第25話「さよなら、トミー!~ひょっこりひょう多もん島殺人事件<前編>」(2006年6月17日)
第2シリーズの掉尾を飾るのは、珍しい前後編で、なおかつ、まるっきりケータイ刑事らしくないシリアスな演出の異色作になっている。
普段とは全くテイストの異なる作風と言うのも、ある意味、自由奔放な「ケータイ刑事」らしいと言えば言えるのだが、それなら別に「ケータイ刑事」でやる必要はない訳で、個人的にはあまり好きな回ではない。ただ、これがトミーの最終作となるので、スルーする訳にもいかず、ざっくりレビューすることにした。
冒頭、いつもの刑事部屋で、いつになくシリアスな顔で考え込んでいる岡野。
なんでも、二日後の24日に、ある殺人事件が15年の時効を迎えるらしい。
しかも、その事件こそ、岡野が刑事になって初めて扱った事件だという。

岡野「15年前、私は東京都ひょっこりひょう多もん島に赴任した。私が赴任して早々、島の港で警察官の撲殺死体が発見されたんだ。凶器となった鉄パイプからは指紋も見付かり、事件は早々に解決すると思われた。だが……」
雷「指紋から手掛かりは得られなかったんですか」
岡野「過去の犯罪者リストに該当者はいなかった。そして私たちは犯人を絞り込めないまま、事件は迷宮入りだ。私が刑事になって最初の事件がそれだろう? だからねえ、私はその事件を解決するまではいっぱしのはぐれ刑事としてスタートを切れない、そんな思いがずっとあってねえ」

雷「意外です、岡野さんにそんな過去があったなんて」

岡野「ふっ、私だってねえ、何も能天気に長いあいだ警部をやってるわけじゃありませんよ」
岡野、しみじみとつぶやいてお茶を啜るが、
雷「岡野さん!」 岡野「うん?」
雷「……」
雷、急にキラキラと目を輝かせながら、蜂蜜のような甘い笑顔で岡野に急接近する。
思わぬハードにボイルドなところを見せ付けられて、岡野に惚れ直した……訳では無論なく、
雷「(警部)補でしょ!」 岡野「あっ!」
片言節句の偽りもゆるがせにしない雷、そう言って、いきなり岡野の付け髭を毟り取ってしまう。

雷「警部補!」
岡野「あっははっ、ばれちゃった? いやぁ、私もねえ、思い切って剃っちゃおうと思ったんだよ。だけどね……」
岡野、前回のラストで、うっかり自分の口髭を半分剃り落としてしまったが、未練がましく、付け髭で誤魔化しているのだ。
今回、「ケータイ刑事」らしさが見られるのは、冒頭のこのやりとりくらいである。
そんな折も折り、銀行の駐車場で中年男性が100万円を奪われるという強盗事件が発生する。
ま、はっきりいって、雷が出動するような事件ではないと思うのだが、出動してくれないとストーリーにならないので是が非でも出動するのである。
容疑者の身元は簡単に割れ、少し前まである会社に勤めていた山下と言う男だと判明する。そして驚いたことに、遺留品に残っていた指紋が、岡野の言っていた15年前の迷宮入り事件の容疑者のそれと一致したのである。

雷「でも、この山下さんが、ほんとうに15年前の犯人だとしたら、どうして時効直前に強盗なんかしたんでしょう?」
岡野「時効の日を忘れるなんてことは考えにくいなぁ……何かよほど急に金の要ることが出来たんじゃないのか?」
強盗事件の容疑者にまで「さん」をつけてしまうあたりにも、雷の性格の良さが滲み出ているのである。

雷「岡野さん、行って見ませんか、ひょっこりひょう多もん島」
岡野「あの島へか?」
雷「事件の謎を解く鍵は、この島にある気がするんです」
正直、この段階で島へ渡るのはいささか気が早い気もするのだが、とにかく二人は問題の島に向かう。
島は、劇中では伊豆諸島のひとつと思われるが、無論、金のないこの番組がそんな遠方ロケを行う筈もなく、

撮影は、例によって、ゲルショッカー結成式でお馴染み、猿島で行われている。
フェリーから降りた雷たちを、地元の警察関係者が出迎えてくれる。

根井「ひょっこりひょう多もん島へようこそ、銭形警視正、ひょっこりひょう多もん島署・署長の根井篤です」
島の署長を演じるのは、劇場版などで犯人役を演じたことのある田中要次さん。

雷「こんにちは!」
明るく元気に挨拶をする雷がめっちゃ可愛いのである!
根井「いやぁ久しぶりだね、岡野君」
岡野「あっはぁ、ご無沙汰しております」
そして、根井署長と岡野は旧知の間柄だった。
警察署へ向かう道すがら、岡野は当時のことを雷に語って聞かせる。

雷「知り合いだったんですか」
岡野「私がこの島に赴任してきたとき、根井署長は刑事課長だった。つまり、私の直属の上司だ」
根井「あれから、私も色んな所轄を転々としましてね、三年前にこの島に戻ってきたんです。それにしても岡野君、銭形警視正との活躍はこの島にも届いてますよ」
岡野「あっは、ありがとうございます」
三人が警察署に着くと、新たな、耳寄りな情報が届いていた。

根井「送っていただいた写真を島内全域に配布したところ、身元が判明しました」
雷「やっぱりこの島の人だったんですね」
根井「ええ、ですが山下と言うのは偽名でした。本名・橋口裕太、今は東京に出てるそうですが、15年前までは祖母と二人で暮らしてました」
雷「15年前というと」
根井「そうなんだよ、我々の同僚が殺された時期と一致する」
雷たちは、橋口裕太の祖母・礼子の自宅を訪ねる。
警察と言うことは伏せて、東京の裕太の知り合いだと言って上がり込み、あれこれ話を聞く二人。
祖母の話から、たまに電話を寄越すことはあるが、裕太は15年前に島を離れてから一度も戻っていないこと、彼女が目を患っており、手術をすれば治るらしいがそれにはまとまった金が要ること、などが判明する。

岡野「ひょっとして橋口はおばあさんの目の手術をさせたくて強盗したのかもしれないなぁ」
雷「でも、橋口はこの島に来てないんですよ、だとしたら、どうやっておばあちゃんの目が悪くなったことをしたんでしょう?」
だが、その疑問もあっけなく解ける。
橋口は、勤めていた会社の社員旅行で、つい最近、この島を訪れていたのだ。
その後、礼子が島の神社に孫の無事を祈ってお参りした後、転んで足を怪我してしまう。
祖母に会いに橋口が姿を現すのではないかと考えて密かに礼子を張り込んでいた岡野たちだったが、優しい雷は、迷わず飛び出して駆け寄る。
二人は祖母を助けて自宅まで送り届け、怪我の手当てをしてやる。

礼子「すまないねえ、なにからなにまで」
雷「あ、いいえ」
礼子「助かったよ、あんたたちがいてくれて」
雷「足、少しさすりましょうか?」
(宮崎あおい演じる)愛と違って性格の良い雷は、患部に湿布を張った上、頼まれもしないのにその足をさすってあげるのだった。
礼子「ありがとねえ、足をさすってもらうなんて何年ぶり、久しぶりだよぉ。昔は裕太がよくさすってくれたんだけどねえ」
雷「そうなんですか」
岡野「ほんとに裕太君はおばあちゃん思いだったんですね」
礼子「そうだよぉ、私は夫にも子供にも先立たれてねえ、随分苦労したけど、裕太がいてくれたお陰で何とかやってこれた。裕太は私のたった一つの自慢だよ」
などと話していると、電話が掛かってくる。他ならぬ、橋口裕太からの電話だった。

裕太「ばあちゃん、目を治してやるからな。待っててくれよ」
裕太を演じるのは、シリーズの常連・山中聡さん。

礼子「せっかちだねえ、裕太が帰ってきますよ、裕太が……」
雷「……」
孫が強盗事件を起こして逃走中で、さらには15年前の殺人事件の犯人かもしれないということを露知らない祖母の手放しの喜びように、雷も岡野もなんとも言えない表情になる。

雷「よどまないで……おばあちゃんの良い天気!」
雷、中盤に見せるいつものポーズを取るが、いつもとは違うフレーズを口にして、にっこり微笑む。
と言っても、殺人事件はともかく、裕太が強盗を起こしたのは間違いないので、この状況で、礼子を悲しませずに事件を解決することはほとんど不可能のように思えるのだが……。

雷「東京からこの島に来るルートは竹島桟橋からフェリーに乗る、そのひとつしかありません。だから、なんとしても竹島で橋口の身柄を確保してもらいたいんです。署長から本庁に連絡していただけないでしょうか?」
根井「うーん」
岡野「私からもお願いします。あのばあさんに孫が逮捕されるところを見せたくないんです」
雷「お願いします」
言ってしまえば、離れ小島の署長に過ぎない根井に、頭を下げてお願いする雷。
警視総監を祖父に持つ雷なら、そんなことをせずとも本庁を動かすことは簡単だったろうが、頭越しにそんなことをしてしまえば根井のメンツを潰すことになる。
そんなところにも、雷の性格の良さが見て取れるのである。
根井「いやぁ、弱りましたなぁ」
板ばさみになって困る根井だったが、そこへ部下が来て、既に裕太と思われる人物がフェリーに乗ってこちらに向かっていると報告する。
根井「やむえませんね、橋口は我々が責任を持って確保します」
雷「……」
明朝、根井署長以下、島の警察官が桟橋に勢揃いして、水も漏らさぬ包囲網を敷き、橋口裕太の到着を待っている。

雷「岡野さん!」
岡野「来ちゃったかぁ」
彼らから離れたところにいた雷たちは、孫の帰りを待ち侘びた礼子がこちらに向かっているのに気付き、困惑する。

雷「おばあちゃん」
礼子「もうすぐ裕太に会えるんですねえ」
既にフェリーの到着を伝える汽笛が聞こえてきて、いまさら礼子を追い返そうとしても間に合わない。
フェリーが桟橋に接岸すると同時に、警官隊が乗り込み、あっさり裕太を逮捕してしまう。
が、幸か不幸か、礼子は目が悪く、その場所からはフェリーに乗っている人間の顔までは分からない。

礼子「裕太は、裕太は乗ってますか?」
雷「おばあちゃん、裕太君は乗っていません」
礼子「そう、じゃあ、次の船かしらねえ」
雷「……」
咄嗟にそんな嘘をつく雷だったが、所詮、隠し通せるものではない。
岡野「裕太君は……乗ってますよ!」
雷「岡野さん」
礼子「ほんとですか、裕太はいるんですか」
岡野「はい」

岡野はそう言ってから急いで根井のところへ行き、
岡野「署長、橋口をおばあさんに一目会わせてやっていただけませんか。お願いします!」
根井「うーん、仕方ありませんね」
人情家らしい根井は、渋い顔をしていたが、結局岡野の願いを聞き届け、裕太の身柄を一時岡野に預けてくれる。
岡野は裕太を祖母の前まで連れて行き、手錠も外して、15年ぶりの再会を実現させてやるのだった。
砂浜の上で抱き合って涙に暮れる礼子と裕太。
実に感動的な、お涙ちょうだい的シーンとなるのだが、管理人はこの手のシーンは苦手なので、全部カットさせて頂きます。
その後、署の取調室で、岡野による裕太の取調べが開始される。
だが、しばらく後、

雷「やっぱり、取調べにはカツ丼でしょう! 岡野さーん」
気の利く雷が、定番のカツ丼を持って取調室のドアをノックするが、何の反応もない。
雷「あれ、もう終わっちゃったのかなぁ? 失礼します!」

雷がドアを開けると、床に裕太が倒れていて、そばに血のついた鉄パイプが落ちていた。
雷「うそ!」
しかも、岡野の姿は煙のように消えていた。
裕太は病院に収容されるが、意識不明のままあっさり死亡してしまう。
これは、正直、感心しない処置だった。
これでは礼子が完全なひとりぼっちになってしまい、暗い結末が早くも予想されてしまうからである。
だから、ここは、意識不明のまま重体と言うことにしておいて、後編で事件が解決した後、意識を取り戻す……と言う風にしておくべきだったと思う。

刑事「署長、現場に落ちていた鉄パイプの指紋が岡野警部補のものと一致しました」
雷「まさか」
根井「島内全域に検問、船は一艘も島から出すな。岡野警部補の発見に全力を上げてくれ」
刑事「わかりました」
根井「発見次第、身柄を拘束。岡野警部は拳銃を所持しているものと思われる。全員に銃の携帯を許可する」
雷「そんな……」
岡野が殺人犯として追われるという、とんでもない状況のまま、後編に続くのだった。
以上、最初に書いたように「ケータイ刑事」らしさがほとんど見られず、レビューしててもちっとも楽しくない、生真面目で退屈で湿っぽいエピソードであった。
うーん、この前編はスルーして、すぐ後編から書いても良かったかな、と。
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