第19話「宇宙から来た透明大怪獣」(1971年8月13日)
夏休みの真っ只中、次郎が友達三人と一緒に学校で飼育されているウサギや小鳥、猿(!)などの世話をしていると、突然、上空から赤く輝く物体が降ってくる。
それは地響きを立てて、校庭を出たところの空き地に落下する。
校舎の隅に身を伏せていた次郎たちは、すぐにその落下地点に向かう。

こわごわと、煙を吹いている小さなクレーターを覗き込む子供たち。
この両端の男の子ふたりは、この少し後に始まった「魔女先生」では、教頭先生の息子たちの役を演じていた。
ついでに左端の男の子、右手の指に包帯を巻いているのだが、この撮影中に、動物に噛まれたのかもしれないなぁ。
次郎は、MATの郷に連絡して来て貰うが、調査の結果、落ちてきたのは漬物石くらいの大きさの、赤黒い表面が凸凹した隕石だと判明する。
郷と上野は、本格的な分析も行わないまま、それを学校の標本室に飾ることを許可する。
ところが、そのすぐ後、隕石がむくむくと膨れ上がり、小山のようなサイズに成長して、校舎を突き破ってしまう。その隕石の中から、何か巨大なものが飛び出したようであったが、人間の目には見えない。
ただ、一旦逃げたものの、ウサギを助けに戻った次郎の目にだけ、校庭の上にうごめく巨大な影がチラッと映るが、次郎は落ちてきたコンクリート片に当たって負傷してしまう。

坂田「先生、どうでしょうか」
医師「脈もしっかりしてるし、二、三日したら元気になるだろう」
病院のベッドに横たわる次郎を、坂田やアキが心配そうに見守っている。

ここで、医者を見送って横を向いたアキの胸にうっすら乳首が浮き上がるのを、管理人の鷹のように鋭い目は見逃しませんでした。

医者と入れ替わりに、郷と上野が申し訳なさそうな顔で入ってくる。
郷「MATの隊員として調査が不十分でした。次郎君、許してくれ」
坂田「気にするな」
上野「俺も迂闊だった。あの隕石がまさかこんなことに……」
坂田「ゴメンで済んだら警察は要らんのじゃーっ!!」 (と、上野の顔を思いっきり殴る)
上野(ええっ、なんで俺だけ~?) たぶん、なんとなく上野の顔がムカついたのだろう。
……念の為、嘘である。
次郎「郷さん、怪獣をやっつけてくれよ」
郷「怪獣だって?」
坂田「さっきからこんなことばっかり言ってるんだ。怪獣が校舎を食ってたって言うんだが……」
郷は、そこにいた三人の子供たちにも聞いてみるが、次郎以外に目撃したものはいなかった。
次郎「ほんとにいたんだ。ピョン太を殺したのもあいつのせいなんだ。本当にいたんだ!」

アキ「次郎、誰も嘘だなんて言ってないわよ」
郷「だったらやっつけてくれよ、頼むよ、郷さん」

郷「わかった、今度出てきたらやっつけてやる」
次郎「きっとだよ」
郷「きっとだ」
郷は、次郎と「げんまん」を交わして、固く約束する。
その後、MAT本部では、巨大化した隕石のカケラを前に、隊員たちがその原因を話し合っている。

岸田「たとえばこういうことは考えられないかな。恐ろしく強力な引力の元に圧縮されていたものが地球の弱い引力の中で膨張した」
加藤「うんー、宇宙には光を曲げてしまうくらい強い引力の星もある。考えられんことはないな」
岸田や加藤隊長の台詞の「引力」は、「重力」とした方がイメージしやすかったと思う。
加藤「それにしても不可解なのは次郎君が見たという怪獣だ」
上野「気が動転したあまり幻覚を見たんじゃないかな」
郷「しかし、透明怪獣と言うこともありうる。太陽光線の屈折度によって見えたのかもしれません」
そこへ南隊員が特殊な形状のカメラを持って入ってくる。赤外線を利用して、肉眼では見えない物体を捉えることが出来るカメラであった。

で、その夜、走行中の車がぺしゃんこに押し潰されるという事件を皮切りに、郷の持つカメラに、遂にその謎の怪獣の姿がはっきりと映し出される。
それは象のような皮膚と、同じく象のような長い鼻を持った怪獣サータンであった。

地上の加藤隊長の命令で、本部に残っていた丘隊員がマットアローに乗って颯爽と飛んでくる。
凛々しいユリ子お姉さま……。

空と地上からMATの総攻撃が行われ、その一画だけ時折真昼のような明るさに照らされる。

一方、アキは次郎につきっきりで看病していたが、あの子供たちが来て、MATと怪獣が戦っていることを知らせてくれる。
次郎はベッドから起き上がり、病院の非常階段の踊り場から、手に汗握ってその模様を見物する。
だが、どれだけビームや銃弾を撃ち込んでも、サータンにはまったく効き目がない。と言うより、その体は時折透明になるだけでなく、あらゆるものが通り抜けてしまう特殊な性質を持っているようであった。
郷、ひそかにウルトラマンになろうとするが、
加藤「郷……、前から好きだったんだ。愛してるんだ!」
郷「ちょっと、なんですか、こんな時に!」
加藤隊長と二人きりになったところで不意に愛の告白をされた為、変身する機を逸してしまう。
じゃなくて、
加藤「郷、怪獣を映しておけ、今後の作戦資料にしたい」
郷「……」
加藤隊長から任務を与えられた為、変身する機を逸してしまう。
そうこうしているうちに丘ユリ子姫のマットアローも撃墜され、サータンも黎明の空に溶けるように消えてしまう。

女の子「MATが負けたわ」
男の子「相手は宇宙怪獣だもん、勝てっこないよ」
男の子「だらしねえMATだぜ」
容赦なくMATの悪口を口にする子供たち。
「セブン」では、ウルトラ警備隊がこんな悪し様に言われることはほとんどなかったので、いわゆる防衛隊が、基本的に役に立たない集団(あるいはウルトラ戦士の引き立て役)に成り下がってしまったのは、実にこの「新マン」が最初だったと言うことが分かる。
アキ「次郎、次郎、しっかりして!」
と、張り詰めていた糸が切れたように、次郎がぐったりとその場に崩れ落ちてしまう。

さて、MAT本部では、郷が撮影したフィルムを見ながら、対策会議が開かれていた。
加藤「怪獣はコンクリートに敏感に反応する性質を持ってるようだ。ボールほどの隕石がいきなり巨大化したのも校舎のコンクリートに反応したからだと思う。奴は攻撃すると透明化し、空気と同じ状態になる。奴は中性子怪獣か……」
岸田「これでビルをすり抜ける謎が解けた。中性子は電荷を持ってない。だから、電子の電荷に邪魔されることなく、物質を容易に抜けることが出来るって訳だ」 加藤「……」
郷「……」
南「……」
上野「……」
無論、その場にいる全員、岸田が何を言ってるのかさっぱり分からないのであった。
もっとも、言ってる岸田自身、何を言ってるのかさっぱり分からないのでおあいこであった。
そこへアキから、次郎が危篤状態だという知らせが郷に届く。

次郎を見守っている坂田兄妹。
アキの榊原さんは勿論、坂田の岸田森さんも、実に絵になる顔してるよねえ。
やがて郷と上野も駆けつける。次郎は混濁した意識の中、しきりに「何故負けたんだ? 何故やっつけてくれなかったんだ。郷さんの嘘つき!」と、うわごとを繰り返しつぶやいていた。
上野「次郎君、今度の怪獣は中性子怪獣なんだ、ウルトラマンでさえ勝てるかどうか分からない凄い奴なんだよ。郷だって一生懸命戦ったんだ」
仲間思いの上野、次郎のうわごとに対し、本人に代わって全力で郷を弁護する。
郷「どうして急にこんなことに?」
医師「親に構ってもらいたい為に心理的に病気になる子がいるんだよ。この子の場合、MATと一緒になって一生懸命怪獣と戦ったんじゃないかな? そしてMATが敗れたと知ったとき、精根尽き果てたんだ」
医者は、理路整然とそのメカニズムを説明するが、元々そんなに重傷じゃなかったのだから、いくら精根尽き果てたからって、危篤状態にまでなるかなぁ?

郷「次郎君、俺は君との約束を果たせなかった。
上野隊員に足を引っ張られたからなんだ」
上野(え? ええ~っ?)
嘘である。
郷「次郎君、俺は君との約束を果たせなかった。正直言って今度は勝てるという自信もない。だから二度目の約束が出来ないんだ」
郷、意識のない次郎に向かって、率直だが、およそヒーローらしからぬ弱音を吐く。

坂田「お前、MATに入って駄目な男になったな」
その後、病院の屋上で、坂田が郷に痛烈な言葉を浴びせる。

郷「今度の怪獣は、得体の知れない宇宙怪獣です。とても手に負えません」
坂田「レーサーがレース中に考えていることは、勝利の一字だけだ。もし負けの字を思い浮かべたら、その途端にハンドルは岩のように硬くなり、コーナーでスピンしてしまうだろう。だからレーサーはたとえビリを走っていてもゴールまで勝利を信じて走り続けなければならない」
郷「……」
坂田「お前は! 一度負けたぐらいで尻尾を巻くのか? 流星号に乗っていれば、たとえスピンしてもお前は勝利のゴールを目指したに違いないんだ。いや、お前はそんな男だった……」
郷「坂田さん!」
坂田、激した口調で語った後、つい熱くなってしまった自分をはにかむような笑いを溜息と共に吐き出すと、少し表情を和らげ、
坂田「次郎の机の上にはね、お前の写真が飾ってあるんだよ。次郎にとってお前は心の支えなんだ、夢なんだ」

郷「俺、やります、もう一度やってみます!」
坂田の言葉を受けて、郷の目には再び闘志が甦る。

MATでも、ただ手をこまねいている訳ではなく、サータンに対する対策を編み出していた。
ナレ「中性子が原子核に衝突した時だけ屈折する性質を利用し、原子核放電作戦の計画を進めていた。中性子怪獣の細胞組織を、原子核を放電して撹乱しようというのである」 無論、その原理を、隊員たちは勿論、言ってる名古屋章もさっぱり理解できなかったのであるが……。

一方、郷も、サータンとの戦いに備えて、トランポリンを使った特訓にいそしんでいた。
ここで、一旦背中から落ちてから、その反動でトランポリンから降りる仕草がカッコイイと思うのである。
郷(約束するよ、次郎君、今度は必ずあの怪獣をやっつけてやる)

そして、再び姿なき怪獣が都市部に現われ、コンクリート製の建物を手当たり次第に破壊する。
逃げ惑う人々の後ろの壁にうごめくサータンの影と言う、素晴らしい合成。
郷は、依然生死の境を彷徨っている次郎のそばについていたが、怪獣出現の報を受け、至急現場へ向かう。

マットビハイクルで疾走するのだが、横から来たトラックに追い抜かれるのが、若干カッコ悪い。
MATの作戦によって、ようやくサータンの姿がはっきり見えるようになる。

郷、時は来たと怪獣に向かって走り出すのだが、

走りながら、その姿が等身大のウルトラマンと重なるのが、ウルトラシリーズでは極めて珍しい演出。
ウルトラマンとサータンの一騎打ちとなるが、MATの作戦によって透明でなくなった筈のサータンの体が、ここでもしばしば消えてしまうのは、MATの存在意義が否定されているようで感心しない。

ともあれ、ウルトラマン、右手でピースサインを作って掲げ、それから赤色の光線を放射し、

ついで、目から青色の光線を投射して、サータンの姿を暴き出す。
さらに、トランポリンで鍛えた跳躍力を駆使して相手を翻弄し、最後はウルトラ念力で宙に浮かばせてから、ウルトラブレスレットによって木っ端微塵に粉砕する。
一方、次郎も自分の怪我と必死に戦っていた。

アキ「次郎、死んじゃいやよ!」
坂田「郷は命を賭けて戦ってるんだ、お前も頑張るんだぞ」
朦朧とした意識の中で、

次郎は、ウルトラマンの背中におんぶされて無限の宇宙を飛ぶと言う素敵な夢を見ていた。
幻想のシーンとはいえ、ウルトラマンが人をおんぶすると言うのは、シリーズ通してもここだけじゃないかなぁ。そもそも、基本的にサイズが釣り合わないからね。
同時に、次郎が、全国のちびっ子たちから羨望の目で見られたのは間違いあるまい。
で、それによって生きる気力を取り戻したのか、いつの間にやら、次郎の頬に生色が差していた。
そして、パチッと眼を開く。

アキ「次郎!」
いやー、榊原さん、激カワ!
次郎「俺、夢見てたんだ、キヨハラと空を飛んでたんだ」
坂田「そうか……キヨハラと飛んだのか」
じゃなくて、
次郎「俺、夢見てたんだ、ウルトラマンと空を飛んでたんだ」
坂田「そうか……ウルトラマンと飛んだのか」

と、そこへ、顔を煤だらけに汚した郷が晴れやかな顔で入ってくる。
次郎「郷さん!」
郷「勝ったぞ!」
次郎「うん、郷さんじゃなくてウルトラマンがね!」 郷「……」
この後、次郎は、郷にベッドごと病院の窓から放り投げられたそうです。

……と言うのは嘘で、次郎を坂田、アキ、郷が嬉しそうに取り囲む微笑ましいカットで終わりです。
以上、夏の草原を吹く薫風のように爽やかなエピソードでありました。
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