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「死刑台の美女」~江戸川乱歩の「悪魔の紋章」(画像復刻版) 前編

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 ※この記事は、以前のブログに書いていたものを再編集したものです。

 今回取り上げる「死刑台の美女」は、1978年4月8日放送のシリーズ第3弾。

 原作「悪魔の紋章」は、昭和12~13年(1937~38年)にかけて連載された長編である。

 乱歩の通俗作品の中では、割と本格ミステリーとしての体裁の整った作品であるが、メイントリックは過去の作品の使い回しだし、記述上、いくつかの矛盾点を含んでいて、一般的な評価はあまり高くないようだ。

 けれど、個人的には大好きな作品で、今までに何十回となく読み返している。

 特に、ラストの明智と宗像(ドラマでは宗方)の事件の真相に関する長ったらしい討論が読み応えがある。

 ドラマは、正味70分ほどであるが、原作をほぼ忠実に移しつつ、原作ではほとんど出番のない宗方夫人にスポットを当て、明智と宗方夫人とのプラトニックな恋愛を丹念に描いている。

 無論、「美女シリーズ」らしい、けれんみ溢れる演出も随所に見られて、シリーズ中でも上位に位置する作品だろう。

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 はい、オープニングからこれでっせ。

 ポーの有名な小説(あるいは乱歩の「大暗室」か?)をそのまま映像化したような凄いショット。

 ま、原作にはこんなシーン、全然ないのだけど。

 更に、キャスト紹介に行く前に、大鎌によって縛られた女性の下着が切れて、乳首が露出すると言うエッチなカットもあって、当時のお父さんたちの目が血走る。ただし、おっぱいはかたせ梨乃さんのものではなく、脱ぎ女優さんの物だろう。

 それと、オープニングに流れるのは、いつものチャチャチャーチャーチャーチャチャー(分かるかっ)と言う耳に馴染んだあの曲ではなく、この作品オリジナルの、物憂く眠気を誘うような、浅草のレビューを連想させるような独特な曲が使われていて、これまた印象深い。

 冒頭、同業者であり犯罪学の泰斗である宗方隆一郎博士の屋敷を訪れている明智のモノローグから物語の幕は切って落とされる。

 明智(この女性を見た途端、私は、宗方博士の依頼を断り切れないと直感した)

 要するに、一目惚れしちゃったのね、明智さん。それも人妻に!

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 一瞬で明智を虜にしたのは、宗方博士の妻・京子(松原智恵子)である。

 原作でも、博士の妻と言うのは登場するのだが、物語のラストにちょこっと出るだけだし、そのキャラクターはドラマとは全く異なる。無論、車椅子に乗ってもいない。

 京子「この度はご迷惑なお願いを致しまして……行ってくださるんでしょうか?」
 明智「はっ? は、は……、喜んで……」
 京子「まぁありがとうございます。主人がどんなに喜ぶか知れませんわ」

 明智、室内に飾られている花を見回して、

 明智「お花、お好きなんですか」
 京子「ええ、すぐ散ってしまいますけど、一生懸命咲きますでしょう、だから……」

 顔を近付けて花の香りを嗅ぐ京子夫人。

 と、数枚の花弁がはらはらと床に落ちる。

 それを一枚一枚丹念に拾い上げる京子夫人の姿は、明智の脳裏に鮮烈な印象を刻む。

 京子「(主人に)香港には是非行って貰いたかったのですけど、私が入院することになったものですから」
 明智「どうして入院なさるんですか」
 京子「また、足が痛み出してきたんです。今度病院に入ったら出られるかどうか」
 明智「そんな……」

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 そこへ、主の宗方博士(伊吹吾郎)が現れる。

 宗方「折角のお客様をお迎えするのに、バニーガール姿じゃ失礼だと思い、着替えて来た」
 京子「主人は筋金入りの変態ですの」
 明智(まずい……本物の馬鹿だ)

 じゃなくて、

 宗方「ガウン姿じゃ失礼だと思い、着替えて来た」
 京子「あなた、明智さん行って下さるんですって」
 宗方「本当かね、これは断りに来たなと直感したがね……」
 明智「しかし、世界犯罪学者の集まりに僕みたいな素人が通用するかね」
 宗方「何が素人だ。僕以上の学識を持った君じゃないか。原稿を渡すから、僕の研究室へ来てくれ給え」

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 宗方が壁のスイッチを押すと、書棚がズズッと後退し、出来た空間の天井から階段が降りてくる。

 宗方「僕以外、誰も入れないんです。さ、どうぞ」

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 二人が階段を上がると、様々な珍奇なアイテムが陳列してあって、研究室と言うより展示室のようだった。

 明智「これは、刺青をした人間の肌だね」
 宗方「苦労して手に入れたんだ」
 明智「これは凄いコレクションだ」
 宗方「東西の責め道具を集めたんだが、もっともっと面白い物がたくさんあるよ」

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 宗方「今度の世界犯罪学会で発表するのは、処刑の芸術的考察と言うのだが、どうだ面白いだろう?」
 宗方は綴られた原稿用紙の束を渡す。
 明智「うん、しかし、僕は処刑には興味がないんだよ」
 宗方「犯罪は美学であり、芸術だと言うのが君の持論じゃなかったのかね」
 明智「犯罪心理を研究するのは犯罪を防止する為だ。計画的犯罪は多かれ少なかれ犯人の芸術的センスが働いている。その犯人を追及する探偵は、それ以上に芸術的でなくちゃならんからね」
 宗方「つまり、明智小五郎は芸術的探偵ってわけだ。僕の犯罪研究の集大成を発表する最適任者だと言うことにもなるがね。じゃ、頼んだよ」
 明智「ま、なんとかやってみるよ」

 明智が、同業者とこんな会話をするのは珍しいことである。

 明智(こうして私は犯罪研究家・宗方隆一郎博士に代わって、香港の世界犯罪会議に出席することになった。それはただただ散る花の運命にも似た京子夫人の清らかさが私の心を捉えたからだ)

 その頃、実業家の川手庄太郎の邸宅。

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 三女・雪子

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 次女・春子

 演じているのは、どちらも日活ロマンポルノ出演歴のある結城マミ、三崎奈美さん。

 そして原作には出てこない長女の民子を、かたせ梨乃さんが演じる(原作では、妙子・雪子の姉妹)。

 ラジカセでピンクレディーの「UFO」を聞きながら、家族揃ってお茶を飲んでいる。

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 と、電話が鳴る。既に度々かかっている脅迫電話ではないかとドキッとする川手家の人々。

 雪子から探偵狂と揶揄される春子が、テープレコーダーで相手の声を録音してやろうとする。

 川手「もしもし?」
 男「川手さんだね……私はね、あなたがた一家を皆殺しにしようと思ってるんだ。断っておくがこれは冗談やいやがらせじゃない。美しい娘さんが三人いたね、俺の復讐劇は全部で4幕、若い順で雪子、春子、民子、そして最後は川手さん、この順で幕が開く、近々第1幕が開くだろう」

 電話の主は、無論、あのお方なのだが、本人の声では一発でバレてしまうので、違う俳優(加地健太郎)が演じている。

 で、次のシーンでその録音された声を聞いているのが明智。川手から相談された波越警部が、民子と一緒に明智の事務所を訪れているのだ。

 明智の事務所に相談に訪れた民子と波越警部、脅迫電話のテープを聞かせる。
 
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 波越「こんな電話が5日間も続いてるらしいんだ。宜しく頼むよ」
 明智「声が落ち着いてるのが気になるなぁ。……でもねえ、残念ながら、僕はお引き受けできないんです」
 波越「明智君、僕の顔立ててくれよ」
 文代「先生は、世界犯罪学会に出席する為に、明日香港へお発ちになるんです」

 今回も、小林少年は登場せず、助手は文代さんだけ。原作には逆に小林少年だけ登場する。

 民子「じゃ、どなたか紹介して頂けますか?」

 と言う言葉に、しばし考え込む明智、やがて、

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 明智「うん、金田一君がいいかな」
 宗方「なんでだよ!」

 遠くから、宗方博士のツッコミが聞こえる。

 ……スイマセン、嘘です。真面目にやります。当然、ここで明智が推薦したのは、あの宗方博士だった。

 原作では、明智は最初から日本におらず、朝鮮半島の京城(ソウル)で政府(陸軍)の依頼を受けて、きな臭い特殊任務に就いていると言う設定。だから明智が登場するのは終盤になってから。

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 宗方「明智君の紹介ならお引き受けしましょう。明智君は全てまぐれで推理で事件を解決しようとしますが、私は犯罪者側の心理から、犯人像を追及して行く。まぁ川手さんの場合は、私のやり方のほうが適任でしょう。何か財産上の揉め事はありませんか」

 民子と波越が、今度は宗像の犯罪研究所に来ている。宗方は快く引き受けた上で、早速質問する。

 民子によれば、最近、父の腹違いの妹と名乗る北園竜子なる女性が現れ、財産分与を求めていると言う。

 宗方「皆殺しなんて言うと、財産上の恨みが多いんですよ。助手の木島に北園さんの資料を集めさすことにしましょう」

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 木島「木島です、よろしく」

 ここで、意味ありげに木島が登場して鋭い眼光を光らせるので、てっきり犯人の一味なのかと思ったら、実は全然関係ないのだった。
 木島は、原作では冒頭でいきなり犯人に殺されてしまう不運な人。

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 一方、機上の人となった明智。

 (川手家のことはすっかり忘れて、散る花のように美しい、京子夫人の面影だけが……)
 と、いちいちモノローグで京子夫人の映像を回想する明智さん。

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 温水プールで泳いでいる雪子。

 そのスレンダーな肢体を、外から怪しげな男が凝視している。

 雪子に電話があると場内アナウンスが告げる。

 声「警察のものですが、怪しい奴がうろついているので危険です。受付に黒い帽子の刑事がいますから、一緒にプールを出てください」

 だが、それは、顔を隠した別の怪人物が近くの電話ボックスからかけているニセ電話だった。

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 受付で、電話の通り、黒い帽子を被った大柄な男が待っていて、雪子は「刑事さんですか」とすぐ信用して一緒に出ていくのだが、帽子はともかく、サングラスにマスクと言う、どっからどう見ても「お前が怪しい奴だろ!」と全力でツッコミを入れたくなる風采なのである。ほいほい付いていくなよ。

 雪子はそのまま行方不明になり、捜索をしていたパトカーが、荷台にたくさんのマネキンを積んでいるトラックを見掛ける。

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 が、マネキンに混じって、本物の雪子の死体が立っていた!

 その雪子の死体が荷台から落ちる。

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 警官、人形だと思って死体に近付き、あちこち触っているうちに弾力があることに気付く。
 警官「へこむよ、へこむよーっ!」

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 別のシーンで俳優の吐く息が白いので、撮影時期は1月か2月くらいじゃなかったのかなぁ?

 その寒空でこんな裸同然の格好は大変だね。
 (原作では、雪子の死体は、上野公園の衛生博覧会で全裸の人形として展示される)

 むくろとなった雪子の頬には、奇怪な指紋が押されてあった。

 その指紋を拡大して見ている波越、宗方たち。

 宗方「三重渦状紋だ! 一本の指に、三つの渦巻状の指紋」
 波越「これは精神異常か化け物としか言いようがありませんな」
 宗方「いや、ひょっとしたら、犯罪の天才かも知れませんよ」

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 そこへ天知茂先生の弟子・宮口二郎さん演じる田村刑事が、報告に来る。

 運転手の証言で、黒い帽子の大男と、ハンティング帽に革ジャンの小男が、トラックに死体を投げ込んだらしいことが判明したと言う。他の目撃証言からも、その二人組が犯人であることはほぼ間違いないようだった。

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 さて、雪子の葬式が盛大に営まれ、そこへ川手氏の異母妹・北園竜子も顔を出す。

 竜子を演じるのは今も活躍されている稲垣美穂子さん。

 竜子「お兄様、この度はとんだことで」
 川手「いや、わざわざありがとう」
 民子「今度は私の番ですね……私たちを殺して財産独り占めにしたいんでしょう? 帰って下さい!」
 竜子「ひどいことを言うのねえ。それじゃこの際、改めて申します。父の財産の半分は私が頂く権利がございますのよ」
 川手「何を言い出すんだ、私は10年前に連れ合いを亡くしたから、この岡本さんが娘たちの面倒を見てくれたんだ。お前にやるくらいなら、岡本さんに分ける!」
 岡本「旦那様、そんなこと! ……で、どれくらい頂けるんでしょうか?

 嘘はさておき、竜子は「もっと恐ろしいことが起きる」と不気味な予言をして帰って行く。

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 竜子が帰った後、波越は、窓に墨で黒々と例の指紋が押してあるのに気付く。

 波越「もうこの中に犯人が……全員の指紋を採りましょう」

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 宗方「それは無駄でしょう。犯人は我々に挑戦してるんです。やはりこの犯人はよほど天才的な頭脳の持ち主ですねえ……私のことですが
 波越「えっ?」
 宗方「えっ?」

 宗方博士、最近、思ってることが口に出てしまう奇病に罹っていた、と言うのは嘘である。

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 竜子が自宅に戻ると、庭から愛人らしい中年男性・須藤がうっそりと入ってくる。

 これも、演じているのは加地健太郎さん。

 竜子「どうしたら(川手家の)財産が貰えるの?」
 須藤「みんなに死んで貰うのが一番の早道だ」
 竜子「そんな恐ろしいこと……そんなにまでして財産なんて要らないわ」

 竜子は財産より、須藤と言う愛人の方が大事らしい。

 原作では、竜子は終盤になって初めてその存在が知れる。財産を欲しがるでもなく、犯人にとことん利用された挙句、無残に殺されてしまう不憫なキャラである。

 その夜、竜子の家を見張っていた春子、須藤が出てくるのを見て後をつける。だが、ストリップ小屋などの多いいかがわしいところまで尾行し、逆に犯人にあっさり殺されてしまう。

 これも、事件が起きる前だったらともかく、既に雪子が殺された後なのに、彼女の行動はあまりに無謀で軽率である。

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 そして、今度はこんな風に晒しものにされる。

 ……何度見ても強烈なシーンである。

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 その半裸死体を、ストリップでも見るように、食い入るように見詰めているスケベな男たちの表情をインサートするのが、これまた印象的な演出だ。男ってやあねえ。

 立て続けに川手家の娘を血祭りに上げた正体不明の殺人鬼。

 香港に滞在中の明智も、新聞でそれを知って宗方博士宅に国際電話をかける。

 京子夫人が電話に出て、またしても明智とラブラブな会話を取り交わす。

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 悲嘆に暮れる川手家。家政婦の岡本さんが、泣きながら、殺された雪子と春子の衣類や装身具を段ボールなどに詰めている。

 民子「この洋服どうするの?」
 川手「わしゃ見るのが辛い。毎土曜日、この先の空き地で段ボールを焼くそうだ。そこで一緒に焼いて貰おうと思う」
 民子「そうね、それが良いわね……」

 そんな折だったが、民子が修理に出していたピアノが届けられ、業者がそれを2階の寝室へ運び入れる。

 そこへ、再び復讐鬼からの電話があり、今夜、民子を殺すと大胆にも予告をしてくる。

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 その夜、屋敷の周りを刑事や木島助手たちが徹夜で見張り、波越警部や宗方博士が邸内で監視の目を光らせると言う物々しい警戒態勢が敷かれる。

 宗方「もう大丈夫です。気晴らしにピアノでも弾いたらどうです?」

 依頼人の家族を二人も殺されたと言うのに、宗方博士の表情には申し訳なさそうな色は全く見えない。

 どてらい奴だ。

 波越「今夜はみんな寝ずに見張りをするから安心してください。明智君の助手の文代君です」
 民子「お願いします」
 波越「こちら知ってる? 宗方博士」
 文代「ええ、先生からお噂は聞いてます」
 宗方「あなたの噂もね」

 寝室から下がる前、波越警部が隣接するドアを開けて、例の段ボールなどが山積みにされている部屋を覗く。

 川手「二人の遺品です。明日、近所の空き地で焼かせます」
 波越「勿体無い話ですなぁ~」

 宗方は寝室のドアの前、文代さんはその隣室のドアの前に、それぞれ陣取る。窓を除けば、それ以外に寝室に侵入する経路はない……筈だったが。

 みんなが眠気と寒さに耐えながら、徹宵、見張りを続けている最中、

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 責任者たる波越は、麻田奈美のヌードグラビアを見てニヤついていた。

 どてらい奴だ。

 12時を過ぎ、川手親子もベッドに入る。

 普段は別々の部屋で寝ているのだろうが、今回は親子で同じ一室で寝ることになったようだ。

 原作では、妙子(民子)はひとりで寝室に、控えの間に川手氏、外の廊下に宗方、窓の外に小池(木島)助手と言う配置になっている。

 深夜、二人が寝静まったのを見計らって、ピアノの中から顔を隠した小柄な人物が這い出てくる。最初からピアノの中に入り込んで邸内に忍び込んでいたらしい……。

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 一見何事もなく朝が来る。

 岡本さんと運転手が、隣室のドアから入って、段ボールや行李を運び出して行く。

 木島「お嬢さんたちのドレス、みんな焼くんですって」
 田村「んあぁ、勿体無えなぁ」

 刑事たちの見ている中、荷物はどんどん車の中に詰まれて行く。

 運転手が、物を燃やしている空き地へ行き、「一緒に焼かせて下さい」と頼む。

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 その後で、岡本さんが二人にお茶を持ってきて、ついでに寝室のドアをノックする。

 宗方「まだお休みのようですよ」
 岡本「あらおかしいわ、旦那様はいつも5時にお目覚めになって、じっとしてられない方ですのに」

 岡本さんの言葉を聞くや、たちまち宗方博士の面に緊張が走る。

 急いで寝室に入ると、川手氏は不自然なほどぐっすりと眠り込んでいて、しかも肝心の民子の姿が忽然と消えていた。

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 空き地では、運転手が段ボールなどをガンガン炎の中に投げ入れていたが、そのひとつから、こっそりと黒ずくめの人間が出てきて、その場から離れて行く。ピアノの中に隠れていた怪人物だ。

 川手氏はクロロフォルムで眠らされているようだった。そして宗方は、ピアノの仕掛けに気付く。

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 文代「……でも、どうして出たんです? 私も博士も一晩中、廊下で一睡もしてないのに……ああーっ! 分かった、犯人と民子さんはあの行李と段ボールの中だわ!」
 宗方「そうだ! 私も今そう言おうとしたんだ!

 文代さん、明智の名を辱めない明敏さを見せる。しかし、これじゃ宗方博士が良い所なしなので、このトリックは宗方博士が気付くようにした方が良かったかな。原作では、無論そうなっている(実際にそのトリックが使われたわけではないが)。

 岡本「ひゃあああーーーっ、お嬢様が焼かれてしまう!」

 その途端、横で聞いていた岡本さんが悲痛な叫びを上げる。

 当然、警部たちは大急ぎで空き地へ走り、すんでのところで民子の入った段ボールが火中に放り込まれるのを阻止する。

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 波越警部にぐいっと顎を掴まれる民子。

 しかし、さすがに人が二人も入っていたら、段ボールを運ぶ時に気付くだろう? 服とか装身具だったら、そんなに重たい筈がないのだから。
 それ以前に、川手氏が遺品を一時隣室へ置いて、翌朝運び出す意向だと言うことは、犯人にもその場で初めて分かった筈なのに、それとほぼ同時に、共犯者の入ったピアノが運ばれて来ると言うのは、犯人が予知能力者ででもない限り、ありえないことである。

 警察の調べで、ピアノの中から、例の指紋が検出される。犯人の片割れ、小男がその指紋の持ち主ではないかと波越は考える。

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 波越「匂うなぁ、凄く匂うなぁ」
 文代「何が?」
 波越「いやねえ、私ゃこの、頭の方はちょいと弱いけどもね、鼻が利くんだなぁ……」

 ここまで自分の欠点をあけすけに告白する警部、ちょっといませんよね。いたら困るし。

 波越「その小男は……」
 宗方「北園竜子だと仰るんでしょう?」
 波越「ふん? よく知ってますなぁ」
 宗方「助手に調査させました。最近愛人ができて、顔を隠して出入りしているようです」

 波越警部は、北園竜子とその愛人が、しばしば目撃されている小男と大男の犯罪者カップルではないかと短絡的に考える。

 波越「とぼけたふりして一丁当たってみるか」
 刑事「はぁ」
 文代「私も行っていい?」
 波越「うん!」

 と言う訳で、警部と田村刑事、文代の三人は、その夜、竜子の家に行く。肝心の宗方博士が同行しないのがミソである。

 三人が玄関前に立つと、真っ暗な家の中を、懐中電灯を持った不審人物がうろついているのを見る。

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 踏み込んで格闘になるが、文代さん、間違えて警部の頭を殴って「ごめんなさ~い」と可愛く謝るのだった。

 刑事と不審者が取っ組み合ってるところで文代さんが電気をつける。

 刑事「ああーっ?」
 文代「先生!」
 明智「なんだ、君たちか……」

 不審者の正体は、意外にも香港にいる筈の明智だった。

 明智さんは早速、家宅侵入の現行犯で逮捕されて連行されて……いく訳ねえだろ!

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 相手が明智だと分かって、妙にリラックスしたムードが流れる。

 波越「なんだ明智君か、道理で手強いと思ったよ」
 明智「空港から真っ直ぐここへ来たんだ」

 明智、事件の経過は電話で逐一文代さんから聞いていたらしい。

 そこへ、主の竜子が帰ってくる。慌てふためく明智たち。

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 竜子は愛人・須藤が来ているのかと「あなたー」と言いながら居間に入るが、予想に反して波越警部たちが落ち着き払った様子でソファに座っていた。

 波越「お尋ねしたいことがあって伺ったのだが、留守なのに鍵が開いてるでしょう。不用心なので上がって留守番してた訳ですよ。これも我々警察の務めでして……お水一杯頂けますか」
 波越の、こういう適当なことをまくしたててその場を取り繕う才能は、明智にはないものだ。

 竜子は不審な顔をしながらも、グラスの水を出す。波越はハンカチを当てて飲み、そのまま刑事に渡す。

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 それはいいのだが、その場で刑事が検出キットで指紋を調べると言うのが、人権無視のやり方で、さすがにやり過ぎだろう。実際、竜子は犯人ではないのだから、人権侵害と非難されても文句は言えないところだ。

 おまけに、グラスから三重渦状紋は検出されず、波越の面目丸潰れとなる。

 波越たちは、ほうほうのていで退散することになるが、転んでもただでは起きない明智さん、去り際にしつこく質問して、須藤と言う愛人のことを聞き出す。

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 ひとりになった竜子、人差し指から半透明のシールのようなものを剥がす。

 その下からは、紛れもない三重指紋が現れた。

 後に、明智は「水絆創膏で隠していた」と見抜くのだが、それだと、人差し指の指紋が検出されないので、結局疑われそうなのだが? それとも、偽造の指紋が付くようなスタンプになっていたのだろうか?

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 そこへ、須藤が例によって庭から入ってくる。

 須藤「警察は、お前を犯人だと思っているらしい……その指紋が見付かったら、言い逃れできんな」
 竜子「怖い、私を連れて逃げて!」

 見えるのは顔の一部だが、これだけでも、加地健太郎さんのものだと分かってしまう。

 さて、明智、宗方家を訪れ、愛しの京子夫人と二人きり。

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 明智「香港のお土産です」
 京子「どう、似合います?」
 明智「ええ、とても」
 明智から贈られた翡翠のネックレスを誇らしげに胸にあてがって見せる京子夫人。

 京子「ありがとうございます。さぁ、お飲みになって下さい。いやと言っても飲ませちゃいますよ、今夜は」

 ブランデーか何かを明智のグラスにつぐ。

 明智「博士の研究、とっても好評でした」
 京子「すっかりお世話になってしまいまして……でも私、宗方の研究嫌いです」
 明智「どうしてですか?」
 京子「あの人、処刑なんて恐ろしいことに興味を持ち過ぎてるんですもの」

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 明智「博士は研究以外に何か楽しみはないんですか」
 京子「ええ、私は何もして上げられませんし、お恥ずかしい話なんですが、私たち、夫婦であって夫婦でないようなものですから……」
 明智「それはどういう意味ですか?」←聞くなよ
 京子「私は結婚前からこんな体だったんです。宗方はそれを承知で結婚してくれました。ですから、夫婦の関係は一度もありません!」

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 明智「そぉおですか」

 京子の赤裸々な告白に、童貞の明智は思わず視線を泳がせる。

 京子「最初はあの人に感謝しました。でもそれが哀れみだと分かってくると堪らないんです」
 明智「そんなこと……博士はあなたの体を心配しておられるんですよ」
 京子「私も女です。男の方の胸に飛び込んで、全てを忘れてしまいたいと思う時だってありますわ! 長くない命なんですもの」
 明智「そんなことありません、きっと良くなりますよ」

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 京子「皆さん黙ってらっしゃるけど、私は良く分かってるんです。悪い病気だって……」
 明智「悪い病気?」

 京子「……逆流性食道炎!」
 明智「ただの飲み過ぎじゃないんですか?」

 ……スイマセン、真面目にやります。さっきも言ったような気がしますが。

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 京子「……骨ガン」
 明智「……」
 京子「どうせ死ぬなら思い切り好きに生きてみたい。生きてる証拠が欲しい! 明智さん、こんな気持ちはお分かりにならないでしょうね?」

 熱っぽく、意味ありげに見詰め合う二人。

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 が、明智さん、急に立ち上がり、「失礼します」と逃げるように出て行くのだった。ダメな明智さん。

 この段階では、まだ京子夫人のことを犯人だと見抜いている訳ではないと思うが。ま、人妻だしね。

 京子夫人は実際は宗方博士の妹なのである。だから夫婦の関係がないと言うのは事実である。ただ、折に触れて夫人が言う病気については、本当なのか嘘なのか、最後まではっきりしない。車椅子など必要なく、自由に歩き回れるのは確かだが。

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 明智はその後、民子が入院している病院へ宗方博士の応援に駆けつける。
 波越「民子さんが退院すると言うんで、このまま安全な場所へ移すことにしたんだ」
 明智「何処へ?」
 波越「それは秘密にした方が良いと言うのが、僕と博士の意見なんだ」
 宗方「明智君、相手は不可能を可能にする男だ。だからこちらもそれ以上の叡智と作戦で対抗しなくちゃならん。場所は今は、伊豆のある場所とだけ言っておこう。私が二人をそこへ連れて行く。そして安全を確認してからお知らせする。どうかね、この作戦は?」
 明智「私は、博士の手伝いに急いで帰ってきたんだよ、指示に従うよ」

 あくまで事件を引き受けたのは宗方博士だと、今回の明智さんは万事、控え目である。

 原作では、ひとりぼっちになった川手氏を宗方博士が説得して、山梨かどこかの山奥の屋敷へ二人で移動するのだが、何度も車を乗り換えたり、ビルの中をかごぬけしたり、変装したり、果ては走行中の列車から飛び降りたり、様々な手段を尽くして犯人に追跡されないようにする、ひとつの山場になっている。

 が、ドラマでは二人を医者と看護婦に変装させて裏口からこっそり抜け出させ、明智の運転する車で移動し、途中で文代さんの運転する車に乗り換え、それから電車、タクシーで目的地に向かうと言う、ごくシンプルなもの。

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 明智「だいじょぶか?」
 文代「ええ」

 さりげなく文代さんを気遣う優しい明智さん。

 最終的に、宗方博士がよく訪れると言う山奥の小さな寺に辿り着く。

 宗方は、数日泊めてやって欲しいと、老夫婦に二人を預け、自分は妻の病気があるからと言って東京へ帰ってしまう。

 宗方は「犯人がどんな狡猾な奴でもこの場所は分からない」と請け負うが、そんな彼らを近くの林の中から見詰めている、小柄な黒ずくめの怪人物の姿があった……。

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 その夜、例によって同じ部屋で眠る川手親子。

 民子が豊満爆裂ボディの持ち主だけに、なんとなく下品な想像をしてしまう管理人であった。

 が、寝ようと灯りを消した瞬間、どこからか女の笑い声が聞こえてきて、更に障子窓に、あの三重指紋が不気味に浮かび上がる。

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 二人はすぐ建物から出て、墓地を突っ切って逃げようとするが、今度はお遍路さんのような格好をした老婆が現れる。

 老婆「『うつし世は夢、夢こそまこと』……ようくみなさるがいい、この墓を」

 原作者乱歩の有名な言葉を引用しつつ、老婆は二人に真新しい墓標を見せる。それには、その日の日付と、川手親子の名前が記されていた。

 老婆「では30年前の夢の世界にご案内致しましょう」
 老婆が鈴をチリンと鳴らすと、

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 彼らの前に即席の舞台が現れ、奇妙な芝居が始まる。

 ひとりの男が、夫婦の寝込みを襲って強盗を働こうとしている場面だった。

 後編に続く。
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zura1980

Author:zura1980
70~80年代の特撮、80年代のドラマを中心に紹介しています。

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