第18回「わたし達の明日」(1985年8月20日)
の続きです。
一方、剛造たちも千鶴子のことは諦めて、食事だけ済ませて店を出ようとするが、

路男「剛造さん、頼みがあるんですがね」
剛造「ほう、頼みとは」
路男「あんたの日程が知りたいんです」
手島「会長、この男はそれを知って襲う気ですよ」
路男のあけすけな頼みに、当然、手島が注意するが、剛造はこともなげに、「教えてやりたまえ」と言う。
手島は仕方なく、大きなスケジュール帳を取り出して路男に渡す。

パラパラめくっていたが、やがてその目が、ひとつのスケジュールに吸い寄せられる。
路男(これだっ! これなら派手な警備が付く。俺にも大丸にも死に場所にふさわしい)
それは、スカンジナビア国王を、大丸山荘に招くと言うもので、路男がかねてから望んでいた警備の厳重なことが予想されるイベントだった。
ちなみにこのスケジュールの時刻がAM2:00のように読めて、一瞬、「え、そんな深夜に来るの?」と思ってしまったが、これはPMと書いてあるのが、AMのように見えているだけなのである。
剛造「いつでも襲ってくるがいい」
路男「そうとは言っちゃいない」
剛造「ま、どちらでもいい、この年になると死ぬのが怖くなくってな。この世の知人よりも、あの世の知人の方が多いもんでな」
余裕綽々の剛造、路男のやる気を削ぐようなことを言ってから、帰ろうとする。
ちょうどそこへ来たのが、若山としのぶだった。
若山「千鶴子さんは来なかったのか」
剛造「俺とは食事すらするのもイヤだと言うことだろう」
剛造が帰った後、若山は千鶴子の覚醒剤のことを路男に教える。

路男「それが俺に何の関わりがある?」
若山(食い気味に)「ばかものがぁ! お前は、女を愛しては大丸に対する憎しみを貫けん、そう思い定めて、千鶴子さんに対する熱い思いを禁じた。俺がお前にこんなことを言うのはな、憎しみよりも、愛を貫いて欲しいからだ」
路男「千鶴子には雅人がいるじゃねえか……」
路男、ふと思い出したように、雅人が千鶴子を呼びに行ったまま帰らないことを告げる。
若山としのぶは、雅人が覚醒剤のことを知ってしまったのではないかと、慌てて雅人を探しに行く。
しのぶはすぐ雅人を路上で発見するが、雅人はさっきのショックから立ち直れず、まだ茫然としていた。

雅人「覚醒剤だなんて……」
しのぶ「雅人さん、どうして逃げたの? 千鶴子さんを見捨てるの?」
雅人「しょうがないじゃないか、千鶴ちゃんが単なる不良なら、僕にはまだ立ち直らせる自信がある。だけど、覚醒剤におかされた千鶴ちゃんをお父さんが認めることは絶対にありえないんだ! 後継者の僕の妻としては!」
しのぶ「後継者って、雅人さん、そんな地位は千鶴子さんの為ならいつだって捨てられって仰ったのは、あれは嘘なのね? 雅人さんは千鶴子さんよりも地位のほうが大事なのね?」

雅人「君には分からないんだ!」
いつになく激した口調で雅人をなじるしのぶに、雅人も声を荒げて反論する。
雅人「僕は小さい頃から、帝王学を叩き込まれるために、遊びたい盛りにも遊べないで、どんなに血の滲むような厳しい教育を受けてきたことか。それに耐えられたのも、将来、実業界のトップで活躍できるという夢もあればこそなんだ。千鶴ちゃんのことも大事だが、正直言って、後継者の地位に未練がないといえば嘘だ。その夢の為にもどうしてもあんな千鶴ちゃんを認める訳には……」

その瞬間、しのぶの強烈なビンタが唸りを上げて飛んできて、雅人の頬を音高く鳴らす。
しのぶ「ごまかさないで! 人が何かの為に何々できないって言うときは、たいていがごまかしよ! 雅人さんには、千鶴子さんへの本当の愛がないんだ! 何が愛よ、何が恋よ! 嫌いよ、雅人さんの卑怯者!」 雅人のことを密かに愛し、人として尊敬していただけに、しのぶの、今回の雅人の行動に対する怒りと失望は深く、かつてないほど厳しい言葉をぶつけると、逃げるように走り去ってしまう。

雅人「……」
雅人、人生で初めて味わう苦い涙であった。
同じ頃、雅人からも見捨てられて絶望した千鶴子は街をさまよいながら死に場所を求め、路男は、一代組の事務所への侵入を図っていた。
今度こそ剛造を確実に仕留める為に、一代組から銃器を盗む為である。
一代組、なにしろ組長が島田みたいな男なので、セキュリティーも甘く、路男は何の下準備もなく侵入に成功すると、簡単に目当てのライフル銃をゲットする。
もっとも、その瞬間、パッと室内が明るくなり、

島田「路男、なにしてやがる?」
振り向けば、くわえタバコの島田が、のんびりした顔で立っていた。

路男、無言で銃口を突きつけ、島田と体の位置を入れ替えるのだが、この時の島田の動きが、回転台の上に立ってるんじゃないかと思えるくらいスムーズなのが、かなりのツボとなっております。
そしてなにより、背後にかかっている、虎が牙を剥いている、謎の額縁(ポスター)!
路男はライフルを向けつつ、さっさと部屋から出て行く。
島田「ちっくしょう、殺してやる!」
一旦ねぐらに戻った路男は、バイクを飛ばして大丸山荘まで行き、そこで、明日、貴賓に先立って到着した剛造が車から降りるところを狙撃するシーンを思い描く。

路男の脳裏には、自分に胸を撃たれて崩れ落ちる剛造の姿が浮かび上がる。
路男「おやじ、おふくろ、今度こそ恨みを晴らしてやるぜ!」
翌日、しのぶと静子は、優子にも協力して貰って、必死に千鶴子の行方を追っていた。

ここでは、繁華街で千鶴子の写真を手に聞いて回る優子の後ろに映る、
「働く女性を求めます。遊ぶ女性より働く女性が美しいからです!」などともっともらしいことが書かれた、
フーゾクの求人広告がかなりの笑いどころとなっております。
千鶴子は割りとあっさり見付かり、ひとまず、実母・静子のアパートに連れてこられる。
千鶴子、雅人に見付かった時、本気で覚醒剤をやめるつもりだったのだと、静子としのぶに打ち明ける。
そう、あの時、千鶴子は覚醒剤を打とうとしていたのではなく、注射器を叩き壊そうとしていたところだったのだ。
千鶴子は、逃げられても仕方ないと言いつつ、雅人の不実を恨むような口ぶりだったが、
しのぶ「雅人さんはきっとあなたのとこに帰ってくる。信じてあげて、ね、千鶴子さん!」
しのぶに力強く励まされると、また前途に希望を見い出し、

千鶴子「私、二度と覚醒剤なんてやらないよ。そうして、まだ、もし雅人さんが愛してくれるものなら、待ってみる」
しのぶ「千鶴子さん……」
なんとか前向きな発言を絞り出すのだった。
だが、その直後、急に千鶴子の体が震え出す。覚醒剤の禁断症状が出始めたのだ。

静子「私が抱いててあげる、耐えるのよ、千鶴子!」
静子、咄嗟に毛布を千鶴子の体にかけ、その上から強く抱き締める。
はからずも、自分の生んだ子供を初めて胸に抱くことが出来た静子だったが、すぐに猛たちが乱入してきて、千鶴子を連れ出してしまう。
が、なにしろ相手は千鶴子の実母、そして龍作の妻である。

「松本一家なめんな」とばかりに、台所から包丁を持ち出すと、

「そのタマもらったぁーっ!」とばかりに、腰だめで包丁を構え、猛に突っ込んでいく。
ま、実際、「殺してやる、千鶴子をこんな姿にした奴は殺してやる!」と叫んでるんだけどね。
最弱と言われる猛だったが、さすがに熟女にやられるほどではなく、なんとかその体を振り払う。
が、続いてあらわれた島田たちに追い払われ、千鶴子を横取りされてしまう。
恐れを知らぬ静子は、その島田たちにも包丁握って突っ込むが、あえなく押し倒される。

島田「苦しいだろうなぁ、俺の命令を聞くと約束すれば、やるぜ」
千鶴子「私が、欲しいのかい?」
禁断症状に苛まれながら、相変わらず自信過剰の千鶴子は、島田が猛のように自分の体を求めているのかと勘繰るが、島田は一笑に付すと、

島田「そうじゃねえ、路男をばらすんだ」
千鶴子「……」
島田「いっぱしの不良のお前なら出来る。いつまでも優子の周りをうろつきやがる路男の奴だけは許せねえんだ。一言やりますって言やぁ、楽になれるんだぜ」
と、こともあろうに千鶴子に路男を殺させようとする。しかし、少なくとも今回、路男が優子の周りにつきまとうシーンはなかったのだから、本当は、銃まで奪われて悔しいです! と言うのが理由だったろう。
そこへ当の優子があらわれ、
優子「なんて汚い真似をするんだ、千鶴子さんに人殺しまでさせて泥沼から抜き差しならない身にさせようって言うのかい」
島田「人殺しの娘を天下に公表するって言やぁ、大丸からも搾り取れるってもんだ」
しかし、他の人が喋ってる間も、ずーっと悶え苦しんでないといけないから、禁断症状の役って大変だね。
千鶴子「雅人さーん!」 島田「いくらでも呼びな、あんたを捨てた男がお前を助けに来てくれるかよ」
あまりのつらさに身も世もなく雅人の名を叫ぶ千鶴子を、島田がせせら笑う。

千鶴子「ちょうだい、ちょうだい、早く!」
島田「路男をやるんだな?」
結局耐え切れず、島田の問いに頷いてパケを掴む千鶴子だったが、

優子「千鶴子さん、負けちゃだめだよ、雅人さんはあなたを愛し続けてるのよ。信じるんだよ」
それを必死で思いとどまらせようとするのが、「不良少女~」では逆に、覚醒剤中毒になって伊藤さんたちに勇気付けられていた岡田さんだと言うのが面白い。
千鶴子、優子の言葉でなんとか踏みとどまり、

千鶴子「私は大丸千鶴子だよ、
人殺しはブタにでも頼みな!」
パケを投げ捨てると、
「愛は壊れやすいのよ、ビタミンCのように」に、匹敵するような名台詞を放つ。
しかし、この時、脚本家の中で、ブタさんブームが起きていたのだろうか?

ちょっと面白い顔になって、その頬をぶつ島田。
これで、えーっと、
・千鶴子→しのぶ
・若山→剛造
・しのぶ→雅人
・島田→千鶴子
実に4回もビンタシーンが出て来たことになりました。
皆さん、とりあえず暴力で問題を解決しようとするのはやめましょう。
その様子を部屋の外から見ていたしのぶ、路男のところへ行って助けを求めるが、路男はちょうど剛造を殺しに出掛ける所だったので、しのぶになんと罵られようと構わず行ってしまう。
で、すんなりと狙撃のチャンスが訪れるが、引き金を引こうとした瞬間、目の前を一羽の蝶が飛んでいるのを見て、それに千鶴子の姿を重ね合わせ、絶好の機会を逸してしまう。意気地なし!
一方、消息不明だった雅人は、なんとか立ち直って若山のところへ来て、「これからはどんなことがあっても千鶴子ちゃんを守ります」と、決意を新たにするのだった。
ちなみに雅人、千鶴子を見捨てた自責の念から、自殺まで考えていたと言うのだが、いくらなんでもメンタル弱過ぎ。
再び虎のマークの一代組。
島田はその場での説得を諦め、まず、千鶴子を完全な覚醒剤中毒に落としてから、言うことを聞かせようとする。無理矢理、静脈注射しようとするが、
路男「非道もそれくらいにしとけっ!」 しびれるくらいカッコ良く飛び込んできたのが、我らが路男であった。
ま、ついさっき、人を撃ち殺そうとしていた奴に言われたくはないですけどね。

路男「島田、死ね!」
群がる下っ端を蹴散らし、島田の顔に銃口を突きつける路男。

優子「やめな、やめとくれ」
路男「どくんだ、優子さん、この際、災いの根を一気に断ち切ってやる!」
路男から「根っこ」扱いされる島田さん。
優子「こいつは悪党だよ、だけど、生まれたときからそうだった訳じゃないんだ」
路男「あんた、こんな奴でさえ……」
島田のようなクズさえ庇う優子の優しさに感動する路男であったが、ほんとのところは、島田が死のうが生きようがどうでも良く、路男に人殺しをさせたくないというのが優子の本音だったろう。
その後、形勢逆転されてボコボコにされる路男だったが、

続いて颯爽とあらわれたのが、我らが雅人の勇姿であった。
かつて全米を震撼させた(いつ?)最強コンビの復活の前に、島田たちは敵ではなく、

とうとう、自分たちの事務所からすごすご逃げ出すと言う、情けないにもほどがある醜態を晒す一代組の皆さんでした。
虎が泣いてるぜ……
千鶴子、すぐに雅人の胸に飛び込んで、むせび泣く。

雅人「千鶴ちゃん、僕を許してくれとは言わない、君の中毒など僕が治して見せる。それが僕の気持ちだ」
やっともとの鞘に納まったかと見える二人の姿を、

対になったアングルで、安堵したように見守る優子と路男が実に「決まって」いるのだった。
そのまま立ち去ろうとする路男を、雅人が呼び止める。

雅人「田辺、これからは田辺と呼ばせてもらう。ありがとう」
路男「いや、俺は借りを返しただけだ」
雅人「借り?」
路男「俺は大丸とは血の繋がりもない千鶴子を随分といたぶってきた。その借りだ」
もう一度千鶴子の汗と涙で汚れた顔を見詰めてから、バイクで走り去る。
走りながら、「俺は最低だ」と、改めて、みすみす復讐の機会を逃した自分を責める路男。

一方、雅人としのぶは、千鶴子を支えて、ひとまず若山の教会までやってくるが、
その背後にひょこっと顔を出したのが、日本が世界に誇るろくでなし、キング・オブ・クズ、龍作なのだった! そう、彼こそ、色々と問題はあれど、ある程度収束の兆しの見えてきた人間関係を、再びどろどろのぐっちゃぐちゃにすべく、スタッフが送り込んできた最強の刺客なのである!
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