「男はつらいよ」レビュー 第14作「寅次郎子守唄」（1974年）

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●作品鑑賞

　第14作「寅次郎子守唄」は1974年12月27日公開、併映は「ザ・ドリフターズ　極楽はどこだ」で、観客動員226万。

　

　冒頭、江戸川の土手を勇ましく自転車でぶっ飛ばすさくらさん。

　

　尋常ならぬ顔色でとらやに駆け込む。
　さくら「博さん、どこ？」
　おばちゃん「さっき病院行った」
　さくら「どこの病院？」
　おばちゃん「どこだったっけ」

　どうやら、博に何かあった様子。

　

　おばちゃん「ちょっと、あんた、病院どこなの？」
　裏の印刷工場へ向かっておばちゃんが声を掛けると、いきなり見も知らぬ男が飛び出てきたので、ぎょっとするさくらさん。

　……じゃなくて、今回からおいちゃん役が松村達雄から下條正巳にスイッチしたのである。確か、松村氏の健康問題が原因じゃなかったかな？　個人的には松村達雄の方が好きだけど、ただ、松村達雄だと甥の寅とあまり年齢差がないように見えるからなぁ。と言っても、松村と下條はほとんど同年齢なんだけどね。

　おいちゃん「吉田病院、2丁目の……」

　

　無論、さくらさんはその病院へ行く。博はまだ治療を受けていた。それを不安に包まれて待つさくらさんの横顔。タコ社長たちもいるので、仕事中の事故らしい。

　

　が、ほどなく現れた博は、右手を包帯で巻いていたが、顔色は明るく、大した怪我ではなかったらしい。

　全身で安堵するさくらさん。この安心の仕方が、単に愛する夫が無事だったと知ったと言うより、仕事ができなくなって生活が困窮することへの不安が払拭されたと言う、実感のこもった感じで、とてもリアルである。

　

　とらやに戻って事故の様子を話す博だが、さくらさんは「やめて！」と耳を手でふさいでしまう。

　そんな折、寅が帰ってくる。寅は自分の葬式費用くらい貯金していると言っておいちゃんたちを感心させるが、図に乗って自分の葬式をひとり語りで賑やかに演じてしまい、結局みんなにバカにされる。

　で、喧嘩になってそのまま寅は家を飛び出してしまう。シリーズの中でも最短の滞在記録ではないだろうか？

　

　寅は佐賀県にやってくる。

　そこで、赤ん坊を抱えたワケありの男女を見掛ける。男（月亭八方）は赤ん坊を産み捨てた女を捜しに出掛けるところらしい。なにくれと世話をしている女（春川ますみ）は、赤ん坊の母親の踊っていたストリップ小屋の仲間らしい。

　

　月亭八方を送り出した後の二人の会話が良い。

　春川「ああ天気のよか」
　寅「ここで踊ってんのかい」
　春川「こんな景色のよかところ来てくらかところで女の裸見てどこがよかつかねえ～」
　寅「ふふっ別に裸見るわけじゃねえよ。姉さんの芸を見に来たと思えば腹もたたねえだろ」
　春川「兄さん、よかこと言ってくれるね」

　この後、ストリップ小屋のかぶりつきで女の裸を凝視する寅だった（註・嘘です）

　その後、寅は旅館で月亭八方と会い、色々と慰めて励ましてやる。それはいいが、翌朝になると、男は赤ん坊を寅に押し付けてトンズラしていた。

　寅は赤ん坊を背負って、とらやまで帰るのだが、うーん、普通はさっきの春川ますみに事情を話して赤ん坊を引き取ってもらうのが筋だし、安全だと思うけどね。実際、寅がずっと夜汽車で赤ん坊を背負って移動したため、赤ん坊は熱を出してしまったわけだし。

　

　とらやでは、博の怪我も順調に回復していた。いい年こいたさくらさんの、ミニスカに白のハイソ姿がたまりませんねえ。

　そこへ赤ん坊抱えた寅が帰ってくる。軽いパニック状態になるとらや。

　

　しかも疲れ果てた寅次郎が何の説明もないまま眠ってしまったため、さくらたちは赤ん坊が寅次郎の子供だとばかり思い込み、悲嘆に暮れる。

　何故かと言うと、寅が結婚もしないで子供を作ったことを恥じているのだ。しかし、たとえそうであろうと、寅に子供や女ができたことは喜ぶべきことだと思うんだけどね。ま、1974年の話だからね。

　漸く起き出した寅の説明で、やっと愁眉を開くさくらたち。だが、前述したように赤ん坊が発熱しているので、さくらたちは例の吉田病院へ赤ん坊を担ぎ込む。

　

　なんだかんだで、そこの看護婦である十朱幸代と会ってしまう寅。

　自分が連れてきたくせに赤ん坊の世話を人任せにしていた寅が、十朱幸代が来た途端、赤ん坊を我が子のように可愛がる。その白々しい態度に、この後、さくらたちにシカトされる。

　この十朱幸代のマドンナ、看護婦としても女性としても完璧超人なのだが、個人的にはマドンナとしては歴代最低の魅力のなさである。一応、寅も惚れるのだが、家族ぐるみで付き合っている感じで、従来と比べて、寅の熱もあまり高くない。

　

　彼女は他の勤労者と共に、コーラスグループなどを結成しており、休みの日には熱心に練習をしているのだった。恐るべし70年代。

　その後、春川ますみが月亭八方を連れてとらやにやってくる。そして自分が責任持って育てるからと、赤ん坊を引き取る。おばちゃんは可愛がっていた赤ん坊がいなくなって悲しむ。

　飽きたのであとは簡単に書くと、コーラスグループの指揮をしていた青年・上条恒彦とちょっとしたことから知り合う寅。

　

　彼が十朱幸代に惚れていると知った寅は、恋愛指南をする。

　寅「思い切って何でも言ったらいいさ。惚れていますとか、好きです、とか」
　上条「そしたらどうなりますかねえ」
　寅「断られるのに決まっている」
　上条「なんだぁ」
　寅「しかし無駄ではないのだよ。お前がそれで諦めることが出来るから、また別の角度のおたふくを探し出していけばいいんだ。分かったか青年」

　考えたら、寅がマドンナに恋する別の青年に恋愛指南をして成功させるパターンはこれが最初だったんだな（第1話の博＆さくらは別にして）。後半、寅が年を取ってからは、ほとんどそのパターンになってしまうが。

　酔った勢いで上條恒彦は十朱幸代に告白し、めでたくゴールイン。

　

　結果的に恋のライバルを助けてしまった寅だが、今回はさほど気にしていない様子。

　最後、再び佐賀へ行き、春川ますみと再会。今では月亭八方と一緒になって赤ん坊を育てていると聞いて、笑顔を見せる寅だった。

●評価

　ストーリーと言い、マドンナと言い、平凡な作品。レビューしてもあまり面白くない。

　★★☆☆☆（2点/5点中）