第28話「ウルトラ特攻大作戦」(1971年10月15日)

幕開けから、当時、大きな社会問題になっていた光化学スモッグに覆われて、霞がかかったようにぼやけている東京の空が映し出される。
光化学スモッグの人的被害が初めて公式に確認されたのが、オンエアのほぼ1年前のことで、世間の関心も高い、いわば「旬」の公害だったと思われる。
その原因である排気ガスを撒き散らしながら道路を埋め尽くして走っている車群の中に、我らが郷の乗る流線型の車体もあった。

郷「東京じゃ駄目ですね、試運転にならない」
坂田「しかし、安定が良いだろ、コーナーリングの」
郷「ええ」

坂田「ケツについてる、俺の発案によるスタビライザーのせいさ」
郷「ご機嫌だなぁ」
坂田の自慢げな台詞に合わせて、車の後部に付けられたフィンのような装置が映し出される。
で、そのスタビライザーが風で飛ばされていったらかなり笑えたと思うのだが、残念ながら飛ばない。

郷「どうするんです、この車?」
坂田「もうちょっといじりたいんだ……こんな風に!」
郷「ちょっと、坂田さん、何するんですか、やめて! そ、そこは……ああっ……」
……嘘である。謝っても許して貰えないと思うので、謝らない。
と、カーラジオが、サイパン沖500キロの地点に台風が発生したことを告げる。
郷「また台風かぁ」
鼻歌まじりにMAT本部に戻ってきた郷を待っていたのは、その台風の調査飛行だった。

伊吹「コーストガードからの台風発生の第一報が午前10時、自衛隊ならびに気象台への連絡がちょうど正午」
郷「台風パトロールまでMATはやる必要ないんじゃないですか」
伊吹「う~ん、どうでしょう!」 郷の消極的意見に、プリティ長嶋(長嶋じゃなく?)のような反応を示す伊吹隊長。
……嘘である。これくらいなら許して貰えるかも知れないので謝っておく。メンゴ。
伊吹「うーん、この写真の取られたのは午後1時にサイパン島の北のこの位置だ。ところがその後、台風が突如消えた!」
郷「消えた?」
そこへ先にパトロールに出ていた南隊員たちが帰ってくる。
郷はなおもブツブツ文句を言っていたが、結局、岸田と一緒にMATアローで南洋へ向けて出発する。

その機体のバックに流れるのが、何故か「ウルトラセブン」のBGMなのだった。「ワンツースリーフォ、ワンツースリフォ~♪」と言う奴のインストね。
岸田「何もないじゃないか、なあ?」
郷「快適ですねえ、世は全てこともなし」
岸田「気取るなよ」
郷「気取ってるわけじゃありませんよ、台風が消えたのはむしろ喜ぶべきことです。自然の出来事は自然に任せれば良いんです」
岸田「哲学的だな」
今回の郷は(岸田も)、妙に人を喰ったというか、ふざけた感じの台詞が多い。
ちなみに脚本は、あの実相寺昭雄さんである。
だが、その後、小笠原沖で大型タンカーが竜巻に巻き込まれて消失するという事件が起きる。

夜、とある山村を局地的な台風……と言うより、竜巻が襲う。
豪雨の中、強風によって木が裂けたり、

落ちてきたタンカー(?)によって、高圧電線が断ち切られて放電するという、神業的特撮シーン。

翌朝、MAT隊員たちはその村を訪れ、わらぶき屋根の民家の上に乗っかったタンカーと言う、非現実的な光景を目の当たりにする。
大胆な合成だが、いまひとつピンと来ない映像である。
民家の上にそんなものが落ちたら、家はぺちゃんこになってるだろう。それとも、これは民家の向こうの大地に横たわっているのだろうか?

岸田「しかし、山の中へ入って船を見るとはな」
郷「人間の尺度で測っちゃいけませんよ、なにしろ自然は偉大ですからねえ」
岸田「くぅ~」
相変わらず訳の分かったような分からないようなことを言って岸田隊員を煙に巻く郷。
だが、タンカーの残骸を分析した科学者によって、それが自然の力だけによるものではないことが判明する。
科学者「風の場合は接合部のねじれが一番問題になるんだが、この板は規則正しく裂けている。風のせいではありませんな」
その後、都内を郷と岸田がマットビハイクルでパトロールしている。郷がおもむろにラジオのスイッチを入れたのを岸田が咎めるが、

郷「いやぁ、広く情報を求めなきゃね」
アナウンサー「……光化学スモッグもどこへやら、連日、0001PPM以下の住みよい東京になっています」
岸田「へー、風のお陰か」
郷「自然は偉大ですね」
岸田「分かったよ、もう」
今回の郷のところ構わず発せられる減らず口、いささかやり過ぎで、見ててイラッとすることがある。
何事もほどほどが肝心である。

不思議な台風のせいで光化学スモッグが拭うように取り払われ、久しぶりに澄み切った秋空を満喫する二人。
郷「素晴らしいなぁ、東京で深呼吸をしたくなるような空気の旨さ」
岸田「自然の功罪、相半ばってとこだな」
だが、海上自衛隊からの緊急連絡で、紀伊半島沖に突然新たな台風が発生し、しかも関東地方に直撃しそうなコースだと言うことを知り、暢気な二人も顔の筋肉を引き締める。

夜、三浦半島の沖に、二つの赤い目玉のような光が浮かび上がり、漁民たちを震え上がらせる。

漁師「いさり火じゃねえか?」
漁師「いやぁ、あんなに光りゃしねえぜ」
漁師「とにかく警察へひとっ走り知らせて来いや」
漁師「風も強いし、用心に越したことはねえぜ」
漁師「何か良くねえことが起こりそうな気がするな」
手前で話している二人の漁師、闇の中でほとんど見えないのだが、手前が「仮面ライダー」8話の影村めがね店のおやじこと、岩城力也さん、奥が、「仮面ライダー」62話のハリネズラスの人間態の吉原正皓さんである。
時々忘れがちだが、この番組と同時期に「仮面ライダー」が放送されてるんだよなぁ。

一連の怪現象の対応に追われているMAT本部。また郷がしたり顔で、こんなことを言い出す。
郷「隊長、こりゃ人智の及ばぬ自然現象として解釈すべきですね」
伊吹、鷹揚に頷いてみせてから、
伊吹「そうは言っても、新しく変化する自然にも対処しなきゃいかん」
郷「はぁ」
岸田「僕は消えたと思われた台風が、実は新しい紀伊半島の奴に続いた。つまり一旦勢力を弱めつつ、またぶりかえしたと見る説が当たってると思うんです」
郷「じゃあ、船が山に降るってのはどう言うワケ?」
合理的な解釈をしようとする岸田を、郷がおどけた口調で混ぜっ返す。
ところが、今回の台風はとことん人をおちょくるのが好きなようで、また気象台から連絡があり、紀伊半島の台風も、また忽然と消えたというのだ。
電話を受けた上野から、気象台も今回の異常気象に振り回されてると聞かされると、

岸田「気象台泣かせか、あっはっはっ、まぁ、たまには薬だ」
伊吹「岸田、口を慎め」
岸田「はぁーい」
今は割と当たるようになったが、当時は天気予報も当たらないことが多かったのだろう、岸田が気象台にイヤミを言って笑うと、伊吹隊長がすかさずたしなめる。もっとも、その表情からは「そう言いたい気持ちは分かるが……」と言う心の声が聞こえてきそうであった。
と、さっきの奇怪ないさり火の情報が入ったので、伊吹隊長は現地の夜間パトロールを命じる。
郷「隊長、こりゃ、台風の消滅や、竜巻と関係ありますね。と、するとですね」
岸田「新しい自然の姿か?」
郷「そ、そ、そうなんですよ」
岸田「くぅ~」
郷、岸田、丘の三人がMATアローで三浦半島上空を調査するが、やはり何の異常も見られない。

岸田「結局、何もなしか」
郷「はっは、骨折り損のくたびれもうけ」
伊吹の声「その二人、くだらんこと言ってないで帰投しろ」
岸田「はい! ……おい、無線のスイッチは切っといてくれよな、ユリちゃん」
丘「うっふっ」
肝を冷やした岸田隊員の哀願するような声に、いたずらっぽく舌を出す丘隊員が可愛いのである!
郷、再び流星2号の試運転に出掛ける。今度は次郎も一緒である。

坂田「スタビライザーをハンドルと連動して左右二枚に分けたものは前にもあったが、今度はそれに飛行機のフラップのような効果を持たせると同時に垂直尾翼的な風の流れも加えるように改良したんだ」
郷「なるほどー」(聞いてない)

坂田「もう少し研究をくわえればMATアローにも取り付けられる。どんな風の中でも飛べるように応用できるぞ」
次郎「それでもなんだかカッコ悪いね、チンドン屋みたい」
坂田「こいつぅ」
次郎「どわぁあああああぁぁぁぁぁぁーっ!」
坂田苦心のスタビライザーをかえりみて、子供らしい容赦ない感想を漏らす次郎の体を、坂田が車から放り出す。
じゃなくて、次郎の頭を坂田が小突く。
郷「坂田さん!」
坂田「なんだい」
郷「なんか変なものが見えたんです」
郷が橋の上で車を停め、外へ出て見ると、

前方に、巨大なクラゲに胴体がついたような、つかみどころのない怪獣がふわふわ浮いていた。
名付けて台風怪獣バリケーン。最近の不可思議な台風を作り出していたのは、こいつだったのだ。
あの奇妙ないさり火も、バリケーンの二つの大きな目だったのだ。
郷から連絡を受けて、上野たちは意気込んで出撃しようとするが、伊吹隊長に止められる。
伊吹「もしも、今度の台風が怪獣に関係ありとするとだ、下手に攻撃して東京の近くで風や竜巻やそれに類する暴れ方をされたらどうする? とにかく都民が近くにいる場所で下手な手出しは出来んぞ」
伊吹はとりあえず上野たちを偵察に出し、怪獣の写真を撮って来させる。
バリケーンは、今のところ暴れる様子はなく、ひたすらふらふら宙に浮いているだけだったが、怪獣が台風や竜巻を起こすのではないかと、市民は住宅の補強におおわらわとなる。
写真をスライドに映して見ながら、対応策を話し合う隊員たち。
が、これと言った妙案は出ず、ひたすら見守るしかないと言う結論になりかけるが、

丘「隊長!」
不意に、丘隊員が立ち上がって叫ぶ。

伊吹「なんだね、丘隊員?」
平静を装いつつ、伊吹隊長は愛の告白でもされるのではないかと内心ビクビクしていたが、
丘「冷凍弾を使ったらどうでしょう?」
無論、丘隊員はそんな(クラゲだけに)浮いた話ではなく、バリケーン退治のアイディアを出したのだ。
郷「そう、そうだよ、触手を凍らせてから攻撃するんだ」
伊吹「丘隊員、狙いは正しいよ、しかし大気中における冷凍効果は期待薄だ。それより麻酔弾だよ、麻酔によって奴の機能を停止しておく、それからだミサイルは」
伊吹、そのアイディアを誉めつつ、より効果的な方法を案出し、決定する。

MATアローでバリケーンの周囲を飛びながら、
岸田「あいつのお陰で東京の空気が綺麗になってるって言うのに、ちょっと気が引けるな」
南「岸田、バカなこと言うな、あいつはでかいだけでも邪魔なんだ、お前のちっぽけな感傷の入り込む余地はないんだよ」
岸田「しかし、あいつこそ新しい自然かも知れないぜ」
南「いい加減にしろ!」
やがて、基地の無数のミサイルが照準をバリケーンに合わせる。
伊吹「ミサイルスタンバイ完了、麻酔弾発射!」

南「了解! ようし、撃て!」

丘「はいっ!」
戦闘中の丘ユリ子お姉さまの凛々しいこと……
2機のMATアローから撃たれた極太の麻酔弾は、見事バリケーンの体に突き刺さる。
麻酔弾の効き目は覿面で、バリケーンはゆらゆらと降下していくが、

運悪く、落ちたところが変電所だったので、

その高圧電流がバリケーンの体に流れ、そのショックで目を覚まさせると共に、膨大なエネルギーを与えてしまう。
バリケーンはたちまち活発に動き出し、

頭部の傘のようなものを物凄いスピードで回転させて、竜巻と暴風雨を発生させる。
突然現れては消える謎の台風の正体は、これだったのだ。

目も開けていられない暴風雨の中で、宙に舞いながら頭を回転させているバリケーンや、

同じく豪雨の中を、時折走る稲光に照らされながら飛ぶMATアローなど、芸術的なショットが連発する。
台風の中では、さしものMATアローも墜落しないように飛ぶのが精一杯で、攻撃など出来よう筈もない。そうこうしているうちにも、周辺の建物がまるで紙細工のように軽々と吹き飛ばされていく。
伊吹、ほとんどヤケ気味にミサイル発射を命じるが、豪雨の中で狙いがさだまらないのか、ほとんどダメージを与えられない。

南「町の小学校が潰されています!」
丘「風圧が強くて怪獣に近付けません!」
南「隊長、操縦不能です!」
岸田「アローの尾翼が飛ばされそうです」
丘「危ない、隊長ーっ!」
伊吹「……」
部下から次々あがる悲鳴のような報告に、伊吹隊長、もうどうすれば良いのか分からなくなってしまったようで、
伊吹「なに、なんだと、良く聞こえんぞ! ……くそっ、通信機の故障かっ!」 こともあろうに、通信機が壊れて聞こえないふりをして、この場をやり過ごそうとするのだった。
……嘘である。あまりの急転に茫然自失したのは確かだが、すぐ気を取り直して退避命令を出している。
で、結局、郷がウルトラマンになって出て行くしかないのであった。
まぁ、ウルトラマンなしで怪獣を倒した試しがないMATのことだ、郷も覚悟はしていただろう。
ウルトラマン、基地からひとっ飛びして暴風圏内に入り、バリケーンの目の前に着地する。

バリケーン、こう見えて動きが素早く、いきなり空を飛んでカニばさみのようにウルトラマンの胴体を挟み、高圧電流をお見舞いする。
しかし、バリケーン、猫みたいに何も考えてなさそうで、なかなか可愛いよね。

が、なかなかの強敵で、口からガスを吐いたり、両手の触手をウルトラマンの首に巻きつけて泥水の中を引き摺り回すなど、やりたい放題に暴れまくる。

ウルトラマン「ええかげんに……」
ウルトラマン「せいっ!」 とでも言いたげに、思いっきり触手を振り払うウルトラマン。
スペシウム光線を放つが、その赤い口に吸収されてノーダメージ。
バリケーン、なおも頭部を回転させて、ますます強い風を送り込み、ウルトラマンを寄せ付けない。
まともに戦っては勝ち目がないとウルトラマン、じっとその回転する頭部を見ていたが、やがて大きく頷き、

自らの体を高速回転させながらバリケーンの頭上に浮かんで、凄まじい竜巻を作り出し、そのまま宇宙までバリケーンを持ち上げ、どうやったのか不明だが、バリケーンを消滅させる。
しかし、さすがに竜巻では宇宙まで持っていくのは無理だろうから、ウルトラマンが自身の回転で反重力エネルギーを生み出して、大気圏の外まで引っ張り上げたと見た方が妥当かも知れない。
事件が落着した後、郷たちがまったりとお茶を飲んでいる。

岸田「いつもウルトラマンにいいところを攫われるよな」
丘「何言ってるのよ、地球の平和はウルトラマンのお陰よ」

上野「東京一帯にスモッグ注意報が出たそうです。とりわけオキシダントがひどく、外出の際はマスクを着用されたし、とのことです」
岸田「やれやれ、怪獣去ってまた一難か」
郷「岸田隊員、今度は自然の力じゃありませんよ」
岸田「うん」
ラスト、再び光化学スモッグに覆われ始めた東京の様子を映しつつ、幕。
むしろ、地球にとっての脅威は、バリケーンなどより、狂ったように大量生産・大量消費に明け暮れる現代人の方ではないかと言う、物質文明に対する鋭い風刺に……は、あまりなってないか。
郷と岸田の緊張感のカケラもないやりとりがしつこく繰り返されるなど、全体的に妙な感じのするエピソードであった。バリケーンの造型や、暴風雨の描写などは素晴らしいのだけれど。
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