第5話「いじっぱりハモニカさん」(1971年10月31日)
シリーズの中でも特に真面目と言うか、教育的と言うか、昔の教育テレビでやってた道徳系学園ドラマ(飛び出せ!3年3組みたいな)に近いテイストのエピソードである。
冒頭、東西学園の登校風景。
正門のところに用務員の山部が立って、生徒たちに英語交じりの挨拶の言葉を掛けている。

山部「あっ、おはようございます!」
正夫「ようっし、なぁ?」
と、名誉理事長の息子の正夫の姿を目にした途端、しゃちほこばって丁寧に頭を下げる。
それに対し、正夫もいかにも傲慢な上から目線の態度で応じ、通り過ぎて行く。
他の回では、正夫、親の威光を笠に着て威張るような子供ではなく、山部も別に正夫を特別扱いする風は見えないのだが、今回だけこんな演出がされている。

続いてやってきたのが、今回のヒロイン・ヒロミ(広瀬隆子)であった。
黙って行き過ぎようとするヒロミの肩に手を置き、
山部「おはようはどうしたの? グッドモーニング!」

ヒロミ「グッドじゃないわ、悪い朝!」
山部「……」
ヒロミ「学校嫌いだから!」
山部「そんな料簡なら来なくていいんだ!」
ヒロミ「でも、うちよりマシだから来てるのよ」
山部「ゆうこぉーっ!」
ヒロミの生意気な言葉に、温厚な山部も思わずカッとなるが、ちょっと何言ってるのか分からない。
ユウコと言う名前じゃないし、「言うに事欠いてこのぉー」とでも言いたかったのだろうか。

その後、家庭科の授業で調理実習をしているヒロミ。
おぼつかない手つきでキャベツを切っていたが、誤って自分の指を切ってしまう。
だが、妙に強情と言うか、意地っ張りなヒロミは、怪我をしたことを友人にも先生にも言おうとしない。

先生「柴田さん、もっとリズミカルに……そんなことでは支度する前にお食事が済んでしまいますわ」
家庭科の先生に注意されたヒロミ、
「支度してないのに食事が済むわけねえだろ!」と、突っ込みたくてしょうがなかったそうです。
先生「どれ、貸して御覧なさい……あらっ、柴田さん!」
お手本を見せようと包丁を掴んだ先生、ヒロミが親指の先から血を流しているのに気付いて驚く。
ヒロミ「さっき指切ったの」
先生「うー、それを早く言いなさい、さっ早く」
先生、慌ててヒロミを保健室へ連れて行く。

校医「痛むかね?」
ヒロミ「……」
校医「ズキズキするだろう?」
ヒロミ「……」
旗野「柴田、なんとか言ったらどうだ」
校医に手当てをして貰ったヒロミが何を聞かれても黙り込んでいるので、立ち会っていた担任の旗野先生が見兼ねて促すが、
ヒロミ「何を言うんですか?」
旗野「なにって、そのう……」
ヒロミ「どうもありがとうございました」
ヒロミ、立ち上がって深々と一礼すると、さっさと部屋を出て行く。
校医「変わった子だねえ」
旗野「いや、ちょいちょい梃子摺りますよ。それじゃどうも」
苦笑いを浮かべて言葉を交わす二人。
この、子供向け番組の中に織り込まれた、いかにも「大人」な雰囲気が好きである。

ヒロミが教室に戻ろうと階段の前まで来ると、正夫が「オッス!」と言ってヒロミの前に立ち、その行く手を塞いで「とおせんぼ」する。
正夫「チェッ、美人のつもりでいやがら」
ヒロミ「……」
正夫「よぉ、なんとか言えよ」
正夫、特に遺恨があるわけでもなく、クラスも違うのに、こんなにしつこくヒロミに絡むのはいささか不自然のような気もするが、ガキ大将として、いつもツンと澄ましている(ように見える)ヒロミの存在が、なんとなく気に食わないのだろう。

正夫「お前、オシか?」
ヒロミ「バカぁ」
正夫「バカぁ? この野郎!」
超ドレッドノート級の禁止ワードでヒロミをからかう正夫、ヒロミに言い返されると思わずその体を突き飛ばす。ガキ大将としては、いささか大人気ない。

よろけて後ろの下駄箱にぶつかったヒロミだが、目に涙を溜めながらも泣かず、悔しそうに指の包帯を正夫に投げつけ、そのまま階段を上がっていく。

正夫「なんだ、あいつ」
ひかる「Oh!」
正夫「いけねえ」
正夫、ヒロミを目で追った後、振り向きざまに包帯を投げるが、ちょうどそこへ現われたひかるの胸に当たる。

ひかる「うふん、なんて名前なの、あの子?」
正夫「柴田ヒロミ、5年A組だよ、生意気な奴なんだ」
ひかる「5年A組? ふぅーん」

ひかる(旗野先生のクラスね……)
ひかる、宇宙連合の平和監視委員としてではなく、一教師としてヒロミに興味を抱いたようである。
……どうでもいいけど、旗野先生ってC組の担任じゃなかったっけ?
まぁ、この番組はその辺は割りとアバウトなので、あまり気にしないことにする。
その旗野先生の授業。

旗野「ようし、宿題を忘れたもの、誰と誰だ? 手を挙げて」
旗野先生の言葉に、数人の子供がおずおずと手を挙げるが、
旗野「バカモン、手を挙げて済むと思っとんのか? さっさと立て! 他のものは宿題を机の上に出して」
特に序盤は、旗野先生は見掛けによらず、なかなかのスパルタ教師なのだ。
他の子供たちはノートを机の上に出すが、ヒロミは座っているにも拘らず、何も出そうとしない。
旗野「柴田、宿題は何処にある?」
ヒロミ「ありません」
旗野「うん、忘れたものは立てと言った筈だぞ」

ヒロミ「だって、忘れたんじゃないもん」
旗野「なにぃ」
ヒロミ「覚えてたけど、やりたくなかったから」
ちなみに、ヒロミの後ろに座っているのは、3話ではひかるのクラスにいたツトムである。他にも、ひかるのクラスの生徒の顔がいくつも見える。さすがに、正夫や進、ハルコなどのレギュラーはいないけどね。

旗野「ばかっ!」
旗野先生、ヒロミの生意気な言い草に思わずその頬を引っ叩いてしまう。
ヒロミ、叩かれた頬に手をやるが、それでもよほど強情なのか、涙を見せようとはしない。

旗野「何故、もっと素直になれんのだ? 俺のクラスに貴様のような子供がいるなんて、信じられんよ、先生は……先生はなぁ、校医の先生にも、家庭科の先生にも恥ずかしかった」
ヒロミ「……」
旗野先生、ヒロミの机を両手で強く叩くと、
旗野「聞いてんのか、柴田? 俺はだな、出来の悪いお前たちをだ、自分の弟や妹のようなつもりでいるんだぞ、分かってるのか?」
ヒロミ「……」
ヒロミ、目に涙を溜めて堪えていたが、不意に、両手を顔に当ててわっと泣き出す。

ヒロミ「うっううっ……」
旗野「バカッ、泣くな、俺は女の泣き声が大っ嫌いだ!」
旗野先生、それを見て怒りを静めるどころか、ますます怒り狂うのであった。
なお「女の涙が苦手」と言うのは、事実のようで、後に18話でも同じような台詞をぼやいている。
ところがその後の職員会議で、その旗野先生の「体罰」が議題に上る。
校長「えー、聞くところによると、生徒に対して暴力をふるう先生がおられる。え、勿論、生徒を思う愛情溢れての結果でしょうが、今後は絶対に慎んで頂きたい」
恐らく、その場にいた生徒の口からその親に伝わり、それが校長の耳に達したのだろうが、校長は旗野先生の名前も出さず、あっさり一言で片付けてしまう。
まぁ、昔は、教師が生徒をボッコボコにしても何ら問題にされない風潮が(自分の実体験からしても)確実にあったから、旗野先生のビンタごときは、論議するまでもないと言ったところか。

旗野「しかし、校長!」
当の旗野先生が、思わず机を叩いて反論しようとしたが、既に校長は次の議題へ移っていた。
校長「それから、ご存知でしょうが、明日、CBSテレビのホットショーが本校に来ます。テレビによって我が東西学園の名をPRしてくれることは歓迎ですが……本校の名誉と品位を守る為に、質問はあの三項目に限ってもらうことにしました」

教頭「ええ、つまりですな、勉強は好きか、尊敬する人は誰か、今の君の希望は……これを生徒たちに十分にリハーサルをお願いします」
校長の言葉を受けて、教頭が具体的な質問内容を示して確認する。
しかし、最初の二つはともかく、最後の「今の君の希望は?」ってのは、変な質問だな。
ひかる「つまり、八百長させるってことね」
旗野「競馬だったら暴動が起こりますよ」
ひかるがつぶやくと、旗野先生も相槌を打ち、そっと目を見交わす。

それから、異論を差し挟む代わりに盗み見るように上目遣いで校長たちの方を見るひかるが可愛いのである!
放課後、仲良く一緒に帰宅中の二人。話題は自然とヒロミのことになる。
旗野「まったく女心は謎ですよ……以前はあんな子じゃなかったんだが」
ひかる「叱られたぐらいで泣くなんて……タツノオトシゴに喧嘩売られても平気だったのに」
旗野「いや、よっぽど嫌われたらしい。だいたい僕ぁ女にモテんたちなんだ」
旗野先生、自嘲気味に分析するが、それは大きな誤解であったことが後に分かる。
もっとも、女心が分からんと言う自己評価だけは当たっているだろう。

ひかる「興味ありますわ」
旗野「僕のことですか?」
ひかるの言葉に思わず振り向く旗野先生。
この頼りないと言うか、ぽやんとした感じと言うか、旗野先生もなかなか可愛いのである。
鬼太郎が、そのまま大人になったようにも見える。

ひかる「いえ、柴田ヒロミ」
旗野「あー、なるほどね」
ひかる「ね、何処ですの、彼女のうち?」
旗野「いわゆる団地族ですよ、ほら、それも鍵っ子でしてね」
旗野、ちょうど前方に見える市営団地のような建物を指し示す。
そのヒロミ、窓枠に座ってハーモニカを吹き鳴らしていた。仕事から帰宅途中の母親は、それを見ると血相変えて帰ってきて、ハーモニカを吹くのをやめさせようとする。
母親はパートで得たお金でピアノを買って、娘にピアノを習わせるつもりらしい。ヒロミが欲しがっている訳ではなく、母親の、近所への見栄からであった。
母親「みっともないでしょう。あそこのうちはハーモニカしか買えないのか、そう思われるじゃないの」
ヒロミ「だって約束したんだから、この曲、全部吹けるようにするって……いいわ、聞こえないとこで吹く」
いじっぱりのハモニカさん、そう言うとなんとトイレの中へ入ってハーモニカの練習を続けるのだった。
さて、いよいよ、例のホットショーの放送日がやってくる。

教頭「君は勉強が好き?」
男の子「大好きです」
教頭「尊敬する人は?」
男の子「パパとママと校長先生」
校長「上出来です」
教頭「もう一人誰か忘れてない?」
男の子「教頭先生です」
教頭「ふふふふふ」
撮影スタッフの来る直前まで、入念にリハーサルを行っている校長たち。

ひかる「旗野先生のクラス、誰が発言しますの?」
旗野「ああ、僕はこんな猿芝居でテレビ局や視聴者を騙したくないですからね、誰も出しません」
離れたところからリハーサルを見ていた旗野先生、ひかるに問われると、きっぱり断言する。
ひかるも同意するように軽く頷く。
やがて、CBAテレビと書かれた中継車やトラックが到着し、早速本番の撮影が行われる。

アナウンサー「伸び伸びと元気良く答えてくれましたね。さーて、次は誰にしようかな?」
男の子「はい!」
アナウンサー「はい、威勢良く手が上がりました。尊敬する人は?」
男の子「パパとママと校長先生です」
アナウンサー「じゃあ君の希望は?」
男の子「僕、おじさんみたいなアナウンサーになりたいです」
アナウンサー「はっはっ、お世辞も上手いですね」
お世辞……なのだろうか?
さっきの男の子がリハーサル通りの面白くもなんともない模範解答をした後、アナウンサーがマイクを向けたのが、よりによってヒロミであった。

ひかる「あら、アナウンサー、柴田さんの前で止まったわ」
旗野「うん?」
中継車の前で、うんざりした顔でインタビューを見ていたひかる、アナウンサーがヒロミに話し掛けるのを見て、思わず声を出す。
旗野先生も、退屈のあまり、これみよがしに欠伸をしていたが、そう言われて目をそばだてる。

アナウンサー「あなたのお名前は?」
ヒロミ「柴田ヒロミ」
アナウンサー「ああ、じゃあ何が好きかなぁ、勉強は?」
ヒロミ「嫌い、みんな嫌い!」
アナウンサー「おやぁ」
予想外の答えにアナウンサーも戸惑い、その場に変な空気が流れる。
アナウンサー「するとぉ、あなた、今何したいの?」
ヒロミ「ハーモニカ吹きたい、オールドブラックジョー、全部吹けるようになりたい!」
ヒロミの非優等生的な答えに、校長や教頭は色をなして担任の旗野先生を責めるが、

ひかる(ハーモニカ……それがあの子の心をほぐす鍵なんだわ)
ひかるは、初めてヒロミの心の底からの声を聞いたような気がして、真剣な眼差しになっていた。
放課後、ヒロミが誰もいない教室でひとり机に座ってハーモニカを吹いていると、後ろの入り口からひかるが入ってきて、ヒロミの吹いているのと同じ「オールド~」を吹き始める。
ヒロミはそれに気付くとすぐカバンを手に教室を出て行ってしまう。
CM後、丘の上の雑草だらけの公園のベンチに腰掛け、なおも練習しているヒロミ。
そこへ再びひかるがハーモニカを吹きながら近付いてくる。

ヒロミ「しつこい先生ね、何の用?」

ひかる「あなたのハーモニカ、とても聴いちゃいられないから」
ヒロミ「……」
満面の笑顔で、ずけずけと指摘するひかる。

ひかる「つっかえてばかりいるのね、フォスターが泣いてるわよ」
ヒロミ「ほっといてよ、ひとりで覚えるから」
ひかる「そう、ひとりで間違えて覚えるの? ごくろうさま。うっふ」
優しく接すれば逆に反発するであろうと、ヒロミの特異な性格にあわせて、わざと冷たく意地悪な言い方をして気を惹いているのである。
さすが、ひかる、旗野先生から「心理学の天才」と呼ばれるだけのことはある。

ヒロミ「吹き方がそっくり」
ムッとしていたヒロミだったが、ひかるの見事な演奏を聞き終わると、思わずそんな感想を漏らす。
ちなみに、この日は風が強いので、ひかるのミニスカがめくれないかなぁと期待した管理人であったが、残念ながらチラとも見えなかった。ま、こんな真面目なシーンで仮にスカートがめくれたら、撮り直すに決まってるんだけどね。

ひかる「誰のこと?」
ヒロミ「私にハーモニカ教えてくれたお姉さん」
ひかる、ヒロミの前に行くと、一転、優しい声で「そのお姉さんのこと、聞かせてくれる?」とお願いする。
ヒロミも、笑顔で頷くと、その一部始終を語ってくれる。
具体的な時期は不明だが、ヒロミがかつて病気で入院している時、相部屋になった年上のお姉さんと仲良くなってハーモニカを教えて貰ったのだと言う。

で、そのお姉さんを演じているのが、「仮面ライダー」にもゲスト出演していた林寛子さんなのだった。
ちなみに林さんは「変身忍者嵐」にレギュラー出演された時には、教頭の牧冬吉さんと共演されている。菊さんも終盤にレギュラーとして参加しているが、林さんとは共演していない。
林寛子さんの、菊さん以上にむちむちした太腿については、いずれ「嵐」のレビューをする時に、じっくり語りたい。

お姉さん「聴きたいなぁ、ヒロミちゃんのハーモニカ……私はもう吹いちゃ駄目だって」
ヒロミ「お姉さん、約束、全部吹けるようになったらお姉さんに聞いて貰うの」
ほどなく、ヒロミは先に退院することになり、病状の思わしくないお姉さんと、別れ際、そんな約束をしたと言うのだ。
次の場面では、ひかるがそのことを旗野先生に話している。
ひかる「それで私、そのお姉さんの代わりにオールドブラックジョー教えてるんです」
旗野「はぁ、しかし僕は音痴でよく分からんのですが、問題は彼女の両親じゃないですか。ピアノなら良いが、ハーモニカじゃ安っぽいなんて」
ひかる「その点もご心配なく、うまくいったらご両親のほうからハーモニカを勧めるようになりますわ」
旗野「はぁ?」
ひかる「これでも私、色々と地球人の心理勉強しましたの」
旗野「地球人? やだなぁ、それじゃあまるで月先生は人間じゃないみたいだ」
ひかる、うっかり口を滑らせて旗野先生に突っ込まれてしまう。
ひかる「あらっ!」 思わず開いた口に手を当てるひかるの仕草が可愛いのである!
ひかる「あ……、え、いえ、別に、あのそれで、私、明日の日曜日、柴田さんと出掛けますので」
旗野「あ、そうですか、どうぞよろしく。いつも柴田と遊んでいただいて感謝してます」

ひかる「じゃ、ごめんください」
旗野「さよならー」
分かれ道で、にこやかに挨拶を交わして別れる二人。
風でひかるの髪が乱れ、オバQみたいなアホ毛になってて可愛いのである!(なんでもええんか)

ところが、何気なく歩きかけた旗野先生、
「あれ、明日は俺とデートの約束じゃないか!」
と、重要なことに気付いて立ち止まるのだった。
慌ててひかるの姿を求めるが、ムーンライトパワーで自宅へ瞬間移動してしまったのだろう、既にひかるの姿は影も形もないのだった。
それにしても、まだ5話だと言うのにひかるとデートの約束をする間柄になっているとは、旗野先生、モテないという割に抜け目がない。

翌日、一緒にタクシーで何処かへ向かっているひかるとヒロミ。
ヒロミ「先生、私、怖い……」
ひかる「うふ、怖いことなんかあるもんですか……こないだはカメラの前であんなにはっきり喋ったじゃないの」
ヒロミ「でも私、癖になってるもん。もし間違えたら……」
ひかるにすっかり心を開いたのか、それまでとは別人のような率直に不安を吐露するヒロミ。
ひかる「あなた、約束したんでしょ? 何処に行ったから分からないお姉さんにハーモニカ聴かせられるのはこの機会しかないのよ、ね……」
ひかるは優しく励ますと、ハーモニカを持つヒロミの小さな手を、そっと自分の手で包んでやるのだった。
二人が向かっていたのは、さっきのCBAテレビの放送局だった。

アシスタント「CBA、ぼくとわたしのかくし芸、今日は関東地方の小学校の生徒さんにおいでいただきました」
アナウンサー「ではさっそく、出演者の皆さんをご紹介しましょう」
ひかる、これもさっきと同じアナウンサーが司会の素人出演生番組に、ヒロミを出演させるつもりなのだ。
ま、応募者も多く、そう簡単に出演できるとは思えないので、ひかるがムーンライトパワーを使って、ヒロミが出演できるよう細工をしたのだろう。

アナウンサー「さて、君は何をやってくれるかな?」
ヒロミ「ハーモニカを吹きます」
アナウンサーが、ステージの脇に座っている出演者一人一人にマイクを向け、名前と演目を尋ねる。
旗野「あっ、これが俺の振られた理由か!」
定食屋でひとり寂しく丼をかきこんでいた旗野先生、店のテレビにそれが映し出されのを見て、慌てて店を飛び出し、テレビ局へ向かう。担任として、やはりヒロミのことが心配になったのだろう。

アナウンサー「曲は何を聞かせてくれるのかな」
ヒロミ「オールドブラックジョーです」
バル「しょうがない、また余計なことをしておる」
ひかるの下宿の隠し部屋で、ちょうどそのチャンネルを見ていたバル、ヒロミの後ろにひかるが控えているのを見て、ぶつくさ文句を言う。
その放送は、釣りをしていた校長(ラジオで)や、部屋でバットの素振りをしていた(家の中でそんなことするなよ)正夫にも視聴されていた。

母親「ヒロミちゃん……確かにヒロミちゃんだ」
そして、あのお姉さんの母親も。
だが、ここで、お姉さんの遺影がチラッと映ってしまうのが作劇的に惜しいところ。
お姉さんが既に他界していることは、最後の最後まで伏せておくべきだったろう。
さて、ひとりめの男の子がクソみたいな手品を披露した後、早くもヒロミの出番となる。
ピアノの伴奏で吹き始めるが、先ほど懸念していたように、同じところで間違えて演奏が止まってしまい、会場に変な空気が流れ始める。

そばで見ていたひかるも、どうしようかとやきもきしていたが、
旗野「落ち着け、柴田! やるからには最後までやるんだ」
そこへ横から思わぬ援軍が現われる。タクシーを飛ばしてきた旗野先生であった。

制止するスタッフを押し退け、旗野はヒロミの前に立つ。
旗野「先生がここで聞いててやる、とちったら最初からやり直しだ」
アナウンサー「柴田さんには先生が応援に来てくださったようですね。では初めから元気にやりましょうね」
アナウンサーも気を利かせて、そのまま再開させる。
旗野「いけねえ、俺、音楽苦手だったんだ」
定食屋から持ってきた割り箸をタクト代わりに、ヒロミを指揮しようと思った旗野先生であったが、ピアノの伴奏が始まったところで重大なことに気付く。
ひかる(ムーンライトパワー!)
と、すかさずここでひかるがムーンライトパワーを発動させる。
その不思議な力は、音楽の苦手な旗野先生に、プロのような指揮者としての才能を与えると共に、

ヒロミの目に、それがタクトを振るっている、あのお姉さんのように見せるのだった。

懐かしいお姉さんの顔を見詰めながら、ヒロミは無心にハーモニカを吹く。
ヒロミ(お姉さん、聞いてる? ヒロミ、今、一生懸命吹いてるのよ)
お姉さん(ヒロミちゃん、その調子、とっても上手よ)
あるいは、それはムーンライトパワーの作用ではなく、お姉さんの魂とヒロミの心が感応して作り出した本当の奇跡だったのかもしれない。
ヒロミは見事にオールドブラックジョーを演奏し、満場の人々から盛大な拍手を受ける。
ちなみに、出場者の子供の中には、3話のツトム君や9話の井原さんなど、ひかるのクラスの生徒の顔もいくつか見える。
アナウンサー「良く出来ましたねえ、先生のお陰かな」

バル「うむ、でかした」
最初はあんなこと言っていたバルだったが、聞き終わるとそう言って手を叩く。

正夫「やるなぁ」
ヒロミをいじめていた正夫も、思わず感嘆の声を漏らす
校長「うううん、上出来だ」
さきほどのヒロミの返答に顔をしかめていた校長も、釣りそっちのけで聞き入っていた。

ひかる「お姉さんもきっと聞いててくださったわ、満足した?」
ヒロミ、力強く頷く。
なんとなく見えてはいけないものが映っているような気がするが、気にしないように。

そして最後は、お姉さんの母親。
母親「良かったねえ、ヒロミちゃん、約束したとおり、吹いてくれたじゃないか」
顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、娘の遺影に語り掛ける母親。
さっきも言ったように、お姉さんが既に亡くなっていたというハッとするような結末は、ここで明かされるべきだったと思う。
また、ドラマとしてはここで終わりにしたほうが良かったと思うが、まだ時間があるのでもう少し続く。
ま、林寛子さんの遺影のアップで終わるのは、あまりに暗いからね。

旗野「今しがた、柴田ヒロミのお母さんから電話がありましてね、パイトは中止! もう喜んでましたよ、ピアノを買わずに済んで……これでもうあの子も鍵っ子じゃなくなった訳だ」
ひかる「ほんとに良かったですわねえ」
翌日、廊下を歩いていたひかるに、旗野先生が嬉しそうに報告する。
ヒロミの母親、娘がテレビで堂々とハーモニカを吹いたのを見て考え方を改め、パートまでして無理にピアノを買わず、そのままヒロミにハーモニカを練習させることにしたのだろう。
しかし、母親はヒロミにねだられていた訳ではなく、自分からピアノを買ってヒロミにやらせようと思っていたのだから、「ピアノを買わずに済んで……」と言う表現はいささかおかしい気もする。

旗野「でも、僕はますますやりにくくなった」
ひかる「何故?」
旗野「月先生のような心理学の天才と比べられると」
ひかる「まっ、あっ……」
旗野先生の大仰なお世辞に、思わず笑みをこぼすひかるが可愛いのである!
ひかる「天才が忠告しますわ。旗野先生って本来は女性にモテるたちですのよ」
ひかる、お返しとばかり、旗野先生を嬉しがらせるような言葉を投げて、自分の教室へ入っていく。

旗野「えっ? すー、……やっぱり」
一瞬戸惑う旗野先生であったが、しばし考え込むと、とぼけた顔で納得する。
思いっきり寝癖の付いた旗野先生が可愛いのである! 今回これぱっかりである!
……と言う訳で、今回はひかるの教室の様子が一切出て来ないと言う、恐らくシリーズ唯一のエピソードなのだった。

ラスト、再び旗野先生のクラス。
いつものように宿題を忘れたものを立たせるが、ヒロミは、今度はちゃんと宿題を机の上に出す。
旗野「ようし、やる気が出たか、ハーモニカがきっかけになった訳だなぁ……さすが月先生だ」
言いながら、ノートを開くと、手紙のようなものが挟まっていた。何気なく開いて読むと、
「先生、いつかは泣いてごめんね、本当は叩かれて嬉しかったの。私のこと一生懸命に考えてくださってることがわかったから、先生大スキ!」 そう、それは紛れもなく旗野先生へのラブレターであった。
旗野(俺がモテるってこのことだったのか……)
驚いてヒロミの顔を見直す旗野先生。

その旗野先生に、ぎこちなくウインクして見せるお茶目なヒロミなのだった。
ひかる、早い段階から、ヒロミがことさら旗野先生に反抗するのは、旗野先生を嫌いだからではなく、むしろその逆だということを見抜いていたのだろう。
以上、最初に書いたようにひとりの少女の揺れ動く心を繊細なタッチで描いた秀逸なエピソードであったが、管理人が「魔女先生」に求める面白さは稀薄で、内容的にも旗野先生とヒロミのラブストーリーと言っても良いほどで、ひかるやその他のキャラクターの見せ場が少ないのが不満である。
愛しのハルコちゃんなんか、画面の端にチラッと映るだけで、台詞すらなかったもんね。
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