第44話「激ファイト! 80vsウルトラセブン」(1981年2月11日)
冒頭、空き地で少年サッカーチームが練習をしていると、数人の暴走族ふうの若者、それも目出し帽をかぶった銀行強盗みたいな連中がバイクに乗って乱入し、子供たちを追い掛け回す。
大人げないにも程がある、情けない連中だった。

亜矢「やめて、やめてーっ!」
その場にいた、田島直人と言う少年の姉・亜矢は、突っ込んできたバイクに引っ掛けられ、腕を負傷する。
姉が襲われるのを見て逆上した直人は、暴走族めがけてボールを蹴り、見事命中させるが、今度は自分が別のバイクに執拗に追いかけられる羽目になる。
直人はバイクと接触し、その場にばったり倒れて動かなくなる。
亜矢「直人ーっ!」
亜矢は急いで弟のそばに駆け寄り、必死にその名を呼ぶが、

マジで頭がおかしいとしか思えないその暴走族のリーダーは、子供を撥ねても恐れ入るどころか、
リーダー「トドメを刺してやるぅ!」
と、亜矢と直人に向かってバイクを突っ込ませるのだった。
が、寸前で、同じくバイクに乗った猛が横から割り込み、阻止する。

猛「貴様、子供を撥ねたな?」
リーダー「やぁべえ、引き揚げるんだあっ」

リーダーの号令を受け、他の連中も一斉にその場から走り去る。
平和だった空き地は、さながら野戦場のようになってしまう。
OP後、病院のベッドに横たわっている直人の姿。鼻に差したチューブが痛々しい。
医者によれば、予断を許さぬ状態だが、今夜さえ乗り切れば命は助かるだろうとのことだった。

猛(セブン、ウルトラセブンだ……)
亜矢と一緒に付き添っていた猛は、ふと、直人の枕元にウルトラセブンの小さな人形が置いてあるのに気付く。
それにあわせて、「セブン、セブン、セブン……」と言う、お馴染みのテーマ曲が流れ出し、そのまま、ちょっとした「セブン」の名場面集となる。
「レオ」が終わって数年経っている時期なので、視聴者の中にはセブンのことを知らない子供もいるかも知れないと言う配慮であろう。

猛「直人君はこの人形をずっと?」
亜矢「今では弟のお守り代わりなんです、小さい頃に、母を亡くしたせいか、暗い、引っ込み思案の弟の唯一の心の拠り所がその人形だったんです」
猛「それじゃ、亜矢さんはお母さん代わりって訳ですね」

亜矢「ええ、サッカーチームに入れって友達から誘われた時、直人、断って帰ってきたんです。私、そんな弱い子、ウルトラセブンさんに嫌われるわっていったら、半日その人形と睨めっこしてて、それでサッカー始めたんです。サッカー始めてから、見違えるように明るくなったって言うのに……三年前から海外出張してる父になんて報告したら良いのか……」
猛「……」
亜矢を演じるのは現在も現役で活躍されている棟里佳さん。
70年代的ルックスの、「80」のゲストの中ではなかなかの美形である。
最近気付いたのだが、ドラマ「トリック」の最初のエピソード「母の泉」で、北海道訛りの小柄な女性を演じていた人だった。阿部寛の股間を思いっきり蹴り上げてた人ね。

亜矢「矢的さん、なんで私たちが、直人がこんな目に遭わなきゃならないんですか、私たち、何も悪いことしてないのに、何故? うう……」
自分たちの身に降りかかった理不尽な災難を呪い、激しい怒りと嘆きに嗚咽する亜矢。
それを見て、猛が、身震いするほどの怒りを覚えたのは言うまでもない。

ナレ「あの暴走族を何としても探し出してやろう。そして八つ裂きにしてやろうと、このセブンの人形に矢的は固く誓うのだった」
じゃなくて、
ナレ「あの暴走族を何としても探し出してやろう。そして謝罪させようと、このセブンの人形に矢的は固く誓うのだった」
ま、個人的には八つ裂きで、行くぜダイアナ、オッケイ!だと思いますが。
猛、UGM本部に行くと、オオヤマにこの事件を捜査すべきだと申し出るが、それはケーサツのすることじゃと、にべもなく却下される。
それだけでは、ただの融通の利かないオヤジだが、
オオヤマ「矢的、だいぶ疲れてるようだな、特別に休暇を与える。思う存分、手足を伸ばして来い」
猛「……」
オオヤマは、言外に、「休暇中なら何をしようとお前の勝手だ」と、猛の好きなようにさせてやる度量の大きさを見せるのだった。
それを聞いた猛は、不意に瞳を輝かせ、

猛「キャップ、ありがとうございます!」
オオヤマに深々と一礼すると、颯爽と司令室を出て行くのだった。
なお、前回、エミが殉職し、代わりに涼子が正式な隊員となったので、いつもエミが座っていた席に、涼子が陣取っている。
その正体はウルトラの星のユリアン王女である涼子は、司令室を出て廊下を走っていた猛に、心の声で呼びかける。

涼子(猛!)
猛(……ユリアン、君はまたテレパシーを使う、もし宇宙人であることが分かったらどうするんだ?)
涼子(でも、ひとりで大丈夫?)

猛(大丈夫だ、僕は地球を第二の故郷だと思っている。地球人以上の能力は地球人として暮らしていく為には不必要なんだ。君が本気で地球に住むつもりなら、地球人と同じ暮らしをすることだ。地球人と一緒に走り、笑い、泣く、それで初めて分かり合えるんだ)
涼子(分かったわ、そう努力してみる)
猛が「宇宙人」の先輩として、涼子に地球で生きていく為の心得を教えてやると、涼子も素直に答える。

と、その肩を後ろから叩かれたので、ドキッとする涼子。
イトウ「何をひとりで物思いに耽っている? テレパシーで通信でもしてるのか」
涼子「いいえ、なんでもないんです」
そう言えば、イトウも、かつては宇宙人を恋人にしてたんだよね。
あ、その名前が星沢子で、オオヤマの命名した星涼子と言う名前と似ているな。
ひょっとして、勘の良いオオヤマは、既にこの時点で猛が80であることも、涼子がウルトラの星の人間だと言うことも知っていて、それで、わざとではないが、咄嗟に宇宙人だった星沢子の名前からインスピレーションを得て、そんな名前を口にしたのかもしれない。
しかし、現在のところ、涼子の素性は不明のままなんだよね。いくら死に際のエミの推薦があると言っても、そんな得体の知れない女性をUGMの隊員にしてしまうと言うのは、いささか軽率な気もする。
一方、暴走族のリーダーの正体は、多田敏彦と言う若者だった。
その多田敏彦がバイクで家の前を通り掛かると、玄関先からサッカーボールが飛んでくる。

敏彦「実ぅ」
実「兄ちゃんだな、モンキーズの練習に殴りこんだ暴走族は!」
敏彦「うぇっへへ、そうよ、弟思いの俺としちゃあ、お前のいるジャッキーズを是非にも優勝させてやりたくってな、なにしろ優勝候補のモンキーズは負傷者続出、まともに試合なんかできねえだろうよ」
そう、敏彦にも、弟の実と言うのがいて、ライバルチームの選手だった。そこで敏彦は、バカはバカなりに兄弟愛を発揮して、直人の所属するモンキーズに襲撃を仕掛けたのがことの真相だったのだ。
実「兄ちゃん、田島を撥ねたろ、入院してる田島のとこへ謝りに行け! くそぉ、こんなオートバイなんか!」
敏彦「なにするんだよぉ、俺の大事なマシンだぞ」
怒りの収まらない実は、敏彦の乗っているバイクの前輪を思いっきり蹴飛ばす。
実「田島は僕のライバルだったんだ、その田島を怪我させた兄ちゃんなんて大嫌いだ。顔も見たくないよ」
敏彦「何だよ、その言い草は、モンキーズの奴ら、ちょっとからかってやっただけじゃねえか」
弟から涙まじりの罵声を浴びせられても、敏彦は全く自分のしたことの重大性を認知せず、逆切れしてさっさと走り去ってしまう。
さて、猛は割と簡単に暴走族の素性を突き止めるが、その動きは敏彦たちにも察知されていた。

敏彦たちは先手を打ち、猛が道路を走っているところに、反対側から竹ざおを横に倒した状態で向かっていき、猛のバイクを転倒させようとする。
これまた、一歩間違えれば死亡事故につながりかねない、シャレにならない行為であった。
だが、今度は相手が悪かった。

常人とは比べものにならない運動神経を持つ猛は、悠々、バイクでそれを飛び越してしまう。
もっとも、着地した直後、進路を他のバイクに遮られてコケてしまったのはいささかカッコ悪い。
バイクから投げ出された猛を集団でいたぶりまわす敏彦たちだったが、後方からUGMの車が来たので、慌てて逃げ出す。
弱いものにはひたすら強く、強いものにはひたすら弱い、人間のクズの鑑のような連中だった。
猛は、駆けつけた涼子から、直人の容態が悪化したと聞かされ、急いで病院へ。

「面会謝絶」のプレートが掲げられた病室の前で、亜矢が絶望的な表情で座り込んでいた。
亜矢「矢的さん、直人が死んだら、私、どうすれば良いんですか? 直人、死なないで!」
猛「……」
その頃、直人は、夢の中でも敏彦たちに追われてピンチに陥っていた。

直人「ウルトラセブン、僕に力を貸して! セブン!」
切羽詰った直人、肌身離さず持っているセブンの人形を、ブライトスティックのように高々と掲げて叫ぶと、その体が青い炎のようなオーラに包まれ、

ほんとに、巨大なセブンの姿に変身してしまう。
あくまで夢の中の出来事なのだが、敏彦たちは現実と同様、強いものを見ると一目散に逃げる習性があり、さっさとUターンして逃げ出す。
それだけなら特に問題はなかったが、
直人「ウルトラセブン、聞いて、お願い、僕の命を上げるよ。だから悪い暴走族をやっつけて!」
病床の直人が心の底から訴え、その頬を伝った涙がかたわらのセブン人形に落ちると、勇壮なテーマ曲と共に人形が宙に飛び出し、病室の窓から外へ抜け、

本物のウルトラセブンになってしまうのだった。
絵やおもちゃの怪獣が、色んな理由で巨大化して本物の怪獣になるというのはよくあるが、ウルトラ戦士の玩具にそれが起きるのは、極めてユニークである。
さて、現実世界の敏彦たちは、性懲りもなく徒党を組んで夜の道路をバイクで暴走していたが、

その眼前に、地響きと土煙を立てて巨人の足が降って来る。
思わずパイクを止めて見上げると、見覚えのある顔が自分たちを睨みつけていた。
敏彦「ウルトラセブンだーっ!」

両手を上げ、怪獣の唸り声のような音を立てながら歩き出すセブンの足が電線に引っかかってショートする、「80」ではお馴染みの演出。
セブンはしゃがんでむんずと手を伸ばし、逃げ遅れたひとりを捕まえ、思い切り地面に叩きつける。
バイクは爆発炎上するが、乗っていた暴走族は何とか助かる。
悪知恵だけはある敏彦は、狭い路地に入ればセブンがビルを壊して追いかけてくるから、UGMが退治に来てくれるだろうと、仲間に呼びかけて走り出す。
あくまで人形が巨大化した存在であるそのセブンは、ビルも足元の車も気にせず、闇雲に突き進み、敏彦たちの狙い通りの展開となる。

声「ウルトラセブンが暴れています。民家を踏み潰し、ビルを壊し、被害は甚大です。UGM出動して下さい!」
猛「キャップ、ウルトラセブンが悪いことする筈ありません。僕が責任を持ちます、様子を見に行かせて下さい」
イケダ「そうですよ、ウルトラセブンが暴れるなんて、そんなバカな」
知らせを受けた猛たちは、そんなバカなことがある筈ないと容易に信じようとしなかったが、出動を求める声はやまない。
オオヤマ「出動だ」
猛たち「ええーっ?」
オオヤマ「ただし、警戒のためだ、俺もウルトラセブンを信じている。何故ウルトラセブンがこんな行動を起こしたのか、良く見極めるんだ」
オオヤマの命令で、シルバーガル、スカイフライヤーなどが出撃する。

見れば、確かに、セブンが街中で大暴れしていると言う、悪夢のような光景が繰り広げられていた。
UGMは攻撃もせず、その周囲を飛び回っていたが、猛と涼子の乗るシルバーガルがセブンに捕まり、そのまま放り投げられる。二人は座席から射出され、パラシュートで降下する。

涼子「違う、このセブンはウルトラ星人じゃない! あのセブンには実体がないわ、怒りのオーラが全身から立ち昇っている」
猛「敵の正体が何者でも、これ以上暴れさす訳にはいかん」
地上からセブンの傍若無人な暴れっぷりを見ていた猛、やむなく80に変身し、セブンの暴走を食い止めようとする。

まずは、セブンの体に飛び掛かる80。
闇空に、80とセブンの巨体が飛び交う、一種、幻想的なシーンとなる。

セブンのキックしてきた脚を掴み、逆に投げ飛ばす。
「80」って、過去のシリーズと比べると、戦闘シーンがアクロバティックと言うか、プロレス的だよね。
もっとも、人間(?)同士で戦うこと自体が珍しいので、プロレス的になるのも当然かもしれない。

投げ飛ばされたセブンの体が電線に引っ掛かり、ショートする定番の演出。
さすがにちょっと飽きた。
戦いは長引くが、80は、セブンがダンプカーか何かを蹴り飛ばした時のモーションを見て、

猛(あのキックフォームは確か……まさか直人君のウルトラセブンの人形が? そうか、直人君の生霊が……)
ようやく、あらぶるセブンの正体に思い当たる。
猛は戦いながら、涼子にテレパシーで直人の枕元に人形があるかどうか確かめて欲しいと頼み、一旦上空へ飛んでセブンの攻撃をかわす。
涼子は超能力を使って簡単に直人の病室へ入り込み、枕元を見ると、やはりセブンの人形がない。

涼子(80、聞こえる? 今暴れてるセブンは、直人君のセブンの人形に生霊が宿ったものよ)
猛(了解!)
正直、この涼子のシーンは要らないと思うのだが、あるいは、登場したばかりの涼子を視聴者にアピールする為、あえて出番を増やしているのかも知れない。
80はもう一度セブンの前に降り立ち、
猛(直人君、君は君以外のウルトラセブンを慕う少年たちの心を傷つけるつもりか、ウルトラセブンは平和の守り神ではないのか?)
セブン(……)
テレパシーで、セブンに、と言うよりその中に宿る直人の魂に呼びかける。
それを聞いたセブンは、急に正気に戻ったように戦うのを止め、面目なさそうに俯く。

80、すかさず胸から青色の特殊なビームを放ち、

セブンの体を覆う怒りのオーラを消滅させる。
セブンの体が大の字に倒れると同時に、病床の直人も「あ゛あ゛あ゛ーっ!」と、一声絶叫して、くたっと意識を失ってしまう。
エネルギーを使い果たして死んだんじゃないかと思ってしまうが、その顔には安らかな笑みが浮かんでおり、直人が生命の危機を脱したことを示しているのだ。
また、どうでもいいことだが、散々セブンに追いかけまわされて肝を冷やした敏彦たちも、漸く自分たちの行いを反省し、暴走族から足を洗うと宣言するのだった。
こうして、少年の純粋な魂が起こした騒動は落着する。
たくさんの家屋と、たくさんの車両、シルバーガル一機の残骸を残して。
ま、些細なことはおいといて、ラスト、モンキーズとジャッキーズとの試合が行われている。

実「田島くん、お兄ちゃんのこと……」
直人「多田くん、今日の決勝戦、力いっぱい頑張ろう!」
実「ありがとう、田島君」
過去のことは水に流し、がっちりと握手を交わす少年たちの姿に、見物している猛も爽やかな気持ちになる。

ま、左右に美女を侍らせているので、爽やかな気分にならない訳がないのだが……。
猛「良かったなぁ、元気になって」
亜矢「ありがとうございます。決勝戦はどうしても出るんだって気力で頑張ったそうです」
涼子「まあ、気力で怪我を治しちゃうなんてまるでウルトラマンみたいねえ」

涼子のさりげない一言に、横目で睨む猛。

それを受けて、悪戯っぽく口を結んで俯く涼子が可愛いのである!
亜矢「直人ったら夢の中でウルトラセブンになって悪い暴走族をやっつけたそうです!」
猛「そう、そうかもしれないなぁ」
「良い暴走族」なんているのかと思いつつ、相槌を打つ猛であった。
猛(いや、きっとそうだよ、直人君、君のテレパシーがセブンの人形を魂あるもののように動かしたんだ)
以上、80とセブンが格闘すると言う、ユニークな設定の佳作であったが、シナリオ自体はもっと練り込む必要があると感じさせられた。
だいたい、いくら少年の強い念が乗り移ったからと言って、ただの人形が巨大化して実際に暴れまわるなんてことがあるだろうか?
なんと言うか、「80」って、全体的にドラマとしての完成度が低いんだよね。特に第3クール以降は。
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