第14回「これが今の私です」(1985年7月23日)
前回のラスト、実父・剛造の実業家としての恐ろしい一面を覘いてしまったしのぶは、千鶴子が自宅に帰りやすくなるようにと、妹の耐子にも内緒で、置き手紙を残して家を出て行ってしまう。
翌朝、その置き手紙を読んでいる剛造たち。
千鶴子に続いてしのぶまで家出してしまったことは、剛造にとってもショッキングな出来事だった。
その頃、しのぶは、家を出てすぐに千鶴子たちにとっ捕まり、千鶴子から説教されていた。

千鶴子「ぐれるってのはね、全部のものにはぐれちまうことなんだ。そのつらさをあんたに思い知らせてやる。あんたさえ、大丸家にあらわれなきゃ、あたしもこうなりゃしなかったんだ! あんたも私と同じようにぐれさせてやる!」
不良の大先輩のようなでかい顔でしのぶに迫る千鶴子であったが、自分だって、令嬢から不良にクラスチェンジしてから、せいぜい二週間くらいしか経ってない新米なんだけどね。
もっとも、俳優としては既にモナリザで不良少女役の頂点を極めた感のある伊藤さんなので、とても成り立ての不良には見えず、下手をすると不良のベテランである猛たちより貫禄があるのだった。
しのぶ「私は千鶴子さんが哀れでなりません、千鶴子さんは家を追われたつらさを、不良になって紛らわしてらっしゃる。その気持ちは良く分かります。でも、もう家にお帰りください、私は今日限り、いなくなります。お父さんはどんなにお怒りになっていても、雅人さんのお口添えさえあれば、きっといつか受け入れてくださいます」
それに対し、しのぶはいつものように腹立たしいほど優等生的な発言で応戦するが、千鶴子はその頬を音高く引っ叩くと、

千鶴子「あんな家とは縁切りさ、だいたい今の言い草はなんだい? 不良の気持ちが分かるってえ? ふん、笑わせるんじゃねえよ、世間から白い目で見られて生きるのがどんなにつらいか、不良でもないあんたに不良の気持ちが分かってたまるかよっ!」
再び、10年くらい不良をやってきた大スケバンのような偉そうなことを言うのだった。
これには、背後で聞いていた猛たちも
(いや、お前もつい最近不良になったばっかやん……)と、控え目なツッコミを心の中で入れていたと言う。
それに、「つらい」「つらい」と言うけど、千鶴子は家を飛び出してから一週間程度で猛たち鬼神組の仲間に入ってからは、割りと楽しく遊び暮らしているようにしか見えず、いまひとつ説得力がないんだよね。
ま、あのド派手メイク(今回から、多少地味になっている……)で街中をひとりで歩いて、通行人から矢のような白い視線を浴びて、死ぬほど恥ずかしかったことは推測できるが、特につらい目に遭ったという描写はなかったしね。
猛たちがしのぶを連れて行こうとするが、当然、しのぶは全力で逃げようとする。

しのぶを追いかけて、下っ端たちが歩道橋の太い柱の向こうに消えるが、

次の瞬間、何者かにぶっ飛ばされて面白い格好で戻ってくる。

しのぶを守るように出て来たのは、いささかマンネリの感じもするが、神出鬼没の路男であった。

猛「路男、なにしにきやがった?」
路男「きぃまってるじゃねえか、今日こそは、千鶴子を連れていくためよ。猛、タイマンで決めようじゃねえか」
また、タイマンですか……。
君たちの問題解決手段の進歩のなさには、先生、ほとほとがっかりです!(誰だよ?)
と言う訳で、千鶴子の肉体を賭けて「タイマンファイトーッ! レディーゴーッ!」となるかと思いきや、
千鶴子「やめて、私はあんたの女じゃないんだ、勝手に決めるんじゃないよ!」 路男「……」
猛「……」
まさかの「賞品」に拒否されて、宙ぶらりんになる身勝手な男子たちのハート。
猛「頼む、やらせてくれ! 男と女、先に惚れたと言った方が負けだが、俺はお前に惚れた、誰にも渡したくねえ」 マヤ(真顔で何を言うとるんだ、コイツは?)
猛、不良とは思えない真剣な眼差しで千鶴子に嘆願する。
千鶴子も溜息交じりに、「そんなに言うなら、好きなようにしな」と、OKを出す。
にしても、
「先に惚れたと言ったら負け」って、どこのローカルルールなんですか?
そもそも恋愛に勝ち負けってあるんですか?
などと疑問はつきませんが、キリがないので話を進めましょう。
互いにナイフを持って斬り合う、アメリカンなタイマンとなる。
が、過去の何度かの戦いで路男の方が強いことははっきりしており、今回も、それを実証するように、路男が有利に戦いを進め、街路樹の根っこに猛を追い詰める。
本気で猛にナイフを突き立てようとする路男だったが、咄嗟にマヤが投げたチェーンだかネックレスだかが路男の背中を痛撃する。

その一瞬の隙を衝いて、やや面白い顔になりながら、

猛「くうっ!」
逆に、路男の腹に深々とナイフを突き刺す猛。

路男「ぐおっ!」
さすがの路男も、これにはびっくり。
だが、ちょうどそこへパトカーのサイレンが近付いてきたので、猛たちは逃げ出し、路男も傷付いた体でなんとか起き上がり、しのぶをバイクに乗せてその場から逃走する。
二人は紅葉坂教会に駆け込み、結局、路男は若山牧師の手で病院に担ぎ込まれる。
若山牧師の説教好きは異常で、ストレッチャーで病院の廊下を運ばれていく路男に、

若山「お前の負けだ。その猛と言う男は千鶴子さんの為に必死で戦った、お前は自分ひとりのために戦った、人間自分ひとりのために……(以下略)」
などと、訳の分からないことを滔々と語り倒すのだった。
看護婦「……」
横にいる看護婦さんたちも、係わり合いになるのは危険だと、聞こえないふりをして若山と目を合さないように歩くのだった。
路男「ちくしょう」
若山「それ以上喋ると出血多量で死ぬぞ。大人しく手当てを受けろ」
看護婦「……」
看護婦さん、若山の最後の言葉に、
「余計な議論ふっかけてるお前が言うんじゃねえよ!」と、ツッコミを入れたくてうずうずしていたと言う。
その後、路男が処置室に叩き込まれている間に、しのぶは、これから母・静子の行方を捜すつもりだと言うが、若山は「その必要はないんじゃないかな」と、謎めいた言葉を口にすると、しのぶを病院の別の部屋に連れて行く。
その病室で、今にも死にそうな病人たちの世話を甲斐甲斐しく焼いている付添婦がいたが、

しのぶ「お母さん!」
静子「しのぶ!」
それが他ならぬ、しのぶの育ての親である静子であった。
いくらなんでもそんな偶然ねえだろと思いがちだが、若山はずっと前から静子がここで働いているのを知っていた……と言うより、恐らく若山がこの仕事を紹介したのだろう。そのことは静子から口止めされていたのだが、若山は、あえて同じ病院に路男を担ぎ込み、しのぶを母親に会わせてやったのだろう。

今度は逃げようとせず、娘に駆け寄ってしっかり抱き締め合う静子。
しのぶ「お母さん、お母さん!」
静子「許してね、良かれと思ってお前と耐子を大丸様にお預けしたんだけど……」
実に久しぶりの再会に、ひたすら涙、涙の母子であった。
だが、今は仕事中だからと、やがて静子はしのぶの体を離す。

静子「今お世話してる患者さんは死ぬほどの苦しみと戦ってるの、そばにお母さんしかいないのよ、その人の身になって付き添うことで、少しでも苦しみを分け持ってあげなければね。だからどうしてもそばを離れることが……」
患者「ゴッホゴッホ! 静子さん……」
静子「うるさいわねっ、今イイとこなのよ!」 しのぶ「……」
言うまでもないが、途中から嘘である。
再び患者の世話に戻った母親の背中を見詰めるしのぶの肩に手を置き、
若山「わかったね、人はどんなにつらい時でももっとつらい人のために尽くす。生きると言うことはああ言うことだ」
しのぶ「じゃあ、あの患者さんも誰かに尽くすんですかぁ?」
若山「屁理屈を言うなぁっ!」 若山、人に説教するのは好きだが、屁理屈は大嫌いなのだった。
じゃなくて、
しのぶ「はい、私もお母さんに負けないで、がむばります」
素直なしのぶはそう答えて、また一歩野望に近付いたのであるが、静子や若山の余計な一言が、この後、しのぶを変な方向へ行かせてしまうことになる。
CM後、しのぶはラーメン屋で元気に働いていた。
元々勤労少女であるしのぶにとっては、いくら贅沢でも大丸家での息の詰まるような暮らしより、そんな生活のほうがよっぽど楽しいのだった。
もっとも、休憩時間などに、ふと、大丸家での日々、なかんずく、雅人のことを思い出しては、必死にそれを忘れようとするしのぶだった。
一方、千鶴子は千鶴子で不良道に邁進し、今日も今日とてカツアゲの実地研修などを行っていた。
その現場に雅人がやってきて、

雅人「君はこんなことをして恥ずかしくないのか、さあ、うちへ帰るんだ」
千鶴子「うるせえなぁ、あんたとしのぶをくっつけたいってのが大丸剛造の意向だろう? で、式はいつだい?」
雅人「お父さんがなんと言おうと、僕が愛してるのは君だけだ」
千鶴子「もう騙されるもんか」
雅人の必死の説得も、一度立ち直ろうとして裏切られた(と思い込んでいる)千鶴子には効き目がなく、千鶴子はさっさと車に乗って仲間たちと行ってしまう。
大丸邸。
腹心の手島が、南部開発の協賛する、多摩川の花火大会について説明している。
それは、例によってその席に政財界のお偉方を紹介して接待すると言う、南部開発の業務としての一環でもあった。

剛造「その日には、雅人を私の後継者として紹介したい。その方の手配も頼む」
手島「かしこまりました、その席にはしのぶ様にも、雅人様の婚約者としてお越し頂くつもりでおります」
手島がやや誇らしげに、突然そんなことを言い出す。

剛造「なに、しのぶの居所が分かったのか」
耐子「お姉ちゃん、何処でなにをしてるんですか?」
ちょうどその場にいた耐子も、驚いて手島に尋ねる。
手島「南部開発の総力を挙げて調査をいたしましたところ、しのぶ様はこちらでご令嬢らしからぬ仕事をしていることが判明いたしました」
手島、耐子に頷いて見せてから、しのぶの居所を書いた紙を取り出して剛造に見せる。
剛造「雅人、すぐ行って連れ戻してきなさい」
雅人「行っても無駄です」
剛造「そうか、『ヘルス・モロ出しセブン』と言う店で働いてるそうだが……」
雅人「直ちに参ります!」 じゃなくて、
雅人「行っても無駄です」
剛造「ぬぁわぜだっ?」

雅人「しのぶさんは千鶴ちゃんがここに戻って欲しくて家を出たのです。たとえ迎えに行っても、千鶴ちゃんが帰らない限り、しのぶさんが戻るとは思えません」
剛造「千鶴子を連れ戻すのが先決だと言うのか?」
が、依然としてあんな真似をしでかした千鶴子に対する剛造の怒りは根深く、雅人がどんなに頼んでも聞き入れようとしない。
剛造「手島君、しのぶを連れ戻すのはいいが、手荒な真似だけはせんようにな」
手島「分かっております、私に妙案があります」
そのしのぶを、しつこく猛たちが追い掛け回していた。
……
暇なんか?
ま、暇なんだろうなぁ。

マヤ「なんだい、てめえら?」
嫌がるしのぶを無理矢理連れて行こうとしていたマヤたちの前に、いきなり、二人の男が立ちはだかる。
その二人と言うのが、

遊びやファッションで不良しているマヤたちとは明らかに人種の違う、どう見てもシャレにならない面構えの男たちであった。
恐れ知らずのマヤ、無謀にもそんな連中に対しても凄んでみせるが、彼らが胸につけているバッジに気付いた猛が、慌てて止める。
猛「やめろ」
一礼すると、しのぶを置いてそそくさとその場を離れる。
マヤ「どうしてだよ?」
猛「相手が悪い」
猛も知っている、暴力団の代紋だったのだろう。
しのぶ、怯えた顔になりつつ、二人に礼を言って帰っていく。
そしてそばにあった車の後部座席には、手島が黒幕然とした威厳を見せて腕を組んでいた。
南部開発の力を持ってすれば、暴力団の一つや二つ動かすのは訳のないことなのだった。
それにしても手島さん、有能やねえ。
これが「赤い」シリーズとかだったら、最後は剛造を裏切って南部開発を乗っ取りかねないが、80年代の大映ドラマでは、そこまで生々しい展開は見られないのだ。
数日後、若山と静子がしのぶに会いに行くと、既にしのぶは店を辞めていた。
それも、何かミスをしたとか、自分から辞めたとかじゃなく、「しのぶが大丸家の令嬢だと分かったから」と言う、奇妙な理由からだった。
つまり、さっきの連中が店の主人にしのぶの素性を明かし、後難を恐れた主人が、しのぶを解雇するよう仕向けさせると言う、まわりくどい方法だった。
ただ、その店は、別にしのぶをコキ使っている風には見えないホワイト企業のようだったので、「後難を恐れる」と言うのも変なんだけどね。
しのぶもやむなく仕事を辞め、行き先も告げずに姿を消してしまったと言う。
静子たちが落胆したのは言うまでもない。

静子「私にぐらい知らせてくれればいいのに……」
若山「あなたに心配かけたくなかったんだろう、それにしても大丸の奴!」
静子「えっ?」
若山「えっ、いや、なんでもない」
若山には、それが剛造の差し金だとすぐ分かり、口の中で罵るのだった。
その後、しのぶは様々な仕事に就くが、どの店でもあの男たちが現れて告げ口するので、門前払いされたり、すぐ辞めさせられりするのだった。
行く当てもなく街をさまよいながら、しのぶは、「千鶴子も今の自分と同じような遣る瀬無さを味わったのではないか」と、想像を巡らせるのだった。
でも、千鶴子は家を飛び出して以来、ちゃんと働こうとした形跡は一瞬たりとも見えないので、その想像は明らかに間違いである。
若山はすぐ剛造に会いに行き、剛造の卑劣なやり方を真っ向から非難する。

若山「お前は事業の発展のために、しのぶさんと雅人君を結び付けようとした、千鶴子さんを排除してだ。その残酷さが、しのぶさんには耐えられなかったんだ。たとえ首に縄をつけてしのぶさんを連れ戻してもお前との仲がしっくりいくとは思えん」
剛造「俺だって、千鶴子もしのぶも可愛い! だが、不良グループに入ったとか言う千鶴子を雅人の妻には出来ん。南部開発のためには……」
若山「要するに金のためじゃないのか? お前に分かって欲しいのは、聖書の一節だ。金持ちが天国に行くのはラクダが針の穴を通るよりも難しいと」
若山、48の説得術のひとつ「聖書固め」を繰り出すが、
剛造「じゃあ、俺は天国にはいけんな、だが、あるかないかわからん天国などのことより俺は南部開発従業員の生活を保証しなくてはならんのだ。その為には、後継者たる雅人の妻は、しのぶでなくてはならんのだ」
若い頃から付き合いのある剛造には、あまり効果はなかった。
ならばと、若山、もし剛造が強引にしのぶを連れ戻したらお前と絶交すると、これまた48の説得術のひとつ「絶交キック」をお見舞いする。

剛造「若山!」
雅人「お父さんがごり押しなされば、僕もこの家を出ます」
剛造「雅人!」
雅人「僕もしのぶさんに帰ってきて欲しいです、しかし、しのぶさんは今、自分の生活を築き上げようとしてるそうじゃありませんか。だったらしばらくそっとしておいてあげて下さい」
二人に強く諌められて、剛造も最後には折れて、しばらく、しのぶにはちょっかいを出さずに見守ると約束するのだった。
後編に続く。
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