第15話「ムシ歯になった宇宙人」(1972年1月9日)
の続きです。

CM後、ようやくバルを診察台に連れ戻し、治療を再開している田辺医師。
ひかる「どうぞ」
バル「やめて」
田辺「はい、痛くないのよ。痛くないのよ」
なにしろ相手がバルなので、田辺医師の治療方法も、ドリルを口の中に突っ込んで引っ掻き回すという、乱暴なものだった。

竜村「か、怪物だ。確かに怪物が見える!」
そして、それらの様子も、路上から竜村にすべて見られていた。
もっとも、そこから診察室の中が見えるのなら、最初に進たちが戻って来た時にも、ひかるやバルの姿が見えてないとおかしいんだけどね。
ともあれ、治療の方は無事に終わる。
田辺「どうもどうも」
ひかる「終わったんですか? バル、具合は?」
バル「ありがたや、お陰ですっきりしましたわい」

ひかる、長居は無用とばかり、治療代も払わず、リングに息を吹きかけてパッと姿を消すと同時に、入れ違いに、写真の中に閉じ込められていた三人を診察室に転送させる。

旗野「ここはどこなんだ、もう……あら、田辺先生!」
田辺「おや、遅かったのね、旗野先生、では、早速見て上げましょう」
ひかるに記憶を操作されている田辺、何事もなかったように、旗野に座るように勧め、すぐ治療を始めようとする。
と、そこへ興奮して飛び込んできたのが竜村だった。

竜村「は、怪物は何処だ?」
田辺「急患ですかな?」
竜村「と、とんでもない、ワシは確かに見たぞ、この部屋にいたろう?」
ひかるとバルは、既に離れの隠し部屋に戻っていた。

バル「ほ、本当に、あの医者はワシを記憶しとらんじゃろうなぁ」
ひかる「ふふふ、苦労性ねえ、ちゃんと別の記憶を嵌め込んどいたから大丈夫」

ひかる「安心してお休みなさい、おじいちゃん」
バル「あい、ああ……」
ひかる、痛みが取れてやっと眠れるようになったバルをベッドに寝かせて優しく布団をかけてやる。
あってもなくても良さそうなシーンだが、ひかるとバルの家族のような親しさが感じられて、管理人の好きなシーンである。
だが、ひかるたちは知らなかったが、自分たちのせいで田辺歯科の診察室はちょっとした騒ぎになっていた。

母親「ウサギみたいな人間ですって? まぁ~」
竜村「いや、むしろ人間みたいなウサギでした。確かに見た、この目ではっきりと」
田辺「しかし私はここでずーっと仕事をしておりました。ウサギみたいな……」
竜村「人間みたいなウサギ!」
旗野「どっちにしても、そんな怪物は現に存在してないんです!」
竜村「違う、違う……」
竜村は必死に怪物の存在を主張するが、当の田辺医師が記憶を変えられているので、誰も信用してくれない。

進「タツノオトシゴ言ってたよ、パパがノイローゼらしいって」
母親「まあ、そうなの? お気の毒にねえ」
竜村「違う、ワシはノイローゼなんかじゃない、違う、絶対に違う!」
首を振って必死に否定する竜村だったが……。

翌朝、ひかるが学校に向かっていると、その途中、正夫が水準点の石柱か何かの上に腰掛けて、それを進とハルコが心配そうに見守っているのが見えた。
ひかる「おはよう。遅刻するわよ。どうしたの?」
正夫「……」
正夫、体の具合でも悪いかのように、つらそうな顔で俯いているばかりで、返事すらしない。
いつも必要以上に元気の良い正夫にしては、かつてないほどの落ち込み方だった。

ハルコ「ねえ、いつもの勢い何処行ったの?」
進「メンコ付き合うよ、下手だけど」
なんだかんだで優しいハルコちゃんがもったいなくも肩に手を置いて気遣ってくれるが、
正夫「いいんだよ、俺……やっぱし帰るよ」
ひかる「熱でもあるの?」
ハルコ「お父さん、精密検査に行ってるんですって」
ひかる「えっ?」
正夫「家で待っててやんないとね。んじゃ……」
正夫、そう言って学校とは反対側に向かってふらふら歩き出す。
今までの描写、そしてこの正夫の台詞から、てっきり、竜村と正夫は、父ひとり、子一人の親子なのかと思ってしまったのだが、後に、正夫に普通に母親がいることが分かって、若干肩透かしを喰らった管理人であった。

ひかる「竜村さん、ご病気? いつから?」
ハルコ「ゆうべから」
ひかる「そう、急病なのね」
進「社長も辞められるそうです」

ハルコ「しょげてる彼なんて、彼らしくないわ」
おぼつかない歩き方で遠ざかっていく正夫の背中を見ながら、ハルコちゃんがつぶやく。

ひかる「まぁ、あの、理事長まで?」
校長「竜村さんらしい、こういう精神状態が続く限り、一切の公職を辞退すると仰る」
教頭「潔いお覚悟でございます」
職員室で、ひかるはさらに、竜村が理事長の職からも退くつもりだと聞かされ、ますます驚く。
ひかる「一体、何があったんですか」
校長「全く信じられん、あの理事長がウサギの幻などを見られるとはなぁ」

ひかる「ウサギ?」
「ウサギ」の一言で、早くも、何か不吉な予感を感じるひかる。
教頭「いえ、その、ウサギともつかず、人間ともつかず、まことにもって奇妙ケツレツケッカイな化け物を田辺君のうちで見たと仰るので……」
ひかる「あ……」
教頭からより詳しい話を聞いたひかる、たちどころに、竜村が見たのは他ならぬバルだと気付いて、思わず喉の奥で声を上げる。
校長「実に残念だ。頑固だが、責任感旺盛なお方だった」
あの副社長とは違い、校長は芯から竜村の退任を惜しんでいるようだった。

放課後、ひかるは旗野先生を伴って竜村の自宅を訪問する。
それにしても、この風の強い日に、この豪快なミニスカは、なかなかデンジャラスである。

ひかる「何が何でも理事長に考え直してもらわなくっちゃ。旗野先生、協力してね」
旗野「協力しますよ、もう、月先生のためならエーンヤコラですからね。しかし、あなたが理事長のファンだとは知らなかったなぁ」
ひかる「そういう訳じゃないんだけど……」
旗野「ほーん」
旗野先生、ひかるの真意を測りかねたが、それでも素直にひかるについていく。
無論、ひかるには、竜村が見たのは自分の同僚だとは言えないのだった。
応接室で、竜村に会うひかると旗野先生。
何気に、二人が理事長に会うのはこれが初めてなのだった。そもそも、太宰さんは特別出演的な扱いで、ほんの数話しか出演してないんだけどね。

竜村「お言葉は嬉しいが、ワシの決心は変わりませんな。ノイローゼの男が、社長だの理事長を務めては、会社に済まん、学園にあい済まん」
ひかる「ですから、ノイローゼなんて考え過ぎですわ。ねえ、旗野先生?」
旗野「……」
ひかる、旗野先生に水を向けるが、また虫歯が痛み出したのか、旗野先生は頬に手を当てて黙り込んでいた。ひかる、仕方ないのでスリッパを履いた足で、旗野先生の足をぐりぐり踏みつける。
旗野「ぎっ……あ、そうです、考え過ぎです」

ひかる「ウサギの幻見たぐらいでそんなぁ……ねえ、旗野先生」
さもなんでもないことのように明るい笑顔で言い、再び旗野先生の足を蹴る。

旗野「そうですとも。僕たちなんか、動物園の幻を見ました。しかし、正気ですねえ!」

旗野「正気かな、俺?」
にこやかに断言した後、横を向いて考え込む旗野先生。
ひかる、どうやら進の父親以外の三人の記憶は消さなかったらしい。
竜村「ありがとう、だが、社長は大勢の人間の暮らしを預かる仕事です。いわば飛行機のパイロットだ。万一のエラーも許されん。そこをわかってくださらんか」
旗野「はあ」
竜村「ミスをしてから百万遍詫びるより、ミスをしない前に辞める、これが竜村流の責任です」
旗野「うーん、なるほど……」

ひかる「うん……?」
早くも旗野先生の態度がぶれ始めたのを感じて、ひかるが眉をひそめて横顔を睨む。
案の定、14話でも見られたように、旗野先生は人の意見に流されやすいたちで、
旗野「さすがは理事長、ただの頑固オヤジじゃなかった、旗野旗郎、感服仕りました!」
翻意させるどころか、その決意を絶賛してしまう始末。
ちなみにこの台詞で、旗野先生のフルネームも分かってしまった。なかなか発見の多いエピソードである。

ひかる「むんっ」
ひかる、ムッとしてその足を思いっきり踏みつける。

ひかる「うおっ! いってえ……うぐ」
16話でも話題になるのだが、ひかると旗野先生がもし結婚していたら、旗野先生も田辺医師同様、完全にひかるの尻に敷かれていただろう。
ま、ひかるのお尻になら、自分だって喜んで敷かれてみたいものだが……。
竜村「ただ、ワシが仕事を辞めるとなると、気の毒なのは家の連中、ことに正夫なんだが……正夫にはワガママ放題させましたからなぁ。親父が失業してどう変わるか……」
竜村、自分の進退についてはもうふんぎりがついているようだったが、これからの家族の生活のことは、心配で堪らない様子だった。
しかし、普通は結婚してれば、そういうことはまず奥さんに相談するよね。
ま、母親役の女優を出すのを(ギャラ的に)惜しんだのだろうが、いかにも不自然な感じを受ける。
あるいは、この段階では、正夫の母親は既に亡くなっているつもりで辻真先さんがシナリオを書いていたのかもしれない。
と、例によってドアの外で立ち聞きしていた正夫、このタイミングで部屋に入り、

正夫「まあ、くよくよすんなよ、こういう時のためにね、俺が体を鍛えておいたから、アルバイトでジャンジャン稼いでやるからさぁ。まぁ、大船に乗ったつもりでいなよ」
竜村「そうかそうか」
正夫、泣き出したいのを我慢して、つとめて明るい声と態度で、逆に父親を励ます。

ひかる「正夫君……」
正夫の担任としてその性格を知り抜いているひかるには、正夫の気持ちが痛いほど分かるのだった。
竜村「楽しみに乗せてもらうよ、ワシは良い息子を持った」
正夫「本気だよ、父ちゃん、見てくれこの逞しさ、親のね、ふたりや三人、軽く食わせていけんだよ」
竜村「……」
息子の健気な言葉に、懸命に涙を堪える竜村。

旗野「オトシゴ、その意気だぞ。鼻っつまみだけれど、そこがお前のいいところだ」
ひかる「正夫君、お父さん思いなのね」
だが、正夫も、ひかるたちから褒められると、不意に涙が込み上げてきて、部屋から逃げるように飛び出してしまう。
結局、ひかるの説得は失敗に終わる。
続いて、自分の部屋の中で行ったり来たり悩んでいるひかるの姿になるが、ここでもナレーターが、
ナレ「かぐや姫先生は大変です。何故って? 正夫君のパパがノイローゼになった責任は月先生とバルにあるんですから」 と、言わずもがなの解説を加えるのが、はっきり言って鬱陶しいのである。
そもそも、この手のドラマって、ナレーター自体別に要らないんだけどね。予告は菊さんか牟田さんがやれば済むことだし。
ひかる「なんとかしなくちゃ、タツノオトシゴかわいそうだわ」
が、良い思案も浮かばず、バルに相談しようと隠し部屋に行くと、バルは通信機に向かって何やら作業をしていた。

ひかる「バル、何してんの?」
バル「おお、姫か。宇宙連合にの、辞表を送ったところですわい」
ひかる「辞表ですって?」
バル「さよう、わしはこれからその地球人に詫びてきますのじゃ」
ひかる「ダメよ、そんなことをしたら罰を受けるわ」

バル「いや、その為の辞表じゃ、いずれわしの代わりが地球に着くでな、姫はそれまでのご辛抱」
ひかる「ね、ね、やめてバル、ね?」
バル「いや、わしゃやめん、老いたりとはいえ、アルファ星人バルはモラルに殉ずるのじゃ! おとめくださるな、パイショ!」
バルも、竜村と同じようなことを言って、ひかるが止めても翻意せず、杖をかざして屋外へ瞬間移動してしまう。
ひかるも慌てて指輪に息を吹きかけて追いかける。

バル「あ……止めるなと言うのにもう、パイチョ!」
二人にして、ブランコの上に出現するが、バルは再び杖をかざして消えてしまう。
それにしても、ミニスカの女性がブランコに立ってるって、実に良い眺めですなぁ。
さらに、

ひかる「バルっ!」
足元が安定しないので、つい体が前のめりになって、張りのあるバストが押し出されるのも、大変目に喜ばしいショットとなっております。

今度はジャングルジムの上に現れる二人。
バル「ああ……」
ひかる「とめやしない、私も行く」
バル「なんと?」
ひかる「バルが辞めるなら私も辞めるわ。でも、それよりもっと良い方法があるわ」
バル「あるもんか、パイショ!」

ひかる「あっ、バルぅ」
ひかる、指輪に息を吹きかけて、消えたバルを呼び戻す。
ミニスカワンピの女性が、ジャングルジムの上に立っている姿も、これまた妙に嬉しいものなのです。

バル「どんな方法かねー?」
ひかる「あのね」
最後は、バルの耳に顔を近付ける為、体を伸ばすことでミニスカの裾が引っ張られて、中身が見えそうになるところも、実に素晴らしいのです!
後期の衣装も素敵だが、やっぱり、どんなに寒くてもミニスカで通して欲しかったなぁ。
一方、竜村の会社では、すっかりやる気をなくした竜村が、副社長に社長の椅子を文字通り譲ろうとしていた。
と、会社の前にひかるとバルがやってくる。
ひかる「いいバル? 絶対に竜村さんに姿見せちゃダメよ」
バル「ああ、任せてくだされ、パイチョ!」

副社長「ノイローゼの自覚症状がおありになった? そうですか、そうでしょうな。早くお気付きになって結構でした。では、私、皆様のご賛同を得まして……」
副社長、取り巻きたちの拍手を受けて、遠慮なく社長の椅子に座ろうとするが、その時、彼らの眼前に、いきなりバルがあらわれる。

副社長「ひあああーっ!」
竜村「なんだなんだ、どうした?」
思わず身をのけぞらす副社長であったが、竜村が何事かと振り返ると、もうバルの姿は消えていた。
気のせいかと副社長たちも安堵しかけるが、

後ろを向くと、今度はソファの上にウサギの化け物がふんぞり返っているではないか。
そして、竜村が彼らの叫び声に振り向いた時には、またしても消えてしまう。
そう、ひかるの作戦は、副社長たちだけにバルの姿を見せて、竜村には見せないことで、副社長たちをビビらすと同時に、竜村に自分がノイローゼではないと言う自信を持たせようと言う、「心理学の天才」ならではの巧妙な作戦だったのだ。
掃いて捨てるほどある特撮ヒーロー番組の、最後は武力で問題を片付けようとする野蛮な姿勢と比べて、このドラマの解決法のなんと知性的なことよ(詠嘆)。
ああ、それなのに、その真価に気付かず、わざわざ自分たちの手でただの特撮ヒーロー番組に路線変更してしまったスタッフ(と言うかプロデューサー)の、なんと愚かなことよ(詠嘆)。
それはさておき、バルの神出鬼没はますますエスカレートして、

次には、窓から見える向かいのビルの屋上などをポンポン飛び跳ね、ついでに、威嚇するような唸り声を出す。
……ま、言いたいことはあるのだが、やめておこう。

竜村「どこだ、どこだ、その怪獣は?」
最後は、

竜村「ワシには何にも見えんぞ。一体……」
副社長「うわーっはっはぁっ」
竜村自身の姿をバルに変えてしまうという荒業で、副社長たちの度肝を抜く。
副社長「救急車だーっ」
部下「精神病院だーっ」
会社から飛び出てきた彼らの前に、しつこくバルがあらわれて脅かしたので、とうとう、竜村ではなく副社長たちが揃って頭がおかしくなってしまう。

4人をズタ袋の中に入れ、副社長の坊主頭を撫でているひかるのそばで、バルが嬉しそうに飛び跳ねている。
バル「へへっ、勝手に気が狂いよった、あら、わしの責任では、なさそうじゃね」
ひかる「当然よ、謝らなくても問題は解決しちゃったわ」
バル「それでは、みんなまとめてパイチョ!」
バルの掛け声で、全員パッと姿が消えるのだが、副社長たちはこのまま精神病院送りになったのだろうか? だとすれば、自業自得とは言え、なかなかダークな結末である。
とにかく、前述したように実にユニークかつ痛快な解決手段で、マンネリ気味のハングマン諸君にも、少しは見習っていただきたいものである。
こうして竜村は、すっかりノイローゼが治ったと確信し、そのまま社長と理事長の職にとどまることになったのである。そして正夫が、以前のような元気を取り戻したのは言うまでもない。
以上、バルの虫歯騒動と、竜村産業内部の権力闘争(?)、二つの懸け離れたエピソードを見事にからめたストーリーが絶妙な、文句なしの傑作であった。
第7話の「魔女テスト」も、太一の鉄橋騒動と、ひかるの魔女疑惑と二つのエピソードを組み合わせたものだったが、あちらはそれぞれが独立しているような感じだったから、融合性はこちらの方が上だろう。
ちなみに管理人的ベスト3は、この15話、今挙げた7話、そしてこの前やった13話あたりだろうか。
もっとも、とにかくこの作品は傑作エピソードに事欠かず、他にも4話や8話、17話なども、ベスト3に入る資格を持っているのだ。
要するにベスト3ではおさまりきらないほど、傑作・名作が多いということなのである。
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