第12話「ときめきメリークリスマス」(1984年12月22日)
街はクリスマスムード一色。どこもかしこも、飾り立てられたクリスマスツリーや、きらびやかなイルミネーション、陽気なクリスマスソングで溢れ返っていた。
喫茶店マリーも例外ではなく、室内はクリスマスモードで飾りつけがされ、いつものメンバーがとんがり帽子を被って、ご馳走とシャンパンの並んだテーブルを囲んでいる。
だが、みんな妙に浮かない顔で黙り込んで、静まり返っていた。

津村「ジングルベル、ジングルベル、鐘が鳴る、はいっ……」
そこへ、白いひげをつけた津村が陽気に騒ぎながら飛び込んでくるが、みんな、一瞬待ち人が来たのかと立ち上がりかけるが、津村だと分かってすぐ白けた顔で座り直してしまう。
津村「なんだよ、おい、お通夜だね。どうしたの、パーティー始めないの?」
マスター「それがねえ、かおりちゃんがまだ帰ってこないんですよ」
マリー「6時までには帰るって、友達に会いに昼頃出掛けたらしいんだけど」
津村「(いま)8時か、ちょっと遅過ぎるな、そりゃ」
かおりは聖子の一人娘だが、まだ中学生なので、みんなが心配するのも無理はなかった。
その頃、母親の聖子は2階の探偵事務所から、かおりが会いに言ったという桃子と言う女の子に電話を掛けていた。

圭介「どうでしたか、所長?」
聖子「それがねえ、桃子ちゃんは会ってないって、会う約束もしてないって言うのよ」
圭介「じゃあ、所長に嘘ついて出かけたってことになりますね」
聖子「でも、電話の桃子ちゃん、おかしいなぁ、なんか隠してるみたいなのよねぇ。かおりのこと一生懸命庇おうとしてる感じなの、どうしてだろう」
圭介「俺、桃子ちゃんに会ってきますよ」
圭介が、直に桃子に会いに行こうと部屋を出掛けた時、様子を見に津村と緑が入ってくる。
津村「かおりちゃんのこと、なんか分かったかい」
聖子「それがまだなのよ。ごめんなさいね、せっかくのイブのパーティーだってのに」

緑「あの、余計な心配掛けると思って今まで言わなかったんですけど……」
圭介「なんだよ?」
聖子「なんなの、緑ちゃん」
緑「あの、かおりちゃん、もしかしたら、ボーイフレンドと会ってるんじゃないかと思って……実は昨日の夜、かおりちゃんの勉強見てるうちに、偶然、教科書の間に男の子の写真挟まってるの見ちゃったんです」
だが、緑はその男の子については何も知らないという。
心配性の聖子は、それを聞くとますます落ち着きを失い、

聖子「こないだね、PTAで男女交際のことが話題になったの、そんときね、かおりの同級生で妊娠した子がいるって聞いてきたばっかりなのよ! あの子がもし妊娠したら……」
一足飛びに最悪の事態まで想像を膨らませて、恐慌状態に陥る。
津村「まあまあ、そう悪い方悪い方へ考えないでさぁ、何もデートしてるからってね、その、最後の一線を踏み越えたとは決まってないんだから」
緑「そうです、かおりちゃんに限って絶対そんなことありません」
聖子「やっぱり、母子家庭なのがいけないのかしら、うっうっ」
周りはなんでもないと励ますが、聖子はろくに聞いてもいなかった。
圭介「ともかく、俺、桃子ちゃんに会ってきますから」
部屋を出た圭介が、大股開きでカッコよく階段の手摺を飛び越えるところでOPとなる。
OP後、クリスマスソングの流れる、酔っ払いとカップルの行き交う賑やかな通り。
ある喫茶店で、そのかおりが、背が高くすらっとした男の子と会っていた。
会計を済ませて外へ出るが、その途端、酔っ払いの若者にぶつかって因縁をつけられ、抵抗した男の子は怪我をしてしまう。
その頃、圭介は倉田桃子の家を訪ね、かおりのことを聞いていた。
圭介「桃子ちゃん、かおりちゃんの一番の親友だろう。さっき、かおりちゃんのお母さん、君に電話した後、心配のあまり倒れちゃったんだよ」
桃子「ほんとー」
嘘である。そう言って動揺させ、なんとか相手の口を割らせようという、探偵としてのテクニックである。

圭介「知らないか、何処にいるか」
桃子「知ってるわけないじゃん!」
圭介「そう、てっきり知ってると思ったんだけどなぁ。弱っちゃったなぁ……ああ、かおりちゃん、ボーイフレンドの写真を持ってるんだよ、本当に何処の誰か知らない?」
桃子「知らないったら、知らないもん!」
が、桃子は明らかに何かを知っているようだった。圭介、張り込みならお手のものなので、一旦退散すると、倉田家の近くに身を潜め、桃子の動きに目を光らせる。
待つまでもなく、すぐに桃子が母親の制止を振り切って家を飛び出すのが見えた。
圭介はすぐに後を追いかける。
桃子がトコトコ走ってやってきたのは、さっきの喫茶店だった。
店内を見回って、誰かを探している風だったが、

桃子「あの、夕方ここに中学生の痩せた男の子と、丸顔の女の子なんですけど、来ませんでしたか?」
店員「中学生? ああ、来たけど、1時間くらい前に帰ったわよ」
桃子「そうですか、すいませんでした」
悄然と店から出てきた桃子の肩に、圭介の手が置かれる。
圭介「かおりちゃん、ここでデートしてたのか?」
桃子「……」
だが、桃子は何も言わずに逃げ去ってしまう。
一方、店には弁護士で聖子の義理の弟にあたる良平が来て、マスターたちから事情を聞くと、事務所に上がってくる。

良平「津村さん、元刑事のあなたがついていながらどうしてすぐ警察へ連絡しないんですか」
津村「いや、そこまでね、大袈裟にするまでもないと思ってさ」
良平「大袈裟じゃありませんねえ、かおり君は今や何処の誰とも分からない男と一緒にいるんですよ、あのかおり君が! ましてや、今日はクリスマスイブだ。なりゆきで、安易に、何の知識もなしに行き着くところまで行き着くというケースがヒッジョーに多いんだ、いまのミドルスクールギャルには!」
津村「俺はね、かおりちゃんを信じてるよ、絶対そんなことないよ」

良平「いや、津村さん、そりゃ甘いな、非常に甘いですな。いいですか、今や中学生がちょっとしたきっかけで売春や覚醒剤に走る時代なんです!」
別にわざと不安を煽ろうとしている訳ではないだろうが、聖子以上に極論に走る良平の言葉に、聖子はほんとに倒れそうなほどのショックを受ける。

聖子「かおりがもしそんなことでもしたら、私、どうしよう! ああっ」
良平「姉さん……」
津村「聖子っ」
良平「僕は……」
津村「あっあの……」
ソファに倒れ込んだ聖子に駆け寄って慰めようとした二人だったが、お互いの存在が気になってまともに喋れない。
実は二人とも、聖子にほのかな思いを寄せているのだ。ま、良平は既婚者なんだけどね。

聖子「パパが死んでから、私、この探偵の仕事に夢中になってたでしょ、だからあの子に目が届かなかった。私がいけない、みんな私がいけないの……」
いつになく深刻な面持ちで、母親としての自分のいたらなさを責める聖子。
だが、その時、万年坂署の八田警部から、かおりが警察に保護されたと言う知らせが入る。
聖子と緑は直ちに警察へ行き、津村から電話で聞いた圭介も駆けつける。
聖子、娘の無事な姿を見てホッとするが、すぐ怖い顔になり、

聖子「かおり、どうして、ママと内緒でボーイフレンドとデートなんかしたりするの、うん?」
かおり「……」
聖子「あんた、誰なの、かおりの同級生じゃないわね?」
少年「……」
聖子「かおり、ちゃんとママに説明なさい、かおり!」
強い口調で問い質すが、二人とも押し黙ったまま、答えようとしない。

八田は、興奮気味の聖子を無理矢理かおりから引き剥がすと、小声で宥める。
八田「奥さんあのねえ、わしも同じ年頃の娘持ってんだよ、そりゃ心配するの分かるけどね、一番傷付きやすい年頃なんだ」

大藪「イブの日のデートだろ、プレゼントかなんか交換したりしてさ、こう、ついロマンチックなムードに酔っちゃって、ふらふらーっとよくあんじゃない」
横から大藪が、無責任な推論を並べて聖子をまた不安にさせる。

聖子「ちょっと、ついふらふらってどういうことなのよ」
大藪「いやぁ、中学生っつってもさぁ、体オトナだもの、ねえ、圭ちゃん」
圭介「バカ言うんじゃないよ」
聖子「うちのかおりに限ってそんなこと絶対ありませんからね」
聖子はきっぱり断言するが、
大藪「親はね、みんなそー思うの! 自分の子供に限ってって、奥さん、それが間違いなのよ」
八田「藪!」
聖子「ちょっと、これ、これでも刑事、これ?」
それにしても、最近ではクリスマスイブといえば、カップルがホテルにしけこんで、ぽっちが怒り狂う夜と相場が決まっているが、この頃はまだ、そこまで定着していなかったようだ。
圭介と緑も、れっきとした恋人同士なのだが、そう言う話は全然出て来ないしね。
八田は、とにかく聖子にかおりを連れて帰らせることにする。
促されて、かおりは素直に立ち上がるが、

かおり「ごめんなさい、私が悪かったの」
少年「いいんだよ、もう」
かおり「じゃあ、さようなら」
少年「さよなら」
去り際、相手の少年にそんな言葉を掛け、少年も淡々と応じる。
恋人同士とも思えない素っ気ないやり取りと、謎めいた会話の意味は、やがて明らかになる。
家に戻ってからも、聖子のかおりへの詰問は続いていた。

かおり「ボーイフレンドじゃないわよ!」
聖子「ボーイフレンドじゃない? じゃあ一体あれはなんなのよ、あの男は……かおり、あんた何隠してるのぉ? あのボーイフレンドとやましいことがあるから何も言えないでいるんでしょう?」
かおり「違うわよ!」
聖子「何が違うのよぉ」
圭介「所長、そう一方的にかおりちゃんを責めても……」
そばで見ていた圭介が見兼ねて口を出すが、
聖子「夢野君、君は黙っていたまえ! ここは母親のあたしと、娘のかおり、この二人の問題なんだからね、向こう行っていたまえ!」
けんもほろろに追い払われる。

かおり「あたし、ママの心配してるようなことしてないわよ!」
聖子「そ、だったらあのボーイフレンドは何処の誰なの?」
かおりはきっぱり否定するが、聖子はあくまでかおりの口を割らそうと鉾先を緩めない。
圭介が部屋から出ようとすると、ドアの外にあの桃子と言う女の子が立っていて、会話を立ち聞きしていた様子だった。桃子は慌てて逃げ出すが、圭介も必死で追いかけ、ついに小さな公園の中で追いつく。

圭介「どうして逃げるんだ、桃子ちゃん、君、かおりちゃんが本当のことを喋ってくれない訳を知ってるんだろう?」
桃子「あたしが、あたしが悪いのよ……あたしがかおりにあんなこと頼んだがいけなかったのよ」
泣きながら、桃子は漸く一切の事情を打ち明けてくれる。
それは、桃子がラジオの深夜放送で知り合ったペンフレンドに、かおりの写真を自分だと偽って送ったことが発端だった。
かおり「やだー、どうしてー?」
桃子「あたし、太ってて顔に自信ないしさ……こんなあたしの写真なんか送ったら幻滅してもう文通なんかしてくれないわよ」
かおり「そんなことないわよぉ」
桃子「池内君、自分の写真も送ってくれたの、これが池内君」
昨日、学校からの帰り道、桃子は初めてそのことを親友のかおりに告げ、相手の写真も見せる。
それは、紛れもなく、かおりと一緒にいたあの少年だった。

桃子「バレーの選手で背は168もあるんだって……だからカッコよすぎて、私と並んだって吊り合わないわよ」
かおり「まあねー、もう写真送っちゃったんなら仕方ないけどさ」
町を見下ろす公園に立ち寄り、美しい夕陽を浴びながら話す二人。
このビジュアルと言い、「文通」と言う懐かしフレーズと言い、甘酸っぱい青春時代の思い出が胃液と一緒に込み上げてくる管理人であった。明らかに飲み過ぎである。
で、それで済んでいたら問題はなかったのだが、

桃子「困っちゃったのよ、明日のイブに池内君と会うことになっちゃったのよ」
かおり「ええーっ?」
桃子「かおりの写真送ってることすっかり忘れちゃって、あたし、イブの日にデートしたいって手紙書いちゃったの」
かおり「バカねえ、どうするつもり?」
桃子「明日、名古屋から出てきちゃうのよ。でも、あたし、出て行けないじゃん、かおりの写真送ってるし、今更嘘だなんて言えないもん」
こうして、かおりは桃子に自分の代わりに池内君と会ってくれと頼まれ、渋々引き受けたと、こう言う訳なのだった。
分かってみれば他愛のない話だったが、中学生の彼らにとっては大事な秘密であった。
だから、桃子は勿論、かおりも親友の為に、その秘密を守り通そうとしたのだ。

桃子「あたしが嘘ついてたってこと、池内君にも分かっちゃたんですか?」
圭介「池内君、怪我して、かおりちゃんと一緒に警察に保護されてたんだ、だから分かっちゃったんじゃないかな?」
桃子「池内君、もうあたしと文通してくれないわ」
圭介「そんなこと分かんないだろう」
桃子「そうよー、あたし、今まで手紙の中でずっと池内君、騙してきたことになるんだもん!」
泣きじゃくりながら、絶望の呻き声を上げる桃子。
圭介は、じかに池内君に会って謝ったらどうだと提案するが、

桃子「でも、あたしを見たら幻滅するに決まってるわよ」
圭介「確かに」
桃子「おいっっっっ!!」 ……嘘である。ま、ひとつくらいギャグも入れとかないとね。
桃子「でも、あたしを見たら幻滅するに決まってるわよ、太ってて、足なんか大根で……普通のGパンだって履けないんだから!」
桃子の台詞を聞いて、女性は痩せてなきゃいけない、女性の足はすらっとしてなきゃいけないと言う誤った認識が蔓延している状況を、管理人は嘆かわしく思った。
「女性の魅力」=「ファッションモデルとしての魅力」ではないと思うんだけどねえ。
読者の方にも、「魔女先生」の菊容子さんを見て貰えば、一発でご理解頂けると思うが。

圭介「そんなことぐらいで気後れするなよ、俺だってあれだぞ、中学の時に好きな女の子がいたんだよ、だけど、クラスにもう一人彼女を好きな奴がいてさ、そいつはすらっとしててスタイルが良いんだ。俺は中学ン時はチビだったからさ、おまけにそいつは頭が良いんだ。俺はどっちかって言うと勉強もあんまりできる方じゃなかったからさ、コンプレックスがあったんだ。だから、なかなか好きだって言えなくてさ……」
桃子「……」
圭介、自分自身の経験を語って、桃子を励まそうとする。
圭介「だから、桃子ちゃんの気持ち、なんか分かるよ。だけど勇気出さなきゃ駄目だぞ! そりゃ写真は別人だったかもしれないけど、ずっと文通は続けてんだろ? それはきっと桃子ちゃんの手紙が素晴らしかったから、池内君だっていつも返事を書いてたんだよ。いくら写真が良くったって、あれだぞ、手紙がひどかったら文通なんかしないぞ、男は……池内君と会って、話し合ってみろよ」
桃子「やっぱり駄目よ、あたしなんて!」
が、桃子はそう叫ぶと、またドタドタ走り去ってしまう。

さて、マリーでは、ようやく面子が揃ったので、かなり遅くなったが、クリスマスパーティーが開かれようとしていた。
マスター「つまり、かおりちゃんはその桃子ちゃんの代理だった訳?」
聖子「そうなのよ、それを一言も言わないんだもの」
恐らく、圭介の口から全てが明らかにされ、かおりも隠す必要がなくなったのでそれを認め、母親と和解したのだろう。

聖子「ママが余計な心配しちゃったでしょう」
かおり「だってね、桃子と絶対誰にも秘密だって約束したんだもん」

津村「かおりちゃんがママに黙ってボーイフレンドなんか作る訳ないもん、おらぁ最初から信じてたよ」
良平「私も信じてましたよ、最初から私も」
津村「何が私もだよ、なんか成り行きによっちゃあ、行くとこまで行っちゃったんじゃないかなんて言ってた人いたなー」
良平「いやいや、そりゃ一般論を申し上げたまでで……」
津村に痛いところを突かれ、慌てて誤魔化す良平。

マリー「まあ、なんにしても、かおりちゃんが無事で良かったわねえ」

マスター「しかしさぁ、所長もやっぱり親だよねえー、あの心配ぶり見て、つくづく感じましたよー」
と、マスターがしみじみとした嘆声を放ったところで本格的にパーティーが始まり、あちこちでクラッカーの音やシャンパンを開ける音が鳴り響き、賑やかに乾杯が交わされる。
だが、グラスを口につける間もなく、そこへただならぬ様子で飛び込んできた女性がいた。
桃子の母親、早苗である。演じるのは大映ドラマでお馴染みの美熟女・岩本多代さん。
時期的には「不良少女とよばれて」が終わった少し後である。

聖子「あ、お母さん」
早苗「桃子、こちらに来てないでしょうか」
圭介「さっき別れましたけど、桃子ちゃん、なんかあったんですか」
早苗「あの子、家出したんです」
圭介「家出? おたくには帰らなかったんですか」
早苗「帰ってきたんですけど、私がお風呂に入ってる間にこんな書置きを……」
神よ、こんなシリアスな場面なのに、つい岩本さんが一糸まとわぬ全裸で(当たり前だ)入浴しているところを想像してニヤニヤしてしまった管理人をお許し下さい!

圭介「ちょっと失礼……『私、とっても恥ずかしい、きっと池内君、私のこと軽蔑してるわ。太ってて嘘つきの私なんて大っ嫌い、かおり、池内君、ごめんね……』」
いかにも女の子らしい丸文字で綴られた桃子の書置きを読む圭介。
圭介「この手紙の様子じゃ、だいぶん、思い詰めてるみたいですね」
津村「こりゃ警察に届けた方が良いな」
パーティーどころの騒ぎではなくなり、津村が万年坂署に連絡する一方、圭介、かおり、緑、荒木たちは外へ出て桃子の行方を探すことになる。
しかし、圭介とかおり、緑と荒木のペアで探すのだが、緑と荒木は、どちらも桃子の顔を知らないのだから、あまり意味がないようにも思える。ここは、圭介と荒木、かおりと緑と言うペアで探すべきだったろう。
もっとも、いずれにしても、闇雲に探し回っても、この広い東京で、そう簡単にひとりの人間を発見できる筈もなかった。
凡百のドラマなら、以下、なんとかして桃子を探し出して終わり……になるだろうが、このドラマは一味違い、まだもうひと波乱あるのである。
その後、女子中学生が屋上から飛び降り自殺を図ったが身元が分からないということで、桃子の両親、圭介たちが万年坂署へ向かうことになる。
そう言えば、「スクール☆ウォーズ」でもイソップがらみで似たようなエピソードがあったが、奇しくも、今回とほぼ同時期に放送されてるんだよね。
で、どちらも、結局探していた人物とは別人だったことが判明し、関係者は胸を撫で下ろすことになる。もっとも、あちらではほんとに自殺していたが、こちらは自殺未遂で軽傷なので、後味の悪さはない。

だが、その直後、最近、デビュー35周年を迎えたばかり(註・この記事は去年書いたものです)の荒木が血相変えて駆けつける。
荒木「夢野さん、いま、桃子ちゃんから電話があったんですよ! 所長のうちの電話が鳴ってるんで俺が取ったら、桃子ちゃんだったんです」
聖子「で、なんて、なんて電話掛かってきたの?」
荒木「それが、12時に自殺するって……」

荒木の言葉に、衝撃を受ける早苗。
やっぱり岩本さんは綺麗だ。綺麗なだけじゃなく、気品があるよね。
だから「乳姉妹」の逞しい海女の役なんかは、はっきり言って似合わないんだよね。
圭介「それだけか?」
荒木「かおりちゃんにさよならって言いたかったって……かおりちゃんと直接話をしたがってました」
ショックのあまり、早苗はその場に倒れ込んでしまう。
圭介は、また桃子から電話があるかもしれないからと、所長室の電話を逆探させるように八田に進言する一方、八田から池内君が滞在している親戚の住所を聞き出すと、荒木と一緒にその家へ急行する。
ところが、玄関で応対に出た母親らしき女性に「池内大作君に会わせて欲しい」と頼むと、

母親「大作ちゃん、お客様!」
大作「はぁーい、なに、おばさん?」
圭介「あの、君が池内君?」
大作「はい、そうですけど」
出て来たのは、さっきの男の子とは全くの別人だった。
さすがの圭介もちょっと戸惑うが、

圭介「いや、君じゃなくて、さっき、警察で会った、もうちょっと背が高くて、もうちょっと痩せた……桃子ちゃんのペンフレンドだけど」
大作「桃子ちゃん?」
母親「あの、背が高いって、徹のことですか?」
圭介「徹?」
徹「俺に、何か用ですか?」
と、障子を開けて自分から出て来たのが、他ならぬ、あの少年、かおりと喫茶店で会っていた少年だった。
圭介「あっ、君だ。……そうか、そういうことか」
推理はお手の物の圭介、一瞬でからくりに気付くが、その圭介を押し飛ばして本物の池内大作が外へ飛び出す。圭介、荒木、そして徹も慌てて追いかける。

ただし、大作は少し走っただけで、近くの橋の上であっさり逃走を諦め、土下座して謝る。
大作「ごめんなさい!」
圭介「かおりちゃんたちだけじゃなく、君たちも入れ替わってたんだな」
そう、代役を頼んでいたのは桃子だけではなく、相手の池内君も身代わりを立てていたのだ!
まぁ、O・ヘンリーの短編などにもある、使い古されたプロットなのだが、それまで桃子とかおりの問題にストーリーを集中させていただけに、管理人もこれには全く気付かず、見事に騙されてしまった。だが、ミステリーの素晴らしいトリックに引っ掛かった時のような、爽やかな敗北感を味わえた。
本物の池内大作が代役を立てたのも、桃子と似たり寄ったりの理由からだった。

大作「だって俺、送ってくれた桃子ちゃんの写真見て、自信なくして、だって俺、太ってるし、で、徹ちゃんの写真送ったんだ」
圭介「だから、デートするのに徹君に替え玉を頼んだのか」

大作「徹ちゃんの写真送ってるし、今更嘘だなんて言えないし……桃子ちゃん、手紙にも書いてたんだ、太った男は嫌いだって……そしたら、桃子ちゃんも同じことやってたって聞いて」
圭介「バッカだなぁ、君たち、ありのままの自分の姿で会ってたら、こんなことにはならなかったんだぞ」
本物の大作、日村みたいな顔であった。
徹「俺たち二人で明日、彼女に謝りに行こうってさっき話し合ってたんです」
圭介「そうか」
荒木「あのなぁ、桃子ちゃん、大変なんだぞ」
大作「どうかしたんですか?」
圭介「彼女、家出して、自殺をするって電話があったんだ」
圭介は、二人を連れて事務所に戻り、逆探装置を用意した八田たちと共に、桃子からの電話を待つ。
なお、このシーン、ひとつだけおかしな点がある。クレジットでは、偽の池内君こと、徹の苗字は落合になっているのだが、圭介が訪ねた家の表札にははっきり「池内」と書いてあった。
そこは徹の実家で、名古屋に住んでいる大作が(イトコの)徹の家に遊びに来ているのだとしたら、表札は「落合」でないとおかしい。
さらに、応対したあの女性は、徹の母親だと思われるのに、その母親の方は、クレジットでは苗字が池内になっているので話が一層ややこしくなる。
まぁ、クレジットの「落合徹」が間違いで、「池内徹」だったとすれば、全部解決する問題なんだけどね。
さて、事務所で桃子からの電話を待つ圭介たちだったが、なかなかその電話が掛かってこない。無論、桃子が必ずもう一度電話してくると決まった訳ではないのだが、12時が近付いてくるに連れ、圭介たちの表情に焦りと不安の色が濃くなってくる。

父親「桃子、着の身着のまま、飛び出して、今頃どこかで震えてるんじゃないかな」
早苗「そうね、コートも着ないで、好きなラジオだけ持って」
早苗の漏らした何気ない一言が、圭介を鋭く振り返らせる。
圭介「ラジオ? あの、桃子ちゃん、ラジオ持って出てるんですか」
早苗「ええ」

圭介「池内君、君、桃子ちゃんとラジオの深夜放送で知り合ったんだったな?」
大作「はい、えー、ラジオ中央のミッドナイトヤングって言うので……」
圭介「おい、その番組、何時から何時だ?」
大作「11時から始まって3時までです」
圭介「君な、俺とラジオ局に一緒に行ってくれ……池内君から、桃子ちゃんに呼び掛けて貰うんですよ」
ここで、二人の縁を取り持ったラジオ番組を利用して桃子の命を救おうという、良く考え抜かれた展開となる。ありがちといえばありがちだけど、やっぱり宮田氏の脚本は面白い。
ま、正直、ドラマとしての面白さはここでピークなので、後は簡単に片付けよう。
圭介は、大作とかおりを伴ってそのラジオ局へ行き、事情を告げて協力を求める。

DJ「事情は分かりました」
圭介「お願いします。その子、きっとこの放送聴いてると思うんです」
DJ「やりましょう」
そのDJ役は、この数年前に「欽ドン」でブレイクした山口良一さん。実際にDJもやっていたので、そのDJぶりも堂に入っている。
まず、DJが曲の合間に桃子に語りかけてから、

圭介「桃子ちゃん、聞いてるか、もしこの放送を聞いてたら、帰ってきてくれないか。君は池内君に嘘をついて悲しんでるだろうけど、池内君も、君に嘘をついてやっぱり同じように悲しんでるんだ」
かおり「桃子、池内君も友達の写真、送っていたんだから」
圭介「そうなんだよ、だから気にすることないんだよ……なんとか言え」
大作「はいっ」
二人が代わる代わる呼びかけた後、圭介に尻を叩かれて、大作も恐る恐るマイクの前に立つ。
緊張の面持ちでマイクに向かった大作が発した言葉は、
大作「あのねぇ~、僕ねぇ~」 圭介「……」
じゃなくて、
大作「ごめん、桃子ちゃん、君の手紙に太った男の子は嫌いだって書いてあったから、俺、自分の写真送ったら、きっと嫌われるだろうと思って……俺も太ってるんだよ、桃子ちゃん、小学校の頃から、人前に出るのが嫌なぐらい、デブなんだよ。体重は80キロもあるし、普通のジーパンだって履けないんだよ、だからガールフレンドも出来なくて……それから、桃子ちゃんと文通が出来て、俺、本当に嬉しかったよ」
クリスマスイブの賑やかな喧騒の上を、目に見えない電波に乗って、少年の、飾り気のない、孤独な叫び声が響き渡る。

桃子「……」
大作の声「俺、まだ会ったことないけど、桃子ちゃんのこと、好きだよ!」 桃子は、本当に自殺するつもりだったのか、とあるビルの屋上にいたのだが、大作の声はしっかりとその耳に届いていた。
マリーでも、みんなでラジオを聴いていた。

大作の声「ずっとこれからもペンフレンドになってくれよ!」
大藪「……」
圭介の声「桃子ちゃん、喫茶店マリーで池内君が待ってるよ」
ハードボイルドを気取りながら、意外と涙もろい大藪であった。
まあ、どうせなら、事件とは無関係の、同じような孤独なリスナーたちの様子も挿入すると良かったかもしれないが、難しいかな。
後はもう詳しく書く必要もあるまい。
かおりや大作の呼びかけに、桃子は死ぬのをやめてマリーに戻ってくる。
ラスト、大作や徹、桃子一家も一緒に、深夜のクリスマスパーティーが開かれる。
さすがに最初は緊張していた桃子や大作だったが、圭介たちのお陰で、徐々に打ち解けていくのだった。
以上、傷付き、壊れやすい少年少女たちの心情を、温かな眼差しとリアルなタッチで描いた佳作であった。
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