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死刑台の美女」~江戸川乱歩の「悪魔の紋章」(画像復刻版) 後編



 ※この記事は、以前のブログに書いていたものを再編集したものです。

 突然、川手親子の前で始まった芝居。

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 驚く二人の背後から、警察が犯人と目している大男、小男のペアがぬっと出てきて、銃を突きつける。

 川手「お前たちは誰だ?」
 大男「今に分かる。あの強盗はお前の親父だ。どんな奴だったか良く見ろ!」

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 川手父「いかにも俺は川手だ。お前と同じ山本商会の使用人さ。おい、よくも美千代さんを騙して山本家の養子におさまりやがったな!」

 舞台の川手父は、金庫の金を奪った上に、

 山本「殺すのか?」
 川手父「ああ、顔を見られたからなぁ」

 と、山本夫妻を無残にも刺し殺してしまう。

 芝居ながら、川手氏の父、そして民子の祖父である川手庄兵衛の悪行を目の当たりにして、おののく川手親子。庄兵衛が去った後、山本夫妻の幼い息子が、赤ん坊を背負って登場。

 息子「お母ちゃんしっかり」
 母「仇を討っとくれ、お父さんと私を殺したのは、川手庄兵衛……川手の一家を根絶やしにしておくれ」

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 ここで、その子供が舞台から降りて、観客である川手親子に話しかけるのが、なかなか斬新な演出。

 息子「おじちゃん、僕の悲しみが分かるー?」
 川手「分かりません」

 息子「お父さんお母さん、僕、きっと仇を討つよ!」

 子供は舞台に向かって叫ぶと、霧の中へ走り去る。川手親子が振り向くと、舞台装置は忽然と消えていた。

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 大男は、あの息子・山本始こそ自分で、共犯の小男が、少年の背負っていた赤ん坊だと告げる。

 ここでは、あえて小男の性別を明かしていないのが、ミステリーとしての工夫である。

 原作のこのシーン、殺人芝居はもっと長いのだが、退屈なので、ドラマではかなり省略されている。

 つまり、かつて、川手氏の父親が、山本兄弟の両親を惨殺した。だが、庄兵衛が獄中で病死した為、復讐の鬼と化した山本始は、その子供や孫を代わりに殺そうとしているのだ。

 原作が書かれた昭和12年だったら、まだなんとかついていける動機だが、このドラマの放送された1978年当時では、完全な時代錯誤だろう。

 それより、復讐は表向きで、川手一家を皆殺しにして竜子に財産を継がせ、宗方が須藤として竜子と結婚してそれを自分の物にすると言う、財産目当ての殺人計画にした方がまだ納得できると言うものだが。

 大男「俺はこの準備の為に30年を費やしたんだ」
 川手「私は何も知らん!」
 大男「待て、じたばたするな。もう騒いだって誰もいやしない。今のは俺が雇った役者だ。今頃は弾んだチップに心をウキウキさせながら、一杯飲みたさに村の旅館へ急いでいるだろうよ」

 しかし、役者達、二人が銃を持っているのを、不審に思わなかったのだろうか?

 原作では、犯罪の片棒を担ぐと承知で引き受け、警察に捕まったらしいが、ドラマでは特に悪びれずに警察の事情聴取に応じている(後述)。

 川手親子は墓地の一画にある納骨堂の中へ連れて行かれ、川手氏は用意されていた棺桶に押し込められる。

 ここで、大男が、

 「頭の良い学者と探偵が知恵を絞ったのにどうしてここが俺に分かったのか、冥土の土産に教えてやろう」

 と、マスクを外して川手氏に素顔を見せる。その顔を見て愕然とする川手氏。

 犯人としてはごく自然の行為であるが、原作ではなぜか最後まで正体を明かさないのである。

 二人は川手氏を棺桶に入れて釘付けにし、原作には出てこない民子の方は、その場では殺さず、両親の命日まで生かしておくと告げる。

 原作では、川手氏を棺桶に入れ、更に地中に埋めるんだけどね。

 さて、川手親子の失踪を知った宗方、寺から波越警部に電話する。

 宗方「波越さん、やった! やったよ! じゃない、やられた、やられたよ!」(註・嘘です)

 原作ではその家の老婆が、山本兄弟の乳母で、協力者だったのだが、ドラマでは特にそう言う設定は見られない。

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 波越や明智もすぐ現地へ向かう。

 墓地に、川手親子の墓があったので、その下を掘って見るが何も出てこない。

 ふと明智が、納骨堂に気付いて近付く。

 木島「あ、鍵が掛かってますね」
 明智「ええ……和尚さん、ここはなんですか」
 和尚「いや、縁者のない方の納骨堂ですが、最近開けたことありません」
 明智「ああ」

 明智はあっさりそう言って、その場を離れる。

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 刑事が昨夜の芝居をした劇団員のことを聞き込み、焼け残った台本を持ってくる。

 波越「ある惨劇? なんだこりゃ」

 どうやら、山本始、殺人芝居を見せる為、わざわざ台本まで作って稽古させていたらしい。どてらい奴だ。

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 ちなみにこのシーン、波越が1ページ目を繰り、

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 2ページ目を読むのだが、実は1ページ目と3ページ目、どっちも同じことが書いてあるんだよね。

 原作の長い芝居ならともかく、ドラマ内の芝居はごく短いものなので、台本なんか要らないくらいなのだ。だから、こうやって水増しして体裁を整えているのだろう。

 劇団員はすぐつかまり、警察で事情を聞かれる。

 やはり、彼らはそれが犯罪行為の一端だとは全然気付かなかったらしい。そして劇団員の一人は、小男の体から香水の匂いがしたと、重要な証言をする。では、小男と見えたのは女だったのか?

 冷静に考えて、人殺しをしようと言うときにわざわざ香水つける奴もいないんだけどね。

 波越「匂うぞ、くさいっ、やっぱり北園竜子だ」
 宗方「いよいよその線が強くなって来ましたね」

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 と、子供がどぶ川で切断された人差し指を見付けたと警察に届けてくる。

 鑑識の結果、その指の指紋は、事件現場などで採取された三重渦状紋と完全に一致した。

 明智「それは恐らく、北園竜子の指でしょう」
 波越「うぉん? だって北園の指紋は調べたじゃないか」
 明智「水絆創膏で指紋を隠すってのは良くやる手ですよ」

 その頃、竜子は包帯でぐるぐる巻きにされた自分の右手を抱いて、横になっていた。

 原作同様、犯人だと疑われるのが怖くなって包丁で指を切り落としたのだ。

 しかし、原作でもそうだが、指紋を消すだけなら、指を切断しなくても、薬品や火で指紋を潰せばいいんじゃないの?

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 そこへ須藤がやってきて、あっさり竜子を刺し殺してしまう。

 波越警部が来た時には、竜子は既に冷たくなっていた。

 原作では竜子は行方をくらまし、宗方博士が見付け出して捕縛するが、目を離した隙に縄を解いて自殺してしまったと言うことになっている。

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 さらに、今度は大柄な男が飛び降り自殺をする。

 男は「自分は山本始で、復讐の為に川手一家を皆殺しにした。北園竜子は自分の妹で、警察に追い詰められて自殺した。自分も後を追って死ぬ」うんぬんと言う遺書らしき手紙を身に付けていた。

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 宗方「これで、自殺他殺説に分かれていた北園の死も自殺ってことがはっきりした訳だ」

 自殺者の顔は破損していたが、須藤を見たことのある竜子のお手伝いさんは、着ていた服は須藤のものに間違いないと証言する。こうして警察と宗方博士は、大男=山本始=須藤、小男=山本始の妹=北園竜子だと簡単に決め付け、犯人・被害者とも全員死亡! として片付けようとする。

 こまめな明智さん、今度は花束を持って京子を見舞う。

 京子は手術の日が決まったと言い、二度とこの家に戻って来れないかも知れないと弱気なことを口にする。ここで、明智が故意か偶然か、ポットの熱湯を夫人の足の上にこぼしてしまう。

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 明智「あっ、すいません!」
 京子「いいんです、明智さん、これが最後かもしれませんね、お会いできるのも……」

 京子は、その手を取って、潤んだ瞳で明智を見詰めるのだった。

 捜査本部にて、波越警部たちと事件の総括をしている宗方博士。

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 宗方「山本兄妹の自殺により、川手一家に対する復讐劇に幕が下りたと言う訳ですね!」

 宗方さん、そこ、笑うところじゃないです。

 依頼人の一家を全員死なせておきながら、その朗らかな笑顔はさすがにまずいだろ。

 原作の宗方博士は、もうちょっと神妙な顔してたで。

 実際、このドラマの宗方博士はあまりに無能過ぎて、誰もそこに言及しないのが不自然に思える。原作の博士も似たようなものだが、それでも人間消失トリックを見破ったり、些細な情報から三重指紋の持ち主を北園竜子だと導き出したり、多少は名探偵らしい片鱗を覗かせているんだけどね。

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 と、そこへ、明智が現れ、「そうじゃあないでしょう」と、ひとり怯むことなく異論を唱える。

 明智「私はそう簡単に幕が下りたとは思えません」
 波越「やあ明智君、何処へ雲隠れしてたんだよ。あれから大変だったんだよ、須藤も竜子も死んじゃってさ」

 どうやら明智、川手親子が失踪してから、独自に捜査を行なっていたらしい。

 明智「今度の事件を最初から順を追って考え直してみたんだ」
 宗方「その間に、事件は終わってしまったと言う訳だ」
 明智「いや、まだ終わっちゃいない」
 波越「ほわっ、明智君、その、遺書をちょっと見てみたまえ」
 明智「この犯人の自殺自体が矛盾してると思わないか。まだ復讐も、終わってないと言うのに」
 宗方「終わってない?」
 明智「だって、川手さんと民子さんの生存がまだ分かってない」
 宗方「きっと死んでいるよ」
 明智「どうして分かるんだい」
 宗方「それは……犯人の力を知ってるからさ。天才的な奴だからねえ。……ま、私のことだが
 明智「えっ?」
 宗方「えっ?」

 またしても、思っていることが口に出てしまうお茶目な宗方であったが、嘘である。

 明智「そんな天才的な奴が、完璧な復讐劇の結末を世間に発表しないまま、死ぬかね?」
 宗方「じゃ、この自殺者は犯人じゃないと言うのかね」
 明智「そう、犯人の仕掛けた殺人のような気がする」
 宗方「全て疑う、君一流の推理だね」
 明智「僕は早く二人の行方を捜したほうが良いと思う」
 宗方「死体を捜したほうが早道だと思うね」
 波越「へーっ、名探偵同士が初めて意見が分かれたねえ!」

 少なくとも今回の事件については、この警部の言葉は宗方に対する強烈な皮肉に聞こえなくもない。

 だが、この二人の長丁場のやりとりは、原作のクライマックス、終わった筈の事件を、明智が根底から覆してしまう長い解決部分の雰囲気を、ある程度再現している。

 波越「死体を何処に隠すかなぁ?」
 宗方「一番手っ取り早いのは、墓地かな。妙な建物があったな」
 明智「納骨堂かね」
 宗方「うん、私の勘によるとあそこに川手さんの死体があるような気がしてきた」

 自分で川手氏をそこに押し込めておいて、白々しい台詞を放つ宗方。

 あれからだいぶ日数が経過しているので、どう考えても川手氏は窒息死していると踏んでの発言である。

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 明智「あれば、私の負けだね」

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 宗方「そう、なければ僕の勝ちさ!」
 明智「なんでだよ!」

 ……嘘である。正解は「なければ僕の負けさ」でした。

 早速、みんなで納骨堂へワープする。

 扉を開けると、中に、例の棺桶がちゃんと置いてあった。それを見て宗方、「やはりありましたね」と会心の笑みを漏らす。

 だからそこ、笑うとこやおまへんで。

 しかし、釘を抜いて蓋を開けると、川手氏の死体はなく、カラッポだった。

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 明智「博士、僕の予測したように殺人鬼の復讐はまだ終わってないようだ。どうやら僕の勝ちらしいな」
 宗方「ああ、しかし、あんなに頭の良い犯人がどうしてだろう?」

 茫然としながらも、自分のことを持ち上げるのを忘れない宗方博士。

 折も折、そこへ刑事が飛んできて、川手氏が東京行きの列車の中で発見され、意識不明で共同病院に収容されたと言う驚きの知らせをもたらす。

 川手氏は明日にも意識が回復する見込みらしい。

 「それまで勝負は持ち越しだね」と、宗方と明智は爽やかに別れる。

 その夜、案の定と言うべきか、共同病院に忍び込む怪しい影があった。

 それは正しく自殺した筈の大男だった。

 男は真っ直ぐ川手氏の病室へ行き、ベッドで寝ている川手氏の体に何度もナイフを突き立てる。

 男が去った後、隠れていた明智と波越が姿を見せる。川手氏は人形だった。そう、明智が仕掛けた罠だったのだ。これも、原作にほぼ同じシーンが出てくる。

 明智「大丈夫ですよ、つける手配はしてあります」

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 明智の手配とは、文代さんを犯人の車のトランクルームに潜り込ませると言う大胆なもの。

 だが、途中まで走った犯人、車を停め、ハッチを開ける。

 大男「分かっていたよ、お前がここへ隠れていたことくらいはな」

 大男は文代さんの首を絞めて気絶させる。

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 ここで場面が一転、台に縛り付けられた民子のすぐ上を、巨大なカマの振り子が動いていると言う物凄いシーンになる。無論、原作にこんなシーンはない。

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 恐怖におののき、身をよじって避けようとする民子のおっぱいが揺れている!

 そばで、例の小男が静かにその様子を見守っている。

 と、そこへ大男が文代さんの体を担いで入ってくる。

 文代さん、あられもない、下着姿になっている。ただし、下半身はジーパンを履いたまま。

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 二人は素早く文代さんの体を、台の横の、別の拷問器具に縛り付ける。

 ほぼ同時に、文代さんが意識を取り戻す。

 文代「ここは何処?」
 大男「処刑室だ、見ろ」
 文代「民子さん!」
 大男「あの刃物が民子の体を引き裂いてしまう。貴様も八つ裂きにしてやるぞ、スイッチ!」

 この段階では、もう大男の声は伊吹吾郎の作り声に変わっている。小男は無言で指示に従う。

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 スイッチを入れると、左右の滑車が動き出し、文代さんの手足を外側へじりじりと引っ張って行く。

 文代「やめて、やめて、いったい! ああああ……ああーっ!」

 苦痛に顔を歪める文代さん。

 シリーズ中、最大のピンチである。

 民子の方も、やがてカマがブラを切って、乳房が露出し、サッと赤い線が走ると、耐え切れずに失神してしまう。続いて、文代さんも一声絶叫し、意識を再び失う。

 が、その時、玄関の方からピンポンピンポンと言うチャイムの音が聞こえてくる。

 大男は仕方なく、一旦スイッチを切って、応対に出る。

 楽しい楽しい処刑を中断され、お冠の犯人たち。

 次のシーンで、車椅子の京子が自ら玄関に客を迎えに出ているので、ほぼ、ネタばらしになっている。

 訪客は波越警部だった。
 波越「宗方博士いらっしゃいますか」
 京子「研究中ですが……」
 波越「是非ともお会いしたいんですが」
 京子「あなた!」

 呼びかけに応じ、宗方博士が出てくる。

 宗方「どなたかね。おお、波越さん」
 波越「たった今、共同病院で川手さんを刺し殺した大男が逃げましてね。尾行してきたんですが、このあたりで見失いました」
 宗方「そうですか、それは残念でしたね」

 なおも、どうでもいいような世間話をして、玄関先で粘る波越警部。

 宗方「波越さん、私は今大事な原稿を書いてるんだ。明日警視庁で会いましょう」

 いや、あの、宗方さん、たったいま、あなたの大事な依頼人が殺されたんですよ?

 この落ち着き払った態度はどう考えても変である。

 まぁ、宗方としてはそんなことを考える余裕もなかったのだろうが。

 波越警部、ドアと間違えて壁に頭をぶつけると言う、ビートたけしみたいなボケをかましつつ、やっと出て行く。

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 で、次のシーンでは当然、処刑室、いや宗方博士の研究室へ戻ってくる二人なのだが、きっちり変装し直してから現れるのが、割とツボである。

 さすがにここは着替えずにそのまま来るだろう。今更、文代さんや民子に素顔を見られても問題ない筈だ。

 無論、視聴者への配慮ではあるんだけど。

 戻ってきて、すぐスイッチを入れると、あっけなく民子は切り刻まれ、文代さんは四肢をバラバラにされてしまう。思わず顔を背ける小男。

 大男「ハハハハ、これで完成したぞ。30年間構想を練り続けてきた、俺の復讐の美学が!」

 さすがに30年は練り過ぎでは?

 しかし、殺人鬼の勝利の笑いに被さるように、別人の高らかな笑い声が響いてくる。

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 二人の前に、コートを着た男性が現れ、

 大男「貴様、誰だ?」
 明智「君が良くご存知の須藤だよ」
 大男「何を言う、嘘だ! 貴様は須藤じゃない」
 明智「どうして?」
 大男「……」
 明智「ははは、返事に困ることはないだろう。君の言う通り、須藤なんて男はこの世に存在しない」
 大男「貴様……」
 明智「そう、私だよ」

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 ゆっくりと階段を降りてきた明智、コートを脱いで後ろの手摺にかけ、帽子、付け髭を外し、

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 大きめのサングラスを外す。

 今回は、別の俳優に化けてないので、定番のベリベリベリはない。衣装の早変わりも最初の頃はないんだよね。

 しかし、この明智の変装、シリーズ中、一番現実味のある変装ではある。

 明智「とうとう突き止めたよ、山本始の正体を」

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 大男「さすが名探偵、お見事だよ」

 さすがにもう観念したのか、作り声をやめて、明智と同じように変装を解いていく宗方。

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 んで、明智と同じく、大きいサングラスを外す。

 明智「君らしい手の込んだ犯罪だったね。……あなたは奥さん、いや、夫婦ではなく、博士の妹・山本早智子さんだね」

 明智は小男に向かって言う。

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 小男も、あっさりと諦めて、素顔を晒す。

 大きなサングラスを外すと言うシーンが三回も続くのも、密かなツボである。

 無論、小男の正体は、歩けない筈の京子夫人だった。

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 明智「自分の知恵に溺れ過ぎたようだな博士。伊豆に川手さんと民子さんを連れ出して芝居を見せたことが致命的だ。あの場所は君しか知らないんだからね」
 宗方「俺は復讐に一生を懸けたのだ」

 喋りながら眼鏡をかける宗方博士。これは伊達眼鏡なのか?

 宗方「そして北園竜子が川手家の財産を狙っていることを知り接近したら、あの女が珍しい三重渦状紋の持ち主だと知り、俺の計画に決定的な美学が加わったのだ。世にも不思議な指紋を不思議な紋章とし、北園竜子を利用して最後は犯罪を竜子のせいにして殺してしまう。あの女もまた川手庄兵衛の血を引いた女なのだから」

 宗方は、竜子の指紋をいつでも押せるスタンプのようなものを取り出して見せる。

 折に触れて発見された三重指紋は、当の宗方博士がそれで付けていたものだった。

 ただ、タイトルにもなっているこの指紋、原作と比べてその出現頻度は小さく、その印象も凄惨な処刑シーンなどの陰に隠れて、あまり強くない。原作だと、ほとんどギャグのようにしょっちゅう発見されるんだけどね。

 宗方「そう私こそ須藤であり大男だ。そして山本始なのだ!」

 大男と目されていたあの自殺者は、事件とは関係のない浮浪者で、宗方によって突き落とされたのだ。

 宗方「最初から私は君さえいなければこの計画は成功すると思って香港へ行って貰ったのだが、私の計画は完成したぞ。川手は死んだ。見ろ、この処刑室を! 民子も君の美しい助手までも巻き添えになってるぞ!」

 だが……、

 明智「そうかな、博士?」

 復讐を成し遂げたと狂ったように笑う宗方に対し、明智は静かに視線を転じ、殺された筈の川手氏を部屋に呼び入れる。さすがの宗方も愕然と色を失う。

 宗方「……川手!」
 波越「さっきむちゃくちゃに刺したのは、人形だ」
 宗方「しかし、民子は死刑台にかけてやったぞ。見ろ!」
 明智「いや、冷静に見て欲しいのは、博士、君だよ。はははっ、あれは人形だよ。さっき波越警部が訪問した間に、私がすり替えた」

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 慌てて駆け寄って見ると、二人ともいつの間にかマネキン人形に変わっていた。

 ……しかし、さすがに気付くだろう? まぁ、30年越しの復讐の興奮で目が眩んでいたのかもしれないが。

 明智は、服を着た民子と文代も呼んで、宗方に決定的なダメージを与える。

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 明智「どうだね、宗方博士?」
 宗方「……ふふふふふ、天才はいついかなる場合も最後は勝つ! このスイッチを捻れば、この家は火の海になるのだ」

 この期に及んで自分を持ち上げないと気が済まない宗方博士。

 この、アジトに爆弾を仕掛けていると言うのも、「大暗室」からの着想かなぁ?

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 宗方「勝利は私のものだ! しかし私が死ぬ前にまず、君が死ぬのを見たいのだ」

 銃を取り出し、明智にピタリと向ける宗方。

 これは、原作にもある展開。ただ、原作では明智が事前に弾を抜いていたと言う幼稚なオチになるのだが、ドラマでは何の手も打ってなかったようで、明智はじりじりと後退するばかり。

 宗方「お見事だよ明智君、良きライバルだった……」

 銃声が響く。

 だが……、

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 撃たれたのは明智ではなく、宗方自身だった。

 背後から、京子が撃ったのだ。

 宗方「あ、う……京子……どうして……どうして?」

 信じがたいと言った顔を振り向け、がっくりと倒れる宗方。

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 京子「兄さん! 許して……もうダメよ、死ぬのは私たちだけ」
 宗方「京子、お前、明智を好き……」

 妹の腕の中で絶命する宗方博士。
 
 京子「明智さん、私には分かってました。あなたが私の膝にお湯をこぼした時に……あれは、私の足をお試しになったんですね」

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 明智「そうです、お湯をかけても飛び上がらないあなたでした。毛布の下、皮のプロテクターでガードしていましたね」

 ただ、京子夫人の具体的な病状が劇中では全然説明されていないので、飛び上がろうにも下半身が麻痺しているとか、足の感覚がなかったとか、他の解釈も成り立ちそうである。

 また、京子がしばしば口にする「悪い病気」についても、本当だったのか偽りだったのか、ドラマでは説明されないままなのが、ちょっとスッキリしない。

 ちなみにこの、実際は歩けるのに脚が不自由だ見せ掛けていると言う設定、同系統の作品「蜘蛛男」を連想させるけど、そこから来てるのかも知れない。

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 京子「あの時から覚悟してました……さよなら明智さん」

 双眸から美しい涙を流しつつ、明智を見上げる京子。

 再び轟然と銃声が響き、今度は京子自身が倒れる。

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 明智「京子さん!」
 京子「あなたに会えたことが、生きてる間の、たったひとつの、幸せでした……」
 明智にプレゼントされた翡翠のネックレスを誇らしげに見せながら、最期の瞬間も熱っぽく訴える京子夫人。

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 微笑みながら、床に倒れ伏す。

 その拍子にネックレスの糸が切れ、床にバラバラと翡翠が散らばり落ちる。

 それを見る明智の脳裏には、京子夫人と初めて会った時の、舞い落ちる花びらの幻影が浮かんでいた。

 京子「すぐ散ってしまいますけど、一生懸命咲きますでしょう、だから……」

 その時の、夫人の言葉がありありと甦るが、これは管理人の脚色である。

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 京子のなきがらを前に、彼女がかつて花びらを丹念に拾い上げたように、翡翠を拾い集める明智さんの神妙な顔を映しつつ、エンディングとなる。

 エンディングでも、いつものテーマ曲は流れない。

 復讐にとりつかれた兄に偽りの人生を強いられてきた薄幸の京子へたむけるレクイエムのような、物悲しい曲が使われている。

 しかし、京子、兄に嫌々従っていたようだが、さすがにその行為は不自然である。ふたりの関係がどんなものだったのか、その点もドラマでは描かれていないので、もどかしいのだ

 両親が殺された時は京子は赤ん坊で、特に強烈な復讐心を抱いていたとも思えないのだが。

 原作では、宗方以上に復讐に狂った救いのない女性として描かれており、結末は、ふたり揃って服毒自殺すると言うものだった。

 ……と言う訳で、まさかこんなに長くなるとは思っていなかったので、正直途中からしんどかったが、これにて終了です。尺が短いけど、その分、中弛みがなく、かなりの力作になっていると思う。
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コメント

画像復刻お疲れ様です

これは面白いですよね。
明智が犯人を追い詰めるのも大いに盛り上がりますし。
今更だけど「美女シリーズ」は井上梅次監督の功労がデカいですね。

Re: 画像復刻お疲れ様です

> これは面白いですよね。
> 明智が犯人を追い詰めるのも大いに盛り上がりますし。

これを書いたのは約4年前ですが、改めて読んで自分の文章の下手さ加減に驚かされました。恥ずかしい限りです。

No title

美女シリーズの北大路欣也版、西郷輝彦版は「江戸川乱歩映像読本」で低い評価ですがどんなものなのか少し興味があります。

Re: No title

> 美女シリーズの北大路欣也版、西郷輝彦版は「江戸川乱歩映像読本」で低い評価ですがどんなものなのか少し興味があります。

西郷版は見る価値ないですが、北大路版には多少、天知版の雰囲気が残ってますね。「神戸六甲まぼろしの美女」などと言う珍作もまじってますが、平均点は割と高いと思います。

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zura1980

Author:zura1980
70~80年代の特撮、80年代のドラマを中心に紹介しています。

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