今回紹介するのは、第9作目「赤いさそりの美女」。1979年6月9日放送。
原作は昭和8年(1933年)12月~昭和9年(1934年)11月まで、「キング」に連載された「妖虫」である。
「妖虫」は、乱歩の通俗長編の中では割とまとまりのよい部類に入るだろう。ただし、明智ではなく三笠竜介と言う、これ1回きりの老探偵が登場する。ドラマは、人物配置やストーリー展開などはほぼ原作に忠実だが、ヒロインの生い立ちなど、大幅に脚色されているところもある。
原作では、犯人がサソリのおもちゃ(?)や着ぐるみを使ってたびたび被害者達を脅かすと言う、かなり二十面相的に幼稚なシーンも多いのだが、ドラマではほとんど全てカットされている。実際、この原作は20年後に、「鉄塔の怪人」として少年探偵団シリーズの一編に焼き直しされている。そこではサソリがより親しみやすいカブト虫に変わっていたが。
まず予告から。
明智「私、天知茂、探偵の中の名探偵・明智小五郎、華麗な美人コンテストに端を発して映画スターが惨殺された。だが奇妙なことに、バラバラの死体は人形であった。そしてその死体は意外なところで発見された。私は知った、愛欲の陰にうごめく、赤いさそりの呪いを! 次々と起こる事件の連続に私は変装のテクニックを駆使して敢然と挑戦した!」 文代「先生、さっきから、なにひとりでぶつぶつ言ってるんですか?」
明智「え、いや、その……」
なお、予告編では、匹田博士と言う人物に変装した明智と博士本人が、「お前は誰だ?」「お前こそ誰だ?」と睨み合うシーンがあるが、本編には存在しないシーンである。
さて本編。
原作では、レストラン・ソロモンで相川兄妹と会食していた殿村京子が、読唇術で、ほかの客が人殺しの相談をしているのを知ってしまうというシーンから始まるのだが、

ドラマでは、「燃える女」と言う映画のヒロインを決める、オーディションを兼ねた美人コンテストと言う華やかなシーンから始まる。無論、原作には映画制作の話などは出てこない。
最終審査に残った5人の水着姿。珍しく(?)永島暎子さん(櫻井品子)がビキニ姿を披露。
これが審査と何の関係あるのか、単にオヤジたちが女の子の水着が見たいだけじゃねえか……。
明智の声「この世にも怪奇で残虐極まりない連続殺人事件は美人コンテストの華やかな風景から始まった」
その後、ドレス姿に着替え、審査結果を待つ5人を、司会者が改めて紹介して行く。

司会「末松操さん、脚線美の素晴らしいモデルさんです」
確かにこの女の子、かなり可愛いのだが、あいにくと端役で、出番はこのシーンだけ。

司会「相川珠子さん、絵はプロ級の腕前で、美術展では新人賞を獲得しておられるインテリ女性です。櫻井品子さん、城南芸大出身のピアニストです。偶然にも、相川珠子さんのお兄さんの婚約者です。つまり義理の姉妹が揃って応募され、揃って最終審査に勝ち進められた訳です」
品子がピアニストと言うのは、原作にもある設定。

観客席には、珠子(野平ゆき)の兄で品子の婚約者・相川守(速水亮)と今村友雄(堀之紀)の姿もあった。
今村は珠子の恋人だが、原作には出てこない。
友雄「もし映画に出ることになったら、結婚式は延ばすことになるのかい?」
守「女優になりたがって困ってるんだ」
友雄「お互い様だな」
原作ではこの守が狂言回しの役を務めることになる。

司会「春川月子さん、この豊満な肉体がゆかり役に最適だと自負しておられます!」
5人の中で最も胸の大きな月子を演じるのは三崎奈美さん。「死刑台の美女」にも出ている。
そして、いよいよ発表の瞬間。
まず、準女王の名前が呼び上げられる。珠子だった。
そして「スクリーンの女王」の栄冠は、品子ではなく、月子の上に輝く。
映画の主役に決まっている吉野圭一郎(永井秀和)から、祝福される月子。

守と友雄は、結果が分かるとすぐ舞台袖に行き、珠子たちをねぎらう。
友雄「良かったね」
珠子「何が良かったのよ。汚いわ、こんなやり方、最初から春川さんに決まっていたのよ」
守「品子さん、女優なんて脇道だよ」
品子「だって……」
守「秋には結婚だよ」
珠子も品子も、ステージで注目を一身に集めている月子に嫉妬と憎しみの入り混じった視線を送る。
実は、月子は吉野の恋人だったのだ。月子が選ばれたのも、そのせいに違いないと、二人は思っているのだ。
と、その時、頭上の照明を吊るす金属のバーが、いきなり吉野と月子の上に落ちてくる。咄嗟によけて無事だったが、いかにも不吉なことの起こる前兆のようであった。
ナレーションでは明智が「復讐の予告」だと明言している。
さて、相川家では、殿村京子(宇津宮雅代)を教師に迎え、守、友雄、品子、珠子が英会話の勉強をしていた。
原作では、京子は相川家に雇われている家庭教師で、珠子の教育全般に当たっているが、ドラマではフリーの英会話教師と言うおもむき。
守「失礼じゃないか、折角日曜日ごとに先生に来て頂いてるのに……何考えてるんだ?」
他のことに気を取られている様子の妹を守がたしなめると、
珠子「そこの公園で『燃える女』の撮影をしているの、ねえ、見に行かない? ねえ、先生、レッスンは夕食後にして一緒に見に行きましょうよ」
同じ頃、撮影現場近くを、我らが明智さんの車が通りがかる。

文代「あ、映画のナレーションじゃない?」
小林「誰が来てるのかな」
文代「見たいわぁ」
明智「ふふ、よし、付き合おう」
回を重ねるごとに、明智さんもすっかりマイホームパパみたいな顔になってきたなぁ。

スタッフや野次馬が、主役の吉野と月子を取り巻いている。
文代「元々吉野圭一郎の愛人で、同棲してたって言うから、審査の前から決まってたって言う噂よ」
明智「なかなか詳しいじゃないか」
からかうように言った後、明智、ふと何かに気付いたように、別の方角へ視線を向ける。
文代が「何見てるんですか」と、自分もそちらを見ると、

彼らと反対側の歩道に京子、珠子、友雄がいて、明智の視線は専ら京子に注がれているようであった。
品子は、月子の顔も見るのもイヤだと拒否し、婚約者の守も残ったのだろう。
文代「あー、先生、ほんとに美人に目が早いんだから!」

と、今度は京子が、彼らの背後の芝生の上に立っている黒ずくめの男に視線を向ける。
京子「あら、あの人……、『二人とも今夜十二時、死ぬとも知らず。いいか念仏堂裏がお前の死に場所だ』」
友雄「先生、何言ってるんです?」
京子「あの人がこうつぶやいてるの……恐ろしい」
珠子「先生、こんなに遠くてあの人のつぶやきが聞こえる訳ないじゃないですか」
京子「いいえ、私ね、耳の不自由な方のお世話をしたことがあるの。だからリップ・リーディング、唇の動きを読むことが出来るの」
友雄「つまり読唇術のことですね」
確かに、

こんなに遠くてはつぶやきは聞こえない。ただ、こんなに遠かったら、
唇の動きも見えないのでは? このシーン、原作では、前述したようにレストランの中なので、まだ説得力があるんだけどね。
男は、吉野と月子の方をずっと見詰めている様子であった。

さて、いよいよ本番となるのだが、この時、吉野が何か恐ろしいものを見付けたような顔になり、「あいつだ! 僕は、僕は帰る!」と、いきなり撮影を放り出して、近くに停めてあった車に月子ともども乗って、あっという間に走り去ってしまう。
スタッフは呆気に取られるが、よくあることなのか、監督は大して怒りもせず、諦め顔で「今日の撮影は中止」などど言い出す。
小林「勝手なもんだな、急に人気が出てのぼせ上がってんだよ」
果たして、吉野が怯えたのはあの黒ずくめの男だったのか……?

その頃、品子は守と一緒に喫茶店に来ていた。
不機嫌そうに黙りこくっている品子に、
守「やだなぁ、君は映画のコンテスト以来、人が変わってしまったよ」
品子「私、ゆかりと言う主人公の気持ちにとても打たれたの。燃える思いをピアノに込めてキーを叩く。あの役だけはどうしてもやりたかった!」
品子の機嫌はなかなか直らず、英語のレッスンにも行かないと駄々っ子のように首を振る。
やむなく、守は1時間後に迎えに来ると言って、席を離れる。

と、守がいなくなるのを待ちかねたように、スケッチブックを抱えた若い男が品子の前に現れる。
品子「まぁ、明!」
明「今の人、君のフィアンセ?」
品子「ええ」
明「へー、恋の勝利者退場し、敗北者登場ってとこか」
品子「今、何してるの?」
明「息してる」 品子「……その100万年前のギャグ、いい加減やめない?」 じゃなくて、
明「こんな絵描いてるんだ」
と、昆虫や爬虫類、カエルなどをモチーフにした幻想的なスケッチを誇らしげに見せる。
品子「虫ばかりねぇ」
明「妖しげな虫、つまり妖虫の魅力に取り憑かれてるってところかな」
品子「気持ち悪い」 明「そうかなぁ、そりゃ虫の世界は弱肉強食、凄惨な殺戮に明け暮れてはいるが、その中にも愛の囁きもあれば、生命の歌だって聞こえるんだ……」
品子「いや、絵じゃなくてあんたが気持ち悪いのよ」 明「……」
原作には一切出てこず、視覚的に分かりやすく「妖虫」と言うタイトルを訴える為だけに引っ張り出された笠間明と言うドラマオリジナルのキャラを演じるのは本郷直樹さん。
二人はかつて同じ大学に通っていて、明は品子の崇拝者と言った感じ。だから、品子も悪い顔はしない。
明「ところでこないだテレビで君を見たよ。あの役は君にうってつけだったのに、惜しかったね」
品子「明もそう思う?」
明「ああ、芸大のピアノ科の窓の外で僕はいつもの君のピアノ音を聞いていた。僕はやらせたいなぁ、君にあの燃えるような女、黛ゆかりを! 僕は三回もプロポーズしてその度に断られたけどね。でも、いまだに君を愛してる!」
品子を賛美した上、臆面もなくそんなことを言う明。
今だったら、ストーカーの一言で斬り捨てられてしまうだろうが、意外とこういう朗らかかつ粘着質のキャラって、美女シリーズではあまりお目にかかれないタイプで、個人的には嫌いではない。
品子「ありがとう。でも私、秋には結婚するのよ」
明「平凡な結婚なんてクソ喰らえだ! (映画界に)女王のように君臨すべきだ。その為なら、僕は献身的に尽くすよ」
品子「嬉しいわ、その気持ち。でももう遅いわよ」
明「いや、遅くない。こないだあの女優の上にライトが落ちてきたね。あれは不当な審査に対する神の警告だよ。僕はあの日から、神に代わってあの女を抹殺する計画を立てたんだ」
品子「抹殺?」
段々言うことが危なくなる明、何を考えているのか、暗い情熱に燃える瞳を一点に見据えて動かさない。
さて、京子、珠子、友雄が、相川邸に戻ってくる。守と珠子の父親・相川操一(増田順司)が和やかに出迎える。ちなみにこの時、居間にはジュリーの「カサブランカ・ダンディ」が流れているが、撮影時には、リリースされたばっかりだったと思う。
ちょうどテレビで、吉野と月子があれっきり行方不明になっていると言うニュースをやっていた。
当然、三人は、あの黒ずくめの男の仕業ではないかと考える。

京子「警察に届けましょうか?」
友雄「読唇術なんて警察が信じますかね」
京子「それもそうね」
珠子「面白そうじゃない、12時に念仏堂に行きましょうよ」
珠子さん、めっちゃ嬉しそう。人の不幸が嬉しくて嬉しくてしょうがないのだ。
原作では、友雄ではなく、守が京子から話を聞いて、単身でその場所へ行くのだが、ドラマでは引き続き三人で行動することになる。
深夜、車で念仏堂の近くまで行き、その裏手にある空き家に入ると、羽目板の割れ目から、明かりが漏れていて、恐る恐る中を覗くと、

果たして、月子が裸でベッドに縛られていた。また、吉野も上半身裸で、柱に縛られて座っていた。
あの黒ずくめの男が、小さなナイフを手に、
「映画に出て良い思いをしているようだが、泣いてる女がいるんだぞ」と言いながら、月子のおっぱいや吉野の頬や体に切り付ける。二人の互いの名を呼ぶ声と絶叫が、狭い廃屋の中に反響する。京子たちはかわるがわる割れ目からその光景を目の当たりにし、あまりの恐ろしさに凍りついたように立ち尽くす。
原作では、殺されるのは月子だけだが、黒ずくめの男(原作では青眼鏡の男と言われる)に加えて、不気味な「箱」に潜む異形の物が登場し、サスペンスと言うよりホラーに近いテイストが味わえる。
三人はなんとか羽目板から体を引き剥がし、空き家から飛び出す。ただ、原作と違ってこちらは三人なんだから、思い切って踏み込めば、二人は殺されずに済んだのではないかと思うんだけどね。
こちら側から大声を出すだけでも、相手は逃げ出していただろう。

友雄が、近くの電話ボックスから警察に110番する。
昔は、青電話に、こういう専用の緊急電話が備え付けてあったのだ(そうです)。
パトカーで、二人の警官が飛んでくる。
しかし、踏み込んだところ、誰もいないと言うのは、原作どおり。
警官は「夢でも見たんじゃないのか」と常套句で片付けようとするが、床やベッドに血が落ちているし、壁には血で書かれたと思しき「赤いさそり」の絵が犯人からのメッセージのように残されていた。

更に警官は、窓から懐中電灯を照らし、庭の地面から人間の手や足が大根のようににょきにょき生えているのを見てびっくり仰天する。
ちなみにこの左側の警官は、時代劇の悪役でお馴染み、伊藤高さんですね。伊藤雄之助の息子さん。
庭に出て、間近で手足を見る警官たち。手と足がそれぞれ4本あり、木の上に女の生首、井戸には男の生首が落ちていた。つまり、吉野と月子を殺してバラバラにして行ったらしい。
だけど、
さすがにこれは、一発でマネキンて分かるだろ? 京子たち素人が恐怖のあまり気付かないと言うのはありうるが、仮にも警官なんだしさ。
それでも、実際に手足に触れて、漸くそれが人形に過ぎないことが分かる。
ちなみに原作では、本当に月子の死体がバラバラにされて、手足が地面から生えていると言う、物凄いシーンとなっている。さすがにドラマでそれを再現する訳には行かず、こんな風に処理されている。
翌日、波越警部が捜査を開始しているところへ、明智たち三人が颯爽と駆けつける。警部の口ぶりでは、彼が応援を頼んだらしいが、まだこの段階で私立探偵に助けを求めるのは、さすがに情けなくないか?
目撃者として、京子たちも紹介される。当然、明智は京子に気付く。一瞬、なんとなく目を見交わす二人。
京子たちは現場に入り、目撃したことを細大漏らさず話す。無論、あの昼間の読唇術のことなども。
絵描きの珠子は、昨日見た情景をリアルな絵にしてみんなに見せる。

波越「この黒眼鏡の男は何か喋りませんでしたか」
友雄「ただ一言言ってたな。映画に出て楽しい思いをしているようだが、ええっと……」
京子「泣いてる女がいるんだぞ」
友雄「そうそう」
波越「影に女ありか」
文代「スクリーンの女王コンテストのことかしら? 確か珠子さんも応募されましたよね」
なお、現場には10円が3枚、100円が2枚ほど落ちていた。乗り捨てられていた吉野の車の中にも、同じ枚数の硬貨が落ちていたと言う。
小林「こりゃ偶然の一致じゃありませんね」
波越「全く不思議な事件だ。一体犯人はどういう目的でこんな手の込んだことをするのかねえ」
この現場に残されていた硬貨は、原作には出てこないドラマオリジナルのダイイングメッセージである。

波越たちが空き家で捜査をしている同じ頃、都心の貸衣装店のショーウィンドウの前にひとりの老人が立って、じっと新郎新婦のマネキン人形を見詰めていた。
ちなみにその店の看板には「全日本貸衣装
有名専門店」と書いてある。店名書けよ。
近くにいたカップルが気になって老人に話しかける。
男「どうしました?」
老人「いや、あのマネキン、行方不明になった春川とか言う女優さんに似てませんか」
男「うん、そういや、似てるなぁ」

似ているどころではない、本人の死体である!
これも、原作にあるシーンだが、こういう形で殺されるのは月子ではなく、珠子の方である。見世物小屋から連れ去られた後、こうやって死体を麗々しく展示されるのだ。
ちなみにこの死化粧の三崎奈美さん、妙に綺麗である。死美人と言う言葉が似合う。

無論、新郎の方は俳優の吉野圭一郎であった。二人の足元に血だまりが出来ていることから、男が騒ぎ出し、警官が駆けつける事態となる。やがて吉野の体がぐらりと揺れて月子に寄りかかり、二人ともぺたっと座り込んでしまう。
二人の頬にはさそりのようなマークが描かれてあった。
そして、最初にこのことを指摘したあの老人は、いつの間にか姿を消していた……。

さて、いつものように捜査会議。いつものように明智さんがでかい顔して参加している。
刑事「春川が死んで一番得をするのは相川珠子ですね、主役の座が舞い込んでくるんですから」
波越「つまり相川珠子が犯人だ! つー訳にはいかんだろうなぁ。何しろ本人が目撃者だからな」
刑事「共謀偽装と言う線も考えられますねえ」
刑事「それにコンテストに落ちた他の三人の女性も同じ動機を持ってますよ」
波越「よし、その三人を洗え。しかし根本的に分からないことがあるな。念仏堂の空き家で殺人を行い、その死体をショーウィンドウに展示した。どうしてこんなことするのかな?」
刑事「どう考えても変質者としか思えませんね」

波越「うん、僕もそう思う。しかし、空き家の壁や吉野の頬に描いてあったさそり、こりゃ一体どういう意味だ?」
刑事「虫の好きな変質者のいたずらですか」 ……
お前、今すぐ、刑事をやめてしまえ!(管理人の魂の叫び)
と、怒鳴っては見たものの、それを聞いた肝心の波越が「なるほど、変質者の落書きって訳だ」と納得しちゃうのだから世話はない。

波越「なるほど、僕もそう思う、ね、明智君、君もそう……」
明智「思いませんね」 同意を求める波越を、明智が一刀両断する。
明智「これは復讐ですよ。さそりは恐らく復讐のマークでしょう。だからこそこんな残虐な殺し方をし、死体を晒したんです。恨みを晴らす為に……」
波越「なーるほど、僕もそう思うなぁ」
美女シリーズの最大の謎は、何故、波越警部がいつまでも警部の地位にとどまっていられるのか? である。
しかし、まだ何も調べてないのに
「復讐です!」と言い切っちゃうのもどうかと思うけどね。
その癖、動機を断言したあとで、「(現場に残された)硬貨の意味も分からない、老人と黒眼鏡の男が事件に関係があるのかないのかも分からない、全くワカリマセンネ」と、お手上げ状態の明智さん。

波越、どっかと椅子に腰を落とし、「そっ、皆目、分からん!」と自信たっぷりに言い放つ。
こいつら、明智がいなかったら何一つ事件解決できないんだろうなぁ……。
映画のヒロイン役だった春川月子の無残な死を受けて、「燃える女」の監督たちが相川邸を尋ね、コンテストで準優勝だった珠子に、月子の代わりに主役を演じて欲しいと頼みに来る。
珠子は待ってましたとばかりに快諾し、たちまち有頂天になる。
……しかし、主演の二人があんな殺された方をしたら、普通中止になるだろう。
まぁ、商魂逞しい映画会社とすれば、これほど話題性のある映画を中止するなんてとんでもないと思っていたのかもしれない。

そのやりとりをそばで聞いている品子は、当然心中穏やかでない。
監督たちが帰った後、満面の笑みを浮かべ、「私、頑張るわよ!」とはしゃぐ珠子。
ところが、女中が、勝手口にこんなものがあったと血相変えて飛んでくる。
それは切り貼りされた手紙で、「珠子よ、今度はお前の番だ」と書いてあり、赤いさそりのマークも入っていた。犯人からの予告状らしい。
兄の守は即座に「警察に届けよう」と言うが、珠子は警察に届けたら映画が中止になるかもしれないと強く嫌がる。
でも、さっきも言ったけど、あんなことが起きても中止にならないのに、こんな手紙くらいでやめる筈がない。
で、さりげなく殿村京子が明智の名前を持ち出し、結局、守と京子が、明智に依頼に行くことになる。
ただ、これもねえ……、いくら本人が言い張ったとしても、既に犠牲者が出ているのだから、家族としてはやはり警察に届けるのが普通だろう。
……ま、波越より、明智のほうが遥かに頼りになるのは間違いないけど。

その夜、守と京子は高層ビルの明智探偵事務所を訪ねる。部屋は薄暗く、文代さんたちはもう帰ってしまったのか、明智ひとりがデスクに座って待っていた。
守「さきほどお電話した相川ですが……」
明智「お待ちしておりました。今考えごとをしていたもので暗くしておりましたが、今つけます」

明智は電気をつけるふりをして立ち上がると、守の背後に回り、必殺・明智チョップ(仮称)を首筋に叩き込み、守を気絶させてしまう。

そして恐ろしい目付きで、京子に迫る。
童貞戦士・明智、遂に辛抱たまらなくなって実力行使に出たのかと思いきや、実はこの明智は犯人が化けたニセモノだったのだ。
この明智のアップは、シリーズを象徴する画像のひとつだが、実はニセモノだったんだね。

一方、相川邸で、二人の帰りを待っている珠子たち。
品子は迷っていたが、意を決したように珠子の前に立ち、「珠子さん、今度の役、断った方がいいと思うの」と切り出す。
珠子「どうして?」
品子「だって、もしものことがあったら大変じゃないの」
珠子「ひがんでるのね、あなた、ほんとはこの役、あなたがやりたいんでしょう」
品子「そんな、あなたのことを心配して言ってるの。春川さんを殺したのと同じ人間かもしれないでしょ」
珠子「そんなこと心配しないで」
品子「……私、帰るわ!」
珠子の冷ややかな反応に、品子は気分を害して帰って行く。
もっとも、品子の立場を考えれば、珠子がそう受け取るのも無理はない。
品子は、門のところで笠間明に出会う。
明「品子、僕は約束した、あの役は君にやらせるってね。着々と進んでいるよ」
品子「じゃあ、さっきの脅迫状はまさかあなたが?」
明「どうだ、手伝わないか?」
明の申し出に対する品子の返事を省略し、場面は気絶させられた守のその後に移る。
守、意識を取り戻すと、薄暗い地下室のようなところへ運ばれていた。ライターの小さな明かりで部屋の中を探ると、隅に誰かがうずくまっている……。
その2へつづく。
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