劇場版「大戦隊ゴーグルファイブ」は、1982年3月13日に、東映まんがまつりの一本として公開された完全オリジナル作品である。
のっけから、港に停泊している船の上で、ゴーグルファイブとデスダークの戦闘員との戦いが演じられる。
5人は、デスダークが「超高分子破壊砲」なる新兵器を国内に持ち込もうとしていると言う情報を得て、それを水際で食い止めようと警戒しているのだ。
……と言うことは、デスダークには海外に支部のようなものがあるのだろうか?
ま、世界各地の歴史の裏側で暗躍してきたと言われる暗黒科学のことである、あって当然ではあるが、テレビ本編ではあまりそう言う話題は出て来ないよね。せいぜい、第1話で、ドイツの古城がデスダークの巣窟になっていたと言う描写くらいか。
それはさておき、戦いの後、船内での「超高分子破壊砲」の捜索を終えたゴーグルファイブの耳に、埋立地の方から複数の銃声が届く。
現場に急行した彼らが目にしたのは、意外なことに、イガアナ博士とマシンガンを持った戦闘員たちに追いかけられているザゾリヤ博士の姿であった。

ピンク「ザゾリヤ博士が追われているわ」
イエロー「どう言うことなんだ?」

ザゾリヤ「た、助けて!」
モグラモズー「うぇっへっへっへっ」
と、地中から現れたモグラモズーに足を取られ、その場に倒れるザゾリヤ博士。
イガアナ「裏切り者め、デスダークから逃げられると思っているのか?」

ザゾリヤ「た、助けて、お願い!」
こうして見ると、ザゾリヤ博士もなかなか美人だよね。
これで、もう少し露出度の高いコスチュームだと良かったのだが。

ピンク「ザゾリヤ博士が危ないわ!」
心優しいピンクは、たとえ敵であれ、その生命が脅かされているのを見ては平静ではいられなかったが、

ブラック「ほっとけ、あんな奴」
どっちかと言えばドライなブラックにばっさり切り捨てられる。
レッドも、あえて助けようとはせず、静観していることからブラックと同意見だったと思われる。
が、ザゾリヤ博士がモグラモズーに殺されそうになったのを見て、ピンクが我慢できなくなって飛び出し、モグラモズーを蹴飛ばして、ザゾリヤ博士を守るように両手を広げて立ちはだかる。
やむなく、レッドたちもピンクに続いて駆けつけ、戦闘員たちを蹴散らす。
ザゾリヤ「助けて、ゴーグルファイブ」
イガアナ「手出し無用!」

レッド「そうはいかん、お前たちを前にして、見逃す訳には行かない!」
ピンクが飛び出すまで何もせず見てた癖に、カッコよく啖呵を切るレッドであった。
5人はなりゆきじょう、ザゾリヤ博士を守りつつイガアナたちを撃退するが、続いてデストピアが眼前に迫って猛攻を仕掛けてきて、早くもゴーグルシーザーとデストピアとの空中戦となる。

その後、未来科学研究所の病院に担ぎ込まれ、治療を受けてベッドに横たわっているザゾリヤ博士。
コスチュームをすべて剥ぎ取られた「悪の組織」の幹部ほど、情けないものはないという標本のような顔である。

ザゾリヤ「ありがとう」
赤間「どういうことか説明して貰おう」
ザゾリヤ「デスダークが嫌になったのです」

黒田「はっははっ、笑わせちゃいけないねえ」
青山「よくそんなしおらしいことが言えるな」
ザゾリヤ博士が言い終わらぬうちに、黒田が無遠慮な笑い声を立て、青山も同調してせせら笑う。
どっちかと言うと、青山ってお人好しで人を信じるタイプだと思うのだが、黒田の影響を受けたのか、ここでは懐疑派に回っている。
ザゾリヤ「本当です。デスダークでは失敗は許されません、私は失敗ばかりで、総統タブーの怒りに触れ、このままでは殺されると思って、命からがら逃げ出したんです」
黄島「へぇーっ」
青山「ダメ、ダメ、信じちゃ」
無論、これはすべデスダークの手の込んだ計略なのだが、実際、彼らが失敗ばかりなのはヒーローサイドから見れば丸分かりだから、ザゾリヤの説明にも説得力があり、人の良い黄島はつい相槌を打ってしまうが、青山が急いで遮る。
ただ、後に、実際にザゾリヤとイガアナが度重なる失敗を咎められて処刑されることを思えば、あまり笑えない計略ではあった。

ザゾリヤ「本当です、信じて下さい! 自分で犯した過ちの償いはどんなにしても償いきれないことは知っています。どんな罰でも受けるつもりでいます」
ザゾリヤ、上半身を起こして必死に訴えると共に、前非を悔いていることを迫真の演技で表明するが、黒田たちは相変わらず、猿芝居を見物しているような冷ややかな表情を変えない。
赤間は慎重派、あるいは中立派と言ったところだったが、それでも一応、ザゾリヤからデスダークの情報を聞き出そうとする。
赤間「超高分子破壊砲を完成させたというのは本当か?」
ザゾリヤ「さすがゴーグルファイブ、良くご存知ですね」
ミキ「どんな新兵器なの?」
ザゾリヤ「どんな物質でも分子状に崩してしまうのです」

イガアナ「あの島を狙え!」
戦闘員「はっ」
ザゾリヤの回想シーンと言う形で、その新兵器の発射実験の様子が映し出される。

「あの島」こと、毎度お馴染み猿島は、ビームを受けて一瞬で消滅してしまったと言う。
ちなみにこの消滅シーンは、次の「ダイナマン」の劇場版(32話の方だったかな?)の、パワーガンの発射実験の映像に流用されている。
総統タブーは、今度は東京を消滅させろとデスギラーたちに命令したという。
ミキ「東京を消すですって?」
黄島「大変だ、なんとしても食い止めないと」
ザゾリヤ「そうだわ、今日、その破壊砲の輸送があるはずです」
ミキ「何処へ運ぶの?」
ザゾリヤ「イガアナ博士の担当なので良く分かりませんが、地獄ヶ原を通ることだけは確かです」
青山「ほんとかよ!」
ザゾリヤ博士の話が思ったより具体的なので、懐疑派の青山も思わず叫んで立ち上がる。

黒田「罠かも知れん」
赤間「デスダークだけは信じられない」
5人が額を寄せて話しているのを聞いていたザゾリヤは、何を思ったかベッドから降りると、出口に向かって歩き出す。

ミキ「何処へ行くの?」
ザゾリヤ「地獄ヶ原へ……信じて貰えないならば、自分の手で破壊砲を壊して見せるしかありません」
さらに、わざとらしく嘔吐を催してその場に座り込んでいると、

ゆかり「どうしたの、お注射が怖いの? ダメよ、我慢しなくちゃ、ゆかりだって我慢したんですもの」
別の病室にいる小さな女の子が来て、ザゾリヤを叱りつけるように励ます。

ザゾリヤ「……」
そのあどけない言葉に思わず微笑むザゾリヤ博士。
いくら(5人を騙す為の)芝居とはいえ、あまりに良い人過ぎる瞳だよね。
ま、実際に演じている女優さんは、別に悪の権化ではないので当然なのだが。
ゆかり「きっと良くなるわ」
ザゾリヤ「ありがとう、でも、でもね、私は行かなくちゃ」
ミキ(泣いてる……)
壁に縋りつくようにして立ち上がろうとするザゾリヤの渾身の演技に、優しいミキはすっかり騙される。

ミキ「赤間さん、黒田さん、信じてあげて!」
黄島「破壊砲の情報も確かめなきゃいけないし」
赤間「よし、出動だ!」
決断を迫られた赤間、罠である可能性を考慮の上で、出動を指示する。
黒田も、個人的な感情は別にして、リーダーの意見には黙って従うのである。
この、ザゾリヤ博士の証言に対する5人の反応が、それぞれの性格にあわせてしっかり差別化されて描写されているこの一連のシーン、まぁ、普通のドラマでは当然かもしれないが、特撮ではなかなか見られない丁寧な作りで、管理人は大好きである。
だが、みどりたちの手でベッドに戻されるザゾリヤの怪しい目付きが、全てが芝居であることを物語っていた……。
さて、地獄ヶ原に到着した5人の前に、ザゾリヤの情報どおり、デスギラー指揮の輸送隊が現れる。
念の為、レッドがゴーグルアイでトラックの中を透視すると、果たして、それらしいパーツが積まれていることが判明する。
もっとも、実際は、本物に似せたダミーに過ぎなかったのだが、ゴーグルアイで見ただけではそこまでは判別できない。
5人は早速奇襲を掛けてデスギラーたちを追い払い、

レッドが、トラックの荷台を開けようとするが、

開けた途端、まだ何も起きてないのにレッドだけが驚いたようにのけぞり、

一拍遅れて、内部から激しい爆風が噴き出す。

内部に段ボール箱の詰まったトラックの荷台から、慌てて離れようとする5人。

5人が前方回転したところで、一瞬(ひとコマ)だけ、トラックそのものが消滅し、

続いて、トラックのあった場所で大爆発が起きる。
レッド「やっぱり罠か!」
不意打ちを食らった5人に、今度はモグラモズーが無数の地底魚雷を撃ってくる。

レッド「ゴーグルシーザー、発進!」
すかさずレッドが本部のコンボイに命令するが、
達也「できません!」 返って来たのは、前代未聞の返答だった。

レッド「どうした、コンピューター・ボーイズ・アンド・ガールズ?」
あかね「みどりさんとさゆりさんが」
春男「人質になってるんだぁ」
ザゾリヤ「もしゴーグルシーザーを飛ばしたら、この二人の命はないわ!」
本部のモニターに、何処から調達したのか本来のコスチュームに着替えたザゾリヤが、みどりとさゆりを縛り上げてコンボイたちを脅迫している姿が映し出される。
しかし、と言うことは、ザゾリヤの怪我も偽装だったことになるが、それなら、病院で調べた時点で気付くと思うんだけどね。

ピンク「私が信じろといったばかりに!」
自分の軽信を激しく悔やむピンク。
普通なら、
レッド「そうだ、全部お前のせいだぞ!」
ブラック「どうしてくれるんだっ!」
ブルー「ったく、責任取れよな」
イエロー「いやー、俺も最初から罠だと思ってたんだよ」 ピンク「さっきと言うてることが違う!」 などと、剥き出しの人間ドラマが開陳されるところだが、これはちびっ子たちの見る戦隊シリーズなので、
ブラック「誰もここまで罠が仕込まれていたとは思わなかったさ!」
懐疑派の急先鋒だったブラックが、真っ先にピンクを慰めるという、大変心温まる展開となるのだった。
イエロー「ゴーグルシーザーが来ないと脱出できないよ」
弱音を吐くイエローに対し、
レッド「みんな頑張れ、諦めるな!」 何も言ってないのと同じような、純度100パーセントの精神論で励ます、「スクールウォーズ」の滝沢先生のようなレッドであった。

ザゾリヤ「いくらゴーグルファイブでも、今度は年貢の納め時よ!」
ナイフを手にしたザゾリヤが、縛られたみどりさんたちを前に豪語していると、ドアをノックする音がする。
それにしても、せっかく、みどりさんが縛られるという貴重且つ美味しいシーンの筈なのに、未来科学研究所の制服があまりに色気がなさ過ぎて、ちっともそそられないビジュアルになっているのは残念だ。

ゆかり「こんにちはーお見舞いに来たわー」
入って来たのはさっきの優しい女の子であった。
ドアの陰に身を潜めていたザゾリヤ、ナイフを構えてゆかりに襲い掛かろうとするが、

ザゾリヤ「……」
ひと思いに刺すことなく、ゆかりを捕まえて病室の窓から逃げ出すという、いささか意味不明の行動に出るザゾリヤであった。
若干の違和感の残るこのシーン。ひょっとして、ザゾリヤの心の底には、自分でも気付かない良心の残滓のようなものがあって、ゆかりの純真そのものの目を見た途端、それが急に甦ってゆかりを殺すことが出来なくなったが、それだと悪人として格好がつかないので咄嗟に計画を変更したというのが、真相ではないだろうか。
ま、単に、いつまでもそこに篭城する訳にも行かないから、最初から適当なところで脱出する予定だったのが、ちょうど現れたゆかりを人質にしようと考えただけ、と言うのが本当のところなのだろうが……。

その頃、既に東京を見下ろす台地では、マズルカが別ルートで輸送した超高分子破壊砲の組み立てが急ピッチで進められていた。

母親「大きな手術をして、やっと取り留めた命なんです。どうか、ゆかりを、ゆかりを助けて下さい」
さゆり「ゴーグルファイブが、ゴーグルファイブが必ず助けてくれますわ」
病室で、ゆかりの母親が、泣き出しそうな顔でみどりたちに頼み込んでいる。
ちなみに演じているのは、次回作「ダイナマン」で極悪ゼノビアを演じることになる藤山律子さんである。
その後、激しいカーチェイスの末に、ゆかりは無事、ゴーグルファイブの手で救出される。

デスギラー「ようし、東京を狙え!」
イガアナ「発射準備完了しました」
一方、早くも破壊砲の準備が整い、
デスギラー「撃てぇやぁーっ!」 デスギラー将軍が、得意のデスギラー節を唸らせて号令を掛けるが、間一髪、ここでゴーグルファイブが駆けつけ、発射を阻止して破壊砲を破壊するのだった。
ここからいつものラス殺陣になり、モグラモズー撃破~巨大ロボットバトルとなるが、設定上、彼らは今回、初めて巨大ロボットを見たことになっているようで、
ブラック「生き返ってロボットを操縦するなんて!」
と、新鮮な驚きの声を発しているのが面白い。
また、いつもの後楽園球場の地下からゴーグルシーザーがせり出して出撃する際にも、

達也「リフトアップ! 発進!」
その映像に合わせて、コンボイの達也君が具体的な指示を出すと言う、テレビ版ではあまり見たことのない珍しいシーンが出てくる。
こうして、ザゾリヤの裏切りと言う大掛かりな詐術を織り交ぜた、デスダークにしては緻密な作戦は撃ち砕かれ、総統タブーの野望は完膚なきまでに叩き潰されるのだった。
なお、今回の敗因は、わざわざこちらから超高分子破壊砲のことを知らせてやり、ゴーグルファイブを作戦に引っ張り込んだことにあるのではないだろうか?
偽の情報でおびき出すなど余計なことをして5人の注意を喚起せずとも、こっそり破壊砲を設置して、こっそり撃っていれば、余裕で東京を消滅させられていたのではないだろうか?
もっとも、「悪の組織」の真の目的は、「地球を征服すること」では勿論なく、「ヒーローにかまってもらうこと」なのだから、そんなことをしたら本末転倒と言うものだろう。

ラスト、病院の前で、ゆかりを相手に「クララが立ったゴッコ」をするミキ。

立派に自分のところまで歩いたゆかりを、しっかり抱き締めてやるミキの姿は、まるで若いお母さんのように眩しく輝いていた。

それにしても、最後にゆかりの顔を頬擦りして喜ぶ母親が、あの極悪ゼノビアと同一人物とは到底信じられない管理人であった。
やっぱり女優さんは凄い!
以上、前半のザゾリヤの裏切りエピソードは面白いが、後半はやや失速気味の劇場版であった。
そして、予想以上に月日を費やしてしまいましたが、これにて「大戦隊ゴーグルファイブ」のレビューは終了とさせて頂きます。
……と言いたいところですが、実はもう一本、ミキファンの為の特別レビューを用意しているのです。
- 関連記事
-
スポンサーサイト