第47話「あなたはだぁれ?」(1968年8月25日)
マンモス団地の一角で起きた、傍目から見たらなんてことはない小さな事件が、やがて異星人による団地のっとり、そして地球侵略計画に繋がると言うSFマインド溢れるエピソード。
冒頭、深夜2時のふくろう団地と言う一見変哲のないマンモス団地にタクシーで帰ってきた、いい塩梅に酔いの回ったサラリーマン風の中年男性、佐藤。
演じるのは、「ウルトラマン」のムラマツキャップこと、名優・小林昭二さん。
ややおぼつかない足取りだったが、泥酔と言うほどではなく、建物の壁にでかでかと記された5-1と言うマークを確かめてから、その棟に入り、自分の部屋の前までやってくる。

佐藤「ママ、あけとくれ。オープン・ザ・ドア!」
妻「……」
佐藤「ただいま、ほらぁ」
妻「どちらさまです?」
ドアが開き、見慣れた妻が現われる。佐藤は、正統派酔っ払いのマストアイテム、紐でくくった謎の折り詰めを不機嫌そうな妻の鼻先にぶら下げるが、妻の反応は不機嫌を通り越して、氷のようによそよそしかった。
佐藤「なんだと?」
部屋の中から、なにやら銃撃戦のようなけたたましい騒音が聞こえるが、これは家族が見ているテレビから流れているらしい。
と、母親の後ろからおずおずと息子の一郎が顔を出すが、

佐藤「よー、一郎、ママはな、パパの顔、忘れちまったらしいよ」
一郎「どこのおじさん?」

佐藤「はっはっはっはっ」
妻「部屋を間違えたんじゃありませんか」
佐藤「あっそう、そんなつもり? たまに遅く帰ったからってそんなこと言うのか、ようし、わかった。一郎、パパ行っちゃうからな」
佐藤、てっきり妻と息子が示し合わせて、帰宅の遅くなった自分にいやがらせをしているのだと思い、その場で回れ右して、気を引くように階段を数歩降りて見せるが、妻はこともあろうにそのままドアをばたんと閉めてしまう。
佐藤、慌てて戻ってきてドアを叩く。すっかり酔いが醒めたような真剣な顔になっている。
佐藤「ばきやろう! 冗談もいい加減にしろよ!」
だが、妻は覗き窓から佐藤を一瞥しただけで、開けてくれる気配が全くない。
後に分かることだが、彼らは昼間は団地の地下に住んでいるフック星人が、深夜になってから団地ごと入れ替わったニセの妻子だったのだ。
と言うことは、その部屋にはニセの佐藤もいた筈なのだが、その存在については全く言及されない。
もっとも、彼らが頑なに部屋に入れようとしなかったのは、ニセの佐藤と本物の佐藤を会わせたくなかったからなのかも知れない。
ただ、深夜になってから家人が帰ってくるなんてことは、無数の家族が住むマンモス団地なら毎日のように見られることで、フック星人がその対応策を用意していなかったというのは手抜かりのように思える。
たとえば、入れ替わる時間帯になっても帰ってこない家族がいる部屋では入れ替えを中止するとかね。

弱った佐藤、向かいの部屋の奥さんに口を利いて貰おうとするが、その奥さん(大山デブコ)も、無表情な緒で「どなた?」と、佐藤の目を見ようともしない。

佐藤「どうも女房の様子がおかしいんですよ、隣も、ねえ、なんとかしてくださいよ」
警官「あんた、だれ?」
佐藤「誰ってお巡りさん……佐藤ですよ、5の1の」
佐藤、ならばと団地の前にある交番に駆け込み、顔見知りの筈の警官に相談するが、警官も佐藤と目を合わせようとせず、佐藤のことなど知らぬ存ぜぬの一点張り。
佐藤、ガシガシ髪の毛を掻いていると、いつの間にか交番の前に自治員の林さんや自分の妻が立っていた。

佐藤「ね、林さん、あんたなら私のこと良くご存知でしょ?」
林「知らんねえ」
佐藤「自治員のあんたが知らない訳がない!」

佐藤「敏江、俺だ。知らない訳ないだろう?」
妻「……」
言い忘れていたが、佐藤の妻を演じているのは三條美紀さん。

警官「あんたね、この人がほんとに自分の奥さんなのかどうか、良く見てごらん、他人の空似と言うこともあるからね」
佐藤「……」
警官に噛んで含めるように言われて、佐藤、財布に入れていた自分と妻のツーショット写真(欧米か!)と、目の前にいる妻としか思えない女性の顔をしげしげと見比べる。
ちなみにこのシーン、役者たちの背後の道を、割と普通に人が通ってるんだよね。
まぁ、実際の団地で撮っているのだから、人の出入りがあって当然なのだが、最後に左側から来た人影は、通り過ぎる途中でカメラに気付いて、慌てた様子で来た方へ引き返している。ミニスカを履いた女性のようでもあり、半ズボンの子供のようでもあるが、良く分からない。
佐藤「似てるけど、違うようでもあるし……」
警官「だろう、そう思うってことは違うってことだよ、な?」
警官に繰り返し言われると、佐藤もだんだん自信がなくなってきて、半ば強引に納得させられてしまう。

道端に放置されていた三輪車に腰を下ろし、「考える人」よろしく、改めて自分の行動を振り返る佐藤。
佐藤(交番のところでタクシーを降りた。お巡りさんに挨拶をして……間違いない、俺は確かに自分のうちに帰った)
三輪車から立ち上がって歩き出した佐藤、不意に、怪しい人影がそこかしこから自分のことを窺っている気配に気付く。
ちょうどその時、その地区から発せられた怪音波を調べに来たホーク1号が、団地上空を飛び去っていくのが佐藤の目に映った。
佐藤「ウルトラホーク、そうだ!」

フルハシ「はい、こちらウルトラ警備隊」
佐藤「あの、深夜劇場やってるテレビ局、ありますでしょうか」
フルハシ「ええーっ、今何時だと思ってるんだい?」
で、その佐藤が窮余の一策として団地の公衆電話からウルトラ警備隊に電話して、それに出たのが「ウルトラマン」でも共演していた毒蝮さんのフルハシであった。
ちなみに当時は、2時や3時にはテレビは放送されてなかったのだろう。

佐藤「ところが、ここの団地でやってるんですよ、テレビ」
フルハシ「場所は何処ですか」
佐藤「K地区のふくろう団地、あのね、先ほどうちに帰ってみますとね、女房や子供、それに近所の人までが私のこと知らんと言うんですよ」
フルハシ「ここはウルトラ警備隊だよ、家庭のいざこざは……宇宙人や円盤が出たら知らせて下さい」
佐藤「はぁ……そうだ、あれは宇宙人だ!」

佐藤がそう叫んだ瞬間、不気味な声が背後で上がり、佐藤がハッとして振り向くと、いつの間にかそこには三人の宇宙人が至近距離で立っていた。
佐藤「はぁーーーっ!」 不可解な現象に振り回されてすっかり神経をすり減らしてた佐藤の精神は、そこで限界を迎える。
フック星人、気絶した佐藤に代わり、受話器を置く。
フルハシ「ちくしょう、切りやがった。宇宙人だーっ、だってさ」
フルハシは当然、酔っ払いのタワゴトか悪戯だと決め付けて、調べようともしない。
だが、すぐに録音された会話テープを再生したダンは、その中にさきほどの怪音波と同じ奇妙な音が紛れ込んでいるのに気付く。

フルハシ「おいおい、まさか調査に行くつもりじゃないだろうな」
ダン「入った情報は目で確かめる。そうでしたね?」
キリヤマ「え、そうなの?」 ダン「……」
じゃなくて、
キリヤマ「うん、それに気になるものを放っては体にも悪い。な、フルハシ」
フルハシ「えーっ」
と言う訳で、結局フルハシもダンに付き合わされてふくろう団地へ本格的な調査に赴く羽目になる。

同じような建物が無数に並ぶふくろう団地。
いかにも60年代、70年代らしい風景である。
上原さんとしては、全く同じ部屋で埋め尽くされた建物が林立する無機質な都会のジャングルの中で、家族から自分のアイデンティティーを否定された男が、物理的にはひとつの町ほどの人口がひしめき合う空間なのに、誰ひとり頼れるものもなく、行き場を失って彷徨するしかない、現代人の孤独……みたいなものを描きたかったのではないかと思うが、それが感じられるのはあくまで序盤だけであって、ウルトラ警備隊が乗り出してからは、単なる異星人侵略者モノと大差のない内容になってしまうのが惜しい。

それはさておき、交番のところであのテープを聞かされた佐藤の妻や向かいの奥さんたちは、即座にそれが佐藤の声であることを認める。
さっきとはまるで別人のような態度であったが、夜が明ける前にニセモノは地下に潜み、本物が再び地上に戻っているので、彼らは紛れもなく本物の住人なのであり、態度が違うのは当たり前のことなのである。

彼らは一塊になって、佐藤が使ったと思われる近未来的なデザインの公衆電話のところへ行く。
妻も警官も、昨夜は佐藤の帰ったのを見ていないと証言し、ここで佐藤の通話の内容と矛盾が生まれる。
妻「あの、まさか、パパが蒸発しちゃうなんて」
フルハシ「奥さん、心配要りませんよ」
二人は一旦本部に引き揚げてキリヤマに報告し、その夜も団地で張り込みを行うことにする。
深夜1時30分、作業員の格好をした二人は、ふくろう団地の近くで新たに建設されているアパートの工事現場から、監視を始める。
と、ふくろう団地を凝視していたダンは、早くもある異変に気付く。
ダン「フルハシ隊員、あれを……団地が動いてるんでんすよ」
フルハシ「なんだって」

フルハシ、慌てて双眼鏡で見直す。

ダンは肉眼でも、団地が動いたり、地下に沈み込んで別の建物と入れ替わっている様子が手に取るように見えた。
だが、双眼鏡を覗いていたフルハシには「オイ、何も異常はないじゃないか」と、全く見えていなかった。

ダン(そうか、
バカには見えない仕掛けがしてあるんだ)
じゃなくて、
ダン(そうか、人間の目には見えない仕掛けがしてあるんだ)
と、頭上で怪獣の鳴き声のようなものが響いたかと思うと、工事中の建物の上階から、男が建材を落として二人を押し潰そうとする。
ダンが即座に撃ち返すと、男はそのまま地上へ転落し、フック星人の姿になってからパッと消える。

ついで、背後からミキサー車が突っ込んできたり、

数人の身軽な男たちに襲撃されたり、ウルトラシリーズと言うより仮面ライダーっぽいアクションシーンが展開する。
二人は彼らを撃退すると、ふくろう団地の中へ入り込む。

適当な部屋のドアの前からダンが透視してみると、内部は団地とは思えない殺風景な部屋で、若い男女がテーブルを挟んで何やら得体の知れない会話を交わしていた。

無論、それはフック星人の化けたニセの住人であった。

ダン「どうやらこの団地の住人は全部宇宙人になってしまったらしい」
フルハシ「まさかー、15000人もいるマンモス団地だぜ。それに昼間の団地は?」
ダン「団地全部がそっくり入れ替わったんですよ」
フルハシ「じゃあ、昼間の団地は」
ダン「たぶん……」
ダン、足元の地面を指差す。

ダンはあの怪音波を頼りに、地下への入り口を発見する。
このマンホールの蓋をフルハシがちゃんと専用の道具で持ち上げているのがリアルである。
まあ、本物のマンホールだから、そうやって開けるしかないんだけどね。

その下に広がる巨大な螺旋階段も、いかにもそれらしいところでロケをしていて雰囲気抜群である。
階段を降りて、がらんとした通路の窓からふと覗くと、

本物の団地が地下の空間に移されているのが見えた。
ダン「あの建物がいわゆる地球人団地ですよ」
フルハシ「地上とそっくりな世界を作り出したんだな」
ダン「いや、建物だけは本物で、風景の方はホログラフです」
フルハシ「ああ、レンズの要らない立体写真か」
二人はその場を離れながら、
ダン「建物を入れ替える時にもこれを張り巡らす。だから周囲から見ても分からない」
フルハシ「だが、団地の人間たちには分かるだろう。動くんだから」
ダン「恐らく催眠状態に」
フルハシ「でも、なんだって真夜中に地上に出るんだろう?」

ダンは、再びあの怪音波を頼りに、通路の壁がどんでん返しになっていて、その向こうに佐藤がチューブ状のケースの中に眠ったまま立っているのを発見する。
壁のボタンを触れると、すぐにチューブは天井へ上がって行き、佐藤も目を覚ます。
佐藤「ここは何処なんだ」
フルハシ「宇宙人に攫われてきたんですよ」
ダン、ムラマツ(おやっさん)、フルハシ(アラシ)と言う、魅惑のスリーショットが実現。

二人が佐藤を連れ出そうとすると、扉が回転して佐藤の妻が現われる。
佐藤「敏江!」
妻「ようこそ、お待ちしておりました」
ダン「この人は奥さんじゃない、宇宙人が変身してるんです」
佐藤「ええーっ、そうか、それであの夜……」

と、反対側の壁も回転して、林さんと警官が出てくる。
林「どうやら我々の計画に気付いたようだな」
ダン「何故真夜中に地上へ出るんだ」
妻「フック星人は夜しか活動しない。さあ、見なさい」
ここはどうせなら、ニセの佐藤も出して、佐藤がぽかんとする絵も欲しかったところだが……。

妻がそう言って壁を撫でると、壁の一部が二段式のモニターに切り替わる。
フルハシ「ちくしょう、夜な夜な侵略計画を進めていた訳だ」
下のモニターには、団地が移動して、そこへ円盤が着陸するシーン、上のモニターにはその円盤が地下の空間を飛ぶシーンが描かれる。
で、まあ、例によって彼らの目的は地球侵略と言う、ウルトラ警備隊とセブンに存在意義を与えてくれるワンパターンなものだった。
ここは、単に、フック星から地球に移住してみたかったんじゃー、と言うこじんまりした目的の方が面白かったのではないかと思う。
林さんは壁のドーム状のスピーカーに近付くと、「全隊員に告ぐ、攻撃態勢に入れ」と全軍に命令を発する。

それを聞いた(地下か団地の)フック星人、

クイズの早押し勝負でもしているかのように、勢い良く片手を上げる。
フック星人A「正解は……越後製菓!」
フック星人B「やかましいわっ!」
そしてあの螺旋階段を数人のフック星人が上がって行き、団地の部屋からは二人のフック星人が出てくる。
フック星人、マンモス団地をのっとった割にはあんまり人がいなさそうである。

妻「間もなく地球は私たちのもの」
フルハシ「畜生、そうはさせんぞ!」
地下からピンポン玉のように無数の宇宙船が溢れ出してくるのを見ながら、敏江が早くも勝利宣言。

妻「あーっはははははっ……」
高笑いを響かせながら壁を押して、向こう側へ移動し、

一瞬でフック星人の姿になって戻ってくる。

林さんと警官も笑いながら回転扉の向こうへ消え、フック星人となって現われる。
元敏江のフック星人は三人目掛けて右手から白いガスを噴射するが、ダンだけ変な飛び方でよける。
ガスを浴びたフルハシと佐藤は、その場で彫像のように固まってしまう。
ダンは躊躇することなくセブンに変身し、フルハシと佐藤を地上の安全な場所に横たえる。

そして、いつの間にか巨大化した三人のフック星人と、団地のそばの空き地で格闘する。
折角、精巧な団地のセットを作ったのに、それを壊さないと言うのは珍しい。
セブン、フック星人の幻術に苦しめられるが、

セブン「デュワーッ! デュッ!」
雄叫びを発して両手をクロスさせ、全身から雷のような閃光を放って、幻術を打ち破る。

セブン「ダーッ! デュッ!」
そしてひっくり返ったフック星人に向けて、ワイドショットの構えから三本に分かれたビームを浴びせ、

三人同時に消滅させてしまうのだった。
円盤軍団も、ウルトラホーク1号と3号によってあえなく全滅させられる。
ラスト、すっかり元通りになったふくろう団地に、佐藤がポインターで送られてくる。

佐藤「いやあ、お陰様で、やっと自分のうちに帰ることが出来ます」
キリヤマ「大丈夫ですか」
佐藤「ええ、もう」
今度は、科特隊、ウルトラ警備隊それぞれの隊長のツーショットが実現する。

意気揚々と階段を上がって、自分の部屋のチャイムを鳴らすが、
佐藤「あっ」
ドアを開けたのは、またしても見知らぬ女性であった。
主婦「あーら、お隣の佐藤さん」
佐藤「あーっ、しまった。こりゃどうも」
そう、今度はほんとに部屋を間違えてしまったというほのぼのしたオチになる。

アンヌ「あははははっ!」
慌てて自分の部屋に走っていく佐藤の姿を見ながら、大笑いしているキリヤマたち。
……と言う訳で、途中にも書いたが、滑り出しはミステリアスで大いに期待できたのだが、終わってみればあんまり面白くなかったという、竜頭蛇尾のエピソードであった。
さて、実に長い間にわたってお送りしてきた「ウルトラセブン」のレビュー、過去なんども終了宣言をしては読者の皆様のリクエストで再開すると言うことを繰り返してきましたが、いよいよこれでほんとの完結となります。
傑作選と銘打ちながら、結局、「遊星より愛をこめて」「海底基地を追え」「水中からの挑戦」以外すべてレビューしたことになります。初期のレビューにはいい加減なものもありますが、とにかく我ながら良く頑張ったと誉めてやりたい気持ちです。
ほんとは「遊星~」のレビューをしたかったのですが、手元にある素材が余りに劣悪なので、断念しました。
正直、もうどうでもいいんですが、自分が生きてる間に「遊星~」の封印が解けるのだろうかと言うお約束の疑問を提示しつつ、終わりたいと思います。
長い間のお付き合い、ありがとうございました。
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