続きです。
明智さんと京子が、暗い病室であんなことやこんなことをしている頃、文代さんは病院の喫茶室でふてくされていた。通り掛かった波越と小林少年が声をかけて前の席に座る。

波越「なんだい、ソバ頼みに行ったんじゃないのかい」
文代「何よ、あの態度は、押しかけ女房のつもり?」

波越「まあまあ、そう怒りたもうなよ、ねー、相手は美人で、良く気が利く人だ。君、タバコある?」
小林「右のポケット」
波越「おっ、そうだね、明智君だってねえ、
たまには優しい女性にかしずかれてみたいだろうよ」
気遣いと言うことを全くしない波越の無神経な一言が、文代さんの怒りに油を注ぐ。

文代「悪かったわねえ、警部、いつもかしずいてんのが気の利かない不美人で!」
波越「なに怒ってんだよ、そういうの八つ当たりって言うんだよ、僕はねえ、ただ明智君は美人に任せとけば良い、そう言っただけなんだから」
文代さん、怒りのあまり、波越警部がくわえていたタバコを抜き取り、

細かく何度も引きちぎって憂さを晴らす。
波越「おい、なにすんだよ、あ、あ、あ、勿体ねえなぁ」
しかし、明智がその頃、京子と抱き合ってたなんて知ったら、文代さん死んじゃうだろうな。

その夜、狩野五郎が匹田博士の研究所にやってくると、あの女が待っていた。
もう、○○だってバレバレなんだけど、一応、伏せておく。
女「あなた、私に黙って明智を狙ったのね」
狩野「あいつをやらなきゃ、こっちがやられる」
女「明智はやめて!」
狩野「どうして? お前は奴に惚れたのか?」
女「バカなこと言わないで、探偵に惚れてどうなるの?」
狩野「嘘だ、今のお前はまるで明智と犯罪ゲームを楽しんでるようだ」
女「そう、初めは明智の研ぎ澄まされた叡智がとても怖かった。でも今じゃ、とても素晴らしい魅力よ」
ここでもう一度、彼女の、初夜の夜に夫に逃げられた屈辱の思い出が挿入される。

女「私の心を長い間閉ざしていたあの思い出、恋なんてもう、縁がないと思ってたのに……明智を見ると、心がときめくの」
狩野「俺を捨てないでくれ、なんでもするから! 頼む!」
狩野は、女の細身の体に縋り付いて哀願する。
女「じゃあ、もうひとり殺して」
狩野「俺はお前の奴隷だ、何でもする!」
当然、彼らが次に狙うのは品子であった。
品子が、自宅で守や京子と(……って、なんでココにいるのよ?)くつろいでいると、女中が郵便受けにこんな手紙が入っていましたと持ってくる。

例によって、さそりマークの犯行予告状であった。
守「品子、どうしても相川と結婚するつもりか、そうはいかないぞ、珠子と同じ目にあわせてやる……」
品子「ああ、明よ! 明が私を殺そうとしている!」
そう叫んで悲劇的にめまいを起こす品子。この時点では警察も品子たちも、笠間明が犯人の一味だと思っているのだ。
守たちはすぐ品子を2階の寝室へ連れて行って休ませる。京子が警察に電話をし、ついで守が品子の父親にも電話をしようとダイヤルを回していると、玄関のチャイムが鳴る。

守が応対に出ると、見知らぬ初老の男が立っていた。
守「どなたですか」
男「城南署の町田刑事ですが……」
無論、それは、変装の達人・狩野五郎であった。
えーっと、これで、匹田博士、明智、医者、配膳係、刑事と、5パターンになる訳か。明智以上のマニアだね。
こんなに迅速に、しかもたったひとりで刑事がやってくると言うのはおかしいのだが、守も品子もまるで疑いを持たず、「すぐ警察へ移った方が良い」と言うニセ刑事の言葉に従い、守と品子はニセ刑事と一緒に車に乗って行ってしまう。
原作では、櫻井家の電話を途中でジャックし、警察になりすまして応対し、ニセの刑事を差し向けると言うことをやっているが、ドラマではもっと簡便な方法が取られている。
また、同じく原作では、品子を連れ出すのに、巨大なさそりのぬいぐるみの中に彼女を詰めて、堂々と運び出すという子供っぽい方法が使われているが、これも省略されている。賢明な判断である。

その後、京子が明智の病室にも電話して、波越に脅迫状のことを話していると、女中が「先生、警察のパトカーがやって来ました。おかしいですね、刑事を送った覚えはないって言ってるんです」と知らせに来る。
この少し野暮ったい女中のブラが微かに透けているのが嬉しい(……我ながらマニアック!)
すぐ波越や文代、品子の父親が自宅に集まって対応に追われる。だが、明智は病室から抜け出して、行方が知れないと言う。
文代さん、匹田博士の屋敷に行って見ないかと波越を誘い、波越も賛成する。
二人の乗る車が屋敷に着いた頃には、既に日はとっぷりと沈んで、建物の周囲は漆黒の闇で塗り潰されていた。
原作では、櫻井家に関係者が集まったところへ、三笠探偵が現れ、品子の行方を突き止め、(ついでに猫の首も切って)真犯人を指摘するという段取りになっている。
二人が裏口の窓から覗くと、果たして、守と品子が柱に縛られていた。
二人が息を潜めて見守る中、匹田博士が入ってくる。少し遅れて、黒眼鏡の女も現れる。
しかし、文代さんと小林少年だったらまだしも、波越は現職の刑事なんだからさ、見てないですぐ踏み込めと思うのである。
女「この二人を殺して……何してるの? あたしの言うことが聞けないの?」
匹田「お前の復讐は終わった。二人ともさそりの呪いとは何の関係もない。幸せな婚約者じゃないか」
女「二人を殺して、笠間の死体と一緒にこの家を焼けばいいわ、全ては笠間の無理心中ってことになる」
女は言いながら物置に歩み寄り、ぱっとドアを開ける。

と、変わり果てた笠間の姿が転がり出てくる。
笠間、この姿勢のまま、この後に語られる事件の真相に耳を傾けなければならず、大変ご苦労様であった。
匹田「相手は明智だ。そう簡単にはいかんぞ」
女「明智は私に任せて、もし秘密を知ったら、あの人を殺して私も死ぬわ」
匹田「君に明智が殺せるかな?」
女「殺せるわ、愛してるもの」 ゾクゾクする名台詞である。
女「死ぬ時は一緒よ……、どうしてそんなこと言うの? いつものあなたじゃないわね」
ここで、漸く女が気付く。この男は、自分の仲間、狩野五郎ではないと。
女「誰、あなた?」
黒眼鏡の女に詰め寄られ、匹田博士に化けていた男はあっさり正体を明かす。
「そう、私は狩野五郎じゃない」と言う台詞から、声が入川保則から、天知茂のものに変わる。
明智は、カーテンを開いて、縛り上げられた狩野五郎の姿を女に見せる。
明智は狩野の顔から刑事の変装パーツをひとつひとつ丁寧に毟り取っていき、最後は、頬のシールも剥がして赤いさそりの刺青も晒す。

女「じゃあ、あなた……」
明智「そう、私だ」

明智、匹田博士の変装パーツをゆっくりと外して行く。
……と言っても、ここではまだ入川氏なのだが。
この明智の変装、「匹田博士に化けている狩野五郎に化けている」と言うややこしいパターンなのである。
チャララララ、チャラララ……と言ういつものBGMが流れる中(分かるかっ)、

このカットから、天知茂にスイッチしている。

焼け爛れた皮膚をベリベリベリ……と剥いで、明智の整った顔が現れる。
女は驚愕し、縛られている守と珠子は安堵の表情になる。

明智「この変装合戦、最後は私の勝ちだったね」
ただし、今回、早着替えはなく、ゆったりと白衣を脱ぎ捨て、スーツ姿に戻る明智さん。
明智さん、やはり、狩野に完璧に自分に変装されて痛い目に遭わされたのを気にしていたようだ。

早着替えこそないが、首に巻きつけていた白いスカーフが、

普通に巻いてあるんじゃなくて、片手で引っ張ると、すぐ外せるようになっているのが目立たない工夫。
ちなみに匹田博士(狩野)は、他のシーンではスカーフは着用していない。これは、明智が下に着ているスーツのカラーやネクタイが見えないようにする為のアイテムなのである。
明智「小林君、二人を」
明智の言葉に、奥に控えていた小林少年で出てきて、守と珠子のいましめを解く。
さらに、窓から覗いていた波越と文代も入ってきて、あっという間に逃げ場を失ってしまう女。

波越「いやー畏れ入ったよ、大した変装だね」
明智「この人の生い立ちを調べてここに来たら、この男が二人を連れてきたんで捕まえて待ってたんです」
波越「こいつがホシかね」
明智「そうです、連続殺人の主犯です! 博士の令嬢、匹田富美です」
文代「え、だって、火事で死んだんじゃないんですか?」
明智「亡くなったのは博士だ。そうですね、富美さん?
いや、殿村京子さん!」
文代「殿村京子?」
守「先生?」

明智の指摘に、京子は帽子を脱ぎ、マスク、サングラスを取る。

明智、京子に近付くと、むんずとカツラを掴み、するりと脱がす。

髪がほどけ、ゲゲゲの鬼太郎のようになる。

明智がその髪を指で払うと、その下に、さそりのような形をした赤い痣がはっきり見える。
明智「問題のシミが現れてきましたね」
京子「何もかもご存知なのね」
明智「あなたが女学生の頃、その痣の相談をした皮膚科のお医者さんにも会って来ました」
京子「さすが明智さんね。お見事よ。そう、全てこのシミのせいよ。このシミが私の一生を台無しにして、私を悪魔にしてしまったの!」
しかし、明智さん、どうやって京子の痣のことを知ったのだろうか?
感情が昂ぶると痣が浮かび上がるらしいが、明智と二人抱き合っていた時は電気が消えていたから、明智には見えなかった筈だ。

京子「高校に入った頃から、このシミが大きくなってさそりに似てきたの」
明智(いや……)
波越(さそりと言うより……むしろ)
文代(クリオネ!) 京子「私は父が虫を殺してばかりいるからその崇りだと思って父を呪ったわ。お化粧で一生懸命隠したの。でも怒ったり、喜んだり、感情が激しくなるに連れてこのシミがだんだん赤くなってきて……さそりが動いているように見える」
文代「いつも表情が変わらないのは、感情を抑えていたせいね」
文代の問いに、大きく頷く京子。
京子「でも、私にも恋人が現れた。何度求婚されても私は断り続けた。このシミのことを知られるのが怖くて……」
ここで回想シーン。
公園の噴水の前で、「結婚してください、君の片手片足がなくなっても、永遠に僕は君のことを愛します」と、空々しいプロポーズの文句を並べる吉野。
しかし、「君の片手片足がなくなっても」って、どう考えてもハズレのプロポーズである。

が、まだウブだった京子さん、「吉野さん!」と、コロッと騙される。

京子「父の反対を押し切って結婚したの……」
明智「新婚旅行は伊東でしたね」
京子「ええ、もうご存知なんでしょう、そこで起こったこと」
「美女シリーズ」の旅行先は、誰が何と言おうと伊東と決まっているのだ。

新婚旅行先のベッドで、ピンク色の照明のもと、激しく唇を重ねる京子と吉野。
吉野「愛してるよ、もう離さない」
京子「あたしもよ」
情熱的に見詰めあう二人。

そして改めてキス、キス、キス、ひたすらキス。
キスはもう良いから、次の段階へ行かんかコラ!(管理人の下半身の魂の叫び)
その後も、せいぜい首筋に唇をはわすのが精一杯の、遠慮がちな吉野クンでありました。

で、案の定、コーフンした京子の痣がくっきりと浮かび上がり、吉野に見られてしまう。
吉野「これは?」
京子「シミよ。なんでもないわ、ほんとよ」
必死に説明しようとする京子だったが、吉野は半狂乱になり、「さそりだ、さそりの呪いだぁーっ!」と叫びながらトンズラしてしまう。
京子「耐えられないくらい、悔しい一夜だったわ」
京子は自宅に帰るなり、父親の研究室にあった、さそりの飼育ケースの中に手を突っ込み、自殺を図る。
そこへ本物の匹田博士が駆けつけ、京子を助けようとして逆に自分がさそりに刺されてしまう。
さらに、博士は近くにあった石油コンロを倒してしまい、あたり一面火の海になる。続いて助手だった狩野が来て、なんとか京子だけ助け出したのだった。

京子「父は黒焦げになって死んだわ。呪ってた父だけど、私の為に死んだと思うとたまらなかった。私は復讐を誓ったの。そして匹田富美の名を永久にこの世から抹殺してしまったの」
明智「黒焦げ死体をあなたということにして、狩野が匹田博士になりすましたんだね」
京子「ええ、黒眼鏡に黒マスク、コートを着た私はここへ出入りしたの」
明智「そして狩野も出る時は黒眼鏡、黒マスクで出た」
波越「つまり黒眼鏡は、ある時は狩野であり、ある時は殿村京子だったと言う訳か」
さすがに、男性である博士の死体を、娘の富美だと警察が誤認するとも思えないが?

文代「狩野は京子さんが好きだったのね」
京子「火事の後、父の死に茫然としている私を抱き締めたわ。私はこの人のするがままに任せてしまったの。その代わり、復讐を手伝うって約束してくれたわ」
文代「ロケ中に、吉野が急に驚いて逃げ出したのは、見物の中に富美さんの姿を見たからね」
波越「じゃああの230円は吉野が犯人を教えるために落とした、こういうわけだ」
波越が、珠子たちを殺した動機について訊くと、代わりに明智が「すべてコンテストを利用し、スターの座を奪い合う、女の争いのように見せる計画だったんだ。ところが皮肉なことに妖虫に心を狂わしたひとりの男がさそりを盗み出した時から、この研究所は我々の前にクローズアップされてきた。今度はその疑惑を打ち消す為に、笠間を病室から奪って奴の無理心中と見せかけようとした」と明快に説明する。

笠間(うう、つらい……早く終わってくれ……)

京子「何もかもお見通しなのね、でも、女の心の中までは見通せないわ。全て私の心が歪んでるせいよ。私は愛もないのに狩野に体を与えた、それだけに目の前に幸せいっぱいの二組のカップルを見てると腹が立って我慢できなかったのよ! 狂ってのよ、もう、私は!」
要するに、今回の殺人の動機は、非リア充のリア充への激しい嫉妬なのだ。
なお、原作の殿村京子は、自分がブサイクだったせいで、いろいろひどい目に遭ったので、若く美しい女への憎しみに燃えて、長い年月を費やして準備をし、女優の月子や、ミス・トウキョウの珠子や品子を殺そうとした、努力の人だった。
狩野「明智、お前に追われることでこいつは愛と言う感情を味わおうとしてるんだ!」
縛られたままで狩野が叫ぶ。
京子「そうよ、明智さんに捕まって明智さんと一緒に死ぬ夢を良く見たわ、なんだかいま初めて、愛って言う気持ちが私の心の中で生き生きとしてきたの」
京子「明智さん……好きよ!」 
明智「……」
京子「一緒に死んで!」
そう言うと、京子は咄嗟に、さそりのたくさん入ったケースをひっくり返し、床にさそりをばらまく。
さそりは物凄いスピードで狩野の体に這い上がり、首筋に毒針を刺す。
狩野は、よろよろと立ち上がり、
「富美、俺はお前の為に一生を犠牲にしたんだよ。頼む、一言だけ、好きだと言ってくれ」
たが、狩野の最期の哀願に対し、
京子「何言ってるの、お前は使用人じゃない」 京子の返事はブリザードのように冷たかった。
京子「私が好きなのは明智さんよ。この頃毎日夢を見るわ、明智さんの……」
狩野など眼中になく、明智に陶然とした眼差しを注ぐ京子。
狩野、さすがに激怒して、ナイフを取り出すと「くそう」と、京子の体にぶつかっていく。

京子「あっ、ああ……」
思わぬ逆襲に顔を歪ませる京子。
京子が倒れたのを見て、狩野も自らの胸にナイフを突きたてる。
と、その体がそばにあった石油ストーブと共に転げ、たちまち炎が床をなめる。

京子「あ、明智さん……」
炎の壁越しに、明智に必死に手を差し伸べる京子。

それを見て、後先考えずに炎に飛び込もうとする明智を、波越たちが慌てて引き止める。
京子「一緒に、死にたかった……」
京子はそのまま崩れ落ち、絶命する。
最後に見た光景が、自分を助けようとする明智の姿であって、少しは京子の心も慰められたかもしれない。
明智が見守る中、京子の赤い痣がスーッと消える。
慌てて屋敷から出てくる明智たち。この辺からクレジットが表示される。

二度目の炎に包まれる忌まわしい妖虫の館。
笠間、狩野、そして京子の死体が映し出される。
品子「数百匹の虫と一緒に死ぬのね、先生は」
守「やっぱりさそりの呪いなんだ」
波越「恐ろしい女だったなぁ」
文代「でも、かわいそうな人」 文代さん、口ではそう言いながら、強力な恋のライバルの消滅に、心の中でガッツポーズをしていたと思われる。
明智の声「冷酷無残な犯人と共犯者はさそりや妖虫と共に猛火に包まれてこの忌まわしい事件は終わった。しかし私は運命に弄ばれた哀れな女の叫びが、いつまでも心の底から消えなかった」
炎の中に、在りし日の京子の幻影が浮かぶ。
京子「明智さん、女って弱いものですね。生まれつきの運命に一生左右されてしまうんですもの」 明智は、かつて病室で京子が口にした言葉の意味をやっと理解することが出来たのである。
おわり。
……さて、振り返ると、なかなか出来の良い一本だったと思う。非明智ものの原作を、ほどよく忠実にアレンジしていた。登場人物が多彩で、場面転換も多く、ドラマとしてかなり楽しめる。
また、3組の相思相愛のカップルに加え、京子の明智への愛、狩野の京子への愛、笠間の品子への愛と言うように、恋愛関係がとても豊富な作品であった。「美女シリーズ」でも、これほど「愛」が重大な要素を持つ作品は稀であろう。
また、意外と人死にが多く、他殺・自殺・事故を含めて、「天国と地獄」の9人、「天使と悪魔」の8人についで、7人もの死者が出ている(他殺6、自殺1)。
以上、長々と書いてきましたが、最後までお読み頂きありがとうございました。
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