イソップ「加代さん、僕、あなたが好きです!」 急に男前になったイソップ、つかつかと加代の前に立つと、開口一番、告白する。
……しかし、さすがに、こんな奴おらへんやろ。
普通は一晩くらい悶々と悩んでから告白すると思うよ、あたしゃ。
とにかく、唐突にそんなことを言われて、加代も固まり、わざとらしく手にしていた洗濯物を落とす。

イソップ「いつだって僕に優しくしてくれましたね。だから僕……」
加代「
どうもありがとう。とっても嬉しいわ。でも私ぃ……」
イソップ「いいんです。ごめんなさい、急に変なこと言っちゃって」
イソップはすぐにその場から走り出す。
イソップ一世一代の告白に対する、加代の
「どうもありがとう」と言う返しも握手会でファンに告白されたアイドルみたいでひどいが、相手の返事を待たずにさっさと敵前逃亡しちゃうイソップもかなり情けないものがある。
もっとも、イソップとしては自分の思いを打ち明けたことで十分満足したのだろう。
ちなみに加代は密かに滝沢に恋をしていて、いつか節子を亡き者にしてその後釜に座ろうと考えていません。
と、ちょうどそこへ滝沢がふらりと姿を見せる。

滝沢「お前、昨日、家に来たんだってな? 何か用か」
イソップ「別に」
滝沢「おお、別にって……何か用があるから来たんだろう?」
イソップ「なんでもありません……
お話したってどうしようもないことなんです」
イソップの肩に手をやって親しげに尋ねる滝沢であったが、イソップは暗い眼差しで見返してそう言うと、そのまま走り去ってしまう。
滝沢、もしやイソップが自分の病気のことを知ってしまったのではないかと懸念する。
滝沢はイソップの担任の甘利先生と一緒に、その晩、奥寺家を訪問する。甘利先生にはその際、イソップの病気のことを打ち明けたのだろう。

滝沢「今日は授業にも練習にも出て来ませんでした。退院してきた日にはあんなに張り切ってた浩君が……この変わりようは、ひょっとして彼は自分の死期を知ったのではないでしょうか?」
父親「先生、とぼけないで下さいよ」
滝沢「とぼけるって何をですか?」
父親「あれほど約束しておきながら、先生、浩に話したんですね」
滝沢「いいえ、僕は絶対に」
父親「だってその他に考えようが……」
父親は、てっきり滝沢が秘密を漏らしたのだと考え、難詰するが、ちょうどその時、イソップを大声で呼び止めようとする母親の声が飛んでくる。
滝沢たちが駆けつけるが、イソップは無言で家を飛び出してしまう。父親の金を盗んで行ったらしい。
夜の街を彷徨うイソップ。
折しも、クリスマスシーズンで、あちこちにツリーか飾ってあり、サンタの格好をしたサンドイッチマンが歩いている。無論、今のイソップにはクリスマスもへったくれもない。
ところで、「へったくれ」って何?
イソップ、目に付いたビールの自販機で(昔は自販機で売ってたのだ)ビールを買うと、物陰に移動してぐいっと呷る。酒を飲むのは初めてなので、当然むせる。
その後、自分を探している滝沢たちの目を逃れて盛り場を目的もなく歩いていたが、

(スタッフの合図を)
「待ってました」とばかりに、街のダニが群がってくる。
リーダー「よお、金貸してくれ、金」
イソップ(待ってたんだね……)
無抵抗のイソップは金を巻き上げられるが、彼らの「嫌なことなんか忘れてスカッとしようぜぃ」と言う言葉に敏感に反応し、逆に彼らの後についていく。
イソップは、死の恐怖から逃れられるのなら、なんでもいいから縋りつきたい心境なのだ。

で、彼らの言う「スカッとすること」とは、80年代定番のシンナー遊びであった。
しかし、トルエンを垂らしたビニール袋をおのおの持ってぐたーっとしている姿は、およそ「スカッとして」いるようには見えないのだが。
これならまだフツーに酒飲んで騒いだ方が楽しそうだ。
まぁ、シンナーほど危険じゃないが、アルコールだって立派なドラッグなんだけどね。

ちなみに壁に貼ってあるヌードピンナップとか、ラジカセとか、映り込むものすべてが懐かしい。
そこへ彼らをつけてきたイソップが入ってきて、自分から金を出して「シンナー吸わせてくれない?」と頼む。
ちなみにこの場面で、リーダーが
「神経はイカれるわ、よだれは垂れ流すわ、あっという間に廃人のようになんだよっ」と、あたかも薬物乱用ポスターの標語みたいなことをまくしたてているのだが、これは教育的配慮と言う奴かな。
シンナー遊びしてる最中に、そんなこと言う奴ぁいないよね。
イソップはヤケクソ気味に、ビニール袋を口に当てて独特の臭いのする気体を胸一杯吸い込むのだった。
イソップはその日、家に帰らなかった。
翌日、いつものようにラグビー部が練習をしている。その日は、ラグビー部の後援会長を自任している内田もグラウンドに顔を出していて、あれこれ騒いでいた。
練習が終わって、加代と光男が何気なく部室に入ると、いつの間にかイソップが来ていて、そこにかけてある内田のスーツに触っているではないか。イソップは二人の姿を見ると、慌てて手を引っ込める。

光男「イソップ、何やってんだ?」
加代「どうして練習に顔出さないの? 先生、心配してらしたわよ」
だが、イソップは一言も喋らず、逃げるように部室を飛び出していく。

そのすぐ後、練習に参加して軽く足を痛めた内田が、大木たちに支えられながら入ってくる。
それでも内田は上機嫌で、スーツから財布を取り出しながら、
内田「いやぁ、お前たちと汗を流して実に楽しかったよ。何か旨いモンでも買って来いよ!」
滝沢「内田さん、いつもスイマセン」
内田「なぁに、ワシはね、この部の後援会長のつもりなんだから、はははは……」
ちなみに、部員たちは内田のことを
ATMと呼んでいる(註・呼んでません)。

内田「あら、あら?」
星「どうかしたんですか」
内田「いや、3万入れたつもりなんだがね、1万足りんなぁ」
紙幣を数えていた内田が、首を傾げてつぶやく。
光男と加代は、そう聞いて反射的にさっきの光景を思い出して顔を見合わせる。
光男「まさかイソップが」
内田「うん?」
光男「いえ、その上着、さっきイソップがいじってたもんですから」
大木「じゃあイソップが取ったって言うのかよ? イソップはそんな奴じゃねえよ!」
光男「だけど見たもんは見たんだからよ」
大木「なにぃ、いくら森田さんでも許せねえぞ!」
大木、一声吼えるなり、右ストレートを光男の顔面に叩き込む。
ふたりはくんずほぐれつ、取っ組み合いの喧嘩を始める。

滝沢が大木の体に抱きつくようにして、すぐやめさせる。
それにしても、大木、ラグビー部員とは思えないほどひょろっとした足ですね。
気を利かせて、内田が他の部員(別名ザコ)たちを部屋から追い立てる。

加代「先生、私もイソップだと思います」
滝沢「じゃあ君も見たって言うのか?」
加代「……」
滝沢「すいません、お金は私が……」
内田「いや、いい、いい、それよりイソップの方が心配だな。そっちの方は頼みますよ」
気分屋だが太っ腹の内田は、金を抜かれても怒るどころかイソップのことを気遣う素振りを見せる。
そして、他の部員たち(別名ザコ)には自分の勘違いだったと説明し、彼らと一緒に何処かへメシを食いに行くのだった。どうせ新楽だろうが……。

他の部員たち(別名ザコ)の歓声を聞きながら、大木がぽつんと雨垂れを落とすようにつぶやく。
大木「先生……、イソップの脳腫瘍、良くなってねえんじゃねえのか?」
滝沢「……」
大木「良くなるどころか、万一ってこともあるんじゃねえのか? どうなんだよ? どうなんだよ先生?」
大木は興奮気味に滝沢の襟首を掴んで問い質すが、滝沢はあくまでも無言を貫く。
しかし、その態度こそが、大木の推察が当たっていることを何よりも雄弁に物語っていた。
大木「やっぱりそうかよ。奴の近頃の様子はどう考えたって普通じゃねえよ! 暗い目しやがって、俺にもろくに口利かねえしよーっ!」
光男「不良と付き合ってるって噂もあるし……」
滝沢、
「いや、それって大木のことじゃないの?」と言う言葉を、寸前で飲み込む。
重苦しい雰囲気がのしかかる中、

加代「あっ!」
加代、この前のイソップの突然の告白を思い出し、思わず小さな叫び声を漏らす。

加代「あの子、自分が死ぬと分かって……」
光男「どうしたんだよ?」
加代「ううん、なんでもない!」
加代、首を振って顔を背ける。
その後、滝沢、甘利、大木たちがイソップの行方を探して街に出ている。
前々から、イソップを見かけたら知らせてくれと清美たちに頼んでいたのだが、その清美たちが耳寄りな情報をもたらす。とあるディスコでイソップを目撃したと言うのだ。

滝沢「じゃあ君たち、ここでイソップを見たって言うんだね」
明子「ええ、あたしたち、昨夜踊りに来たら……」

嬉しいことに、その時の様子が回想シーンで描かれる。
なんで嬉しいかと言うと、清美の私服姿が出てくるからである。
もっとも、基本的に暗がりなのであまりはっきり見えないんだけどね。
清美「イソップ!」
明子「どうしたの?」
二人は、制服を着てぼんやりと体を揺らしているイソップを見掛け、びっくりして声をかけたと言うのだ。

イソップは慌てて逃げ出し、さらに、その仲間らしい不良っぽい若者たちが急いで追いかけて行ったのだと言う。しかも、トルエンの臭いのする空き瓶まで落として行くという分かりやすさ。

滝沢「イソップはトルエンを買う為に金が要ったんだ」
甘利「そうまでして死の恐怖を紛らわそうとしてるんですね」
大木「だけどよぉ、ほっといたらイソップの奴、身も心もボロボロになっちまうぜ。トルエン売ってるところなら俺に心当たりがある」
さすが川浜一のワルと謳われた大木である。そう言うことならお手の物だった。
大木がそう言って向かったのが、「パブレストラン ウインピー」であった。
まぁ、それは良いんだけど、三人が店先から中を覗き込むと、「待ってました」とばかり、イソップと売人が会っている……と言うのはさすがに都合が良過ぎるのでは?
もっとも、これは刑事ドラマじゃないので、そんなところを凝って描写してもしょうがないのだが。

甘利先生はすぐ踏み込もうとするが、経験(?)豊富な大木が、「まだはええよ、トルエンの実物を押さえなきゃ……」と、止める。
イソップは売人に金を払い、代わりにコインロッカーの鍵を渡される。
コインロッカーのある場所に向かっているイソップの姿に合わせて、「サツを用心して、じかにブツは売らねえものなんだ」と、大木が専門家としてコメントする。
甘利(……こいつ、トルエンで商売してんじゃねえだろうな?) で、イソップがロッカーからトルエンを出したところで、「御用だ!」とばかりに三人が殺到する。

イソップは駅の構内を走り抜け、公衆トイレに駆け込む。
そして個室に入って鍵を締め、一秒でも早くトルエンを吸おうとするが、ドアを乗り越えて入ってきた大木に遂に確保される。
その後、4人は冬枯れの林の中を黙然と歩いている。
滝沢「誰に聞いたんだ?」
イソップ「あまり長く生きられないということをですか? 死神にです」
滝沢「死神?」
ここでやっと、イソップがあの薬のラベルを見て愕然とした理由が明かされる。
入院中、イソップは「死神」と仇名されている長期入院の患者と知り合いになったのだと言う。

死神「あの人長くないよ。早くて一週間」
イソップ「あんなに元気そうなのに?」
死神「うん、あの薬で分かるんだ」
ある時、イソップはその老人に呼び止められ、元気そうに家族と話している男性患者の病室を指し示される。
死神「悪性腫瘍で先のない者に限っていつも医者があの薬を渡すんだ。専門的なことは私にも分からんが」
で、そのラベルにK16と書いてあったのだ。
イソップは半信半疑だったが、10日後、「死神」の予言どおり、その患者は亡くなってしまったのだと言う。
イソップ「先生、僕、死ぬ覚悟は出来てます。でも、ひとつだけ教えて下さい。人間は、何の為に生きてるんですか?」 滝沢「さあ?」 じゃなくて、

ナレ「それは賢治にとってあまりに強烈な問い掛けであった。すぐに責任ある回答の出来る事柄ではなかった」
ナレーターに気持ちを代弁させつつ、滝沢は神妙な顔で黙りこくる。

イソップ「安らかに死ねるものなら、いつ死んだって良いんです。でも今まで何の為に生きてきたのか、それが分からなければ、残された時間、どうやって過ごして良いんだか分からないんです!」
イソップ、滝沢のコートを掴んで激しく揺さぶりながら重ねて問い掛ける。

イソップ「甘利先生、教えて下さい! 教えて下さい!」
大木「先生たち困らせんじゃねえよ! 人間は生きてるから生きてんだ。犬や猫だって生きてる理由なんて考えなくても立派に生きてるじゃないか」
イソップ「僕は犬猫じゃない、訳の分からないまま死ねないんだ!」
見兼ねて大木が柄にもない台詞を吐くが、イソップは大木の体を押し戻して激しく反発する。

大木「俺はお前に何もしてやれねえ。せめて残った日、楽しく暮らせ」
イソップ「大木君……」
大木はそう言うと、さっき没収したトルエンの瓶をイソップに差し出す。
イソップはそれを受け取ると、薄ら笑いを浮かべて走り去る。

滝沢「大木!」
大木「あいつには希望ってもんが何にもねえんだ。先生たちだって、もうすぐ死ぬって言われたらどうするよ? 何もかも忘れてえって気持ちになるのも無理ねえよ」
甘利「お前、トルエン漬けのまま、イソップ死なせたいのか?」
大木「何の為に生きてるのか、それさえ答えられないあんたにそんなこと言えんのかよ! それでも教師かよ!」 甘利「なにぃ」
滝沢「言い争ってる場合じゃない! イソップは生涯の全てを賭けてさっきの問いを発したんだ。我々にはそれに答えてやる義務がある!」
滝沢、その心意気は誠に立派であったが、

滝沢「私たち大人が人間は何の為に生きてるのかと言う切実な問いを発するでしょうか? 私は16才ならではの純粋な問いだと思うんです。それで皆さんにご意見を聞きたいんですが……」
こいつはそれをそのまま職員室に持って帰っちゃうのである! 人に聞くなよぉ……頼むから。
真面目な教師たちはそれぞれ面白い、いや、適切な答えはなんじゃらホイと考え込む。
意見百出するが、最後に校長は「正義や人道などと言う抽象的な言葉の為には絶対に生き死には出来ない。妻や子供たちのような手触りのある具体的な愛するものの為なら死ねる」と言う戦時中の経験から導き出された自分の考えを述べた上で、「イソップにもう一度ラグビーに打ち込ませる」と言う、実際的な提案をする。
しかし、その為にはまず、イソップの問いに納得できる答えを見付けなければならない。

滝沢はそのことで頭を一杯にしながら帰宅すると、ちょうど節子とゆかりが、団地の周りの花壇にゆかりの飼っていた金魚が死んだのを埋めているところだった。
節子「金魚さんの魂は天国に行ったのよ」
ゆかり「ママ、魂ってどんな形してんの?」
節子「どんな形って……うーん、目には見えないものだし」
ゆかり「ゆかり知ってるもん!」
節子(じゃあ聞くなよ) ゆかり「ボールみたいな形してんでしょ」
節子「どうして?」
ゆかり「ボールってタマでしょう。だからタマシイって言うんでしょ?」
妻と娘の何気ないやりとりを聞いているうちに、滝沢の頭にイソップを納得させられるかも知れない答えが閃く。

節子「ほうら、見て、例によってパパがゆかりの言葉をヒントに何か思いついたみたいよ」
ゆかり「分かりやすい顔してるよねー」
滝沢「……」
その夜、滝沢はイソップを強引に引っ張ってグラウンドにやってくる。近くには大木の姿も見える。

滝沢「俺は人間の生き死についてラグビーを基準にしてしか考えられん。いいか、このボールがお前の魂、お前の命だとする」
イソップ「……」

滝沢「座るんだ。いいか、ボールがこの線の内側にある時、ボールは生きてるな、つまり生の世界だ。こっち側は死の世界だ。この線は生と死の境目って訳だ」
滝沢、石灰で引かれたタッチラインとラグビーボールを使って説明する。
イソップ「先生、何が言いたいんですか?」
滝沢「人間は死なないってことをだ!」

気のなさそうに聞いていたイソップ、滝沢の突拍子もない発言に思わず顔を上げる。
滝沢「死ぬにしても、ほんの一瞬の間だってことだ」
イソップ「?」
死なないのか、死ぬのか、どっちなんだ?
滝沢「死ぬってのはな、ボールがこうこの線を越えるようなほんの僅かな間のことだ。しかし人間は生きてるうちから死を恐れるあまり……」
甘利「呼んだ?」
滝沢「呼んでない」
じゃなくて、
滝沢「死を恐れるあまり、心まで死んでしまうんだ。今のお前がそうだ」

滝沢「イソップ、お前の命は今どの辺りにある? まだこの辺りだろう?」
滝沢、命(魂)に見立てたボールを、タッチラインの少し手前に置いてみせる。

イソップ「それが、人間が何の為に生きてるかってことの答えですか?」
滝沢「その答えは既にお前が自分で出してるじゃないか!」 イソップ「僕がぁ?」
滝沢「思い出してみろ、この間、お前は言ったじゃないか?」
ここで、前半の練習シーンで、イソップが怠慢プレーの大木を叱ったところが繰り返される。
そう、あのシーンはこのクライマックスの為の伏線だったのだ。
「ボールが生きてる間はベストを尽くさなきゃ! 最後まで諦めちゃダメだ!」 「負けると分かってる戦いでも、最後の最後まで戦い抜く、それが男だろう、ラガーマンだろう?」 
滝沢「お前はラグビーについて言ったことを生き方においてもやれる筈だ! 俺はあえて言う、人間の運命は生きることだ。そして何の為に生きるか、それは愛すべきものを愛し、戦う為だ! 少なくとも俺にとってはそうだ。だから俺は一生懸命生きる。イソップ、勝つと分かってる戦いなら誰でも戦う、しかし負けると分かってる戦いに出て行く、そして最後まで戦う。人間は誰でも死ぬんだ。残された時間を燃焼しろ。そこにお前の命の輝きがあるんだ!」
イソップ「……」
滝沢、一世一代の熱弁であったが、
イソップ「先生、僕ダメです。僕、何よりもトルエンが気持ち良くなってしまってるんです!」 それもトルエンの悪魔の魅力の前にあえなく沈没する。チーン。

と、そこへまるでスタッフの合図を待っていたかのように、あの不良グループたちがバイクでやってくる。
リーダー「おい、迎えに来たぜ」
女「遊びに行こうよ、トルエンだよ」
この女の人、不良にしてはなかなかイイ人そうな顔してはりますね。
でも、不良たちにも慕われるイソップって、やっぱり普遍的な魅力の持ち主なのだろう。
すっかりトルエン中毒になっているイソップは、目を輝かせて彼らのところへ駆け寄ろうとするが、

滝沢「イソップ、振り返るんだ! お前はこのボール、この命をどうするんだ? 追わないのか、諦めて良いのか?」
滝沢がタッチラインのそばにボールを置く。
と、風もないのにボールが動いてタッチラインを割ろうとする……その瞬間、イソップは我知らず猛然と走り出して、そのボールに飛び付いて抱き締める。
イソップ「先生、僕、トルエンなんてやめます!」
滝沢「イソップ!」
その後、イソップを連れて行こうとするダニたちと大木が喧嘩したり、
滝沢「お前たちはけえれっ!」 と、滝沢が物凄い顔で吼えたり、誰も呼んでないのに下田が助っ人に来たり、あれこれシーンが続くが、基本的に全て蛇足である。
とにかく、不良たちは尻尾を巻いて退散する。寒い中、ご苦労様でした。

イソップ「先生、僕、先生の話聞いたら、死ぬのが、
少しは怖くなくなりました」
滝沢(少しかよ……)
大木(少しかよ……)
イソップはもう一度ラグビーに打ち込むことを誓い、滝沢はそんなイソップを力一杯抱き締めてやるのだった。
翌日から、イソップは何事もなかったようにラグビー部の練習に出るようになる。

滝沢「イソップ、ボールはな、卵を持つようにそっと持つんだ」
イソップ「はい、卵ですね」
イソップの病気のことを知っている滝沢、大木、光男たちは、ほとんどつきっきりでイソップの指導に当たる。

他の部員たち(別名ザコ)も、すぐにその変化に気付いてヒソヒソ話をする。
彼らは別にイソップの特別扱いに嫉妬している訳ではなく、何か深い事情があるのではないかと気遣っているのだ。
イソップ「先生、みんなに気付かれます。僕もみんなと同じようにしごいてください」
滝沢「お前、みんなに心配かけたくないんだな。よし、分かった、ピシピシ行くぞ」
一転して、三人は厳しい態度でイソップの欠点を指摘して行く。

大木「バカヤロウ、何が鬼コーチだ、自分じゃそれくらいしか動けねえのか?」
怒鳴りつけながらイソップとランパスをする大木の目からは、ともすれば涙が溢れそうになるのだった。
ナレ「負けると分かっている死との戦いに立ち向かおうとしている少年、奥寺浩、賢治はそこに小さなヒーローの姿を見た」
必死にボールを持って走るイソップを、目に涙を溜めて見詰めている滝沢のアップを映しつつ、13話へ続く。
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