第24話「花園へ飛べ千羽鶴」(1985年3月23日)
そろそろゴールの見えてきた本作だが、一番盛り上がる筈なのにちっとも盛り上がらないのは何故だろう?
ストーリー的には、後はもう全国大会優勝を決めるだけだと分かり切っているし、それよりなにより、大木や圭子など、物語を引っ張ってきた主要キャラクターが高校卒業してストーリーにあまり絡まなくなった点が大きいと思う。
スタッフもそれは重々承知していて、今回もかなり強引に大木や圭子を物語に関わらせているが、所詮は部外者だから、それにも限界がある。かと言って、また
人殺しをする訳にもいかず……で、結果的には24話の「スパイク紛失事件」、25話の「ユニフォーム焼失事件」などという、みみっちいエピソードを放り込んで、なんとか視聴者の興味を繋ぎ止めようとするスタッフの苦悩が透けて見えるストーリー展開となっている。
前置きが長くなった。
冒頭、滝沢以下、部員たちが前回、特に意味もなく散っていった大三郎の墓参りをしている。その墓標の裏に記してある文字から、大三郎の命日が昭和59年11月5日だと確定できる。
そして亡き大三郎の霊に誓った全国大会優勝……その県予選が数日後に迫っていた。

社会人となって、そんな暇はないと思うのだが、OB大木が、選手たちに訓示を垂れている。
大木「いいか、俺が絶対優勝できるコツを教える。耳かっぽじって聞け。そりゃあなぁ、なんたってチームワークが大事だってことだ」
大木の当たり前過ぎる言葉に選手たちの間から失笑が漏れる。
大木「なんだ、なんだ、それくらい分かってますって顔しやがって」
栗原「でも、いつも喧嘩騒ぎを起こして、チームワークを乱してたのは大木先輩じゃないですか」

大木「だからこそ言ってんだ、俺がいた頃、もうひとつチームワークがあったら、花園で優勝できてたに違いねえからよ。いいか、一にチームワーク、二にチームワーク、メシ食うの忘れてもチームワーク忘れんなよ。分かったか?」
選手たち「ふぁーい」
大木の精一杯の演説も、あまり選手たちの骨身に染み透ったようには見えない。
その後、滝沢は練習を開始しようとするが、グラウンドの周りにカイガラムシのようにびっしり群がる生徒たちを気遣わしそうな目で見る。
川浜もいつの間にか強豪チームになって、普段からファンが押し寄せるほどの人気を得ていたのだ。

女子生徒「平山さーん、サインして」
平山「駄目だよ、俺」
女子生徒「どうしてー、いいじゃない」
平山「先生に言われてんだ、スターみたいな真似するなって」
そのこと自体は喜ばしい現象だったが、超高校級と呼ばれている精悍なマスクの平山に対する女子生徒の熱烈な応援ぶりは、滝沢にとって頭痛の種となっていた。
そしてこの三人娘はアイドルの追っかけでもしているように、平山にまとわりついていた。

サインを断ってグラウンドに戻る平山を追いかけて、そのままグラウンドに入ろうとするのを、慌てて清美と明子が止める。
明子「駄目、駄目、あんたたち、グラウンドに入らないで」
女子生徒「何よ、威張っちゃってさー」
滝沢「平山も他の部員たちも最後の調整が必要なんだ。な、少し遠慮してくれ」
女子生徒「はーい」
それにしても、山本理沙さんの可愛らしさは当時の女学生としては別次元だよね。ま、一応アイドルなんだから当然なんだけど。

その後、部室で圭子、明子、清美の三人が熱心に千羽鶴を折っている。
どうでもいいけど、圭子って今なにしてるんだろう? どうせ光男と結婚するつもりだから、いわゆる花嫁修業中と言う奴なのだろうか。ま、元々金持ちのお嬢さんだから、別に働く必要はないのだが。
しかし、「不良少女~」では宿敵だったモナリザ(圭子)と、八千代(清美)・善子(明子)のコンビがこうやって仲良く折り紙を折っているのは、思えば不思議な光景である。
やがて、練習を終えた選手たちがどやどやと入ってくる。

滝沢「おお、千羽鶴か」
圭子「ええ、花園に持って行って貰おうと思って」
明子「あたい、幼稚園行かせて貰えなかったから習ってないもんね。むつかしいよ」
そう言えば、明子たちも以前はバリバリのスケバンだったんだよね。大木と同じく、明子の家も貧しかったのだろう。

清美「一口で千羽って言うけど、いざ折るとなると気が遠くなるよ」
鶴を折りながら、子供っぽい口調でぼやく清美。
この、少年のように華奢な体つきが堪らないのです!

清美「ねえ、手伝って! ね」
清美、いきなり立ち上がると折り紙を一方的に部員たちに押し付けて回る。
部員役の若手俳優さんたちも、山本さんのそばにいるとドキドキしていたのではないだろうか?
清川「本人の俺たちが折ったらなんかおかしくないかぁ?」
日本一ビンボーな高校生の清川が生意気に口応えするが、
明子「千羽の中にひとつずつくらいあってもいいんじゃない?」
清美「鶴はね、試合で怪我しないように守ってくれるんだって!」
結局押し切られ、選手たちも手伝うことになる。
もっとも、選手たちの大半は鶴の折り方を知らなかった。
滝沢「なんだお前たち、そんなことも知らないのか。教えてやるから見てろ」
滝沢、えらそうに言うと一枚紙をとって折り始めるが、

滝沢「こうやってな……」
圭子「先生、それ、ヤッコさんですよ」
滝沢「これでぇ?」
部員たち「あっはっはっはっ!」
滝沢が作ったのは鶴ではなくヤッコで、部員たちに笑われる。
矢木「駄目だ先生だなぁ、ラグビー以外は!」
しかし、さすがに鶴とヤッコを間違えるだろうか?

と言う訳で、滝沢も部員たちも、圭子たちに教わりながら鶴を折ると言う、それこそ幼稚園のようなのどかな光景が繰り広げられることになる。
OP後、滝沢と部員たちは、後援会長を自任する内田の家に呼ばれ、彼がわざわざ撮影してきたと言う相模一高の練習風景を見入っている。

内田「全国優勝を狙うには、まず、にっくき相模一高を破らないことにはねえ」
滝沢「あのひと誰ですか?」
相模一高のグラウンドに勝又の姿がなく、代わりに見知らぬおっさんが生徒たちを指導しているのを見て、滝沢が尋ねる。
内田「新しい監督らしいよ」
滝沢「新しい監督って、じゃあ、勝又さんは?」
内田「おー、知らなかったの勝又って監督はつい最近辞めたらしいよ」
滝沢「ほんとですか?」
内田の言葉は滝沢にとってはまさに青天の霹靂で、部員たちも思わず驚きの声を上げる。
滝沢はすぐに勝又に会いに行く。

滝沢「何故ですか、何故県大会を目の前にして……」
勝又「……実は、私の正体が
ナチスジャガーだと言うことがバレてしまいましてねえ」
滝沢「そうだったんですか」
……嘘である。
ただし、勝又がかつてナチスジャガーをやっていたことは事実である。

くどいようですが、こちらが「快傑ズバット」第16~17話に出てきたナチスジャガーさんです。
ナチスとジャガーがひたすら合体しただけと言う、最強の怪人なのである。
勝又「実はうちの中心選手の一人が盗みを働きましてね、それもこともあろうに同じラグビー部員の腕時計を盗んだんです。その選手はほんの出来心からだと言ってますし、内輪のことですから部の出場停止問題までには発展しませんでした」
勝又、重苦しい溜息をついて、自分が監督を辞めるに至った経緯を説明する。

勝又「しかし、私はその卑劣な行為がどうしても許せなかった。将来の為にも厳しい措置をとってこそ愛情だと考えました。ですから、その選手を
処刑しました」
滝沢「ええーっ、殺しちゃったんですかぁ?」
……重ね重ね嘘である。許して貰えるとは思わないが、一応謝罪しておく。ごめん。
勝又「その選手を退部させました。ラガーマンはグラウンドの外でもフェアでなければならない。私は日頃から口を酸っぱくして選手たちにそう言ってきました。しかし、その選手には理解されていなかったようで……ショックでした。これはとりもなおさず、選手をそんな風にしか育てられなかった私の責任です」

勝又「ですから、私も退陣を決意しました。正直言って、ラグビーに未練はあります。しかし選手に厳しくするからには監督も己に厳しくなければなりません。滝沢さん、難しいモンですね、技術も心もまっとうな選手を育て上げるってことは」
滝沢「しかし、あなたを失うことは相模一高にとって、いや、高校ラグビー界にとって大きな損失です」
勝又「いやぁ、それは買い被りですよ。私ひとりが辞めたって、相模一高の力は変わりませんし、他にも強い学校はたくさんあります。滝沢さん、素晴らしい選手を育てて下さい」
勝又は一礼して歩き去って行く。その大きな背中は、いかにも寂しそうであった。
滝沢も、手本にすべき指導者として勝又を敬愛していたので、寂寞としたものが胸に込み上げてくるのを抑えられなかった。
ところで、滝沢、まるっきり他人事みたいな顔で勝又の話を聞いてるけど、「盗み」を
「暴力沙汰」に置き換えたら、こいつも、とっくの昔に監督クビになってないとおかしいのではないだろうか?
それはさておき、いよいよ県大会がスタートする。
例によって、試合の描写はすごくあっさりしていて、あっという間に三回戦まで終わってしまう。
平山の超高校級のプレーが冴え渡り、三つとも快勝であった。

勝利を喜んで嬉しそうに手を叩く清美が可愛いのである!

まだ戦いはこれからだが、その夜、滝沢のアパートでささやかな祝勝会&慰労会が開かれる。
ま、それはいいのだが、そんな場にも光男や圭子、そして大木の姿まであるのが相当不自然である。

部員「俺たちのチームワークに敵はない!」
栗原「先輩、これでも俺たちのチームワークになんか文句ありますか?」
大木「ない! 全然ない」
栗原「でしょー」
大木「ないから、やばいんだよなぁ」
大木の言葉に、部員たちが怪訝な顔で振り返る。

滝沢「いや、大木が言いたいのはな、順調な時ほど落とし穴には気をつけろって言うことなんだ」
治男「まーまー、今日は先生も野暮な説教はなし!」 滝沢「……」
そうしたり顔で言う治男が、
なんかムカつく顔してたので、
「いっぺん、槍が一杯生えてる落とし穴に落としたろか?」と思う滝沢であった。
そこへ大きな皿に盛ったオードブルを節子さんが持ってきたので(註1)部員たちは大木の意味ありげな言葉などたちまち忘れて盛り上がる。
(註1・どうせなら、皿に盛られたオールヌードの節子さんを食べ……いえ、なんでもありません!)

光男「圭子、俺が作ったフランス料理だぜ?」
圭子「あ、ごっめーん、私、あなたが触ったもの口にしたくないから、要らない」 光男「……」
……嘘である。

圭子「あ、ちょっと待って……そう、そこをチョーンと曲げて」
ゆかり「お姉ちゃん、出来たーっ!」
圭子は、つきっきりでゆかりに鶴の折り方を教えてやっていたのだ。
ようやく一羽完成させたゆかりは、ほっぺを真っ赤にして父親に見せに行き、自分の鶴も花園ラグビー場に持って行って貰うんだと大ハシャギであった。
と、ひとりだけ、料理には目もくれず、玄関先に座り込んでシューズを磨いている貧乏そうな顔の部員がいた。元相撲部で、
部員が少ないからと相撲部をポイと見捨てて、人気上昇中のラグビーに転向した矢木である。
こう書くと、まるで矢木が
腐れ外道のように聞こえるかもしれないが、それは誤解である(じゃあ書くなよ)。

滝沢「また、スパイクの手入れか」
矢木「あ、先生」
大木「しかし、まぁ、お前の靴はいつ見てもぼろっちいなぁ」
光男「給料出たばっかりだから、俺と大木でなんとかしてやろうか?」 見兼ねて、光男が
恩着せがましく上から目線で新しいスパイクを買ってやろうかと申し出るが、
矢木「いえ、これはお袋がパートで働いて買ってくれたんですよ」
大木「へー、お袋さん、なにやってるんだ?」
矢木「出会い系のサクラです」
大木「……」
じゃなくて、
矢木「2年も履いてるし、ぼろでも俺の足には最高にぴったりと来るんですよ」
大木「だけどよぉ、(実力的に)試合に出れる可能性はねえぞ」

矢木「ええ、でも、いつ出番が回ってくるか分かりませんし」
矢木、あくまで朗らかにシューズを磨き続ける。
滝沢は、そんな矢木のような縁の下の力持ち的選手がいてこそ川浜の快進撃も可能なのだと、改めてその後ろ姿を温かく見詰めるのだった。
だが、そのスパイクが、後にラグビー部を崩壊寸前まで追い込むことになろうとは、神ならぬ滝沢には知る由もなかったのである!
……それにしても、そんな小汚いスパイクの紛失事件(後述)じゃあ、燃えないよね。これが清美のパンティー紛失事件とかだったら俄然やる気も湧くのだが。
そして迎えた準々決勝、司令塔の平山は相手チームの集中攻撃の的となり、一回戦からのダメージも蓄積していて、満身創痍の状態となる。その為、格下の相手に大苦戦し、試合終了間際に同点に追いつかれそうになる。

内田「同点だと抽選なんですよねえ」
岩佐「あー、じゃあくじ運の強い校長の私が引きましょう」
内田「いやいや、そう言う訳には行かないでしょう」
岩佐「じゃあうちの学校が負けるって……」
内田と岩佐が顔を見合わせてフガフガ言っている。その前にいる三人組は、例の、平山の親衛隊気取りのファンである。
ちなみにこの左端の女の子は、「スケバン刑事」に出てきた、三人組の刺客転校生のひとりだよね。
そして残り時間4分のところで、遂に平山がプレー続行不可能となる。
滝沢は既に心に決めていたのだろう、迷わずその交代選手に、矢木を指名する。
そして、プレー再開早々、矢木は見事にトライを決める。滝沢の起用がまぐれ当たりしたのだ(註・まぐれじゃないです)。

その後も立て続けにトライを決める矢木の活躍に、川浜のベンチも観客席も沸き立つ。
だが、平山の代わりに入ったブサメンに目立たれて、親衛隊の女の子たちは膨れっ面を並べ、当の平山も、不愉快そうにグラウンドを見詰めていた。
結局終わってみれば試合は20対8の快勝で、控え室に引き揚げた矢木はまだ興奮が収まらず、有頂天ではしゃぎまくる。
だが、仲間の
「好楽さんの座布団、全部取っちゃいなさい!」と言う一言が余計だった。
……間違えました。
「レギュラーの座を取っちゃえよ!」と言う一言が余計だった。

矢木「あ、先輩、腕の怪我はどうですか?」
平山「……」
やがて平山が入ってくる。矢木はすぐに声を掛けて負傷した腕に手をやろうとするが、平山は無言でその手を振り払う。勢い余って、矢木の大切なスパイクが部屋の隅に叩き付けられる。

そして物凄い目付きで矢木をねめつける平山。
当然、矢木も面白くなく、同じ2年生も平山に対して敵意のこもった視線を向ける。
平山、ノーマークだった矢木に自分のポジションを奪われるのではないかと苛立っているのだ。

おまけにその後、滝沢から準決勝には出るなと言われてしまう。
滝沢「医者の話だと、
無理をすれば靭帯が切れる可能性があるそうだ。だから準決勝のスタンドオフは矢木で行く」
平山「だったら試合の前にあらかじめ靭帯を切ります!」 滝沢「そうか、その手があったか!」 清美(こいつらアホや……)
嘘である。
平山「大丈夫です。出して下さい!」
滝沢「駄目だ」
平山「先生!」
平山はなおも懸命に訴えるが、あくまで滝沢の答えは「ノー」であった。

荒々しく部室から出てきた平山を、廊下にいた矢木が引き止める。
矢木「平山さん、待って下さい、先生、次は平山さんでお願いします」
平山「矢木ぃ、良いカッコするな! お前だってほんとは試合に出たいんだろう?」
矢木「……」
平山に図星を指されたのか、矢木も思わず絶句する。

平山「だがな矢木、2年生のお前にそう簡単にポジションは渡さんからな!」
平山、喧嘩腰で叩きつけるように叫んで去って行く。
ところでレビュー書いてて気付いたけど、彼らが話しているのは廊下の筈なのに、平山が叫ぶシーンではその背後に部室のロッカーが映っている。編集ミスだろうね。
滝沢は、節子さんにその一件を話しつつ、その程度のことでチームワークが壊れることはない筈だと確信していた。

果たして、準決勝当日、部室でみんなが支度をしていると、平山がつと矢木の前に歩み寄り、
平山「矢木、じゃあ今日は俺の分まで頼むぞ!」
矢木「平山さん!」
二人はがっちり手を握り、これで一件落着……の筈だったが。

清美と明子が、選手たちのバッグ(自分の荷物くらい自分で運ばんかコラ)を体のいたるところにぶら下げてちょっと可愛くなりながら、運んでいると、

例のお騒がせ三人組が話しかけてくる。
女の子「ちょっと頼みがあんだけどさ」
女の子「平山君に、これ、渡して貰えないかな」
女の子「平山君、派手なプレゼント受け取らないでしょ?」
女の子「ついでの時でいいから平山君に渡してくれないかなぁ」
口々に言いながら彼女たちが出したのは、イラストとメッセージの書かれた心のこもった色紙であった。
こういう困ったプレゼントと言うのはなかなか捨てられず、50年後に平山が断捨離を行おうとした時に、晴れてゴミ箱行きとなる運命なのだ……。
さて、意気揚々と試合会場に乗り込んだ川浜であったが、ここで思い掛けないトラブルが起きる。

滝沢「なにっ、お前の小汚いスパイクがない?」
矢木「はい、いくら探しても見当たらないんです」
矢木のあの小汚いスパイクが紛失したと言うのだ。
ナレ「
それは大事件であった。ラガーマンにとって使い慣らした小汚いスパイクはもはや体の一部だからである」
芥川さん、視聴者から突っ込まれるのを覚悟で言い切る。
清美たちも、ちゃんと小汚いスパイクの入った小汚い袋を他の荷物と一緒にバスに積んだと言うのだが。
(註・「小汚い」と言う形容詞は、管理人からのサービスです)
しかし、探している時間はない。仕方なく、同じサイズの控え選手のスパイクを履いて、矢木はグラウンドに立つことになる。

そして視聴者を惑わすような、意味ありげで実は意味のなかった平山のアップ。
試合が始まるが、借り物のシューズで走る矢木はいかにも窮屈そうで、プレーも精彩を欠いていた。

控え選手「ハーフタイムの時見たらよぉ、すっげえ血豆だったぜ、あいつ」
控え選手「いてえだろうなぁ」
平山「なんだ、血豆ぐらい!」
控え選手たちがベンチで矢木のことを気遣うが、平山は激しい口調で突き放す。

で、その言葉に、全員が一斉に平山の顔を見るのが、妙に可笑しい管理人であった。
やはり、矢木にポジションを奪われた形になっているのがよほど悔しいのかと、滝沢は気にかかる。

控え選手たちも、平山のあまりの言いように、露骨に不満そうな顔になり、この前の対立が再燃しそうな雰囲気であった。
ま、それはそれとして、大柄な選手たちと並ぶとより小さく見える清美が可愛いのである!
試合の方はなんとか勝つが、滝沢はチーム内に生じ始めた亀裂に危惧を抱く。なお、決勝戦の相手は宿敵・相模一高と決まる。
決勝戦を間近に控えたある日、滝沢は全員を部室に集めて、改めてこの問題について話し合う。何故か、オブザーバー然として、大木の姿もあった。
……お前、ほんとに仕事してるのか? とっくの昔に暴力沙汰を起こしてクビになってるんじゃあるまいな?

滝沢「決勝の前に、俺は何としても矢木のスパイクを取り戻したい。矢木、お前ほんとに取った奴に心当たりないのか?」
矢木「はい」
治男「じゃあ、やっぱり一般生徒の仕業だ」
明子「でも、みんなラグビー部を応援してくれてるのよ? そんな悪戯するわけがないわ」
清美「ちょっと、だったら犯人は部員のひとりってことになるじゃない!」 清美、可愛らしい声で、みんなが思っていても口には出せなかった可能性を口にしてしまう。
無論、ほとんどの部員たちは反射的にその疑念を打ち消すが、

二宮「いるかもしれねえよな」
滝沢「おい、二宮、今なんて言った?」
二宮「矢木が活躍したもんで、ひがんでいる人のことです」
滝沢「お前、ひょっとして、平山のこと言ってるのか? 平山はそんな卑劣な男じゃない!」
二宮の言葉に、平山が物凄い目付きになる。
が、平山の矢木に対する態度に反感を抱いていた下級生たちは、二宮の尻馬に乗って「平山犯人説」を主張する。

平山「なんだとぉー、俺はそんな……」
治男「お前らキャプテンになんてこと言うんだ?」
栗原「俺だって見たんだからな、お前らこないだ何て言ってた?」
栗原も、試合後に彼らが冗談交じりに口にしていた「レギュラーの座を取っちゃえ」的な台詞のことを持ち出して逆襲する。
さらに、下級生の不遜な態度に怒った治男が相手を突き飛ばしたことから、小競り合いになり、

平山が、思わず矢木の頬桁を殴り飛ばしてしまう。
矢木「ちくしょう、やりやがったなぁ!」

矢木も怒りの形相で、平山にぶち当たっていく。
それがきっかけとなって、平山たち3年生と、矢木たち1、2年生の大乱闘に発展してしまう。
目の前で殴り合いを見ても、眉ひとつ動かさず、乱闘にも何のリアクションも見せない大木が、いかにも喧嘩慣れしているようで妙にカッコイイのです。
元スケバンの清美たちも、ごっつい部員たちの乱闘を前にしては部屋の隅に固まって「もうやめてーっ!」と、悲鳴のような叫び声を上げることしか出来ない。
そのうち、壁にかけてあった未完成の千羽鶴が床に落ち、部員たちの足で踏みつけられてしまう。

清美「あっ、鶴が!」

清美と明子が、泣きべそかきながら折り鶴を拾い集めようとしたところで、漸く大木が立ち上がり、木の椅子でテーブルをガンガン叩くと、
大木「てめえら、いい加減にしろーっ!」 その一声で、全員を黙らせてしまう。
ここで、一瞬静まり返った後、またみんなが乱闘を始めたら割と笑えたと思うのだが、みんなも大木の顔を立てて一旦落ち着く。

大木「なんだよ、このざまは? 俺がいた頃のチームは、お前らより弱かったもかも知れねえよ、だけどな、こんな醜い争いはしやしなかったぞ!」
床に落ちた折り鶴を拾い上げ、嘆かわしげに叫ぶ大木。
……
さて、ここで親切な管理人が、第16話のある場面を大木くんに思い出させて上げましょう。部員が、テストを乗り切る為に、新楽の2階で集団学習していた時のこと、

高杉「だって、そうでしょう、みんなが協力してくれるから勉強はどんどん捗ってる。これなら平均70点も夢じゃありませんよ。だけど大木がいたら……」

光男「お前ら、大木を切れって言うのか」
高杉「部全体の為ならそれも止む得ないんじゃ……」
(中略)

大木「高杉、栗原、お前ら、俺がラグビー部のお荷物だってんだなぁ?」
栗原「いや、そんな」
大木「てめえ、勉強がトップだからってなぁ、でけえツラすんじゃねえよ!」
激怒した大木は栗原たちをボコボコにしてそこを飛び出し、ラグビー部もやめると言い出すのでした。
……
きっちり(醜い争い)
してるじゃねえか!! ま、そんな昔のことはスタッフも大木も滝沢も視聴者もすっかり忘れているので特に問題はない。

大木「だから俺はくどいほど言ったんだ、チームワーク、チームワークって! これでもチームワークあるって言えるのかよ!」
怒ると言うよりむしろ悲しげな大木の問い掛けに、部員たちも肩で息をしながら、暗い面持ちで立ち尽くす。

それはさておき、潰れた折り鶴を抱いて、しゃくりあげて泣いている清美と明子の、主に清美が可愛いのである!
ここまでは大木の言動は非の打ち所のないカッコよさであったが、
大木「矢木の靴取ったの、どいつだ? さっさと出て来い、俺がタダじゃおかねえ!」 自分まで、部員の一人が犯人だと決め付けたように怒号してしまうのが、マイナス100億点であった。
ここは、
「お前ら、そんなにチームメイトが信じられないのかよぉ? そんなに部員の中から犯人を出したいのかよぉ」あたりが妥当だったと思われる。
もっとも、そこまで完璧だと、滝沢の仕事がなくなっちゃうんだけどね。
滝沢「大木、誰も名乗り出る筈はない。俺はこの中に犯人はいない、そう信じてる」
大木「先生」
滝沢「万一いるとしたら、その部員に言いたい。(中略)名乗り出なくて良い、そっとどこかに置いて返しておいてくれ、頼む!」
もっとも、そう言う滝沢にしても、「結局部員の中にいると思ってんじゃねえか!」と突っ込みたくなるような情けない台詞を吐くのだった。
無論、元々犯人は別にいるのだから、いくら滝沢が訴えたところで、矢木のスパイクが戻ってくる筈もない。
ある日、滝沢がグラウンドに下りると、3年生と下級生たちが全然別の練習をしているのに気付く。

滝沢「どうして1、2年生をランパスに加えないんだ?」
平山「言っても無駄ですよ、あいつらもう俺のことをキャプテンなんて思ってませんから」
滝沢の問いに、平山は醒めた目で、自嘲気味に答える。
決勝戦を目前にして、チームは空中分解同然の状態であった。こればかりは、いくら滝沢が怒鳴りつけたところでどうなるものではない。滝沢の心は、絶望に押し潰されそうになる。
ところが、犯人の正体が意外な形で判明する。グラウンドにやってきた内田が、この前の試合の時、バスの中から平山の親衛隊の女の子が出て来たのを目撃したと言うのだ。
内田「スパイクを持っていたかどうかまでは見ておりませんがね、あの子たちは平山のファンでしょう。だから平山に同情して、矢木が憎くってやったに違いありません」
その後、彼らの会話を聞いていた岩佐校長が、校長室にあの三人と滝沢を呼びつけ、滝沢に彼らを白状させようとする。ところが意外にも、滝沢は三人に何の質問もせず、あっさり帰らせてしまう。
これには、滝沢への親切心でこの場をセッティングした岩佐も、目を白黒させる。

岩佐「どうして調べないんだ? 犯人はあの子たちに決まってるじゃないか」
滝沢「かもしれません。しかしそうだという確証は何一つありません」
岩佐「だか、だから、だからこそどうして調べないんだ?」

滝沢「しかし、万が一、あの子たちの仕業でなかったとしたらどうなります? 疑われたと言うそのことだけで、あの子たちの心は深い傷を負います。軽々しく疑われただけで人がどんなに傷つくか、僕はイヤって言うほど見ました。平山も、矢木も……もし仮にあの子たちが犯人だとしてももう少し待ってやりたいんです。あの子たちの心を信じて」
岩佐「君は刑事にはなれんねえ」 山下真司さんに対し、なかなかシャレの利いた台詞を言い放つ岩佐校長であった。

滝沢「節子、俺はもし犯人がラグビー部員だったら、監督、辞めるよ」
節子「あなた」
滝沢「俺は今になって、初めて勝又監督の気持ちが分かるような気がする。お互い疑心暗鬼になってる選手たちを率いて、どうして勝てるだろう。たとえ優勝できたとしても、それでどんな誇りが持てるってんだ?」
滝沢の脳裏に、圭子や清美、明子、そしてゆかりまでが一生懸命折っている千羽鶴が、ばらばらに千切れて落ちていく不吉な映像が浮かぶ。
ところが、その翌日、

最初に部室に入ってきた平山が、椅子の上に置いてあるスパイクの袋に気付く。
慌てて袋から取り出してみると、紛れもなく矢木のスパイクであった。
平山「矢木のだ!」

と、絶妙のタイミングで、滝沢以下、部員たちがどやどやと部室に入ってくる。
平山(やべえ……)
突如訪れた人生最大のピンチに、さすが冷静沈着な平山も、背筋を冷たい汗が一筋流れ落ちるのを感じる。

そして、その現場に遭遇した部員たちの目には、狼狽し切った平山の額に、
(そうでーす、私がスパイクを盗んだ犯人どぇーす!)と、マジックででかでかと書いてあるように見えたのも、致し方のないことだった。
まぁ、昔の時代劇などで、殺人現場の第一発見者となった大工の留吉(仮名)が、死体のそばに落ちていた凶器を手にした瞬間、続いて通り掛かった人たちにそれを目撃されて殺人犯にされてしまうと言うのと、ほぼ同じパターンである。
(追記・そう言えば、ナチスジャガーこと勝又も、「快傑ズバット」第16話で、似たような方法で早川を罪に陥れていたな)

矢木「あっ、俺の靴だ」
平山「おい、勘違いするな、俺は……ひじの具合が良いんで、練習しようと思って来たら、そこんとこにあったんだ」
二宮「ちょうど返そうとしてたところなんじゃないんですか?」
平山「ち、違う、俺は……」
しどろもどろに弁解する平山、救いを求めるように滝沢の顔を見るが、
ナレ「滝沢は平山を信じた。だが、咄嗟に弁護すべき言葉が浮かばなかった」 滝沢、使えねーなー! 大木もだけど、滝沢も、教師になってから5年以上経つのに、人間として教師としてまるで成長してないように見える。と言うか、むしろ
退化してないか?
序盤の、不良たちを相手に奮闘していた時の方が絶対頼もしく見えるもの。

で、ラグビー部員たちは全員、時代劇の通行人と大して変わらない頭の持ち主なので、
栗原「平山、見損なったぞ。俺もお前が現にそのスパイクを持ってるのを、今見たぞ」
治男「顔も見たくねえや」 それまで平山派だった3年生まで、一瞬で平山に三行半をつきつける事態となる。

だが、ここであの女の子たちが飛び込んできて、スパイクを盗んだのは自分たちだと白状する。
滝沢「君たちが?」
女の子「先生、何もかも話すよ」
実は、明子にあの色紙を渡した後、明子がバスに乗る前にそれを落としてしまい、しかも気付かずに踏み付けてしまっていたのだ。

三人はすぐそれを拾い上げると清美たちの目から隠し、その仕返しの為に選手の道具を盗んで、マネージャーの責任問題にしてやろうと考えたのだ。
つまり、彼らが矢木のスパイクを盗んだのは偶然であって、別に誰の持ち物を持って行っても構わなかった訳なのだ。

そして彼らがスパイクを返す気になったのは、昨日、校長室の外で滝沢たちの会話を盗み聞きして、滝沢の最後の言葉に感動してのことだった。

女の子「先生の言葉が胸に沁みちゃって……」
滝沢(……俺、なんて言ったんだっけ?) 三人は謝りながら泣き出してしまう。
疑いが晴れたので、二宮たちはすぐ平山に謝罪し、代わりに女の子たちに怒りの矛先を向ける。

そんな最中、大木がふらーっと部室に顔を覗かせるのが、いかにも自然な感じで演出されているのが、さすが大映ドラマのスタッフの、熟練の仕事ぶりであった。
「大木ぃ、お前ほんとに仕事してんのか?」と、視聴者に思われたら負けだからである。

明子「やめて、忙しくて寄せ書きのことなんか忘れてたあたいたちのせいだよ」
清美「殴るんならあたいたちを殴ってよ」
今度は清美たちが前に出て、自分たちのせいだと言って、三人を庇いはじめる。
平山「いや、悪かったのは俺だ。考えてみれば俺は一生懸命やってくれた矢木に、よくやったの一言もかけていない、そんな俺の心の狭さが原因なんだ!」
矢木「先輩、それは違う。俺だってろくなプレーも出来ないくせに、良い気になり過ぎてました」
平山「何も言うな! これからも俺に万一のことがあったら、後は頼むぞ」
続いて、平山と矢木が互いに非を認め、がっちりと手を握り合う。

大木「なんだよ、これは、心配で千葉から駆けつけてみりゃ、お前ら謝りゴッコかよ? 帰んな」
例によって、誰にも真似できない絶妙のタイミングで、あえて軽い感じで割って入る大木であった。
そして、泣きじゃくっている女の子たちの肩を叩き、下がらせる。

大木「だけどよ、今度のごたごたの責任は誰かにあるに違いねえんだ、そいつは誰だ?」
部外者なのに、あっという間にその場を仕切ってしまうあたりも、さすがの風格である。
もっとも、会社に戻れば、「また休みやがったなテメエ」と、上司からギロリングされて小さくなっていたと思われるが……。

滝沢「それは……俺だ」
大木「先生」
大木の言わずもがなの問い掛けに、滝沢は厳しい表情で答える。
ところで、管理人、かつてHP版レビューの同じシーンで、
滝沢「それは……お前だ!」
大木「ええーっ? 俺ぇ?」
と言うようなうギャグを書いてひとり悦に入っていたことを甘辛く思い出す。
滝沢「俺は普段から、チームワーク、チームワークってお前たちに言って来た、だが、監督の俺が本当の意味でのチームワークをお前たちに伝えてやることが出来なかった。それが原因だと思う」

滝沢「俺たちは基本的にはバラバラだ、しかし、バラバラでもこうやって手を繋いでいると、お互いの手からジンジン伝わってくる何かがあるだろう、ひとつくらいは共感できる糸が一本あるんだ。それは俺たちにとってはラグビーだ。ラグビーを愛する心だ。(中略)お互いに欠点があっても、信じ抜く。心をひとつにやって行こう!」
滝沢は平山と矢木の手を握りながら、いつもの感動的な説教をかまし、こうしてラグビー部に訪れた空中分解の危機はぎりぎりのところで防がれたのである。
ドラマでは、こうして何のしこりもなく人間関係も回復してしまうのだが、実際には、
平山「ところで、さっき、『顔も見たくねえや』とか言ってた奴いなかった?」 治男(ギクッ!)
なんてことになって、まったく元のままには戻れないと言うのが人間関係の微妙なところなんだろうなぁ。
そんなこんなでいよいよ決勝戦となるが、負傷の癒えた平山、そしてスタメンに抜擢された矢木のいる川浜にとって、勝又のいない相模一高など、もはや単なるザコに過ぎなかった。

川浜の得点に、手を叩いて喜ぶ清美が可愛いのである! ……あ、さっきも書いたか。
終わってみれば68対12の圧勝で、かつて109対0の大敗を喫した相手とは思えないスコアだった。
滝沢は喜びを噛み締めつつ、勝又率いる相模一高と戦えなかった寂しさも感じていた。

試合の後、滝沢は観客席に一人残っていた勝又に話し掛ける。
勝又「縁が切れたとはいえ、手塩にかけた選手たちが負けるのを見るのはつらいもんですねえ」
滝沢「勝又さんが監督をなさっていたら、うちが負けたかもしれませんよ」
目を赤くしている勝又に、滝沢が
心にもないお世辞を並べる。
勝又「いや、そんなことは……川浜高校は県代表にふさわしい立派なチームです」
滝沢「学校も辞められて郷里に帰られるって聞きましたが、どうなさるんですか」

勝又「私の家は青森でりんご園をやってますから……、青森でりんご園やりながら、子供たちとナチス連合会を結成して、手始めに弘前市を征服します!」

滝沢「頑張って下さい!」
勝又(人の話聞いてねえな、コイツ……) くどいようですが、

勝又はかつてナチスジャガーとして極悪の限りを尽くしていたのです。
じゃなくて、

勝又「私の家は青森でりんご園をやってますから……、青森でりんご園やりながら、子供たちにラグビーを教えます」

滝沢「頑張って下さい!」
勝又「全国優勝の夢は遂に私も果たせなかった。花園でその夢を叶えてください」
滝沢「勝又さん!」
敵味方に分かれながら同じラガーマンとして互いに尊敬し、切磋琢磨してきた二人は、最後にがっちりと握手を交わすのだった。

ラスト、滝沢と部員たちが優勝旗を捧げて、誇らしげに学校に帰ってくる。
それにしても、清美と治男の顔が並んでいるのを見ると、とても同じ種の生き物とは思えない。

例によって、暇で暇でしょうがない三人組も拍手で出迎える。どう見ても全員無職にしか見えん。

岩佐「よくやった」
女の子「私たちも徹夜で作ったんだ。先生、花園に行く時、持ってって下さい」
滝沢「ありがとう!」
校長に報告していると、あの親衛隊の女の子たちも自分たちで折った千羽鶴を渡してくれる。
滝沢、改めて選手たちに「最終目標は全国優勝だ!」とカツを入れてから、応援してくれた人たちに深々と頭を下げる。

なお、今回は経費節減の為か、甘利先生たちお馴染みのメンバーが誰もおらず、初めて見るような顔が教師として並んでいるのだった。
そして彼らをパンして映したカメラは、「分かってます」と言わんばかりに、

最後はきっちり節子さんの美しいお顔にズームインするのでした。
もっと簡単に済ますつもりだったのに、結局いつもと同じくらいのボリュームになってしまった。
ああ、疲れた。
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