第24話「パパはドラキュラ」(1989年4月16日)
深夜、武藤と言う表札の掛かった家では、ある恐ろしい事態が進行中であった。

その家の一人息子アキオが、先端を尖らせた杭と木槌を手に、父親の寝室に息を殺して忍び込み、

仰向けに眠っている父親の胸に杭を打ち込もうとしていたのである。
木槌を振り上げたアキオの脳裏を、漫画などで見た吸血鬼ドラキュラの姿がよぎる。
だが、どうしても振り下ろせず、顔から脂汗を滲ませ、荒い息を繰り返しながら、その姿勢を保っていたアキオだったが、掛け時計の長針が12時55分を差したカチッと言う音で、ハッと我にかえる。
アキオ(できない……父さんにこんなこと)
結局アキオは断念し、後ろ向きでそろそろと父親の前から退き、部屋を出て行く。

だが、それと同時に眠っていた筈の父親がカッと目を見開き、ベッドの上に半身を起こす。
眠ったように見えて、とっくの昔に息子の存在に気付いていたのだ。
そして、その首には吸血鬼に噛まれたような二つの傷口があった……。
せめて、それで切っておけば良いのに、
武藤「アキオ……」
そうつぶやいて、額に手をやる武藤の態度から、武藤自身、自分が吸血鬼になってしまって苦しんでいることまで視聴者に筒抜けになってしまう。
ここで「パパはドラキュラ」と言うサブタイルが表示されるのだが、アバンだけでほぼストーリーが分かってしまい、結末までだいたい読めてしまう、このセンスのない編集はどうにかならないものだろうか?
よってアバンでは、アキオが「父親は吸血鬼なのでは?」と疑う程度にとどめておくべきだったろう。
しかも、次のシーンでは、

ジャーク「こやつか、例の、カミラ族の生き残りと言うのは?」
ボスガン「カミラ族といえば、たしか」
ガテゾーン「その細胞が異生獣の強化エキスに、つまりは餌に適しているとかで、ゲドリアン、お前さんの指揮で狩り立て、隔離した一族だったな」
マリバロン「しかしそれも貪欲な異生獣どもがことごとく食い漁り、一族は全滅した筈……と言うことは?」
ゲドリアン「そのとおり、ジャーク将軍の御命令を受けてこの俺が地球上に放った隠れスパイ」
その武藤の映像を見ながら交わされるクライシスの皆さんの分かりやすい会話で、その素性まであっという間に明らかにされてしまう。
こう言うやりとりは、視聴者の興味を引っ張る為にも、せめてBパートまで温存すべきだろう。
にしても、
「隠れスパイ」って……。

ジャーク「我がクライシスによる地球攻略作戦は10年、いや、もっと以前から着々と計画を進行させてきたのだ」
ボスガン「その割に、ちっとも成果が上がってないようですが……」 ジャーク「おだまんなさいっ!」 嘘はさておき、ゲドリアンは、既に怪魔異生獣リックバックのリックストーンなるものを武藤の体内に埋め込んでいると自慢げに言う。
それは、宿主の体質を伝染させる効果を持っており、簡単に言えば、武藤に噛まれた人間も、ドラキュラが人の血を吸った時と同じく、カミラ族になってしまうと言うのだ。
マリバロン「異生獣の餌となる細胞を地球人に伝染させようと言う訳だね」
ボスガン「地球人を餌にか、おもしろい」
カミラ族と言う一種族を文字通り食い尽くしてしまったゲドリアンと異生獣もえげつないが、今度は地球人をその餌に「改良」しようという、今回の作戦も劣らずえげつない。
その発想自体は面白いのだから、冒頭であっさりネタばらしせずに、さっきも言ったようにBパートまで引っ張って謎解きの対象にすれば良かったのだ。
さて、何も知らない光太郎と玲子が道を歩いていると、武藤に噛まれた男性が目の前で倒れるのに遭遇する。彼らの前を走り去っていく武藤のタクシー。武藤はタクシーの運転手で、お客を片っ端からカミラ族にしているらしい。
……そんなことしてたら、商売あがったりなのでは?
それとも、料金を受け取ってから噛んでるのかな?
二人は、高熱を出して苦しんでいるその男性を病院の前に捨ててくる……じゃなくて、担ぎ込む。
だが、病院には同じ症状の患者が大勢収容されていて、ちょっとしたパニック状態になっていた。
彼らの首筋には、全て二つの噛み傷があった。

医師「進行具合はめいめいの体質によって多少の差はあります。しかしいずれも体内の細胞に変化が起こっているようなんです」
光太郎「細胞の変化?」
この医師を演じているのは、洋画や海外ドラマの吹き替えでおなじみ、仲野裕さん。
光太郎はジョーのお陰でそのタクシーを発見し、バイクで追跡する。

タクシーは、いかにもアホそうなカップルを乗せていたが、工事用車両の置いてある広場に入ると、
武藤(アキオ、父さんを許してくれ……)
心の中で息子に詫びてから、分かりやすいドラキュラ顔になって振り向き、カップルを驚かせる。
武藤は女を先に噛むが、男を噛む前に光太郎に妨害される。
だが、どこからか現れたリックバックが、その光太郎に襲い掛かる。

光太郎「クライシス、いったい何を企んでるんだ?」

怪人「俺は怪魔異生獣リックバック、地球人はみな、俺たち異生獣の強化育成の為の餌となるのだ!」
光太郎の問い掛けにマッハで即答してくれる優しい怪人さん。
光太郎(いやぁ、聞いてみるもんだなぁ~本郷先輩の言ってた通りだ!) 初代「仮面ライダー」から連綿と続く「悪の組織」の法則は、クライシスにも受け継がれていたのである!
光太郎はRXに変身して戦うが、その間に、武藤に噛まれた女が起き上がり、同じように男を噛んだのを見て、「病院が危ない!」と、戦いを切り上げてさっきの病院へ急行する。
だが、(女の吸血鬼化の時間に比べれば遅過ぎるくらいだが)既に病院はゾンビ映画の一場面のようになっていた。担ぎ込まれた病人たちが吸血鬼となって甦り、次々と職員や他の患者に噛み付き、仲間を増やしていた。
玲子はお約束としてひとりだけ生き残り、

玲子「ああーっ!」
さっきまでまともだった医師にキスを迫られて悲鳴を上げていた。
それでもなんとか吸血鬼たちを押し退け、こけつまろびつ建物から外へ出る。
だが、建物の周りも吸血鬼だらけで、何処にも逃げ場がない。

玲子「いやぁーん、あぁはぁーん!」
ここで、吸血鬼から逃れようとした玲子の足がもつれ、思いっきり尻餅をつくと共に、とても恥ずかしい、全国ネットでの大開脚を披露あそばされる!
ああ、これがミニスカだったらなぁ……。
「仮面ライダー」史上に残る名場面になっていただろうに。
そう言えば最近、玲子っていつもズボン履いてるよね。
序盤では、結構景気良くチラしてくれてたんだけどねえ(溜息)。

そこへ光太郎が駆けつけ、玲子の張りのあるお尻をバイクの尻に乗っけて走り出し、なんとか救出に成功する。

CM後、感染は留まるところを知らず、街は吸血鬼の跋扈する、悪夢のような世界と成り果てていた。
でも、彼らはカミラ族の体質になっただけなのに、その精神までゾンビのように退化してしまうというのは、いささか解せない話だ。

ジョー「伝染病と言うよりドラキュラだな、まるで」
とりあえずアキオの家に集まって、息を潜めている光太郎たち。
省略したが、アキオはまた木の杭と木槌を持って父親のタクシーのトランクに隠れていたが、途中で父親に気付かれて逃げ出したところを、ジョーに見付かって行動を共にしているのだ。

ジョー「いい加減に喋ったらどうだ、坊主、こいつはどう考えたって、お前の親父が広めてるんだ、つまりドラキュラなんだよ、お前のお父さんは」
玲子「ジョー!」
ジョー「いんだよ、こいつにだってそのことは分かってるんだよ。だからこんなものを……違うのか」
アキオ「……」
ジョー「ほら、喋んなよ、一体どう言う関係なんだ、クライシス帝国とお前のお父さんは?」
ジョー、あえて乱暴な言い方で、アキオから事情を聞きだそうとする。

両手を固く握り締め、心の葛藤を必死に抑えようとしているアキオ。
アキオ「あんな奴、あんなドラキュラ、お父さんなんかじゃない! お母さんを騙して、僕を騙して……」
やがて、すすり泣きの下から、アキオが腹から搾り出すような呻き声を上げる。
この子役、演技が妙に上手い。
ただ、それが小太りのブサイクな男の子じゃ、管理人もあまりやる気が出ないんだよねえ。
これが湯原弘美ちゃんとかだったらなぁ……。
光太郎「詳しく話してくれるね、アキオ君」
アキオ「うん」
と言っても、詳しく話すほどの内容ではなく、

武藤「確かに私は10年前、クライシスのスパイとして放たれ、地球人の生活に溶け込むために地球人の女とも結婚し、息子まで作った。全ては任務のためだった。だが、私は愛してしまった。妻を、息子を愛してしまったんだ」
怪人「幸いその女は、何も知らずに病気で死んだらしいが、愛する息子に、お前の正体を教えてやったら、さぞかし驚くだろうな」
武藤「やめてくれ、それだけはやめてくれ!」
ある夜、アキオはリックバックに脅されている父親の口から、驚くべき真実を知ったのだ。
その直後、武藤はリックバックにリックストーンを埋め込まれ、以来、次々と自分の客を襲ってはカミラ族の体質を伝染させていたのだ。
そのことを知ったアキオが、吸血鬼のように木の杭を父親の心臓に打ち込んで退治しようとしたが、結局果たせなかったことは、冒頭で描いたとおりである。

アキオ「だけど、出来なかった。父さんは僕を悲しませない為に、無理矢理脅かされてこんなことやってるんだ。考えたら、とても、とても僕……地球人じゃなくてもドラキュラでもやっぱり僕にはたった一人のお父さんなんだ」
アキオの涙交じりの健気な言葉に、光太郎たちも心を打たれ、なんとしてでもこの親子を救わねばなと決意を新たにするのだった。

だが、苦しんでいるのはアキオだけではなく、同じ頃、武藤も自分の血の宿命の忌まわしさに、必死の思いであらがおうとしていた。

武藤「私さえ死ねば、人々に伝染した私の細胞も死ぬ……私さえ死ねば」
遂には、鉄の杭を自らの胸に打ち込もうと、凄絶な覚悟をする武藤。
ここで、「BLACK」のED「「Long Long Ago, 20th Century」」のインストが流れるのが、さすがの選曲で、この悲愴なシーンをこの上もなく盛り上げている。
だが、そんなことをクライシスが許す筈もない。鎖が飛んできて武藤の腕に絡みつき、

怪人「計画は順調に進んでいる。ここまで来て勝手にお前に死なれて、ぶち壊させやしないぞ」
そこまでは良かったが、リックバック、武藤を人質にしてRXをおびき出そうという、やらずもがなの、身の程知らずの作戦を思い付いてしまう。
今回の作戦にはRX抹殺のことは一字も書かれていなかったので、これはまさに「藪を突付いて蛇を出す」のたぐいだろう。
色々あって、光太郎とジョーは武藤の監禁されている倉庫へ突入し、光太郎はRXに変身する。
RX「父と子を引き裂き、罪のない人たちをドラキュラのように増やし、自分たちの餌にしようなど、この俺が許さん!」 自身、養父を目の前でゴルゴムに殺されている光太郎が、非道なクライシスへの怒りを爆発させる。
RXがリックバックと戦っている隙にジョーが武藤を助け出そうとするが、またしてもゾンビ軍団が現れ、ジョーに群がってくる。
相手が人間ではジョーも本気で戦えず、逃げ惑うしかなかった。
と、そこへ、こっそり家を抜け出したアキオが現れる。
……ところで、玲子は何してるの? この、人手の足りない時に。合コンかな?

武藤「アキオ、その杭を拾うんだ」
アキオ「お父さん」
武藤「早くするんだ、アキオ」
何を思ったか、武藤は息子のアキオに自分を殺させようとする。
武藤「刺せアキオ、この胸を、今度こそ刺すんだ。10年前、自分の命惜しさにクライシスのスパイとなって母さんを騙し、そしてお前を騙したこの私が悪いんだ。私が死ねばみんな元に戻る」

アキオ「お父さん!」
武藤「勇気を出すんだ、やるんだ!」
アキオ(お父さんを一人で死なせはしない、僕もきっと後から行くよ、
70年後ぐらいに行くよ!)
じゃなくて、
アキオ(お父さんを一人で死なせはしない、僕もきっと後から行くよ、
行けたら行くよ!)
でもなくて、正解は、
アキオ(お父さんを一人で死なせはしない、僕もきっと後から行くよ、すぐ行くよ!)
でした。
それにしても、ほんと、子役とは思えない演技力である。
つくづく、これが湯原弘美ちゃんか、本名陽子ちゃんだったらなぁ、と……。

アキオ、子供らしからぬ壮絶な決意をしてから、父親に駆け寄り、ほんとに杭を打ち込もうとするが、この時、RXの攻撃によるものか、リックバックの中のリックストーンと、武藤の中のリックストーンが感応する。
RX「あの胸の光だ。奴を倒せば……リボルケイン!」
RX、アキオに父親を殺させてはならないと、急いでリボルケインを抜いて、リックバックの体に突き立てる

怪人「ぐわーっ!」
武藤「ううう、びびびび……いやぁーっ!」
リックバックがリックストーンを貫かれると、武藤も同じように苦しみだし、口から血のようなエネルギーを吹き上げて悶える。
今ひとつ釈然としないのだが、本体のリックストーンを傷付けると、それを移植された武藤にも影響が出るらしい。
同時に、武藤から感染された患者たちも一斉に動きを止め、ぶっ倒れる。
武藤は呻き声を発して仰向けに倒れ、そのまま動かなくなる。
アキオ「お父さん、お父さん! う、うう、お父……うっくっ……」
その厚い胸にすがり付いて、嗚咽するアキオ。
ここは、つらく悲しいことだけど、ドラマ的には武藤はこのまま死んだ方が良かったと思うが、漸く駆けつけた玲子が開けた扉からまばゆい朝日が差し込むと同時に、

武藤「アキオ!」
アキオ「お父さん!」
武藤、あっさり目を覚まし、アキオと抱き合って喜ぶのだった。
まぁ、武藤が助かっても良いけど、もうちょっと納得の行く方法で助かって欲しかったとは思う。
こういう作劇上の、言ってみれば「詰めの甘さ」のような欠点は、「RX」のみならず、前作「BLACK」でもしばしば見られるところで、この辺が、市川森一、辻真先、上原正三、長坂秀佳、山浦弘靖などの偉大な脚本家たちとの越えられない差なんだろうなぁ。

光太郎「良かったね、アキオ君!」
光太郎、我がことのようにハッピーエンドを喜び、アキオの頭を撫でてやる。
実際、怪人を倒してクライシスの計画を叩き潰したことより、アキオを悲しませなかったことの方が、光太郎にとっては遥かに誇らしいことなのだった。
何故なら、怪人を倒して計画を叩き潰すのは、毎回やってることだからである! みんなで倉庫の入り口に立ち、清々しい朝日を浴びながら歩き出したところで幕。
以上、いかにも「RX」らしい、湿っぽいストーリーであった。
玲子のご開帳シーンがなかったら、スルーしていた可能性大である。
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