第10話「神風道中 東京-大阪!!」(1971年12月5日)
の続きです。
ホテルに戻ってきたひかる、遠目に、旗野先生と静子が、恋人のように楽しそうに話してるのを見て、

ひかる「まぁっ、私がこんなに心配してるって言うのに、
彼ったらぁ!」
てっきり、静子のことを旗野先生の彼女だと思い込み、まるで旗野先生と既に恋仲であるような台詞を吐いて、嫉妬の炎を燃え上がらせる。

旗野「うわああーっ、あいててて、ハンドバッグに噛み付かれた!」
静子「どないなってんのや?」
即座にリングの力で、ハンドバッグ(と言うより財布だが)を操って旗野先生を驚かせる。
ひかる「もう、知らない、あんな人間の力なんて借りるもんですか、なにさ野蛮人、原始人、地球人なんてゴリラ以下だわ!」
怒りのあまり、地球人差別的な悪態をつくと、今度は自分の足でホテルを後にするひかるだった。
プリプリしながら歩道を歩いていたひかる、ふと、たこ焼きの屋台を目にすると、

ひかる「たこ焼きちょうだい、残り、全部!」
店主「ええっ?」
財布を取り出して叩きつけながら、いささか分かりにくいオーダーをするのだった。
つまり、有るだけの金でたこ焼きを買いたいということなのである。
ひかる(なによ、なによ、なによ、あんなウスラトンカチ、シャケの頭、ピテカントロプス、干ぼしのカマキリ、トッチャン坊やーっ!) 大量のたこ焼きを新聞紙の包み紙で二つも抱え、心の中でありったけの罵詈雑言を並べながら、土手の上を歩いているひかる。
背後に見えるのは、かの有名な「太陽の塔」である。なにしろ、大阪万博が終わって1年ちょっとしか経ってない時期であり、まだまだトピカルな景物と言えただろう。
それにしても、この個性的な悪口のオンパレード、中にはどこが悪口なのかわからないのも混じっているが、最後の「トッチャン坊や」は旗野先生にピッタリの悪口で、思わず笑ってしまった。
これは、シナリオどおりなのか、菊さんのアドリブも混じっているのか、興味のあるところである。
ただ、普段のひかると比べると、いくら逆上しているとはいえ、いささか子供っぽ過ぎる態度のように見えて、いささか幻滅を感じてしまうところも無くはない。

ひかる(なにさー、豆腐の角で頭ぶつけてしんじゃえーっ!)
なおも腹の虫がおさまらないひかる、ホテルの方を振り向いて、またしてもリングを使う。
すぐ後にバルが指摘したように、今回のひかるはリングをちょっと使い過ぎである。たぶん、全話の中でもっとも回数が多いのではないだろうか?

で、実際に旗野先生の頭から、豆腐が落ちてくるのがこのドラマのトレビアンなところなのである。
こういうところはやっぱり、後年の「ちゅうかなぱいぱい」などに通じるものがあるよね。
静子「ああっ」
旗野「豆腐やん……」
森本レオさんも、ドラマでこんな目に遭ったのは、これが最初で最後だったろう。

ひかる「はっはっはっはっはっ、あっははははっ……!」
旗野先生のキョトンとした顔を想像して、大笑いしているひかる。

ひかる「あぁ……つまんない、アンドロメダへ帰ろうかなぁ」
だが、すぐに空しくなって、あろうことか、平和監視員ならびに教師としての職場放棄まで口にしだす。
よほど旗野先生のことがショックだったのだろうが、少なくともこの段階では、そこまではっきり旗野先生に恋愛感情を抱いているようには見えないんだけどね。
それに、肝心の太一のことをすっかり忘れて、そんな無責任なことを言い出すあたりも、普段のひかるとは別人のようで、違和感を覚えてしまう。
そのひかるに喝を入れるべく、目の前に突然パルが現れる。

バル「パイヨ、姫よ!」
ひかる「なによ?」
バル「なによとは、なによ! エネルギーを無駄遣いするにも程があるぞ。リングの奇跡で大阪に着いた上にだ、うかうかとあの地球人に姿を見せるとは……そもそも姫は彼に興味を示し過ぎるわい」
ひかる「大きなお世話!」
バルの小言にも耳を貸さず、さっさと歩き出すひかる。
バルも追いかけるが、ひかるにたこ焼きの袋をひとつ押し付けられて、その旨さに陶然となる。
バル「おっ、こりゃ旨い、地球人にしては高級なものを食うとる」

少し機嫌を直して残りのたこ焼きを口に放り込みながら歩いていたひかるだったが、前方の陸橋の上に太一の姿を見付けて、ようやく教師の顔に戻る。
ひかる「丸木君!」

太一「腹減った……ホテルプラザ、行けるかなぁ?」
東京を8時に出発したとすると、現在は11時をとっくに過ぎていると思われる。

ひかる(最後まで一人旅させてあげたいわ。ああ、でも……)
太一「でも行かなくちゃ……ああ、腹減った、腹減ったぁ」
ひかる「かわいそうに、お腹が空いてるのね。そうだ!」
空きっ腹をさすりながら歩き出した太一の背中を見ていたひかる、何か思いつくと、またしてもリングを使って、パッと姿を消す。
そして、たこ焼きの屋台のおばさんに扮して、太一の先回りをして待ち構え、

ひかる「あっ、ぼん、このたこ焼きぜーんぶ食べた人はロハにしとくでぇ! タダや、タダ、さぁはようお食べ」
大きな眼鏡をずり下げながら、通り過ぎようとした太一に即席の大阪弁で呼びかける。

ひかる「さっ、食べ! ぼん、どっから来た?」
太一「東京」
ひかる「ひとりでか?」
太一「うん」
たこ焼きに夢中で、太一は、目の前にいるのがかぐや姫先生だとは夢にも気付かない。

ひかる「大変だったやろねえ、よう辛抱したわ……でもたとえ時間は掛かっても最後までやり通したんだもの、その自信が転校していくあなたへの一番の贈り物になりそうね」
太一「えっ?」
眼鏡の奥から太一を優しく見遣りながら、つい教師としての口調になってしまうひかるだった。
色々あって、太一は遂にホテルプラザに到着する。

ひかる「すっかり元気になっちゃったわ、もう安心ね」
ホテルの前までこっそりついてきて、太一が建物に入っていくのを見届けて、肩の荷を降ろすひかる。
一方、ああ言ったものの、旗野先生も太一のことを心配してヤキモキしていた。
旗野「遅いなぁ、丸木の奴、一体、何処をうろついてんねん」
静子「うろついてんのはお兄ちゃんのほうやないの」
旗野「なんで電話ぐらいかけてきへんねん」
静子「私に言うたって無理や」
名古屋出身の森本さんの怪しい大阪弁と比べると、神戸出身の宮田さんのそれはさすがに自然である。
その後、階段を上がってきた太一と、降りてきた旗野先生がぶつかって、100枚分の絵がビルの上から散乱してしまうというアクシデントが起きるが、はっきり言って蛇足である。

それを拾い集めに旗野先生が階段を一気に駆け下り、玄関の前で一息ついていると、
ドアマン「これをご婦人がお集めになりましてお客様にどうぞと」
旗野「俺に?」
ひかるがリングの力で絵を掻き集めてドアマンに渡しておいたのだ。

ひかる「旗野先生の為じゃないわよ、丸木君の為!」
建物の角からその様子を伺いながら、独り言で釘を差すひかる。

だが、その中に、いつの間にか、なんとも言えない微妙なイラストが紛れ込んでいて、残った一枚を追いかけてまたひと騒動あるのだが、これも蛇足である。
今回、不要なシーンがやたら多い。
レビューを書く分には、助かるのだが。

とにかく、ひかるの陰ながらの助力で、漸く100枚の絵が揃い、それがロビーの床に並べられている。それは100枚分の自画像ではなく、100枚並べてひとつの絵になる、巨大な自画像だった。

太一「先生、どう?」
旗野「やったなあ、こいつ」
自分が出した最後の「宿題」をやり遂げた太一に対し、旗野先生も賛辞を惜しまない。

静子「はぁーっ、やることがおっきいわ、お兄ちゃんより、この坊やの方がずーっとスケール大きなりそうやわ!」
妹の静子も、そう言って太一をおだてる。

ひかる「妹さんだったの……あっはっ、そうだったの。ははっ、なんだ」
同時に、離れたところから三人の会話を聞いていたひかるも、旗野先生への誤解が解け、晴れ晴れとした笑顔を取り戻す。

太一のことは旗野先生に任せ、ひかるはすぐホテルから出ようとするが、
ひかる「一階、早く!」
エレベーターガール「少々お待ちくださいませ」
ひかる「えーっ」
(こんなところでみんなに会ったらどうしよう?)と、箱の中でソワソワするひかる。
いや、普通に「太一のことが心配だから新幹線で来た」と言えば良いのでは?
それはさておき、またもやリングの力に頼ろうとするが、さすがにあれだけ乱用した後で、エネルギーはすっからかんになっていた。
ちなみに今回のひかるのリング使用回数を順番に数えてみると、
・職員室の旗野先生への悪戯(省略)
・太一と正夫の顔に悪戯
・大阪へ高速移動
・ホテルプラザへ瞬間移動(計4回)
・ホテルの旗野先生への悪戯(計2回)
・バルへ、たこ焼きをテレポート
・太一の前に瞬間移動
・たこ焼き屋の屋台セット
・絵を回収
・絵を追いかけて高速移動(省略)
・絵を旗野先生に戻す(省略)
以上、少なくとも15回は使用している。エネルギーが枯渇して当然である。

ひかる(超能力はもう使えないわ、ああ、絶体絶命……)
超能力を使ったことがバレてしまうと、絶望して天を仰ぐひかる。

太一「え、月先生、来てた?」
旗野「うん、見ろ」
エレベーターの近くで、三人が話していたが、旗野先生がひかるがいた証拠にと、ひかるが置き忘れたバッグを見せようとするが、
静子「いや、これ、うちのバッグよ」
旗野「あらぁ、はてなぁ」
いつの間にか、それは妹の静子のバッグに変わっていた。

バル「パイヨ、と……ふぇっへっへっへっ」
ひかる「バルぅ!」
次の瞬間、ひかるは5年D組の教壇にバルと一緒に立っていた。バルが、自分の超能力でひかるのピンチを救ってくれたのだ。
ひかる「あなたが助けてくれたのね!」
バル「あったりまえじゃ……尻拭いはもうこれっきりですぞ。たこ焼きのお礼代わりじゃ。パイチョ!」
ひかる「べぇーーーっ!」
バルはそう言って杖を振って姿を消すのだが、それに対してひかるが思いっきりタンを出して「べーっ!」するのは、いささか反応がきつ過ぎるような気もする。
感謝こそすれ、バル、憎まれ口を叩きたくなるようなことは言ってないと思うんだけどね。
これが、たとえば、「あったりまえじゃ……姫はいつまで経っても子供じゃのう」みたいなことを言ったのなら、ひかるの反応も分かるんだけどね。

と、そこへ正夫が駆け込んできて、
正夫「先生! 先生いんじゃない。たった今ね、大阪から電話あってね、マルタンボウの奴が見事に着いたって」
ひかる「ふぅーん」
正夫「あいつには参るぜ、じゃ!」
正夫、それだけ言うとまた飛び出して職員室へ行き、そのことを電話で太一に伝える。
どうでもいいが、今日は平日なのに、正夫以外の子供たちがいないのはどうしてだろう?
時間的に昼休みだったとしても、全員が外へ出て遊ぶ訳ではないだろう。
あるいは、それもバルが超能力で、瞬間移動してくる姿を見られないよう、子供たちを全員教室から出しておいたのかもしれない。
あと、ひかるが大阪に行ってる間、授業はどうなっていたのだろう?
再び大阪。

太一「ほらね、やっぱり東京だよ」
旗野「ああ、奇奇怪怪、おらぁ確かに彼女と喋ったんだけどなぁ」
旗野先生が首を傾げていると、その目の前をひかるらしき女性が通り過ぎて行く。

旗野「あっ、あれだぁ! つ、月先生……」
慌てて旗野先生が追いかけ、飛びつくが、
女性「はぁー?」 怪訝なそうな顔で振り向いたのは、なんとも名状しがたい、いわば、夢も希望もない顔をした、全く別の女性だった。
ただし、上の画像で歩いているのは、他ならぬ菊さん本人だったと思われる。

ひかる「あ、ああーっ、くたびれたーっ! ああ、ほっとしたら眠くなっちゃったぁ、はぁぁ」
ラスト、あれやこれやで疲れ果てたのだろう、生徒たちの前で大きな欠伸をして、そのまま居眠りを始めてしまうひかる。
正夫、進、ハルコのレギュラー子役たちが教壇に駆け寄り、その体を揺さぶる。

気持ち良さそうに眠っているひかるの顔を映しつつ、幕となる。
以上、ひかるの言動に多少違和感は残るが、気弱な少年の自立、教師と生徒の信頼関係などを爽やかに描いた、なかなか微笑ましいエピソードであった。
また、この太一と言うキャラ、なかなか味があってドラマ的にも重宝されていたと思うのだが、中途での降板はちょっと残念だった。
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