第36話「夜を蹴ちらせ」(1971年12月10日)
実に魅力的なサブタイトルである。

冒頭、道の両側や、家々の敷地に生えた木々が思う存分枝葉を伸ばし、頭上に自然のアーケードを形作っているような、実に緑の多い住宅地を、髪の長い、若い女性が歩いている。
そして彼女の後ろを、郷と岸田が車を徐行させて尾行していた。
郷「怪電波の主はやはりあのお嬢さんだ」
岸田「あんなお嬢さんがなぁ、ラジウムでも持って歩いてんのかな?」

と、彼らの会話が聞こえたように、急に振り向く謎めいた女性・鈴村みどり。
演じるのは同年の「美しきチャレンジャー」にも出ていた戸部夕子さん。

郷「あ、勘付かれたらしい」
二人とも、慌ててヘルメットで顔を隠すが、彼女に勘付かれるのも当然だった。
何故なら、
彼らはMATビハイクルで尾行していたからである! そりゃ、誰でも気付くっちゅうの。
良い子のMAT隊員のみんな、尾行するときは普通の車でやろうな! 約束だぜ?
それでもなお尾行を続ける二人だったが、

ある曲がり角を曲がったところ、忽然と女性の姿が消えると言う怪現象が起こる。
岸田「おい、何処行った?」
郷「おかしいなぁ」
それにしても、まるで森の中に造られたような自然豊かな街である。
50年前は、まだこんな街が普通にあったんだなぁ。

二人をまいたみどりは、とある住宅の門の前に立っていた。
チャイムの音に、家の中から、みどりと同世代の白いセーターを着た女性が出てくる。

美砂子「まぁ、鈴村さん……」
みどり「……」
みどり、口の端を少し上げて、笑って見せる。
この口の形が、まるで牙を生やしたように見えて、今回の役にはうってつけのキャスティングである。

美砂子「でも、鈴村みどりさんは確かこの6月に……」
みどり「はい、姉は今年の夏、別荘で亡くなりました。私、妹の道子です」

美砂子「はぁー、驚いた、私、みどりさんが化けて出たのかと思ったわ」
美砂子は、みどりの説明をあっさり信じて、通用口から中に入れてくれる。

美砂子「私、みどりさんは一人っ子だと思ってたわ。でも良く似てるわ」
みどり「私、生まれてすぐ養女にやられてたんです。姉の不慮の死で、実家に呼び戻されたんです」
管理人は、セーター越しに、美砂子のブラと乳首の突起が、割りとはっきり確認できることを皆さんと一緒に寿ぎたいと思います。
みどりと美砂子の関係は明示されないが、一緒に写った写真がたくさんアルバムに貼ってあるので、昔からの親友だったのだろう。
美砂子は、まるでみどりが生き返ったように、自称・道子の来訪を歓迎し、その思い出のアルバムを見せたりする。それどころか、

美砂子「道子さん、当分の間、家にいらっしゃいよ。私、素敵なボーイフレンドいっぱい紹介してあげるわ」
みどり「お願いしますわ」
夜中になってもみどりを引き止め、自分のネグリジェを貸してやり、
美砂子「じゃ、すべては明日、今夜はもう休みましょう」
そのまま家に泊めてあげるのだった。
うーん、いくら親友の妹だからって、初対面の人間を泊めるかね、普通?
ま、そこまでは百歩譲ったとしても、当然、別々の部屋で眠るのかと思っていたら、

夜中、みどりが目を覚まし、横を見ると、同じ布団の中に美砂子が寝ているのだった!
さすがにそんな奴おらへんやろ。 
それはともかく、みどりは体を起こし、美砂子の顔を異様な目付きでじっと見詰めていた。
ついで、雲の流れる夜空に浮かぶ月の映像に、美砂子の悲鳴が被さると言う、まるっきりホラー映画のような演出。
悲鳴を聞いて父親と兄らしき男性が寝室に踏み込むと……って、家族と同居しとったんかいっ!!
てっきり、美砂子、ひとり暮らしか、あるいは家族が旅行に出ていて寂しいのでみどりを泊めたのかと思っていたが。

ま、それはさておき、美砂子は無残にも首筋から二筋の血を垂らしながら、はかなくも絶命していた。
【教訓】 その日初めて会った人間と、同じベッドで寝るのは危険です。 そして家族は、窓から飛び出し、そのまま夜空を駆け上がっていく女性らしき姿を目撃するのだった。
今回、掴みはバッチリなんだけどなぁ……。
翌日のMAT本部。

丘「今度は池田山に吸血鬼が現れたのねえ」
郷「昨日の少女と関係があるかもしれませんね」
岸田「うん」
郷「見失ったのが失敗だったなぁ」

丘「うふっ、その少女と吸血鬼が関係あるかも? もしそうだとしても、電波とは関係ないわよ。吸血鬼なんて中世の遺物なんだもの」
二人が眉間に皺を寄せて話すのを見て、リアリストの丘隊員が笑ってそれを否定する。
上野「しかし、この吸血鬼の犯罪、今度で15回目だけど、どうも立派な家庭ばかり狙ってるようだな」
南「そりゃ金持ちは栄養がいいからね、血も旨いんだろうよ」
上野(金八風に髪を掻き上げながら)「じゃあ俺たちは大丈夫かぁ?」
彼らが談笑していると、伊吹隊長がスーツ姿の男性を伴って入ってくる。
伊吹「実は例の吸血鬼の一件で、警視庁から依頼があった」
神田「警視庁のなんだ神田です。実は今までこの一件はあくまで我々の仕事であると思っていたのでありますが、昨夜初めて、犯人と思われる少女の犯行後の姿を目撃したものが現れたのであります。犯人は地球の引力を無視して、空を飛びながら去ったと言うのであります」
と言う訳で、郷たち5人の隊員が、吸血鬼事件の調査に乗り出すことになるが、MATの制服姿で活動すると、吸血鬼事件が宇宙人の仕業だと気付かれて騒ぎになるかもしれないと言う理由から、全員私服姿での活動となる。
で、我らが愛しの丘ユリ子姫も、貴重な私服姿を披露しているのだが、

それが色気のない薄いゴールドのスーツで、しかも映るのはほんの一瞬と言うのが実に物足りないのだった。
再びMAT本部。
伊吹「諸君の報告をまとめたところ、犯人らしい少女は別荘地で知り合った家を訪問してるらしい。そしてその少女が本当に吸血鬼の姿で空を飛んだとしたら、だ」

丘「もし宇宙人が、吸血鬼の法則を利用しているのなら、その少女はもうとっくに死んでる筈ですわ」
伊吹「そのとおりだ。吸血鬼は実は死者の肉体を借りてるんだ。我々はこの半年の間にその別荘地で死んだ少女を探り出さねばならない、そこになにか隠された秘密があるに違いない」
しかし、それだけで
「吸血鬼が死者の肉体を借りている」と決め付けるのはどうかなぁ?
単に、宇宙人が人間の姿に化けているだけかもしれないではないか。
あと、MATが15件もの事件を調べれば、被害者が事前に、鈴村みどりと言う(死んだ筈の)女性と会っていた事実くらい、とっくに突き止めていそうなものだけどね。
冒頭の美砂子だって、他人を家に泊めるのだから、家族にみどり(道子)のことを紹介するのが普通だと思うんだけどね。
それはさておき、郷が、岸田隊員と一緒に別荘地に調査に行きたいと申し出るが、

丘「私も参加させてください、吸血鬼はどういうわけか、女ばかり襲っています。場合によったら、私おとりになりたいんです」
大変嬉しいことに、丘隊員も同行を申し出てくれるのだった。
珍しい組み合わせで、MATアローで移動中の三人。

郷「少女の体を利用するとは、宇宙人も考えたもんだ」
岸田「そう、それに、吸血鬼なんか日本にいないと考えられてるからな。みんな油断するんだ」
丘「宇宙人は我々の盲点を上手く突いたんだわ」
……
短いけれど、何気に突っ込みどころだらけのやりとり。
そもそも宇宙人が地球を侵略するのに、いちいちその土地のお国柄まで調べるかなぁ?
それに、「油断」もなにも、見掛けは普通の少女なのだから、吸血鬼の存在を信じていようと信じていまいと、関係ないのでは?

別荘地に着陸し、湖のほとりの、美しく紅葉した木々のそばを歩いている郷たち。
さいわい、該当する少女はひとりしかいなかった。無論、鈴村みどりである。

鈴村家を訪れ、応接室の暖炉の上に置かれた、セーラー服姿のみどりの写真を見ている郷。
やがて父親の鈴村四郎と言う老人が顔を出す。

岸田「MATのものです」
鈴村「ああ、いや、ご活躍のほどはよく存じております」
鈴村の賛辞が、まるっきり皮肉にしか聞こえないのは管理人の気のせいだろうか?
郷「実は亡くなられたお嬢さんのことでお伺いしたいことがありまして」
鈴村「ああ、娘のことですか。いや、あれは実にかわいそうな子でしたよ。間もなく婿を取ることになり、私も喜んでおったんですが、心臓麻痺で……」

丘「では、亡くなられた時の顔も、お綺麗だったでしょう?
私みたいに」
なんか、さっきから丘隊員の顔ばっかり貼ってるような気がするのだが、多分、気のせいではない。
鈴村「どういう意味ですか、それは?」
郷「ええ……」
郷も、どう説明していいのか苦慮していたが、鈴村は何を勘違いしたか、自分から、娘を愛するあまり、火葬にせず、特殊な防腐処理を施して、そのままの姿で棺に納めてあると告白する。

鈴村は、郷たちを、その棺の納めてある、森の中の洞窟に案内する。
ここは、こないだ書いた「コセイドン」の最終話にも出てきたなぁ。
鈴村「ここです、どうぞ」
丘「私、ここで見張ってます」
丘隊員ひとりを残して、三人は真っ暗な洞窟の中へ。

ひとりになった早々、奇妙な鳥の声を耳にして、思わず頭上を振り仰ぐ丘隊員。

鈴村は二人を連れて、洞窟のどん詰まりにある、エジプトのファラオが眠っているような、人型の石棺まで辿り着く。
ちなみに、彼らが来る前から明々と燃えていた蝋燭、一体誰が火を付けたのだろう?
鈴村は、「みどり、お父さんだよ」と呼びかけながら、重い蓋をずらすが、案の定、棺の中は空っぽであった。
と、同時に、
丘「あーっ!」 丘隊員の前に恐ろしげな顔をしたみどりが現れ、その血を吸おうと襲い掛かってくる。
丘隊員「きゃあ、きゃあっ!」 男勝りの丘隊員も、思わず可愛らしい悲鳴を上げて逃げ惑う。
すぐ郷たちが駆けつけ、岸田がその腕を掴んで押さえ付けようとするが、

鈴村「みどり!」
みどり「……」
鈴村の声に、急にみどりが大人しくなり、一瞬悲しそうな目をすると、岸田の手を振り解いて森の中へ走り去ってしまう。
しかし、みどりは一度完全に死んで、その体を宇宙人に操られているだけなのだから、父親の声に動揺すると言うのは変だよね。
まぁ、美砂子とのやりとりから見ても、宇宙人はみどりの記憶を自分のものにしているようだが、人格まで残っているというのはね……。
最初から、みどりは死んだのではなく、宇宙人に乗っ取られて仮死状態になっていたことにし、また、血を吸われた女性も、死んだのではなく、昏睡状態(あるいは吸血鬼のしもべ)になるだけにしておけば、最後にウルトラマンが宇宙人を倒せば、みどりが生き返り、ほかの女性たちも元に戻る……と言うハッピーエンドにすることも可能だったのに。
また、その場合は、女性を殺すのが目的ではなく、血を吸うことそれ自体が目的だったことに変えねばならないが。
それはともかく、みどりは郷たちに追われて森の中を走った挙句、美砂子のときのようにそのまま空に飛び上がって行ってしまう。
郷たちもMATアローで追跡する。

風を切って空を飛んでいるみどりの映像。
同時期の「魔女先生」で、ひかるが空を飛んでいるトホホな特撮とは雲泥の差である。
結局少女の姿を見失う郷たちだったが、消えた付近を捜索して、巨大な宇宙船が山間に着陸しているのを発見する。
CM後、既に夜が訪れ、伊吹隊長たちも現地に到着している。
岸田は即攻撃を訴えるが、慎重な伊吹隊長は、「吸血鬼は朝が弱いから」と言う非論理的な理由で朝が来るのを待つことにする。
離れたところで宇宙船を監視していると、郷の頭に宇宙人が直接話しかけてくる。
声「ウルトラマン、我々は人類を滅ぼしたいのだ。そしてその為に若い女を狙う。女さえいなければ人類はおのずと滅びるのだからな。はっはっはっ……」
郷「……」
そして、なんと、彼らの行動が、人類を滅ぼす為に生殖能力を持つ女性を皆殺しにする為と言う、端的に言って、アホみたいな動機によるものだったことが判明する。
そんな悠長な方法で女性を殺して行ったとしても、到底、人口の増加ペースを上回ることは出来ないから、彼らの目的は永久に達せられないことに、郷は同じ宇宙人として忠告してやるべきだったろう。
これが、血を吸われた女性が特殊なウィルスによって生殖能力を失い、さらに、その女性からまた別の女性にウィルスが感染する……とかだったら、まだ分かるんだけどね。
それにしても、こんなアホな目的の為に命を奪われた15人の女性が気の毒でならない……。

声「裏切り者ウルトラマンよ、お前は元々人間ではない、それなのにどうして人類の味方をする? 我々宇宙人の味方を何故しない?」
郷「黙れっ!」
宇宙人のあつかましい要求に、思わず立ち上がって叫んでしまう郷。
伊吹「どうした、郷?」
郷「いえ、なんでもありません」
ちなみに、どう考えてもアホの宇宙人ドラキュラスの声は、31話のゼラン星人と同じである。
その落ち着き払った知性的な声と比べて、やってることのアホさ加減との落差がひどいのである。
この後、宇宙船が離陸し、色々あって、

最後は巨大な耳を持った、コウモリのような怪獣ドラキュラスが出現する。
伊吹隊長たちは直ちに攻撃を開始する。

湖のほとりで、丘隊員と一緒にその戦いを見守っている鈴村。

そのうち、怪獣の姿が、巨大なみどりの姿に変わり、笑顔を浮かべながら、身を屈めて鈴村に手を差し伸べてくる。
鈴村「みどり!」
郷「鈴村さん、何をするんです!」
我を忘れて走り出す鈴村を、郷が必死に抱きとめる。
しかし、この巨大みどり、結局なんだったのだろう?
ここで鈴村にちょっかいを出してもドラキュラスには何の得にもならないから、鈴村が見た幻影だったのか、それとも、みどりの霊が父親に救いを求めたのだろうか?
ここで郷がウルトラマンに変身し、ドラキュラスとの戦いになる。
ドラキュラスに首筋を噛まれ、エネルギーを吸われて往生こくウルトラマンだったが、最後はウルトラブレスレットを空に投げ、

その強烈な光で、一時的に闇の世界を打ち払う。
その眩しさに、思わず目を覆う伊吹たち。
これは、元々昼間にフィルターつけて撮影しているのを、普通に撮影したものであろう。

怪獣が怯んだ隙に、ウルトラマンはブレスレットを巨大な十字架の槍に変えて投げ付け、

その心臓に、深々と突き立てるのだった。
ま、別に普通にスペシウム光線でも倒せていたであろうが、吸血鬼伝説にかこつけた、ウルトラマンの「お遊び」であったろう。
ドラキュラスはばたりと倒れると、吸血鬼のように灰になり、風に巻かれて飛んでいく。
そして、その後には、美しいみどりの遺体が横たわっていた。

ラスト、エノコログサの林の向こうから、郷がみどりの体をお姫様抱っこして歩いてくる。
鈴村「みどり、許してくれ、お父さんが間違っていたんだよ。許してくれ」
その体を地面に横たえ、縋り付いて詫びる鈴村。
が、相手が若い女性と言うことで、お父さんがその胸に顔をつけずに距離を保っているのが、いかにも奥床しい感じがするのです。
郷、その胸にロザリオを置いて、みどりに安らかな眠りを訪れることを祈るのだった。
以上、導入部は大いに期待できたものの、それ以降がイマイチな惜しい作品であった。
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