第26話「僕にも怪獣は退治できる!」(1973年9月28日)
今回も、一度スルーしたものの「落穂拾い」です。
冒頭、爽やかな秋空のもと、八幡様でのお祭りの様子が映し出される。

ストーリーとは一切関係ないが、お面屋には、「変身忍者嵐」なども見える。
八幡様の近くを、下校中の健一と、その友人の竹雄少年とが通り掛かる。
健一はお祭りに行こうと誘うが、

竹雄「ダメ、僕は帰って勉強!」
健一「チェッ、ガリ勉ばっかりしてると福助みたいな頭でっかちになるぜ」
竹雄「福助だってひょっとこだっていいや、僕は東大に行ってお父さんのように会社の社長になるんだ」
竹雄少年役は、70年代特撮ドラマにちょいちょい顔を出す高橋仁さん。

それから少し歩くと、彼らの前方に、三人の中学生が小さな子供をよってたかっていじめていると言う、情けなくて涙が出そうな光景が見えてくる。
もっとも、いじめている方も、着ている制服がぶかぶかで実に可愛らしい。
健一も竹雄も、一瞬ドキッとして立ち止まる。

竹雄「下を向いて通るんだぜ、目が合うと、因縁をつけにくるからな」
健一「……うん」
やがて竹雄、そうアドバイスしてそろそろと歩き出す。健一も、なんとなくついていく。
そこを通り過ぎたところで、中学生のひとりが、子供の持っていたタロウのお面を放り投げる。

足元に落ちてきたタロウの面を拾い上げ、真剣な顔で見詰める健一。
竹雄「健ちゃん、帰ろう」
健一「……」

竹雄が促すが、健一はタロウの面を見詰めたまま動こうとせず、だんだんその目が据わってくる。
ウルトラマンタロウの雄姿を思い描いているうちに、悪に立ち向かう勇気が湧いてきたのだろう。

決然と、いじめっ子たちの方へ向き直り、
健一「弱い者いじめはやめろ!」
竹雄「健ちゃん!」
中学生「なにぃ?」 健一「……って、竹雄くんが言ってます」 竹雄「で~~~っ!」 ……嘘である。
たちまち鉾先を変えて健一の前に来て、凄んだり小突いたりする中学生たちであったが、健一は怯まず、やぶれかぶれになって激しく抵抗する。
それに対して竹雄は、「ぼ、ぼくは関係ない。一緒に歩いてだなんだからね」と、情けなくも尻込みして傍観するだけ。

健一も、さすがに相手が中学生三人では手に余り、ズボダロにされかかるが、ちょうどそこへ紙芝居屋のおじさんが通り掛かり、物凄い形相で怒鳴ってやめさせ、三人を追い払う。
仙吉「だいじょぶか、しっかりしろよ」
竹雄「父ちゃん」
仙吉「竹雄、友達がやられてるのに、何故黙って見てるんだ?」
意外にもそれは、竹雄が社長だと言っていた父親であった。
演じるのは、声帯模写の芸人と言うより、鬼平の脇役俳優と言う方が分かりやすい江戸家猫八さん。

竹雄「父ちゃんは僕に喧嘩をしろって言うのかい?」
仙吉「なにぃ」
竹雄「そんなことをしていたら、先生に怒られるぜ。第一相手は中学生じゃないか、やったって負けるに決まってるよ」
仙吉「……」
反省するどころか逆ギレして言い返す息子を、心底情けないという顔で見る笠井仙吉。

そこへパトロール中の光太郎と北島がウルフで通り掛かるが、健一は「武勇伝」を語ることもせず、転んだだけだと言い訳して、ますます株を上げる。
そして、タロウのお面をいじめられていた子供に返して、帰らせる。
健一「あのお面を見なければ卑怯者になるところだった……」
傷付き、汚れていたが、その顔は実に誇らしげであった。

仙吉「じゃ、あとで竹雄と一緒に八幡様へおいでよ、あすこでおじさん、紙芝居やってるからね」
健一「えっ、紙芝居?」
仙吉の言葉に初めて驚きの声を上げる健一。
パッと見では、相手の職業までは分からなかったのだろう。
思わず竹雄の方を見るが、竹雄は嘘をついていたのが決まり悪いのか、紙芝居の道具の後ろに隠れてしまう。
健一「紙芝居、僕大好き、きっと行きます」
仙吉「じゃあ待ってるよ」

北島「紙芝居なんて懐かしいですねえ。子供の頃思い出すな、な、東」
光太郎「いやあ、僕がまだ小さくて可愛かった頃はもうテレビに夢中の時代ですからね」
北島「そうかー、そんなに年違ってたっけ?」
ちょっとした世間話の中でジェネレーションギャップを感じ、軽くショックを受ける北島隊員。
実際、放送時点でも、街頭紙芝居じたい、完全に廃れていた時代だからねえ。
かく言う自分も、街頭紙芝居など一度も見たことがない。

その後、八幡様から続く石段に座り、話している健一と竹雄。
竹雄「父ちゃんが会社の社長だって嘘ついたこと、笑ってるんだろう」
健一「そんなこともうどうでもいいよ。第一、紙芝居屋が何故いけないんだい」
竹雄「チェッ、君のお父さんは船長だろう。やっぱり社長とか、部長とか、長のつく父ちゃんの方が人に自慢できるよなー」
健一「紙芝居屋だって立派な仕事だよ」
竹雄「君が自分勝手にウルトラマンを気取って無茶な喧嘩をするからこう言うことになるんだ」
健一「でもぉ……」
竹雄「だいたい僕は怪獣と喧嘩ばかりしてるタロウなんてだいっ嫌いだ」
健一「分かったよ、僕が謝るからさ、機嫌直して八幡様に行こうよ」
心根の優しい健一は、あくまで低姿勢に終始し、竹雄の手を引っ張るように石段を上がっていく。

心が弾むような祭囃子が絶えず流れてくる境内の隅で、笠井仙吉の創作紙芝居が始まる。
仙吉「今日の話はね、この八幡様が出来るまでのお話だよ。昔々その昔……」

笠井仙吉の軽妙な語りを、飴やイカをしゃぶりながら熱心に聴いている子供たち。
今となってはまず見ることの出来ない光景である。
ま、現在も街頭紙芝居の伝統を守るべく活動している人たちはいるのだろうが……。
その創作紙芝居「どすけべ大奥マル秘伝」……じゃなくて、「妖怪ムカデ伝」の最中、恥ずかしいから行きたくないという竹雄を辛抱強く引っ張って、健一がやってくる。

健一「おじさん」
仙吉「お、二人とも来たな。イカ食えよ」
そう言って、串に刺したイカを二人に差し出す。
このイカが、むしょうに食いたくなった管理人であった。
こういうところで食べる駄菓子って、特別美味しい気がする……。
さて、笠井仙吉が、恐ろしいムカデの姿を、気の毒なくらい必死になって顔芸で演じていると、にわかに空が暗くなり、颶風(ぐふう)が、のぼり旗を食いちぎらんばかりに吹き荒れ、

さらには、神社の狛犬の目が妖しい光を発する。
もっとも、すぐに空が明るくなり、風もやんだので、笠井仙吉は気を取り直して紙芝居の続きを始める。
だが、クライマックス、大ムカデが、神様から授かった特殊な矢で退治される……というくだりで、

突然、八幡様の近くの山が激しい勢いで土煙を噴き上げたかと思うと、山が真っ二つに割れ、その中から、巨大な、それこそムカデの化け物のような怪獣が現われる。
結局、紙芝居と怪獣の出現には何か因果関係があったのか、よく分からないままなのだが、その怪獣ムカデンダーが、伝説で語り継がれてきたムカデの怪物の正体で、大昔、勇者に退治されて長い間地底で眠っていた、と言う解釈は出来そうだ。

ムカデンダーは、真っ直ぐ八幡神社に突進してきて、見物客はパニック状態で逃げ惑う。
必要以上に勇敢な笠井仙吉は、自分が怪獣をひきつけている間に、紙芝居を見ていた小さな子供たちを逃がすのだと健一たちに指示して、単身、怪獣に向かっていく。
やがて光太郎と北島が駆けつけ、地上から光太郎が銃撃を加える。

ムカデンダーは、胴体部分に人が入り、首は操演で動かすという、大掛かりな怪獣であった。
そのうち、口から綿菓子のような糸を吐いて笠井仙吉の身動きを封じ、その上で炎のブレスを吐いて焼き殺そうとするが、なんとか光太郎に助けられて後退する。
八幡様はあえなくムカデンダーに叩き潰される。
笠井仙吉、苦しそうに息を喘がせつつ、竹雄の小さな手を握り締めて、

竹雄「父ちゃん、しっかりしなよ!」
仙吉「竹雄、良く聞くんだぞ」
竹雄「父ちゃんのバカ、一人で怪獣に向かっていくなんて」
仙吉「男には自分の損になると分かっていても、人の為に働かなきゃならんときってものがあるんだよ」
竹雄「父ちゃん、死んじゃだめだよ、僕はひとりぼっちになっちゃうじゃないかーっ」
仙吉「う……そんな時、決して逃げないのが本当の男なんだ。分かるか?」
竹雄「分かんないよ!」 身も蓋もないほど正直な竹雄少年であった。
竹雄「人の役に立ったって、自分が死んじゃうんじゃあ、仕方がないじゃないかーっ」
光太郎「北島さん、早く病院へ」
光太郎、北島に笠井を病院へ搬送させる。
CM後、ZATのホエール、コンドルが出撃し、ムカデンダーに猛攻撃を浴びせている。
ひとしきり砲撃を加えてから、ホエールとコンドルの間にチェーンを繋ぎ、

並行飛行して怪獣の正面から突っ込み、そのチェーンを首に引っ掛けて首吊り状態にするという、なかなかえげつない作戦を仕掛ける。
まさかのZATの大勝利……と思いきや、

突然、その首がピョンと勢い良く飛び出し、チェーンを外してしまう。
首は、胴体にキャッチされると、また元通りにくっついてしまう。
結局ホエールとコンドルは撃墜され、全員脱出してパラシュートで降下する。

ムカデンダー、傍若無人に暴れまわり、住宅地に侵入するが、光太郎が先回りをして火の見櫓の鉄塔に上がり、その触角を狙って銃撃する。
見事、三本ある触覚のひとつを折ったものの、笠井仙吉と同じように、綿菓子のような糸を吐かれ、鉄塔の上から動けなくなってしまう。

それを見上げている荒垣たちのところへ、健一たち、ついで森山隊員と(何故か)さおりさんが合流する。
さおりさんがZATの車に同乗していると言うのは、どう考えても不自然だよね。
さおり「光太郎さーん!」
森山「副隊長、スプレー銃です」
荒垣が無線で頼んでおいたのだろう、粘着質の糸を溶かす特殊なスプレー銃を渡す森山隊員。

上野「僕が行きます」
荒垣「ダメだ、登り始めた途端に奴に気付かれてしまう」
健一「僕なら、柱の陰に隠れながら登っていけます」
ここで、健一が思わぬ申し出をする。自分が行って光太郎を助けようと言うのだ。

さおり「健ちゃん!」
健一「だいじょうぶ、早くしないと光太郎さんが叩き潰されちゃう」
荒垣「……」
さすがに子供にそんな危険なことをさせる訳にもいかず、考え込む荒垣。
などとやってるうちに、今にもムカデンダーが光太郎に炎を吹き掛けようと身構える。

さおり「光太郎さんが!」
荒垣「よし、健一君に頼む!」 頼んじゃったよ、オイ! しかし、怪獣からしてみれば、健一だろうと上野隊員だろうと、サイズに大した違いはないと思うんだけどね。
だが、いきなり健一からスプレー銃を奪い取り、走り出したものがいた。竹雄少年である。

荒垣「ようし、怪獣の注意をこっちにひきつけるんだ」
今更連れ戻すことも出来ず、荒垣は怪獣への一斉攻撃を命じる。
今回、折角森山隊員とさおりさんが揃って出ているというのに、見せ場らしいものはゼロである。
自分が一度スルーしたのも、その辺に不満を感じたからだろう。
で、父親の言葉に奮起したのか、別人のように勇敢になった竹雄によって光太郎は自由を取り戻すが、今度は光太郎と竹雄ごと、ムカデンダーが鉄塔を引き抜いて空に投げ飛ばす。

竹雄を抱いたまま、空中で回転しながらタロウに変身する光太郎。
竹雄はショックで気を失っていたのか、光太郎が変身するところは目撃されなかったようだ。

ムカデンダー、本体である首と、付属品である胴体に自ら分離して、タロウを苦しめる。

にしても、相変わらず尋常でないミニチュアセットの作り込みである。
ここまで来るとほとんど病気である(註・誉めてるんですよ)。

タロウ、再び首が分離したところを素早く飛び掛かって押さえ込むと、その首をねじって、胴体の方を右往左往させる。
どうやら、頭部の触覚によって、胴体部分を操っているらしい。
で、最後は首を空に放り投げ、それを追いかけて胴体が飛んだところを、すかさずストリウム光線で撃破するのだった。
幸い、仙吉は命を取り留め、その後も公園で元気に紙芝居を行っている。
仙吉にとって嬉しいことに、怪獣の一件以来、あれだけ紙芝居の仕事を軽蔑し、恥じていた竹雄が、自ら進んでその手伝いをするようになっていた。
さらに、割り込みをしようとした自分より大きな子供にも臆せず注意して、取っ組み合いの喧嘩になり、遂には屈服させるまでに逞しい少年になっていた。

光太郎「こらっ!」
竹雄「でへっ……」
ちょうどそこへ通り掛かった光太郎に叱られて、照れ臭そうに頭を掻く竹雄少年であった。
以上、子供社会をリアルに描いたら右に出るものはない阿井文瓶氏のシナリオが光る一篇であった。
それだけに、森山隊員やさおりさんのアップがなかったのが惜しまれる。
と言う訳で、「落穂拾い」はこれにて終了。
だいぶ遠回りしましたが、次回、いよいよ最終回です。
- 関連記事
-
スポンサーサイト