第16話「大怪鳥テロチルスの謎」(1971年7月16日)
16話と17話は、怪獣特撮モノとハードボイルド刑事ドラマが融合したような連続エピソードである。

冒頭、夜のヨットハーバーに停泊中のヨットの上で、時代の最先端を行く太陽族の兄ちゃん(註・違います)と肌もあらわなレナウン娘(註・違います)たちが、ガンガン音楽を掛けながら踊りまくっている。
そこへ、潜水服をつけた若い男が闇に紛れてヨットに近付き、船体にダイナマイトを取り付ける。
その若者、松本三郎(石橋正次)は、自分を捨てた幼馴染の女性・小野由起子(服部妙子)とその婚約者を時限装置付きのダイナマイトで吹っ飛ばそうとしていたのだ。
さすが70年代の若者である。
2010年代の腑抜けた若者なら、せいぜいSNSで相手を誹謗中傷するとか、リベンジポルノに走るくらいだが、70年代では、いきなり
ダイナマイトで爆殺ですからねえ。
なにはともあれ今よりよっぽど男らしい時代だったとは言えるだろう。
ただし、その男らしい復讐も中途半端な結果となってしまう。ダイマイトが爆発する前に、ヨットのすぐ上を恐ろしく巨大な怪鳥が舞い飛び、そのあおりを食って由起子ほか数人が海へ投げ出されてしまったからである。
その直後、ダイナマイトが発火し、ヨットは木っ端微塵に吹っ飛ぶ。
由起子とその恋人は無事だったが、死者3名、重傷者2名、泣いた人8人と言う惨事となり、直ちに非常線が張られて、三郎はあっさりお縄となる。
一週間後、アキがMAT本部の郷に電話してきて、由起子と会って話を聞いてやって欲しいと言う。由起子はアキの友人だったのだ。
郷は、公園で由起子と会い、爆発の前に怪獣が飛来したことを聞かされるが、そこへ婚約者の横川が現われて割り込み、由起子を連れて行ってしまう。

アキ「あのひと、YM工業の跡取り息子よ」
郷「ダイヤモンドに目が眩みって訳か」
横川のブサイクな顔を一瞥しただけで、金目当てで婚約したのかと決め付ける失礼な郷。
一応、ヨットの残骸を調べてみると、確かに怪獣に襲われたと思しき痕跡が見付かる。郷は、勾留されている三郎に会いに行き、直接話を聞いてみる。

郷「本当にヨットを自分の手で爆発したのか?」
三郎「あたりめえだ、俺が一人でやったんだ」
郷「君の作った時限爆弾はそれほど威力がないはずだ」
三郎「馬鹿にすんな! 俺が作ったんだ、一月かけてな」

郷「そんなに由起子さんが憎いのか」
三郎「憎いねえ、あいつ俺のこと、カッコ悪いから嫌いになったと言いやがった。ガキの頃からずっと一緒にいて結婚の約束をしてたんだ!」
三郎は、由起子たちも死んだとばかり思っていたのだが、郷の口から二人の生存を知らされると血相を変えて郷に詰め寄る。
三郎「由起子は生きてるんだな? 横川は死んじゃいねえんだな?」
刑事「おい、むしろ喜ぶべきことじゃないか」
三郎「冗談じゃねえや。奴らをこのまま元気にのさばらせといてたまるか!」
なんとなく「ウルトラセブン」の「狙われた街」の取調室を思い起こさせるシーンである。
刑事たちに連れて行かれる間際になって、不意に三郎は「ほんとは怪獣がやったんだ、俺じゃねえんだ!」と叫び出す。
無論、刑事たちはそんな世迷言に耳を貸そうとせず、そのまま三郎を引っ立てていく。
郷「空から黒いものが……小野由起子も同じことを……」
刑事「いやぁ、別嬪を恋人に持つと悲劇ですなぁ。小野由起子も同じ工場に勤めてたんですがね、ある日、会長の息子、今の婚約者です、その目に留まって、本社の秘書課に引っこ抜かれたってわけです」
郷「まるで大根ですね」(註・言ってません)
その後、由起子が海辺の岩場にビーチチェアを置いてビキニの肢体を横たえていると、いつの間にか目の前に郷が立っているのに気付き、驚く。

由起子「郷さん!」
郷「君の言ったこと調査してみたいんだ、協力してくれるね。ヨットハーバーに行こう、あの夜のことを全部知りたいんだ」
由起子も一旦同意するものの、またしても横川が(横川だけに)横槍を入れてくる。
横川「あの事件は刑事事件として決着している筈だ。それを今更穿り出してどうなる?」
郷「今、ひとりの人間が死刑になるかの瀬戸際になっている。放っては置けないよ」
由起子も、婚約者に引き止められると逡巡し、煮え切らない態度を見せる。郷はさっさと見限って、ひとりでモーターボートに乗り込み、エンジンをかけて海面を滑り出す。
だが、動き出したボートを見ていた由起子が急に「待って、郷さん!」と走り出し、横川の制止の声も振り切って水の中へ入る。
ところが、折りから火山灰のように降り始めた雪のような物質と、モーターボートの排気ガスが化学反応を起こして赤い毒ガスとなり、

それを浴びた由起子は、目に激しい痛みを訴える。
由起子「痛い、目が……」
郷「どうしたんだ? さっ」
舷側まで泳ぎ着いた由起子の両脇に手を入れ、勢い良く引き揚げる郷。

この時、若き日の服部妙子さんのお腹が、割と「三段腹幾重」状態だったと言うことがバレてしまう。
正直、三郎のようなイメケンと、横川のような御曹司が必死こいて取り合うような女性なのだろうかと言う気がしたが、しなかったことにして話を進めよう。
由起子は「目が~目が~」と、十八番のムスカの物真似(似てない)をしながら病院へ担ぎ込まれる。
目の部分に包帯を巻いた由起子の病室に、アキも見舞いに訪れる。

郷「しかし、どうしてこんなことになったのかな」
横川「何を言う!
早見優! 君のせいじゃないか。だいたいMATが刑事事件に首を突っ込むからこういうことになるんだ」
由起子「郷さんを責めないで、ボートに近付いていったのは私よ」
視力を失いながらも、由起子は郷を庇う。
その後、旅客機が謎の墜落事故を起こすが、どうやらそれも、巨大怪鳥の仕業らしいことが分かる。

岸田「ヨット事件との共通点はなんだ?」
郷「それは二つの事件が夜に起こっていると言うこと、推測が許されるならば、そいつは夜行性で音に対して凶暴に反応する」
南「音に対して?」
郷「ヨットハーバーであのヨットだけ襲われたのは、大きく音を出していたからだと思われます」
と、そこへ郷に(刑事から?)電話が掛かってくる。
サブちゃんが脱走したと言うのだ。

三郎の見た目で映し出される70年代初頭の商店街の風景。
あいにく、主観映像と言うことで画面がグラグラ揺れているが、普通に商店街を映すだけで、今となっては貴重な風俗資料になっていたのではないだろうか?

郷が由起子の病室に行くと、由起子は郷の手を握り締め、「行かないで! こないだ郷さんが海に来てくれたとき、私はあなたを選びました。いつまでそばにいて!」と、熱っぽく訴える。
……
サブちゃんを捨てて横川に走ったと思ったら、今度は郷になびく。
どう見ても単なる
尻軽女ですね。まぁ、実際のお尻は重そうだったが。

更にまずいことに、花束を手に病室に入りかけたアキが、その光景を目撃してしまう。
考えたら、郷は友人であるアキの恋人なんだよね。次々と男を乗り換えた上に、友人の恋人にまで触手を伸ばそうとする……なんか由起子が完璧な性悪女に見えてきた。
まぁ、彼女の為に弁ずるならば、三郎に殺されるかも知れないと言う恐怖で一種の錯乱状態にあり、縋れるものなら何でも縋りたい精神状態にあったのだろう。
軽いショックを受けるアキの肩を叩いたものがいる。横川であった。

横川「郷隊員の態度、どう思う?」
アキ「どうって?」
横川「朝から晩までああやっていちゃついてるんだ。あんた恋人なんだろう。しっかり捕まえといてくれよ」
ブサイクの横川からも苦情を言われ、穏やかならない顔付きになるアキ。
CM後、本部に戻った郷に加藤隊長が苦笑いを浮かべながら話しかける。

加藤「実はな、今日、YM工業の社長から抗議があってな。MATの隊員が息子の婚約者を唆して困ると言うんだ」
郷「調査に協力して貰ってるだけです。心外だなぁ」
加藤「君の仕事熱心がそういう風に受けとられては大変なマイナスだ。脱走犯は警察に任せて、君は怪鳥を追うんだ」
郷「はい!」
がむしゃらに行動する若手隊員に、社会的地位のある人間から圧力がかかる。その前の横川とアキの会話もそうだが、とても子供向け特撮ドラマとは思えないリアルな描写である。
それにしても、加藤隊長の塚本信夫さんは防衛隊の隊長としてはちょっと優し過ぎる気がする。
個人的には大好きな俳優さんだけど、後の根上淳さんへの交代は、結果的には正解だったと思う。
その夜、ついに東京上空にあの怪鳥テロチルスが侵入し、ビルのひとつに糸のようなものを吹きかけ、迎撃に出た防衛軍(自衛隊?)の戦闘機を撃墜すると、再び洋上へ消え去る。

翌朝、あのビルが繭のようなものにすっぽり包まれているのを見て、住民たちが口々に騒いでいる。
さらに、空からはまたしてもあの雪のような物質が降ってくる。

切れ目なく続く車の洪水の映像と、化学物質の濃度を示した電光掲示板がカットバックされる。

当然ここでも、あの雪のような物質と排気ガスが化学反応を起こし、人の視力を奪う赤い毒ガスが発生し、車道はパニック状態になる。

そうとは知らない次郎などは、傘を逆さにしてそれを集め、「雪だ雪だ」とはしゃいでいた。
アキ「ほんとに雪みたいね」
坂田「おい、二人とも、郷が今調べに行ってるんだから、それまであんまり触ったりしない方がいいんじゃないのか?」
アキ「郷さんは仕事仕事で、私たちのことなんか考えてないわよ!」
坂田が注意するが、アキは不機嫌そうに突っぱねる。
と、すぐに郷が駆けつけ、エンジンをかけないよう坂田に指示すると、アキの持っていた傘を乱暴に叩き落す。

アキ「何するの?」
郷「これは雪なんかじゃない。排気ガスと化合すると猛毒になるんだ」
アキ「郷さんの知ったことじゃないでしょ!」
郷「バカッ!」 アキが不貞腐れたように言い返すと、郷はいきなりその頬を引っ叩く。

坂田「……」
アキの実の兄の坂田、目の前で妹が引っ叩かれても顔色ひとつ変えず、それどころか、未来の夫婦喧嘩でも見たように、微笑する。

郷「一体どうしたってんだ、素直なアキちゃんは何処行ったんだ?」
アキ「……」
重苦しい空気になるが、その時、病院の由起子からアキに電話が掛かってくる。

由起子はアキの口を通じて、雪のような物質が硫黄の臭いがすること、ヨットが襲われた時も同じ臭いがしたことを郷に伝える。
郷「しかし、何故硫黄の臭いがするんだ?」
アキ「由起子さんは子供の頃登った硫黄山と同じ臭いがするって言ってたわ」
坂田「火山だ」
郷「分かったぞ、こいつを運んでくる気流を遡り、噴火口をみつけりゃいいんだ。じゃ俺は早速!」
坂田「気をつけろよ」
仕事となると他のことが眼中になくなる郷は、アキに謝ろうともせずさっさと行ってしまう。

アキ「……」
濡れた目で、郷の行った方を見詰めているアキ。

坂田「東北辺りでは、風花といってね、青空なのに雪がちらつく時がある。まるで花びらのようにひらひら舞うんだな。その風花を見ると、ああ、冬が来たんだなってそう思うんだ」
坂田、アキの髪の毛についた雪を払ってやりながら、優しく囁く。
間違っても、こんな場面で坂田に「気にするな」などと言う陳腐な台詞を言わせないのが、さすがのセンスなのである。

郷は小さな手漕ぎ舟で、硫黄山のある悪島へ渡る。
ガスが発生するので発動機が使えず、船頭さんはヒーヒー言いながら艪を動かさなくてはならなかったが、郷は何もせずに座っていただけだったので、とてもラクチンであった。

悪島は岩だらけの島で、山頂に登るには、こんなことをしなくてはならなかった。
これは、さすがにスタントがやってるんだろうと思うが、当時のことだから、役者本人が演じている可能性もありそうだ。
なんとか硫黄山の頂上に辿り着き、蒸気を吹き上げる噴火口を覗き込むと、

割と可愛らしいテロチルスさんが盛んに白いガスをお吐きになっておられた。

で、まぁ、色々あった挙句、郷がウルトラマンに変身してテロチルスと戦うが、最初に書いたようにこのエピソードは2話構成なので、決着がつかないまま17話へ続くのだった。
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