第26話「怪奇!殺人甲虫事件」(1971年10月1日)
「魔女先生」の始まる二日前にオンエアされたエピソード(だから?)
冒頭、東京上空をパトロール中の郷が、小さな隕石のような発光体が落下するのを目撃する。
その三日後、とある高層ホテルの一室で、奇怪な事件が起きる。

ひとりの男性客が、洗面台の鏡に向かって電気シェーバーでヒゲを剃っていると、

部屋の窓の外に、大きなクワガタのような虫が飛んできて止まり、

男性「ああーっ!」
おもむろに黄色いビームを放って、男性を消し炭にしてしまう。
これ、クワガタの発するビームと、男性の体を覆うビームの色が違っていて、芸が細かい。
どうしてクワガタは男性に殺意を抱いたのだろう?

識者の間では、
なんか、ヒゲ剃ってる時の顔がムカついたから、と言う説が有力である。

その報告は、一応MATに入るが、
上野「えっ、スペースホテル? 誰が付けたんですか、その名前?」
変なところに食いつく上野隊員であった。
じゃなくて、
上野「えっ、スペースホテル? 人間が蒸発した? MATは怪獣が専門なんです、警察の方へ連絡して下さい」
上野隊員、あっさり門前払いを食らわせてしまう。
郷も、気にはなったが、わざわざ現場に乗り込もうとまでは思わなかった。

一転、自宅の化粧台の前に座り、念入りにリップを塗っているアキのアップ。

塗り斑がないか確認する為に、口をニッと結ぶのが可愛いのである!

横へ次郎がやってきてちょこんと座り、
次郎「郷さんに貰った口紅だからってそんなに塗りたくらなくたって良いじゃんか」
アキ「うっるさいわねえ、ほら、失敗しちゃったじゃないの」
次郎「まるでオニババだ」
アキ「なんとでも言いなさい、ちょっとそれとって」
次郎「郷さん、待ちくたびれてるぞ」

坂田と郷が、家の前で車の整備をしていると、次郎の友人たちが次郎を誘いに来る。
郷「昆虫採集?」
次郎「そっ、この辺にはね、珍しい種類のノコギリクワガタムシがいるんだ」
郷「クワガタムシは7月8月が季節なんだぞ」
次郎「それが三本角の珍しい奴なんだ」
次郎の後ろにいる女の子は、「仮面ライダー」「魔女先生」にも出ていた荒井久仁江さん。右端の子は、「魔女先生」3話のツトムかなぁ?
次郎は、そんな珍しいクワガタなら2000円にはなると、子供らしからぬ打算的な理由で目を輝かせ、張り切って出掛けて行く。

郷「マッハ3で飛ぶノコギリクワガタ」
坂田「2000円じゃ安いな。はっはははっ」
二人が冗談を言って笑っていると、やっと満足の行くメイクを施したアキがやってくる。
アキ「ごめんなさい、遅くなって。どう、郷さんに貰った口紅つけたの」

坂田「ほう、いい色じゃないか、お前も隅に置けないな」

郷「実を言うと南隊員に貰ったんです。ギリシャのゼミナールに出席した時のお土産なんです」
坂田「そんなことだろうと思った」
アキ「それでも嬉しいわ、だって郷さんの初めてのプレゼントなんですもの」
坂田「今日は邪魔な奴もいないし、ゆっくりしてくるといい」
郷「はい」

郷「ご覧になる映画は? 『愛の渚』? それとも『エリーゼよ永遠に』?」
アキ「オー・ノー! 甘ったるいのはごめんよ」
郷「ほう、すると?」
アキ「『吸血男爵の森!』」 郷のおすすめ映画を蹴散らしてアキが指名したのは、クッソつまんなさそうなタイトルの映画だった。
そう、言い忘れていたが、二人はこれから映画を見に行くところなのだ。
このシーンだけ見ると、まるっきり普通のホームドラマである。

もっとも、そんな映画は実在しないので、番組がわざわざ用意したそれらしいフィルムが上映されている。
モノクロと言うのが時代を感じさせるなぁ。
あるいは、カラーだと、撮るのに余計に金がかかるからという制作サイドの事情によるものかも知れない。
一応、パツキンの姉ちゃんに、どう見ても日本で取れたとしか思えない牙を生やしたおっさんが挑みかかるという、怖くもなんともないシーンを、ハラハラしながら見ているアキ。ここぞとばかりに、隣の郷に抱きついていたが、

途中、郷の通信機が鳴り、郷だけ先に劇場の外へ出て行ってしまう。
郷「郷です」
丘「また密室殺人事件です。被害者は25歳の女性」
郷「殺人事件ならMATが出動しなくても」
丘「警視庁からの要請です。手口が不可解なんだそうです」
郷「しかし……」
丘「あ、言い忘れてました。被害者は
全裸だったそうです」
郷「すぐ行く!」 郷、必要以上に張り切って現場に向かうが、着いてから、既に被害者が消し炭になっていることを知らされ、激しく落胆するのだった。
……嘘である。
丘「手口が不可解なんだそうです」
郷「分かった、すぐ行く」
ちょうどアキが外へ出て来たので、郷は手短に事情を説明し、アキを残して現場へ向かう。
ちなみに後ろの看板に見えるのが、「007は永遠に不滅です」と、「アラビアのロマンスグレー」である。
さて、現場は、スペースホテルの近くのマンションだった。床に人型の消し炭が残る部屋で、警察関係者とMAT隊員が入り乱れて捜査を行っている。

南「ヘアドライヤーを使用中に襲われたらしい。普段から真面目な娘で、人から恨みを受けることはないといってるんだ、管理人がね」
犠牲者のひととなりを語る南隊員。
しかし、「普段から真面目な娘」ってのも、珍しい表現だな。

もっとも、ドライヤーといっても、それは、現在我々がすぐ思い浮かぶ、手に持って使うものではなく、ポータル式のレトロなものだった。
ヘアネットのような袋を頭にすっぽり被せ、熱風を送り込んで乾かすのだろう。

刑事「この前の被害者は電気カミソリを使用中に襲われてるんです。手口は全く同じだと思うんです」
伊吹「電気カミソリとヘアドライヤーか、どうやらその辺に謎を解く鍵がありそうだな」
刑事たちの会話を聞きながら、郷は、数日前、奇妙な物体の落下を目撃したことを思い出す。奇しくも、落下したと思われる場所は、二つの殺人事件の起きた場所と合致していた。
郷「これは人間の仕業じゃないんじゃないでしょか?」
刑事「はっはっはっ、いかにもMAT的な発想ですな、しかし、私は犯人は人間だと思いますね。レーザー銃を使った計画的な犯行ですよ」
郷(じゃあ、俺たち呼ぶなよ……) 伊吹たちも、怪獣=でかいと言う固定観念に縛られて、郷の意見には否定的であった。

だから、他でもない、殺人犯がまだ現場の床にうろうろしているのを見ても、そいつの仕業だとは露ほども疑わない。
そのクワガタが床に転がっていた口紅に触っているのを発見した上野隊員も、
上野「うん、こいつ、エッチな昆虫だぜ!」 岸田(どこがエッチなんだろう?) のんびりとした口調で歩み寄り、捕まえようとする。
だが、クワガタは空を飛んで何処かへ行ってしまう。
それにしても、当時は、口紅に興味を示しただけで「エッチだ」と言われたのだろうか?
郷は、クワガタではなく口紅を拾い上げる。それは、郷がアキにプレゼントしたのと同じものだった。
その後、路上で、バイクに乗っていた男性がクワガタに襲われ、三人目の犠牲者となる。

さらに、とぼとぼと夜道を歩いて帰っていたアキにもつきまとい、危うく、4人目の犠牲者になるところだったが、さいわい、アキは騒音を出すような物を所持していなかったので、焼き殺されずに済む。
アキ「うるさいわねえ、シッ、あっち行け! しつこいわねえ、えいっ」
それが殺人昆虫だと知らないアキ、しつこくつきまとうクワガタを、ハンドバックで叩き落してしまう。
アキ「イーッだ!」
子供のような憎まれ口を捨て台詞に立ち去るアキ。
そんな声を聞くと、つい物陰から「イーッ!」と戦闘員が出てきそうな気がする管理人であった。

アキ「ただいま、兄さん」
坂田「おかえり、郷は?」
アキ「事件が起こったとかでほっぽかされちゃったわ」
坂田「そりゃお気の毒だったな」
考えたら、坂田って、家でくつろいでいる時はわざわざ着物に着替えてるんだよね。
この辺も、時代風俗を反映してるよね。
相前後して、次郎も帰ってくるが、家の前を飛んでいたクワガタを見付け、見事に捕獲する。

次郎「2000円捕まえたぞ!」
いくらなんでもでか過ぎて気持ち悪いのだが、子供の次郎は全然気にすることなく掴んでいる。

アキは、そのクワガタの一件を兄に話す。
アキ「ハンドバックでぶっ飛ばしてやったわ、あんまりしつこいんだもん」
坂田「災難だったな、その昆虫も」
アキ「え」
坂田「郷に振られた腹いせに八つ当たりされたからさ」
アキ「まっ」
次郎、意気揚々と戦利品を携えて居間に入ってくるが、兄と郷との電話のやりとりを漏れ聞いて素早く危険を察知し、クワガタは見せずにさっさと自室に引っ込む。
兄や郷に見せたら、取り上げられると思ったのだ。

その夜、ベッドで寝ていたアキ、何かの拍子でふと目を覚ますが、

見れば、部屋の真ん中、すぐ目の前に、巨大なクワガタがホバリングしているではないか。
虫嫌いの人にとっては卒倒しなそうシチュエーションだが、個人的は、それより後ろに飾ってある赤ん坊の人形の方がよっぽど怖い。
余計なことだが、ここでアキが目覚めるシーンでは、さっき見た恐怖映画のシーンを思い出して……と言うのも面白かったんじゃないかと思う。目の前に吸血鬼の牙が迫っていると思いきや、それはクワガタの長く突き出たアゴだった、と言うような。ベタだけどね。
アキ「ああ゛あ゛ーっ!」 しかし、それに続いて、巨大なクワガタが布団ごしに胸の上にぺたっと降りるシーンは、虫嫌いじゃなくてもギョッとするだろう。
アキが絶叫したのも頷ける。

坂田「どうしたんだ、アキ」
アキ「殺人昆虫が」
次郎「あっ」
アキの言葉に、慌てて次郎が自分の部屋に戻ると、果たして、クワガタを入れていたカゴに穴が開いて脱走していたことが分かる。
クワガタは、やはり、あの口紅の香りに引かれてアキにつきまとっていたのだ。
CM後、クワガタは無事、MATが捕獲して、司令室で観察している。

郷「口紅を取り上げても静かにしていれば何の異常も示しませんね」
伊吹「よし、実験開始」
岸田「はい」
岸田が電気シェーバーを作動させながらクワガタに近付けると、案の定、クワガタは騒音の元に向かって角からビームを放つ。ただし、その特殊なケースに遮られ、ビームは岸田隊員には届かない。

伊吹「間違いない、こいつの仕業だ」
岸田「こいつにとって、この種のモーター音は敵の羽音と同じサイクルに聞こえるんだ」
上野「しかし、レーザーを発射する昆虫なんているんだろうか」
伊吹「郷が言ったように、こいつの正体は恐らく宇宙昆虫だ」
上野「ええ、宇宙昆虫ぅ?」
伊吹隊長の安直極まりないネーミングに、露骨に嫌な顔をする上野。
しかし、音のない宇宙空間に生きる昆虫が、敵の羽音を気にするだろうかという疑問が湧いたが、湧かなかったことにして話を進めよう。
と言っても、殺人犯の正体が虫と分かった時点で、ドラマ的にはもう終わってるんだけどね。
「怪奇大作戦」とかだったら、このクワガタの性質を利用して、邪魔な人間を殺そうとする悪人なんてのが出て来そうだ。
MATでは、あっさりクワガタを殺処分することに決まり、その役目に、郷が志願する。
岸田「郷、これを使え、スペースレーザーガンだっ」
郷「どうも」
上野「……」
(何でもかんでも頭にスペースとか宇宙とかつけりゃいいってもんじゃねえんだよ!!) 思わず心の中で叫ぶ上野だった。

で、直ちにケースごと野外の射撃練習場へ運ばれ、あわれ、スペースレーザーガンで銃殺刑にされるが、

案の定、レーザーのエネルギーを吸収して、

逆に人間サイズに巨大化してしまうのだった。
ちなみに、チラッと見えるが、射撃練習場には怪獣のパネルの形をした標的が置かれている。
MATの隊員は、日夜そのパネルに向かって銃を撃ちまくっているのだ。
見学に訪れた一般市民からは、毎回、
「ふざけんなよ、縁日の余興じゃねえんだぞ!」などと言った、貴重なご意見を頂戴しております(by MAT広報部)
しかし、星人ならともかく、普通の怪獣が人間サイズで俳優たちと一緒に映るって、かなり珍しいケースだよね。
怪獣は、MATの猛攻撃を受けて一旦地中に潜るが、

ほどなく、脈絡もなくいつもの怪獣サイズに巨大化して、工事中の道路を突き破って出現する。
ほんと、なんで巨大化したんだろう?

怪獣(ノコギリンという名前らしい)が角から発するビームで、ビルの一部が剥落する素晴らしい特撮。

地上から、日夜、怪獣パネルで鍛えた射撃の腕を存分に発揮するMAT隊員。
近隣住民からは、毎回、
「どうせウルトラマンが倒すんだから、弾のムダ!」などと言う、心のこもったご意見を頂戴しております(by MAT広報部)
それはともかく、嫁入り前の若い娘がはしたない、丘ユリ子姫の大股開き撃ちが刺激的である。
で、まぁ、MATの、親の仇に会ったような死に物狂いの攻撃は何の効果もなく、結局ウルトラマンが戦うことになるのだった。
だが、ノコギリンはなかなかの強敵で、スペシウム光線を浴びてもケロッとしている。

逆に、角から強力なビームを撃ち返す。
ウルトラマンは「おわっと!」と言う感じで飛んでよけるが、

その後ろにあった東京タワーに命中し、べきりと真ん中から折れてしまう。
この後、ウルトラマンに、東京タワー関係の人たちから
「なんでよけたんだよ!」と言う身も蓋もない苦情が殺到したそうです。
それに対するウルトラマンの返事が、「必殺技の贈り物」だったことは言うまでもありません。
にしても、この通常放送の一回分の為に、こんな精巧な東京タワーを作って、惜しげもなく壊してしまうとは……。
こないだ見た「鳥人戦隊ジェットマン」で、東京のど真ん中で巨大ロボット同士が戦うのに、何故かビル街にだだっ広い空き地があって、ビルなどにもなるべく触らないようにしていたのとは、えらい違いである。
それでも最後はウルトラマンがノコギリンを粉砕し、事件は(MATとは無関係に)解決する。
つーか、むしろ、MAT、余計なことをして昆虫を巨大化させて事態を悪化させてるよね。
あのまま、宇宙へ送り返してやっていれば、東京タワーも倒れず、無益な殺生もしないで済んだのに。

ラスト、再びアキが盛大にお化粧している。

今回は、最初から次郎が横にいて、アキがまたあの口紅を塗っているのを見て、
次郎「また追っかけられるぞ、今度は死んじまうかもよ」
アキ「いいわ、死んだって」
次郎「ええっ?」
あと10話で、ほんとにアキが死んでしまうことを思えば、あまり笑えないやりとりである。

アキ「お待ちどうさま」
郷「綺麗だよ」
アキ「どうも、ありがとう」

坂田「今日も吸血男爵か?」
アキ「残念でした。今日は『素敵なヘレン』よ」
そう言えば、岸田さんってこの少し前に「血を吸う」シリーズ第2弾で、和製ドラキュラを演じてるんだよね。いっそのこと、劇場で二人が見た映画、そのシーンを使ってたら面白かったかも。と言っても、第2弾は、この年の6月に公開されたばかりだから、ちょっと無理か。

次郎「女ってわからねえなぁ」
坂田「こいつぅ!」
二人が出掛けた後にやってきて、生意気な口を叩く次郎の頭を坂田が小突いて、おわりです。
以上、「新マン」でも特にホームドラマの要素の強いエピソードであった。
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