「ケータイ刑事 銭形雷」 第14話「わたしの色気でとろけなさい!~新人女優殺人事件」
- 2018/02/20
- 19:47
第14話「わたしの色気でとろけなさい!~新人女優殺人事件」(2006年4月1日)
OP後、再びOPイントロが流れ出し、

眩い光の中に浮かび上がったひとつの影。
それは雷……ではなく、

パイ「私は私、あんたはあんた……」

ナレ「小銭形パイ、35才、現役女子高生にして人妻にしてデカ、しかし、彼女が35才であることは誰も知らない」
喜多嶋舞演じる女優・大林しのぶ演じる「イエデン刑事小銭形パイ」のヒロイン、パイの勇姿であった。
音楽はそのまま「雷」のものが使われているが、制服がブレザーではなくセーラー服だったり、ルーズソックスを履いていたり、使う電話もケータイではなく黒電話だったり、すべての面で本家のキャラクターとは対照的な設定になっている。
もっとも、ルーズソックスについては、ケータイ刑事シリーズの原点は「ルーズソックス刑事」と言うドラマだったので、密かに原点回帰しているとも言えるのだが……。

ちゃんときっちりしたタイトルも出て、女性コーラスも「ライライライ……」ではなく「パイパイパイ……」と言っているのが芸が細かい。
正直、今回はストーリーよりそっちのセルフパロディの方へ力が注がれていて、ストーリー自体はどうでも良いのであった。
よって、これでレビューを終わりにしても良いのだが、殴られそうなので続ける。

無論、それは実際の刑事ではなく、岡野が広々とした刑事部屋で見ている劇中ドラマに過ぎなかった。
雷「岡野さん、何してるんですか」
岡野「シーッ、勉強中、資格を取る為の勉強中ですよ」
雷「テレビ見てるだけじゃないですか。……って言うか」

雷「イエデン刑事、小銭形パイ? これってパクリじゃないですかぁ~!」
岡野「見えないじゃないか、失敬なことを言うんじゃない!」
そこへやってきた雷、あからさまな自分のパクリドラマを見て、思わず大声を上げる。
岡野「私はこれを見て、彼女の演技を勉強させて貰ってるんですよ~」
資格マニアの岡野は、「俳優検定劇団こまわり級」などと言う訳の分からない資格を持っているらしい。
岡野「俳優になるにはまず子役から、これは鉄則ですよ!」
雷「その前に、俳優に資格は要らないと思うんですけど……」
雷が「イエデン刑事」の公式ガイドブック(表紙だけ)を開いていると、ケータイに事件発生を知らせる緊急入電がある。それは折りも折り、「イエデン刑事」に出演している新人女優・桜木ミミの死体が、赤坂を流れる「びえすあい川」の川岸で発見されたと言うものだった。

岡野、まだ見終わってないイエデン刑事を録画しようとするが、雷に引っ張られるようにして現場へ向かう羽目になる。
その間も劇中劇は進行しており、パイが「50円引き」と壁に書かれた文字を見て「感じる、悪のフェロモン」とつぶやくと言うしょうもないシーンが映し出されている。

現場はどう見ても東京近辺の海岸にしか見えなかったが、これは「びえすあい川」と言う世界最大の流域面積を誇る1級河川だと、番組は言い張るのであった。
雷「警視庁から結構距離ありましたねえ。同じ港区なのに……」
岡野「びえすあい川は、対岸が見えないほど川幅が広いんだ」
雷「海ですね、まるで」
言ってるそばから、登場人物自身によるツッコミが入るのがこのドラマの良心的(?)なところである。
海岸に横たわる桜木ミミの死体はかなりの厚着で、さらにその上からレインコートを羽織っていた。柴田によると死亡推定時刻は午後1時前後らしい。

雷「女優の器じゃありません、さようなら……遺書ですかね。自殺?」
雷は死体の懐にあったメモを見て、そうつぶやくが、岡野が「いや、違う!」と、いつになくきっぱりと否定する。
岡野「見たまえ、銭形君、入水自殺をしようとする人間がこんな厚着をするだろうか? 桜の季節だと言うのに耳当てに手袋、寒がりにもほどがある。水の寒さに耐えられないくらいなら入水自殺なんて選ぶ筈がない。それにもうひとつ、これだ!(と、死体の胸元を広げる) ……ドラマの衣装に違いない、このうら若き乙女がドラマの衣装を着たまま自殺をするだろうか? ありえない、絶対にありえない」
岡野、普段とはまるで別人のように理路整然と自殺説を撃ち砕く。

雷「よどむ、悪の天気……」

それを聞いていた雷、いつもより格段に早く、事件の手掛かりを得た時の決め台詞を放つが、

スッと伸ばした右手人差し指は、横にいる岡野の顔に刺さっていた。
岡野「私によどんでどうするの!」
雷「だって岡野さんの推理、全部正しいんだもん、絶対おかしいですよ」
岡野「銭形君、撮影現場に乗り込むぞ!」
ドラマを見て捜査方法を学んだのか、今日の岡野は、雷が怪しむほどに冴えていた。
びえすあい川の上流にある撮影現場では、ちょうどクライマックスのお仕置きシーンが撮られていた。

パイ「その名も人呼んで、イエデン刑事、小銭形パイ、私の色気でとろけなさぁ~い」
黒電話の受話器を手に、電話線で犯人を縛ってくねくねと色っぽいポーズを取るパイ。

犯人「俺がやりました」
パイ「うふっ、最初から素直にそう言えばよかったのにぃ! 逮捕しちゃうぞ!」
パイの色気にやられた犯人はあっさり犯行を認める。
わざと色調とコントラストを高めた画面の中で、パイがピンク色の手錠を犯人に嵌めたところで「カットぉっ!」と言う監督の声が飛ぶ。
撮影が一段落したのを見て、雷と岡野が大林しのぶと監督に近付いて話し掛ける。が、さっきの颯爽とした刑事ぶりは何処へやら、岡野はたちまちいつもの岡野に戻って、しのぶに花束を捧げたり、握手を求めたり、でれでれと笑み崩れるばかりで自分が刑事であることも言い出さない始末。
雷「あの、私たちは警察です!」
二人の非生産的な会話を手持ち無沙汰の様子で聞いていた雷、たまりかねて警察手帳を取り出すと、強引に割り込む。
岡野「実は桜木ミミさんなんですが、近くを流れるびえすあい川の下流で遺体で発見されました」
監督「ミミちゃんが死んだ? まっさかぁ」
しのぶ「どういうことぉ」
岡野「いや、自殺とは思われるんですが、一応、皆さんのお話を伺いに参りました」
とても事件の話をしに来たとは思えない満面の笑みで説明する岡野。
しのぶ「馬鹿な子、入水自殺するなんて……」

岡野「よどむ、悪の天気……」
しのぶが何気なく漏らした一言に、雷が早くも本日二度目の決め台詞を放つ。

岡野「銭形君、そんなところでよどんでないで、ほら、全員の事情聴取いってらっしゃい」
雷「そんな必要ありません、何故なら犯人はあなただからです、大林しのぶさん!」
岡野「銭形君、何を言ってるんだ!」
雷「あなたはどうしてミミさんが入水自殺したと知ってるんですか?」
しのぶ「……」

雷「私たち、一言も言ってませんよ、溺死したなんて」
しのぶ「……」
雷「ただ、下流で遺体が発見されたと言っただけです。そうですよね、岡野さん」
岡野「あ、ああ……」
雷「それなのに、あなたは入水自殺と決め付けた。あなたが殺害したからですね」
相手の不用意な一言を手掛かりに、一足飛びにしのぶが犯人だと決め付けてしまう雷。
登場人物が、犯人しか知らないことを口走ってしまう……これは「ケータイ刑事」シリーズのみならず、ミステリードラマで多用されるクリシェだが、さすがにこの場合、それだけでしのぶが犯人だと断定してしまうのは勇み足のように思える。
そもそも、現時点では他殺か自殺かも分かっておらず、単にしのぶが、ミミが川に飛び込むところを見ていながら、それを黙っていただけとも考えられる訳だし。

しのぶ「あなた、観察眼が優れているわね。それに顔も可愛い」
だが、しのぶ、全く動揺することなく雷に近寄ると、その顎を持ってクイと持ち上げる。
しのぶ「でも、滑舌がいまいちね」
雷「うん?」
しのぶ「赤巻紙、青巻紙、黄巻紙、ハイ!」

雷「赤巻紙、きまき……あおまき……」
しのぶ「やっぱり滑舌が悪い」
雷「関係ありません。私女優じゃないんですからぁ!」
しのぶに乗せられて思わず早口言葉にチャレンジする雷が可愛いのである!
ところで「赤巻紙」って何?

岡野「滑舌なら私に任せてください。赤巻紙、青巻紙……(中略)岡野の前に岡野なし、岡野の後にも岡野なし、滑舌しっかり岡野さん、はい!」
岡野、雷を押し退けると、求められてもいないのに色んな早口言葉を見事に言い切り、ガッツポーズを取る。
ま、この辺はさすが数々のドラマ出演歴を誇る俳優トミーの面目躍如と言ったところだ。
しのぶ「やるわね、刑事さん」
岡野「実は私、劇団こまわり公認なんですよ……」
雷「話を元に戻しましょう! あなたがどうして入水自殺だと決め付けたのか」
でしゃばる岡野を押し退け、改めてしのぶに問い質す雷。
しのぶ「良いわよ。耳は撮影中、ずっと言っていた、私には才能がない、この川に飛び込んで死んでしまいたいって……まさか、本気だったなんて」
さすがに刑事ドラマの主役を張るだけあり、しのぶは咄嗟に適当な言い訳を考えて切り抜けようとする。

しのぶ「ミミが死んだ時刻は?」
雷「午後1時頃です」
しのぶ「だったら私にはアリバイがあるわ、この上流のレストランでずーっと撮影をしていたんだから。下流にまで殺しに行けないことくらい、スタッフ全員が証言してくれるわ」
雷「下流にまで行かなくても殺害は可能です。この上流で殺害して、遺体を川に流せば良い。ミミさんの肺から検出される水の成分を調べれば殺害現場は上流であることはすぐに分かります、犯人はあなたです」
いつになく強引と言うか、容赦のない雷、何が何でもこの場でしのぶを逮捕するつもりらしい。

しのぶ「随分、自信家なのねえ、お嬢さん、でもね、私も自信家で負けず嫌い、だからここまで上り詰めた」

雷「……」
しのぶの挑戦的な視線をたじろぐことなく受け止める雷。
二人の視線の間には、目に見えない火花が散っているようであった。
だが、そこへ柴田から電話が掛かってきて、雷の予想に反して、ミミの肺から検出された水は、上流ではなく下流のものだったことが分かる。
雷「そんな……」
しのぶ「私の勝ちね、もう一度勉強し直しなさい」
第一ラウンドは、雷の完敗であった。

二人は一旦刑事部屋に戻る。岡野がホワイトボードに事件の見取り図を書いてしのぶにはどうしても犯行が不可能だったことを説明している。
岡野「スタッフの話によると、しのぶさんはほんの5分、レストランの外へ出ていたと……いいか、銭形君、上流から下流まで、直線距離にしてざっと60キロだ、たとえ車を使って移動したとしても、往復に最低2時間はかかる。たった5分の間に下流へ行き、ミミさんを殺害して、レストランへ戻る。これはもうインポッシブルだ」
雷「そんなことありません、絶対に何かトリックがある筈です」
岡野、捜査の参考の為にか、デスクに置いてあったタレント名鑑を広げて拾い読みする。
その中には柴田の大堀こういちさん(ちなみに今回、スケジュールの都合か、柴田は声だけで一切画面には登場していない……が、別に何の支障もない)や、

他ならぬ、トミー自身の写真も掲載されていた。
岡野「銭形君、見たまえ、なんと美しい青年だ! しかも私にそっくりじゃないか!」
代表作のところにはしっかり「銭形雷」が記載されている。無論、本当は「不良少女とよばれて」である。
雷「でも、死体をどうやって下流まで……」
岡野「ライバルは中井貴一と時任三郎だと思ってたのになぁ……ね、マジでね、この国広って俳優と私と、どっちが良い男だと……」
雷「も、どっちでも良いです!」
さっきから訳の分からないことを言っている岡野と揉み合っているうちに、タレント名鑑が飛んで床に落ちてしまう。
だが、それを拾い上げた雷、ちょうどそのページに他ならぬ大林しのぶのデータが載っているのに気付く。
雷「あ、しのぶさん、札幌出身なんですね。元自衛隊員?」

雷「そっか、そう言うことか、謎は解けたよ、ワトソン君!」
雷、遂に事件のトリックを見破り、カメラに向かって小声で決め台詞を囁く。
CM後、撮影が終わった現場に雷と岡野がやってきて、しのぶのどうやって犯行を行ったのか説明していく。
まず、雷は、しのぶが撮影の合間にミミを外に呼び出して、ミミを脅してあの遺書を書かせ、睡眠薬を飲ませて眠らせてから、ミミの体をボートに乗せ、川に流したと言う。
しのぶ「あっはははっ、なぁに、その穴だらけの推理は? だったらそのボートは何所行ったの?」
雷「ボートは消えたんです、川の中に」
しのぶ「それなら川浚いでもすれば?」
雷「そんなことをしても意味はありません。何故ならそのボートは氷で出来ていたからです」
岡野「氷で?」
雷「知ってます、岡野さん? 札幌の雪祭りの氷の彫刻を作るのは自衛隊の人の仕事なんですよ。あなたは元自衛隊員ですね、しかも札幌の雪祭りの担当をしていた。しのぶさんにとって、氷のボートを作るのは朝飯前だったんです」

その時の様子が再現されるが、なにしろ金がないドラマなので、これくらいで勘弁してやってください。
雷「ボートは徐々に溶けながら川を下り、下流で完全に溶け切ってしまう。ミミさんは川に落ち、多量の水を飲んで溺死させられる。ミミさんがあんなに厚着をしていたのは、氷のボートに乗せられて凍傷になるのを防ぐ為だったんです」
その後、雷はしのぶにしかその犯行が出来なかったと言う証拠も示し(特に面白くないので割愛)、しのぶを追い詰める。
しのぶも万事休すと逃げ出すが、地下駐車場に出たところで雷の「お仕置き」を受けてジ・エンド。
岡野は断腸の思いでしのぶに手錠を掛けると、連れて行こうとするが、ふと立ち止まったしのぶ、最後にひとつだけ雷の誤りを指摘する。

雷は、「遺書」はミミを脅して書かせたと言ったが、本当は、ミミからしのぶへの「挑戦状」だったと言うのだ。
ミミ「35才で女子高生役? 気味が悪~い。いい加減、気付いたら? 周りはねえ、大女優のあんたに何も言えないだけなのよ。もうそろそろ二代目に代わってもいい頃じゃない?」
しのぶ「あなたに私の代わりが出来るの?」
ミミ「簡単よぉ」
しのぶ「そう~」
それが、しのぶがミミを殺した動機だったのだ。……って、そんなことで殺すなよ。
それに、ミミの挑戦状にしても、いかにもしのぶのトリックにお誂え向きの不自然な文面で、これはもっと別の解答が欲しかった。ありがちだけど、ドラマのシナリオの一部だったとかね。
しのぶ「演技が何かも分かってない、若さだけが取り柄の馬鹿な女。馬鹿は死なないと治らないって言うでしょ? だから殺してあげたの」
しのぶ、去り際、自分の代役をやってみないかと雷に意外な言葉を投げる。
雷「私? 無理ですよぉ、私に女優なんて」
しのぶ「そう、でも、女はみんな女優なのよ」
しのぶ、謎めいた笑みを残して雷の前から去って行く。
事件解決後、落ち葉を敷き詰めた林の中を歩いている二人。

岡野「イエデン刑事、打ち切りになるんだって……銭形君はどうして代役引き受けなかったの?」
雷「だって私、デカですもん」
岡野「それにしても女性は年齢なんかじゃない、私は分かってますよ」
雷「ほんとですか? じゃあ私がおばさんになっても、ずっと相棒でいてくれますか?」
岡野「勿論ですよ、銭形君……と言うよりも、せめて早く成人式だけでも迎えて貰いたいものだよ、女子高生が、子供が上司だなんて同窓会で話も出来ませんよ」
カッコイイことを言った後、情けない本音を漏らす岡野。

雷「岡野さん、これからもよろしくお願いします!」
雷、岡野の前に回ると、可愛く敬礼して挨拶する。

岡野も、嬉しそうに敬礼で応じ、にっこり笑う。
岡野と言うより、トミーとしての、小出さんやこの現場に対する愛着が感じられる実に素敵な笑顔である。

雷「成長見守ってて下さい!」
ラスト、カメラの向こうの視聴者に向かって敬礼する雷が可愛いのである!
OP後、再びOPイントロが流れ出し、

眩い光の中に浮かび上がったひとつの影。
それは雷……ではなく、

パイ「私は私、あんたはあんた……」

ナレ「小銭形パイ、35才、現役女子高生にして人妻にしてデカ、しかし、彼女が35才であることは誰も知らない」
喜多嶋舞演じる女優・大林しのぶ演じる「イエデン刑事小銭形パイ」のヒロイン、パイの勇姿であった。
音楽はそのまま「雷」のものが使われているが、制服がブレザーではなくセーラー服だったり、ルーズソックスを履いていたり、使う電話もケータイではなく黒電話だったり、すべての面で本家のキャラクターとは対照的な設定になっている。
もっとも、ルーズソックスについては、ケータイ刑事シリーズの原点は「ルーズソックス刑事」と言うドラマだったので、密かに原点回帰しているとも言えるのだが……。

ちゃんときっちりしたタイトルも出て、女性コーラスも「ライライライ……」ではなく「パイパイパイ……」と言っているのが芸が細かい。
正直、今回はストーリーよりそっちのセルフパロディの方へ力が注がれていて、ストーリー自体はどうでも良いのであった。
よって、これでレビューを終わりにしても良いのだが、殴られそうなので続ける。

無論、それは実際の刑事ではなく、岡野が広々とした刑事部屋で見ている劇中ドラマに過ぎなかった。
雷「岡野さん、何してるんですか」
岡野「シーッ、勉強中、資格を取る為の勉強中ですよ」
雷「テレビ見てるだけじゃないですか。……って言うか」

雷「イエデン刑事、小銭形パイ? これってパクリじゃないですかぁ~!」
岡野「見えないじゃないか、失敬なことを言うんじゃない!」
そこへやってきた雷、あからさまな自分のパクリドラマを見て、思わず大声を上げる。
岡野「私はこれを見て、彼女の演技を勉強させて貰ってるんですよ~」
資格マニアの岡野は、「俳優検定劇団こまわり級」などと言う訳の分からない資格を持っているらしい。
岡野「俳優になるにはまず子役から、これは鉄則ですよ!」
雷「その前に、俳優に資格は要らないと思うんですけど……」
雷が「イエデン刑事」の公式ガイドブック(表紙だけ)を開いていると、ケータイに事件発生を知らせる緊急入電がある。それは折りも折り、「イエデン刑事」に出演している新人女優・桜木ミミの死体が、赤坂を流れる「びえすあい川」の川岸で発見されたと言うものだった。

岡野、まだ見終わってないイエデン刑事を録画しようとするが、雷に引っ張られるようにして現場へ向かう羽目になる。
その間も劇中劇は進行しており、パイが「50円引き」と壁に書かれた文字を見て「感じる、悪のフェロモン」とつぶやくと言うしょうもないシーンが映し出されている。

現場はどう見ても東京近辺の海岸にしか見えなかったが、これは「びえすあい川」と言う世界最大の流域面積を誇る1級河川だと、番組は言い張るのであった。
雷「警視庁から結構距離ありましたねえ。同じ港区なのに……」
岡野「びえすあい川は、対岸が見えないほど川幅が広いんだ」
雷「海ですね、まるで」
言ってるそばから、登場人物自身によるツッコミが入るのがこのドラマの良心的(?)なところである。
海岸に横たわる桜木ミミの死体はかなりの厚着で、さらにその上からレインコートを羽織っていた。柴田によると死亡推定時刻は午後1時前後らしい。

雷「女優の器じゃありません、さようなら……遺書ですかね。自殺?」
雷は死体の懐にあったメモを見て、そうつぶやくが、岡野が「いや、違う!」と、いつになくきっぱりと否定する。
岡野「見たまえ、銭形君、入水自殺をしようとする人間がこんな厚着をするだろうか? 桜の季節だと言うのに耳当てに手袋、寒がりにもほどがある。水の寒さに耐えられないくらいなら入水自殺なんて選ぶ筈がない。それにもうひとつ、これだ!(と、死体の胸元を広げる) ……ドラマの衣装に違いない、このうら若き乙女がドラマの衣装を着たまま自殺をするだろうか? ありえない、絶対にありえない」
岡野、普段とはまるで別人のように理路整然と自殺説を撃ち砕く。

雷「よどむ、悪の天気……」

それを聞いていた雷、いつもより格段に早く、事件の手掛かりを得た時の決め台詞を放つが、

スッと伸ばした右手人差し指は、横にいる岡野の顔に刺さっていた。
岡野「私によどんでどうするの!」
雷「だって岡野さんの推理、全部正しいんだもん、絶対おかしいですよ」
岡野「銭形君、撮影現場に乗り込むぞ!」
ドラマを見て捜査方法を学んだのか、今日の岡野は、雷が怪しむほどに冴えていた。
びえすあい川の上流にある撮影現場では、ちょうどクライマックスのお仕置きシーンが撮られていた。

パイ「その名も人呼んで、イエデン刑事、小銭形パイ、私の色気でとろけなさぁ~い」
黒電話の受話器を手に、電話線で犯人を縛ってくねくねと色っぽいポーズを取るパイ。

犯人「俺がやりました」
パイ「うふっ、最初から素直にそう言えばよかったのにぃ! 逮捕しちゃうぞ!」
パイの色気にやられた犯人はあっさり犯行を認める。
わざと色調とコントラストを高めた画面の中で、パイがピンク色の手錠を犯人に嵌めたところで「カットぉっ!」と言う監督の声が飛ぶ。
撮影が一段落したのを見て、雷と岡野が大林しのぶと監督に近付いて話し掛ける。が、さっきの颯爽とした刑事ぶりは何処へやら、岡野はたちまちいつもの岡野に戻って、しのぶに花束を捧げたり、握手を求めたり、でれでれと笑み崩れるばかりで自分が刑事であることも言い出さない始末。
雷「あの、私たちは警察です!」
二人の非生産的な会話を手持ち無沙汰の様子で聞いていた雷、たまりかねて警察手帳を取り出すと、強引に割り込む。
岡野「実は桜木ミミさんなんですが、近くを流れるびえすあい川の下流で遺体で発見されました」
監督「ミミちゃんが死んだ? まっさかぁ」
しのぶ「どういうことぉ」
岡野「いや、自殺とは思われるんですが、一応、皆さんのお話を伺いに参りました」
とても事件の話をしに来たとは思えない満面の笑みで説明する岡野。
しのぶ「馬鹿な子、入水自殺するなんて……」

岡野「よどむ、悪の天気……」
しのぶが何気なく漏らした一言に、雷が早くも本日二度目の決め台詞を放つ。

岡野「銭形君、そんなところでよどんでないで、ほら、全員の事情聴取いってらっしゃい」
雷「そんな必要ありません、何故なら犯人はあなただからです、大林しのぶさん!」
岡野「銭形君、何を言ってるんだ!」
雷「あなたはどうしてミミさんが入水自殺したと知ってるんですか?」
しのぶ「……」

雷「私たち、一言も言ってませんよ、溺死したなんて」
しのぶ「……」
雷「ただ、下流で遺体が発見されたと言っただけです。そうですよね、岡野さん」
岡野「あ、ああ……」
雷「それなのに、あなたは入水自殺と決め付けた。あなたが殺害したからですね」
相手の不用意な一言を手掛かりに、一足飛びにしのぶが犯人だと決め付けてしまう雷。
登場人物が、犯人しか知らないことを口走ってしまう……これは「ケータイ刑事」シリーズのみならず、ミステリードラマで多用されるクリシェだが、さすがにこの場合、それだけでしのぶが犯人だと断定してしまうのは勇み足のように思える。
そもそも、現時点では他殺か自殺かも分かっておらず、単にしのぶが、ミミが川に飛び込むところを見ていながら、それを黙っていただけとも考えられる訳だし。

しのぶ「あなた、観察眼が優れているわね。それに顔も可愛い」
だが、しのぶ、全く動揺することなく雷に近寄ると、その顎を持ってクイと持ち上げる。
しのぶ「でも、滑舌がいまいちね」
雷「うん?」
しのぶ「赤巻紙、青巻紙、黄巻紙、ハイ!」

雷「赤巻紙、きまき……あおまき……」
しのぶ「やっぱり滑舌が悪い」
雷「関係ありません。私女優じゃないんですからぁ!」
しのぶに乗せられて思わず早口言葉にチャレンジする雷が可愛いのである!
ところで「赤巻紙」って何?

岡野「滑舌なら私に任せてください。赤巻紙、青巻紙……(中略)岡野の前に岡野なし、岡野の後にも岡野なし、滑舌しっかり岡野さん、はい!」
岡野、雷を押し退けると、求められてもいないのに色んな早口言葉を見事に言い切り、ガッツポーズを取る。
ま、この辺はさすが数々のドラマ出演歴を誇る俳優トミーの面目躍如と言ったところだ。
しのぶ「やるわね、刑事さん」
岡野「実は私、劇団こまわり公認なんですよ……」
雷「話を元に戻しましょう! あなたがどうして入水自殺だと決め付けたのか」
でしゃばる岡野を押し退け、改めてしのぶに問い質す雷。
しのぶ「良いわよ。耳は撮影中、ずっと言っていた、私には才能がない、この川に飛び込んで死んでしまいたいって……まさか、本気だったなんて」
さすがに刑事ドラマの主役を張るだけあり、しのぶは咄嗟に適当な言い訳を考えて切り抜けようとする。

しのぶ「ミミが死んだ時刻は?」
雷「午後1時頃です」
しのぶ「だったら私にはアリバイがあるわ、この上流のレストランでずーっと撮影をしていたんだから。下流にまで殺しに行けないことくらい、スタッフ全員が証言してくれるわ」
雷「下流にまで行かなくても殺害は可能です。この上流で殺害して、遺体を川に流せば良い。ミミさんの肺から検出される水の成分を調べれば殺害現場は上流であることはすぐに分かります、犯人はあなたです」
いつになく強引と言うか、容赦のない雷、何が何でもこの場でしのぶを逮捕するつもりらしい。

しのぶ「随分、自信家なのねえ、お嬢さん、でもね、私も自信家で負けず嫌い、だからここまで上り詰めた」

雷「……」
しのぶの挑戦的な視線をたじろぐことなく受け止める雷。
二人の視線の間には、目に見えない火花が散っているようであった。
だが、そこへ柴田から電話が掛かってきて、雷の予想に反して、ミミの肺から検出された水は、上流ではなく下流のものだったことが分かる。
雷「そんな……」
しのぶ「私の勝ちね、もう一度勉強し直しなさい」
第一ラウンドは、雷の完敗であった。

二人は一旦刑事部屋に戻る。岡野がホワイトボードに事件の見取り図を書いてしのぶにはどうしても犯行が不可能だったことを説明している。
岡野「スタッフの話によると、しのぶさんはほんの5分、レストランの外へ出ていたと……いいか、銭形君、上流から下流まで、直線距離にしてざっと60キロだ、たとえ車を使って移動したとしても、往復に最低2時間はかかる。たった5分の間に下流へ行き、ミミさんを殺害して、レストランへ戻る。これはもうインポッシブルだ」
雷「そんなことありません、絶対に何かトリックがある筈です」
岡野、捜査の参考の為にか、デスクに置いてあったタレント名鑑を広げて拾い読みする。
その中には柴田の大堀こういちさん(ちなみに今回、スケジュールの都合か、柴田は声だけで一切画面には登場していない……が、別に何の支障もない)や、

他ならぬ、トミー自身の写真も掲載されていた。
岡野「銭形君、見たまえ、なんと美しい青年だ! しかも私にそっくりじゃないか!」
代表作のところにはしっかり「銭形雷」が記載されている。無論、本当は「不良少女とよばれて」である。
雷「でも、死体をどうやって下流まで……」
岡野「ライバルは中井貴一と時任三郎だと思ってたのになぁ……ね、マジでね、この国広って俳優と私と、どっちが良い男だと……」
雷「も、どっちでも良いです!」
さっきから訳の分からないことを言っている岡野と揉み合っているうちに、タレント名鑑が飛んで床に落ちてしまう。
だが、それを拾い上げた雷、ちょうどそのページに他ならぬ大林しのぶのデータが載っているのに気付く。
雷「あ、しのぶさん、札幌出身なんですね。元自衛隊員?」

雷「そっか、そう言うことか、謎は解けたよ、ワトソン君!」
雷、遂に事件のトリックを見破り、カメラに向かって小声で決め台詞を囁く。
CM後、撮影が終わった現場に雷と岡野がやってきて、しのぶのどうやって犯行を行ったのか説明していく。
まず、雷は、しのぶが撮影の合間にミミを外に呼び出して、ミミを脅してあの遺書を書かせ、睡眠薬を飲ませて眠らせてから、ミミの体をボートに乗せ、川に流したと言う。
しのぶ「あっはははっ、なぁに、その穴だらけの推理は? だったらそのボートは何所行ったの?」
雷「ボートは消えたんです、川の中に」
しのぶ「それなら川浚いでもすれば?」
雷「そんなことをしても意味はありません。何故ならそのボートは氷で出来ていたからです」
岡野「氷で?」
雷「知ってます、岡野さん? 札幌の雪祭りの氷の彫刻を作るのは自衛隊の人の仕事なんですよ。あなたは元自衛隊員ですね、しかも札幌の雪祭りの担当をしていた。しのぶさんにとって、氷のボートを作るのは朝飯前だったんです」

その時の様子が再現されるが、なにしろ金がないドラマなので、これくらいで勘弁してやってください。
雷「ボートは徐々に溶けながら川を下り、下流で完全に溶け切ってしまう。ミミさんは川に落ち、多量の水を飲んで溺死させられる。ミミさんがあんなに厚着をしていたのは、氷のボートに乗せられて凍傷になるのを防ぐ為だったんです」
その後、雷はしのぶにしかその犯行が出来なかったと言う証拠も示し(特に面白くないので割愛)、しのぶを追い詰める。
しのぶも万事休すと逃げ出すが、地下駐車場に出たところで雷の「お仕置き」を受けてジ・エンド。
岡野は断腸の思いでしのぶに手錠を掛けると、連れて行こうとするが、ふと立ち止まったしのぶ、最後にひとつだけ雷の誤りを指摘する。

雷は、「遺書」はミミを脅して書かせたと言ったが、本当は、ミミからしのぶへの「挑戦状」だったと言うのだ。
ミミ「35才で女子高生役? 気味が悪~い。いい加減、気付いたら? 周りはねえ、大女優のあんたに何も言えないだけなのよ。もうそろそろ二代目に代わってもいい頃じゃない?」
しのぶ「あなたに私の代わりが出来るの?」
ミミ「簡単よぉ」
しのぶ「そう~」
それが、しのぶがミミを殺した動機だったのだ。……って、そんなことで殺すなよ。
それに、ミミの挑戦状にしても、いかにもしのぶのトリックにお誂え向きの不自然な文面で、これはもっと別の解答が欲しかった。ありがちだけど、ドラマのシナリオの一部だったとかね。
しのぶ「演技が何かも分かってない、若さだけが取り柄の馬鹿な女。馬鹿は死なないと治らないって言うでしょ? だから殺してあげたの」
しのぶ、去り際、自分の代役をやってみないかと雷に意外な言葉を投げる。
雷「私? 無理ですよぉ、私に女優なんて」
しのぶ「そう、でも、女はみんな女優なのよ」
しのぶ、謎めいた笑みを残して雷の前から去って行く。
事件解決後、落ち葉を敷き詰めた林の中を歩いている二人。

岡野「イエデン刑事、打ち切りになるんだって……銭形君はどうして代役引き受けなかったの?」
雷「だって私、デカですもん」
岡野「それにしても女性は年齢なんかじゃない、私は分かってますよ」
雷「ほんとですか? じゃあ私がおばさんになっても、ずっと相棒でいてくれますか?」
岡野「勿論ですよ、銭形君……と言うよりも、せめて早く成人式だけでも迎えて貰いたいものだよ、女子高生が、子供が上司だなんて同窓会で話も出来ませんよ」
カッコイイことを言った後、情けない本音を漏らす岡野。

雷「岡野さん、これからもよろしくお願いします!」
雷、岡野の前に回ると、可愛く敬礼して挨拶する。

岡野も、嬉しそうに敬礼で応じ、にっこり笑う。
岡野と言うより、トミーとしての、小出さんやこの現場に対する愛着が感じられる実に素敵な笑顔である。

雷「成長見守ってて下さい!」
ラスト、カメラの向こうの視聴者に向かって敬礼する雷が可愛いのである!
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