第163話「のぞきは下手な鬼同心!」(1986年7月26日)
久しぶりの「暴れん坊」のお時間です。
今回は、つい最近亡くなられた下塚誠さんへ哀悼の意を込めて、下塚さんがゲスト出演された「2」の第163話を紹介してみたい。
にしても、
「暴れん坊将軍」って、冷静に考えると物凄いタイトルである。
なお、続編に、「三男坊将軍」「からまん棒将軍」「中性脂肪将軍」などがあるが、嘘である。
ちなみに、全然関係ないことだが、テレ朝系列では、この163話が放送された同じ日、163話の直前の午後7時半からの「部長刑事」に、ダイナレッドの沖田さとしさんが、163話の直後、すなわち午後9時2分からの土曜ワイド劇場「瀬戸内海婚約旅行殺人事件・淡路人形に狙われた女系家族!」に、ダイナブラックの春田純一さんがそれぞれ出ている。
さて、冒頭、左右の出店で道が狭くなるほど混雑している通りに、ふらりと新顔の同心・桜井直吉(松山政路)がやってくる。
やくざ風の男がからかい半分で直吉にちょっかいを出してくるが、直吉は鬼のような形相でやくざを投げ飛ばし、執拗に追いかけ、ボコボコにする。

たまたまそこへ通り合わせた将軍・吉宗が……将軍がたまたま通り合わせるなよぉ……いや、新さんこと徳田新之助が、見兼ねてそれをやめさせようとする。
新之助「いい加減にしろ、死んでしまうぞ」
直吉「いってえなぁ、その手を放せよ……」
やくざを蹴り飛ばして追い払うと、
直吉「何事も最初が肝心でね、あんた一体、何者だ?」
新之助「め組の居候だ」
ややこしいので、以下、新之助のことは吉宗で統一する。

直吉「そおかい、あんたが新さんとか言う暴れん坊かい」
吉宗「お前の方がよほど乱暴じゃないか……町回りの同心のようだが」
直吉「本所からけえってきたんだ」
吉宗「本所の奉行所か」
直吉、「顔貸しな」と、吉宗を何処かへ連れて行く。
ナレ「享保4年の夏、幕府は行政改革の一環として本所奉行所を廃止した」
ちなみに同じ享保4年まで、中町奉行所と言う奉行所があったことはあまり知られていない。
さて、喧嘩っぱやい直吉は、吉宗と人気のない場所で、負けた方がこの町から去るという条件で殴り合うが、なにしろ吉宗の戦闘力は888億(概算)である。あえなく、ぶちのめされる。
そこへ、め組の連中と一緒に、直吉の妹・多恵(小林かおり)が駆けつける。

かおり「お兄ちゃん! しっかりして」
吉宗「知り合いか?」
久「へ、桜井直吉さんってんですよ」
龍虎「6年ばかり本所へお勤めでしてね。今度、八丁堀へ戻ってきたんですよ。えいっ」
説明しながら龍虎がカツを入れると、直吉は目をギョロッとさせて意識を取り戻す。
多恵「お兄ちゃん」
直吉「あれ、多恵、どうしてここに?」
多恵「もう、相手はお旗本の徳田新之助様だよ、勝てる訳ないでしょう」
直吉「うるせえ」
負けず嫌いの直吉、妹の手を振り払い、
直吉「この勝負、しばらく預けるからな。いいな?」
吉宗「強情な奴だな、め組で手当てしよう」
め組で傷の手当てを受ける直吉。本所の鬼吉とあだなされている直吉は、2年前、薬種問屋に入り込んだ賊を二人も斬り殺したのが自慢だった。
同じ頃、め組では、伊勢屋の若主人・治平次がおさいや近所の若い女性を集めて、商品の伊勢白粉の実演販売をしていた。

で、直吉とは対照的な、一見優男風の治平次を演じているのが、近頃鬼籍に入られた下塚誠さんなのである。

治平次「このように、鼻の両筋、目じり、まぶたまでようくすり込んでいただきます」
おさい「なんだか、伊勢白粉は良いわねえ、こう、すべすべっとして……」
直吉「おーら、ちょっと待ちな」
治平次「桜井様!」
二人は以前からの顔見知りであった。

直吉「おう、この荷の中は白粉だけか」
治平次「さようでございますが」
直吉「近頃な、にせ金の仏像が出回ってんだよ」

直吉「調べさせて貰うぜ」
そう言うと、乱暴に治平次の商売道具をひっくり返してしまう。
多恵「お兄ちゃん!」
直吉「うるせえ、お前は黙ってろ。治平次、てめえ隠し事すると承知しねえぞ」
それにしても、可愛い女の子に「お兄ちゃん!」と呼ばれるのは実に気持ちの良いものです。
もっとも、江戸時代に、そんなエロゲーみたいな呼びかたしてる武家の女性は、多分いなかったと思いますが……。
時代劇でも「お兄ちゃん」と言うのはあまり聞いたことがない。せめて「お兄様」くらいにしておこうよ。
おさいは、多恵と吉宗を連れて台所へ移動する。

吉宗「直吉は少し乱暴なようだな。ここと深川は気風が違うから気をつけないと人に嫌われるぞ」
多恵「すみません、そう言ってるんですけど……」
城に戻った吉宗、直吉が口にしていた「ニセ金の仏像」のことが気になって、忠相に聞いてみる。

忠相は、実際に、青銅に金のメッキを施した小さな仏像を見せて説明する。
加納「素人にはちょっと分かりませんな」
吉宗「そんなものが出回っているのか」
忠相「純金製だと思い、かなりの町人まで騙されているようです」
加納「越前殿、ワシには鍍金のことが分からぬが、昔からあったのかの?」
忠相「は、奈良の大仏も鍍金でございます。金粉を水銀に溶かし、青銅に塗り、炎で炙りますと、水銀が蒸発し、金が付着する訳でございます」
吉宗「水銀流しの法だな」
雨の日、鬼と呼ばれる割りにぐーたらな直吉は、仕事を休んで家でまったりしていた。
直吉の両親は既に他界しており、彼は八丁堀の屋敷に、多恵と二人で住んでいるのだった。
直吉は、多恵が治平次と親しくしているのが気に入らず、今もまたそのことで激しく言い合ったところだった。

と、隣家に住む昔馴染みのおふくという女性が、傘を差して、顔じゅう笑顔にして裏口から入ってくる。
おふく「あの、兄がこのたび、年番方になりまして、お赤飯を……」
直吉「そいつはようござんした」
おふくは、隣に住む松之助と言う同心の妹で、直吉に気があるのだが、今はタイミングが悪かった。

おふく「すいません、出直して参ります……」
相手の機嫌が悪いのを見ると、おふくはたちまち悲しそうな顔になり、重箱を持ったまま帰って行く。
直吉「けっ、出戻り女が」
しょげて戻ってきたおふくに、「あんなぐーたら、相手にするなよ」と、兄の松之助が言うが、

おふく「違います。誰もあの方のこと、本気で考えてあげないからですわ!」
おふくを演じるのは、シリーズ常連のコメディエンヌ・東啓子さん。
さて、問題の仏像だが、町外れのとある禅寺が、一味の本拠地として利用されていた。
黒い台の上に、水銀の白い粉を落としてうっとりと見入るのは、首領である金森蒼庵(川辺久造)と言う軍学者崩れであった。

蒼庵「綺麗じゃのう、まるで極楽のハスの葉に浮かぶ水玉のようじゃ」
野島「ちょっと何言ってるか分からない」 じゃなくて、
野島「2年前の水銀か、あの時、坂口と中尾があの野郎に斬られたが……今度こそあの野郎を」
蒼庵「そんなことは忘れろ。役人を斬ればうるさくなる」
そう、直吉が自慢していた強盗の生き残りが、蒼庵の仲間の、野島(黒部進)と鈴木と言う浪人だったのだ。二人は仲間の仇を討ちたいと言うが、冷静な蒼庵にいなされる。
蒼庵「青梅から知らせが来た。水銀が不足じゃとな。これがなくては仏像の鍍金はできぬわい」
当時、水銀は簡単に手に入る代物ではなかった。
蒼庵は、京橋の薬種問屋を二人に襲わせ、首尾よく水銀を手に入れる。
薬種問屋の主人は、用済みとばかり、彼らに斬り殺されてしまう。
現場を調べた直吉は、2年前の事件との関連に気付き、町奉行の忠相に報告する。

忠相「2年前の下手人がまた現れたと言う訳か……松之助、しばらく年番方のほうは良いから、直吉に手を貸してやれ」
松之助「はっ」
奉行じきじきの沙汰であったが、

直吉「お断りします。内づとめで足腰の弱ってる野郎なんざ、ものの役には立ちやせん、あっしはひとりでやりますから」
松之助「直吉!」
ぐーたらの癖に強情で自信家の直吉は、それを断ってさっさと退出してしまう。
年番方と言うのは、奉行所の役職のひとつで、要するに管理職のようなものである。

松之助「なんて奴だ、あいつはもう~」
忠相「はっはっはっはっ、まぁ、勘弁してやれ、お前とは幼友達、直吉の気性は知っておろう」
松之助「はぁ、ま、存じてはおりますが、あれほど僻みっぽい男だとは」
忠相「私も直吉の処遇は考えている。
切腹だ」
松之助「え……?」
忠相「せっ・ぷ・く!」
温和な笑みを浮かべながら極刑を言い渡すのが、名奉行・大岡忠相のひそかな、お・た・の・し・み!
じゃなくて、
忠相「今度の事件が落着したら同心組頭にしようと思っている。それにはまず、嫁をな……」
以前から腹にあったのだろう、忠相は、松之助の妹・おふくを直吉の嫁にどうかと言い出す。
松之助「ま、それは本人次第ではございますが、いま少し日常の振る舞いを正しませんと」
忠相「それはそうだ。ま、急ぐことはないが一応考えておいてくれ」
その直吉、伊勢白粉の原料に使う為に治平次が薬種問屋に押し入って水銀を盗んだのだと無茶苦茶な推理を立て、治平次の姿を探し回っていた。
そうとも知らず、治平次は多恵とデートの真っ最中だった。

治平次「私の家は、苗字帯刀を許された、伊勢の丹生と言うところの神主でした」
多恵「神主様でしたのー、神主様がどうして白粉を?」
治平次「昔からそうなんですよ、白粉と言うのは神聖なものとされてたんです。それより直吉さん、私たちのことをどの程度?」
多恵「もう知っています。兄はああ言う人ですから……少しずつ話したほうがいいんです」
だが、そこへ怒り狂った直吉がやってきて、問答無用で治平次をボコボコにする。
多恵が、恋人を助けようと木の枝で直吉の後頭部を叩くと、あっさり直吉は気を失う。
強いのか弱いのか、良く分からないキャラであった。

吉宗「直さん!」
多恵「徳田様!」
吉宗「後は俺に任せろ、さあ、いけ」
多恵「でも、お兄ちゃんがぁ」
吉宗「殴っといて、でも、はないだろう。治平次、さぁ、いけ」
駆けつけた吉宗、面倒になるからと二人を急いで立ち去らせる。
吉宗「まったく、良く目を回す奴だ」
吉宗は、直吉にカツを入れて気付かせると、とりあえず直吉の屋敷へ連れて行く。
一方、才蔵とさぎりの探索で、虚無僧の格好をした野島たちがあちこちの寺を回っては、浪人の生活を助ける為と言っては、住職たちに押し売り同然に鍍金仏を売っていることが明らかになる。
寺ではそれを引き取って、檀家の金持ちに売るのである。

吉宗「白粉に水銀は使っていないぞ」
直吉「おれぁ、しんじねえよ、水銀をつかわねえ伊勢白粉なんて売れるわけがねえんだから」
縁側で、酒を酌み交わしながら事件について話している二人。
吉宗「どうしても伊勢屋を下手人にしたいのか?」
直吉「日本橋と京橋は目と鼻の先なんだよ」
今回襲われた薬種問屋は京橋にあり、伊勢屋は日本橋にあるのだ。
吉宗「直さん、探索に私情をまじえると失敗するぞ。俺は見当違いだと思うな」
直吉「どう違うんだよ」
吉宗「ニセの仏像の線だと思う」
強情な直吉、吉宗の助言にも耳を貸そうとせず、ひたすら治平次が怪しいと睨んでいた。

そこへ再びおふくが裏木戸からやってくる。
おふく「どうもこんにちは」
直吉「なんだよ、おふくさんかよ、狸でも化けて出たのかと思ったよ」
おふく「うっふふふふ、これ、うふっ、お芋の煮っ転がしなんですけど、どうぞー」
直吉「芋? おいら、芋喰うと屁が出ちゃうからきれえなんだ」
おふく「うふふ、あの、それじゃ失礼します、うふっ」
おふく、いかにも恥ずかしそうに体をくねくねさせながら帰っていく。
しかし、さすがにこんな職人みたいな言葉遣いの同心はいないだろう……。
多恵と治平次は、伊勢屋の仏間にいた。
治平次「伊勢で父母が亡くなったのは私が15才の時でした。私は伯父に引き取られて育てられたんです」
多恵「そうでしたの、ご苦労なさったんですね」
治平次「母はとても仕立て物が上手でしたよ、働き者で……あなたとそっくりでした」
治平次、初めて自分の身の上を詳しく語ると、熱っぽい目で多恵の手を取り、

治平次「私はあなたをきっと幸せにします! でも、その前にひとつだけやらなければならないことがあります。それが終わったら正式に仲人を立てて直吉さんに申し込むつもりです。それまでもうしばらくの間、待って下さい、待っていてくれますね?」

事実上のプロポーズを受け、多恵はいかにも幸せそうに頷くのだった。
再び江戸城。

吉宗「柏木村で襲われたそうだな」
才蔵「は、残念ですが、いずこの虚無僧か未だに」
加納「お前たちがかなわんとなれば、相手は相当の手練れたちだの」
吉宗「相手が寺社領に潜伏しているとなると町方のものは手が出せんな。じい、寺社奉行に直ちに探索を命じてくれ」
お庭番には直接会って話を聞くのに、それより遥かに地位の高い寺社奉行には、人伝てで命令を下す吉宗。
毎回のように、若年寄だの、勘定奉行だの、寺社奉行だの、作事奉行などが悪いことを企むのも、吉宗のこの不当な扱いに対する不満がその根っこにあるのかもしれない。
その後、町中で直吉と擦れ違った多恵が、「兄貴ーっ!」と大声で呼ぶのだが、さすがに武家の娘が、人前でそんな乱暴な言葉遣いをするのはありえないよね。
それはともかく、直吉と多恵が二人でいるところを、野島たちが斬りかかってくる。蒼庵にああ言われたものの、やはり、恨みを晴らさずにはいられなかったようだ。
直吉は手傷を負うが、駆けつけた吉宗が野島たちを追い払い、命は無事だった。
一回でこれだけ何度も怪我をするキャラクターも珍しいが、屋敷に運び込まれた直吉は、医者の手当てを受け、吉宗、多恵やおふくに付き添われていた。

あれこれ話していると、急に改まった様子になり、
直吉「あんたひとりもんだろ? うちの多恵、どう思う?」
吉宗「良い子だよ」

直吉「嫁さんにどうだい?」
多恵「お兄ちゃん!」 何度聞いても、ドキッとする台詞だなぁ。
現代劇でもだが、時代劇の中で聞くと、より一層強烈である。

吉宗「……」
直吉「はははははっ、冗談だよ、冗談、はははははっ……あっ、つーっ、いってぇっ……」
思わず黙り込む二人を前に無遠慮な笑い声を立てるが、傷の痛みに思わず顔をしかめる直吉であった。

才蔵「柏木村に○○と言う禅寺がありました。無人の筈なんですが、村人たちの話では時々虚無僧たちが出入りしているそうです」
加納「ああ、まったく、寺社奉行所は何をやっとるんだ? わしの言うことなど聞きもせんで……一発かましたろか」
才蔵の報告を横で聞いていたじい、居ても立ってもいられぬ様子で立ち上がり、寺社奉行のところへ怒鳴り込みに行く。
ひょっとして、いつも政治より町中の事件の探索にばかり血道を上げている吉宗やその側近に幕府の重役たちも呆れ果て、彼ら(吉宗、じい、忠相)の言うことは一切取り合わないでよろしいと、申し合わせが出来ているのかも知れない。そう考えると、なんか吉宗たちが哀れに思えてくる。
ある夜、治平次が、虚無僧の格好をして伊勢屋の裏口から出て行った。しつこく治平次をつけまわしていた直吉はそれを見逃さず、密かに後をつける。

手代「仏像を修理しているのはその○○の虚無僧だそうです」
治平次「お前はお帰り」
手代「旦那様」

治平次「私はその寺の様子を確かめてから、寺社奉行所に訴えるつもりだ」
手代「それじゃあ私はこの辺りでお待ちしておりますから」
途中までついてきた中年の手代と、そんなことを言って別れる治平次。
実は治平次、商いの傍ら、蒼庵たちを親の仇として捜し求めていたのだ。その手助けをしている手代は、古くから神主夫妻に仕えていた者なのだろう。
治平次は、手代を安心させる為にそんなことを言ったのだが、実はもっと危険なことをするつもりだったことが後に分かる。
翌日、才蔵に案内させて、吉宗も問題の寺に向かっていた。

吉宗「……」
才蔵「……」
良く見たら、同じような顔してるよね、この二人。
彼らが寺の外で様子を伺っていると、寺社奉行の役人が二人、虚無僧たちと一緒に寺に入っていくのが見えた。蒼庵は、ぬかりなく寺社奉行所の役人に鼻薬をかがせ、鼻炎を治してやっていたのだ。……じゃなくて、仲間に引き込んでいたのだ。
吉宗「道理でな、寺社方の探索が進まぬ訳だ」
彼らの後ろから虚無僧に化けた治平次、ついで直吉が現れる。
治平次は、そのまま他の虚無僧たちと合流して寺の中へ。吉宗はそれを追いかけようとする直吉を引き止める。

吉宗「何をしてるんだ?」
直吉「治平次だよ、今行ったのは治平次の野郎なんだから」
4人はこっそり寺の境内に忍び込む。
さぎりが、建物の中で大量の鍍金仏を見付け、その出所がここだと言うことがはっきりする。
一方、うまく潜り込んだつもりの治平次だったが、あっさり蒼庵に気付かれてしまう。
蒼庵「そのほう、どこの虚無僧だ。得体の知れぬ奴に仏像を渡す訳には行かんのでな」 一番得体の知れない奴に言われてもなぁ……。 蒼庵「寺の名を申せ」
治平次「寺ではない、神社だ。伊勢の丹生にある、八幡神社だ」
蒼庵「なんじゃと」

驚いた蒼庵が駆け寄り、その天蓋を取る。
それと同時に、治平次は隠し持っていた短筒を、その体に押し当てる。
治平次「動くな」
蒼庵「何者じゃ?」
治平次「13年前、お前たちは私の父と母を殺し、社宝の水銀を奪った。丹生では昔から辰砂から水銀を作っていたからな。お前たちはをそれを知っていて押し入ったのだ」
蒼庵「そうか、お前があの時の神主のせがれか」
治平次「お前の顔ははっきりと覚えているぞ」
一見優男だが、内には暗い過去と激しい怒りを秘めていた治平次。
いかにも下塚誠さんのイメージにぴったりの役だと言えるだろう。

治平次「動くな、お前たちを奉行所へ突き出してやる、来い!」
だが、一瞬目を離した隙に、蒼庵に短筒を蹴り飛ばされてしまう。

蒼庵「せがれ、冥府の土産話に聞くがよい、わしの名は金森蒼庵、幕府に取り潰されたさる大名家の軍学者でな……とは申しても、わしは世の為、人の為、たとえば浪人者などを助けようと思ったことはないわ、わしの配下にもそんな殊勝なやつは一人もおらん、鍍金の仏像で稼いだ金でひとつ南蛮船でも買い取って、唐天竺を駆け巡り……」
(一時間経過)
蒼庵「……エゲレスに上陸し、パツキンギャルを拉致、南下してスペインの牛追い祭りに乱入……」
治平次(どんだけ夢があるんだ、このおっさんは……?)
じゃなくて、
蒼庵「大抜け荷でもしてやろうという訳だ」
治平次「いずれ、獄門さらし首だぞ」
ここで才蔵の投げた手裏剣が蒼庵の手に刺さり、短筒を落とさせる。

吉宗「金森蒼庵とやら、どうやらそのほうどもの獄門台のさらし首、とっくり見物できそうだな」
野島「貴様はこの間の……何者だ?」
吉宗「俺は見たとおりの江戸の風来坊、徳田新之助だ」
今回は、直吉たちがそばにいるし、悪の側も身分の低い、吉宗の顔を知らないものばかりなので、「余の顔を見忘れたか?」「忘れました」と言う、いつものやりとりがないのである。
これは、なかなか珍しいパターンではないかと思う。

治平次「桜井さん」
直吉「おお、治平次、すまなかったな、何もかも聞かせて貰ったぜ。親の仇討ちとはなぁ、さすがの鬼吉様もカブトを脱いだぜ!」
直吉、初めて治平次の正体を知って、今までのことを水に流すのだった。

直吉「やいやいてめえら、世迷言のごたく並べるのもこれまでだ。神妙にしやがれ」
吉宗「この連中、神妙にはなるまいな。何が軍学者だ。盗賊の親玉ではないか。おい、そっちの役人」
吉宗「顔が地味だぞ」 役人「くっそぉ、人が一番気にしてることを~」 じゃなくて、
吉宗「お前たちの根性はドブネズミ以下だ」
役人「何だと、貴様ぁ」

で、いつものラス殺陣に突入する。
てっきり、最後は治平次に敵討ちをさせるのかと思ったが、特にそう言うことはなく、また、いつもの「成敗」もなく、蒼庵は、普通に峰打ちを食らって倒れるのだった。
まぁ、今回は将軍だと名乗ってないし、仮にも同心がその場にいたからね。
その後、蒼庵たちが獄門になったのは言うまでもない。
多恵と治平次が祝言を上げるのも間もなくのことであろう。

ラスト、例によって直吉が暇を持て余して鼻毛を抜いていると、隣の家の庭から、誰かが行水をしている音が聞こえてくる。
おふくの声がしたので、てっきりおふくが行水しているのだと思い、境の塀の上から顔を出して覗いてみたが、

おふく「まあ、桜井様」
松之助「こらーっ! なにやっとるか、直吉!」
行水しているのはおふくではなく、兄の松之助の方だった。
驚きのあまり、勢い良く庭に落ちる直吉。

おふく「桜井様、しっかりなさいませ」
直吉「腰が、腰が痛い」
おふく「お気を確かに!」
その後、松之助に水をぶっ掛けられた直吉、悲鳴を上げながら逃げ出し、それをおふくが追いかける。

町中でそれを見掛けた吉宗とじい。
目の前にいた子犬を抱き上げ、直吉とおふくを必ずめおとにしてやろうと思いながら歩き出した吉宗の姿を映しつつ、終わりです。
今回は、悪役のメンツが寂しい代わりに、主役級のゲストが男優、女優、それぞれ二人いるという、豪華なキャスティングであった。
以上、この間の「大江戸捜査網」の時も書いたけど、やっぱり時代劇のレビューはしんどいです。
当分やりたくありません。
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