第10話「恐竜爆破指令」(1971年6月4日)
とある工事現場の断層に、たくさんの子供たちが群がって何やら土を掘り返している。
どうやら、授業の一環として恐竜の化石を発掘しているらしい。
……って、恐竜の化石を、専門家でもない子供たちに掘らせたらダメだと思うんですが。

と、彼らの方へ、マットビハイクルが近付いてくる。
次郎「あ、郷さんだ、おーい!」
次郎の横にいるのは、名子役の高野浩幸(クレジットは裕幸)さん。
次郎の川口英樹さんとは仲が良かったらしい。
パトロールの途中で立ち寄ったのだろう、郷と南が、興味深そうに発掘現場にやってくる。

次郎「担任の吉本先生だよ」
吉本「吉本です、よろしく」
郷「MATの郷です」
吉本「話は坂田から良く聞かされてますよ、毎日のようにね」
郷「はっはっはっはっ」
吉本「やれ、一度も独力で怪獣倒したことがないだの、税金泥棒の集団だの……」
郷「はっはっ……は?」
途中から嘘である。
吉本「僕は生物学を専攻してたもんですからね、こうして化石を掘り漁りながら生物の進化と地球の成り立ちを勉強しようって訳なんですよ」
南「なるほど」(どうでもいい)
と、彼らのすぐそばの地層に、いきなりショベルカーが突っ込んでいく。
無論、工事現場の人間には許可を取って発掘しているのだろうが、子供たちの近くで工事車両がガンガン稼動しているというのは、いくらなんでも危険過ぎる状況で、引率教師として吉本は、もっと安全に配慮すべきだったろう。仕切りを設けるとかね。
だが、そのショベルカーが掘った場所から、とんでもないものが露出する。
巨大な恐竜の尻尾の部分と思われる化石……と言うより死骸だった。
郷と南は、MATとして調査する必要があると口添えして、一週間ほどかけて、子供たちが発掘作業を行う許可を工事関係者から得る。

夢中になって掘り出している子供たち。
……って、いや、それこそ、ちゃんとした研究機関に調べてもらうべき、貴重な発見だと思うんですが。
郷(心臓の鼓動音も聞こえない。これなら心配ない……)
郷の鋭敏な聴覚でも、その恐竜(怪獣)が生きている兆候は見られず、完全に死んでいると思われた。

加藤「子供たちが掘っても危険性はないんだな」
郷「はい、その点でしたら心配いりません」
南「いやぁ、子供たちが大喜びしましてね」
二人は、一応、そのことを加藤隊長に報告する。

丘「郷隊員に電話です」
郷「はい」
急に丘隊員がちっちゃくなっちゃったように見えるが、これは遠近法によるものである。
電話は吉本先生からで、子供たちの研究成果を見に来ないかと言う誘いだった。
郷も南も、そんな大っぴらに仕事をサボれる機会を逃すはずがなく、隊長の許可を得た上で、翌日、学校へ足を運ぶ。

吉本「さ、始めよう」
理科室で、子供たちの作ったスライドを見せて貰う郷たち。
ちなみに、子供たちの中には、高野さんの他にも、「魔女先生」のロノオやツトム、井原さんなど、このブログでは御馴染みの顔がいくつも見える。
最近、この時期に放送されたドラマを見ていると、ハルコちゃん役の杉山和子さんが出てないかなぁと目を皿のようにしてチェックする癖の付いた管理人であったが、いまのところ、「仮面ライダー」64話しかないようである。
ま、どっちにしても、彼女はここにいる子供たちより明らかに年上なので、この中に混じることはまずありえないのだった。
子供の声「恐竜は今からざっと3億年も昔の古生代に地球に現われ……」
あらかじめ録音された子供の声がナレーションをつとめるなか、子供たちの描いた恐竜の絵、あるいは写真などが次々と映し出されていく。
次郎「郷さん、あれ、ツインテールの卵?」
郷「さあなぁ」
子供「キングギドラのだろう」
子供「タッコングに決まってんだろう」
さて、研究成果の内容は、絵は稚拙だが、ナレーションはなかなか専門的かつ詳細で、最後は気候変動によって恐竜たちが絶滅したという話で締め括られていた。

次郎「面白かった?」
郷「3億年の地球の歴史が良く分かったよ。はっはっはっはっ」
他意なく笑ってるけど、彼らは、絶滅したはずの恐竜が、怪獣として現在の地球上にうようよいることと、次郎たちのスライドの結末との矛盾を、頭の中でどう整合をつけているのだろう?
ちなみに、子供たちはあの恐竜にステゴンと言う名前を付けていた。
発表会の後、子供たちは吉本先生をせかして、再び工事現場に向かう。
ところが、工事現場に着くと、あの発掘現場の前に、ロープが張られて立ち入り禁止になっていた。
吉本「一週間の作業中止の筈でしょ」
作業員「爆破することにしたんだ」
……いや、だから、貴重な恐竜の化石を、文化庁にも報告せずに爆破したらあかんでしょ?
既に名前まで付けて愛着を抱いている子供たちが反発と抗議の声を上げたのは言うまでもないが、大人たちには逆らえず、彼らの目の前でダイナマイトによる爆破作業が行われる。
だが、その程度の爆薬では堅牢な怪獣の体はビクともしなかった。
現場監督は、さらにダイナマイトの量を増やしてもう一度爆発を試みるが、

今の衝撃で裂け目が出来たのか、その表面から緑色の粘液のようなものが幾筋も滲み出てくる。
そして、それを浴びた作業員は悶え苦しんで死に、しかもその体は泡となって跡形もなく溶けてしまう。

加藤「行くぞ」
岸田&上野「はい」
知らせを受けて、MATから重苦しい表情で三人が出動しようとしているところへ、何も知らない郷たちが学校から戻ってくる。
南「隊長、どちらへ?」
加藤「公団から出動の要請があった」
岸田「お前たちの調査もあてにはならんな」
三人の素っ気ない態度に、訝しげな顔になる郷と南。

郷「丘隊員、どうかしたんですか」
丘「例の恐竜から溶解液が滲み出て作業員が溶けてしまったんですって」

断層に露出した恐竜の骨格と、それを見上げている加藤隊長たちの素晴らしい合成ショット。
現場監督から要請され、より強力な爆弾をセットしようとする加藤隊長だったが、そこへ郷たちが駆けつける。

郷「待ってください、隊長、爆破するのをやめる訳にいかないでしょうか」
加藤「うん?」
郷「子供たちの願いなんです」
監督「人間一人が殺されてるんです。こんな恐ろしいものをほっとくつもりですか」
子供たちはかなり離れたところから、ステゴンの運命や如何と、事の成り行きを心配そうに見守っていた。

お、誰かと思えば、「仮面ライダー」の五郎くん(三浦康晴)ではありませんか。
もっとも、彼が「仮面ライダー」にレギュラー出演することになるのは、この少し後のことである。
一方、郷の聴覚は、昨日まではなかった怪獣の鼓動をはっきり捉えていた。
郷(生きている。ダイナマイトで蘇ったに違いない……)
郷と南は、このまま土に埋めてしまうべきだと主張するが、監督から「国家の事業に協力しないつもりですか?」と問い詰められれば、予定通り爆破するほかない、苦しい立場の加藤隊長であった。
だが、そもそもMATの所有するへぼい爆弾では、怪獣の体を破壊するなど不可能であり、

ステゴンは、粉々になるどころか、完全に生き返ってしまうのである。

監督「バラバラになるどころか、かえって生き返ったじゃありませんか!」
加藤「攻撃用意!」
現場監督の鋭い突っ込みを、MATの長い経験で培った特技
「聞こえないふり」で鮮やかに処理する加藤隊長であった。
吉本「あれは剣竜の一種で草食性の大人しい奴です。刺激さえしなければ害はない筈です」
監督「恐竜を野放しにしろってのかね?」
……いや、冷静に考えたら、生きて動いている恐竜って、めちゃくちゃ貴重な発見じゃないの?
日本の総力、いや、人類の総力を挙げても保護すべき超稀少生物だと思うんですが。

それはともかく、吉本先生の観測どおり、ステゴンは起き上がったものの、別に暴れ出す気配はなかった。
が、工事のスケジュールのことしか頭にない現場監督にせっつかれて、加藤隊長は子供たちを避難させるとともに、ステゴンに攻撃を開始する。
もっとも、MATアローなどの攻撃ですら効き目がないのに、彼らの持っている小銃をいくら撃ったところで、ステゴンを倒せる筈もなかった。

そのことは、当の隊員たちも先刻承知で、この画像の上野隊員の顔など、いかにも
「ま、どうせ意味ないだろうけど、一応仕事だからなぁ」と、初手から諦めているようにしか見えないのだった。
対して、うぶな子供たちは、ステゴンに攻撃が加えられるのを見て悲鳴を上げ、女の子などはとても正視できないとばかりに顔を伏せたりしていたが、

郷「次郎君、ステゴンは死にやしない。ほら、思い出してごらん、今までMATが独力で怪獣を倒したのを見たことあるかい?」
次郎「あ、そうだねっ!」
郷に言われて、次郎がたちまち顔を明るくさせる。
……途中から嘘であるが、別に間違ったことは言ってない。
ま、郷が「死なない」と言ったのは、ステゴンが攻撃を避けて地中に潜ってしまったからなんだけどね。
CM後、なんとなく険悪なムードを抱えて、加藤隊長たちが本部に引き揚げてくる。

5人が疲れたように、力なく席に着くのを見て、
丘「コーヒーでも入れましょうか?」
隊員たち「……」
場を和ませようと丘隊員が気を利かすが、返事をするものさえいない。
これが、
丘「あそこ触ってあげましょうか?」 だったら、隊員たちも思わず立ち上がって……すいません! もう言わないので許して下さい!

現場で何が起きたか知らない丘隊員、ものといたげに加藤隊長を見るが、加藤隊長も無言で深く息をつくばかり。

つと、郷が立ち上がり、
郷「今日の爆破指令は間違っています。反省してください」
物怖じせず、上司に向かって直言する。
岸田「郷、お前たちにそんなことを言う資格があるのか? お前たちが前もってちゃんと調査しておけば、こういうことにはならなかった」
聞き捨てならぬと言うように、隊長の代わりに岸田隊員が言い返すが、郷も引き下がらず、
郷「恐竜は確かに死んでいました。爆発のショックで蘇ったんです」
上野「死んだものが生き返るか」
岸田「そうだ、奴ははじめから生きてた。いや、深く冬眠していたと言うべきか」

南「爆破さえしなければ、あのまま眠り続けてたに違いないんだ」
岸田「屁理屈を言うな!」
ステゴンへの対処をめぐって、隊員間に深刻な亀裂が生じていた。
が、加藤隊長は、あくまで自分の判断は正しかったと主張する。
加藤「私は次の二点について決断した。そのひとつは、あのままでは工事に支障をきたすこと、その二は、あの溶解液が恐るべき凶器だということだ。私はMATの隊長としてあらゆる局面を想定して万全な方法に踏み切ったつもりだ」
郷「しかし」
加藤「まあ、聞け、まぁ、
結果としてああいうことになってしまったが、この決着は私の手でつける!」
「あらゆる局面を想定して……」などと、ご大層なことを言いつつ、「結果として」の一言で、誰が見ても明らかな失敗を片付けようとする、どてらい隊長であった。
さて、工期の遅れている現場では、夜間にも関わらず、工事がフルピッチで続けられていたが、

居心地が良いのか、帰巣本能なのか、再びステゴンが現れる。
あらかじめ準備していたのだろう、作業員たちが一斉に点火したダイナマイトを投げ付けると言う、南米ゲリラのような過激な攻撃を行うが、当然、ステゴンには効かず、逆に反撃されて皆殺しにされる。
MATの爆弾でも平気だったのに、彼らには学習能力と言うものがないらしい。
一方、知らせを受けた加藤隊長は、地図を広げて待ち伏せ作戦を説明しながら、テキパキと部下を配置していく。
加藤「丘くんと私はA地点」
丘「はい」
加藤「岸田と上野」
岸田&上野「はいっ」
加藤「君たちはC地点」

加藤「南と郷、君たちは……どうした?」
南「私たちはこの討伐作戦には反対です」
郷「わざわざおびき出して殺す必要があるんでしょうか?」
だが郷と南の二人は、加藤隊長の作戦そのものに否定的な態度を示す。

岸田「お前たち、それでもMATの隊員なのか?」
加藤「岸田!」
岸田「しかし、こいつら」
岸田の目には、爆破指令のことで加藤隊長に遺恨を抱いている二人が、隊長憎しで反発しているように映ったのだろう。
加藤「南と郷は作戦から外す。行くぞ」
加藤隊長はあっさりそう決断すると、二人を置いてさっさと出撃してしまう。
取り残された二人が、なんとも言えない索漠とした気持ちになったのは言うまでもない。
ま、3話で、郷ひとりが孤立している状況に比べればマシだけど、それでも、子供たちが見てあまり心楽しくなるストーリーではないのは明らかで、このあたりから徐々に視聴率が低下して行ったのも分かるような気がする。

A地点に立っている丘隊員。
相変わらず美しい。
と、彼らの背後にマットビハイクルが現れる。
さすがに基地に残っている訳にも行かず、応援に来た郷と南であった。

やがて、隊長のよみどおり、ステゴンが地中から這い出してくる。

ちょうどそこは、高圧電線が張り巡らせてあるところで、ステゴンはそれに接触して電気ショックを受け、慌てて逃げようとして別の電線に引っかかってまたショックを受け、ガムテープが張り付いてパニくっている猫のようにその場で激しく体を回転させる。

加藤「いまだ」
丘「はいっ」
丘隊員がリモコンスイッチを入れると、あらかじめ敷設されていた固形燃料が発火して、炎の壁となってステゴンを取り囲む。
いやぁ、30分の特撮番組で、こんなに大掛かりなオペレーション(作戦)の映像が見れるとは……。
加藤隊長の作戦が図に当たった……と思いきや、ステゴンは口から白いガスを吐いて、あっという間に火を消してしまう。
加藤隊長と丘隊員が銃を撃つと、当然、ステゴンはこちらに向かって動き出す。
加藤「退避! 行くぞ」
丘「はいっ」
すかさず後退を命じるが、

丘「あ゜あ゜ーっ!」
何しろすぐ目の前にステゴンの骨だけの巨大な顔が迫っているので、冷静沈着な丘隊員も珍しく感情剥き出しの顔になり、その場に転倒してしまう。

そこを狙ってステゴンが溶解ガスを吐き出してくる。

加藤「おい、だいじょぶか」
丘「はいっ」
あわや、丘ユリ子姫の最期かと思われたが、隊長に助け起こされてなんとか逃げ切る。
郷と南も銃撃してステゴンを後退させてから、隊長たちと合流する。

加藤「ようし、麻酔弾で目を狙おう」
南「接近すれば溶解液を浴びます。私が行きます」
加藤「丘君を頼む」
南「隊長!」
バズーカ砲を抱えて、ひとりで突撃する加藤隊長。
麻酔弾は見事、ステゴンの左目に命中するが、ステゴンはそのまま隊長を追いかけてくる。
郷は加藤隊長を助けようと突っ込み、崖から転がり落ちたところでウルトラマンに変身する。
この後、いつものバトルとなるが、子供たちから「ステゴンを殺さないで」と哀願されたウルトラマン、

両手から青白い太いビームを放ち、

その体を、標本のように固めてしまう。
別に殺した訳ではなく、元通り仮死状態にさせたのだろう。
そして、腹の下にもぐって両手でその巨体を持ち上げ、そのまま空へ帰っていくのだった。
その後、郷が元気な姿を見せ、隊長たちと無事を確かめ合い、MATの亀裂もなし崩し的に修復されてしまうのだった。
隊員たちが帰ろうとしていると、子供たちが駆け寄ってくる。
次郎「郷さん、ステゴンは何処行ったの?」
郷「ステゴンはな、宇宙へ行ったんだよ、だれにも邪魔されず冬眠できるって訳だ」

みんなが空を見上げると、美しい星がきらめき、それにステゴンの姿が重なって見える。
実際に、ウルトラマンが別の惑星にステゴンを埋め、安らかに眠らせたのだろう。
それにしては、郷の帰ってくるのがいくらなんでも早すぎるので、(面倒臭くなって)単に宇宙へ放り出しただけとも考えられるが……。

女の子「ステゴンが見えるわ」
子供「あれが星だよ。ステゴンは星になったのさ」
子供「ステゴーン!」
子供たちが星に向かって手を振ってステゴンの名を呼んでいるさわやかなシーンで幕。
子供たちの恐竜への愛、そしてMAT内部の対立を描いて、ドラマの充実した力作であった。
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