第14話「怒りのライジンゴー 大空中戦!!」(1974年1月1日)
今では考えられないことだが、これは
元日に放送されているのである。
無論、当時のことなので、本編の最初に紋付袴姿の渡五郎と振袖姿のサトコが並んで「視聴者の皆様、あけましておめでとうございます!」などとにこやかにカメラに向かって語り掛ける……などと言うこともない。

五郎「この写真を撮った場所は?」
カツミ「秩父山中ですよ。友達が怪しい飛行物体を撮ったからって送って来たんです」
ライジンゴーに、五郎以下、レギュラーの5人が乗り込んで、山道を走っている。
カツミは、その写真に映っているのは、宇宙人の円盤ではないかと子供らしい想像を膨らませていた。

五郎「ま、宇宙人の話はさておいて、この未確認飛行物体を調べてみる必要はあるな」
しばらく進むと、急に車の周囲に濃い霧が立ち込めてくる。五郎は車を停める。
豪作「どぎゃんしたと」
五郎「おかしな霧だ」
豪作「ここは山の中じゃ。霧が湧いても不思議じゃなか」
五郎、不意に立ち上がると、車の番をしているよう豪作に頼み、霧の中を走って行ってしまう。
五郎の鋭敏な聴覚は、数キロ先でファントム兵に追われて助けを求めて逃げ惑っている若い女性の叫び声をキャッチしていたのだ。

亜理沙「誰かー、助けてー!」
ファントム兵「ヒャーッ!」

女はすぐにファントム兵に捕まり、取り押さえられる。
黒いロングブーツに紫のワンピース、白いスカーフが良く似合うなかなかの美形であった。

キリバンバラ「逃げようとしても無駄だ」
亜理沙「殺すなら、殺しなさい」
キリバンバラ「おお、殺してやるとも!」
キリバンバラ、その場で彼女をファントム兵に嬲り殺させようとするが、そこへイナズマンに変身済みの五郎が飛び込んできて、ファントム兵を蹴散らす。だが、キリバンバラは一戦も交えようとせず、自ら作り出した霧の中へ姿を消してしまう。
五郎、気を失った女性を近くの山小屋へ連れて行き、囲炉裏のそばに寝かせる。

ふと、女性の右腕に巻かれた包帯が外れかかっているのを見て、巻き直してやろうと立ち上がるが、包帯の下には、金属製の義手が隠されていた。
が、ちょうどその時、女性が目を覚ますと、慌てて包帯で右手を覆う。五郎もそれについては特に追及しようとしない。
五郎「君は悪い奴らに追われていたんだ」
亜理沙「あなたが私を助けてくれたの?」
五郎「ああ、でも何故追われていたんだ」
亜理沙「道に迷って歩いていたら、不意に爆音が……」
五郎「爆音?」
ここで回想シーンになるのだが、

これが、ヒビの入った車のフロントガラス越しに撮っているような映像で回想シーンを表現しているのが、なかなかのセンスである。
これなら後からフィルムに手を加える必要もないしね。

ゴオォォと言う爆音に空を見上げると、得体の知れない飛行機が飛んでいたと言うのだ。

亜理沙「夢中で写真を撮っていたら、さっきの変な人たちが現れたの」
馬鹿でかいカメラのシャッターを、包帯でぐるぐる巻きにされた右手でパコッと押している亜理沙。

五郎「その写真を見せてくれないか」
幸い、それはポラロイドカメラだったので、五郎がフィルムを引っ張り出してシールを剥がすと、すぐに画像を確認することできた。果たして、それはカツミの友人が撮ったと言うUFOと同じ機体だった。
五郎「これが新人類のものとすると……ところでその傷はどうしたんだ?」
亜理沙「さっき、落石に遭って挫いたんです」
五郎「手当てしよう、見せたまえ」
亜理沙「いえっ、いいんです」
五郎「……僕の名は渡五郎」
亜理沙「亜理沙です、よろしく」
五郎「亜理沙さんか」
などとやってると、おいてけぼりを食った豪作たちが漸く小屋にやってくる。
豪作「おう、五郎、こげなとこにおったつかー、探したばい。……どわぁー」

豪作「こりゃ美人たいねえ。五郎、美人ば独り占めするとは許せん! 俺は、えー、丸目……」
美人には目のない豪作、亜理沙の存在に気付くと素早くその横に座って、臆面もなく話し掛ける。

五郎「豪作、ライジンゴーはどうした」
豪作「下の道に置いて来たばい。あの、あなたの名前は……」
五郎「ぶわぁかっ! 見張っといてくれと頼んどいた筈だ!」 豪作の言葉を聞いた五郎、思わず怒鳴りつけると小屋から飛び出す。
豪作「あっ、この山んなかじゃ、盗む奴などおらん!」
豪作も負けじと声を張り上げて請け負うが、
それがいたんですねえ、ええ…… 作ってる方は別にギャグでやってるわけじゃないのだが、この繋ぎ方は、意図しないまま、優れたギャグになっている。
ファントム兵たちは「よっこらせ」とライジンゴーを押していき、

そのまま崖から突き落としてしまう。
ライジンゴーは岩肌に激突して爆発炎上する。

ファントム兵が喜んだのも束の間、破壊された筈のライジンゴーが、イナズマンを乗せてジェット噴射で一気に斜面を駆け上がって浮上してくる。
……しかし、だったらさっきの爆発や黒煙はなんだったのだろう? そんなところに、他に爆発するようなものがあるとも思えないのだが。
ファントム兵「どういうことだ?」
イナズマン「危ないところだった」 ファントム兵「いや、危ないところだった、じゃなくて……」
劇中のファントムたちもいかにも納得いかない風だったが、愚図愚図しているとライジンゴーに轢き殺されるので、慌てて退散する。

そして今度は、三機の戦闘機に乗って空から攻撃を仕掛けてくる。ライジンゴーも上昇して応戦する。
戦闘機の左側に映っている影は、一体なんだろう? と思いがちだが、見て見ぬふりをしてあげる優しさが欲しい。あと、金と女と地位と名誉とPS4が欲しい(欲張り)。
ライジンゴーと戦闘機の空中戦の巻き起こす轟音は、山小屋の豪作たちの耳にも届く。

カツミ「なんだろう、あの音は?」
豪作「雷ではないようじゃが……」
不安そうに立ち上がって天井を見上げる豪作たちだったが、何故か亜理沙は微笑を浮かべていた。
と、入り口の方から大量のガスが流れ込んでくる。

声「この霧は、全てのものを包み、全てのものを死に追いやるのだ! 死ね、少年同盟よ」
豪作「出て来い、化け物め」
豪作の声に応じて、さっきのキリバンバラが異様な姿でそそり立つ。豪作もがむしゃらに立ち向かうが、無論かなう筈もなく、あえなくぶっ飛ばされる。

混乱の中、亜理沙はカツミの背後に回ってその体を押さえ、尻ポケットに入れていたあの写真を抜き取る。
そして当身を食らわせてカツミを失神させる。

右手が不自由なので、写真を一旦口に咥える亜理沙。

そして、キリバンバラの方を向いてニヤリと笑う。
五郎が急いで小屋に戻ってきたときには、キリバンバラと亜理沙の姿はなく、4人が床に倒れて気を失っていたが、何故か彼らはピンピンしていた。
さっき「全てのものを死に追いやる」とか言っていたのに……。単なるハッタリだったのだろうか。
亜理沙が攫われたと聞いて、五郎は彼女を助けに行こうとするが、それをカツミが呼び止める。

カツミ「おかしいんだ、五郎さん、あの人、僕の持ってた未確認飛行物体の写真を盗んだんだよ」
五郎「しかし、彼女はあれと同じ写真を持っていた。盗む理由がない」
カツミ「ほんとだったら!」
サトコ「カツミが嘘を言う筈がないわ」
豪作「そう言えばあのおなご、どことなくおかしかったばい」
五郎「それはお前の思い過ごしだ。彼女は新人類に追われていたんだ」
カオル「それじゃあ、何故カツミ君の写真を盗んだの?」
五郎「……亜理沙さんを探してくる」
堂々巡りの議論を打ち切り、五郎は小屋を出て行く。
この場面ではむしろ、金属製の義手を見ている五郎こそ真っ先に亜理沙を疑うのが自然なのに、五郎が頑なに亜理沙の潔白を主張しているのは、若干奇異に感じられるが、その真意はやがて明らかになる。
サトコ「五郎さんもやっぱり男だったのね」
豪作「あん、それは、どういう意味じゃ?」
サトコ「綺麗な人を見るとすぐ同情しちゃうってこと!」
豪作「はぁー」
嫉妬交じりのサトコのつぶやきに、豪作は腕組みをして唸る。

探すまでもなく、五郎はすぐに道端に倒れている亜理沙を発見する。
五郎「おい、大丈夫か」
亜理沙「また変な人たちに襲われたんです」
五郎、亜理沙を立たせようとするが、亜理沙は足を挫いたと言って再び座り込む。

五郎「ひとつだけ聞きたい、君は写真を……」
亜理沙「ええ、盗ったわ」
意外にも亜理沙はあっさりそのことを認める。

五郎「何故そんなことを?」
亜理沙「あの写真を持ってるからみんな狙われるの。私の写真と一緒に燃やしてしまったわ」
一理あると言えばあるような苦しい言い抜けをする亜理紗だったが、五郎はそれ以上追及しない。

五郎、亜理紗に肩を貸して歩き出す。

が、案の定と言うべきか、彼女は気付かれないように包帯で巻かれた右手を背中に回し、邪悪な笑みを浮かべると、

包帯の下に隠されていた鋭い爪の生えた金属製の義手をふりかざして、いきなり五郎に襲い掛かってくる。
亜理沙「イヤッ!」
五郎「何をするんだ、クッ!」

ここで、もつれ合いながら、亜理沙が一瞬カメラの方をガン見するのが、ちょっとしたツボである。

五郎「君は新人類だったのか」
亜理沙「今頃気付いても遅いわ」
五郎に「俺に近付いた目的はなんだ」
亜理沙「新人類帝国の敵をこの手で殺す為よ」
鋭い爪を振り回して、五郎を攻撃する亜理沙。

空へ飛び上がろうとして、身構える亜理沙のポーズがちょっと可愛かったので貼ってみました。

ジャンプを繰り返して五郎を翻弄し、その頬に傷をつける亜理沙だったが、遠くから「五郎ーっ!」と言う豪作の声が聞こえてきたので、素早く退却する。

サトコ「五郎さん、やっぱりあの人は新人類だったんでしょ!」
カオル「五郎さんは騙されていたのよ」
カツミ「あの女を見つけ次第、叩きのめしてやる」
豪作「そうじゃ、まったくけしからん女たい」
勝ち誇ったように言うサトコに続いて、豪作たちも亜理沙への憎しみを口にする。
それにしても、サトコもカオルも、板のようにまっ平らな胸がサイコーですね。

五郎「余計なことを言うな、君たちは何も分かっちゃいない。彼女が新人類だからどうしたと言うんだ?」
豪作「……」
だが、それに対する五郎の反応は、豪作たちを黙らせる厳しいものだった。
五郎「俺の母さんも新人類だった。だが、自ら進んで新人類になったわけじゃない。無理やり新人類にされてしまったんだ!」

五郎「相手が新人類だから悪だと決め付けるのは間違いだ」
豪作「ばってん、あのおなごはおぬしば殺そうとしたんじゃ。それでも信じるっちゅうとか、ぬしは」
五郎「俺は信じる」
豪作「俺は信じない」

彼らのやり取りを、実はまだ近くに潜んでいた亜理紗が木立の中から窺っていた。
五郎「信じなければならないんだ。だからみんなも信じてやってくれ」
カオル「いやです」
サトコ「絶対に信じません」
カツミ「僕もだ」
五郎、懸命に訴えるが、サトコたちはみな強く反発する。

五郎「豪作、お前は信じてくれるな?」
豪作「……」
親友に縋るような眼差しを向けるが、豪作は無言でそっぽを向いてしまう。
亜理沙は穏やかとも言える憂い顔で、そっとその場を離れる。
それにしても、これだけしょっちゅうヒーローとその仲間が対立すると言うのは、他の特撮ヒーロー番組ではあまり見られない傾向で、「イナズマン」の特徴のひとつと言えるだろう。
そう言う意味では、サトコたちのようなレギュラーが最初から不在の「F」より、しばしば仲間内で孤立するこちらの方がより五郎の孤独感が強調されていると言えるのではないだろうか。
だいたい、主人公がこれだけ真摯にお願いしたら、レギュラーたちも「そうね、五郎さんの言うとおりだわ」みたいな流れになるのが普通だからね。
一方、新人類帝国では、帝王バンバが東京壊滅作戦を成就させる為、邪魔なイナズマンを亜理沙を使って始末するよう、キリバンバラに命じていた。
CM後、五郎たちがだらだらと山道を歩いていると、再び亜理沙の助けを求める声が降って来る。

亜理沙「助けてー」
キリバンバラ「もっと声を上げろ。渡五郎はお前に心を動かされている。必ず助けにやってくるー」
亜理沙「キャーッ!」
いや、キリバンバンバラさん、聞かれちゃまずい仲間内の会話まで全部、五郎たちの耳に届いているような気が凄くするんですが……。
少なくとも五郎にはバレバレだよね。

豪作「行くな、あの声は罠かも知れん」
五郎「……」
サトコ「行かないで!」
引き止めようとする豪作の手を振り切り、サトコの悲痛な叫びも無視して五郎は亜理紗の元へ向かって走る。
それを見て、亜理沙も五郎をおびき出す為にキリバンバラから離れて走り出して、地雷の埋まっている荒野に降りる。
だが、亜理沙はそこが地雷原があることを知らされていなかった。地雷に気付いて危うくその爆発から彼女を救ったのは敵である五郎だった。

五郎「見ろ、ここは地雷原だ」
亜理沙「キリバンバラはここが地雷原であることを私に教えてなかった。私まで殺そうとしたんだわ」
五郎「それが新人類のやり方なんだ」
五郎、亜理沙が膝小僧から血を流しているのを見て、ハンカチを包帯代わりに巻いてやる。

亜理沙「私はあなたを騙していた。それなのに……なぜ私を助けてくれたの?」
いい忘れていたが、亜理沙役は左京千晶さんです。ちょっと夏純子さんの雰囲気を漂わせた、なかなかの美人である。大きな目に、なんとも言えない色っぽさがある。

五郎「私は騙されてはいない」
亜理沙「えっ?」
五郎「包帯で隠されていた義手を見たとき、君が新人類であることを感付いていたんだ」
亜理沙「それなのに、何故?」
五郎「私は君がいつか、目覚めてくれることを信じていた」
亜理沙「信じた? 新人類の私を?」
信じ難い言葉を聞いたように、亜理沙は五郎の顔を見直す。五郎は「うん」と力強く頷いてみせる。

五郎「君は自分から好き好んで新人類になったわけじゃあるまい」
亜理沙「私もあなたのお母様と同じように無理やり新人類にされてしまったんです」

亜理沙「五郎さん、私が好き?」
五郎「……」
亜理沙「はっきり言って、好き? それとも嫌い?」

唐突にそんなことを聞かれて一瞬戸惑う五郎だったが、「君が好きだ!」とはっきり答える。
とても子供向け特撮ヒーロー番組とは思えない展開である。

亜理沙は五郎のごつごつした手を握り、幸せそうにその胸に体を寄せる。
亜理沙「新人類の私が愛されていたなんて……私、このまま死んでもいいわ」
五郎「何を言うんだ、君は新人類帝国から抜け出し、元の姿に戻るんだ」
亜理沙「ありがとう、私、人間の心を忘れていたの」
五郎「うん」
亜理沙「東京が危ない。新人類は恐ろしい爆撃機を完成させたのよ」
その頃、既にその爆撃機は基地を飛び立ち、東京へ進路を向けていた。
亜理沙「これまで、この山中の上空でテスト飛行を続けていたんです」
五郎「そうか、だから新人類帝国はライジンオーを執拗に破壊しようとしてるんだな」

二人目掛けて、三機の戦闘機が飛んできて機銃を撃つ。

それをかわして立ち上がると、上空を爆撃機が横切って飛んでいく姿が見えた。
キリバンバラ「二人とも死ぬがいい、このキリバンバラがこれから東京を壊滅させてやる!」

サナギマンに変身した五郎と亜理沙の周囲で、立て続けに凄まじい爆発が起きる。
これはどう見ても、女優さん本人だよな……。無茶な撮影するなぁ。
さらに、

イナズマンに変身した五郎に駆け寄ろうとする亜理沙の足元に、機銃がなぞるように撃ち込まれると言うシーンも凄い。
亜理沙、被弾してその場に倒れ伏す。

イナズマン「しっかりするんだ」
亜理沙「私に構わないで、行って」
イナズマン「キリバンバラを倒して必ず戻ってくる。待っててくれ」
イナズマンを亜理沙の体を地面に横たえると、ライジンゴーに乗って爆撃機を追跡する。
このカットの亜理沙の顔、めっちゃ綺麗である。
ここから、サブタイトルにもなっている「大空中戦」が展開するのだが、
どうでもいいので全部省略。
イナズマンは相手の正面に出ると、ライジンゴーから飛び立って「超力稲妻落とし」を放ち、キリバンバラごと爆撃機を沈める。
戦いの後、五郎がさっきの場所に戻ると、既に亜理沙の姿は消えていた。地面には点々と血の跡が……。
やがて豪作たちも駆けつける。

五郎「未確認飛行物体の正体はあの戦闘爆撃機だったんだ。それを教えてくれたのは亜理沙さんだ」
豪作「彼女は何処じゃ?」
五郎「……」

ナレ「亜理沙が死んだのか生きているのかそれは誰にも分からない。渡五郎に残されたのは亜理沙と言う名前だけであった。だが、渡五郎の脳裏には亜理沙の面影がいつまでも焼きついている。小さな愛の思い出とともに……」
亜理沙が生きているかもしれない広大な山々を見詰めながら、感動的なフィナーレとなる。
良いよね、(大映ドラマみたいに)安易に殺したりせずに、生死不明のままで終わらせてしまうと言うのは。
無論、これっきり亜理沙は出てこないのだが、もしかしたらまた会えるかも知れないと言う希望を抱かせてくれるのが素晴らしいのだ。
以上、11話にも劣らぬ心に沁みる名作でした。
しかし、東京壊滅って、あの役立たずの毒ガスでやろうとしていたのだろうか、帝王バンバは? それとも普通の爆弾を使うつもりだったのだろうか?
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