第12回「私は不良少女!」(1985年7月9日)
「ええ、またぁ~?」 これは、今回の台本の表紙を見た伊藤かずえさんが思わず発した言葉である(たぶん)
前回の続きから、真鶴の大丸家の別荘の庭で、雅人と路男が激しく殴り合っている。
自分の為に戦う雅人の姿に胸を熱くする千鶴子であったが、「自分にはもうそんな資格はない」と、二人を置いてとっととその場から走り去ってしまう。
その頃、猛たち鬼神組の連中は、まだ千鶴子の行方を追っているのか、真鶴駅の前でおやつタイムの真っ最中であった。

それにつけても、極悪人の集まりの筈なのに、リーダーが手にしてるのがバヤリースと言うのは、全力で回避して頂きたかった演出であった。
ここは嘘でも缶ビールでも持ってないと、サマにならないでしょ。
猛「信じられねえよ、あんな女にあったの初めてだ」
その猛、追い詰められた千鶴子がいきなり崖から海へ飛び込んだのがよほど強烈だったようで、何度もそのシーンを思い返しては、「信じられねえ」を繰り返していた。
ワルの癖に、意外と感受性が豊かな若者だった。

と、ふと、視線を転じると、

その「信じられねえ女」が、線路の向こうの歩道を全力で突っ走っているという、「信じられねえ」光景が目に飛び込んでくる。

猛「あの女だ、信じられねえよ、生きてやがったぜ……」
茫然とつぶやく猛のアップに続いて、

その後を、これまた120パーセントの全力疾走で追いかけている雅人と路男の姿がインサートされ、管理人は大笑い。
猛「あいつら、あいつらぁあああ……」 まるでケンシロウとレイに騙された牙一族の下っ端のような呻き声(註1)を上げながら、立ち上がった猛、鬼のような形相で自分も走り出す。
註1……
「お、おやじぃ、やつらが、やつらがぁあああっ」のこと……って、分かるかっ!

操車場で路男と雅人が殴り合う、有名な(?)シーン。
で、割りと雅人が強く、路男が割りと弱いことが判明してしまい、ややがっかり。
いくら雅人の方が体格が良いと言っても、(自称)「数々の修羅場を潜り抜けてきた男」が、完全なお坊ちゃま育ちに負けたらあかんでしょう。

雅人、とにかく逃げようとする千鶴子に追いつくが、
千鶴子「雅人兄さん、雅人さん、お願い、私のことなんかほっといて、私のことなぞ忘れてください!」
雅人「バカ、何を言ってるんだ、君が誰の子であろうと、僕の気持ちは変わらないといつか言った筈だ。僕を信じないのか?」
千鶴子「……」
雅人「君は僕の婚約者だ、僕の妻になる人なんだよ、千鶴ちゃん、わからないのか?」
千鶴子「雅人さん……」
雅人の誠実さの塊のような熱い言葉に、思わずその広い胸に顔を埋める千鶴子であった。

雅人「君がどんなにつらいか僕には良く分かる、だけど今は、僕の為に生きることを考えてくれ! 僕の為に、死のうなんて思わないでくれ! 僕と君はここにこうしているじゃないか!」
千鶴子(あれ、前にもどこかで聞いたような……)
雅人(あれ、前にもどこかで言ったような……)
それは二人の気のせいではなく、前回のラストで雅人が口にした台詞、
「千鶴ちゃん、君がどんなにつらいか、僕には良く分かる。だけど今は僕の為に生きることを考えて欲しい。死のうなんて考えないでくれ! 僕は君を愛してるんだ!」
の、焼き直しなのである。
雅人「僕たちにとって大切なのはこれからどう生きるかってことなんだよ。千鶴ちゃん、しっかりするんだぞ! 僕の為に勇気を持ってくれ、死ぬほどつらいかもしれないけど、僕と一緒に大丸家に戻ろう」
千鶴子「……」
とにかく、雅人の感動的な励ましの言葉に、千鶴子も漸く、力強く頷いて見せるのだった。
が、そこへ、いまや完全なお邪魔虫と成り下がってしまった路男がやってくる。

路男「雅人、千鶴子はわたさねえ!」

雅人「きっさぁまぁっ!」
路男に対しては、若干、態度が粗野になる雅人であった。
と、背後からいきなり猛が駆け寄ってきたかと思うと、木刀で思いっきり路男の頭をぶん殴る。
この奇襲にはさすがの路男もどうすることも出来ず、額から血を流しながら線路の上にひっくり返る。
うーん、この一連のシーンで、路男の株が一気に下がってしまったなぁ。
対照的に、雅人株は天井知らずの高騰を見せる。

猛「あんた、生きてたんだな、すげえよ、ほんとにすげえ女だよ」
雅人「君たち、何をするつもりだ?」
猛や鬼神組の連中に迫られても、千鶴子を庇って怯むことなく立ち向かう。
猛「何をするのか、俺だってわからねえよ」 雅人(まずい、バカだ……)
ついでに、猛、「あんたに惚れちまったよ」と、人目も気にせず熱愛宣言をぶちかまし、路男と一緒に株価を下げまくる。
だが、ちょうどそこへパトカーがサイレン鳴らしてやってきたので、猛は「必ず俺の女にして見せるぜ」と、捨て台詞を吐いて退散する。
別の車には剛造たちもいて、千鶴子を優しく慰めて、ともども屋敷へ帰っていく。
だが、千鶴子は帰宅すると同時に自室に閉じ篭ってしまう。
両親や雅人にいくら慰めや励ましの言葉を掛けて貰っても、自分が剛造の娘ではなかったという事実は変わらず、プライドの塊のような千鶴子にとって、その現実から立ち直るのは不可能のように思えた。
剛造は千鶴子の部屋に行き、父親としての真情を吐露しつつ、千鶴子の心を開かせようと、膝詰めで、コンコンと話し続ける。
則子や雅人、そしてしのぶと耐子も、それに付き合って一晩中一睡もせずに成り行きを見守っていた。
やがて朝になり、剛造もいい加減面倒臭くなったのか、なかなか心を開いてくれない千鶴子の顔を思いっきり引っ叩く。

剛造「千鶴子、いつまで暗い顔をしてるんだ、お前らしくないぞ! 大丸剛造の娘はどんなことがあっても凛と胸を張って前へ前へと進まなくてはならんのだ」
千鶴子「お父様……」
剛造「血の繋がりがあろうとなかろうと、お前は私の娘だ。私とお前とのこの18年間の関係は、なんら変わることはないんだ。どうしてそれが信じられんのだっ? それが信じられなんのなら、お父さんはもう生きていけないではないか。お前の成長を唯一の支えにしてお父さんは今日まで頑張って生きてきたんだ」
千鶴子「お父様、もう仰らないで、お父様のお気持ちも分からず、わがままばっかり言って来たのは千鶴子のほうなんです。しのぶさんにも、意地悪なことばかりしてしまいました……ごめんなさい、ごめんなさいっ」

布団に顔を埋め、子供のように泣きじゃくる千鶴子の体を抱き起こし、
剛造「もういいんだ、千鶴子、謝らなくてはならないのは私の方だ、お前に本当のことが知られるのが恐ろしくて、私は嘘ばかりついて来た。私の嘘がお前をいっそう傷付けてしまったんだな?」
千鶴子「いいえ、お父様、お父様が私を傷付けまいとしてどんなにつらい思いをしてたのか、私が愚か過ぎてわからなかっただけなんです!」
剛造「千鶴子、しのぶと本当の姉妹になってくれ。しのぶを妹として迎え入れてくれないか?」
千鶴子「でも、しのぶさんは私を許してくれるかしら?」
剛造「
許すも許さないもないじゃないか、今日からお前たちは本当の姉妹になるんだ」
しのぶ(……え、私の意見は無視?)
それはそれとして、あんたがたタフマン剛造の徹夜の説得が実り、遂に千鶴子は納得し、剛造と一緒に部屋から出て来る。
千鶴子は剛造に促されると、自分からしのぶに手を差し出して、二人は本当の姉妹としてしっかり手を握り合うだった。

剛造「みんな聞いてくれ、私はしのぶを養女として籍に入れるつもりだ、千鶴子、認めてくれるな」
千鶴子「はい」
しのぶ「旦那様」
剛造「しのぶ、今日から私をお父さんと呼びなさい。今日から千鶴子としのぶはほんとうの姉妹だぞ」
剛造は矢継ぎ早に話を決めて、しのぶと耐子も以前のようなゲスト待遇に戻されることになる。
これが1クールのドラマなら、(次の13話で路男が復讐を諦め)これでほんとに話が終わってしまうところだが、あいにくと、これは2クールのドラマなので、剛造たちの苦悩はまだまだこれからが本番なのである。
次のシーンで、「火の国」の店内が映し出されるが、

そこで歌っている色っぽい歌手、演じているのはデビュー直前の小比類巻かほるさんだったりする。
なんで麻倉未稀さんじゃなくて、小比類巻さんなのか、良く分からないのだが。
優子、猛から路男の頭を木刀でぶん殴ったと聞かされ、心配になって若山と一緒に例のプールバーへ向かう。

果たして、路男は頭を押さえて、ビリヤード台の上でのた打ち回っていた。
二人の気配に気付いて路男が半身を起こすが、その青黒い顔を見た若山は、
若山「バカタレがっ!」 物凄い顔で大喝すると、

手近に合った洋酒を口に含んで、その頭に思いっきり吹きかける。
路男「くああーっ!」
若山「親から貰った体を粗末に扱いやがって!」

路男「ぐわっ」
若山「お客さん、どこか痒いとこありませんかー?」
じゃなくて、
路男「ぐわっ」
若山「お前は『生まれたての仔馬』かっ?」
でもなくて、
路男「ぐわっ」
若山「吼えろ、喚け」
路男「ああーっ」
若山「自分でどんな馬鹿なことをしてるのか、わからんのかーっ?」
さらに洋酒を直接傷口に流し込んで、手荒な殺菌をしてやる。
若山「しぶとい野郎だ」 優子(殺す気かよ……)
若山「森の獣だってこんな大怪我すりゃ悲鳴上げるだろうに……」
いや、十分(悲鳴)上げてると思いますが……。
優子「路男、先生からお前の事情は聞いたわ」
路男「へっ、口の軽い神様だぜ」

路男「だからなんだってんだ、止めたって無駄だ。俺は今、
ギンギンに燃えてんだ」
優子(ギンギン……)
それでもまだ剛造への復讐をやめるとは言わない路男に、優子はペットを吹くことこそがお前の生きる道なのだと言って聞かせるが、
路男「ペットなんかひ弱な男の玩具にしか過ぎねえよ!」
優子「ふざけんじゃないよ!」

優子「何がひ弱な男の玩具だい、二度とそんなこと言ったらお前でも許さないよ」
路男「……」
路男の憎まれ口に、優子がいつになく厳しい顔になり、口から血を絞り出すような口調で路男をねめつける。
ここで、不意に優子がフラッシュバック的な回想シーンに入り、

どう見ても切腹の途中で抜け出して、無心にペットを吹き鳴らしている若者の姿が映し出される。
腹から血ィ流しながらペット吹いてる奴も吹いてる奴だが、気にせず演奏に聞き入っている客も客である。
すぐ後に分かるが、彼は、優子の若くして亡くなった弟なのだ。
観客席にいる少し若い優子が息を詰めて見守る中、若者は最後まで見事にペットを吹き鳴らすと、

そのままばったりとその場に倒れてしまうのだった。
パッと見、「スクールウォーズ」の失言大王こと星クンかと思ったが、全然別の人だった。
回想モードに入っている優子の顔を、若山と路男が真剣な目で見詰めている。
もっとも、若山は弟のことも知っているようだが、路男が知ってるのかどうかは分からない。確か、だいぶ後に優子が話して聞かせているから、この時はまだ知らないんだよね?
もし知ってたら、「ひ弱な~」なんてことは口が裂けても言わなかっただろうし。

優子「路男、大丸家に対する恨みを捨てな、恨みを捨てて、血の最後の一滴まで、ペットに夢を託して死んだ男だっているんだ」
路男「……」
が、結局路男は優子を振り切って、部屋から出て行ってしまう。

優子、どうして止めてくれなかったのかと、突っ立ってるだけの若山をなじる。
若山「神の光に背いて走り始めた男を、どーして私が止められる?」
優子「神の御心で何とかしてくれてもいいじゃありませんか!」 相変わらず訳の分からないことを口にするだけで物の役に立たない若山に対する優子の言い方が、まるで
街の便利屋に頼んでるようで、ちょっと笑える。
若山「神の御心をもってしても今の路男をひき止めることは出来ないだろう」
優子「それじゃ神様ってなんですか、神様って何処にいるんですか? そんな何処にいるのか分からない神様なんて、私はもう金輪際、祈るもんか!」
優子は、ついに信仰を捨て去るとさえ言い出す。
ま、やっぱり、無職でも良いけど、住所不定はまずい、と言うことですね(註・違います)。

若山「優子、弟の死を目の前にしたとき、お前どう思った、どうした?」
優子「私はただ、心が張り裂けそうだった。弟が死んだと分かった時、目の前が真っ暗になっちまった。後に残ったのは絶望だけ」
若山「絶望だけではぬわい! 絶望の果てに祈りがあったのだ。お前の祈りにこたえるように、路男はお前の前に姿を現したのだ。お前も路男は弟の生まれ変わりだと言ってたではないか」
何を言われてもへこたれない若山、今度は、優子が路男と巡り合えたのは神の導きだと、偶然のお手柄を横取りしようとする。
若山「祈りとはそう言うものなのだ。いや、神の力とはそう言うものなのだぁっ」

優子(アカン、口ではどうやっても勝てん……)
優子、それでもめげずに、
優子「私にどうしろと言うんですか?」
開き直ったような質問をぶつける。

若山「(路男は)血の一滴が燃え尽きるまで戦うことはやめんだろう」
優子「路男が死ぬのを私に黙って見てろと言うんですか」
若山「路男には路男の青春を歩ませよう、たとえそれが愚かなものの道であっても、路男には路男の人生を歩ませよう。今の俺にはそれしか言えん」
優子「先生……」
若山「優子さんよ、人間て奴は賢い生き方をするだけが能じゃないんだよ、愚かな遠回りをするものが豊かなものをたくさん手にする場合だってある。(中略)路男の祈りとお前さんの祈りが重なり合う、その時だ」
優子「……」
結局、若山との会話でわかったことは、
「若山の話は長い!」と言うことだけだった。
しかし、まあ、最後は路男も優子も非業の死を遂げちゃうのだから、もし神様(脚本家)とやらがいるのなら、そいつがどうしようもない残酷な奴だと言うことだけははっきりしている。
後編に続く。
- 関連記事
-
スポンサーサイト