第32話「顔泥棒を逮捕せよ」(1981年9月19日)
冒頭、町の剣道場で厳しく門下生たちを指導しているバルイーグルこと飛羽高之。
その中には、青柳大介、勇介と言う兄弟がいて、飛羽は特に兄の大介の才能を高く評価して、熱心に稽古をつけてやっていた。

練習後も、元気に団地の広っぱに繰り出す青柳兄弟。いかにも若さが充満していると言う感じだ。
勇介「何がそんなに嬉しいの? 負けてばっかりなのに」
大介「飛羽さんに稽古をつけて貰ったからさ」
勇介「あんなにひどくやられたのにぃ」
大介「そこがいいんじゃないか。飛羽さんは絶対手加減しない。打たれるたびにじーんとその気迫が伝わってくるのさ」
勇介「へーっ、そんなもんかな」
大介「男同士にしか分からない気持ちさ」
勇介少年が
「マゾ」と言う言葉を知るのはこの数年後のことである。
などとやってると、最初から胴体と巨大な頭部が離れ離れになっているペッタンモンガーが現われ、二人に迫ってくる。

その顔は「おてもやん」みたいで、夜道で絶対会いたくない怪人ナンバー1に輝きそうな不気味さであった。
しかも、左手の鞭を大介の首に巻きつけて自分の胸元に引き寄せ、

怪人「ペッタン顔写し~」
大介「あ、あ、ああ……」
大介の顔を、そのくぼみに無理やり押し付けるという、かなりえげつないことをやる。
これだけでも精神的ダメージは相当なものだが、

くぼみに押し付けられた大介は、これまた気持ち悪い仮面を被せられてしまう。
怪人「はははは、出来上がったぞ」
大介「取れない、取れない、ああ……」
言い忘れていたが、大介役は野内俊司さん。「電子戦隊デンジマン」18話で、あきらのトホホな幼馴染を演じていた人である。
勇介はさっきの道場へ戻り、まだ残っていた飛羽に助けを求める。だが、飛羽が広っぱに駆けつけた時には、既に大介もペッタンモンガーも姿を消していた。
ベッタンモンガーは、その後も老若男女関係なく手当たり次第に人間の顔に仮面を貼り付けて回る。
その中で、若い主婦の顔を無理やりくぼみに押し付けているところなどはなかなかエロティックであったが、

最後に、薄暗いガード下の隅で、幼い女の子に迫っているところは、完全な変質者の仕業にしか見えない。
そんな暴挙をサンバルカンが許す筈もなく、その頭にバルカンスティックが飛んできて邪魔する。

三人が狭い通路でしばらく戦闘員と戦った後、アマゾンキラーたちが登場する。
アマゾンキラー「ペッタンモンガーに顔を写されたものは日頃、心の底、奥深くに抑えている悪魔の心が一挙に噴き出すのよ」

アマゾンキラー「お利口さんの優等生は友達をみんな敵だと思っている!」

アマゾンキラーの台詞に合わせて、さっき仮面を貼られた少年が、急にでっかくなって学習塾に乱入し、

少年「テスト反対~!」
などと雄叫びを上げて(笑いながら逃げる)子供たちを追い掛け回す映像が流れる。
どう見ても大人の体格なのは、子供には飛んだり跳ねたりは出来ないので代わりにJACの若い衆が演じているので大目に見てやってつかあさい。
アマゾンキラー「子供好きの先生も、ほんとは子供なんかうるさくて大嫌い」
続いて、プールサイドで(笑いながら逃げる)子供たちを追い掛け回している仮面の先生の映像。
アマゾンキラー「お母さんはもうご飯を作るのがイヤでイヤでたまらない」

続いて、子供が家に帰ったら、不気味な仮面をつけたお母さんが寝転がってテレビを見ていると言う、子供にとっては悪夢のようなシーン。
アマゾンキラー「お巡りさんも本当はピストルを撃ちたくてたまらない!」

最後は、サイレンを鳴らして走るパトカーの助手席から身を乗り出して、ピストルを撃ちまくっている警察官と言うアナーキーな映像。
アマゾンキラー「お分かり? ペッタンモンガーの恐ろしさ」
怪人「お分かり?」
三人はペッタンモンガーと戦うが、顔写しが強化スーツを着ているサンバルカンに効かず、驚いたペッタンモンガーは慌てて退散する。
無論、そんな仮面人間たちが野放しにされる筈もなく、直ちに保護されて監獄に押し込められる。

監獄から手を伸ばして狂ったように騒いでいる被害者たちを、声もなく見詰めるサンバルカン。
ところが、その中に、最初の犠牲者である大介の姿はなかった。

飛羽は、勇介、美佐と一緒に大介の行方を探していたが、とある寺院の境内に足を踏み入れた途端、殺気のようなものを感じて、二人に動かないよう命じてから、ゆっくり前に進む。

果たして、大介が三重塔の二階の屋根からジャンプして、飛羽の前に降り立つ。
二階と言っても、これはかなりの高さである。仮面を付けられると、その人間は身体能力も高くなるらしい。

大介「お前が憎い。お前を倒す!」
大介、木刀を握り締めて飛羽に襲い掛かる。

必死でその切っ先をかわし、あるいは体で受け止めながら、飛羽は、「ペッタンモンガーに顔を写されたものは……」と言うさっきのアマゾンキラーの言葉を思い出す。

勇介「兄ちゃんが飛羽さんを襲うなんて!」

勇介「う、ううーっ!」
美佐「勇介君、あれはあのお面のせいなのよ」
……って、おい、何をどさくさ紛れに神聖な美佐のおっぱいに顔を埋めておるのだ、このお子様は?
けしからん、俺と代われ!

大介「俺は強いんだ。お前さえいなければ俺が一番強いんだ!」
山門の前で大介の木刀を両手で受け止めている飛羽、その奥に、ペッタンモンガーがいつの間にか現われ、何やら呪文を唱えている。
と、飛羽に木刀ごと投げ飛ばされた大介、その弾みで仮面がカパッと外れてしまう。

飛羽「大丈夫か?」
大介「飛羽さん! どうして俺はこんなところに」
飛羽「お前、何にも覚えてないのか?」
ペッタンモンガーの不可解な行為には、首領であるヘルサターンも首を傾げていた。

ヘルサターン「折角のペッタン顔写しの術、何故やめた?」
ヘドリアン女王「やめたわけではない。これも作戦のひとつじゃ、ふっはははははっ」
ヘルサターン「……」
最近、作戦の主導権をすっかりヘドリアン女王とアマゾンキラーに奪われた形のヘルサターン、作戦の内容も事前に教えて貰えず、ひどい疎外感を味わうのだった。
さすがにこんな「悪の首領」は問題だと思います。
さて、ヘドリアン女王の真意はすぐに明らかになる。
仮面が取れて正気に返り、万事めでたしのように思えたが、サファリを訪れた大介に対するみんなの目がおかしいのである。
助八「らっしゃいー、うん?……あら、これどうしようかな、ああ、あの……」
嵐山「おい、助八、何やってんだ」
助八、カウンターに座った大介の顔を見ると、急に落ち着きがなくなり、そわそわと両手に包丁を持ったりする。
助八「危ないですからね、いきなり飛羽さんをブスッなんて」
飛羽「助八さん、何てこと言うんだ」
美佐「そうよ、もう大丈夫よ。ああ言うことは、その、顔写しの間だけなんだから」
助八「でもさ、心の奥では飛羽さんを憎んでたんでしょ。ぼくちゃん、そう言う人、嫌いだなぁ。なぁみんな?」
助八、言いにくいことを本人の前で無遠慮に言い放ち、他の者にも同意を求める。
助八「人間、心の中では何を考えてるかわからないなんて付き合ってられないよねえ」
横で嵐山が必死に手振りでやめろと言ってるのに、助八はまるで気付かず、大介の心に土足で踏み込むような言葉を並べる。

子供たちは残酷なもので、助八の問い掛けに、迷わず「うん!」と大きく頷いて見せる。
大介、いたたまれなくなって何も注文せずに店を出て行ってしまう。
そう、陰険かつ狡猾なヘドリアン女王は、一部の人間の隠された本音を周囲に暴露させ、その上で正常に戻すことで、その人間と周囲との関係を破綻させようと考えていたのだ。
同様のぎくしゃくした空気は、他の仮面にされて狂態を晒した人たちの周りでも発生していたと思われる。
確かに、まずショッカーなどには思いも付かない微妙な心理作戦であったが、こんなことをして、ブラックマグマの最終目的である世界征服に向けて、何か役に立つのだろうか?
これじゃ単なる嫌がらせに過ぎないよね。それより、どんどん仮面人間を増やして社会を混乱から麻痺状態に陥れる方がよっぽど有益だと思うんだけどね。
それはともかく、大介が飛び出した後、欣也たちは口々に助八の無神経な言動を非難する。

嵐山「お前だってあんな目に遭ったらだなぁ、腹の中じゃどんなことを考えてるかわかりゃしないんだ」
助八「とんでもない、僕はね、裏表のない正直だけが取柄の人間ですよ」

助八「マスターが口うるさい、ガミガミおやじ……」
嵐山「あーっ、そう思ってるんだな?」
助八「思ってま……は、は、はははは」
つい口を滑らせかけた助八、笑って誤魔化す。
そう、毎週欠かさず最初の挨拶で滑り倒そうと、笑って誤魔化せば全て解決するのである!(何の話だ?)

嵐山「腹の中じゃこんな顔してんだろ?」
助八「あら、こう、あっはっはっはっ」
最後に嵐山があの仮面みたいな顔をして見せるのが岸田森さん最高! なのである。

その後、太陽戦隊の基地であの仮面を分析していた嵐山たちだったが、ペッタンモンガーの呪文を受けて、再び仮面が命を宿し、一斉に宙を飛んで壁に張り付く。

そしてそのまま編隊を組んでこちらに向かってくるところなどは、なかなかの怖さである。
仮面は基地から瞬間移動すると、それぞれの被害者のところへ舞い戻り、またしても彼らを仮面人間にしてしまう。
優等生はテストを妨害して暴れ回り、

教師は、子供たちを追い掛け回す。
……
さっきのシーンでも笑ってたけど、ここはもう全力で笑い転げながら走ってますなぁ。

警察官は商店街のど真ん中で銃をぶっ放す。
つまりこの人は、ピストルが撃ちたくて撃ちたくてしょうがないので警察官になった訳だ。
……良いのか、こんなの採用して?
一方、大介兄弟は湖面に浮かんだボートの上で、たそがれていた。
大介「ちぇっ」
勇介「兄ちゃん、元気出せよ、兄ちゃんのせいじゃないんだからさぁ」
大介「しかしなぁ……」
どんなことがあっても兄の味方である勇介が慰めてくれるが、自分の心の奥底に飛羽を憎む心があったのは事実なので、大介の顔はどうにも晴れない。
つまらなそうに湖面に石を投げていると、水中からあの仮面が浮上して大介ともう一度合体しようとする。
色々あって、飛羽は大介を守って仮面から遠ざけさせる。
大介「もう駄目です、構わないで下さい、俺みたいな男……」
飛羽「バカヤロウ!」
飛羽、弱音を吐く大介の顔を思いっきりビンタする。
大介「俺は飛羽さんを倒そうとした、本当は心の中で憎んでるんですよ」
飛羽「大介、お前はそんな男じゃない。この俺が一番良く知ってるんだ」
大介「しかし……」

飛羽「良く聞くんだ、自分よりも優れている者を妬む気持ちは誰にでもあるんだ。仮面はただ、その気持ちをより強く増幅しただけなんだよ! 強くなる為に相手を倒そうと努力する、それは当然のことじゃないか。またそうじゃなきゃ、上達なんかしっこないよ! 大介、俺はな、お前だけは見所のある男だと思ってるんだぞ!」
大介「飛羽さん……」
当の飛羽から説かれ、励まされ、やっと大介の目にも自信が蘇ってくる。
もっとも、大介が立ち直ろうが立ち直れまいが、その後の戦いには何の関係もなかったのだが……。
どうせならここは、再び仮面に乗り移られた大介が、飛羽や弟の励ましを受けて自力で呪いを解き、ペッタンモンガーを怯ませ、それからラス殺陣につながるようにすべきだったと思う。
とにかく、サンバルカンがペッタンモンガーを倒し、事件は解決する。
他の被害者も、家族や友人の助けを得て、それぞれ日常生活に復帰したものと思われる。

ラスト、飛羽たちが改めてみんなと楽しく剣道の稽古をしている。
ここでナレーションが「恐ろしい仮面の魔力も、友情の前に敗れ去った……」と言うのだが、そんなシーンありましたっけ?
以上、いかにも曽田博久さんらしい脚本であった。
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