横溝正史シリーズ2「仮面舞踏会」その1

[DVD] 仮面舞踏会（リマスター版） 価格：3,701円（税込、送料別）

　横溝正史シリーズのお時間です。

　今回紹介するのは、管理人がシリーズで一番好きな「仮面舞踏会」である。原作は横溝ブームの最中に還暦を過ぎた横溝正史が新たに執筆した同名の長編である。ま、正直ミステリーとしては、横溝の他の代表作と比べると見劣りするのだが、金田一シリーズとしては珍しく軽井沢を舞台にした華麗で複雑な人間模様が新鮮だし、なにより強烈無比なヒロインの存在が胸に沁みて、個人的には嫌いじゃない。あまり読み返さないけどね。

　で、それを映像化したシリーズ版は、これまたミステリーとしては色々と不備があるのだが、椋露地桂子の女性らしい細やかな筆致で描かれた人間ドラマを、豪華なキャストで鑑賞できる、秀作となっている。

　前置きはそれくらいにして、参る。

　冒頭、二枚目スターとして鳴らした元華族の笛小路泰久が、酔っ払った挙句何者かにプールに突き落とされて溺死する。これを演じているのが、東宝の二枚目俳優の久保明さんと言うのが、泣かせるキャスティングである。

　で、彼の元妻で女優の鳳千代子（草笛光子）や、母親の篤子（乙羽信子）、娘の美沙（村地弘美）、鳳千代子の恋人で飛鳥産業の総帥・飛鳥忠煕（木村功）、千代子の前夫の津村真二（佐原健二）などなどが、警察の事情聴取を受ける。

　この羅列だけでウンザリするが、この後、もっとたくさん出てくるのだ。ひーっ。

　

　事件は未解明のまま、一年後、軽井沢の浅間山へ登っている若い男女の姿が……。その会話から、彼らはこれから心中するつもりだと分かる。

　ちょうど上から降りて来た金田一は、言葉を交わして別れるが、ふと思い付いて、慌てて彼らのあとを追う。しかし、既に二人は毒を呷り、女は絶命し、男はもがき苦しんでいた。

　原作では、それが一年前の出来事なのだが、ドラマでは現在時間に起きる。

　

　金田一はその若者の入院している病院へ見舞いに行くが、彼は何故あのまま死なせてくれなかったのかと暴れている所だった。ちなみに名前は田代信吉で、演じるのは三ッ木清隆さん。当時25歳くらいか。

　で、担当看護婦として登場するのがミチで、大田黒久美さんが好演している。このキャラ、とても好きなんだよね。ただし、原作には出てこないドラマオリジナルキャラである。

　ミチ「ほんとになんで助けたのよ、この分からず屋を」
　金田一「どうも……すいませんでした」

　人を助けて謝る金田一が可愛い。

　ミチ「全く呆れて物が言えない。男なんてみんなバカだわ！」

　男をまとめてぶったぎるミチさん。いいなぁ。

　

　廊下へ出て、

　金田一「なんだってまた心中なんか？」
　ミチ「そんなことあたしに分かるモンですかぁ。甘ったれてんのよ」

　

　ミチと別れた金田一は、飛鳥忠煕に話しかけられる。鳳千代子に近付くなと言う脅迫状を見せて、事件の依頼をする。彼は鳳千代子と結婚するつもりなのだ。しかし、彼女は今まで4回も結婚しているスキャンダラスな女性なのだ。

　去年、最初の夫・泰久が溺死したが、二年前にも二番目の夫・阿久津謙三が自動車事故で亡くなっているのだ。

　ここで金田一が「お袋に結婚するなら平凡な娘がいい」などと言われたことを披露する。無論、ドラマオリジナルの台詞である。また、飛鳥に「おめえ童貞だな？」と見抜かれる場面もある。

　

　飛鳥の家へ向かう途中、ふたりは元華族の老婦人・笛小路篤子に会う。

　彼女は金田一の風采を見て「ルンペンかと思った」と正直に言う。

　

　ちなみに、ここに出てくる街並み、市川崑の「犬神家の一族」で金田一が初登場するところに似ている。同じ場所ではないと思うが。ま、撮影時期はほぼ同じだから、似たような感じに見えても不思議はない。

　

　金田一は、飛鳥邸で、旧知の日和警部と会ったりする。

　また、政治ゴロみたいな的場と言う男が出てくる。演じるのは内田稔。彼は原作では考古学者で、飛鳥に発掘資金を出してもらおうとするのだが、ドラマでは飛鳥を政治の世界に引っ張り込もうとしている生臭いキャラに変貌している。

　彼が抱いている黒猫は、クロと言い、そのまんまやんけと思うが、すぐに毒殺されてしまう気の毒なにゃんこなのだ。

　さらに、村上一彦と言う、使用人でありながら実は飛鳥の異母弟や、その母親なども出てきますが、ストーリーには特に関係ない。

　

　さて、金田一、川沿いの道を歩いていると、前方から可愛い女の子が「おじさまーっ」と盛んに手を振って呼びかけてくる。

　全く見覚えがないのだが、キョロキョロと周囲を見渡した金田一は、

　

　てっきり自分のことだろうと「やあ」と手を挙げてしまう。

　

　しかし、実際は彼の背後にいた槇恭吾と言う男に呼びかけていたのだ。
　典型的なバツの悪い目に遭い、彼らに嘲笑されながらとぼとぼと去っていく金田一が可愛いのだ。
　で、その少女が、鳳千代子と泰久の娘で美沙、今は祖母の篤子に育てられている。槇は、3番目か4番目かに鳳と結婚した男である。

　

　軽井沢一体を嵐が襲う。この夜に、事件が動き出すのだ。

　金田一は旅館の一室で、過去の新聞を積み上げてあれこれと事件の情報を集めている。

　

　病院では、ミチが田代がまた自殺でもしたんじゃないかと様子を見に行く。

　田代「死ぬ勇気なんて二度も持てるもんじゃないよ。勇気を持てたとしてもどっちみち……」
　ミチ「死ぬとは限らないわよぉ！　原爆症にかかってるはあなただけじゃない。みんな生きようと戦ってるのに、卑怯じゃないの！」
　田代「君はどうしてそんなに俺を責めるんだ？」
　見詰め合うふたり。

　ミチ「意気地なしは大嫌いだからよ！」
　ツンデレ風のミチが可愛いのじゃい。

　ここで急に「原爆症」と言う言葉が出てきて、いささかまごつくのだが、田代はその病気を苦にして自殺しようとしたらしい。原作では、音楽家を志して挫折し、堕落した生活を送った挙句、肺病持ちのコールガールと厭世自殺しようとしたことになっている。

　原爆症と言い、政治ゴロと言い、この脚本、随所に社会派ミステリーを意識したような改変が見られる。まあ、味付け程度だが。

　

　同じ夜、飛鳥とバーで話す鳳千代子。いかにも大人の女性と言う感じである。

　と、ここでまた新キャラが出てくる。飛鳥の娘婿の桜井鉄雄である。演じる若尾義昭は、あれだ、あのー、「赤い衝撃」のラスト付近で原知佐子をナンパした男だ（分かるか！）。

　実は彼、そこで愛人と会っていたのだ。妻のオヤジに出くわしてへどもどする。

　

　で、その愛人、なかなか色っぽくて今後の活躍が期待されたが、彼女の出番はここだけだった。演じているのは下村節子さんと言う人だと思うが。

　

　飛鳥は鳳千代子と別れ、嵐の中をひとり歩いて帰っていたが、津村真二の別荘の前を通り掛かり、津村と自分の娘の煕子（皆川妙子）が一緒にいるのを目撃する。

　はい、また新キャラです。この皆川妙子さんも、特に美人と言うほどではないが、妙に色っぽくて気になるのだ。

　彼女は夫との仲が醒め切っていて、津村にモーションをかけるが、やんわりと拒絶される。そこにあった洋酒を津村にすすめたが、飲んだ途端、津村は血を吐いて死んでしまう。

　おののきながらも、妙子は指紋などを消し、その死体をどこかへ引き摺って行く……。

　（もう誰も読んでないと思うが）長くなったので次回に続く。