第25話「ふるさと 地球を去る」(1971年9月24日)
冒頭、都内で建築中の高級マンション。
ところが、不意に建物が激しく唸り始め、作業員は地震だと思って慌てて避難するが、

周囲の足場が崩れた後、

まるでダイナマイトでも仕掛けられたように、外壁が勢い良く弾け飛び、

さらに、それらコンクリート片だけが、何かに吸い寄せられるように宙へ浮かび、そのまま空の彼方へ消え去ってしまう。

何故かコンクリート以外の構造、つまり鉄骨はそのままの形で残っていた。
しかし、コンクリートが全て剥れたのなら、鉄骨はもっと歪んでないとおかしいと思うけどね。
それでも、この一連の素晴らしい特撮ショットだけで元(?)は取れたようなものである。
爆破して破片が浮き上がるのは、セットを逆さまにして撮ってるのかなぁ。
しかし、壊れたのはそのマンションだけで、周辺地域では何の異変も起きておらず、少なくともただの地震によるものでないことは確かだった。
また、吸い上げられたコンクリート片は、そのまま大気圏を抜けて、猛スピードで銀河系第三惑星ザゴラス星へ向かっていることが判明。ザゴラス星の引力によるものらしい。
コンクリートに使われた砂利が、群馬県愛野村と言う、ラブホが乱立している(註・してません)人口200名足らずの農村のものであり、またマンションの崩壊と同じ時刻に地殻変動が観測されていることから、伊吹隊長は郷と南を、愛野村の地質調査へ派遣する。

MATジャイロのペアシートに座る郷と南、あっという間に愛野村上空へ到達する。
南「小さな村だねえ、俺の故郷に良く似ているよ」
郷「長野でしたね。腕白だったんでしょうね」
南「とんでもない。ガキ大将から泣かされっぱなし、先生からは怒られっぱなし、じゃみっ子、じゃみっ子って、散々だったよ」
郷「じゃみっ子? 何のことですか」
南「カイコを知ってるだろう。中には繭を作らないサナギもいるんだ。親から糸を吐くことを教えられなかった、誰からも構われない子供のことをそう呼んでさげすむんだ。じゃみっ子……」
いつも明るい南隊員、見掛けによらず、暗~い少年時代を過ごして来たらしい。
南隊員の思い出話を聞いていた郷は、
郷「……南隊員、それ先週も聞きましたけど」 南「え、あ、そうだっけ?」

で、まぁ、予想通り、その村にも、まさに「じゃみっ子」と呼ばれている子供がいたのだった。
六助と言うその少年、その時も、暗い木造校舎の片隅に、両手に水の入ったバケツを抱えて俯き加減に立っていた。先生から罰を与えられているのだろう。

進「お、じゃみっ子がまた立たされてるぞ」
子供「女の子泣かせたんだろう」
進「こいつが女の子泣かせるもんかよ」
子供「女の子に泣かされたんだ」
子供「バケツ重いかぁ?」
ガキ大将らしい進という少年とその仲間が来て、いつものように六助をからかう。
その進を演じているのは、後のゴーグルイエローこと藤江喜幸さん。それと、右端の子は、星雲仮面マシンマンこと佐久田修さんである。二人が同時期の「魔女先生」にも出ているのは言うまでもない。
子供に聞かれて六助が頷くと、進が「じゃあ俺が軽くしてやるよ」と、そのバケツの水を六助の頭からぶっかける。

進「はっはははっ」
子供「どうだ、軽くなったろう」
子供「なんとか言えよ、弱虫」
子供「もっと軽くしてやらぁ、ほら」
今度は、もうひとつのバケツの水を、佐久田さんがぶっかける。
ゴーグルイエローとマシンマンが、昔はつるんでイジメをしていたとは……ヒーローの黒歴史である。
進「おい、軽くなったろ。じゃあ礼を言えよー」

六助、「じゃみっ子」にふさわしく、そんなことをされて怒るどころか、その場に手をついて「ありがとう」と頭を下げる始末だった。
えげつないイジメ描写だが、トラウマ級の33話に比べれば、まだ生温い。

と、そこへ先生が来たので進たちは脱兎のごとく逃げ出すが、
先生「またビショビショにして……進たちにいじめられたのか」
六助「……」
先生「じゃあどうしたんだ、お前がわざとやったのか? どうなんだ」
六助「……」
先生「まったくしょうがないじゃみっ子だなぁ、お前は」
六助が、ひたすらウジウジしているので、先生からも呆れたような声で叱られる。

結局、また別な罰を与えられたのか、校舎の前の青銅製の彫像の前に立たされている六助であった。

南「(中略)誰とも、一度も戦ったことがなかったんだ」
郷(もう、ほんと勘弁して欲しい……)
地上に降りてからも、南隊員の懐旧談は続いていた。
ある日、村に熊が出て、南隊員は猟銃を持ち出して熊に向かって行ったことがあると言う。
郷「なんでそんなムチャを?」
南「俺が正真正銘の弱虫だったからさ。ムチャってのはね、逃げ場もないほどいじめられ、追い込まれたものにしか出来ないんだ」
郷「熊は射とめたんですか?」
南「さすがに面と向かったら腰が抜けてね……熊は猟師が射とめてくれた」

南「だがそれで自信がついた。ヤろうと思えば熊とでもヤれると言う自信がな!」
郷「はぁー、凄いですね。熊とヤっちゃうんですか?」
南「おいっ、何か勘違いしてるだろっ?」
じゃなくて、
南「だがそれで自信がついた。やろうと思えば熊とでもやれる自信がな!」
郷「でも、南隊員は腰抜かしただけで、熊を倒したのは猟師だったんでしょう?」
南「……」
でもなくて、
南「だがそれで自信がついた。やろうと思えば熊とでもやれる自信がな! それ以来、いじめっ子たちも一目置くようになったよ。ははははは……」
さて、地質調査を行った二人は、村全体が円を描くように少しずつせり上がっていること、その5メートル下が、緑色の奇妙な岩石の層になっていることに気付く。

と、急に地面が揺れ始めたかと思うと、地中から、ムツゴロウのような可愛らしい怪獣が出現する。
二人はMATジャイロに乗り込み、攻撃を加えるが、怪獣ザゴラスも口から炎を吐いて反撃する。
怪獣はほどなく地中に姿を消し、二人の持ち帰った緑色の岩石は、地質化学班によって分析される。

班長「我々が知る限り、地球上のマグマの分別でこのような組成の地質が作り出された歴史はありませんな」
伊吹「やはり地球上のものではないと言うことですな」
班長「ええ、この岩石が放射性元素と緑色の鉱物メルライトを含んでいる点から考えても有史以前にザゴラス星から落下した隕石と見て間違いないようですな」
伊吹隊長に説明する白衣の研究員を演じるのは、ドクターマンこと幸田宗丸さん。

伊吹たちは愛野村へ飛び、そこにテントを張って作戦本部とし、近隣住民を集めての説明会を開く。
こう言うリアルなシーンって、普通の特撮では滅多に見られないよね。
伊吹「ザゴラス星の隕石は直径三キロの巨大な岩石で愛野村はこの岩石の真上に位置しております」

駐在「地震とその隕石とどう言う関係があるんですかな」
伊吹「隕石の母体であるザゴラス星の引力が隕石に含まれている放射性元素、及びメルライトに作用してこれを引っ張り上げようとしているんです。村全体がせり上がっているのはその為で、ほうっておけば村ごと隕石と共に宇宙に運び去られてしまうでしょう」
後ろに控える丘隊員の氷のような目が、
「あんたたち無教養な田舎モノとは、住む世界が違うのよ! とりあえず女王様とお呼び!」と語っているように見えるのは、頭のおかしい管理人だけです。
伊吹隊長の見解によると、怪獣ザゴラスは、隕石の中の微生物が、放射線によって突然変異を起こしたものらしい。

その頃、六助は好奇心からMATの仮設倉庫の中に入り込み、積まれているケースをいじっていた。

無論、全てのケースにはしっかりロックが掛かっていたが、MATガンを入れたケースだけ掛け忘れていたのか、簡単に開いてしまう。
六助「ああー、凄いなぁ……ようし」
MATガンを構えてうっとりしていた六助、急に何かを思いついたように目を輝かせる。

隊員たちは、とりあえず村人たちを隕石の上から避難させていた。
当時は、ちょっと田舎へ行けば、普通に藁葺き屋根の民家を見ることができたのだなぁと、ちょっと感慨深いものがある。
学校では、進たちが力を合わせてオルガンを運び出そうとしていたが、そこへMATガンを胸に提げた六助がやってきて、

六助「お前たち、逃げるのかー」
先生「六助、何をうろうろしてんだ」
六助「俺は逃げたりなんかしないぜー、怪獣と戦うんだ。お前たち、ついてこないか?」
「じゃみっ子」とは思えない、ハキハキと威勢の良い喋り方で宣言し、進たちをも誘う六助。
しかし、さしあたり六助に危機が迫っている訳でもないのに、急に別人のように勇ましくなるのは、ちょっと違和感がある。それはまぁ、南隊員の幼少時の熊騒動についても言えることだが。
先生は、六助の持っているMATガンを取り上げようとして揉み合いになり、

銃が暴発して、あわれ、近くに立っていた創立者(?)の像が吹っ飛ばされてしまう。
六助「みんなついてこないのなら、俺ひとりでやるぜ!」
急にハードボイルド口調になった六助、先生たちの止めるのも聞かず、走って行ってしまう。
その銃声を聞きつけて近くにいた郷と南が駆けつけ、六助を追いかける。
二人は森の中で六助に追いつき、MATガンを取り上げようとするが、
六助「怪獣と戦うんだ!」
郷「お母さんが心配するぞ」
六助「母ちゃんは出稼ぎに行って村にいはない。父ちゃんは死んじゃったい」
南「じゃあ君は一人きりなのか……それで、じゃみっ子か」

六助「……」

南「弱虫なんだね、君も?」
六助「……」
南「友達からいじめられても喧嘩なんか怖くてやったことがない!」
六助「……」
南「先生から一度も誉められたことがなく、叱られてばかり!」
六助「……」
南「毎日スカートめくりしまくって、半殺しの目に遭っている!」 六助「……」
南「新任の女性教師にセクハラしまくって、休職に追い込んだ!」 六助「……」
南「みんなの給食費を盗みまくって、競艇通い!」 六助「……」
郷「……あんた、どう言う少年時代送ってたんですか?」 ……途中から嘘である。
自分の身に照らし合わせて、六助の惨めな境遇をズバスバ指摘した南隊員、

南「郷、この子に戦わせてやってくれないか」
と、とんでもないことを言い出す。
南「多分生まれて初めて何かと戦おうとしてるんだ」
郷「しかし……」
などとやってると、都合よく彼らの眼前にザゴラスが出現する。

南「さあ、撃つんだ」
六助「……」
南「さあ、撃て!」
南、六助をけしかけて、本当にMATガンを撃たせてしまう。
はっきり言って、これだけで南隊員、懲戒免職、少なくとも停職6ヶ月はかたいと思うけどね。
郷は郷で、それを止めるどころか、
南「よし、二手に別れよう」
郷「頼んだぞ」
と、六助の肩に手を置いて発破をかける始末。

南「よし、行くぞ!」
六助と一緒に、銃を撃ちながら走り出す南隊員。
「子供にサブマシンガンを撃たせるとは何事か!」と、当時、PTAなどから苦情が来たことだろう。
自分もあまりそういうことに目くじらを立てるのは嫌いなほうだが、さすがにちょっとまずいのではないかと思う。せめて、最初の一発だけで
「よし、後は俺たちに任せるんだ」程度にしとくべきだったろう。

南「もっと接近するぞ、怖くないか?」
六助「怖くなんかありません」
南「ようし、レッツゴー!」 さすがに調子に乗り過ぎの南隊員。

乗り過ぎついでにそのまま怪獣に向かって突っ込んでいき、見事、六助と一緒に怪獣に踏み潰されたそうです。合掌。
しかし、実際、仮に六助が怪獣に殺されていたら、MATそのものの存廃に関わる大問題になっていただろう。

伊吹「丘隊員はMATジャイロで三人を救出」
丘「はいっ」
伊吹「他のものは怪獣を地底に追い込むのだ」
郷から知らせを受けて、テキパキと指示を下す伊吹隊長。
無論、郷は、南と一緒にいると言うだけで、子供がMATガンを撃ちまくっているとは報告しない。
MATジャイロ、MATアロー1号各機が隊員たちを乗せて離陸する。
だが、その直後、崖崩れが起き、南たちは生き埋めになってしまう。

隕石が隆起して出来た巨大な断層の前に立つザゴラス。
MATアロー1号が攻撃を加えるが、そうしているうちにも隕石はぐらぐらと揺れ動き、今にも地表から剥ぎ取られそうな状態になる。

と、土砂に埋もれた郷が、右手を突き出し、

その右手が青白い光に包まれたかと思うと、ウルトラマンに変身する。
ザゴラス、元はただの生物だったので、知能は低く、特に害意がある訳でもないので、ウルトラマンに少し殴られると、

すぐに怯えたように体を丸め、戦意を喪失してしまう。
だが、ウルトラマンが容赦なく後ろから飛び掛かってその首を捩じ上げたので、ザゴラスも怒って反撃してくる。

やがて、遂に隕石全体が轟音を響かせて大地から離れ、浮上を開始する。

MATジャイロの丘ユリ子お姉さまも、思わず頭上を振り仰ぐ。

だが、飛行するMATジャイロの後ろからパーツが外れてしまうのが、ウルトラシリーズでは珍しいミス。

猛烈な風が吹く隕石の上で、なおも死闘を演じているウルトラマンとザゴラス。
しかし、ほうっておけばこのまま怪獣は隕石ごと宇宙の彼方へ飛び去るのだから、無理に戦わずとも、さっさと南隊員たちを助けて降下すればいいと思うのだが……。
戦いの最中、必死に岩や木にしがみついていた南隊員と六助が、強風に押されて隕石から落下してしまうが、すかさずウルトラマンがウルトラブレスレットを投げて変化させ、二人の体を特殊な丸いボールの中に封じて、ゆっくりと地面に降下させる。

ウルトラマン、残り少ないエネルギーを振り絞って、ザラゴスの体を抱えて隕石から飛び出す。
てっきり、そのまま隕石と一緒にザゴラス星へ帰してやるのだと、「タロウ」を見るような感覚で予想したのだが、その考えは甘かった。

ウルトラマン、しばらく飛行してからUターンし、猛スピードで隕石に突進して行き、ぶつかる直前に、ザゴラスの体を放し、隕石のコースから逃げる。

あわれ、ザゴラスは隕石とまともに衝突し、隕石もろとも木っ端微塵に砕け散るのであった。
……
あんたは鬼か? なんでそのままザゴラス星へ行かせてやることが出来なかったのか、あえて言わせて貰えるなら、
頭がおかしいとしか思えない蛮行であった。
それに、直径三キロもある隕石が、怪獣がぶつかったくらいで粉々に壊れる筈がない。
また、砕けた隕石の落下により、山野に甚大な被害が出たことも間違いない。
どこからどう見ても、このウルトラマンの行動は疑問だらけである。

さて、不思議なボールに包まれて地面に降り立った二人、気がつくと、池のそばに立っていた。
六助「ウルトラマンが助けてくれたんだ」
南「うん、良く戦ったな!」

と、向こうから郷も手を振りながら駆けて来て、無事な姿を見せる。
この、思いっきりロングで、人が小さな影のように見える映像に、いかにもセンスの良さを感じるのだ。
結局、愛野村は消滅してしまい、いずれ六助も別の場所に移り住まねばならなくなった訳だが、南隊員は、「挫けそうになったら思い出すんだ、僕は昔、ふるさとで怪獣と戦ったことがあるんだってな」と、無責任に励ます。

六助、まだ手放そうとしないMATガンにいとおしそうに頬擦りすると、
六助「また起こらないかな、今度はもっと撃ちまくってやる」
そう言うと、ほんとに空に向けてMATガンを撃ちまくるのだった。
何故か止めようとせず、その姿をじーっと見ている南隊員と郷。

南「もうよせ!」
そろそろ弾がなくなりそうなほど撃ったところで、やっとMATガンを取り上げる。

そして、少年の、少し潤んだつぶらな瞳を長い間、見詰める。
てっきり、管理人、
「本当に強い男は武器に頼ったりしないゾ!」「戦うってことは、銃を撃つことだけじゃないんだゾ!」などと、教育的説教をするのだと思ったのだが、

急に張り詰めていた表情を解いて、ニカッと白い歯を覗かせると、
南「もういいだろ?」 ……
そんだけかいっっっ!!! もう、何がなんだか分からない……。

上空に、MATジャイロが見え、操縦席から丘隊員が珍しくキャピキャピした仕草で手を振るのがめっちゃ可愛いのである!
だが、そのまま、2機のMATアロー1号と一緒に、夕日の向こうへ飛んで行ってしまうのには、首を傾げてしまう。伊吹隊長から、三人を救出しろとも言われていたのに。

だから、ラスト、夕焼けをバックに手を振る郷たちが、「おーい、俺たちも乗せて行ってくれーっ!」と叫んでいるようにしか見えないのである。
二人が乗っていたマットビハイクルも、隕石ごと持ち上げられてぶっ壊れてる筈だしね。どうやって帰りゃいいのよ?
あと、サブタイトルの「ふるさと地球を去る」と言うのは、愛野村を乗せた隕石がザゴラス星へ帰っていくことを言っているのだが、ほんとは帰ってないじゃん。行く途中にウルトラマンに壊されてるじゃん。
以上、壮大だが、色々と突っ込みどころの多い変なストーリーであった。
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