第4話「ソクラテス大いに怒る」(1971年10月24日)
今日、4月29日は菊容子さんが24歳の若さで亡くなられた日である。
と言う訳で、彼女への哀悼の意を込めて、やや予定を早めて「魔女先生」のレビューを行いたいと思う。
ちなみに、今、ネットで彼女の個人データを見ていてギクッとした。と言うのは、ついさっき、「乳姉妹」のDVDをレビューの為にチェックしていたのだが、主人公たちの通う高校の名前が「聖和女子学院」であった。で、菊さんも、「聖和学院」と言う高校に通っていたと書いてあるではないか。
ま、単なる偶然なのだが……。
さて、今回紹介する第4話は、第3話に続き、市川森一氏によるシナリオ。
管理人的にはベスト10に入る力作である。

冒頭から、海岸沿いに聳え立つ、崩れかけた古城のような建物が、夜の闇の中に浮かんで見える。
折しもその一室では、哲学者ソクラテスの石膏像のような顔に、古代ギリシア人のような白い服を着た、エキセントリックな怪人が、巨大な回転ノコギリを操って、窓側の壁に縛り付けられた小太りの少年に迫りつつあった。
怪人「貴様の体を真っ二つにしてやる」

進「イヤだ、体を斬られるなんてイヤだ!」
その少年は、他ならぬひかるのクラスの生徒で、優等生の田辺進であった。

進「助けてーっ!」
怪人「ふっふっふっふっ」
怪人ソクラテスの声は、後にひかるの父親アンドロメダ帝王(堀田真三)の声を吹き替えする大宮悌二さん。
もっとも、それは進の見ていた夢に過ぎず、次のシーンでは一台の車が東西学園に横柄に乗り付けてくる現実世界が映し出される。
それは、準レギュラーと言っても良い、進の母親・田辺夫人(星美智子)であった。
ここで、田辺夫人の来訪が、用務員の山部→教頭→校長と言う順に伝えられるシーンとなるが、このドラマでは珍しく、完全に無駄なシーンとなっている。と言う訳で、レビューでもそこはすっ飛ばして、その次のひかるの授業風景に行こう。

ひかる「地球と言う星はとてもおかしな星で、こんな狭い陸地をいくつにも区切って、私はアメリカ人だ、私は日本人だと、色んな物事を国と言う単位で考える習慣がありますけど……」
社会科の地理の授業であったが、ひかるはアルファ星人らしく、宇宙規模のスケールで自由に生徒たちに話している。

ひかる「こんなに不便な区分けをしている星は宇宙の中でもこの地球だけで……」
生徒たちの姿が映し出される。
相変わらずハルコちゃんが可愛い……と言うことが言いたいのではなく、画面の右手前に映っている男の子、なんと、「仮面ライダー」の五郎役の三浦康晴さんではないか。
最初見たとき、てっきり彼もレギュラーか準レギュラーなのかと思ったのだが、単にここに映り込んでいるだけで、台詞は一切なかった。
時期にはまさに「仮面ライダー」に唯一のレギュラー子役として活躍している頃で、なんでそんな、いわばスター子役とも言うべき人が、ひょいと映り込んでしまったのか、謎である。
まぁ、推測を働かせれば、「仮面ライダー」と「魔女」は、どちらも生田スタジオで撮っていたのだから、当然、三浦氏もいて、教室のシーンの時、たまたま子役の数が足りなかったので体の空いていた三浦氏に座ってもらった……と言うことであろうか?
ひかる「たとえば、アルファ星ではアルファ星人、M87星雲のウルトラ星ではウルトラ星人と言うぐあいに、同じ星の人々は皆、兄弟同様に暮らしています、そこには国境のようなものはありませんし、勿論、国と国との戦争と言ったようなものもありません」
ひかる「だから、もしあなたが何処かの宇宙人に、あなたは何人ですかと聞かれたら、私は日本人です、と答えても相手には通じません。その時は、私は地球人ですと答えましょう」 子供たちが理解できたかどうかは疑問だが、宇宙の「先進星」の理想郷的な姿を引き合いに出して、「後進星」である地球の、国同士の醜い争いが絶えない姿こそが異常、少数派なのだと痛烈に批判した、いかにも市川さんらしい「演説」である。
子供たちにそんな「夢」を語った菊さんが亡くなって、はや半世紀近く経つが、地球はいまだに「後進星」のままである。地球が「先進星」の仲間入りをする日が来るのはいつのことだろう?
それはともかく、東映作品の台詞の中に「M87」とか「ウルトラ」とか言う言葉が出てくるのは、異例のことだよね。ウルトラ作品を多く手掛けてきた市川さんならではの台詞と言うべきか。さすがに「ウルトラマン」と言うそのものずばりのワードは出て来なかったけどね。

閑話休題、にこにこと授業をしていたひかる、ふと、進がこっくりこっくり舟を漕いでいるのに気付く。
ひかる「進君、地球人の人口は?」
進「はぁ?」
ひかる「居眠りしながらでは物は覚えられないわねえ、眠くならないで済むように立ってらっしゃい!」
ひかるは最初の頃は、なかなかのスパルタ教師なのだ。

その頃、校長室では、田辺夫人がひかるが宿題を出し過ぎると言って校長と教頭に抗議していた。
田辺夫人は、そのせいで徹夜続きになり、進が慢性的な睡眠不足になっていると訴える。
田辺「このままの状態が続いたら進は死んでしまいます。進にもしものことがあったら、その時は、校長先生と月先生を私、宿題殺人で訴えてやります!」
田辺夫人はそう叫ぶと、両手で顔を覆って嗚咽を漏らす。

校長「……とまぁ、私は脅かされたんだが、月先生、私はあなたのその教育にかける熱意を大いに尊重したい。宿題も結構! ただし、それもほどほどでないとねぇ」
教頭「はっ、校長先生の仰るとおり、いたずらに宿題の量を増やせばいいものとは違いますぞ」
田辺夫人が帰った後、校長はひかるを呼び出して注意する。
ひかる、いかにも気のない顔で彼らの小言を聞いていたが、

ひかる「宿題? そう言えばそんなものがあったんだわ」
ぼんやりと、教師とは思えない言葉をつぶやいて、校長を驚かせる。
校長「ええ、なんですと?」
ひかる「私、この学校に来てまだ宿題と言うものを出したことがないんです」
教頭「えっ、しかし、田辺進は宿題があるから眠れないんだと……」
ひかる「進君が眠れないのは他に理由があるんだと思います。本人とも話してその理由を確かめます」
ひかる、自信たっぷりに断言する。

放課後、進は半分眠りながら、ふらふらとあっちへ行ったりこっちへ来たり、周りの子供たちから囃し立てられながら帰っている。
ま、それよりも、ハルコちゃんの足がすらっとしてスタイルが良いことのほうが気になる、いまだに思春期真っ只中の管理人であった。

一方、図工室では、旗野先生がしきりに何かを探している様子。ひかるが入ってきて、
ひかる「何か探してらっしゃるの?」
旗野「そうなんですよ、二日前までは確かにここにいたんですけどね、彼女」

ひかる「彼女ぉ?」

旗野「ええ、ビーナスの石膏がね、これなんですけどねえ、彼女がいなくなっちゃったんですよ」
ひかる「まぁ、じゃ大変ですわね」
旗野先生、ビーナスの捜索は後回しにしてひかるを食事に誘うが、
ひかる「私はこれから進君のうちへ行かなきゃならないんです」
旗野「はぁ、そりゃ残念だな。あの子がどうかしたんですか」
ひかる「ええ、夜眠れなくて困ってる様子なんです」

旗野「ああ、不眠症か、そら運動不足だ。よし、じゃ僕が一緒に行って上げよう」
話を聞くなり、旗野はそう決め付けて同行を申し出るが、

ひかる「旗野先生、田辺進のクラス主任はこの私です」

ひかる「先生はどうぞビーナスをお探しになってて下さい!」
ひかる、急に気分を害したようにぴしゃりとその申し出を蹴ると、顔をツンと上向きにして憤然と教室を出て行く。
旗野先生の言い方から、半人前……と言うより子供扱いされたように感じて、プライドを傷付けられた気がしたのだろう。
それにしてもこの表情豊かでゼスチュアたっぷりの台詞回し、最高です!

旗野「あ、ああ……ソクラテス先生、ビーナス嬢の行方をご存知ありませんか?」
旗野、傍らに置いてあるソクラテスの石膏像の頭にポンと手を乗せ、語りかける。
そのビーナスとソクラテスこそが、進の不眠症の原因であるとも知らず。

その進、相変わらず半分眠りながら歩いていたが、背後から、いかにも女の子らしいキャピキャピした走り方でひかるが追いかけてくる。
ひかる「進くーん!」

と、進の前方から出前持ちの男性の自転車が突っ込んできたので、慌ててひかるが飛びついてかわさせる。

ひかる「あっ!」
振り向けば今度はトラックが突っ込んでくる。

この場合は、進がふらふらしていると言うより、単にトラックが暴走してるだけのようにも見えるが、ひかるは咄嗟にムーンライトパワーを発動させ、進と一緒にパッと姿を消す。
しかし、進、良くここまで無事に来れたな。

ひかるは進と一緒にとりあえず自分の下宿先に瞬間移動したが、その体を抱えて、いかにも重そうにかたわらのビニール製のソファに寝かせる。

ひかる「よい、しょっ! ううー、重いーっ」
この透明なビニール製のソファ、ひかるの部屋でしばしば使われているのを目にするが、当時流行っていたのだろうか?
でまぁ、ミニスカ姿でその場に座り込んで、スカートの中が見えそうになるのだが、これが見えないのである! この見えそうになのに見えないと言うところが、なんとも言えないエロティシズムを掻き立てるのだ。

と、物音に気付いて母屋から竹取老夫婦がどやどやとやってくる。
武右衛門「ひかるさん、あんたいつ帰ってきなすった?」
ひかる「あ、あの……、たった今!」
ひかる、慌てて白いパンプスを脱ぐと、背中の後ろで隠し、決まり悪そうに姿勢を正す。

たけ「でも、何処から?」
ひかる「あ、あの、あら、急いでたんもんですから……」
たけ「困りますねえ」
武右衛門「そりゃまあ何処から入ってきてもあんたの勝手だが、出来れば玄関から靴を脱いで入ってくださいよ」
たけ「泥棒と間違いたくはありませんからね。ほんとに近頃の娘さんはお行儀も何もありゃしない」
珍しく二人が口やかましく小言を言いながら、母屋の方へ引き揚げていく。
他の回と比べても、二人の態度はやや厳し過ぎるように感じる。

ひかる「ふぅっ、進君、進君」
進「助けてー、怖いよー」
ひかる「ああ、ちょっ……うわっ、ああっ!」
ひかる、進を揺り起こそうとするが、進は悪夢にうなされているのか、しきりに手足をバタバタさせて、ソファからずり落ちてしまう。

ひかるが頬をピシャピシャ叩くとやっと進は目を覚ます。
進は目を覚ました途端、「先生、助けてー!」と、ひかるの体に縋りつく。
ひかる「かわいそうに、汗までかいて」
進「先生、ここ、何処ですか? まだ夢の中?」
進、少し落ち着きを取り戻すと、漸く自分の居る場所を尋ねる。

ひかる「先生の家よ、居眠りしながらここに来ちゃったの」
進「いけない! 眠っちゃいけないんだ!」
進、靴を脱ぎながら弾かれたように立ち上がり、悲鳴のような叫び声を上げる。
ひかる「どうして寝ちゃいけないの?」
進「拷問室で怖いおじさんに捕まってるんです」
ひかる「拷問室?」
進「もうすぐノコギリで首を斬られてしまうんです、ああ、ああ」
進、その時の恐怖がぶり返したのか、頭を抱えてしゃがみこむ。

ひかる「ど、何処で? 何処でそんなひどい目に遭ってるの?」
進「夢の中で……」
可愛い生徒がそんな目に遭っているとは聞き捨てならないと思わず詰め寄るが、

ひかる「夢の中ですって?」
進の意外な答えに拍子抜けするひかるだった。だが、当の進にとっては切実な問題で、
進「眠っちゃうといつも同じ夢を見るんです。拷問室に縛られてノコギリが少しずつ首の方へ近付いてくるんです……助けてーっ!」
その恐怖を語った後、再びひかるの胸に抱きつく進であった。うらやましい……。

やがて夜が訪れる。進は自分で作った「居眠り防止装置」の下で、徹夜をする覚悟で勉強を始めるのだった。
だが、既に三日目の徹夜とあって、進、あえなく睡魔に屈服してしまい、楽しい楽しい拷問ルームへ転送される。

進「また来ちゃった! 助けてー、やだー」

怪人「ふっふっふっ、今夜も来たな、進、いくら強情を張っても眠気には勝てまいが、ふふふ」
それほどホラータッチではないのだが、無表情のマスクを付けた男が笑いながら迫ってくるという図は、なかなか不気味なものがある。
しかもそれはただの悪夢ではなく、怪人の回すノコギリは、夢を見るたびに進の体に徐々に近付いているようであった。
さいわい、「居眠り防止装置」が発動したお陰で進は目を覚まし、なんとか助かる。

翌朝、子供たちと一緒に登校しているひかる。
ひかるは……と言うか菊さんは自分の足の太さを気にしていた節も見られる(16話)が、確かにこうしてハルコちゃんたちと並ぶと、実に偉大な大根足である。
だが、そこが良いのである!! ……え、いきなりでかい声出すな? すみません。

そこへ旗野先生が意気込んでやってきて、
旗野「先生、田辺進の不眠症のことなんですけど、今日一日彼の身柄を僕に預けてください。一発で治してご覧に入れます!」
いやに自信たっぷりに宣言する。

ひかる「おあいにくですけど、不眠症じゃないんです。無理に眠らないようにしてるんです。理由は怖い夢を見るから!」
旗野「うーん、それは夢想恐怖症ですな」
ひかる「はあ? なんですの、それ?」

旗野「頭でっかちの子に良く起こりがちな症状です。そう言う子には運動をさせて全身をクタクタにさせてしまえばいいんです。そうすれば夢など見る余裕もなくぐっすり眠るでしょう。まあ僕に任せて下さい」
旗野先生、今回だけでなく、子供の教育には一家言持っていて、常識や枠組みに囚われない自由な発想で、しばしば大きな成果を上げることがある。
その反面、あまり何も考えずに先生をしている(ように見える)ひかると、意見が対立することも多い。

ひかる「ビーナスは見付かりましたの?」
ひかる、話題を変えて、悪戯っぽい上目遣いで旗野先生の顔を覗き込む。
旗野「あれはいくら探してもありません。諦めました」

旗野先生、早速進を外へ連れ出し、強制的に運動をさせる。まずはグラウンドで、ゴールの間を往復。
旗野「さあ、あと
500回ぐらい行ってみるかな」
さらっととんでもないことを口走る旗野先生は、こう見えて体育会系なのだ。
だが、三日間ろくに寝てない進は相変わらず半分眠っているような状態で、そのままゴールネットにぶつかってひっくり返ってしまう。

ひかる「ああーっ!」

ひかる「ああ~」
思わず声を上げてから、「仕方ないわねえ」と言う感じに首をすくめるひかるであった。
この辺の細かい仕草や表情の変化なども、キャプでは伝わらないが実に魅力的である。

その後も、重量挙げや懸垂などを矢継ぎ早に行わせる旗野先生。
旗野「7、8、9……」
ちょっと感心したのが、森本さんが、ちゃんと懸垂をガンガンやってるところである。やったことのある人なら分かると思うが、懸垂ってなかなかそうスイスイやれるもんじゃないんだよね。
進は、懸垂どころか、鉄棒にぶら下がったまま寝息を立てる始末。

ただでさえ眠りに飢えていた進は、たっぷり運動させられた後で教室に放り込まれると、机を枕にして周囲の耳も憚らず、豪快にいびきを掻いていた。

正夫「先生、うるさくて授業になりません!」
たまりかねて、正夫が立ち上がってひかるに訴える。
ひかる「起こさないで、保健室にそーっと運んでちょうだい」

ひかるに言われて、正夫や太一、ハルコちゃんなどが進の体をみこしのように担いで保健室へ運ぶと、ベッドでは既に旗野先生が正体もなく眠りこけていた。
太一「旗野先生も眠ってる……」
右端の女の子の目が
「なんじゃこりゃあああーっ!」と言う風に見開いている。
と、進が急に「わー、助けてー」と叫んで暴れ出し、

正夫たちの手から落ちると、叫び続けながら廊下へ飛び出し、

再びひかるの体にしがみつくのであった。うらやましい……。
進「先生、ノコギリがーっ!」
ひかる「進君……」
旗野先生のアイディアも実らず、結局、進は夢の中であの怪人と会ってしまったらしい。
その夜、空には美しい満月が輝いていたが、下宿の縁側から着物姿で見上げているひかるの心は晴れない。

ひかる「どうしたらいいのかしら?」

バル「いくら考えても他人の手ではどうにもできんさ」
バル、今回は何故か隠し部屋の奥に引っ込んだまま、壁越しにしかひかると会話しない。
バル「何しろ敵は夢の中じゃ」

ひかる「……夢の中? そうだわ、進君の夢の中に入っていけたら?」
だが、バルの何気ない一言が、ひかるに飛び切りの解決策を思い付かせる。
バル「な、なんじゃとう」
ひかる「バル、ありがとう!」
バル「こらっ、リング(のパワー)が勿体無い!」

ひかる「ムーンライトパワー!」
バル「待て、行ってはならん!」
ひかる、急に晴れ晴れとした笑顔になると、バルの制止にも耳を貸さず、ムーンライトリングをかざして叫び、一瞬で、進の家の前に移動する。

車のボンネットの上に可愛いお尻で着地したひかる、いつの間にか、服装も普段のものに変わっている。
ひかる「まだ起きてるな、ようし……眠れ~」
ひかる、2階の進の勉強部屋の明かりがついているのを見て、再度ムーンライトリングを使い、わかりやすすぎる催眠術をかけて、進を眠らせる。
その上で、もう一回リングを使い、進の夢の世界へダイブする。
今回、母船からのエネルギー補給もなしに4回続けてリングの力を使ったことになり、

ひかる「あらぁ、もうこんなに使ってる……」
進の夢の世界を駆けるひかるがふとリングを見ると、既にエネルギーはゼロに近くなっていた。

そこは夢と言うより、進の無意識の世界と言うべき空間で、ひかるの前には、次々と進の記憶に刻まれている人や物が浮かんでは消え、浮かんでは消えしていく。
ハルコ「進く~ん!」
で、いの一番に現われるのが、ちょっとはにかんだ笑顔が可愛らしいハルコちゃんだった。
と言うことは、進はひそかにハルコのことを好きなのかも知れないと想像してみたが、残念ながら、劇中ではそれを思わせるようなシーンは全話通して皆無であった。
続いて、美しい花、逆さまになってバットを振る旗野先生、車のおもちゃ、校長や教頭、バナナ、旗野先生の授業中の話し声、正夫と進(?)が取っ組み合っている様子、

そして、漫画雑誌、ガミガミ説教する母親……と言うように、いかにも子供らしいものばかりだった。
ちなみにこの開いたページに載っているのは、この年から少年マガジンで連載が開始された梶原一騎原作・つのだじろう作画の「空手バカ一代」のようである。
ひかる「ふぅん、これが進君の夢の中か、随分色んな夢を見てるのね~」

興味深そうに夢の世界に散らばるイメージを見ながら走っていたひかるの目に、「ふっふっふっふっ」と不気味な笑い声を立てるソクラテスの石膏像が映る。
ひかる「ソクラテスだわ!」

さらに、顔が真っ二つに割れたビーナス像が現われ、「キャーッ!」と言う叫び声まで轟く。
ひかる「首のないビーナスがどうして進君の夢の中を彷徨ってるのかしら?」
首はあると思いますが……。
ちなみにこの叫び声は、ハルコの杉山和子さんがあてておられるようだ。
一方、進は例の古城の拷問部屋で、怪人ソクラテス(なんか良い響き)にいびられていた。

怪人「喚け、喚け、もうあと3センチでお前の体は真っ二つになるのだ」
進「やだ! 月先生~!」
迫り来る死の恐怖に汗みどろになって絶叫する進。

怪人「月先生だと? 誰だ、それは?」
ひかる「私よ!」
ソクラテスのつぶやきに答えて、壁際の階段の上にすっと立つひかるがめっちゃカッコイイのである。
怪人「うん、いつの間に?」
怪人も闖入者に驚いて、咄嗟にノコギリを回す手を止める。

ひかる「あなた、ソクラテス? 何故こんなひどいことを?」
ひかるの方も、怪人の正体が哲学者ソクラテス(の石膏)だと知って意外の感に打たれていた。
ソクラテスは表情のない顔をひかるに向けて、昂然と「ビーナスの復讐だ」と即答する。

ひかる「ビーナスの復讐?」

怪人「あの子がビーナスの首を折ったのだ」
ひかる「えっ?」
ひかるが思わず進を見ると、心当たりがあるのか、進は面目なさそうに俯く。
怪人「だからこうしてやるのだ!」
ソクラテス、そう言うと再びハンドルを掴んでノコギリを回し始める。
ひかる、その場からジャンプしてソクラテスのそばに着地し、ハンドルを回す手にチョップを食らわす。
その際、空中回転したひかるの白いパンツがはっきり見えるが、残念ながらこれは男性スタントのブリーフ(?)である。
ちくしょう。 ソクラテスも木の杖を振り回して反撃してくる。
しかし、変身こそしてないが、ソクラテスと戦った特撮ヒロインと言うのはひかるだけだろうなぁ。

ひかる「ムーンライト……」
ひかる、ソクラテスの猛攻を防ぎかね、ムーンライトリングを使おうとするが、

既にリングのエネルギーが枯渇しており、発動しない。
それでも下着をチラチラさせながらソクラテスを投げ飛ばし、最後はソクラテスの頭を杖でぶん殴って倒す。
それと同時に進は目を覚まし、ひかるも現実世界に無事帰還する。

翌朝、校門のところでひかるは進に元気良く話し掛けられる。
進「先生、僕、昨日先生の夢を見ました。先生が怪人をやっつけてくれたんです」
ひかる「進君、良かったわね。昨夜は良く眠れた?」
進「はい!」
ひかる、進の返事に安心するが、おもむろに進の肩に手を置き、少し低い声で、

ひかる「進君、先生に正直に答えてくれる?」
進「なんですかー」
ひかる「図工室のビーナス、進君が隠したんでしょ?」
進「……」

ひかる「ね、どこに隠したの?」
ぐっと顔を近付け、子供同士が内緒話をしているような悪戯っぽい笑みを浮かべて尋ねるひかる。
何度も書いたけど、菊さんの表情豊かな演技は実にチャーミングだ。

二人はこっそり図工室へ行き、進がロッカーの壁の中に隠していたビーナス像を取り出す。ビーナス像は無残にも真っ二つに割れていた。ひかるが進の夢の中で見たのは、これだったのだ。
進「掃除してる時に落としちゃったんです。旗野先生に叱られると思ったから……」
ひかる「やっぱり……このことが気になってあんな夢を見てたのね」

ひかる「いいわ、このことは私から旗野先生に謝っといてあげる。さ、早く教室に行きなさい」
進「はい!」
進は、心の重荷を下ろして晴れ晴れとした笑顔になって図工室を出て行く。
残ったひかるは、実に今回5回目となるムーントライトパワーを使い、ビーナス像を元通り直してやる。

ひかる「はい、このとおり、ビーナス嬢はお返ししますからもう勘弁してやってくださいね、ソクラテスせんせ……」
ビーナス像をソクラテスの横に置き、進の代わりにソクラテスに謝罪するひかるであったが、

ひかる「あらー! これ、ゆうべのコブ……」
何気なくその頭に手を置いたところ、大きなコブが出来ていることに気付く。昨夜、ソクラテスの頭を杖で思いっきり殴ったときに出来たコブであった。
うーむ、実に素晴らしいオチである。
それまではあくまで進の深層心理が作り出した幻影(罪の意識が具現化したもの)だと思われていたソクラテスが、実はほんとに石膏像が怪人ソクラテスとなって進に仕返ししようとしていたとも考えられるからである。
だとすれば、もしひかるが解決に乗り出さなかったら、ほんとにノコギリが進の体に食い込み、翌朝、田辺夫人が勉強部屋で息子の惨殺死体を発見する……と言うことになっていたかも知れず、少し想像を働かせればSFファンタジーどころか、かなりのホラーにもなりうるという、奥の深いシナリオであった訳だ。

ひかる「すみません、すぐ治しますから……ムーンライトパ……ムーンライトパワ……」
ひかる、慌ててもう一度リングを使おうと呪文を唱えながら左手を掲げるが、何度試みても発動しない。

ひかる「あらぁ……」
怪訝な顔でリングのエネルギーゲージを見ると、ビーナス像を直したことでエネルギーが完全にすっからかんになっていた。
ひかる「いっけない、もう駄目なんだって、うふ、ごめんなさい」
ひかる、決まり悪そうにソクラテスに詫びると、そそくさと図工室を出て行くのだった。
ちなみに何話だったか忘れたが、再び画面にソクラテス像が映し出された時も、しっかりコブが残っていたので、ひかる、それっきり治すのを忘れてしまったらしい。
以上、シリーズ中でもファンタジー色の強い傑作であった。
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