第16回「あい求めよ迷える魂」(1985年8月6日)
の続きです。
その後、少し落ち着いたしのぶは、念のため、千鶴子と一緒に昨夜のビルに行き、黒沼の死体を確認しようとするが、

千鶴子「死体なんてどこにもないじゃないか……」
果たして赤い塗料のようものが床に残っているだけで、黒沼の死体は忽然と消えていた。

千鶴子「(異様に老けてるけど仲間には違いない)黒沼は、生き返ったのかもしれない。しのぶさん、はっきりするまで、バカなことを考えちゃ駄目よ」
しのぶ「……」
しのぶも、騙されていたのかもしれないと考え始めたのか、千鶴子の言葉に素直に頷く。
が、そこへぞろぞろと島田たちが入ってきて、

島田「生き返るもんかね、死体は俺たちが片付けておいてやったぜ、お嬢さん、大丸家のご令嬢が人を殺したとあっちゃあ、大丸さんも立つ瀬がねえだろうなぁ」
ジェームズ・ボンドみたいなポーズを取りつつ、ニヤニヤ笑う島田。
千鶴子「島田さん、しのぶさんをどうするつもり?」
島田「警察沙汰にするつもりはねえ」
島田、黒沼の葬儀代として、しのぶに1000万と言う大金を要求する。
無論、しのぶがそんな金を持っている訳がないので、大丸家に戻って調達して来いと言うのだ。

島田「屋敷に戻って金取って来い!」
しのぶ「イヤです、出来ません!」
島田「……」
たかが小娘相手に精一杯凄んだのに、しのぶにきっぱり拒否されてしまい、とても悲しそうな目になる島田アニキであった。
もっとも、しのぶは、剛造に迷惑をかけない為に、一度は死のうとしたほどなのだから、少々の脅しに屈服する筈がないのだが。

島田「だったらあんたの体で稼いでもらう。こいつを打って、ボロボロになるまで稼ぐんだな」
そこで島田が取り出だしましたのは、大映ドラマ名物の「覚醒剤入り注射器」なのだった。
大映ドラマの世界では、風俗嬢およびヤクザの女は全員覚醒剤の常用者と言うことになっているのです。
が、そんな非道を千鶴子がみすみす許す筈もなく、

千鶴子「待ってよ、私が1000万何とかしようじゃないか」
しのぶの代わりに1000万を調達してくることになる。
だが、タイミング的には最悪(番組的には最高)で、

則子「あなた、千鶴子さんが空港に現れたら、許してやりますか?」
剛造「許してやるつもりだ」
則子「雅人さん、アメリカで千鶴子さんと式を挙げるかもしれませんわ」
剛造「やもえんだろう、それで、千鶴子が幸せになるものなら……」
剛造が則子に、千鶴子への寛大な措置を約束したその直後、書斎に忍び込んで剛造のデスクを引っ掻き回していた千鶴子の浅ましい姿を目撃してしまうことになる。
千鶴子もさすがにバツが悪そうな顔になるが、すぐいつものふてぶてしい不良キャラになって、

剛造「何の真似だ?」
千鶴子「手切れ金を貰いに来たのさ。18年間、娘としてあんたたちに散々楽しい思いをさせてやったんだ、手切れ金を貰うくらい、当然だろう」
剛造「手切れ金?」
千鶴子「この小切手に1000万って書き込んで欲しいね」

則子「千鶴子さん、なんてはしたない真似をするの? お金が必要なら私がなんとでもします。それがどうして泥棒猫みたいなまねをしなくちゃならないの?」
千鶴子「生まれが生まれだもの、仕方がねえよ」
それはあくまでしのぶの為に必要な金ではあるのだが、事情を話すと剛造に余計な心配をかけてしまうことになるので、ついそんな憎まれ口を叩いてしまう千鶴子。
今までの行状が行状だけに、剛造たちも、そんな事情が伏在しているとは夢にも思わず、そのたかり屋のような浅ましい言動に怒りと言うより嘆かわしげな顔になる。
耐子「千鶴子さん、あなたなんて人なの? あなたなんて私のお姉さんなんかじゃない!」
後ろにいた耐子も、悲しげな顔をして叫ぶが、
千鶴子「ふざけんじゃねえよ、私はお前みたいな泥臭い女を妹だなんて思っちゃいないよ! 笑わせるんじゃねえよ!」 不良キャラがすっかり板に付いてしまった千鶴子、反射的に言う必要も無い罵声を浴びせるのだった。

耐子「……」
背伸びをしても、到底千鶴子の敵ではない耐子、手厳しい反撃を受けてたちまち目に涙を溜める。

その耐子を庇うように、ずいと剛造が千鶴子の視界に立ちふさがる。
剛造「千鶴子、1000万だな?」
剛造、千鶴子から小切手帳をひったくると、すらすらとペンを走らせて望みの金額を書き、判を押す。
剛造「さあ、これを持って出て行きなさい、これでもうお前は私たちの娘じゃない。大丸家とは何の関係もない人間だ! 二度と私たちの前に現れるな!」 そして、怒り心頭に発している剛造としては至極当然の言葉を放ちつつ、小切手を渡すのだが、

千鶴子「……」
それに対し、千鶴子が、物凄いショックを受けたように茫然とするのが、いささか腑に落ちない。
自分で「手切れ金」を要求しておいて、それと引き換えに絶縁宣言されたからって、裏切られたような顔をするというのは、明らかに矛盾していると思うのだが……。
まぁ、そこまで厳しい言葉を投げられるとは予想していなかったのだろう。

則子「あなた」
剛造「もう何も言うな。見下げ果てた奴だ、こんな奴の為に夜も眠れずに苦しんでいたかと思うと悔しくて涙が出る!」
千鶴子「お父様……」
剛造「もう、父でも子でもない、好きなところで好きなように暮らすが良い。でてけっ!」
重ねて最大級の罵言を浴びた千鶴子、今にも泣き出しそうに顔を歪ませると、屋敷から飛び出ていく。
一方、島田や猛たちが「火の鳥」で千鶴子の帰りを待っていると、優子がやってきて、初めて黒沼の事件のことを耳にする。
猛「お嬢さんは黒沼をホトケにしちまったのさ」
優子「黒沼ぁ? あの黒沼をかい?」
島田「ああ、そうだ」

優子「まさか、あんた……」
島田「黙らねえかっ、余計な口出ししやがるとたとえお前でもタダじゃすまねえぞ」
島田のことを知り尽くしている優子、すぐそれが彼らの常套手段だと気付くが、島田が機先を制して優子の口を塞ぐ。
なにしろ、優子には、島田の命令には逆らえないある事情があるので、禁を破ってしのぶに真実を教えることが出来ない。
そこへ千鶴子が帰ってくる。島田に小切手を渡すと、

しのぶ「千鶴子さん」
千鶴子「礼を言うならあんたの親父にいいな。あんたのためだといったら、1000万ポンと渡してくれたよ。大丸家に戻ってお父さんに相談するんだ」
自分の悲しみはおくびにも出さず、そんな嘘まで言ってしのぶを剛造の元に帰らせようと言う、千鶴子とは思えぬ心遣いを見せる。
が、素直に帰ろうとしたしのぶの体を、島田が乱暴に押し戻す。

千鶴子「何するんだ? 約束が違うんじゃないか」
島田「やかましい!」
抗議する千鶴子の頬に、島田のビンタが飛ぶ。
島田「ニセモンがでかい口叩くんじゃねえ、しのぶお嬢さんは金の成る木だ、あんたの役目は金の運搬係だよ」
千鶴子「汚いよ、島田っ!」
千鶴子、何とかしのぶだけでも逃がそうとするが、

猛「待てよ!」
そこへ、猛が、部屋の奥から、死んだ筈の黒沼を引っ張り出してくる。
しかし、この画像、猛と黒沼が同じポーズをしており、顔つきまで全く同じに見えるのが、かなりのツボである。
じっと見てたら、なんか顔も似てるように思えてくるから不思議である。

猛「あんた、うすぎたねえ罠に嵌められたんだ、こいつは死んだふりしか取柄のねえ男さっ!」
黒沼の首根っこを捕まえて、自分の仕掛けた罠をしのぶと千鶴子に暴露してしまう猛。
しかし、
「死んだふりしか取柄のない男」って、あんまりと言えばあんまりな表現だよね。
せめて「こいつは元スタントマンで、死んだふりが得意なんだ」くらいにして欲しかった。

島田「猛、貴様、裏切るのか」
猛「千鶴子には手を出さねえと約束したじゃねえか。島田さんよ、鬼神組は今日限りであんたとは縁切るぜ!」
さらに、前々から島田に愛想を尽かしていたのだろう、猛、一足飛びに絶縁状を叩き付ける。
優子「あんた、私もあんたとは今日限りだよ」
島田「優子、お前もか」
と、優子も前に出てきて、島田に別れを告げる。
当然、僕らの島田アニキが黙って彼らを行かせる筈がない。

島田「ふざけるな、猛、優子、無事に俺と手が切れると思ってんのかい?」
猛&優子「あ゛あ゛っ?」 島田「……いえ、なんでもありません。二人ともどうかお元気で……」
二人に睨み返された途端、思わずその門出を祝福してしまう僕らの島田アニキであった。
……と言うのは嘘だが、どう見ても島田より、猛&優子コンビの方大物に見えるのは確かである。
もっとも、ドラマの中では多勢に無勢、猛は女たちを逃がすが、あえなく島田に捕まり、ボコボコにされてしまう。

その後、教会で、温かな母親の胸に抱かれてむせび泣いているしのぶの姿があった。
静子「良かった、しのぶが人を殺さなくて、ほんとに良かった」
しのぶ「お母さん……」
若山がつと進み出て、
若山「しのぶさんとも千鶴子さんも暴力団のなんたるかがよーーーく分かった筈だ、金の為には、どおんな卑劣なことでもするのが暴力団だ。よーーーく分かったな?」

若山にしては短めの説教に、しのぶは勿論、千鶴子までが、憑き物が落ちたかのような清々しい顔で頷くのだった。
続けて、若山が、「本来の自分とはなんなのか?」と題する、大変ありがたい演説をしてくださるのですが、
長いので割愛させていただきます。
若山「おいっっっ!!」 しのぶは、明日空港へ行き、雅人と一緒に渡米すべきだと千鶴子に説くが、千鶴子はまだ躊躇していた。自分がそのまま雅人と結婚したら、雅人が大丸財閥の後継者の地位から滑り落ちるのではないかと危惧しているのだ。

優子「千鶴子さん、大丸グループの後継者の道だけが人生じゃないわ、雅人さんはそう決意してあなたに賭けてるの……雅人さんはそう言ってたわ、まるで祈るように……私が島田と別れる決心をしたのも、そういう雅人さんに打たれたからよ、千鶴子さん、決心しなさい」
優子が聡くも千鶴子の心情を見抜き、そう励まして背中を押す。
しかし、優子が島田との訣別を決意したことまで、雅人の態度に触発されたからと言うのは、明らかに盛り過ぎだろう。
全然、関連性ないじゃん。
千鶴子はなおしのぶに気兼ねして、
千鶴子「しのぶさん、本当に良いの?」
しのぶ「何言ってるの、良いに決まってるじゃない。雅人さんは私の憧れの人だけど、恋とは違うわ。私は私で頑張る。もう自分を見失ったりしないわ」
千鶴子「しのぶさん……」

千鶴子「ありがとう!」
しのぶ「千鶴子さん……」
しのぶの健気な言葉を受けて感極まり、その手を握り、あろうことか、しのぶに頭まで下げる千鶴子。
明日、大地震でも起こらねば良いが……。
で、これが普通の連続ドラマなら、ここで千鶴子としのぶの争いに終止符が打たれ、物語は新たな段階に進むところだが、ところがギッチョン、大映ドラマの人間関係は、特売の絹豆腐のように崩れやすいもので、二人に真の和解の日が訪れるのは、まだまだ先の話なのである。
と、そこへ、島田から逃げてきたのだろう、傷だらけの猛がよたよたと乱入してきて、

猛「千鶴子、何処にもいかねえでくれ、俺はあんたの為だったらいつでも死ねる。いつでも……そばにいてくれ。雅人のとこなんて、行かないでくれ……」
恥も外聞もなく千鶴子に呼びかけてから、ばったりその場に倒れてしまう。
まぁ、その一途さは可愛いけど、仮にも鬼神組の組長ともあろうものが見せて良い態度じゃないよね。
若山、すぐに猛の体を抱き起こすと、

若山「エリカ! 救急箱だっ!」
エリカ「はいっ」
猛(えっ、救急車じゃなくて、救急箱なの……?) 薄れゆく意識の中で、極度の不安に飲み込まれる猛に幸あれ。
さて翌朝、千鶴子は優子さんの車で成田に向かうが、運悪く、渋滞に巻き込まれてしまう。
出発時刻が迫る中、雅人はまだ千鶴子が来ると信じつつ、見送りの両親に挨拶してロビーに下りていく。

そこにやっと、鈴つきのチョーカーがドラえもんみたいで可愛らしい、衣装もお嬢様っぽいものに変えた(いつものことだが、どこで手に入れたのだろう?)千鶴子が到着する。
両親を見付けて笑顔で駆け寄ろうとするが、ふと、両親の背後、自分と反対側の位置に、殺意を瞳に煌かせた路男が立っているのに気付く。

ナイフを取り出し、剛造目掛けていきなり走り出す路男。
そう、とうとう破れかぶれになって、剛造の命(タマ)を直接奪いにやってきたのだ。

千鶴子も、何を考える余裕もなく、スカートの裾が乱れるのも厭わず、同じく剛造に向かって全力で突進する。

剛造を庇うように割り込んだ千鶴子、その体に深々と路男のナイフが突き刺さる。
ドスゥッ! と言う物凄い効果音。

千鶴子の白いパンプスの上に、鮮血が滴り落ち、飛び散る。
なかなか衝撃のシーンであるが、実は、ちゃんとハンドバックが千鶴子の体を守っており、致命傷ではないのだった。

だから、刺された千鶴子の表情も、「あーん、お腹いたーい」っぽい、軽い感じなのであった。
そのまま体を折るようにして突っ伏す千鶴子を、剛造と則子が慌てて抱き起こす。
一方、千鶴子を刺してしまった路男は茫然とその場に立ち尽くしていたが、駆けつけた優子が、咄嗟にその場から連れて行く。
そして、千鶴子の身に大変なことが起こったとも知らず、雅人はアメリカに向かう機上の人となったのである。
さて、最後に、今回の「約束破り」についてまとめておこう。
・千鶴子→チキンレースの勝者のものになるという約束を反故
・島田→1000万持ってきたらしのぶを見逃してやるという約束を反故
・島田→千鶴子には手を出さないという約束を反故
……
みんな、約束はちゃんと守りましょう。
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