第15回「不良少女ふたり」(1985年7月30日)
ようやく折り返し地点か……気が遠くなるな。
花火大会の夜、正当防衛とはいえ、生まれて初めて人を傷つけてしまい、しかもその現場を父・剛造に目撃されてしまったしのぶ。
千々に乱れる乳、いや胸を抱いて、路男のバイクの後ろに乗って逃走中であったが、不意に路男がバイクを停め、

路男「降りろ、あんたには不良はむかねえ。おふくろさんとこに帰んな」
しのぶ「でも、私は……」
路男、渋るしのぶを強引に降ろすと、そのまま走り去ってしまう。
あれ、なんか前回のラスト、「俺がそばについていてやる」って言ってなかったっけ?
まぁ、一週間で、がらっと話の展開が変わってしまうのは、大映ドラマにはありがちなことである。
それはともかく、血だらけの服を着た若い女性を、夜、人気もないこんな場所で置いて行っちゃうと言う、その非常識なほどの気遣いのなさが、路男が、スペックは高いのに全然女にモテない最大の原因だろう。
しかし、いくらなんでもこの状態で放り出すのはありえない。
せめて、着替えの服でも買ってきて渡すぐらいのことはしないと。
彼らの頭上では、まだ、美しい大輪の打ち上げ花火が無心に闇空を彩っていた。
しのぶが頼る先は、無論、静子のところしかなかった。
しのぶ「お母さん、私、人を刺してしまったの! ナイフで人を刺してしまったのよ!」
泣きながら叫ぶしのぶを、ともかく部屋の中に上がらせると、

静子「相手の人は?」
しのぶ「鬼神組の長田って言う男」
静子「それで、ちゃんとトドメは刺したんだろうね?」 じゃなくて、
静子「死んだの?」
しのぶ「路男さんが死ぬようなことはないって」
静子「なんて、なんてバカなことを……」
静子は、ともかく剛造のところへ戻って相談すべきだと言うが、しのぶはどうしても大丸家に戻るのはイヤだと言う。

しのぶ「お母さん、私、お母さんと一緒に住みたいの!」
静子「しのぶ! しのぶさん……大丸様のもとにお帰りなさい。本当のお父さんと一緒に暮らしなさい。私はあなたの幸せだけを祈って……」
静子は、噛んで含めるように納得させようとするが、
しのぶ「お母さん、私、お母さんと一緒の方が幸せなの! 貧しくたって、お母さんと一緒なら楽しいんです! 私をここにおいて頂戴!」
しのぶ、今まで胸の奥につかえていた、母を慕う娘としての真情をほとばしらせる。
静子、18年手塩に育ててきたしのぶが可愛くない筈がなく、そう言われて目頭が熱くなるのを覚えたが、あえて心を鬼にして、叱りつけるような口調で、
静子「大丸様のお嬢様が情けないこと言うもんじゃありません! あなたは大丸様のお嬢様なのよ、
私の娘ではないの!」
しのぶ「お母さん!」
しかし、いくら血の繋がりがないからって、赤ん坊の頃から(ほぼ)ひとりで育て上げ、18年間、苦楽と起居を共にしてきた人間のことを、「娘」と呼ばすしてなんと呼ぶのだろう?
さらに、
静子「私の娘は千鶴子なのよ、私が一緒に住みたいと思ってるのは千鶴子なの、あなたではないのよ」 と、ほとんど
鬼畜のような台詞を吐く静子。
いくら、しのぶを大丸家に帰らせる為とはいえ、仮にも親として娘にこんなこと言うかぁ?
しのぶ「お母さん!」
静子「二度とここへ来ちゃダメ、大丸家にお帰りなさい!」

そして、泣きじゃくるしのぶを無理矢理立たせると、着替えだけ持たせて、文字通り追い出してしまうのであった。
……
さすがにこんな奴おらんやろ? せめて、汗と血に汚れた体をシャワーで洗い流させてから、送り出すべきだったろう。
だから、ここは、まずしのぶを風呂に入れて着替えさせてから、それから「話を聞く「→「追い出す」としたほうが、まだしも自然な流れだったと思う。
静子はその後、柱にもたれるようにして座り込むと、
静子「こうでもしなければあなたは……大丸様に帰ってくれない」
などと言って、むせび泣くのだった。
そりゃまあ、しのぶを大丸家に入れて何不自由ない生活を送らせてやりたいと言う気持ちは分かるのだが、しのぶ自身が「お母さんと暮らしたい」と言ってるのに、何とかの一つ覚えのように「あなたの幸せの為」と言って叩き出すと言うのは、端的に言って滅茶苦茶である。
もっとも、しのぶが剛造の血を分けた娘であることもまた事実なので、静子がしのぶを剛造の元に返したいと言う気持ちも、これまた分からなくはないんだけどね。
とにかく、路男も、静子も、血だらけの服を着た若い娘を夜中、路上にほっぽりだすという行為がNGだということだけは、弁えていて欲しいものである。
しのぶ、それでもどうしても大丸家に戻る気はなく、今度は路男のねぐらにやってくる。
なんか、しのぶが、路男と静子の間を行ったり来たりしているような気がするのだが、気のせいじゃなく、事実である。

路男「おふくろさんと一緒に住むんじゃゃないのか」
しのぶ「母は、私と一緒に住むのを望んでいないんです」
路男「そんなバカな……」
しのぶ「母は私を捨てました。私を捨てたんです!」
路男「訳がわからねえよ。あんたたちの家族は滅茶苦茶だぁ!」 呆れたように叫ぶ路男。
なんとなく、初めて大映ドラマを見た一視聴者の率直な感想のようにも聞こえる。
しのぶと千鶴子が入れ替わっていたという肝心の事実を知らない路男から見て、彼らの行動が滅茶苦茶に見えるのは当然であった。
路男「一体何故こんなことになったんだ? 何があんたたちをバラバラにしちまったんだ? 恐らく千鶴子が不良になったのと無関係じゃねえ筈だ」
しのぶ「……」
路男「肝心なことになると沈黙か」
だからと言って、その事実を路男に打ち明けることは憚られるしのぶであった。

路男「あんたと千鶴子は、同じ目をしてるぜ。絶望しきった目の奥にじっと何かを溜めてる」
しのぶ「路男さん、あなたもそんな目をしています」
路男「……」
しのぶ「もうやめましょう、18年前のことでお互いに傷つけあって何が生まれるの?」
無論、しのぶのそんな言葉だけで、路男があっさり復讐を諦める筈がない。
路男、一緒に大丸親子を敵に回すのなら、しのぶとレツを組む(仲間になる)と言うが、しのぶは「千鶴子さんを敵には出来ないわ」と言うと、店を出て行くのだった。
一方、重苦しい雰囲気に支配されている大丸家。
剛造は、ついさっき見た、しのぶが猛の足にナイフを突き刺したり、返り血を浴びたしのぶがナイフを振り回したりしている様子を思い浮かべて、沈痛な表情になっていた。

剛造「信じられん、あのしのぶが……私は娘を二人失くしてしまった」
雅人「まだ失くした訳ではありませんよ、千鶴ちゃんもしのぶさんも、激流に飲まれて流されてるだけなんです。今手を差し伸べれば二人を救うことが出来るんです」
雅人も則子も、剛造に、二人を現在の境遇から救い出してやって欲しいと願うが、
剛造「私の娘が不良などになってはならんのだ! 私は今、二人の娘に裏切られた思いでいっぱいだ」
剛造の二人に対する怒りは容易に収まりそうもなかった。
悪いことに、どちらのケースも、剛造の賓客たちの見ている前での狂態・醜態だったことが、実業家としての剛造をひどく不愉快にさせているのだった。
部屋に戻ろうとする剛造を雅人が必死に引きとめ、

雅人「それは違います。千鶴ちゃんとしのぶさんは、お父さんよりもっとつらく、裏切られた思いの中で絶望している筈です! 自分の手ではどうすることもできない運命に裏切られ、そして最も敬愛するお父さん、あなたにです!」
剛造「雅人、もう一度言ってみろ!」
真っ向から、剛造にも責任があるのだと指摘すると、剛造も頬を震わせて激しい怒声を張り上げる。
だが、見掛け以上に胆力のある雅人は怯むことなく、
雅人「お父さん、千鶴ちゃんとしのぶさんを一番裏切ったのはあなたなんです。そのあなたが一度裏切られたぐらいで二人を見捨てるんですか?」
より痛烈な批判の言葉を叩き付ける。

カッとなった剛造、思わず目をつぶりながら雅人の頬をビンタする。
殴られた瞬間、雅人は、
「殴ったね、おやじにもぶたれことないのに!」と言う、前々から言いたくてしょうがなかったお約束の台詞を返そうとするが、剛造はそれを待たずにさっさと2階に上がってしまう。
雅人(あ……今、そのおやじにぶたれたんだった……) その後、やっと自分の勘違いに気付く雅人だった。
嘘はさておき、剛造も内心では娘たちのことが可愛くない筈がなく、こっそり机にしまってあった二人の写真を見ては、懊悩の色を濃くするのだった。
OP後、

街中を楽しそうに走り回る鬼神組の皆さん。
彼らはこうやって自分たちが笑いものになることで、少しでも街を明るくしようとしているのである。
じゃなくて、猛が、なんとか千鶴子を喜ばせようと暴走しているところなのである。

そして、そんな彼らの様子をパシャパシャ撮影している二人組がいた。
雑誌社のカメラマンと助手と言う趣だが、この女性がなかなか綺麗なのである。

千鶴子「つまんない、こんなんじゃつまんないよ!」
車の中で不満を口にする千鶴子。
……ま、そりゃそうでしょうねえ。
千鶴子「もっともっとスピード上げて」
猛「ちきしょう、どうしたらあんたを満足させられるんだよ」
いまやすっかり千鶴子の恋の奴隷と化してしまった猛クン。
と、野次馬の人垣を蹴飛ばしていきなりジープの前に飛び出してきた美熟女がいた。
神出鬼没の静子である。
千鶴子は静子との関係を仲間に知られたくないので、静子を連れて別の場所へ移動する。

静子「あなたが私の娘であることを知ってしまったのね。私があなたのお母さんなのよ」
千鶴子「なに寝言言ってんだい、私のお母様は慶子お母様ただひとり、私はあんたの娘なんかじゃない。母さん面するんじゃねえよ!」

静子「すべては私の罪なの、母さんが悪かったの、許して、許して!」
千鶴子「許すも許さないも関係ないね、私とあんたは赤の他人なんだ」
静子「千鶴子、あんたは私の娘なのよ!」
千鶴子「ふざけんじゃないよ! 私があんたの本当の娘なら、誘拐された時にどうして取り戻さなかったのさ? 母親なら、東京の大丸邸に駆け込んででも自分の娘を取り戻す筈じゃないか!」
千鶴子のごもっともな指摘に、

静子「千鶴子ぉ……」
思わず涙ぐむ静子。
まさか、
「東京まで行くのが面倒臭かったから」とは、口が裂けても言えないのだった。

千鶴子「大丸の娘でなくとも良かったんだ、誰の娘でも良かったんだ、本当の親と一緒ならどんな貧しい家で育ったって……だけど、18年も大丸家の娘として育てられてある日突然、お前は他人の子だと言われたって、どうしようもないじゃないかっ!」
はい、重ね重ねごもっともな御言葉ですね。
ただ、そのクレームは静子じゃなくて、こんなストーリー書いた脚本家に向けられるべきなんだけどね。
千鶴子「どうして、どうして産着を取り替えたりしたの? どうしてあんたは誘拐された時、自分の子だと言わなかったの? どうしても大丸の腕から取り戻してくれなかったの?」
涙ながらの千鶴子の……魂の奥底からほとばしり出るような痛切極まる叫びに対し、静子はひたすら自分を責め、詫びるしかないのだった。

静子「どんなことしてでもあなたを取り戻すべきだった。母さん、勇気がなかったの……母さん意気地なしだった……」
千鶴子「いまさら謝られたってどうにもなるもんか!」

静子「千鶴子、あなたがヤケを起こして暴れまわる気持ちも分かるけど、もぉほほ、やめて! あなたは、あなたの人生を真っ直ぐに生きてって欲しいの。その為だったら母さん、どんな償いでもするつもりよ」
千鶴子「本気で私に償いをする気があるの?」
静子「当たり前じゃないの」
千鶴子「だったら二度と私の前に現れないでよ。私があんたにして欲しいのはそれだけさっ」

静子「千鶴子……」
悪いのは自分だとは重々承知していながら、実の娘からそんな冷たいことを言われて平気でいられる筈もない静子であった。
と、同時に、自分が同じようなことをしのぶに言ったことについて、改めて猛省を促したい。
千鶴子「断っとくわ、たとえ死んだって、私はあんたを母さんだなんて認めない、口が裂けたってあんたを母さんだなんて呼ぶもんか! 私は大丸の娘でも、あんたの娘でもないんだ! あんたは私を捨てた。今度は、私があんたを捨ててやる!」 静子「……」
静子も、そこまで自分が千鶴子に憎まれているとは予想外だったのだろう、驚きのあまり言葉を失う。
しかし、そもそも静子は最初、しのぶは剛造の手元に戻すが、千鶴子はそのまま剛造の娘として育てられることを望んでいたのだから、この期に及んで千鶴子に自分がお前の母親だと言って会いに行くだろうか? まぁ、思いがけず不良になってしまった千鶴子を立ち直らせたいだけで、しのぶに言ったように、千鶴子と一緒に暮らしたいなどとは夢にも考えてはなかったのだろうが、この静子の行動にはいささか疑問を感じてしまう。
にしても、やっぱり伊藤さんは上手いね。
もっとも、「不良少女~」でも、似たような境遇の役を演じていて、しかも母親役が同じ岩本さんだったのだから、ご本人たちにとっては新鮮味のない芝居だったかもしれない。

と、そこへ、ナイスタイミングで猛たちがやってくる。
猛「このおばさんなんだってんだよ?」
千鶴子「私を不良の世界から足を洗わせたがっているどっかの奇特なおばさんさっ」
静子「千鶴子さんっ!」
千鶴子「私は不良少女・千鶴子、二度と私の前に現れないことね」
千鶴子は静子を残して、仲間たちとさっさと行ってしまう。
その後、喧嘩、乱闘、カツアゲ、飲酒など、悪逆非道の限りを尽くして街を駆け巡る千鶴子と猛たち。
しかし、ドラッグやセックスなど、肝心のそっちの世界には一歩たりとも足を踏み入れようとしないのは、所詮はお嬢様育ちの……と言うより、大映ドラマの限界と言ったところだろうか。
ま、セックスはともかく、ドラッグは後に出てくるけどね。
そして、彼らの乱行の様子は、すべてさっきのカメラマンに激写されていた。

優子「こんな写真を撮ってどうするつもりなの? 大丸さんを強請る気なのかい?」
島田「バカヤロウ、強請ったところで所詮ははした金だ。これを利用して何とか大丸グループに潜り込めねえかと考えてるんだ」
そして意外なことに、彼らはマスコミ関係者ではなく、島田が個人的に雇った人間だった。
島田は、千鶴子としのぶの醜聞をネタに、大丸グループの後ろ盾を得て実業家としてのし上がろうという、身の程知らずの野心をたくましゅうしていたのだった。
島田「ところで、その服、『ラ・ムー』の真似なの?」 優子「違う!」 じゃなくて、
優子「悪い夢だよ、あんた」
島田「バカヤロウ、血の臭いのするうすぎたねえ世界から抜け出すんだ!」
島田は島田なりに、ヤクザな稼業から足を洗いたいという気持ちがあったのだ。
優子に、島田に対する愛が少しでもあれば、彼女もそれを支え、手助けするのにやぶさかではなかっただろうが……。
島田は、今度は二人に、千鶴子としのぶが争っているところを撮って来いと無茶な要求をする。
後編に続く。
- 関連記事
-
スポンサーサイト