第29話「瞬間移動した死体~元人気女優誘拐事件」(2006年7月15日)
冒頭から、女優の若尾早子が誘拐されたという事件の緊急入電が入る。
雷が慌てて会議室(?)の高村のところへ飛んでくるが、高村はテーブルに腰掛けて、DVDのケースを見ながら何事か物思いに耽っていた。

雷「高村さん、急ぎますよ」
高村「ノォーッ!」
雷「どうしたんですか?」
高村「この誘拐された若尾早子ってのは、僕の青春時代のアイドルだったんだよ」
雷「へーっ、聞いたことないですけど」
高村「この『赤坂の天使』って見たことない? 彼女、この一本で一世を風靡したんだよ」

雷「ふぅーん、他にはどんな映画に出てるんですか?」

高村「えっ? ないよ、これだけだよ……」
雷の無邪気な質問に、高村がくぐもった声で即答する。
雷、カメラの方を向いて「えっ、一発屋ってこと?」とつぶやく。
なんてことを言ってた小出さんが、このまま一発屋で終わらないことを切に祈るものである。
余計なお世話でしたか?
それはさておき、酒でも飲まなきゃやってられないとぼやく高村の腕にぶら下がるようにして、強引に連れて行く雷が、高村の実の娘みたいで可愛いのである!

川津「5000万円、用意しました」
高村「川津さん、犯人に心当たりはありませんか」
川津「いや、人に恨みを買うようなことは……」
夜、バンの中で早子のマネージャー川津隆介から身代金の入ったケースを預かっている雷と高村。
これから、二人は犯人の指定してきた身代金の受け取り場所に向かうところなのである。

雷「それにしても、大胆不敵な犯人ですよね、受け渡しに警察官を使うなんて」
高村「受け渡し場所もそうだ、わざわざ逃げ場のない屋上を選ぶなんて、これは僕たちに対するチャレンジだな」
雷「ラジコンヘリを使った手口がかつてニューヨークでありましたよね」
二人は用心しながら問題の屋上へ上がるが、犯人からの指示もアクションはまったくなく、屋上の片隅に縛られて白い布を被せられていた早子を簡単に発見・保護することが出来た。

高村「おっほっほっ」
雷「高村さん、若尾さんです」
高村「分かってますよ、おっほーっ」
憧れの芸能人を前にして、場所柄もわきまえず興奮して奇声を発する高村はほっといて、雷が急いで早子の拘束を解いて自由にする。
雷「若尾さんですよね、犯人は何処ですか」
早子「私、何がなんだか分からなくて」
高村「屋上にはいないようですね」

早子「ありがとうございます、ありがとうございます!」
感極まって、いきなり高村の胸に飛び込んで泣きじゃくる早子。
高村「いや、もう、僕たちが来たからには大丈夫ですから」
雷「高村さん、いつまで抱き合ってるんですか?」
醒めた目で、高村の腕をポンポン叩いて注意する雷が、早子に焼餅焼いてるみたいで可愛いのである!
能天気な高村、人質が無事だったんだから犯人なんかほっとけばいいと無責任なことを言い、さらには早子とツーショット写真を撮ろうとするなどやりたい放題。
ところが、早子が突然「ああーっ!」と叫んだかと思うと、反対側の手摺に駆け寄り、向かいのマンションの一室を覗き込む。

明かりのついたその部屋に、ジャージを着た髪の長い男が立っていた。

雷「どうしました?」
早子「犯人です!」
続いてスーツ姿の男性が部屋に入ってくるが、長髪の男にナイフで首を切りつけられてしまう。スーツの男性はその場に倒れ、犯人が部屋から逃げ去ると同時に部屋が真っ暗になる。
雷たちは、殺害の瞬間を目撃してしまったのである。
当然、三人はすぐその部屋に急行する。マンションの入り口にはロックがかかっていたが、他ならぬ早子がそのマンションに住んでいるということで鍵を開け、問題の部屋に突入する。
だが、

早子「船越さん!」
高村「あれ、どういうこと?」
雷「血痕もありませんね」
その部屋……早子の部屋なのだが、そこには不審者も死体も、血痕すら残っていなかった。
だが、ちゃんと高村がケータイで写真を撮っており、夢や幻でないことは確かだった。
早子、べったりとその場に膝を突く。

雷「さっき誰かの名前を呼ばれましたよね」
早子「はい、船越さんです、私の恋人なんです」
高村「船越さんて、『赤坂の天使』で共演された船越誠二さんですか?」
早子「はい!」

雷「俳優さんなんだ、有名な人ですか」
高村「いやー、有名じゃない、草刈正雄二世で売り出したけどね、全然売れなかった、ダメだよ」

雷「なんか、私情が挟まってるような?」
高村の楽屋落ち的台詞に小首を傾げる雷が可愛いのである!
間を置かず、部屋にマネージャーの川津が駆け込んできて、早子の無事を喜ぶ。
早子によると、最近、得体の知れないストーカーにつけまわされており、しかもその男は長髪だったらしい。
ここで、雷がマンションを封鎖し、全ての部屋を綿密に調べていたら、事件はあっさり解決していたと思われるが、何故かそう言うことはした形跡は見られない。
また、即座に防犯カメラをチェックしていれば、犯人も死体もまだマンションの中にあることがはっきりしただろうに、雷はそれも怠っている。
それはさておき、翌日、雑草の生い茂る河原で、船越の他殺死体が発見される。
ナイフのようなもので首を切られたことによる失血死で、昨夜、三人が目撃した事実と符合する。

柴田「殺害後、ここの場所に運び込まれたと推測されます。なお、死亡推定時刻は昨夜9時あたりです」
高村「昨夜9時って言ったら」
雷「ええ、私たちが屋上から目撃していた時間です。つまり、若尾さんのマンションで殺された船越さんはその後でこの河原に連れて来られたことになります」

高村「僕たちが現場に行く間に死体を運び出し、血痕まで処理するなんてインポッシブルだよ」
雷「瞬間移動する死体か……」
柴田「ああーっ、これはっ!」
と、背後で柴田のけたたましい叫び声が上がる。

二人が駆けつけると、すぐ近くの草むらに胸にナイフを付きたてた男性の死体が転がっていた。

高村「髪を伸ばした……」
雷「霞のジョー、ですね」
違います。 高村「黒ずくめの」
雷「長髪の男、ですね」
その後の調べで、長髪の男の名前は増村幸造、早子のストーカーであったことが判明する。
高村「若尾さんにつきまとうストーカーが嫉妬のあまり恋人を殺害、自らも命を絶った」
雷「つまり、若尾さんに恋人殺しを見せ付けるための、狂言誘拐だった。でも、どうして私たち警察にまで殺人を目撃させたんでしょう」
高村「警察に対する挑戦だよ」
高村はそんな単純な図式であっさり事件を終わらせてしまおうとするが、雷は「瞬間移動する死体はどうなったんです?」と疑義を呈する。
ところで、今回のケースを「狂言誘拐」と言うのはちょっとおかしいのでは? 確かに、後に早子と川津による狂言誘拐だったと分かるのだが、この時点では、二人は増村の単独犯行と見ているのだからね。
それから、高村は、恋人を殺すところを早子に見せる為、とその目的を説明しているが、ストーカーが、意中の女性を誘拐したら、もっと他にすることがあると思うんですけどねえ……。
それに、意中の女性を殺した後なら分かるが、その恋人を殺した後で自殺ってどう考えてもおかしいだろ。

雷「ここが私たちがいた屋上です、そしてここが船越さん殺害が起きた筈の、若尾さんのマンション、ここから三人で殺人を見ました。エントランスに設置されたカメラには若尾さんを訪れる船越さんの映像が記録されています。勿論、駆け込む私たちも映っていました。でもその間に、誰もこの建物から出た人はいないんです」
雷の指摘に対し、高村はヤケになったのか、
高村「ああ、分かった、容疑者は透明人間になれたんだよ」
と、刑事にあるまじきふざけた発言をする。
が、雷は冷静に、「百万歩譲って透明人間だったとしても、被害者まで透明にはなれませんよ」と反論する。
雷「もうひとつあります。私たちが現場に入った時、部屋は暗かった。若尾さんが電気をつけたの覚えてますか」
高村「うん、どうした、それが」
雷「慌ててる筈の犯人はどうしてわざわざ電気を消してから逃げたんでしょうか?」
二人がもう一度マンションに行くと、その前で早子がたくさんのマスコミ関係者に囲まれて取材を受けていた。
船越の死を大袈裟に悲しんで見せたかと思えば、

早子「本日、ドリマックス映画の会長とお会いして正式決定いたしました。タイトルは『新・赤坂の天使』!」
誇らしげに新作映画の発表をする早子。
遠くから見ていた雷が指摘したように、とても恋人が殺された直後のようには見えなかった。

高村「いやぁ、ほんとに美しいなぁ」
早子の部屋に上がり、「一本でも女優」と言う、最低のタイトルの著書を手にとって感嘆の声を放っている高村。
雷、「赤坂の天使」のDVDを手に取ると、
雷「誘拐犯のプンタと、人質になった看護婦の睦月、二人が落ちた禁断の愛の世界、二人の炎は赤坂の街を焼き尽くすのだった。……パニック映画ですか?」
高村「え、何を言ってるんだよ、ハンカチが5、6枚必要な悲しい恋物語なんだから」

雷「ところでテレビが見当たらないんですけど、作品をご覧にはならないんですか」
部屋を見回していた雷、早子に素朴な疑問をぶつける。
早子「いいえ、映画は大画面って言うのが私のポリシーなの」
早子、そう答えてリモコンを押すと、いきなり川津が入ってきて、あっという間にプロジェクターとスクリーンをセットする。
その後、雷が、さっきの早子の態度は演技だったのではないかと正面から尋ねると、早子はたちまち機嫌を悪くして奥に引っ込んでしまう。
雷、代わりに川津から、船越のプロフィール写真を貰うことにする。
川津の部屋は、早子の部屋の真下だった。

雷「なんか、ハイテクな感じですねえ」
川津「まあ昔、そういう会社に勤めてましたからね。若尾は機械音痴でね、代わりを私がやっている訳です」
川津は元々早子の大ファンで、是非もう一度表舞台に返り咲いて貰いたいと押し掛けてマネージャーになったのだと言う。
雷、部屋の窓をしきりに気にしていたが、

高村「どうした、銭形君?」
雷「よどむ、悪の天気」
雷は急いで警視庁に戻ると、柴田に協力して貰ってある実験を行う。

雷「見ててください」
雷がスイッチを入れると、

一瞬でガラスが曇りガラスになってしまう。

高村「どういうこと?」
雷「これは瞬間調光ガラスです。電圧の変化で一瞬にして普通のガラスが曇りガラスになるんです」
柴田「二枚の合わせガラスの間に液晶シートが挟んであり、それが電圧の変化に反応するんです」
雷、川津にプリントアウトして貰ったプロフィールを裏返しにすると、
雷「私たちの見ていた船越さんはこっちの船越さんだったんです」
高村「どういうこと?」

雷「謎は解けたよ、ワトソン君!」
ここから解決編となる。
夜、雷は再び早子をあの屋上に呼び出す。

雷「若尾早子さん、今回の事件の犯人は、あなたとマネージャーの川津さんです」
早子「面白いこと言うわね、私は事件の被害者なのよ」
雷「いいえ、あなたは被害者を見事に演じたんです。殺人はあなたの部屋ではなく下の事務所で起こっていた。若尾さん誘拐事件自体、あなたたちの狂言だったんです。あなたと川津さんは理由をつけて船越さんを呼び出した。そして黒ずくめの格好をして長髪のカツラをつけた川津さんが船越さんを殺害したのです」

早子「あなたも見たでしょう、殺人は私の部屋で起きたのよ」
雷「あれっ、あれはなーんだっ?」
不意に、雷が向かいのマンションを指差し、早子の注意を引く。
早子が思わず振り向くと、事件の時と同じように、早子の部屋に怪しげな男がいて、縛られた川津にナイフを振り下ろそうとしているではないか。

早子が急いで自分の部屋に駆け込むが、そこには誰の姿もなく、代わりにプロジェクター用の大きなスクリーンが窓際にかけてあった。
早子「川津君? ……何なのこれは?」
ここで雷のお仕置きが発動する。
早子、煙を口から吹いてから毅然として立ち上がり、

早子「顔だけはやめて、私、女優なんだから」

続いて、不審者に化けた高村と柴田、そして手錠を掛けられた川津が現れる。
雷「私たちが見たのは、殺人の実況中継だったんですね。船越さんの殺害はビデオカメラで撮影されていたんです。その映像はパソコンから高速回線を使って、若尾さんの部屋のプロジェクターへと転送された。
映写は恐らく、タイマーで仕込まれていたのでしょう。あなたの部屋の窓は瞬間調光ガラスでした。曇りガラスにした状態をスクリーンとして利用したんです。私たちを呼んだのは、事件の目撃者に仕立て上げる為でした。川津さんは船越さんを殺害した後、私たちより一足先に若尾さんの部屋に行った。そして証拠となる曇りガラスを普通のガラスにスイッチし、プロジェクターを元の位置に戻しておいたのです」
雷は理路整然と説明するが、太字の部分が少し引っ掛かった。プロジェクターの側にタイマーをかけておくと言うことは、川津の部屋における船越殺害もその時間にきっちり合わせて行わなければならない訳で、船越が少しでも時間に遅れていたら、全てパーになっていたではないか。
それよりも、雷たちが目撃する以前に、既に船越を殺しておき、その録画映像を流した方がより確実に犯行現場を二人に見せることが出来たのではないだろうか。
何もリアルタイムで見せる必要はないんだから。
で、船越はその夜、川津の死体を地下駐車場から運び出し、河原に捨て、「そして増村さんを殺害して……」と、雷はこともなげに言うのだが、そのストーカー増村をどうやってそこに呼び出して、どうやって殺したのか、その説明がすっぽり欠落しているのはミステリーとして落第であろう。
そして、前述したように、事件の夜、雷がマンションを封鎖していたら、川津が死体を運び出すことも出来なかった訳で、ある意味、雷もこのトリックの共犯者といえるのではないだろうか。

雷「元々映像機器メーカーにいた川津さんならではのアイディアですね」
早子「全部、あなたの想像じゃない。証拠がないわ」
柴田「事務所のカーペットからルミノール反応、血液型も被害者のものと一致しました」
川津「どうして分かったんですか」
雷「被害者の首にあった傷です。高村さんの撮影した写真では、被害者は首の右側から切られています。でも、実際の死体の傷は、首の左側にあったんです。私たちは映画をスクリーンの裏から見ていたんです。プロジェクターに投射された段階で映像が左右反対になっていた。初歩的なミスですね」
高村「映像を投射するには部屋を暗くしなくてはいけない。若尾さんの部屋の電気は犯人が消したのではなく」
雷「最初から消えていたんです」

観念した早子、スクリーンに映し出された「赤坂の天使」のラストシーンと全く同じ台詞を言いながら、ナイフを自分の胸に突き立てて自殺しようとするが、雷が機転を利かして「カット」と叫んだ為、反射的に動きを止めてしまう。

早子「女優のサガねえ」
結局、高村、憧れの女優の手に自ら手錠を掛けることになる。
高村「演技をする場所を間違ったようですね」
再び有名になる為に二人の人間を殺した女優を、雷の悲しそうな瞳が見詰めていた……。
ちなみに、早子が恋人の船越を殺したのは、
「やわたっ!」の掛け声がなんかムカついたから……ではなく、借金まみれでヒモのようになっていた船越が邪魔になったからであった。
以上、犯人側の行動も、雷の捜査手法もツッコミだらけで、はっきり言って駄作であった。
トリックも、もろにハイテク機器を駆使した無味乾燥なもので、こういうのって謎解きされてもちっとも楽しくないんだよね。
たとえば、川津の部屋で起きた殺人を、若尾の部屋で起きたように雷たちに錯覚させるとか、そう言う心理的なトリックの方が遥かに面白いんだよねー。
あるいは、同じハイテクでも、全て早子ひとりで行って(増村に化けて船越を殺す)、その映像を遠隔操作で投射して雷たちと一緒に目撃することで、鉄壁のアリバイを作るとかね。
うーむ、やっぱりスルーしときゃ良かった。
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