第29話「怪獣帝王の怒り」(1980年10月15日)
日本に残された「秘境」のひとつと言われる山間の小さな集落・鬼矢谷村では、300年に一度出現すると言う伝説の怪獣の話が火付け役となり、一種の怪獣ブームが巻き起こっていた。

団員「しかし、ほんとにあの谷に怪獣なんているんだべか?」
村長「ま、昔からそう言うんだから、いるかもしれねえし、いねえかもしれねえ」
団員「いや、おら一日に一回はよ、怪獣出たー、なんてやらされてるけども、もし出なかったらどうすべかぁ」
村長「怪獣騒ぎで鬼矢谷が有名になる。村が有名になってみろ、ホテルが立つし、道路は出来る。観光客はわんさと来る」
団員「なるほどぉ……しかし、そんなうまくいくだべか?」
団長「バカ、村が金持ちになるじゃねえか、それでいいじゃねえか」
が、過疎に苦しむ現地の住民の考えることは、古今東西同じで、その怪獣の噂が広がれば、都会からどっと押し寄せてくるであろう観光客の落としていくマネーのことしか眼中にないのだった。
なお、今回は妙にキャストにコメディアンが多く、村長を「ハヤシもあるでよぉ」の南利明さん、自警団長を「男はつらいよ」でお馴染み関敬六さん、自警団員を辻シゲルさんがそれぞれ演じている。
団長の命名で、そのいるかいないか分からない怪獣の名前は、鬼矢谷のキヤを取ってキヤッシイ(キャッシー)と言う女みたいな名前に決まる。

村長「そうだ、村に伝わる怪獣太鼓も使うべ」
団長「太鼓? そりゃ良い考えですなぁ」
村長「もうひとつニュースがあるぞ、この村にツアーが来る。怪獣ツアーだ。あっちこっちの旅行社や文化人や学者にテレフォンして知らせたんだ」
団長「いやっはっはっ、さすがは名村長!」
村長「当選確実!」
団長「いや全くだぁ」
二人の喝采を受けてそりかえった村長は、怪獣騒動を本格的な村おこしに発展させることで、次期村長選の再選まで視野に入れていた。

一方、UGMも、怪獣騒動のことを知って捨て置けず、鬼矢谷上空からの調査を行っていた。
珍しく、と言うか、初めてのことだが、UGMのお天気お姉さんのユリちゃんが、猛の操縦するシルバーガルの後部座席に座り、気象の専門家として同行していた。

猛「念の為、鬼矢谷一帯を調べましたが、怪獣は見付かりませんでした」
オオヤマ「気象の方は?」
ユリ子「ガスが発生していました。あの地域のガスの発生率は32パーセントです」
猛と共にUGM本部で報告しているユリちゃん、大人の中にまるでひとりだけ小学生が混じっているみたいでめっちゃ可愛い。

ユリ子「温度、湿度、その他詳しいことはすぐ報告書を出します」
イトウ「ご苦労さん」

ユリ子「じゃあ、矢的隊員」
猛「どうも、ユリちゃん」
笑顔でユリ子を見送る猛に、イトウが「勤務中にユリちゃんはよせ」と、不粋な注意をする。

猛「あ、はい……」
エミ「全くそのとおりだわ。ちょっと親し過ぎるのよ!」
猛「いや、そんなことは……」
エミがそれに乗る形で猛のそばに行き、その脇腹を小突く。
猛、中学教師時代の友人ノンちゃんと瓜二つのユリ子に、つい同僚以上の親近感を抱いてしまうのだろう。

猛の戸惑いにみんながどっと笑っていると、ユリ子と入れ違いに、セラがどたどたと駆け込んでくる。
セラ「キャップ、新聞社から問い合わせが来てるんですけど……例の鬼矢谷の怪獣騒ぎ」
オオヤマ(うわー、なんかきったねえのが来た……) さっきまで若くて綺麗な女の子が立っていた空間に、断りもなく割り込んできた生き物を見て、オオヤマは、反射的に撃ち殺したい衝動に駆られたと言う(註・言いません)。
オオヤマ「ああ、今報告を聞いたところだ」
イトウ「鬼矢谷の怪獣伝説は地震だって言う説があるんだ」
セラ「そうですか、蘇る怪獣ってのは大なまずのことですか」
猛「うん……」
他の隊員は単なる地震で片付けてしまったが、猛だけはそれだけでは済まないような予感に似た懸念を抱いていた。

さて、鬼矢谷には、早くも怪獣ツアーの先乗りが到着していた。
山川「私、ツアーの一陣を送り込む下見に参りました、こういうもんでごじゃいます」
村長「おー、お電話を差し上げた観光会社の?」
山川「はい、社長がくれぐれもよろしく申しておりました」
で、そのツアー客の顔ぶれも豪華で、観光会社の社員・山川を玉川良一さん。
個人的には玉川さんと言うと、ドルーピーの声の人なんだけどね。

友江「私、平和女子大の講師をしておりますの、私、この鬼矢谷に怪獣がいると信じてますわ。蘇る怪獣とは地震のことだという、愚かな説を覆しに参りますの」
そして、女子大の講師役に児島美ゆきさん。
他に、脱サラして怪獣小説を書きたいと考えている頭の気の毒なサラリーマンと、その弟・ヒデオの総計4人と言うこじんまりとしたツアーだった。
村長は早速怪獣の存在をアピールしようと、団長に怪獣太鼓なるものを叩かせる。

だが、それは、スピーカーとラジカセを持って山中で待機している団員への合図で、ふもとから聞こえてくる太鼓の音を聞いた団員は、いかにもそれらしい鳴き声を吹き込んだテープをスピーカーにつないで流し、怪獣の鳴き声を演出する。

山川「ちょっと、お前、持ってろ」
村長「お前……」
山川「あ、怪獣の唸り声だ」
ヒデオ「お兄ちゃん、本当だ」

興奮気味に鳴き声のするほうを見上げる彼らの背後を、「怪獣が出たー」などと叫びながら転ぶように逃げていく村人たちに、いやがうえにも探検気分が盛り上がる。
山川「ようし、出発だーっ!」

村長「行った、行った、おい、村の奴もゼニ払うと良い芝居こくでねえよな」
団長「いやー、まったくだべぇ」
が、その村人たちも村長が雇った「エキストラ」だったと言う、「田舎の人は純朴だ」と言う都会人の幻想を粉々に打ち砕いてしまうオチがつく。
そんなことは露知らず、霧のたなびく森の中をやらせの鳴き声を頼りに固まって進む一行。
ヒデオ「おじさん、猟銃で絶対撃たないでね。怪獣がかわいそうだから」
山川「大丈夫だよ、怪獣が死んだら元も子もなくなっちゃうからね」
友江「怪獣を見付けて怪獣地震説を覆すと、私はきっと講師から助教授に……ほっほっほっほっ」
山川「もう見付かったようなもんですよ、ほら、あの声」
と、再び地震が起きて、地面を揺らす。

友江「きゃあ、きゃあ、きゃあ」
山川「大丈夫だって、
あんた病気かい?」
良いなぁ、児島さん。良いなぁ、玉川さん。

しかし、頻発する地震のせいで、既に鬼矢谷のあちこちの崖の岩肌が剥離、崩落しつつあった。そして遂にその何度目かの地震が引き金となり、崖の内部で硬い岩石をベッド代わりにして眠っていた巨大な怪獣を目覚めさせてしまう。
怪獣は、レッドキング系の造型だが、自動的にキャッシーと言う女子プロレスラーみたいな名前で呼ばれることになる。
まさか本当に出るとは思っていなかった村長と団員は、泡を食って逃げ出し、後方のツアー客と合流する。
山川が猟銃を撃つが、キャッシーの岩のような頑丈な肌に弾き返される。

団員は一人で山を降り、何も知らずに暢気に太鼓を叩いていた団長に知らせようとするが、
団員「冗談じゃないんだ、ちょっと見てよ、あっちだから……」
団長「おめえも芝居がうまくなったのう」

団員「芝居じゃないってんで、ちょっとぉ」
団長「ああ、そう……
うわあああーっ!」
お約束のリアクションを、120パーセントのテンションでやり切る関敬六さんでした。

と、一機の小型ヘリコプターが何処からともなく飛んでくる。
山川「うちの会社のヘリだ。社長が乗ってる。待機してたんだよー」
友江「社長自ら助けに来てくれたのね」
村長「なかなか出来ることじゃねえなぁ」

が、社長の目的は別にあったようで、ヘリは山川たちには目もくれず、輪になった長いロープを垂らしながらキャッシー目掛けて飛んでいく。

村長「細紐おろして、何してるだべぇ」
山川「怪獣を捕まえるんだよ」
村長「泥棒! 怪獣泥棒!」
山川「いや、金は払うよ」
村長「いかん、怪獣は村の財産だべ。ワシのもんだべ!」
山川「うちの会社のもんだよ」
村長「最初に見つけたのはこのワシだ」
山川「何言ってんだい、最初に猟銃を撃ち込んだのはこのオレだよ」

ヒデオ「おじさん、捕まえてどうするの?」
玉川「怪獣ショーをやるんだ、坊や、優待券をやるからねえ」
村長「ありがとう、何枚?」
玉川「3枚から4枚」
村長「なにぃ、いかん!」
玉川「成功すればな、俺は重役の椅子が約束されてる」
怪獣の所有権を主張して醜く言い争う村長と玉川。
……しかし、なんでワシはいちいちこんな会話を書き取っているのだろう? 誰か教えてくれ。
やがて、ヘリの垂らすロープの先の輪が、見事にキャッシーの左手首にはまる。

玉川「良かった、大成功!」
友江「あなた、最初からその目的だったのね」
玉川「うるさい助手!」
友江「私は助教授よ!」
村長「この野郎!」
玉川「何をするんだ、酋長」
村長「酋長じゃない! 村長だ!」
欲に目が眩んだか、彼らは、そんな小さなヘリで怪獣をどうにかできると思い込んでいたが、

無論、ヘリのエンジンはたちまちオーバーヒートを起こして黒煙を吹き上げ始める。
幸い、ロープが千切れたので、ヘリは怪獣に叩き潰されるのを免れ、森の中へ不時着する。
結局、社長とやらは最後まで顔も台詞もないままで終わってしまったが、どうせならここにもコメディアンを配してその社員に劣らぬ強欲ぶりを描いて欲しかったところだ。
その後、漸くUGMがスペースマミーで現地に到着し、シルバーガル、スカイハイヤーが発進する。

肉食怪獣であるキャッシーは、逃げ遅れて高い木の枝につかまっている村長と玉川に巨大な口を開けて迫る。
これが「新マン」とか「A」とかだったら、二人は実際に怪獣に食われて守銭奴の末路を飾っていたかもしれないが、これは「80」なので、寸前で怪獣の鼻先を猛のスカイハイヤーがかすめ、二人は命拾いする。

だがその代わり、スカイハイヤーは後方から火炎放射を浴びて、樹海に墜落、大爆発を起こす。
この特撮シーン、なんとなく見てしまうのだが、考えたらほとんど神業レベルの操演だよね。
それにしても、名立たるコメディアンをかき集めて(奥多摩かどこかで)ロケを行い、さらに渾身の特撮シーンを随所に盛り込んで、これで視聴率が
7.8パーセントではスタッフも酒でも飲まないとやってられない気分になるよね。
この後は特に書くこともない。猛が80となって炎の中から立ち上がり、キャッシーとの戦いとなる。

もっとも、キャッシーは別に邪悪な意思を持つ怪獣ではないので、しばし戦ってエネルギーが枯渇したところで、80の方から和解を申し出る。

そして、その巨体を背中に乗せて飛んでいき、さっきの場所よりなお人里離れた似たような岩山にキャッシーを運び、そこで改めて永い平和な眠りに就かせると言う温情ある結末となる。
ご覧のとおり、今回、ゲストが妙に充実していたのだが、ゲストとレギュラーたちとの絡みがほとんどなかったのがちょっと残念であった。
しかし、ツチノコ、クッシー、ヒバゴンなどの1970年代の一連の怪獣騒ぎを皮肉ったようなストーリーはなかなか面白かった。
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