第12話「宇宙怪人ゾルダ現わる」(1971年12月19日)
後の変身ヒーローものへの路線変更を先取りしたようなタイトルである。
やっぱり、早い段階でヒーロー路線にしたいと言う思惑が一部スタッフの中にあって、それがストーリーにも反映されたのだろうか。
ある夜、トイレに行こうと目を覚ましたタケシは、家の外を不気味な宇宙人、ひらたくいえば、ショッカーの怪人のようなものがうろついているのを目撃する。
タケシは寝惚けて幻を見たのだと決め付けてあっさり寝てしまうが、そうではなかった。

その怪人ゾルダは、後ろから来てクラクションを鳴らした車に怒り、目をオレンジ色に光らせてその車を爆破してしまう。
ドライバーがどうなったのかは描かれていないが、どう考えても即死したと思われる。
ナレーターによって、ゾルダがアルファ星ならぬベータ星から来た宇宙人で、平和監視員を見るや喧嘩を吹っかけてくる暴れん坊で、地球駐在平和監視員のひかるを探していることが分かる。

タケシ「先生、おはよ」
ひかる「おはよう、小島君」
翌朝、いつもと変わらぬ登校風景。
……と言いたいところだが、今度は髪型ではなく、ひかるの衣装が変わっているではないか。
そう、この回から、それまでの青いワンピに白いベストの組み合わせから、このような冬型の衣装に変わってしまうのである。
黒いロングブーツは実に素敵だが、個人的には前の方が良かったかなぁ。もっとも、真冬であんな格好してたらちょっと不自然だから、仕方あるまい。
かわりに、髪を元のロングヘアに戻してくれたら良かったのだが……。
それはさておき、タケシは、今度学園祭でやる「かぐや姫」の劇に出て来る宇宙怪人のデザインを遂に思い付いたとひかるに自慢げに言う。図画工作の得意なタケシ、美術や衣装の仕事を担当しているのだろう。

ひかる「かぐや姫に宇宙怪人が出るの?」
タケシ「かぐや姫は宇宙人だったんだぜ、俺たちには常識さ」
ひかる「ほほ、面白いわね」
彼らの背後を次々子供たちが通り抜けていくのだが、その中に、ハルコと一子が仲良く手を握って登校している姿が見える。7話でちょっと険悪なムードになった二人だが、すっかり仲直りしたのかと、ちょっと心が温まるスケッチである。
かぐや姫=宇宙人説を力説した後、

誇らしげに、その宇宙怪人のデザイン画を披露するタケシ。
暗闇の中で一瞬見ただけにしては、異様に正確に描けているが、それはまさしく昨夜目撃したゾルダをそっくりそのまま再現したものだった。
ひかる「ゾルダ!」
タケシ「?」
それを見たひかる、思わず小さく叫ぶ。
平和監視員のひかる、当然ゾルダのことは知っていたのだ。

ひかる「これ、何処で見たの?」
タケシ「へへへ、昨夜の夢の中で見たんだよ」
ひかる「そう、それならいいけど」
安堵したひかるは、「かぐや姫」にそんな奇抜なキャラクターが出てくるということは校長たちには内緒にしましょうとタケシに言い含める。
しかし、夢にしろ、子供が偶然ゾルダそっくりのデザインを思い付くと言うのはまずありえないことで、ひかるはこの時点で、ゾルダが地球に来ていることを察知しなければならなかっただろう。平和監視員としてはまだまだ未熟と言わざるを得ない。

そのひかる、校長や教頭から、劇の題材に古式ゆかしい「かぐや姫」を選んだことを絶賛されていた。
教頭「さすがに月先生です」
ひかる「いえ、子供たちがみんなで考えたことですから」
教頭「ご謙遜」
校長「幕が開くのが楽しみですよ、うわっはっはっ」
が、そこへ、旗野先生がタケシのデザイン画を持ってきたことで、全てがぶち壊しになる。

旗野「いやぁ、この怪獣は冴えとるー」
ひかる「あのう、宇宙怪人なのよ」
消え入りそうな声で訂正するひかる。

校長「いや、かぐや姫と言うのはね、非常に美しいお話……うっ、なんだこりゃ? かぐや姫をやるんじゃないんですか?」
ひかる「あ、いえ、あの、かぐや姫なんです!」
怪訝そうに顔を見合わせる校長と教頭。

一方、ひかるのクラスでは進が演出家兼脚本家として、劇の台本をみんなの前で身振り手振りを交えて読み上げていた。
「かぐや姫」をベースにしつつ、進がオリジナルで書き上げた芝居らしい。5年生にしてはなかなかレベルが高い。
進「こっからがクライマックスだぜ。かぐや姫、『正夫君、助けて』と、飛びつく。正夫『わはは、怪人だろうと宇宙人だろうと束になってかかって来い』と威張る」

正夫「えへへ」
進「ちょっと良い役にし過ぎたかな?」
正夫「ばっかやろう、俺にピッタリじゃねえか」
当然ながら、実質的な主役の、かぐや姫の恋人(?)役は、ガキ大将の正夫であった。
ちなみに愛しのハルコちゃんがかぐや姫役なのだが、リハーサルシーンもなく、最後にちょこっと出て来るだけなのが残念である。

と、そこへ校長が入ってきて、
校長「みなさん、このお芝居は中止です」
正夫「どうしてー?」
校長「学校の方針です」
頭ごなしに一方的に劇の中止を宣言する。
それを知ったひかるが納得できないと校長に直談判したのは言うまでもない。

ひかる「せっかく子供たちが自由に想像を働かせて劇を作ろうとしてるのにどうしてそれがいけないんですか?」

校長「古典を冒涜しとる。かぐや姫が宇宙人だなんて」
教頭「そうですとも、だいたいそういう新解釈は文部省でも容れておりませんぞ。それにですな、記念祭にはPTAの方たちや教育委員会の方たちが大勢お見えになるのにそう言う過激な芝居が見せられますか?」
ひかる「過激ですって?」
教頭「過激です」
校長「だいたい宇宙人だの宇宙怪人だの、馬鹿馬鹿しいと思わんですか」
ひかる「思う訳ありません、私がそうだもの」
校長「はっ?」
怒りのあまり、つい口を滑らせてしまうひかる。

ひかる「あ、いえ、あの、私は宇宙人や空飛ぶ円盤の存在を信じてます」
教頭「信じる信じないは、そりゃ、イワシの頭でも円盤でも結構ですがね、だいたいここは教育の場ですぞ」
ひかる「すると先生方はご自分の目でご覧になったものしか」
校長&教頭「信じません!」
ひかる「仕方ありません」
あまりに教条的、且つ事なかれ主義の二人の態度にうんざりしたひかる、深々と一礼して引き下がると見せかけ、
ひかる(地球人の石頭め……)
ムーンライトリングに息を吹きかける。
と、突然、部屋がグラグラと揺れ始める。地震ではなく、空飛ぶ円盤の衝撃波と言うことなのだろう。

教頭「あ、円盤!」
窓の外を、紛れもないUFOが飛んでいくのを見て仰天する二人。

校長「信じられん、今のは気の迷いだ。私は断じて信じません」
教頭「おっしゃるとおりでございます」
恐れおののきつつ、なおも強弁する二人を、口に手を当てて笑うひかる。
昔の女性の仕草は奥床しいよね。

が、二人が息を整えてもう一度窓の外を見ると、今度は鼠色の、象ともエイリアンともつかない怪物が立っているではないか。
これは、別の番組から借りてきた着ぐるみだと思うが、何と言うキャラクターなのかは分からない。
二人が抱き合って震えていると、

山部「先生方、何してらっしゃるんですか?」
窓から上半身を乗り出して、用務員の山部が不思議そうに声を掛けてくる。

校長「なんだ、山部君じゃないか」
山部「はあ」
校長「脅かすな!」
山部「うっ」
校長「あっち行きなさい!」
校長、犬でも追い払うように山部を叱り飛ばす。
山部にとってはひたすら災難だったが、これは、ひかるが超能力で山部の姿を怪物に見せたとも取れるし、狼狽した二人が、勝手に山部の姿を怪物と見間違えたとも考えられる。
怪物と似たような服の色だしね。

すっかり混乱した二人は、今のは夢じゃなかったのかしらん? と、互いの頬をつねったり、引っ叩いたり、今ではあまり見られなくなった定番の行動に出るのだった。

ひかるが、ニヤニヤしながらそれを見ていると正夫たちも笑いながら入ってくる。

高野浩幸さん、今回、出番はないのだが、その代わりに実に盛大に口を開けて笑っておられる。
ひかる「校長先生、みんな心配して来てるんですわ。許可してくださいますわね」
校長「なんのことですか」
ひかる「お芝居のことですわ」
校長「ああ、わかった、わかった」
教頭「今、それどころじゃないんだよ」
と言う訳で、校長はヤケクソ気味に許可を出すと再び窓に張り付き、子供たちは大喜びで引き揚げていく。

その夜、離れの隣の隠し部屋で、バルが少女フレンドを腹に乗せてグーグーいびきを掻きながら寝ていると、通信機がけたたましいコール音を発し、それでもバルが起きないので水をぶっ掛けて無理矢理バルを叩き起こす。
バルの叫び声に、寝ていたひかるも起きてやってくる。

ひかる「バル、どうしたの?」
バル「なるほど、なるほど、緊急連絡じゃ、姫、一大事」
ひかる「え」
バル「ゾルダが地球にやってきたそうですぞ」
赤と白のイチゴ(サッカーボールのようにも見えるが)をプリントしたパジャマ姿が可愛いのである!

ひかる「ゾルダが? じゃあやっぱりタケシ君が見たのは本物だったんだわ」

バル「そりゃ大変じゃ、姫をねらっとるんじゃぞ、当分、学校を休みなされ」
ひかる「ダメ、子供たちのお芝居があるもの」
バル「馬鹿馬鹿しい、何がお芝居じゃい、姫の身に万が一のことが起こったらどうするんじゃ」
バルは自重を促すが、ひかるは突っ撥ね、逆にバルに教え諭すような口調で、

ひかる「バル、あたしたちがこの不完全な惑星にやってきたのは何の為だか、知ってるわね?」

バル「そりゃあ、子供たちを守る為じゃ」
ひかるの問いに即答するバルであったが、あれ、確か、平和監視員の役目って、地球人が宇宙の平和にとって脅威になるかどうか見張ることじゃなかったっけ?
いつの間にか目的が通俗的なものに変わっているのも、ヒーロー路線への布石かしら?
それはそれとして、こちらが菊容子さんの横パイになります。なにとぞ、ご査収下さい。
バル「しかし、何もあんな分からず屋のガキらの為に……」
ひかる「バル、もう一回言ってごらん」
バル「うっ」
続けてバルが漏らした言葉に、ひかるがますます怖い顔になって睨みつける。
バル、叱られるのを予測して両耳をふさぐが、ひかるはその片方の耳をひっぺがして口を近づけ、
ひかる「二度とそんなこと言ったら承知しないからーっ!」 バル「うう、うるさいっ」

両手を腰に当て、鼻を鳴らすひかる。
何度も言うようだか、このドラマの一番楽しいところは、こう言うひかるとバルの、ストーリー上はさほど重要ではないやりとりにあるのではないかと思うのだ。
後編に続く。
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