第12話「宇宙怪人ゾルダ現わる」(1971年12月19日)
の後編です。

正夫「怪獣だろうと宇宙人だろうと、束になってかかって来い!」
さて、翌日、学校の近くの原っぱで、芝居の稽古をしているひかるの生徒たち。
怪人の衣装はまだ完成していないので、男の子が風呂敷をマント代わりにして演じている。
二人が真っ向から取っ組み合うのを見て、ドラム缶の上に座っていた進がストップをかける。

進「竜村君、君はここでひっくり返るんだぜ?」

正夫「やだよ、カッコ悪いじゃん」
進「ダメだよ、脚本に書いてある通りにしろよ」
正夫「ちぇっ、なぁんでぇ、話作ったからって威張りやがってばぁかやろう」
進「威張ってるのが演出さ、さ、もう一度」
進にピシャリといわれて、ぶつぶつ文句を言いながらも従う正夫であった。

ひかる「やってる、やってる、バルがなんて言おうとお芝居は成功させなくっちゃ」
近くの草むらの陰から、ひかるもこっそりその様子を見守っていた。
だが、

正夫「チンコ痛い、チンコ痛い、てっめえ、この野郎……今度は俺、チンコ殴ってやるからな、この野郎!」
すぐにカッとなる正夫に芝居は土台無理だったのか、相手に局部を攻撃されるとたちまち前後の見境をなくし、馬乗りになって相手の局部を殴ったり、草を相手の口の中に詰め込んだり、めちゃくちゃなことを始める。
にしても、後に子供たちの規範たるべきヒーローになる少年が、チンコ、チンコと大声で連呼するのはどうかと思う。
まさか脚本家がチンコと書くとは思えないから、これはまぁ、藤江さんのアドリブなんだろうけど。

男の子「ペッ、俺もう、怪人なんかーやめたよ!」
当然ながら、これには相手の男の子がイヤになって、風呂敷を進に叩きつけて憤然と帰ってしまう。

進「竜村君、乱暴過ぎるよ、これはお芝居なんだぜ?」

進「ちぇっ、なんでえ、あんな弱虫怪人よ、おっもしくろねえな、おい、ノロオやれよ、あとで100円あげる」
ノロオ「やだよぉ、やだってばぁ」
進、ならばと、近くに座っていたノロオに怪人をやらせようとするが、意気地なしのノロオが引き受ける筈もない。
正夫、目に付いた男の子に片っ端から声を掛けるが、みんな正夫の暴力に怖気づいて拒絶する。

正夫「みんな弱虫ばっかりだなぁ」
ハルコ「ひどいわ、竜村君」
正夫「なんだよーっ」
ハルコ「みんなで立派なお芝居作ろうとしているのに」
正夫「へん、やりたきゃな、お前たちでやれよ!」
真面目で気の強いハルコちゃんが、真っ向から正夫に意見するが、それくらいで態度を改めるような正夫ではなく、とうとう自分も芝居を降りて帰ってしまう。
進「竜村君」
ハルコ「タツノオトシゴーっ!」
すっかり白けた空気になってしまい、他の子供たちも「塾があるから……」などと言って次々帰っていき、

進「ああ……」
気付けば、残ったのは演出家の進と、ヒロインのハルコちゃんだけとなってしまう。
入れ替わりに、やっと完成した怪人のマスクを持ってタケシがやってくる。
タケシ「見てくれよ、すげーだろー、いかすだろー?」
進「お芝居はもうおしまいさ」
興奮気味のタケシとは対照的に、二人はその場にペタンと腰を下ろしてしまう。

タケシ「どうしたのさ?」
怪訝な顔で自分も座り込むタケシ。
この、三人がぽつんと取り残された感じ、実に侘しいけれど、なんか、こう、自身の子供時代を思い起こさせてくれるみたいで、好きなシーンである。
それにしても、昔の子供たちは家の近くにこんなにたくさん自然が残っていて、恵まれてるよね。

ひかる「しょうがないわねえ、やっぱり分からず屋のガキどもなのかなぁ」
目の前で、子供たちがあっという間に空中分解してしまうのを見たひかる、バルの言葉を借りて、溜息混じりにつぶやく。

その後、三人がとぼとぼ帰っているところに偶然通り掛かった風を装い、にこやかに話しかける。
進「あっ」
ひかる「お芝居のお稽古してたの、今まで」
ハルコ「はい」
ひかる「どう、うまくいってる?」
ひかるの問いに、無言で顔を見合わせていた三人だったが、

進「快調だよ、先生」
タケシ「そ、そうなんだ、怪獣だって迫力ばっちり」
進「タツノオトシゴの喧嘩がまたスリルなんですよ、ねー?」
ハルコ「先生、期待しててね」
進「じゃあね」
ハルコ「さようならー」
みんな何事もなかったように調子を合わせて言い繕い、朗らかに挨拶して去って行く。

ひかる「なんだぁ、無理しちゃってるな……」
自分に余計な心配掛けまいという子供たちの健気な態度に、胸を打たれるひかるであった。
と、背後の石段の踊り場にポンとバルが現れる。
ひかる「何よ、こんななところに現れたりして」
バル「ほうれ、ゾルダは成すこともなく帰って行きましたぞ」
バルから渡された望遠鏡で空を見上げると、ゾルダの宇宙船が地球を去って行くところだった。
ひかるを発見できず、あっさり引き揚げてしまったのだ。割りと根性なしの怪人だった。
だが、それを知ってもひかるの顔は少しも晴れない。

ひかる「そっ」
バル「なんじゃ姫、危険は去ったのですぞ、嬉しくないのか」
ひかる「……」
ひかる、返事する気力もないのか、溜息をついて帰って行く。
バル「これだ、全く女心は分からぬわー」
CM後、タケシから事情を聞いた旗野先生、すぐ正夫の家を訪ねる。
そこに見える正夫の自宅が、7話とも15話とも異なる外観をしていることには目をつぶってあげる優しさが欲しい。
旗野先生、タイヤキを買い過ぎたから一緒に食べないかと正夫を外へ連れ出す。

正夫「なんの用だよ、早く言いなよ、まさか俺にタイヤキおごるだけで来たんじゃないだろうねー」
旗野「ああ、図星だ」
大人びた言い草で旗野先生の真意を叩く正夫。旗野先生は適当なところに腰を下ろすと、

旗野「実はなぁ、お手柔らかに頼む」
正夫「何が?」
旗野「志願してお前と決闘することにした」
正夫「ヴェエエッ?」
旗野先生のとんでもない言葉に、タイヤキを口に入れたまま呻く正夫。

旗野「芝居だよ、芝居、怪獣のぬいぐるみの中に俺が入ることにしたんだ」
正夫「ぶえっ、先生がー?」
旗野「そうだ。似合うぞー、あの芝居の一番の見せ場はお前と俺との決闘だからな、ぎゃんばろうぜ」
悪巧みをしているような目付きで、軽く正夫の胸を叩く旗野先生。
ひかるもだけど、時に子供と全く同じ目線で話をしてくれるのが、旗野先生の魅力なのである。
もっとも、序盤では、もっと厳しい感じの先生だったんだけどね。
正夫「う、うん、だけど俺……」
もう芝居を降りたとは言い出せず、気まずそうにもごもごとつぶやく正夫には取り合わず、

旗野「うんにゃあ、田辺も小島もお前と俺とに絶大なる信頼を寄せとる、信頼されて逃げ出すのは男のするこっちゃない、そう思うだろ?」
正夫「……」
旗野「思うだろっ?」
正夫「ああ、思うよ!」
最後はやや強引に、正夫に「うん」と言わせてしまう。
正夫「たっけえタイヤキだね、ほんとに」
正夫、旗野先生からタイヤキの袋を掻っ攫うと、ほとんどヤケ気味に口に押し込むのだった。
それにしても、旗野先生、意地っ張りの正夫に正面から「仲直りしろ」とか「芝居をやれ」とか言わず、搦め手から巧みな話術でイエスを引き出してしまうあたり、ひかるにも負けない児童心理学の天才と言って良いのではないだろうか。
人に言うだけでなく、自ら怪人役に名乗り出るという行動力も素晴らしい。
当時の学校がこんな先生ばっかりだったら、日本もここまでひどい国にはならなかっただろうに……。
しかし、ひかるのクラスの劇に、別のクラスの担任の旗野先生が出ると言うのは良いのかなぁ?
ところが、旗野先生の献身が、また新たな問題を生み出すことになってしまう。
意外と速度の遅い宇宙船だったらしく、まだ上空をうろうろしていたゾルダが、

ふと、モニターに、自分そっくりの姿をしたものが、子供にボコボコにされている様子が映っているのに気付いてしまったのである。
詳しいことは分からないが、自分がコケにされていると思い込んだゾルダ、怒り狂って一旦離れかけた地球に舞い戻って来てしまうのである。
無論、それは、怪人役に志願した旗野先生が、タケシ苦心のマスクを被って、正夫と芝居の稽古をしているところだった。

旗野「うーん、オトシゴ、少しは手加減しろよ」
正夫「へっへーっ」
旗野「どうだ、みんな、迫力あったろう?」
タケシ「タツノオトシゴ帰って来て良かったな」
進「うん」
正夫「あのな、お前たちの為でも月先生の為でもないんだぜ、俺はな、バットマンをぶっ倒すのが楽しみで来たんだからな」

進「わかってる」
ハルコ「オトシゴのほんとーの気持ち、分かってるわ!」
小学生らしからぬ「大人な」やりとりを交わす正夫たち。
なおもノリノリでリハーサルを続ける正夫と旗野先生。
ハルコ「熱演だわ」
タケシ「これでほかのみんなも来てくれればな」
タケシがつぶやくが、その、「ほかのみんな」も、芝居のことが気になったのか、いつの間にか彼らの周りに戻ってきていた。
が、正面から戻るのは照れ臭いので、最初に怪人役をやった男の子の「おい、みんな、バットマンをやっつけろ」と言う掛け声を合図に、みんなで旗野先生に襲い掛かるという挙に出て、なし崩し的に劇に復帰するのだった。

ひかる「良かったわぁ、バットマン、子供たちの為に頑張ってね」
さて、いよいよ学園創立際の日がやってきた。

ゾルダ、律儀にその日まで地球に留まっていたようで、わざわざその舞台を見に来る。
しかし、普通考えたら、稽古しているところにすぐ殴り込んで来そうなものだが……?
創立祭は講堂で行われており、あっという間に「かぐや姫」の番になる。
その肝心の芝居が最後の決闘シーン以外全然見れないというのはちょっと物足りない。
最初に書いたように、せっかくハルコちゃんがヒロインを務めていると言うのに。

それはさておき、物語終盤になって、ようやく旗野先生の出番となる。
進に呼ばれ、教室から舞台袖の控え室にやってきた旗野先生。
さりげなく、背後に6話でぶっ壊れた筈のロボット・ケイタの頭部が置いてある。
旗野「まーだっかなっと、まーだかなっ、うひひ……」
怪人に扮した旗野先生、目の前にゾルダが立っているのに気付くが、てっきり大きな姿見に自分の姿が映っているのだと思い込み、

鏡に自分の姿を映しているつもりで、色々とポーズを取っては見惚れていた。
その動きに合わせて、いちいち体を動かしてやっているゾルダ、割りと乗るタイプだったのかもしれない。
だが、最後にマスクを脱いでも、鏡の自分がそのままなのを見て、やっと勘違いに気付く。
旗野「あれ……うわっ」
もっとも、その直後、ゾルダの発した衝撃波を食らって失神してしまったので、本物の宇宙人を見たとまでは認識しなかったようである。

進「何してるんですか、急いで急いで」
と、そこへ舞台監督の進が入ってくるが、ゾルダを旗野先生だと思い込んで、その背中を押して舞台に押し出してしまう。

巫女さんのような格好をしたハルコちゃんの前に突き出され、まごつくゾルダ。
本来は着物姿だと思うが、子供用の着物を用意できず、巫女の衣装で間に合わせたのだろう。
ひかる「旗野先生、しっかり!」
あまりにタケシのマスクが本物そっくりだったので、反対側の袖から見ていたひかるですら、それがゾルダとは気付かないほどだった。
やがて正夫が出て来て、ハルコちゃんを庇うようにゾルダの前に立つ。
ハルコ「正夫君、助けて」
正夫「よし、怪人だろうと宇宙人だろうと束になってかかって来い!」

進「ほらぁ、舞台の真ん中へ、真ん中へだよ、ほらほら、あっちあっち」
訳が分からず突っ立ったままのゾルダを、段取りを忘れたのかと舞台袖から進が懸命に指示するが、ゾルダに通じる筈もない。

正夫「さっさとしな、旗野先生、こっちだよぉ……本気じゃないんだ、ごめん!」
見兼ねて、正夫が中央に引っ張っていき、そのまま反対側に放り投げてしまう。
当然、ゾルダは激怒して、

正夫「違う、違う、本気じゃなかったんだよーっ!」
旗野先生に謝ってるつもりの正夫の腹に思いっきり膝蹴りを入れるのだった。
その後も色々ハプニングが起きるが、ひかるがムーンライトリングでなんとかカバーする。
結局、ゾルダは何がしたいのか良く分からないまま、舞台の裏側に引っ込んでしまう。
ゾルダ「ぶぶぶぶぶ」
ひかる「お前は……ゾルダ!」
裏手で鉢合わせしたひかる、間近で見て、漸くそれが旗野先生ではなく、本物のゾルダだと気付く。
一方、入れ替わるように、控え室の旗野先生が目を覚まして慌てて舞台に飛び込んでくる。

で、舞台ではお芝居の戦いが、その裏では、ひかるとゾルダの本気の戦いが行われるという、視覚的にも楽しいシーンとなる。
そして、ひかるとゾルダの超能力合戦の余波が舞台にまで及んで思わぬ舞台効果を生むことになり、観客たちは拍手喝采。
ひかるとゾルダは控え室に戻って激しくどつき合う。

ひかるの、生足剥き出しの強烈な右蹴りがヒットする。
やっぱり、菊容子さん、アクション俳優としての素養があったんだね。
ま、主演女優が下手にアクションが出来たからこそ、スタッフもヒーロー路線にしようという愚かなことを考え付いたのかも知れないなぁ。
平和監視員に喧嘩を売るだけあってゾルダは強く、ひかるもピンチに陥るが、そこへパルが現れてひかるを助け、その超能力でゾルダの体を煙のように消してしまう。
その煙が舞台にまで押し寄せてくるが、役者たちは臨機応変に、
正夫「あ、あの煙は」
ハルコ「地球からの援軍です」
正夫「ロケットだ、ロケットが着いたんだ」
うん、と言うことは、ここは月なの? どう言う設定なのか今ひとつ分からない。

やがて、興奮した観客席の子供たちまで舞台に上がってきて、みんなで旗野先生をどつき回すと言う状況になる。
正夫「どうだ、お前がいくら強くてもみんなの力には勝てまい、ほら、さっさと消えろ」
正夫や子供たちの「帰れコール」にあわせて、

控え室で、もんどりうって苦しむゾルダの姿を映し出すのが、さすがのセンスの良さである。
やがてゾルダの姿は完全に消えるが、別に死んだ訳ではなく、宇宙船に戻って今度こそ本当に逃げて行くのだった。

ひかる「消えたわ」
バル「これでもう、二度とこの星には来ますまい」
舞台では、旗野先生がしっちゃかめっちゃかにされて追い返されたあと、正夫がハルコちゃんを肩車して舞台を練り歩くというアナーキーな状況になっていた。

校長「いやぁ、良くあそこまで稽古を積みました。子供たちばかりの力でも一心にやれば立派に実を結ぶ。いやぁ、良い勉強になりましたなぁ、教頭先生」
劇の内容に不満と懸念を抱いていた校長だったが、舞台が終わった後ではがらりと態度を変えて手放しで賞賛するのだった。
旗野先生も、バルも、ひかるも子供たちの頑張りに惜しみない拍手を送る中、しずしずと幕が下がり、同時にドラマもフィナーレとなる。
と言う訳で、宇宙人襲来と子供たちの芝居をうまく絡めた中々の佳作であった。
「魔女先生」の凄いところは、この秀逸なエピソードですら、全体のベスト10に入るか入らないかと言う位置にとどまってしまうことである。それだけ個々のエピソードのレベルが高いということなのだ。
ま、ベスト10と言っても、あくまで管理人の評価だけどね。
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