第43話「魔神 月に咆える」(1972年2月4日)
冒頭、MAT本部で郷たちが何やら話し合っている。

郷「今までどうしてそんなことに気が付かなかったんだろう?
ウルトラマンがいるから、MAT必要ないってことに」
南「そりゃあ俺たちが失業しちゃうから、気付かないふりをしてたのさっ」
じゃなくて、
郷「今までどうしてそんなことに気が付かなかったんだろう?」
南「そりゃあ俺たちが気ままな独身者揃いだからさ」
丘「私はとっくに気がついてたわぁ」
上野(?)「おほーっ」
岸田「妙なとこで点数稼ぎやってんなぁ」
彼らは、着任以来、連日仕事仕事でまとまった休みを取らず、家庭サービスもままならない伊吹隊長に、たまには休暇を取ったらどうかと提案しようと話し合っているのだ。
やがてその伊吹隊長が入室してきて、いつもと違うみんなの様子に怪訝な顔をする。

郷「実は今みんなで隊長の休暇のことを話してたんです」
伊吹「私の休暇?」
丘「はい、隊長はMATに赴任以来、一度も休暇をお取りなっていないって」
伊吹「休暇か、そんなものは怪獣にくれてやった」
……って、伊吹隊長、まとまった休みどころか、ただの一日も休んだことないの?
さすがにそんな奴おらへんやろ。
と言うか、そんなに毎日欠かさず怪獣や宇宙人が出現しているとも思えないのだが。
上野「しかし、そんなものはほんとは奥さんや子供さんにくれて差し上げるのがほんとですよ」
南「隊長、そりゃ、横暴ですよ」
伊吹「よってたかって私を休ませようってのか?」
郷「はい、綱で縛り付けてでも!」
郷が茶目な目をして言い切ったので、みんなの口から笑いが漏れる。
伊吹隊長、笑ってから少し改まった口調になり、
伊吹「いや、ありがとう……実は女房に何度も言われてたところさ。もう3年も里帰りしてないってね」
上野「奥さんのお里はどちらですか」
伊吹「信州の蓮根湖の近くだよ」
南「ああ、2月の真夜中、凍りついた湖面を神様がお渡りになる、その時、不思議な音がするんだそうですね」
伊吹「なぁに、気温が下がりすぎて氷がひび割れするだけのことだがね」
結局、伊吹隊長は部下たちの厚意をありがたく受けることにして、次のシーンでは早くも自家用車で妻の実家へ向かっている伊吹家の姿が映し出される。

伊吹「いいか、俺は好き好んで休暇を取ったんじゃない、一泊したらすぐ帰るんだぞ」
葉子「はいはい、わかってますよ」
美奈子「なんだ、つまんないの」
だが、謹厳な伊吹隊長、休暇は取ったものの、たったの二日しか休まないつもりらしく、助手席の美奈子も、久しぶりの家族旅行だというのに、いかにもつまらなそうな顔をしている。
美奈子役は、31話と同じく、「魔女先生」のカンナちゃんこと大木智子さん。
そう言えば、その大木さんが「魔女先生」にゲスト出演した18話が放送されたのは、この回の少し前の1月30日なんだよねえ。
さて、蓮根神社の神渡りと言うのは、諏訪大社の御神渡りがモデルになっているので、伊吹隊長の妻の実家は、長野県内だと思われる。
やがて伊吹一家を乗せた車は、何事もなく妻の故郷に到着する。

そこは、まさに田舎と言う言葉がピッタリくる山奥の寒村であった。妻の両親も見るからに人の良さそうな朴訥とした老夫婦で、夜、みんなで囲炉裏を囲んで酒を酌み交わし、おしゃべりするという、今では絶滅してしまったしみじみと心温まる光景が繰り広げられる。
伊吹「本当は、もっと葉子や美奈子の為に休みを取らねば行かんのですが……」

祖母「美奈子も大きくなったらMATの人のお嫁さんになるのかね」
美奈子「ううん、そんなの嫌いよ!」
伊吹「はっはっ、MATは私ひとりでたくさんと言うわけだな」
美奈子「違うの、MATの人のお嫁さんにならないってことは、MATの隊員になるということを妨げはしないわ」
葉子「まぁ、女の子の癖に」
美奈子「だって丘隊員だって女よ」
美奈子、年の割りに大人びた口の利き方をする女の子であった。
しかも、丘隊員に憧れて将来はMATの隊員になることを夢見ているらしい。
やがて、そろそろ神渡りが始まる時刻となるが、酔いがほどよく回ってすっかり良い心持ちになった伊吹隊長は、日頃の疲れも出たのか囲炉裏のそばに横になって動こうとせず、結局、伊吹隊長以外の4人で見物に行くことになる。
蓮根湖のほとりは、神渡りを見ようと言う村人や観光客でごった返していた。
4人も適当なところに陣取って神事が始まるのを待つことにする。

美奈子「蓮根神社の神様は何の神様なの?」
祖父「バントの神様じゃよ」
美奈子「……」
じゃなくて、
祖父「いくさの神様じゃよ、お前もゆくゆくMATの隊員になるんなら、もっと強くしてくださいってお祈りするんだぞ」
葉子「まぁ、これ以上おてんばになったら困ってしまうわ」
美奈子「いやぁ」
一方、鬼不在のMAT本部。

郷「隊長のいないときミスがあっては言い訳が立ちませんからね」
岸田「一応隊長の所在地を確かめておかなくていいかな?」
南「折角の休みだ、そっとしておこう」
郷「信州は魚の旨いところだ」
上野「今頃は川魚で一杯キューッ」
隊員たち「あっははははっ」
さいわい、事件も起きず、郷たちはのんびり命の洗濯をしていたが、

そこへプリティーなお尻をこちらに向けて丘隊員が彼らの前にスッと立ち、
丘「デデーン、上野、タイキック!」 上野「えっ、ええーっ? いや、ちょっと待って、なんで俺がぁあああっ!?」 そう、彼らは隊長のいない間に、「絶対に笑ってはいけないMAT本部」をして遊んでいたのである。
もっとも、さすがにキックボクサーまでは仕込んでおらず、代わりに丘隊員自らが黒いエナメルブーツを履いて上野隊員の尻を思いっきり蹴り上げるのだった。
……嘘である。って、言わなくても分かるか。
正解は、

丘「全員パトロールに出動!」
隊員たち「はいっ」
隊長の真似をする丘隊員にピシッと敬礼した後、みんなで笑って、和やかに出動する郷たちであった。
しかし、丘隊員のこのおばさん臭い髪型はいただけないが、もし本当に丘隊員みたいなクールなお姉様が隊長だったら、隊員たちも奉仕のし甲斐があると言うものだ。

男「うん、ようし、いまだ、隊長をやっつければMATはガタガタだ。いっひひひ……」
だが、既にその村には、グロテス星人なる侵略者が、農民に化けて潜伏していた。

男はその場でグロテス星人の正体をあらわし、夜陰に紛れて、葉子の実家に接近する。
が、ちょうどその時、うたた寝していた伊吹隊長がパッと目を覚まし、MAT本部に連絡する。

伊吹「MAT本部?」
丘「こちらMAT本部」
伊吹「伊吹だが、みんな元気か」
丘「あ、隊長、こちら全員パトロールに出動中です。何の異常もありません。折角の休暇です、あまり気を遣わないで下さい」
伊吹「ふっふっふっ、習慣と言うものは怖いよ」

星人「ちきしょう、酔っ払っても連絡だけは取ってやがる、イヤミな隊長だぁ」
それに気付いたグロテス星人、妙に人間っぽいぼやきを漏らすと、あっさり踵を返して立ち去ってしまう。
いや、通信が終わってから侵入して、ちゃっちゃと殺せば良いのでは?
グロテス星人、人間体も星人の声も、悪魔元帥の加地健太郎さんが演じているせいか、言動が妙に人間臭いのだ。
しかし、全く不意に伊吹隊長が帰省した妻の故郷に、既にグロテス星人が潜伏していたと言うのはあまりに偶然が重なり過ぎているような気もする。
グロテス星人の行動を見ると、地球征服よりMAT壊滅を優先させているようだから、あるいは、以前から伊吹隊長の命を付け狙っていたとも考えられるが、最初に村にやってきた時の伊吹隊長を見たグロテス星人の口ぶりからは、どうもそう言う雰囲気は感じられないのだ。

さて、見込みよりだいぶ遅くなってから、鐘を突くような音が村中に響き渡り、その音は家に残った伊吹隊長の耳にも届く。
遂に神渡りが起きたのだ。
無論、これはミニチュアで再現した湖面の氷の亀裂である。
それによって豊凶を占う村人たちは、今年は無事に神渡りが起きたので、今年は豊作だと安堵して引き揚げようとするが、

割れた氷の下から、突然、巨大な武者人形のような怪物が浮上してくる。

コダイゴンと言う、蓮根神社の御神体をグロテス星人が巨大化・怪獣化させた、特異なデザインの怪獣であった。
大映の「大魔神」ほど荘厳ではないが、なかなかインパクトのある怪獣である。
まぁ、怪獣と言うより、神獣、あるいはタイトルどおり魔神と言うべきかもしれないが。
コダイゴンの咆哮が月夜に鳴り渡り、村人や見物客は当然パニックになり、右往左往しつつ逃げ惑う。
その混乱の中、グロテス星人の化けた農民が、葉子と美奈子を騙して蓮根神社に連れて行く。

葉子「こんなところで大丈夫なんですか」
男「勿論、灯台下暗しといいますからね」
葉子「冗談を言ってる場合じゃありませんわ」
男「なぁに、真面目ですよ、伊吹さん」

葉子「え、どうして私たちの名前を?」
男「えーっへっへっへっへっはっはっ……」
男は笑い声を上げながらグロテス星人の姿になって見せる。
伊吹隊長が心配して蓮根湖までやってくるが、コダイゴンは特に何もせず、湖の中に没してしまう。
その後、伊吹隊長がMATに連絡していると目の前にグロテス星人が出現する。

星人「えへっへっへっはっはっはっはっはっ……」
どう言う原理か、グロテス星人の姿と声は、MATの通信装置にも送られる。

星人「隊長、ついでにMAの諸君、良く聞きたまえ、伊吹夫人と美奈子は私が預からせて貰っている。もし二人の命が惜しければMATは即座解散、海底本部を破壊するんだ。あーっはっはっはっ、我々グロテス星人が地球と仲良くする為には、どうもMATが邪魔なのでな、あーっははははははっ」
グロテス星人は、24時間の猶予を与えると言って、伊吹隊長の前から姿を消す。
翌朝、郷たちがMATジャイロで応援に駆けつける。

伊吹「私の休みを星人につけこまれた、申し訳ない」
郷「いえ、我々が勧めたんです、悪いのは
星人です」
星人「いや、そこは、『悪いのは我々です』ちゃうんかいーっ!!」 郷の身勝手な言い草に、別の場所にいながら思わず魂のツッコミを入れずにいられないグロテス星人であった。

と、そこへ、郷以上に身勝手な村人たちがどかどかと押し掛けてきて、口々にMATを非難する。
村人「MATの隊長がこっそり神渡りを見に来てそうじゃないか!」
村人「あのお陰で怪獣騒ぎだ、MATはすぐ帰れ!」

岸田「そんなこと言ったって、隊長の奥さんとお嬢さんは星人の人質になってるんですよ」
村人「そんなことはそっちの勝手だーっ! 俺たちの知ったことかーっ!」

南「なにぃっ! 貴様っ」
いっそ清々しいほど自分のことしか考えていない村人のあまりにひどい言葉に、後の正義のヒーロー・キカイダー01こと南隊員が激昂して殴りかかろうとするが、
伊吹「南!」
それを止めたのは、当の伊吹隊長だった。
伊吹「よく分かりました、あなた方の希望に添えるように、善処します」
村人「ようし、隊長を信じるぞ」
伊吹隊長に下手に出られて、村人たちも大人しく引き下がる。だが、おさまらないのは若い隊員たちで、

上野「くそう、隊長!」
伊吹「あの人たちの言うとおりだ、この村やMATを救う為には仕方あるまい」
険しい顔でそう言い切った後、伊吹隊長は、
「戦いになったら、誤爆のふりしてあいつらの家に重点的にミサイル落としてやる!」と、心の中で思い……ません!
しかし、日頃は善良な市民も、一皮剥けば自分の身の安全のことしか考えていない腐れ外道ばっかりだったというリアルな現実をしばしば突きつけてくるのが、「新マン」の素晴らしいところなのである。
もっとも、前回42話では、発狂した岸田隊員の暴走で、鳴沢村に無差別爆撃を行っているMATなので、あまりエラソーなことも言えないのも事実だった。

さて、葉子と美奈子は、冷え冷えとした神社の中で一晩立ったまま夜を明かす。
葉子「美奈子、あなたは怖がらないでずーっと母さんと一緒についてくるんですよ」
美奈子「母さんと一緒になら怖くないわ、でも、何処へ?」
葉子「ずーっと、ずーっと、遠いお国です」
葉子、さすが伊吹隊長の奥方である。いざとなれば娘ともどもその命を投げ出すことも覚悟していた。

星人「へっへっへっ、いくら泣いても駄目だ。星人は涙と言うものには無縁なのでな」
神棚の前に無作法に座ったグロちゃんが、そんな愁嘆場を見て気さくに話しかけてくる。
葉子(うざっ!) 葉子、夫の為に命を捨てるのは構わないが、こんなスットコドッコイの星人に殺されるのは勘弁して欲しいと心の中で念じるのだった。
それにしても、涙はなく、多分、住人みんなが笑い上戸のグロテス星、さぞや明るく楽しい惑星に違いない。
その後、まだ24時間経っていないのに、再び湖にコダイゴンが出現し、不気味な唸り声を上げ始める。
MATは逃げ惑う人の波に逆らって、コダイゴンの前まで進撃する。

伊吹「撃つぞ」
岸田「隊長、それじゃお二人の命が」
伊吹「構わん!」
岸田「よし、構わんそうだ。撃てーっ!」 郷&上野&南&丘「了解!」
伊吹「って、おい、待たんか、コラ!」 岸田「え、いや、構わんっておっしゃるから……」
伊吹「普通は、そんなこと言われてもしばらく躊躇するもんでしょー?」
岸田「そうなんですか、じゃあ、最初から構わんとか言わんで下さい」
……などとMATがコントをやってるうちに、村はコダイゴンに壊滅させられたそうです。
じゃなくて、
伊吹「構わん! (葉子、美奈子、許せ!)」
伊吹隊長、心の中で二人に謝ってから、コダイゴンに向けて引き金を引くのだった。
もっとも、グロテス星人も何を考えているのか良く分からない奴で(註・多分、何も考えてない)、MATが攻撃を開始したのを見ても、葉子たちに手を出そうとしない。

コダイゴン、外見だけじゃなくて実力もあり、伸ばした両手の先から炎の剣を吹き出し、

突撃する隊員たちの周囲を火の海に変える。
この、サイドから捉えた「戦場」の絵が実にカッコイイのだ。

実写のみならず、特撮でもミニチュアが豪快に燃やされている。
このままでは、本当に村が壊滅するのも時間の問題であった。

星人「ううーん! よし、いよいよ取引の意思なしと見た」
神社に留まり、飛んだり跳ねたり足踏みしたり、実に表情豊かに体を動かしながら、コダイゴンとMATの戦いの様子を窺っているグロちゃん。
それでも、やっと自分で設定した約束を思い出したのか、葉子たちに迫ってくるが、ここで、郷が神社の石段を上がりながらウルトラマンに変身し、グロテス星人も即座に巨大化して応戦する運びとなる。
結局、グロちゃんは折角得た人質を有効に利用できなかった訳だが、それはシナリオも同様で、ここは、人質にされた葉子や美奈子が、何らかのリアクションを起こす展開が欲しかった。
特に、美奈子などは将来MAT隊員になることを望んでいるような女の子なのだから、それなりの勇気や機知を働かせるシーンがあってしかるべきだったろう。

ウルトラマン、二体の敵を相手にした戦いとなるが、既にコダイゴンの正体が御神体だと分かっているので、コダイゴンを盾に利用するグロテス星人に容易に手が出せない。
やむなくコダイゴンに向かっていくが、鋼の鎧をまとったその体は極めて頑丈で、そのパワーもウルトラマン以上、しかも御神体にスペシウム光線やウルトラブレスレットを使うことも出来ず、苦戦を強いられる。
しばらく戦った後、ウルトラマンが、

(あ、そうだー)的な軽い動きでサッとウルトラブレスレットを投げ、

コダイゴンの後ろに隠れるようにして立っていたグロテス星人の体を真っ二つに裂き、

イカの姿焼きのように焼いてしまうのが、なかなか笑えて、かつ、エグい結末であった。
要するにグロテス星人、わざわざイカ焼きにされに地球まで来たことになり、管理人の唱える、
「グロテス星人、実は何も考えてなかった」説を補強してくれる。
グロテス星人が死亡すると同時に、コダイゴンもその場にぶっ倒れて元の大きさの御神体に戻る。
伊吹隊長、神社で妻や娘と感動の再会を果たすが、

南「隊長、良かったですね」
伊吹「ああ、ありがとう、忙しい人間がたまに休みを取るとこの様だ。はっはっはっ」
いかにも伊吹隊長らしく、涙も見せず、その態度は実にあっさりしたものだった。
ラスト、郷が御神体を抱えて神社に戻ってきて、改めて神棚に安置し、みんなで拝んで終わりとなる。
以上、前半はなかなか面白かったのだが、後半、葉子と美奈子が人質になってからの展開がいまひとつ盛り上がりに欠けるエピソードであった。
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