第17回「はぐれ狼の初恋」(1985年8月13日)
タイトルからも分かるように、路男が初めて千鶴子への愛を認識する、大きなストーリー上の転換点となるエピソードである。
冒頭、紅葉坂教会に来ているしのぶと静子。
若山は、教会で預かっている青少年たちに、しのぶを紹介する。

若山「えー、今日からこのしのぶさんがエリカさんと一緒にみんなの面倒を見てくれることになった。しのぶさんはかつて不良の経験もあるからして、きっと諸君のいいシスターになってくれるものと思うぞ」
しのぶ「あの、そんな話聞いてませんけど……」 一方的に決め付ける若山に、いつも管理人が書くギャグのような台詞で抗議するしのぶ。
しかし、「不良の経験もある」と言うが、しのぶが不良化していたのは、ほんの短い期間、それも一種の擬態だったのだから、いささか羊頭狗肉の感がある。
若山「まあ、いいじゃないか、
減るもんじゃなし」
エリカ「先生、大丸様からお電話です」
若山、頷いて教会に入るのだが、

何故か、若山の背後で、猛が寝ているのだった。チーン。
話の展開がめまぐるしいので忘れがちだが、猛は前回、命懸けで千鶴子たちを島田たちから逃がし、重傷を追って教会に舞い込んできたのだ。

若山「ああ、もしもし、俺だ。……なに? 千鶴子さんが刺されたっ? え、蚊に……? 赤く腫れてる? 知るかっ! そんなことでいちいち電話してくるなっ! 爪でバッテンでもつけとけ!」
じゃなくて、
若山「千鶴子さんが刺されたっ? 冗談だろ? おい、千鶴子さんと雅人君はいま、飛行機の中だろ? なに、路男が? 路男が千鶴子さんを?」
剛造「ああ、路男は明らかに俺を狙ったんだ。ところがな……」
前回のラスト、千鶴子が咄嗟に父親を庇って代わりに刺されたシーンが回想される。
剛造「千鶴子は、空港の医務室で応急手当をして東京へ移送した……」
剛造は、則子と一緒にその病院へ向かう途中、自動車電話で若山に電話してきたのだった。
若山「生死は予断を許さんそうだ。路男の奴、なんてバカなことを!」
静子「千鶴子ぉ」
その路男は、警察に捕まりもせず、優子の運転する車に乗って逃走中であった。

千鶴子を刺したナイフの柄から、血糊がべっとりついた自分の指を、反対の手で一本一本引き剥がしている路男。
あまり強く握り締めていた為、指が硬直して動かないのだ。
優子はそのまま若山のところへ路男を連れに行くつもりだったが、路男は途中で強引に停めさせ、いずこともなく走り去ってしまう。
一方、千鶴子の移送された病院。
千鶴子は剛造夫婦、耐子に見守られながら、ストレッチャーで処置室へ運び込まれる。

耐子「お姉さん……」
剛造「不良になって以来、私はあの子に冷たくしてきた。その千鶴子が身を以って私を庇ってくれるとは……千鶴子、死ぬな、死ぬんじゃないぞ!」
なんといっても18年間一緒に暮らしてきた家族である。千鶴子の不良化によって生じた確執も、千鶴子の犠牲的行為で何処かへ吹き飛んでしまっていた。
しかし、両親が涙ぐむのは当然にしても、今まで千鶴子に対し「あんたなんて大っ嫌いっ」「あんたなんか姉さんじゃないっ」などと罵声を浴びせまくってきた耐子まで、落涙してその身を気遣っていると言うのは、いささか唐突な感じもする。
やがて、若山、静子、しのぶも見舞いに駆けつけるが、しのぶは、直前で、自分は剛造に会わないほうが良いと引き返してしまう。
付き添いのプロを自任している静子は、剛造に、自分に千鶴子に付き添わせてくれと嘆願する。
剛造も則子も、場合が場合だけに、快くそれを受け入れる。
若山「大丸、ちょっと……」

若山「路男のことなんだが、お前、警察には?」
剛造「無論、通報した。奴がしたことは、俺に対する殺害未遂、千鶴子に対する傷害だ」
若山「気持ちは分かるが、警察沙汰だけにはしないでくれ」
剛造「断る。たとえ路男がお前の弟子であっても許せん!」
若山「路男はワルと言われているが、その内側はこの花のように至純な魂を持った青年だ。その彼を刑務所に送り込めば、その魂も暗黒に閉ざされて枯れ果ててしまう。無理を承知で頼む、逮捕だけはさせないでくれ」
若山はそう言うのだが、そんなこと言い出したら、年若い犯罪者は誰も刑務所に行かなくて良いってことにならないか?
それに、あんな公共の場で思いっきり人を刺したら、被害者がどーのこーの言ったって、絶対逮捕されなきゃおかしいよね。
若山は、その点については、剛造の権力と金の力で誤魔化せるだろうと、牧師らしからぬ生臭いことを言ってるけどね。

剛造「……」
だが、若山に言われて、剛造も反射的に過去の古傷を思い返していた
18年前、剛造は、千鶴子を誘拐した(のは路男の母親なんだけど)路男の熱血オヤジを、心ならずも自殺に追いやってしまっていたのだ。
その事件こそ、路男を復讐の鬼と化してしまった原因なんだけどね。
その時の悲惨な情景がフラッシュバックし、最後に、

路男「……」
自分を物凄い目付きで睨みつけている、たいへん可愛らしいお子様の映像が脳裏に浮かぶ。
剛造「やっばダメ!」 若山「ええっ?」
じゃなくて、
剛造「そうまで言われてはな……」
若山「では、承知してくれるんだな?」
若山、深々と頭を下げるが、
剛造「奴の将来を考えてのことじゃない。千鶴子に万一のことがあれば、刑務所に入れるくらいでは気が済まん。この手で殺してやりたいからだ」
若山「大丸……」
物騒なことを口にする剛造。
だが、それは、なんだかんだで剛造が千鶴子のことを深く愛していることの裏返しでもあった。
病院の廊下の奥には、手島が南部開発調査部(通称ナンチョー)の猛者を引き連れて控えていた。

手島「路男が現れるとすれば、あの牧師のところ以外にない、目を離すな」
なんか、回を追うごとに貫禄がついてきた感のある手島さん。

ナレ「千鶴子の傷は意外に重く、その夜も、危篤状態が続いた……」
ナレーターがわざわざ「意外に」と言っているのは、刺された際、千鶴子のハンドバッグが盾になって、大したことはないだろうと剛造たちが楽観していたからなのである。
静子、付き添いのプロとして必死に千鶴子に付き添っていたが、

カメラが反対側に切り替わると、そこには、剛造と則子と若山と耐子まで付き添っているのだった。
静子(やりにくいわぁ~) OP後、若山が病院から出てくると、路男が血に汚れたハンカチを手に、病院の敷地に立っていた。

だが、その表情は穏やかと言って良いほど落ち着いており、剛造を改めて刺しに来たのではなく、千鶴子の回復を祈っているように見えた。
若山が声を掛けると、路男は脱兎のごとく逃げ出す。
が、結局また教会に戻ってくるのだが、そこで待ち構えていた手島たちにボッコボコにされる。
手島「会長を狙った報復だ。そのぐらいの目に遭うのは当然だろう?」
手島たちが引き揚げると、入れ替わりに優子がやってきて、若山ともども路男の体を教会に運び込む。
ちなみに猛はとっくの昔に教会を飛び出しているので、ノープロブレム。

若山「バカモノめがっ、だから復讐などやめとけと言ってたんだ!」
路男「ちくしょう、千鶴子さえ邪魔しなきゃ、大丸をぶっ殺せてたんだ」
若山「お前は罪もない千鶴子さんを刺したんだぞ。それでも心が痛まんのか?」

路男「……」
よりによって、額の傷に消毒液を塗られている最中にそんなことを聞かれて、ほんとは痛くて痛くてたまらないのに、誤解されるのを恐れて何も言えない路男であった。
若山「お前が怪我さえしてなかったら、その頬げたを張り飛ばしてやりたいっ!」
若山が野獣のように吠えていると、教会の前で車が停まる音がする。車から降りたのは他ならぬ剛造であった。
若山たちは慌てて路男を奥の部屋に押し込んで隠す。剛造が持ってきたのは朗報だった。
剛造「大丸、千鶴子は助かったぞ」
若山「そうか、じゃあ峠は越したんだな」
剛造「ああ、千鶴子は若いし、回復も早いだろう。心配かけたお前に真っ先に知らせたくてな」
しかし、それこれ電話で済ますのが普通で、わざわざ娘のそばを離れて夜中にこんなところまで来ないよね。

路男「放せっ、こんの野郎ーっ!」
剛造「貴様は……」
路男「大丸、今度こそぶっ殺してやるぅ!」
と、結局押さえ切れず、路男がナイフを手に飛び出してきて、改めて剛造を殺そうと向かってくる。
みんなに必死に押さえられながら、松村さん、
「俺の役ってこんなのばっかりだなぁ」と内心思っていたのではないだろうか。
若山「大丸、逃げろっ」
剛造「私は逃げん、刺せるものなら刺してみろ!」

路男「くそう、ほざいたなぁ」
しのぶ「エリカさん、何をしてるの?」
しのぶ、何もせずに突っ立っているエリカを非難するが、エリカは微笑さえ浮かべながら、
エリカ「大丈夫です、今の路男さんに人殺しは出来ません。もう燃え尽きています」

路男「燃え尽きただと?」
若山「エリカの言うとおりだ、構わん、放してやれ」
優子「先生」
若山「構わん、好きなようにやらしてやれ」
若山、優子たちに言って路男をフリーにさせる。

両手でナイフを持って、恐れもなく仁王立ちしている剛造に近付く路男であったが、空港で千鶴子を刺した時の情景が目にちらついて、どうしても刺せないのだった。
路男「……」
若山「からの~?」 路男「えいっ」(ドス!)
剛造「ぐふっ! 若山、何を考えとるんだ貴様は?」
若山「すまん、つい……」
じゃなくて、その場に膝を突いてしまう路男。

若山「やはりお前には出来なかったようだな」
路男「……」
若山「からの~?」 路男「えいっ」(ドス!)
剛造「ぐふっ! ええいっ、やめいと言うとるだろうがっ!」
若山「すまん、つい……」
じゃなくて、剛造はしのぶの顔をチラッと見てから、部屋を出て行く。
若山、路男を立たせると、お待ちかねの説教モードに入る。

若山「路男、一口に刺すの殺すのと言うが、誰にもそう簡単にできることじゃない……」
しのぶ&優子&エリカ(ああ、始まっちゃった……)
最後に若山、身を以って剛造を守ろうとした千鶴子の気高い姿を見た瞬間、路男が恋に落ちたのだと指摘する。
路男「冗談じゃない、誰があんな女に惚れる? もう一息で復讐できたのに、邪魔しやがったあんな女に!」
若山「確かに憎いだろう、だがそれ以上にお前は千鶴子さんに惹かれている」
路男「黙れーっ! 黙れ、黙れっ! 出鱈目もいい加減にしねえと、いくら先生でも許さねえぞ!」 路男、再びナイフを手に取ると、切っ先を若山に向けて絶叫する。若山は若山で、
若山「俺の言うことが違うと言うのなら、俺を刺せっ! 刺してみろ!」 昔の学園ドラマの熱血教師みたいな台詞を張り上げて応じる。
しのぶ「……」
優子「……」
エリカ「……」
それを見ていた女子たちが、すっかりおいてけぼりの気分にさせられたの言うまでもない。
女子たちの冷ややかな眼差しにも気付かず、若山は路男の肩に手を置き、
若山「今こそ恨みを捨てるときだ。青春21、別の生き方をするのに決して遅くはない」
路男「俺から恨みを取ったら何が残る?
俺は大丸への恨みを一生忘れねえーっ!」
最後にもう一度大声を張り上げてから、部屋を出て行く路男。

熱帯性低気圧が過ぎ去ったようにホッとする女子たちであったが、残った若山は、なおも鬱陶しいひとり芝居を続ける。
感極まったように天を仰ぎ、溢れそうになる涙を堪えつつ、
若山「哀れだ。恋はこの世で最も祝福されるべき、人間的な、喜ばしい感情だ……。しかし路男の恋にいかなる喜びがあると言うのだっ?」 三人(聞かれても……)
若山「千鶴子さんは憎むべき大丸が慈しんでいる娘だし、雅人君と言う婚約者がいる。路男はよこしまな恋として自分を……さいなむことだろう。果てしなき苦しみ、悲しみ、痛み、くぅ、嘆きしか、路男のこ、恋にはありはしないのだっ!」
感情が高ぶるあまり、途中から何を言ってるのか良く分からなくなる若山。
後ろで聞いている三人が、必死に笑いを堪えようとしているように見えるのは管理人の妄想である。
若山「その先に死だけはあってくれるなと、はぁあああーっ(溜息)、ぐずっ(鼻をすする音)、俺は路男のために祈る、ほほかは、くく……」
名古屋さんの熱演なんだけど、正直、別にそこまでコーフンしなくても良いんじゃないかと言う気がしなくもない。
単に、路男が千鶴子に恋をしてるってだけのことなんだから。
もっとも、若山が最後に漏らした「死だけは……」と言う台詞は、極めて暗示的である。
この時点で、路男が死ぬことは既定路線だったのだろうか?
その後、自分の激情を爆発させるように、バイクでむちゃくちゃに土手の上などを走り回っている路男。
最後はバイクから投げ出され、草むらの上に横たわる。

路男「千鶴子、
千鶴子ぉおおおおーっ!」
翌朝、

なんとか命を取り留め……たようには見えない血色の良さだが、ニコニコとベッドの上から剛造たちを見ている千鶴子。
この汚れのない笑顔を見ただけで、剛造たちには千鶴子が不良になったのは見せ掛けに過ぎないことが分かりそうなものだが……。

剛造「良かったな、お前が命を取り留めたのも、眠らずに看病してくだすった静子さんのお陰だ」
静子「いいえ、私は……」
則子「千鶴子さん、私が食べさせてあげるわ」
産みの母と育ての母から、過剰なほどの愛情を注がれて幸せそうな千鶴子であったが、不意に、表から千鶴子の名を呼ぶ複数の声が聞こえてくる。
そう、鬼神組のみなさんであった。
耐子は彼らをひと睨みすると、カーテンを引いてしまうが、それは猛の目論見どおりだった。

猛「あの部屋か……」

剛造「追っ払ってきたまえ」
手島「はっ」
則子「さあ、冷めないうちにおあがんなさい。早く良くなってうちに戻ってもらわなくては」
千鶴子「……」
則子に促されて箸を手にした千鶴子だったが、ふと、考え込む顔つきになり、乱暴に箸を置く。

剛造「どうしたんだ?」
千鶴子「なんで追っ払ったりしたのさ? せっかく迎えに来てくれたってのにさ」
則子「千鶴子さんっ」
そして、例によって不良モードにスイッチして、がらっと喋り方を変える。
千鶴子「猫被ってたけどさ、私を誰だと思ってるんだい、
鬼神組のリーダーだよ。私が帰りたいのはあの連中のところなんだ」
猛(あれ、俺、いつの間にリーダーの座から滑り落ちたんだろう?) 剛造「じゃあお前は不良とは手を切って心を入れ替えて戻ってきたんじゃないのか。だからこそ空港では身を以って私を庇ってくれたんじゃ……」
千鶴子「誰があんたなんかの為に……あれはものの弾みだよ。お陰で痛い思いをして損したよ」
剛造「千鶴子!」
思うに、千鶴子の見え見えの不良モードに、いちいち剛造たちが青筋立てて「かまう」から、話が前に進まないのではないだろうか。
前述したように、ついさっきまで見せていた明るい笑顔を思い起こせば、それが「ふり」に過ぎないことは明らかなのだから、千鶴子が乱暴な口を利いても、
剛造「お、また始まったか」
則子「まぁ、可愛らしいこと」
静子「千鶴子さん、言いにくいけど、そのネタもう古いわよ」
などと、なんでもないように応対していれば、千鶴子も馬鹿馬鹿しくなって辞めてたんじゃないかと思う。
特に、生まれてこの方一度も冗談を言ったことのないような静子が、

静子「千鶴子は手術の後で気が立ってるだけなんですっ!」
千鶴子(あたしゃ、猫かっ!)
いちいちそれを大仰に庇い立てするので、ますます千鶴子が図に乗るのである。

静子「私に出来ることがあれば、何でも言って頂戴」
千鶴子「じゃあ、ひとつだけ頼みがあるよ」
静子「なんなの?」
千鶴子「そばによらないでってことさあっ!」 視聴者の予想通りの台詞を放つと、

給食のおばちゃんが一生懸命作ってくれたお膳を、思いっきり引っ繰り返してしまう。
剛造「行くぞ」
見下げ果てたとばかりに、剛造も則子も耐子も、そそくさと病室を出て行ってしまう。
静子は黙って散乱した食器や食べ物の片づけをする。

千鶴子「……」
だが、その直後、千鶴子はいかにもつらそうに顔を歪ませる。
無論、そんなことをしたのは、千鶴子の本意ではなく、雅人としのぶを結婚させる為、わざと剛造たちに嫌われて追い出されることを望んでのことであった。
もっとも、その様子を静子が見ているのだから、後で静子がそっと剛造にそのことを告げても良さそうなものだが、さすがにその表情だけではそこまでは分からなかったのだろう。
なにしろ、実の娘と言っても、つい最近になって初めて会ったばかりで、ほぼ赤の他人だからね。
後編に続く。
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