第18回「わたし達の明日」(1985年8月20日)
書き始める前に、気合を入れる必要のある「乳姉妹」のお時間です。
それにしても、千鶴子もしのぶも現役の女子高生なのに、学校に行ってる様子が全くないというのも変だよね。ま、今は夏休みとはいえ、この後も、学校のシーンはほとんどなかったと思う。
だから、当然、しのぶたちの担任のプリケツ男谷先生の出番も全くないのだった。おら悲すぃ。
そう言えば、こないだ「おんな風林火山」を見てたら、プリケツ男谷こと秋山信友が信長に捕まって、「ワイの部下にならんかえ?」と誘われるも、その顔にツバをひっかけたので、信長が激怒して、
信長「こやつを逆さハリツケにせいっ!」
プリケツ「えっ、逆さ? ちょっ、逆さって何よーっ? せめて普通のハリツケにしてーっ!」
と言う微笑ましいシーンがあったが、途中から嘘である。
閑話休題、さて、真鶴の別荘から雅人たちの手を借りて逃げ出した千鶴子だったが、雅人としのぶとを結婚させる為、すぐ彼らの前から姿を消してしまった千鶴子。
再び東京に戻ってきて、目的もなく街をぶらついていたが、
ゲンさん「そこの女、こっち見んじゃねえーっ!」 通行人がガンガン、伊藤かずえさんやカメラの方を見るので、ベテランカメラマンのゲンさん(仮名)の血圧は上がりっぱなしなのだった。
ゲンさん「お前もだっ!」 例によって、堪忍袋の緒を切ったゲンさんが、ナギナタ振り回して暴れ出しそうになったのをスタッフ一同で必死に止めた……と言うのは嘘だが、カメラマンが似たようなことを思っていたのは事実だろう。
しばらく街を歩いていた千鶴子、ふと、立ち止まると、
千鶴子(働こう……) と、番組始まって以来、と言うより、多分、この世に生を受けて以来の、殊勝な決意を固めるのだった。
もっとも、松村さんと同じくらい、働いている姿が似合わない伊藤さんのことである。
今回も、アルバイトニュースを見ているところを猛たちに見付かり、あえなくその計画は流れてしまう。
千鶴子は、鬼神組から抜けたいから、自分を好きなように痛めつけてくれと申し出て(註1)、マヤたちも望みどおりそうしようとするが、猛はそれを制し、
猛「俺はお前に惚れてんだ、組に戻れ、そしたら、俺を裏切って雅人とアメリカに行こうとしたことは目ぇつぶってやる」
猛にしては極力穏やかな和解案を提示する。
註1……不良が、そのグループから抜ける時は、仲間からフクロ叩きにされなければならないと言うのが、不良の世界、いや、大映ドラマの世界の不文律なのである。

千鶴子「誰が好きになってくれと頼んだ?
お前の顔など二度と見たくないよ」
猛「……」
が、例によって、何もそこまで言わなくても……と言うような罵言を浴びせて、余計な怒りを買ってしまう買い物上手の千鶴子だった。
しかし、いくらそういう性格だからって、殺気だったマヤたちに取り囲まれている状態で、そんなこと言うかね?
プライドが高いというより、
ただのアホなんじゃないかと思うときがある……
で、マヤたちからほどほどにフクロ叩きにされるが、

千鶴子「気は済んだかい? じゃあ、あんたらとは縁切りだよ」
それくらいで足を洗えると思ってる辺り、いかにもお嬢様らしい甘さであった。

猛「俺たちを軽く見てんじゃねえのか? 何処にも逃がすもんじゃねえ。
てめえを飼い殺しのブタにしてやる!」
何処からか注射器を取り出すと、独創的な脅し文句を並べて凄む猛。
さすがの千鶴子も真っ青になって逃げようとするが、多勢に無勢、たちまち体を押さえつけられ、

千鶴子「ちくしょう、放せ!」
抵抗空しく、生白い腕に、ぶすりと針を突き立てられる。
猛「ふっふっふっ、これでお前もブドウ糖のトリコになるんだ!」 千鶴子「ヒィイイイーッ! って、
シャブちゃうんかいっ!」
と言うのはむろん嘘で、大映ドラマに出てくる、いけないお注射とくれば、違法ドラッグの三冠王、覚醒剤と相場は決まっているのである。
突然の破滅的状況に、何を考える余裕もない千鶴子。
見上げた空には、雅人の優しい笑顔が眩しかった。
千鶴子「雅人さん……」
その雅人、千鶴子を勝手に逃がしたことで、剛造パパからこっぴどく叱られていた。
剛造、雅人が再び千鶴子と会ったら、一ヶ月間おやつ抜きの上、後継者の地位から外すとまで言う。
雅人は、剛造が出て行くとすぐ、てきぱきと荷物をまとめ始める。
雅人「僕は家を出ます」
則子「お父様は本気で仰ったのよ。お父様は命令に従わなければ、たとえあなたでも切って捨てられる方なのよ」
雅人「わかってます。僕は千鶴子ちゃんを(鬼神組から)引き取って一緒に暮らします」
だが、則子から、大丸グループの後継者としての雅人と結婚した方が、千鶴子にとっても幸せなのではないかと言われると、結局断念してしまうあたりに、所詮はお坊っちゃま育ちの雅人の限界が見て取れる。
たぶん、さっきの一件から数日経ってると思うが、

猛たちとぶらぶらガード下を歩いていた千鶴子の目が、壁に貼ってある一枚のポスターに吸い寄せられる。
皮肉にも、それは薬物乱用の危険性を訴える、標語ポスターであった。

千鶴子「……」
猛「……」
千鶴子「私、覚醒剤やめるわ」
猛「ああ、俺も覚醒剤なんかとは手を切って、甲子園を目指すぜっ」
一瞬で二人の若者を悪の道から救い出してしまうとは、恐るべし、キヨハラ!
じゃなくて、

それは、「人間やめますか? それとも……」と言う、超ありきたりの脅迫系標語ポスターであった。
まさに今、自分が引き摺り込まれようとしている恐ろしい世界をまざまざと見せ付けられ、呼吸困難になったような息苦しさを覚える千鶴子。
千鶴子「……」
猛「こんなもん見たって無駄だぜ、おめえはもう逃げられねえ」
一方、諦めの悪い路男は、まだ剛造のタマをとろうと情報収集につとめていた。
しかも路男は、あえて剛造が厳重な警備に守られている時に狙おうと、大それたことを考えていた。
それは、剛造をその強大な権力ごと叩き潰さねばならないと言う、路男の意地であった。

で、剛造をつけまわす路男の様子が映し出されるのだが、その中に、管理人もすっかり存在を忘れていた、大丸家の大きなワンコを剛造がひとりで散歩させている映像があって、これが妙に微笑ましいと言うか、心が和むシーンになっているのである。
つーか、超多忙の剛造が、手ずから散歩させると言うのも変なんだけどね。
だが、そう上手い具合に剛造の身辺が大警備陣に守られるようなイベントは開かれず、その機会はなかなか訪れなかった。
一方、若山の教会で若者たちと農作業をしていたしのぶに、千鶴子から電話がかかってきて、近くの公園で会いたいと言う。
何事かと急いで行ってみれば、金を貸してくれないかと言うおよそ千鶴子らしくない頼みだった。

しのぶ「これで足りる?」
千鶴子「ああ、ついでの時に返すよ」
しのぶ(返す気ねえな、コイツ……) 千鶴子、しのぶが差し出した数枚の千円札を掴むと、そそくさと帰っていく。
プライドがチョモランマより高い千鶴子が人に金を、それもよりによってしのぶから借りるなど、およそありえないことであった。
しのぶは胸騒ぎを感じて、千鶴子を追いかけて、鬼神組の事務所までやってくる。
千鶴子は、借りたばかりの金を猛に差し出すが、猛はそれで千鶴子の顔を引っぱたくと、

猛「これっぽっちで売ってやれるかよ」
千鶴子「おねがい、なんでもするからぁ。お願い!」
すっかりシャブ中になってしまった千鶴子、プライドも何もかなぐり捨てて、猛に縋りつき、果てしは土下座までしてみせる。

猛「じゃ、いい加減、俺の女になるんだな」
千鶴子「誰があんたなんか……」
シャブ中になっても、相変わらず二重人格の千鶴子。
そのことを持ち出されると、たちまちガラッと態度を硬化させて拒否する。
大映ドラマの世界においては、好きでもない男に処女を捧げるのは、覚醒剤中毒になるよりも許されざる行為なのである!
それでもその場は小さなパケを恵んでくれる猛。
千鶴子はすぐにそれを注射器に溶かして打とうとするが、扉の向こうですべて見ていたしのぶが飛び込んできて、力尽くでやめさせようとする。

猛「千鶴子はもう覚醒剤漬けよ、誰が来たってどうなるもんでもねえんだぜ」
大丸家の令嬢たるべき二人が、こともあろうに覚醒剤を奪い合ってくんずほぐれつしている浅ましい姿を、小気味良さそうに見物している猛たち。
千鶴子はしのぶを部屋から閉め出すが、「雅人さんにだけはこのことは言わないでくれ」と、涙ながらに頼むのだった。
OP後、しのぶはまたあの不良ルックに着替え、鬼神組に入りたいと言い出す。
しのぶ「教会で男の子たちの面倒見るのも飽き飽きしちゃってさあ……」
投げやりな口調でそう説明するしのぶだったが、無論、その真意は、再び不良の世界に足を踏み入れてでも、千鶴子を覚醒剤中毒の地獄から救い出そうと言うことだった。
長い付き合いなので、千鶴子もすぐそれを悟り、

いきなり、その顔をビンタする。

千鶴子「何言ってんだ、スカタン、不良張るのは東大入るより難しいんだよ。あんたなんかのガラじゃない、お節介はよしな!」
猛たちの手前もあり、あえて厳しい言葉でしのぶを突き放す千鶴子。
しのぶ「お節介じゃないわ、千鶴子さんに立ち直って欲しいだけよ」
千鶴子「生意気言うんじゃないよ! あんたはあの雅人とくっついてりゃいいんだ」
しのぶ「雅人さんが愛してるのはあなたなのよ!」
千鶴子「……」
しのぶの叫びに一瞬立ち止まる千鶴子だったが、それを振り払って猛たちのところへ戻る。
一方、大丸家では、若山が訪ねて来て、剛造に、今までの行きがかりはひとまずおいて、千鶴子やしのぶや雅人と……要するに、家族で一緒にメシを食ってみたらどうかと意外な提案をする。
剛造「俺と千鶴子のこじれた関係は、たかがメシくらいでどうなるもんじゃない。もっと精神的な問題だ」
若山「たかが、とはなんだ? メシも一緒に食えないで、精神もヘチマもあるかっ」
剛造は考慮する価値もないとばかりに切り捨てるが、若山も食い下がる。

剛造「とにかく俺は、不良になった千鶴子の顔など見たくもない!」
剛造がきっぱり拒絶すると、
若山「バカヤロウ!」 いきなりその横っ面を、若山が引っぱたく。
今まで人を殴ってばかりいた剛造、初めて味わうビンタであった。
……
どうでもいいけど、このドラマに出てくる人、人をビンタし過ぎです。
特に今回、異様に多い気がする。

若山「お前、忘れてやせんか? お前が襲われた時に、千鶴子さんは身を捨ててお前を守ったじゃないか!」
剛造「……」
若山「千鶴子さんは今、絶望の淵に沈んでいる。孤独に苛まれてるんだ。彼女にお前は何をしてやったと言うんだ? その千鶴子さんを食事にすら招待できんと言うなら、俺はお前を軽蔑する」
剛造、親友の言葉を黙って噛み締めていたが、やがてほろ苦い笑みを浮かべると、
剛造「困ったもんだな、俺の頑固さも……自分でもイヤになる」
あっさりと折れると、即座に手島に命じてスケジュールを動かし、千鶴子と食事をする時間を作らせる。
若山「殴ったりしてすまなかった」
剛造「いや、俺を叱ってくれるのはお前ぐらいのもんだ」
剛造直筆の招待状は、しのぶの手を通じて千鶴子に渡される。
当然、最初は渋っていた千鶴子だったが、しのぶにも説得されて、久しぶりに家族の団欒を味わいたくなり、招待を受けることにするのだった。

千鶴子「お父様、雅人さん……」
かつての令嬢の顔に戻って嬉し涙をこぼす千鶴子だったが、後方に佇んでいる猛たちが黙ってそれを見逃すとは思えなかった。
翌日、予定の時間より早く、剛造と則子、雅人が、かつてよく食事をしていた、高級フランス料理店に到着する。

とりあえず、アペリティフでも飲もうかと、ウェイターからメニューを受け取るが、

なんと、そのウェイターが路男であった。
これは、別に路男に双子の兄弟がいたとかそういうことじゃなくて、本物の路男がウェイターをしているのである。
剛造たちも一瞬ギョッとするが、剛造は何食わぬ顔で銘柄を選ぶ。
路男「かしこまりました」

雅人「あいつ、お父さんを狙う為にここに住み込んでたんですよ」
剛造「構うことはない」
しかし、これについて詳しい説明はないのだが、さすがに不自然だよね。
ファミレスとかならともかく、剛造が贔屓にしているような高級店であり、そんな店が、ウェイターの経験も推薦状もない路男をそんな簡単に雇ってくれる筈がないし、仮に雇ってくれたとしても、剛造のような大事なお客の給仕を、そんな新米にさせるとは到底思えないからである。
だいたい、盗聴器でも仕掛けていない限り、路男に剛造の詳しいスケジュールなど掴める筈がないし、そもそも、今回の食事会は突然持ち上がった話なのだから、路男があらかじめウェイターとして潜入しているなど、時間的・論理的にまずありえない話である。
雅人が言うように、以前からこの店にあたりをつけて住み込んでいたとしても、それなら、路男に剛造の後をつけまわしているようなヒマはなかった筈である。
脚本家も、その辺のことは承知しているのか、ナレーターもあえてこの件については言及しない。
さて、約束の時間を過ぎても、なかなか千鶴子は姿を見せない。
雅人は、千鶴子を呼んでくると言って中座する。

その千鶴子は、一応、ちゃんとした服に着替えていたが、剥き出しの腕の注射痕が気になって、どうしても出席することが出来ない。
ま、覚醒剤は「射ってよし、飲んでよし、つけてよし」と言われているが、実際のところ、静脈注射するのはよほど重度の中毒者に限られていて、初心者はソフトドリンクに溶かして経口摂取するのが普通らしいのだが、千鶴子は最初に注射された為、それが習慣になってしまったのだろう。
千鶴子「今日限り、こんなものはやめます……」
そう宣言して、パケを破り捨てようとするが、どうしても出来ない。

と、猛が入ってきて、洗面所の仕切りのカーテンを開き、
猛「どうした、早く行けよ。そのかわり、二度と覚醒剤を売らねえぞ」
その頃、雅人は既に鬼神組の連中と路上で激しく戦っていた。

雅人「どけ!」
回を追うごとにその強さを増している雅人、ほとんど中国拳法か何かの達人じゃないかと言うような動きで軽やかにチンピラたちをぶちのめしていく。
事務所に飛び込み、猛と同じくカーテンを開くが、

実に間の悪いことに、今まさに千鶴子が注射を打とうとしているところだった。
いや、少なくとも雅人の目にはそう見えた。
千鶴子「あ、雅人さん……」
一番見られたくない人間にそんな瞬間を見られ、かなり面白い顔になってうろたえる千鶴子。

雅人「なんだ、これは? 君はまさか……」
千鶴子「雅人さん、私、やめようと思ってたの、ほんとよ。信じて!」
雅人「……」
少々のことには驚かなくなっていた雅人であったが、さすがに千鶴子がそこまで深みに嵌まっているとは夢にも思わず、愕然として言葉を失う。
後編に続く。
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