第23話「下町のヒーロー」(1985年3月16日)
大木や光男、圭子などの主力メンバーが次々と卒業し、ストーリーの中核に彼らを組み込むことが困難となったこの時期、スタッフは場当たり的にドラマを盛り上げようと大映ドラマの「伝家の宝刀」を情け容赦もなく抜く。
そしてその鋭い切っ先は、僕らのヒーローだった下田大三郎のどてっぱらにめり込むこととなる……。
さて、国体の決勝戦で、負けに等しい引き分けを食らった川浜高校ラグビー部は、その後も厳しいトレーニングに明け暮れていたが、チームの調子はなかなか上向かず、練習試合でも連戦連敗を重ねていた。
コーチのマークは、スランプを脱するにはもっとラグビーを楽しむことが大事だと言うが、選手をしごくことしか能のない滝沢には、どうすれば良いのかさっぱり分からないのであった。

その日の試合も惨敗し、カメラは相手チームの名もなき監督や女子マネージャーたちをとらえる。

明子「でも、リラックスしてる人、ひとりだけいるわよ。ほら……」
あっちの女子マネと比べると、清美役の山本理沙さんの可愛らしさはほとんど別次元だよね。
今でも十分アイドルとして通用するだろう。

明子が示した先には、うなだれて引き揚げるメンバーの中で唯一元気の良い清川の姿があった。
清川「おら、下向いてたって何も落ちてねえぞ! おら、声出せ!」 選手「……あ、500円玉が」
清川「え、ウソ、マジで? どこ? どこ? どこーーーっ?」 ……と言うように、清川は日本一貧乏な高校生としてつとに有名なのだった。

清美「清川君はムードメーカーで、あだなもゴキブリのキヨって言うの!」
マーク「それ、単なるイジメですね」
……
間違えました。
清美「清川君はムードメーカーで、あだなもお祭りのキヨって言うの!」
マーク「そう、じゃあ彼の明るさだけが救いです」
清美は誇らしげに説明するが、今まで清川がムードメーカーなんてシーン、一度もなかったように記憶しているのだが……。「お祭りのキヨ」と言うのも、今初めて聞いたぞ。
あと、マークの日本語がカタコトなので、前記の台詞が一瞬
「彼は明るさだけが救いです」と聞こえてしまうのもいとおかし。

マーク「きっと明るいうちの子ですね」
滝沢「いや、清川はお父さんがろくに働かないでぶらぶらしてるもんで昼も夜もバイトしてるんです」
滝沢の台詞に合わせて、久しぶりに勤労青年キヨのイメージシーンが挿入される。

有名な(?)、駅のホームで乗客を押し込めるアルバイトも出てくるが、何度見ても、鉄道マニアの高校生が業務妨害しているようにしか見えない。

滝沢「この中では一番貧しいうちの子なんです」
マーク「オー、リアリィ?」(日本語訳・どうでもいい)

そんなある日、数人のヤクザ風の男たちが、その清川に会いに学校に押し掛けてくる。
滝沢「待って下さい、金がどうのって一体何のコトですか」
ヤクザ「こいつのおやじに金貸してんだけどよぉ、酔い潰れちまって埒あかねえから、せがれのほうに来てるんだ! (ガスッ)」
滝沢「どぉっ!」
下っ端ヤクザ、そう言うといきなり滝沢をぶん殴る。
さすがにそんな大木みたいなヤクザはいないと思いますが……。
それより、親分格のヤクザを演じているのが及川ヒロオさんなので、緊迫するシーンなのに、つい笑いが込み上げてくる管理人であった。

及川さんの顔を見ると、つい反射的に、「ちゅうかなぱいぱい」の親分役を思い出してしまって……。
無論、こちらではシリアスな演技で通していらっしゃる。
及川親分「なんだい、そりゃ、監督が殴り合ったら川浜は試合に出られなくなるんじゃねえの?」
滝沢「……」
さすがにカッとなった滝沢が拳を握り締めるのを見て、親分が冷ややかに指摘する。図に乗って、下っ端が無抵抗の滝沢に暴行していると、目玉をひん剥いて岩佐校長が駆けつけ、なんとか彼らを追い払う。

滝沢は職員室で、清川から詳しい事情を聞く。借金は20万で、暴力団のイカサマ博打に引っ掛かって清川の父親がこしらえたものなのだという。
柳「あなた、そんな状態でよく明るくしてられるわねえ。
バカなの?」
甘利「しかし相手は暴力団ですよ。我々が金を出し合ってでも、何とか解決した方が……」
江藤「しかしねえ、奴ら図に乗ってもっと寄越せって言うだけですよ、ありゃ」
滝沢が、ならば自分が掛け合ってこようと申し出るが、清川は、彼らもそう無茶はしないし、頻繁に来る訳ではないからと言って断る。

滝沢「本当に大丈夫なのか」
清川「ええ、俺、どんなことがあってもプレーでは落ち込んだりしませんから心配しないで下さい」
さすが長年の付き合いだけあって、清川は、滝沢が
ラグビーにさえ支障が出ない限り選手の生活がどうなろうと知ったこっちゃないことを十分承知しているのだった。
そんな彼らのやり取りを廊下から見ているものがいた。

川浜一のダニと呼ばれている(呼ばれてへん、呼ばれてへん)大三郎であった。
いや、なんであんたがそこにいるの……と、いつもの疑問が浮かんだが、新楽は学校のすぐ目の前にあるのだから、職員室に出前を届けに来ても全然不思議ではないのだった。

OP後、大三郎はパックに入れた店の餃子を清川に渡してやっている。
清川「マスター」
下田「おめえの為じゃねえ、ちっこい弟や妹によ」
清川「すみません、いつも……」
少し遅れて滝沢や他の選手たちがゾロゾロ入ってくる。

下田「お前ら、また負けたんだって?」
平山「はぁ、どうもスランプで」
下田「スランプ? ほっほっ、結構じゃねえか。野球の長嶋や王がスランプだって言われたことがあっただろ? あれはな、大打者なればこそだ、
一度も良いことがなかった選手がスランプなんて言われたことがあるか?」
あると思いますが……。

下田「お前たちはな、スランプだって言われるほど、一応マシなチームになったってことよ。
苦虫噛みちゅぶしたような(註1)顔してねえでな、イカの足でも噛んでみなってんだ、え? 今、どんどん食わしてやったからよ」
(註1……この場にいた生徒たちはみな
「そう言うお前は台詞噛んでるけどな!」と突っ込みたくてしょうがなかったそうです)
平山「マスター、また奥さんに叱られますよ」
下田「いいの、いいの、あのドケチの目を掠めて奢るのが……」
大ちゃん、皿にイカの唐揚げを山盛りにすると、それも選手たちにロハで食わそうとするが、

下田「スリルがあって、俺のたった一つの趣味なのよ」
夕子「その現場を押さえんのがうちの楽しみや! 晩御飯のおかず、勝手になんや!」
その背後に大魔神のように現われた夕子によって、イカは寸前で回収される。
その後、新楽に変事が起こる。

ナレ「ラグビー部のオアシス、新楽に異変が起こった……が、誰も気にしなかった」
……嘘である。
嘘であるが、視聴者の誰も気にしなかったのは事実であろう。

異変と言っても、休みのたびに大三郎がめかしこんで何処かへいそいそと出掛けて行く、それも夕子の目を盗むようにして……と言う些細なことだった。
夕子「あほんだら、二度と帰んな、死んでまえ!」

夕子が、大三郎の背中にありったけの罵声を浴びせていると、ぞろぞろぞろと滝沢たちが入ってくる。
夕子「先生、うちの人、女が出来ましたんや」
圭子「そんなー、マスターに限って」
夕子「男が急に身奇麗にしだしたら、女以外に考えられへん! 光男、ことと次第によっちゃ、姉ちゃん離婚するぜい!」
光男の着ているセーターの柄が、相変わらず「ハハハハハハ……」と、この騒動に対する光男の本心を表しているように見える。

清川「なんかの間違いですよね、マスターは奥さんを裏切るような人じゃないです」
滝沢「ああ……」
滝沢、
心の底からどうでも良いと思っていたのだが、口に出してはそう言うのみだった。
ここで嬉しいことに、大木が再び画面に登場する。それも、東北製鉄に正社員として採用されるという朗報を持って滝沢に会いに来たのだ。
……しかし、大木は今、仙台にいるんだろう? そうホイホイと帰ってこれるもんかね? あと、臨時社員として働きだして、まだ半年くらいにしかならないのに正社員に昇格と言うのもなぁ。

滝沢「良かったな、大木」
大木「良い会社に就職を世話してくれた先生や奥さんのお陰です」
それはさておき、滝沢夫婦は、まるで自分の息子のことのように喜ぶ。
おまけに、病弱な母親の為に、勤務地を仙台から千葉に変えて貰ったと言うのだから、どんだけホワイト企業やねん、東北製鉄!
もっとも、既に千葉に転勤しているから、大木も気軽に滝沢のところへ顔を出したのだろう。
あれこれ話していると、内田が血相変えてアパートへ押し掛けてくる。大三郎が、昼間からキャバレー大東洋へ入っていくのをその目で見たと言うのだ。
内田は、大三郎がそのキャバレーのホステスに入れあげているのだと決め付け、説教名人の滝沢に意見してやってくれと頼む。ラグビー馬鹿の滝沢、最初は「夫婦のことに口出しは……」と気が進まないようであったが、
内田「新楽はラグビー部のオアシスですよ。(中略)店のムードはギスギスしてチームに悪い影響を与えますよ」
滝沢「行きましょう!」 新楽の経営が、ラグビー部の浮沈に関わると言われた途端、滝沢は何の迷いもなく立ち上がるのであった。
……嘘である。
滝沢、最後まで気乗りしない顔で、大木と一緒に大東洋へ向かうのであった。
大木「先生よ、もし本当だとしたら、俺はたとえマスターでもぶん殴るぜ!」 滝沢「事実を確かめてからだ」
社会人になっても、全く精神的進歩の見られない大木がステキなのです!
それにしても、なんで滝沢はわざわざトラブルメーカーである大木を連れて来たのだろう?

だが、二人が意を決して開店前の店内に踏み込んだところ、意外にも……と言うか、予想通り、そこには女っ気のかけらもなく、大三郎をはじめ、むさくるしいおっさんばかりが顔を揃えていた。
下田「そいじゃあ、皆さん、乾杯」
おっさんたち「乾杯!」
どんな場合でも頭を取らなければ気がすまない大三郎、ここでも乾杯の音頭を気持ち良さそうに取っていた。

グラスを飲み干した大三郎、すぐに二人の姿に気付くと、悪びれる様子もなくやってくる。
滝沢「マスター、この集まりはなんですか?」
下田「実はね、この町のラグビーのクラブ作りましてね、今日はその発会式なんですよぉ。この人が店のマネージャーなもんで、開店前に場所を借りたんですよ、あ、クラブの名前はね、『川浜浜っ子クラブ』ってんですよ」
滝沢「浜っ子クラブ、ですか?」
下田「ええ、今、川浜高校のラグビー部はスランプでしょ? (中略)いざって時に良い相談相手になる為には自分たちがラグビーやんなきゃ話にならねえ。そう思ったんすよ」
大木「だけど、マスター、なんだよ、そのなりは?」
下田「これよ、ラグビーはイギリスが生んだ紳士のスポーツ
じゃんか? な、だから、身嗜みから……」
大木「やかましい、なにが、『じゃんか』だぁーっ! こんの野郎、ぶっ殺してやるぅ!」 下田「ひっ!」
滝沢「大木、やめるんだ! 気持ちは分かるが、人殺しはいかん!」 途中から嘘であるが、二人が内心、大三郎の「じゃんか」に殺意を抱いたことは事実だろうと思う。
その場にいたおっさんたちは、ひとりひとり立ち上がって滝沢に自己紹介していく。みんな年齢も職種も性癖もバラバラで、中には滝沢の顔見知りの八百屋さんなどもいた。
滝沢はその一人一人に頭を下げながら、同時に聞いた名前と職種を脳のメモリーから消去していくのだった。覚えても仕方ないからである。

そしてメンバーの中には、懐かしい顔もあった。
勝「内田工務店の内田勝です」

滝沢「内田!」
大木「なんだぁ、内田さんもマスターに誘われて?」
大木、親しげに勝に話しかけているが、二人って今まであまり接点がなかったような……。劇中で言葉を交わすのもこれが最初じゃないのかなぁ? ま、滝沢のアパートや工事現場で顔は合わせていると思うが。

それ以上に滝沢を喜ばせたのは、内田に促されて照れ臭そうに立ち上がったひとりの若者……そう、かつて川浜を暴力で支配していた水原亮こと小沢アニキとの再会であった。
滝沢「水原、水原じゃないか!」
水原「どうも。しばらくです。俺もマスターに誘われて、それで……いつか先生に言われたこと思い出しましてね」
滝沢(……なんて言ったっけ?)
かつての狂犬ぶりとは別人のように穏やかな口調で、かつて滝沢から言われた言葉に後押しされて、メンバーになったのだと話す水原。
ちなみに現在、水原は「トラック野郎」をしているそうです。どんな仕事なんだろう?
また、ここでは顔を合わせるだけだが、大木と水原は、後に「乳姉妹」で壮絶なバトルを演じることになる。
滝沢は彼らからコーチに就任してくれるよう頼まれるが、さすがに滝沢にはそこまでやる余裕がない。

そこで、割と暇そうなマークに浜っ子クラブのコーチをお願いするのだった。
マーク「喜んでお受けします。私の力で日本のスポーツが少しでもまともになれば嬉しいです」
滝沢「じゃあ、日本のスポーツはまともじゃないと?」
マーク「日本はスポーツが盛んな国に見えます。でも、どうして日本の選手は学生と実業団と自衛隊の人たちばっかりなんでしょう?」
滝沢「そうだね、そう言えば、オリンピックでも外国の選手には大工さんがいたり消防士がいたりするよね」
マーク「そうです、普通の町の人々がエンジョイする、それがほんとのスポーツです」
マークは、快くコーチを引き受けつつ、さりげなく外国人の目から見た日本のスポーツの問題点を指摘する。
ま、もっと他に指摘すべき重要な問題点(滝沢にも身に覚えのある)があると思うんだけどね。
とにかく、マークは浜っ子クラブのコーチに就任し、早くも河原の空き地で中年ラガーマンたちが楽しく汗を流していると言うシーンになる。頭上の橋の上をランニング中の川浜ラグビー部が通り掛かり、彼らの練習風景を興味津々と覗き込む。メンバーの中には部員たちにとっては懐かしい大木の姿もあった。

滝沢「大助、お前も来たのか」
大助「今日休みだし、体がウズウズするもんで千葉から飛び入りしたんすよ。いいなぁ、やっぱラグビー良いっすね。だけど変なんだよなぁ。学校でやってた時よりなんか楽しいんだ。じゃっ!」
滝沢は何故かその場にとどまり、彼らの練習を見て行こうと言い出す。
矢木などは「見たってしょうがないですよ、素人の練習」などと生意気なことを抜かしている。
自分だってつい最近まで相撲部だった癖に……。
そんな中、どうすればミスしないでプレーできるようになるのか尋ねたメンバーに対し、マークは
「ミスするのは当たり前です。人間には失敗する権利があります」と、滝沢には口が裂けても言えないような大きな器を感じさせるアドバイスを贈る。

滝沢「あの人は心からラグビーを楽しんでる。しかも熱心なのは俺たち以上だ。何故だと思う? 清川、お前は明るくラグビーを楽しんできた。お前なら分かるだろう」
清川「何故って俺、毎日バイトに追いまくられてるし、ラグビーやってる時だけが楽しいから」
そのうち、水原がこれから仕事があるからと滝沢に挨拶して途中で帰っていく。

それを見ていた滝沢、自分の出した問いに対する答えを漸く見付ける。
滝沢「彼らは仕事に追いまくられて、ろくに練習する暇もない。それだけにラグビーを楽しんでる。俺たちはなまじ毎日練習できるばかりに練習がいつの間に義務になってしまってる。それがスランプの原因だと思う」
さらに滝沢はマークの指導方法をパク、いや、参考にして、今までの方針を変え、少しくらいのミスには目をつぶるから、何よりまずラグビーを楽しむことを優先させて練習しようと唱える。
よほど滝沢のシゴキが怖かったのだろう、そう聞いた選手たちは一様に笑顔を弾けさせる。
だが、その夜、日本一貧乏な上に日本一不幸な清川が自宅に帰ると既にあのヤクザたちが上がり込んで彼を待ち構えていて、暴力を振るったり家の中を滅茶苦茶にしたりして清川を脅す。
さて、滝沢の新方針が効を奏して、部員たちの動きは見違えるように活き活きとして川浜はやっとスランプから抜け出すが、逆に今まで好調だったのに、急に元気のなくなった選手がいた。無論、清川である。

清川「先生、俺、今まで明るく振舞おうとしてきたけど、もう駄目です。こないだ、あいつらたまにしか来ないって言ったけど、ほんとは毎日来るんです。あいつらが押し掛けてくるばかりに、弟や妹も死ぬほどつらい思いをしています。俺、学校を辞めて何処か別の土地に引っ越そうと思うんです」
試合の後、部室でしつこく滝沢に問い詰められた清川、遂に自分の境遇を包み隠さず打ち明ける。さすがの清川もヤクザたちの毎日ログインボーナスを貰いに来るような精勤ぶりにすっかり参っていたのだ。
それにしても大のヤクザが三人も、たかが20万の為に毎日押し掛けて来ると言うのも……。
で、高校生としては重過ぎる告白を聞かされた滝沢の第一声は、
「花園はどうするんだ?」でした。
……
お前の頭には、ラグビーのことしかないんか? ないんだろうなぁ……。
ナレ「(全国大会優勝と言う)自分の、いや、少年の夢を叩き潰そうとする暴力に賢治は怒りを抑えることが出来なかった」
滝沢はやはり自分が行って話をつけてやるというが、清川は、滝沢やチームに迷惑が掛かるからと、それだけはやめてくれと頼む。滝沢は清川を安心させる為に、口では「何もしない」と約束するが、勿論、ひとりで板倉組に乗り込むつもりなのだ。
大三郎が、またまた夕子に激しく罵倒されながら浜っ子クラブの練習に出掛けようと店を出たところで、心配そうに滝沢を探している清川と会う。

清川から話を聞いた大三郎、スクーターを飛ばして、自転車で板倉組に向かっていた滝沢に追いつく。
滝沢「清川のところへ二度と来るな、その一言です」
下田「そんなこと話して分かってくれる相手じゃないですよ」
滝沢「だけど、やるだけのことはやらないと、じゃあ」

大三郎の説得も聞かず、板倉組へ行こうとする滝沢の腹を、大三郎のパンチが鋭く抉る。
さすがかつてワルだっただけのことはあり、ラグビーで鍛えた滝沢がころりと気絶してしまうほど強烈な一撃だった。
大三郎は滝沢の体をそばのコンクリートの柱にもたれさせると、「すいません、この始末、俺がつけますから」と、滝沢の代わりに板倉組へ。
どう言う話が持たれたのか不明だが、次の場面では、大三郎があの三人組と一緒に何処かへ向かって歩いているというシーンになる。
途中、ちょうど内田の会社の工事現場を通り掛かる。
内田「よお、何処行くんだ?」
下田「いやぁ、ちょっとこの人たちと話があってね」
内田「おお、浜っ子クラブのミーティングか」
何も知らない内田、いつものように大三郎と軽口を交わし合う。

内田「おーい、今夜いつもの店に飲みに来いや、とっちめてやるからよ」
下田「はっはっはっはっ、返り討ちにしてやっからな、そのつもりでいろよ」
ヤクザに取り囲まれるようにしてその場を離れていく大三郎。内田が、元気な大三郎の姿を見たのはこれが最後となってしまう。
ここでも省略方式が取られ、

翌朝の新聞にでかでかと載ったこの記事が、大三郎の身に最悪の事態が起こったことを、視聴者と、滝沢たち関係者に知らせるのだった。
それにしても、たかが潰れかけの中華飯店のおやじが刺されたにしては、いくらなんでも記事が長過ぎるような……。 そんなに書くことある?
大三郎の奇禍をニュースで聞き知って、毎度お馴染み、川浜市立総合病院にどんどん人が集まってくる。
その中には、トラックのまま乗りつけた水原などもいて、いかにも嘘臭い。

夕子「あんた、こがいなことになるなんて……おたんこなす、死んでまえなんて、二度と言えへん、誓う。せやから気張ってようなってや」
意識のない大三郎の枕元に座った夕子が、懇々と語りかけている。

その声に起こされたのか、大三郎が静かに目を開けて夕子に微笑みかける。
……
とても重体とは思えない血色の良さ! あと50年は死にそうにない様子である。

ドアが開いて、滝沢以下、主要メンバーが勢揃いして大三郎を見守る。
滝沢「マスター」
下田「先生、川浜は今年、全国優勝しますよ」
滝沢「え」
下田「今、夢見たんですよ。花園に応援に行ったら川浜の選手がひとり残らずトライを決める大活躍でしてね……」
大ちゃんの見た夢が実際に映像化され、全国優勝を果たして滝沢が選手たちに胴上げされている。
下田「先生、正夢にして下さい」
滝沢「マスター」
下田「うっ」
夕子「あんた、痛むんやろ。無理したらあかん」
下田「大したこたぁねえ」
……ほんと大したことないようにしか見えないので、うーん、リンダ困っちゃうのです。
だいたい重体の筈なのにそばに医者も看護婦もおらず、普通に喋ってる時点でリアリティゼロである。
それはまだしも、

続いて、二人の刑事が見知らぬひとりの男を病室へ連れて来る。
そう、他ならぬ大三郎を刺した犯人である。
刑事「この男が犯人です」
刑事「自首してきましたので……兄貴分二人も逮捕しました」
刑事「どうしても下田さんにお詫びしたいというので連れてきたんです」
……
そんな安浦刑事みたいな刑事がいるかぁーっ!(管理人の魂の叫び)
男「俺、俺、ゆうべ……」
男は涙ぐみながら大三郎を刺した時の模様を語る。
話し合いはこじれ、鉄橋の下で乱闘になったのだが、ヒロオに押されるようにして男がドスを持って突っ込んでいき、大三郎の体に突き立てたというのだ。

当然、滝沢たちは怒りを込めてその男の顔を凝視する。ここでは、代表して大木と圭子のゴールデンカップルの画像を貼っておく。
ただ、その中にあって当の大三郎だけは割と醒めた顔をしていた。
男「俺、後で兄貴に死ぬほど殴られるのが怖くて……すいませんでしたーっ! すいませんでしたーっ!」
男は、手錠を嵌めた手をべったり床につけて顔をぐしゃぐしゃにして謝るが、
大木「すいませんで済むかよーっ! この野郎ーっ!」 大木兄貴は、どんな時でも僕らの期待を裏切らないのでした。
それにしても、大木、ほんっっっっっっっっっっっっっっとに中学の時から進歩がない。
で、いつものようにみんなに押さえ込まれている大木に代わって、伏兵の清川が男の顔にパンチを叩き込む。

下田「清川、よせや」
だが、彼らの狂的な興奮を病臥している大三郎がたった一言で止めてしまう。
下田「おめえもヤクザの三下なんかやってるとこ見ると、ろくな育ちじゃねえんだろ」
男「はい、はい……」
下田「刑事さん、こいつの処分、なるべく軽く済むようにしてやって下さい」
男「ああ、ふふーっ!」
刺した相手から思い掛けない温かい言葉をかけられ、男は改めて号泣する。
下田「お前、刑が終わったら、まともに働けよ?」 男「はい、はい……」
その場にいた人たちは、大三郎の言葉を聞いて
「お前も、怪我が治ったらまともに働けよ!」と、ツッコミを入れたくてしょうがなかったという。
男が刑事に連れられて出て行った後、夕子が大三郎の手を握ってしんみりと語り掛ける。

夕子「あんた、気張ってようなってや。ほんならな、ラグビーくらいなんぼでもさせてあげるさかい」
下田「俺は死なねえよ。こうやってっと、公園で初めてお前の手握ったの思い出すな。おめえ、年取ったな」
夕子「あんたもな」

下田「ああ、なんだか眠くなって来たな……」
大三郎、目をつぶって顔を天井に向ける。
夕子はきっと良くなるものと望みを込めて、大三郎の安らかな寝顔を見詰めるのだった。
だが……、

ナレ「翌朝、大三郎は静かに息を引き取った。名マネージャー山崎加代の死から、僅か半年、ラグビー部はまたかけがえのない人物を失ったのである。賢治は運命の神を呪った」
と、真っ赤な朝日をバックにナレーターの台詞だけで、大三郎はあっけなく天に召されてしまう。
いくらなんでもあっけなさ過ぎる演出だが、もう二人も人の死ぬ場面を描いているから、三人目はスタッフも目先を変えようとしたのだろう。
それにしても、自分の筆先でちょいちょいと殺しておきながら、「運命の神」のせいにしているところが、このドラマのシナリオライターの並外れてあつかましいところである。
だいたい、なんでこんな唐突に大ちゃんが殺されなければならないのか? 最初に書いたように、主要キャラクターがストーリーから後退したことを受けて、クライマックス前に派手な見せ場を作っておこうと言うスタッフの思惑としか考えられない。
それとも、岩崎さんと同じく、辰兄ぃのスケジュールの都合なのかなぁ?

当然、大三郎の葬儀の様子もきっちり描かれる。
なんか、やたら病室と葬式のシーンが多いドラマだ……。

ま、その都度、節子さんの喪服姿が見れるのが救いである。
節子「随分大勢の人が見送りに来てくださってるのね……暇なのかしら」

甘利「自分を刺した男まで許すなんて誰にも出来ることでは……あの人は心の大きな人だったんですねえ」
岩佐「私は思い知らされた。偉い人は偉人伝の中にばかりいるものじゃなくて、町の中、自分の隣にいるもんだってことをな。あんまり身近に接していると人はその偉さに気付かない」
何気に、モナリザと園長先生のツーショットが実現してますね。

内田「そのとおりだ。そのとおりだ。あの時、なんとかしてやっておればねえ。これからワシは誰と喧嘩をすれば良いんだ?」
内田、最後の大三郎とのやりとりを思い出し、瞼が熱くなるのを抑えられなくなる。
しかし、生前は「川浜一のダニ」だとか「ちったぁ真面目に働け」とか、ボロクソに言われていた大ちゃんも、死んだ途端に聖人のように持ち上げられてしまうのが、人の世の玄妙なところである。
冷静に考えたら、買う必要のない喧嘩を買ってヤクザに刺し殺されたと言う、ある意味、最低の死に方してるんだけどね。それより、弁護士か、警察に相談しろっての。
節子「良い人だったわね」
滝沢「ああ、本当に、
いてもいなくてもどうでも良い人だった」
霊柩車で運ばれていく大三郎の棺に向かって、手を合わす滝沢たちであった。
だが、驚いたことに(註2)、新楽は葬儀の後、一日休んだだけでもう営業を再開していた。
(註2……ほんとは別に誰も驚いていないのだが、言葉の綾である)
ひとりでくるくる働いている夕子も明るく、元気そのもので、暗い影は面上に一片も見えない。
……と言うか、この店、最初から大三郎抜きでも商売できたんじゃねえか。
道理で大三郎がろくに働かないであちこちに出没していた筈である。

滝沢たちは、夕子の様子に戸惑いつつ、2階に上がる。どうやら、光男が卒業後も、その部屋でグループ学習を続けているらしい。
いや、さすがに卒業生の家でそんなことするかなぁ? だいたい一応社会人の光男は、高校生たちとは生活サイクルが違うだろうし。
ちなみに光男まで机に向かっているのは、フランス留学を目指してフランス語の勉強をしているのだろう。
光男「圭子、何考えてんだ?」
圭子「お姉さんのことよ、本当に強い人ね。お葬式の時も涙ひとつ見せなかったし」

光男「強いって言うより、鈍いんじゃないのかなぁ」
圭子の素朴な疑問に答える光男の言葉に、みんなが一斉に光男の方を見る。
光男「昔からあのとおりのがらっぱちでさぁ、
俺、姉ちゃんがこれっぽっちでも泣くところ、いっぺんも見たことがないんだよな。弟の俺が言うのもなんだけど、女としちゃちょっと可愛げがないよな」
光男、そう断言するのだが、夕子って、確か最初は凄く涙もろいって設定で、光男のことで何かあるたびに涙ぐんでいたような記憶があるのだが……。俺の記憶違いかな?

滝沢「森田、口が過ぎるぞ。姉さん、ただ気が張ってるだけだろ」
光男「そんな筈ないですって!
おい、栗原、お茶」
栗原「はいっ」
続けて、光男が、栗原にまるで召使にでも言うように横柄な態度でお茶を入れるよう命じるのだが、光男の性格の悪さが実に良くて出ているやりとりである。
そりゃこの家は光男のうちで、栗原は後輩かもしれないが、さすがにその言い方はないんじゃないの?
しかも、愛する圭子が見ていると言うのに……。何で圭子ほどの女が、こんなゲスな男にぞっこん惚れているのか、何度も書いてきた疑問だが、繰り返さずにはおれない。

だが、栗原の代わりに滝沢がお湯をポットに入れに1階に下りると、夕子がひとりでテーブル席について、声を殺してむせび泣いていた。
ナレ「夕子が泣いていた」 見りゃあ分かるよ! 
滝沢「夕子さん……」
夕子「みっともないとこ見せて……すんません。あの人が死んだ時も、葬式の時も悲しいのになんで涙でえへんのやろ、思いまして。昼間もなんとか気が紛れとるけど、店閉めてひとりになったらどうにもなりまへん!」
夕子にとって、岡持ちも暖簾も包丁も、店にある何もかもが大三郎との思い出の詰まった品なのだ。

夕子「人は亡くなっても空耳で声が聞こえたり、幻で姿が見えるってよう言いまっしゃろ?」
滝沢(聞いたことないけど) 夕子「そやけど、うち鈍いでんな、あの人の姿なんか見えしません。夢でもええ、幻でもええ、もういっぺんあの人に会いたいですわ。先生、今夜泣かせておくんなはれ。思いっきり泣かしておくんなはれ」
夕子、涙ながらにそれだけ言うと、テーブルに顔を伏せて肺腑を抉るような悲痛な嗚咽を漏らすのだった。

滝沢「俺はあえて言いたい。マスターもまた
カスであると!立派なラガーマンだったと。何故ならばラグビーをほんとに楽しむことを教えてくれた人だからだ」
翌日、整列する部員たちに説教を垂れている滝沢。

滝沢「どんなにつらい時にでも人を励まし、暴力には身をもって戦う勇気も示してくれた人だからだ」
滝沢の横には、大三郎の遺影を抱えた明子と、沈んだ顔をした清美が立っている。

しかし、大三郎の遺影がアップになると、つい笑ってしまうのは管理人だけだろうか?
滝沢「マスターはお前たち全員が、花園でトライするのを夢に見たそうだ。だがもう応援には来て貰えない。だからここを花園だと思ってお前たちがどんな風にトライするのかマスターに見せてあげよう」
例によって、人の死さえ部員たちの奮起の材料にしようとするラグビーの鬼・滝沢であった。
と言う訳で、滝沢の号令一下、部員たちがひとりひとりグラウンドにラグビーボールを叩き付けて行くと言う、訳の分からない練習が行われる。

で、ふと、滝沢がグラウンドの端に目をやると、なんと、死んだ筈の大三郎がスクーターにまたがって、元気にこちらに手を振っているではないか。

滝沢「夕子さん、見てますよ。マスターですよ!」
滝沢の言葉に部員たちも足を止め、滝沢の視線を追う。

大三郎の幻影は、消えるどころかますます調子に乗って、意味不明のピースサインを作っていた。
しかも、滝沢のもならず、選手たちにもその姿はありありと見えた。
スニーカー(あれ? ひょっとしてマスター、ほんとに生きてるの? すると、あれは大掛かりな保険金詐欺だったの?) と、思わず滝沢が疑ってしまうほど、その大三郎の幻は存在感があり過ぎた。

滝沢と部員たちが、「今度こそ息の根止めてやる!」と言わんばかりの勢いで、大三郎目掛けて突っ込んで行く。

ナレーターの「大三郎の心が一瞬形となって現われた姿……」と言う台詞とは裏腹に、大三郎は一瞬どころかいつまで経っても消える気配を見せず、最後には
神も恐れぬダブルピースサインを繰り出して、死んだ後まで視聴者の神経を逆撫でするのだった。
……数々の思い出をありがとう、下町のヒーロー、下田大三郎!
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