第48話「死神山のスピードランナー」(1981年3月11日)
冒頭、UGMのメンバーが赤いジャージを着て路上をジョギングしている。
トレーニングの一環なのだろうが、お天気お姉さんのユリ子や、広報のセラが一緒なのはいささか変な気もする。
と、彼らの前方から、同じくジャージ姿の中学生たちが数人走ってくる。
中学対抗のマラソン大会が近々行われるので、その特訓をしているのだ。

涼子「父兄のほうが一生懸命みたいね」
フジモリ「そりゃそうだよ、伝統あるマラソン大会だし、優勝でもすれば特待生として……って、
なんで俺が喋ってるのに俺の顔がブレとんじゃっ!」
うん、それはね、ユリ子お姉さんの綺麗な顔を正確にキャプする為だよ。
ユリ子「そんなに有名なマラソン大会なの?」
セラ「有名なんてもんじゃないよ、町中大騒ぎなんだから」
と、生徒たちの顔触れを見ていた猛、知り合いの正夫という少年がいないのに気付き、急いで彼らを追いかけ、

猛「そのリーゼントはどうしたんだ? いや、正夫君は、どうしたんだ?」
最後尾にいた、中学生にしては異様にリーゼントが発達した少年に尋ねるのだった。
生徒「あいつのお母さん、病気なんですよ。それで正夫の奴、高校進学を諦めて八百屋を継ぐことになったんだけど……」
猛「そうか、そんなことが……で、そのリーゼントはどうしたんだ?」

猛、すぐに護岸の上に寝転がっている正夫を見付けて、そのそばにしゃがみこむ。
猛「対抗マラソンは五日後なのに、練習サボってていいのか」
正夫「走ったってしょうがねえよ」
猛「ああ、事情は聞いたよ。だけどヤケになるなんて正夫君らしくないなぁ」
猛、回によって、急に中学教師の頃だったキャラに戻ってしまうことがあるのだ。
猛「拗ねてる暇があったら思いっきり走ってみたらどうだ」
正夫「矢的さん、俺、高校に行って高校駅伝で走るのが夢だったんです。それが出来なくなっちまったんだ」
猛「だけど、走るのはどこでも出来るぞ」
正夫「分かってるけど」
そこへ正夫の妹が駆けて来て、母親が手術をすることになったこと、その母親が正夫を呼んでいると告げる。猛は二人と一緒に病院へ向かう。

母親「あら、矢的さん」
母親を演じるのは、「狂鬼人間」でお馴染み、姫ゆり子さん。

猛「おばさん、手術するそうですね」
母親「ええ、参っちゃったわよ、私」
正夫「母さん、だいじょぶなのかよ」
母親「さあね、駄目かもしれないわね」
正夫「何言ってんだよ」
母親の言葉にたちまち心細い顔になる正夫だったが、母親はいたずらっぽく笑うと、
母親「馬鹿ねえ、冗談に決まってるでしょう。絶対に大丈夫」
猛「本当に大丈夫なんですか?」
母親「ええ、ただの豊胸手術ですから」
猛「……」
じゃなくて、
母親「それより正夫、お前、マラソンの稽古、毎日頑張ってるんですってね。みんなが正夫が優勝候補のナンバー1だって言うのよ。それを聞くとお母さん嬉しくてね……なにしろお前の優勝に全財産賭けてるんだから」
正夫「えっ?」
母親「えっ?」
じゃなくて、
正夫「俺、俺、頑張ってるよ、今度の大会さ、絶対優勝する気なんだ」
母親「そうかい、それじゃ母さんも早く良くなってまたバリバリ働かなくちゃねえ」
正夫「うん! 矢的さん、俺、やるよ!」
母親の言葉に、正夫はメキメキやる気を取り戻すのだった。
母親はわざと明るく振舞っていたが、そんな息子の姿を見て、そっと涙をこぼす。
恐らく、本人が言うほど簡単な手術ではないのだろう。
その後、早速河川敷でトレーニングを開始する猛と正夫であったが、突如現れた、鬼とも雷神ともつかぬ異様ないでたちをした少年が土手の上に現れ、「エイホーエイホー」と掛け声を発しながら、物凄いスピードで駆け抜けていく。

CM後、トレーニング中の社会人ランナーたちを追い越し、さらに「もっと早く走ろうよ」と挑発する謎の少年。
彼はマラソン小僧と言う名前なのだが、便宜上、後に命名される死神走太と呼ぶことにしよう。
大人たちはムキになって走太と競争するが、スピード、スタミナとも、まったく歯が立たない。

走太「なんだ、みんなだらしないなぁ。日曜日しか走らないんじゃ、無理ないか。ははははっ」
猛たちは、オオヤマの指示でその奇妙な少年の行方を捜すが、彼らに発見されるより先に、走太は、とある中学のグラウンドに入り込み、そこにいた中島なる有望なマラソン選手に勝負を挑む。
そこへ漸く猛たちが現れ、競走をやめさせようとするが、文字通り一足遅く、走太に追いつこうと気張りすぎた中島が転倒して怪我をしてしまう。

猛「しまった、アキレス腱が切れてる」
コーチ「おーい、中島、痛むか? 君はいったい何をしたんだ?」
走太「俺、何もしてないぞ」
コーチ「何もしてないって、君、俺の育てた選手を潰しちまったじゃないか」
校舎から中島の走りを見守っていた校長とコーチが飛んできて、コーチは手塩にかけた選手の為に走太に食って掛かるが、

校長「待ちたまえ、コーチ、
負け犬には用がないな」
校長は落ち着き払ってコーチをなだめると、教育者として最低の発言をかます。
さらに、動けない中島には見向きもせず、ニタニタと笑いながら走太を校舎のほうへ連れて行く。
最低の校長を演じるのは、梅津栄さん。

校長「君は速いんだなぁ、どうだ、我が青雲中学に転校したまえ。今度のマラソン大会に優勝したら、授業料免除、特待生待遇で高校まで保証しようじゃないか」
走太、意味が分かってるのか、校長の提案にあっさり頷いて同意する。
校長「君、どっから来た?」
走太「死神山だ」
校長「それで、名前は」
走太「みんなは俺をマラソン小僧と呼んでるんだ」
校長「マラソン小僧じゃエントリーできんな、そうだ、死神山から来たマラソン小僧だから、死神走太、この名前にしよう」
走太「死神走太か、かっこいい名前だ」
猛と涼子は壁に耳を当て、超能力で彼らの会話のみならず、校長が、走太でマラソン大会に優勝して、自分の学校の宣伝に利用としようと考えていることまで、残らず読み取ってしまう。
二人は一旦本部に戻り、オオヤマに一部始終を報告する。

イケダ「死神山? そんな山ありましたっけ」
オオヤマ「死神山と言うのは中部山岳地方にあるダイホウ山の別名なんだよ。頂上は万年雪で覆われ、その山に足を踏み入れたものは生きて帰れないと言われている。それで死神山と呼ばれてるんだ」
イトウ「実はな、矢的、死神山には昔から、めっぽう足の速いイダテンランと言う怪獣が住んでいると言われているんだ。村人たちは大根や山芋を供えて足の神様として崇めているそうだ。ま、そのお礼としてイダテンランは年に一度、小僧の姿になって村を走り抜けると言う」
オオヤマ「その小僧の姿を見ると、病気など吹き飛んでしまうと言われている」
フジモリ「どうして町に下りてきたんですかねえ」
オオヤマ「それなんだが、イダテンランはマラソン大会を見るのが何よりも好きなんだそうだ」
イトウ「キャップ、イダテンランは普段はおとなしいマラソン小僧ですが、一旦怒らせると手のつけられない大怪獣になるって言われてるんですよ」
猛(……誰が言ってんだ?) 何故か、オオヤマとイトウは、マラソン小僧やその正体について、やたら詳しいのだった。
しかし、この設定、まるっきり40話のジヒビキランと一緒じゃないか。
相撲がマラソンに変わってるだけで、手抜きもいいところである。
オオヤマ、最後に「マラソン小僧がイダテンランかどうか、確認を取れ」と言うのだが、数秒前に、イトウが、「イダテンランは普段はおとなしいマラソン小僧ですが……」って、言い切ってるんだけどね。
よって、この場合は、「その少年が本物のマラソン小僧かどうか……」の方がモアベターよ。
その頃、走太は校長室に大量の大根と山芋を持ってこさせると、生のままバリボリ齧っていた。
そんな走太の様子を、数人の生徒がドアのところから興味深そうに見物していた。走太、それに気付くと、

走太「君たちも食べるかーい?」
親しげに声をかけるが、

生徒「そんなもん食えるかよ、山猿じゃないんだ」
生徒「山猿、山猿、サル人間、お尻もお顔もまっかっかー」
なにしろ校長が校長なので、生徒たちもロクデナシばっかりで、走太をさんざん馬鹿にして立ち去る。
ちなみに、左端にいるのが、和牛のボケの方ですね。

ナレ「マラソン小僧は、友達になろうと思っていた子供たちにからかわれたため怒り、イダテンランに変身した」
走太、実にあっさりとイダテンランになってしまう。
しまうのだが、

昼間の筈だったのに、何故か暴れ回るのは夜の街なのだった。
ま、これは撮影の都合によるものだろう。
あと、その場で変身したのなら、青雲中学もぶっ壊れてる筈なんだけどね。
さて、イダテンランと言うだけあって、普通の怪獣と違い、ひっきりなしに右へ左へと猛烈なスピードで走り回る。

驀進しながらビルや家屋を踏み潰していく様子をサイドから捉えた映像は、なかなかの迫力である。
直ちに、市民から「役立たず」と言う愛称で親しまれているUGMが出動するが、イダテンランは両頬をパンパンと膨らませてから猛烈な風を起こし、地上から攻撃しようとしたイトウたちを吹き飛ばす。
猛は80に変身し、

80「イダテンラン、お前は死神山へ帰れ」
怪獣「うるさーい」
イダテンランを説得しようとするが、あえなく弾き飛ばされる。
なるべく穏便に死神山へ帰って欲しいと願っている80、攻撃はせず、そのままイダテンランに逃げられてしまう。
さて、マラソン大会前日、正夫がひたむきにトレーニングをしていると、走太がやってきて、今ここで勝負をつけようと言い出す。
イケダが正夫の代わりに受けて立つが、少し走り出したところで、足元に飛び込んできた子犬を見て走太が大声を上げて斜面を転げ落ち、

こともあろうに、涼子の股間にしがみつく。
走太「た、助けてくれ、俺は犬が苦手なんだーっ」
涼子「うふっ、君にも怖いものがあったのね」
走太「俺は昔、山犬に足首を噛まれたことがあるんだ」
走太、勝負を投げ出して風のように走り去ってしまう。

コーチ「校長困りましたよ、あいつ、私の指示に従おうとしないんですよ。あんな風に怠けてましてねえ」
校長「困ったもんだね」
コーチ「あれじゃ正夫に優勝されるかもしれませんよ」
その後、コーチは、グラウンドで寝転がっている走太を校長に見せて嘆くが、
校長「その時は、この猛犬ドラゴンに正夫の足を噛み付かさせればいいさ」
こともなげに言ってのける、ほんとに最低の教育者であった。
さて、マラソン大会当日、

当然のように、走太はスタートから猛スピードで走り出し、トップに躍り出る。
他の選手は遅れてはならじとペースも考えずに追いかけるが、

猛「マイペースだぞ、正夫君!」
正夫だけは、前日から猛が繰り返し言っているアドバイスを守って、自分のペースでひた走る。
……にしても、UGM、そんなに暇なんか?
レース中盤、走太に振り回された他の選手が脱落していくなか、マイペースを守っていた正夫が、ついに走太に並ぶ。

走太「ははははっ」
正夫「何がおかしい?」
走太「俺はお前みたいな奴に会うと嬉しくなっちまうのさ」
結局、走太、単に友達が欲しくて町に下りてきたのではないかという気がする。
正夫も、走太に友情のようなものを感じているようだったが、それに水を差す大人たちがいた。

無論、最低教育者の校長と、異様に髪の毛が多いコーチである。
車で先回りし、土手の上を二人が仲良く走っているのを見て、
校長「いかん、いかん。奴に並ばれたぞ」
コーチ「遊んでやがるんですよ」
二人は予定通り、ドラゴンと言うシェパードを放って正夫に噛み付かせようとするが、犬を見た途端、走太の方が悲鳴を上げて、

そのショックで再びイダテンランになってしまう。
イダテンラン、まずは突風でにっくき校長とコーチを吹き飛ばす。
猛は、正夫にレースを続けるよう指示すると、80に変身する。
てっきり、今度は80と怪獣の競走になるのかと思ったが、撮影の都合か、単なるいつもの戦いになる。

80のまわりを猛スピードで回転して、人工的な竜巻を発生させて80の動きを封じるイダテンラン。
あるいは80、イダテンランに思いっきり暴れさせてストレスを発散させるのが目的だったのかもしれないが、しばらく戦った後、特殊なビームを放ってイダテンランを走太の姿に戻してやる。

この戦い、カラータイマーが青色のままで勝負がつくと言う、珍しいケースであった。
走太が抜けたレースを、正夫がぶっちぎりで優勝したのは言うまでもない。
テープを切って倒れこむ正夫に、すかさず妹が駆け寄り、

妹「お兄ちゃん、お母さんの手術、成功したわよ」
正夫「そうかっ」
汗だくの顔に安堵の笑みを浮かべる正夫。
この感動的なシーンで、管理人がした最低の行動は、恥ずかしくてとてもここには書けません。

さて、猛と涼子は倒れている走太に駆け寄り、抱き起こす。
猛「マラソン小僧、お前、死神山へ帰れ」

走太「うん、帰るよ!」
余韻もクソもなく、走太はそう言って走り去るのだった。
竹を割ったような性格と言うのはこういうのを言うのだろうが、もうちょっと正夫との別れを惜しむようなラストにして欲しかった気もする。
こうして80の中でも無害な怪獣イダテンランは、爽やかな風のように現れては消えていったのだった。
数十棟の建物と、数百人の死傷者を残して……。
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