第11話「0点バンザイ!!」(1971年12月12日)
冒頭、バルの秘密の住処に、スカーフを姉さんかぶりにしてエプロンを付けた新妻風のひかるが、掃除機を手に入ってくる。

ひかる「バルぅ、起きて、邪魔よ」
バル「ううーん、なんじゃ姫、一体?」
ひかる「そこにいるとゴミになるわよ」

ひかる「ほら、どいてよー、うわー、不潔ぅ!」
バルが一心不乱に読み耽っていた週刊誌か何かを覗き込んだひかる、おぞましそうな声を上げる。
この「不潔」と言うのが、バルの読んでいた雑誌の内容のことを言っているのか、単にバルの周囲が散らかっていることを差しているのか、はっきりしないが、恐らく前者の意味であろう。
当時の大人向け週刊誌がどんな内容だったのか、また、ひかるが何を見て「不潔」だと感じたのか、興味のあるところである。

バル「おっ、姫、何するんじゃこら! おい、パッパッパッパッおいっ」
ひかる「たまには空気入れ替えてスッキリしなくちゃ」
バル「馬鹿馬鹿しい、公害だらけの空気入れ替えたって何になりますか」
バルの抗議をよそに、テキパキと雑誌の片づけを始めるひかるだったが、そのあまりの量に手を焼き、早速ムーンライトリングを使って一瞬で綺麗に整頓してしまう。
だが、その超能力の副作用か、一枚の新聞紙がひらひらと舞い上がり、意志を持っているかのごとく、勝手に何処かへ飛んで行ってしまったことが、今回の騒動の発端となる。
新聞紙はひらひらと飛んで行き、最後は東西学園の校長室に入り込み、椅子に座ってうたた寝をしていた校長の顔に覆い被さる格好となる。
校長「く、苦しい! ……夢か、ふぁああー」
息苦しさに慌てて起き上がり、新聞を払い除けて一息つく校長であったが、その目が、新聞のとある見出しに吸い寄せられる。

校長「うん? 英才教育……東大の試験、小学生が解く?」

校長「これだ、決まった、我が学園の新方針は……すぐに全員に徹底させよう!」
ちょうど、東西学園の新しい教育方針について思案していた校長、極めて単純且つ短絡的な性格だったので、その見出しに書いてある「英才教育」とやらに決定してしまう。

同じ頃、「英才教育」と言う言葉とは程遠い、いかにもしょぼくれた感じの旗野先生が、立花ノロオと言う生徒の自宅を訪ねていた。
八百屋をやっているその家では、おりしも、テストの点があまりに悪いと父親がノロオを追い掛け回しているところだった。
旗野先生は父親を宥めて部屋に上がり込み、壁じゅうに貼ってあるノロオの描いた絵に嘆声を放つ。
旗野「はぁ、うまいもんだ」
父親がお茶を運んできて、ノロオの成績の悪さを嘆くが、

旗野「ご心配は分かりますが、ノロオ君のいいところは、この絵なんですよ」
父親「へぇー」
旗野「いや、実は今度、ノロオ君の作品の中から二、三点選んで、コンクールに出品しようと思いましてね。いやー、彼のこの才能を伸ばしてやることが出来ましたらねえ……」
もともと美術が専攻の旗野先生、前々からノロオの並々ならぬ絵の才能に惚れ込んでいるようだ。

父親「冗談言っちゃいけませんよ、うちじゃねえ、あれを絵描きにするつもりはこれっぱかりもねえんですよ、貧乏して、せいぜい学校の教師になんのが関の山ですらからねえ」
旗野「いや、あの、僕もその教師なんですが……」
旗野先生がぽつりと指摘すると、

父親「いっ? へっへっへっへっ……」
旗野(コイツ、いっぺん殺したろか?) 父親の、その、人をコケにしたような照れ笑いを見て、思わず殺意を覚える旗野先生だった。
ノロオの父親を演じるのは、落語家の柳亭痴楽。自分はまったく知らないのだが、当時、かなりの人気だったらしい。
父親「ともかくねえ、学校じゃあ学問だけ教えてくれりゃいいんですよ、学問だけ……」
旗野「はぁ」
ノロオの絵の才能にまったく理解のない父親の言葉に、若い旗野先生は溜息まじりの相槌を打つ。
翌日、こともあろうに校長の出した新しい方針は、旗野先生の忌み嫌う「英才教育」……と言うより、「ペーパーテスト偏重主義」であった。

校長「では、本学園の新方針は、英才教育と決定しました。えーっ、早速、連続テストのプランを皆さん、練り上げてください」
旗野「ええっ、連続テスト?」

教頭「決まってるじゃありましぇんか、一にもテスト、二にもテスト、これで生徒を鍛え上げ、次代を担うエリートを造る、これが、英才教育でありましょう」
旗野「そんなバカな……」
ひかる「私は賛成ですわ」
落胆する旗野先生の耳に、ひかるの信じがたい言葉が飛び込んでくる。

旗野「月先生、あなたは何に賛成してるか分かってるんですか?」
ひかる「あら、どうして?」
旗野「教頭先生は生徒をテスト責めにするつもりなんですよ!」
ひかる「だってみんなが100点取ればいいんでしょう?」
教頭「そのとおり!」
旗野「月先生、僕はあなたを見損ないました!」 テストと言うものが……と言うより、そもそも学校教育と言うものが良く理解できていないのか、あっけらかんとして暢気なことを言ってのけるひかるに、旗野先生が最大級の罵言を叩き付ける。
あるいは、ひかる、地球人の教育を、アルファ星の教育(後述)と同じように簡単に考えていて、それであっさり賛成と言ってしまったのだろうか。
でも、ひかるが赴任間もない頃ならともかく、既に2、3ヶ月くらいは経っているのだから、テストと言うものがどんなものかくらい、分かってそうなものだけどね。また、ノロオはひかるのクラスの生徒なのだから、いつも0点ばっかり取ってる彼のような子供がいることだって、とっくの昔に承知してる筈なんだけどね。
そう言う意味で、この会議でのひかるの態度にはちょっと疑問を感じる。
それはさておき、こう見えて独裁的なところのある校長は、旗野先生の反対意見など耳を貸さず、強引に連続テストを決定してしまう。
ひかるのクラスには、理事長の息子である正夫の口から逸早くその情報がもたらされる。

正夫「おい、大変だ、明日からテストがあるんだってよぉ」
タケシ「嘘だぁ、こないだやったじゃん」
正夫「学校の方針が変わったんだってよぉ、おやじの奴ニコニコしやがって面白くねえよ」
ハルコ「やぁだぁ」
由美「どうしよう」
正夫の言葉に、優等生のハルコちゃんですら思わず悲鳴を上げる。
正夫「あーあ、これから勉強勉強かあ、面白くねえなぁ」
正夫が大声でぼやいていると、問題のノロオが教室に入ってくる。

ノロオ「テストがあるんだって?」
由美「明日からよー」

正夫「お前はいいじゃん」
ノロオ「?」
それにしても、この寒い季節にもめげず、毎日欠かさずミニスカをお履きあそばしているハルコちゃんのファッションに対する努力には頭が下がりますなぁ!

正夫「いつも0点だろう? 明日のテストも0点取ると思えば気が楽だろう?」
ハルコ「あらっ、悪いわねえ!」
正夫「だってほんとのことだもんなぁ」
ノロオ「……」
正夫のひどい言い草に、真面目なハルコちゃんが抗議するが、極めて大人しい当のノロオは、何も言い返さずに机につく。
だが、気にしていないように見えて、本人も0点ばかり取る自分に……と言うより、そのことで父親から叱られる毎日に嫌気が差しているのがほんとのところだった。
放課後、校庭でスケッチをしていても、舞い散る落ち葉が答案用紙に見えてしまい、筆も止まりがちだった。

ノロオ「あーあ、テストのない国に行きたい」
俺は○○のいない国に行きたい。
当時のことなので、テストは全て教師が自分で問題を考えてガリ版で刷ると言う手作り感溢れるもの。
ひかるが職員室でせっせとテストを刷っていると、旗野先生がウキウキした様子でやってきて、

旗野「これを見てください」
ひかる「絵らしいわね」
旗野「あなたですよ、あなたのクラスの立花ノロオがあなたを描いたんです」

旗野「どーです、この才能? あなたに対する気持ちが溢れてる」
ひかる「これが私?」
が、それは、「太陽の塔」と「マジンガーZ」を合体させて凍らせたような、とても人の顔には見えない奇抜な絵だったので、旗野先生の興奮をよそに、ひかるは戸惑ったように、首を傾げて見入るだけ。
旗野「いや、わかんないかなぁ、あいつは他の学科はまるっきりダメかも知れませんが、こと、絵に関する限り、あいつは天才です」

ひかる「ふうん……」
旗野先生が熱弁をふるうが、基本的に美術センスに乏しいひかるの反応はあくまで鈍い。
旗野「だいたいですねえ、あなたがそんなテスト教育で、もう、あいつの才能をまったくスポイルさせちゃってるんです。いいですか……」
二人があれこれやっていると、またひかるのムーンライトパワーの副作用か、テスト用紙の一枚が窓から風に乗って飛んで行き、校庭で寝転んでいたノロオの顔の上に落ちてくる。
ノロオ「テスト用紙だ! しめたっ」
ノロオ、急いでそれを丸めて持ち帰る。

翌日、予定通りテストが行われている。
珍しく俯瞰で撮られた教室の中を、ひかるが見回っている。
しかし、目の前を、しじゅうミニスカやフトモモが横切っては、男子はなかなか集中できないよね。

ノロオ、ひかるの目を盗んで、いつにない素早い動きで、あらかじめ模範解答を書いておいたテスト用紙を机から出して、配られたテスト用紙と入れ替える。
しかし、あくまでノロオが手に入れたのはテスト用紙であって、答えは書いてなかったと思われるのに、いつも0点ばかりのノロオが一夜でちゃんと模範解答を揃えたと言うのは、ちょっと信じ難い。
ネットがある現在ならともかく、当時は家庭教師でもいなけりゃ無理だろう。
と、その直後、一子の「先生、カンニングです!」と言う甲高い声がしたので、

ノロオ「……」
ノロオ、てっきり摩り替えるところを見られたのだと思って勢い良く立ち上がり、審判を待つ罪人のように目をつぶってしまう。
が、続いて聞こえてきたのは「タツノオトシゴ!」と言う、ひかるの凛とした叫び声だった。

ひかる「卑怯な真似するな」
正夫「チェッ、ガリ勉め」
ひかる「こらぁ」
正夫「あ、ごめんなさい、ごめんなさい」
そう、一子が指摘したのは隣の席の正夫であって、ノロオではなかったのだ。
ホッとするノロオであったが、座るタイミングを逸し、そのままの姿勢でもじもじしていると、

ひかる「うん、どうしたの? トイレだったら早く行ってらっしゃい、時間がなくなるわ」
ノロオ「……」
ひかるの勘違いに従って、そそくさと教室を出て事なきを得るのだった。
テストの結果、当然のごとく、ノロオは100点となる。しかも、問題が難し過ぎかったのか、100点はノロオひとりだった。

ひかる「良くやったわぁ、能ある鷹は爪を隠す、先生、見直したわ」
同級生たちに驚きと称賛の目で見られ、疑うことを知らないひかるにも手放しで誉められたノロオ、

ノロオ「……」
ひかる「うん?」
ノロオ「う、うん……」
なにしろ根が小心で善良なので、その場でカンニングしたことを告白してしまいそうになるが、結局言い出せずにもじもじしていると、

ひかる「どうしたの? ああ、トイレね、早く行ってらっしゃい。思い切りしてらっしゃい」
またもやひかるに勘違いされて、行きたくもないトイレに行ってみんなから笑われる羽目になる。

正夫「ノロオが100点なんてよ、右も左も真っ暗闇じゃござんせんかー」
進「ほんとだよなー」
放課後、それぞれ惨憺たる結果に終わった答案用紙を手にぼやきながら帰宅中の竜夫たち。
それにしても、毎回言ってる気がするが、ハルコちゃんはスタイルが良い!
もっとも、今回は手抜きで、子供たちが常に同じ服装なのがちょっぴり残念である。
ちなみに正夫の言う「右も左も~」と言うのは、鶴田浩二の「傷だらけの人生」と言う曲の語り部分のフレーズで、同年には同名タイトルの任侠映画も公開されているから、当時、流行っていたのだろう。

正夫「こんなテスト持って帰れるか!」
よほど悪かったのだろう、正夫はその場で丸めて地面に叩きつけてしまう。
他の子供たちもそれにならって次々と叩きつけていくが、

ハルコちゃんだけ、その丸め方も中途半端で、投げる時に一瞬躊躇しているのが、いかにも真面目で優等生らしい彼女らしさが出ていると思う。
つまり、内心では捨てたくなかったが、友達の手前、自分も捨てないといけないような気がしたのだろう。
もっとも、捨てられた答案用紙は、それを見ていたひかるの超能力によって、子供たちのランドセルに貼り付けられることになるのだが。
その後、職員室で、ひかるが校長たちから責められている。進でさえ15点しか取れなかったテストが、あまりに難しかったのではないかと意見されているのだ。
が、ひかるは動じる色もなく、
ひかる「アルファ星ではこれくらい常識ですわ」
校長「その、アルファとかいう学園ならいざ知らず、うちの水準では……」
などとやっていると、あの父親がノロオを連れてひかるにお礼を言いに来る。
父親、ノロオが100点を取ったのですっかり有頂天になっており、お礼にと日本酒までひかるに押し付けるほどだった。
父親は露ほども疑っていないようだったが、二人が出て行った途端、校長と教頭が顔を見合わせて、

校長「これには裏があるぞ」
教頭「ありますな」
校長「月先生、次のテストには私が立会いで行います。いいですな」
ひかる「結構です、皆さんがノロオ君を信用なさらないんなら!」
校長「いや、そう言う訳じゃないが……」
二人はくれぐれもテストは厳正に行うよう言い付けて職員室から出て行く。

旗野「月先生、分かったでしょう、英才教育の正体が……立花の才能がダメになるだけです」
ひかる「テストは厳正に行います!」
旗野「どうしようもないな……」
旗野先生が忠告するが、相変わらずひかるは耳を貸そうとしない。
ちょっと分かりにくいが、旗野先生は、ノロオが不正をしたと考えて、それで「才能がダメになる」と言ったのだろうか?
ま、バルが言うように、0点ばかり取っていた子供が、いきなり、それも特に難しいテストで100点を取ると言うのはまずありえない話なのだが。
その夜、ノロオの100点のことを話題にしているひかるとバル。

バル「これには裏があるな」
ひかる「よしてよ、バルまでそんなこと言うの」
バル「姫、これは単純な統計の問題じゃよ、0点しか取ったことのない子供が、100点取る確率は0に等しい」
ひかるよりドライでクールなバルは、当然のごとくノロオがカンニングをしたのだと断定する。

ノロオ「もう一度風が吹いてくれないかなぁ」
翌日、校庭でひとりぽつねんと、そんな空頼みに縋って秋空を見上げているノロオ。
ここで、BGMとして、児童合唱団の歌う「待ちぼうけ」が遠く聞こえてくるのが、いかにもセンスが良い。
待ちぼうけ、待ちぼうけ
ある日せっせと野良稼ぎ
そこに兔がとんで出て
ころりころげた木の根っこ~♪
ちなみにこれは「守株」と言う、中国の故事にちなんだもので、それは、切り株にぶつかってうさぎが死ぬのを見た男が、翌日もうさぎがぶつかるのを期待して、仕事もほっぽりだして切り株を毎日見張っていて世間の物笑いになったという話である。
それを下敷きにした童謡が、この場面の、ノロオの心境にピッタリ当て嵌まるのは言うまでもない。
全然関係ないが、同じくその歌(故事)をモチーフにしたF先生の「コロリころげた木の根っ子」と言う傑作短編があって、大変面白いので一読をお勧めする。
それはさておき、校庭にバルが現れる。ひかるから話を聞いて、ノロオに興味を抱いたのだろう。

ちょうどその頃、思い余ったノロオは、近くにあったロープを輪にして木に引っ掛けて、それで首を吊ろうと言う、とんでもないことを考えていた。
大人向けドラマならともかく、子供向け特撮ドラマで、実際に子供がリアルに自殺しようとするシーンが出てくるのが、この作品の凄いところなのである。
バル「何するんじゃ」
ノロオ「死ぬんだよ」
バル「何故死ぬんだ」
ノロオ「頭が悪いからさ」
バル「だって100点取ったじゃろう」
ノロオ「風が問題を運んできてくれたからさ」
バル「なるほど、そう言う訳か、ふふふふ」
ノロオ、首吊りの準備を行いながら、何処からともなく聞こえてくるバルの質問に淡々と答える。人生に絶望して自殺をしようとしているノロオ、半ば忘我の状態にあるのだろう。
バル「待て、死ぬのはまだ早いぞ」
ノロオ「誰だぁ、今、僕と話してたのは? 出て来い!」
が、ここで漸く我に返ったノロオが大声で喚き出す。
そうこうしているうちに誤って首が輪っかにスポッと嵌まってしまうが、幸い、ロープは腐っていたので、ノロオの体重を支えきれずにすぐ切れてしまう。
そこへ、バルが、超能力でひかるからちょろまかした、次のテストの問題用紙を紙飛行機にして飛ばしてくれる。
時間がないので、そのテストの様子は省略され、次のシーンでは早くも結果が出ている。

正夫「おい、また100点かよ」
進「やっぱりノロオの100点は本物だ」
正夫「おい、秀才、何とか言えよ」
ノロオ「……」
100点を取ったノロオ、またしてもクラスの注目を集めるが、その顔はまるで嬉しそうではなかった。
傍目から見れば、「自分の実力からすれば当然のことだ」と考えているようにも見えるのか、誰も不審に思わず、ひかるもノロオがカンニングをしているとは夢にも考えない。
さて、ノロオが二回続けて100点を取ったことで、校長たちの態度もがらりと変わる。

校長「月先生、よくやってくれました。月先生の勝ちです。立花君の実力を疑って済まなかった」
教頭「いやもう、私は最初から立花は秀才だとこう申し上げていたんですよ、あっはっはっはっ」
ひかる「……」
調子のいいことを言う教頭に、思わず笑いをこぼすひかるであった。
二人はひかるの指導力を絶賛した上で、来週予定されている教育委員会の学力テストの代表として、ノロオを送り込みたいと言い出す。
無論、ひかるに否やはない。
みんなの前でそのことが発表され、正夫たちは惜しみない声援と拍手を送るが、相変わらずノロオは困ったような、戸惑ったような顔で黙りこくっていた。
しかし、5話で、ヒロミに対してあれだけ鋭い心理分析をして見せたひかるにしては、ノロオに関しては全く鈍感になっているのが、多少引っ掛かる。
まぁ、9話でも、旗野先生に教えられるまで正夫の本音に気付けなかったし、8話で一子を懲らしめた巧妙な作戦もバルの入れ知恵があってこそだったと考えれば、やはりまだまだ教師として、人間として未熟であるということか。
放課後、ノロオは絶望の面持ちで、「仮面ライダー」でお馴染みお化けマンションの前に座って、その絵を描いていた。

ノロオ「なあ、母ちゃん、今度こそ僕はダメだよ。これ描き終わったら、母ちゃんのとこへ行くよ」
ノロオ、天国にいる母親にそう話しかける。
学力テストではカンニングは使えず、0点は確実である。別にペナルティが課せられる訳ではないが、それによって過去二回のテストで不正をしたことがばれてしまうと、少年の小さな心は一足飛びに再び自殺を考えていた。

旗野「傑作だ、良く描けてる。コンクールに出品する絵は、これにしよう」
と、唯一の理解者である旗野先生がふらっと現れ、後ろからノロオの絵を覗き込み、物静かな口調でつぶやく。
ノロオ「先生、僕もうダメなんだ、ダメだ、ダメなんだーっ!」

ノロオ、急に涙が込み上げてきて、いきなり旗野先生の体に抱き付く。
旗野「どうしたんだ、立花? どうしたんだ、訳を言いなさい」

バル「あん、そりゃダメじゃ、あの子にはとってもその能力はない」
ひかる「だって二度も100点取ったのよ」
バル「はっ、そりゃカンニングじゃよぉ」
ひかる「ええーっ」
その夜、ひかるとバルが色とりどりの焼き芋(?)でバーベキューをしながらノロオのことについて話している。
バルはあっさりカンニングのことをバラし、ひかるをがっかりさせる。

ひかる「ああ、どうしよう、バル?」
ひかるがバルの体にもたれかかって困ったような声を上げていると、玄関から「こんばんはー」と旗野先生の声が聞こえてくる。
出てみれば、旗野先生がノロオを連れてたたきに立っていた。
ノロオ「先生、僕、嘘ついてました」
旗野「いや、先生、詳しいことは後で、とにかくテストまで後三日、立花に特訓をしてやってください」
ひかる「そんなこと言ったって……」
旗野「いや、今更後へ引く月先生じゃないと思いますが」
ひかる「わかりました、なんとかやってみます」
しばし考えていたひかるだったが、最後は快く引き受け、直ちにノロオの猛勉強が開始される。
ひかるの部屋で差し向かいで勉強できるなど羨ましい目に遭うノロオであったが、相変わらず、どんな問題に対してもひたすら絵を描くばかりで、全く勉強は捗らない。
テスト前夜、困り果てたひかるは、居眠りしているノロオに、「アルファ星式教育法」をかけ、一気に知識を詰め込もうとするが、ノロオの頭は絵のことでいっぱいで、そんな知識が入り込む余地がなく、あえなく失敗に終わる。
ひかる「ごめんなさいね……」
ひかるもとうとう諦め、優しくノロオの体に毛布をかけてやるのだった。

翌朝、テスト会場前で校長と教頭がニコニコしながら待っていると、ひかるが慌てた様子でやってきて、
ひかる「すいません、いなくなっちゃったんです、朝起きたら」
旗野「大変だ、ことによったら……月先生、行きましょう。心当たりが」
旗野先生、ノロオが自殺でもするのではないかと考え、ひかると一緒に走り出そうとするが、事情を知らない校長たちは狐につままれたような顔で、

教頭「すいません、あの……」
走り出したひかるのスカートの奥に、何やら黒いものが見えるのだが、

旗野「校長先生と教頭先生は展覧会場へ行ってください、立花の絵が出品してある。ごちゃごちゃ説明してる暇はない、自殺でもしたらどうするんですか!」
教頭「自殺ぅ?」
やっぱり、それは黒いパンティーではなく、ブルマのような下穿きのようであった。
まぁ、ブルマでも、見れたのだからよしとしよう。
それはさておき、自殺と聞くや否や、校長も教頭も慌てて反対側へ走り出す。
旗野先生はひかると一緒にあのお化けマンションまでやってくるが、果たして、ノロオがその上階に上がっている影が見えた。飛び降り自殺をするつもりなのだ。

一方、校長たちは展覧会場までやってきて、そこで初めて、ノロオの絵の才能が並々ならぬものであることを知らされていた。
教頭「校長先生、立花の絵でございます、文部大臣賞……」
校長「うちの立花が? うーむ」
だが、そのノロオ、旗野先生の呼びかけにも応じず、三階か四階辺りまで登ったところで、崩れかけた剥き出しのベランダ(廊下?)で足を滑らせ、転げ落ちそうになる。

旗野「立花、しっかり掴まってるんだ」
ノロオ「先生、怖いよー」
旗野先生が間一髪でその腕を掴んで引っ張り上げようとするが、なにしろ非力なことで有名な旗野先生、自分も一緒になって庇にぶら下がる格好になり、今にも落っこちそうになる。
ひかる「あ、どうしよう……そうだわ、ノロオ君の絵の中入れちゃおう」
咄嗟のことでさすがのひかるもパニックになりかけるが、ノロオの絵のことを思い出し、ムーンライトパワーで二人をその絵の同じ場所に転送させるという、奇想天外な方法を思いつく。
これは、後の15話でもひかるが使った、超能力と言うより、ほとんど魔法のような能力である。

と、校長たちの前の絵に、突然、建物にぶら下がっている旗野先生と、その体にしがみついているノロオの姿が追加される。

しかも、それは切り絵のように、ぷらぷら動いている。
教頭「……校長先生、絵の中で人が動いてます」
校長「そんなバカな……ふうっ!」

旗野「ノロオ、諦めるな、俺がついてる!」
巨大な絵の背景と、生身の俳優を組み合わせた映像も一瞬だけ出てくる。
旗野先生、落ちないようにするので精一杯で、自分たちが絵の中にいるとは全く気付かない。
そこへひかるが駆けつけ、おもむろに指輪に息を吹きかけると、今度は絵の中から引っ張り出された二人が、展覧会場で実体化することになる。

旗野「助けてくれー、助けてくれー、ワーッ! もうダメだっ!」
校長「旗野先生、立花君、何をしてんだい?」
旗野「あ、あれ……?」
と、そこへマスコミ関係者が押し寄せ、文部大臣賞を取ったノロオと、その教師として旗野先生がフラッシュを浴びる晴れがましい状況となる。
しかし、校長はノロオの絵の才能は認めても、英才教育を撤回するとは言ってないので、問題が根本的に解決された訳ではなく、いまひとつ釈然としないラストである。
その後、東西学園で、連日のテストが行われると言う描写は見られなくなったので、校長も行き過ぎを認め、ある程度は緩和されたとは思うのだが。
また、
ひかる「危機一髪だった。もう地球人たちと競争のお相手はごめんだわ」 疲れ果てた様子でひかるが言う台詞も、ややピントが外れているような気がする。
さらに、

校長「ああ、月先生……あれっ? 消えた?」
ラストにムーンライトリングでパッと姿を消してしまうのだが、校長たちは勿論、その場には一番見られてはまずいマスコミ関係者までいたのだから、このひかるの態度もあまりに軽率だったといえよう。
以上、日本の教育制度に一石を投じているようで、実はあまり投じてないような、いささか焦点はぼやけているが、全話中、もっとも教育ドラマとしての雰囲気が濃厚な意欲作ではあった。
自由教育主義者の旗野先生の姿が存分に描かれている一方、肝心のひかるの(教師としての)存在感が稀薄なのが残念で、ドラマとしての質は高いけれど、あまりに面白くないという変な結果となってしまった。
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