明智と奈津子の乗る車に仕掛けられた缶入りの時限爆弾のタイマーが刻々と時を刻んでいる。
明智さん、残り9秒になってやっと爆弾に気付くが、

次の瞬間、車は大爆発を起こし、激しく炎上する。
直前まで舗装された道路を走っていたのに、何故か工事中の造成地みたいなところに移動していることには目をつぶりましょう。
ただ、走っている時は
「44-90」だったナンバーが、文代さんたちが駆けつけた時には
「44-30」(しかも手書きっぽい)に変わっているのはどうかと思う。
もっと詳しく言うと、明智さんが乗ってる時はマツダ・ルーチェで、爆破の瞬間はトヨタのクラウン、そして文代さんたちが追い付いて炎上しているところを発見した時にはマーク2に変わっているらしい。
(註・車種については、今回も妄想大好き人間様のコメントを参考にさせて頂きました。ありがとうございます) 
明智を捜していた波越たちが炎上している車を発見するが、もう手の施しようがなかった。
文代「先生の靴だわ……」
嗅ぎ覚え、いや、見覚えのある靴を拾い上げ、青褪める文代さん。

小林「せんせーいっ!」
榊「奈津子さーんっ!」
若干、玉置浩二っぽい顔になって恋人の名を叫ぶ榊。

炎上する車の映像に、新聞記事の衝撃的な見出しが重なる。
爆死! ……記者が、笑いを取りに来ているようにも感じられるが。

一体何度目だ、と言う感じの明智さんのナイスガイな遺影に手を合わせる大沢、三田村、青木たち。
ちゃんと波越たちも喪服を着てかしこまっている。

大沢「私たちの恥ずかしい古傷の為に、尊い明智さんの命まで奪ってしまって……申し訳ありませんでした」
青木「全く、明智さんは鋭かったからな」
三田村「惜しい人を亡くしました」
波越「全くです。もう、こんな名探偵は二度と現れないでしょう。私の良き友であり、ぐず、良きライバルでした」
明智がいないのを良いことに、勝手に明智の「ライバル」になっちゃう波越警部、

その後、
ブプーップゥッ!と、大きな音を立てて鼻を噛むと言う、お約束のギャグをかますのであった。
大沢「これで事件は迷宮入りですか」
青木「いや、犯人は川井奈津子に決まってるじゃないか」
三田村「そう、あの女が明智さんを巻き添えにして自殺した……」
波越「ま、考えられるセンですな」
三人の、都合の良い解釈を否定はしない波越警部。
波越「ところで、皆さんにこんな招待状は来てませんか? 来る10日、午後1時、富士北市○○の土蔵において、亡き志津枝の霊を呼び、岩崎三郎の供養、鶴田氏、ケンゾー氏殺害と、明智・川井奈津子の爆死の真相を告げさせたく、ここにご招待申し上げます……南志津枝、父・彦次郎」
波越が筆で書かれた招待状を読み上げると、三人も同じ物を受け取ったことを認める。
無論、三人はそんなバカバカしい招待に応じる義理はないと言うが、

遺族とも言うべき小林少年と文代さんに、「明智先生の何よりの供養なんです」「ぜひ揃ってご参加下さい」と、頭を下げて頼まれると、行かない訳にはいかなくなるのだった。
こうして、その10日の日、全ての事件の発端となった忌まわしい土蔵において、事件の真相が語られることになる……。要するに、ここから解決編になるのです。

約束の日、車を連ねて関係者が富士北市の土蔵にやってくる。
紋付袴を着た南老人がにこやかに出迎えるのだが、これが
明智さんの変装だと、誰が信じられるだろう?
さすがに、背丈を縮めるのは無理なんじゃないかと……

大沢たちが土蔵に入ると、既に祭壇が設けられ、巫女の衣装を付けた霊媒が、いかにも適当な感じで唸っていた。

その後ろ姿を見て、大沢たちはあまりに志津枝に似ているので気味悪がる。
青木「志津枝じゃないのか?」
大沢「バカな、落ち着けよ」
やがて、南老人は霊媒に志津枝の霊が乗り移ったと言い、まず、21年前の事件について語らせる。
霊媒「私と岩崎三郎さんは霊媒仲間の目を盗んで愛し合うようになりました……」
偶然そのことを知った杉村、鶴田、大沢、青木、三田村、ケンゾーの6人は、嫉妬に狂って岩崎を呼び出して、集団で殴り殺してしまったと、志津枝の霊は言う。
そして、その際、誰かが岩崎に指を噛み切られたらしい。問題のあの小指のミイラは、その時に食いちぎられたものだったのだ。
青木「デタラメだ、いい加減なこと言うな!」
波越「お静かに願います」
思わず青木が立ち上がって怒鳴るが、波越に素っ気なく注意される。
霊媒「杉本さんたちは私を女神のように思ってくれていましたから、私が三郎さんに汚されたと思い込んだのです。6人はそれぞれ遺書を書き、一緒に死のうと誓い合いました。でも、約束を果たしたのは杉村さんひとりでした……」
この、みんなで遺書を書いて云々と言うのは、明智さんの推理を霊媒が話しているのだが、明智さん、どうやってそんなことを知ったのだろう? なお、原作では、志津枝のイトコでもあり、死病におかされていた杉村がすすんで自殺をして、他のものの罪を背負ったと言うことになっている。

途中から、老人が霊媒の体を支えて、その後の経緯を語り出す。
その後、鶴田を除く4人がそれぞれの分野で成功したこと、最も優秀だった鶴田だけが零落したこと。
南老人「そして、昔の仲間の成功を妬み、強請りをかけたんだな……思わぬ大金を出されて、味を占めた鶴田さんはその後、度々甘い汁を吸ったんだが、その時既に助かる見込みのない胃癌におかされていた……」
そして、志津枝の娘・奈津子が鶴田を訪ねてきたこと、鶴田が本当のことを奈津子に話そうとして森林公園にみんなを集めようとしたこと、真犯人によって殺されてしまったこと、など。
青木「作り話はやめてくれ!」
三田村「おい、青木、終わりまで聞こうよ」
南老人「犯人は、奈津子の復讐に見せかけるために、五重塔の写真を置き、志津枝が可愛がっていた猫まで使った……ところがケンゾーさんだけは、真犯人の正体に勘付いて怒鳴り込みました。犯人はその夜、ケンゾーさんを殺し、遊園地に運び込んだ……愛人の草加礼子さんも犯人探しに必死で、明智探偵に相談しようとしました。犯人はそうされては足が付くと礼子さんまで殺すことになったんです」
前述した礼子殺しの動機について老人が、いや、明智が説明しているが、やっぱりなんとなく釈然としない。
礼子が何か重要な手掛かりに気付いた、とかなら分かるんだけどね。
南老人「志津枝、この三人の中に犯人がいるんだね、教えておくれ」

老人に促され、霊媒が振り向いて、その素顔を三人に示す。
そう、果たして、それは死んだ筈の奈津子だった。
三人と榊は驚愕するが、文代さんたちはニヤニヤしている。言うまでもなく、彼らは早い段階で明智と奈津子が生きていることを知っていたのだ(恋人の榊にまで秘密にしていたのは、良く考えたらひでーよな)。
大沢「川井くん!」
榊「奈津子さん! 無事だったの」
奈津子「犯人が分かったの」
榊「誰?」

奈津子、スッと右手を伸ばし、ある人物の顔を指差す……。

ゲッ、まさか、モロボシダンが犯人だったとは……と思いきや、

最後に指が止まったのは、やはり大沢であった。
奈津子「大沢先生、真犯人はあなたです!」 明智を差し置いて、名探偵の決め台詞を放ってしまう奈津子さん。
後年の「2時間サスペンスの女王」(安い称号だなぁ)の片鱗が窺えるシーンである。
しかし、実際、明智が別人に変装して指摘することはあっても、こんな風に他の人が犯人を指摘すると言うのは、美女シリーズ25作の中でもこれだけじゃないかなぁ?
大沢「バカな、私は殺されかかったんだよ」
奈津子「私はケンゾーさんが先生を訪ねて来られたのを知っています。ケンゾーさんが殺された夜、『あの写真は君の仕業だっ』って、先生をなじっているケンゾーさんの姿を私は見てるんです!」
え~、そう言うことはもっと早く言ってよ~!(by一同)
ただ、これも、なんでケンゾーだけがそれに気付いたのか、一切説明がないと言う欠点がある。
大沢はあくまで否定していたが、その時、妻のかずえが土蔵に入ってくる。

大沢「お前、どうしてこんなところに?」
かずえ「あなたが来いってお電話下さったんじゃありませんか」
大沢「そんな、私は電話なんか……」
かずえ「だって、あなたの代理の者だと仰ってましたけど」
大沢「誰かが私たちを陥れようとしてるんだ!」

南老人「人を陥れようとしたのはあなたじゃありませんか? 細工が過ぎましたね。奈津子を抱き込むのに失敗すると、自分でぶら下がっていかにも教われたように見せた。そればかりか、奥さんとの共謀を悟られない為に、奈津子さんとの間を、奥さんがいかにも嫉妬しているように見せ掛けた……」
大沢「知らん、私は知らん」
南老人「じゃあ、これを聞いて下さい」
老人はやれやれと言った顔で、テープレコーダーを取り出して再生ボタンを押す。
流れてきたのは文代さんが受けた、奈津子を名乗る女からの電話だった。
それはどう聞いても、奈津子の声ではなく……、

南老人「この電話の声紋、奥さんのと一致しました」
かずえ「嘘よ、そんなこと! 作り話はやめて下さい!」
これだけ明らかな物証を示されても、真犯人たちは諦めない。
美女シリーズの犯人の中でも、かなりの粘り腰であったが、名探偵としてはこういう人たちの方がやりがいがあるんだろうね。

南老人「これは礼子さんが掴んでいたものですが、調べてみると、カツラの毛でした。しかしその中に奥さんの髪の毛が2本、混じっておりました」
かずえ「私の髪の毛? いい加減なことばっかり仰るのね、私の髪の毛、あなたが持ってらっしゃる訳ないじゃありませんの!」
いや、そう言う問題じゃなくて……、今この場で警察に髪の毛を採取されて照合したら、一発でアウトだってことに気付けよ。
南老人「如何にもご主人との仲が不和のように見せ掛ける為に、お酒を飲んで私の事務所にいらした時、その時、これを頂いたんですが……」
かずえ「あなた一体、誰?」 ここで、明智さんが待ちに待っていた台詞をかずえが言ってくれる。

このタイミングで、老人の声が明智さんの声に変わる。
明智「まだ、お分かりになりませんか?」

と、明智の横の引き戸が開き、手拭を首に巻いた本物の南老人が現れる。
大沢「ど、どっちが本物だ?」
南老人「私が祖父の彦次郎だ」
大沢「じゃ、お前は?」
明智「ふっふふふふっ」
明智さん、付け髭や付け眉毛をひとつひとつ外して行く。

最後は、今福さんが、逆に黒いカツラを付けている状態になって、

恒例のベリベリベリタイムとなる。

精巧なマスクの下から出て来たのは、当然、明智さんの鋭い眼光であった。

大沢「あ、明智!」
かずえ「あ、あの時……」

ここで、かずえがやっと、いつ髪の毛を採取されたのかを知る。
彼女が事務所を訪ね、明智にわざと甘えて見せた時、明智は彼女の髪を撫でるふりをしながら、その髪の毛を抜き取っていたのだ。

それを挟んでから、

ジャーン! と言う感じに着物を脱いで、一瞬でスーツ姿になる明智さん。
波越「明智君は、爆発寸前に車から逃げ出していたんですよ」

助手席側から、奈津子に続いて華麗に飛び降りる明智さん。
言うまでもなく、どちらもスタントである。

こうして、間一髪、二人は爆発から逃れていたのだ。
しかし、ここは天知茂先生じゃないとはっきり顔が見えちゃってるね。
ただ、だったら文代さんたちが駆けつけた時には、二人の姿も見えた筈なんだけどね。

明智「鶴田の出現により、ご主人の出世コースが邪魔されては大変だと、あなたは大沢さんに協力して、事件の犯人が如何にも、岩崎や志津枝の身内の復讐、つまり川井奈津子に押し付けようとしていた。格子柄のワンピースやクレゾールのニオイを使いましたね」
鶴田殺しの様子が再現される。
二人がかりで鶴田を殺して死体を吊るし、大沢は一足先に立ち去る。
かずえはその場に残り、文代さんが死体を発見した時に、わざわざバスケットに入れて連れてきていた黒いニャンコの鳴き声を聞かせたのだ。
しかし、いくら志津枝の復讐と思わせたいからって、猫の鳴き声を聞かせる必要はなかっただろう。それに、本物の猫を連れて行く必要もなかった筈だ。鳴き声をテープで録音して、その場で再生すれば良かったのだ。
第一、気まぐれなニャンコが、人間の都合良く鳴いてくれるとは到底思えない。

明智「そしてわざわざ、クレゾールのニオイをふりかけて、西口からタクシーを拾った。ふはっ、看護婦でも私用で外出するのに、クレゾールのニオイはさせないでしょう。おまけに、東口からもうひとり、格子柄のワンピースを着た奈津子さんタクシーに乗ったと聞いた時、私にはその罠の存在がハッキリしたんです。猫の小細工もかえって失敗でしたね」

明智の言葉に、文代さんがぶら下げていたバスケットを開いて見せる。
中には、真っ黒なニャンコが入っていた。
文代「ペットホテルの聞き込みで、この黒猫を奥さんから預っていたことが分かったんです」
つまり彼らは事件の為にわざわざ黒猫を飼い、普段はペットホテルに放り込んでいたのだろう。
てめえらに猫を飼う資格はねえ! 明智「そしてご主人の地位大事さに、自ら恐ろしい殺人まで犯してしまいましたね」
当然、礼子を絞め殺したのは、チェックのワンピースを着て奈津子に化けたかずえだったのだ。
最後は、明智と奈津子にニセ電話をかけておびきだし、爆弾で一緒に殺そうと企んだ訳だ。
で、ここまで詳細に推理されても、大沢は崩れないのである。ここまでしぶとい犯人も稀である。
やむなく、明智は例の小指のミイラを取り出して見せてから、「失礼!」と言って、大沢の左手首を掴み、その小指をボキッとへし折ってしまう。
大沢「うぎゃーっ! そっち本物ーっ!」 明智「あれ?」
うっかり、右手と左手を間違えて、健康な大沢の小指を毟り取ってしまったお茶目な明智さんであった。
……じゃなくて、それは、精巧な義指だったのだ。

明智「21年前、岩崎三郎に噛み切られた痛みを忘れた訳ではないでしょう」
……しかし、だからってそれが今度の殺人の証拠にはならないよね。

青木「確かに、岩崎を殺したのはグループの6人だ」
三田村「しかし、もう時効の筈です」
明智「そう、お二人はもう罪に問われることはありません。しかし、犯した罪は永久にあなた方の心の中に残る筈です……」
明智の重い言葉に、神妙な顔になる青木と三田村。

大沢「かずえ、もう終わりだね。教授の椅子が目の前にあった。鶴田が強請りに現れた時、何もかもダメになってしまう。名誉と欲に負けたんだ」
かずえ「私が悪かったのよ、あなたに偉くなって貰おうと、そればっかり考えてたの」
大沢「かずえーっ!」
かずえ「あなたぁっ」
泣きながら抱き合う夫婦。
でも、条件的には青木、三田村、ケンゾーだって同じだったのに、大沢だけこういう極端な行動に出たと言うのはやや不自然にも感じる。鶴田はもう長くない命だったし、仮に奈津子がそのことを知ったとしても、彼女がそれを週刊誌に売ったりするような女性でないことは、大沢が良く知っていただろう。

明智の声「この忌まわしい事件も終わった、そして残ったものは名誉欲のために善悪の見境をなくした哀れな夫婦の姿だけであった……」
大沢夫妻が逮捕された後、明智たちは今度の事件を象徴する五重塔の前にやってくる。

明智「奈津子さん、この五重塔はね、何百年もの間、色んな事件を見てはみんな忘れて立ってるんだ。あなたも過去を忘れること。幸せにね」
明智のはなむけの言葉に、榊の顔を見て力強く頷く奈津子さん。
南老人「みなさん、ほんとにありがとうございました」
明智「あ、いいえ、じゃ、行こうか」
ここで、テーマ曲がかかり、EDクレジットが開始される。

クレジットの流れる中、明智さんたちは妙国寺の石段を降り、下に停めてあったそれぞれの車に乗り込み、出発するのだった。
……以上、ヤケクソに長くなってしまったが、「五重塔の美女」のレビュー、これにて終了。
改めて振り返ると、原作がつまらない割に、なかなか健闘している作品ではなかっただろうか。
トリックらしいトリックがないのが玉に瑕だが。
ところで、良く考えたら、このタイトルってあんまり内容と合ってなかったような……「土蔵の中の美女」の方がふさわしかった気がする。
編集後記 改めて読むと、よくこんな無味乾燥な2時間サスペンスの詳細なレビューを(二回も)書いたものだと感心する。
文章はともかく、一部の画像の調整を行うべきだったかもしれないが、面倒なのでやめにした。
なお、飛ばした「エマニエルの美女」と「魅せられた美女」については、いずれ大幅に書き直すつもりである。
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