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ネタバレ上等の劇場版「ハサミ男」 その1

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 劇場版「ハサミ男」(2005年3月19日公開)



 前書き1

 はじめに言っておくと、実は今回のレビュー、2018年の6月に書いたものなのである。

 それ以来、ずーっと下書きフォルダの中に入れたまま放置していて、今回ようやく公開の運びとなったわけだが、別に何か理由があっての遅延ではなく、その気にならなかったり、公開のタイミングが掴めなかったりして、ずるずると月日が経ってしまったというだけの話である。

 まぁ、「スワンの涙」のように、2年前から書き溜めた記事を公開するようなケースもあるので、自分にとってはそれほど奇異な話ではない。


 前書き2

 最近、自分の(記事に対する)完璧主義に嫌気が差しているのだが、上の前書き1を書いて、さて公開しようと思ったところ、どうも、画像が少ないような気がした。

 実は、今回の公開に当たって、画像もすべて補正を加えて貼り直したのだが、それとは別に、画像の枚数そのものが足りないような気がしてきたのだ。確か、最初に記事を書いた時は、150枚以上キャプして、ボリュームを抑える為に100枚ほどに縮減した筈である。ところが、どうやら画像を削り過ぎたようで、明らかに説明不足の感があちこちに窺える。

 で、先々週公開する予定だったのを急遽延期して、またDVDを頭から見直してチェックして、必要な画像を新たに60枚以上キャプして、オリジナルの記事に追加、それにあわせて文章も手直しすると言う作業を二日ほどかけて行ったのである。

 正直、始める前はあまりの面倒臭さにサボりたくなったのだが、管理人としての長年の経験から、中途半端な記事を書いて後で書き直すより、最初に苦労してもしっかりしたものを書いておいたほうが、結局時間と労力の節約になることを知っていたので、あえて公開前の本格的な手直しに踏み切った次第である。


 ここから本文

 劇場版「ハサミ男」は、殊能将之氏の第13回メフィスト賞を受賞した同名長編ミステリーを、池田敏春監督が映像化したものである。

 ま、だいぶ前に、さわりだけ紹介したことがある作品なのだが、レビューとしては実にお粗末なもので、以前から書き直したいと思っていたのだが、つい最近、やっと原作を読んで、それに触発されて久しぶりにDVDを見返してみて、改めてその面白さに感動を覚えたので、ちょうどいい機会なので、ちょっと本腰を入れてレビューしようかと思った次第なのである。

 だが、正味2時間近くの映画を、「美女シリーズ」のような感覚でレビューすると、たぶん、途中で死ぬと思うので、なるべく死なない程度に、コンパクトにまとめて行きたいと思う。

 と言うか、ぶっちゃけ、管理人的にはこの映画の本質は、ヒロインの麻生久美子さんの可愛らしさにあるので、その辺を重点的に攻めていくつもりなので夜露死苦!

 なお、タイトルにあるように、最初からネタバレ全開で書くつもりなので、映画、あるいは原作を知らないで、これから読もう、見ようと思っている人は、要注意です。


 ※公開時追記

 ……と思ったが、さすがに序盤から種明かしをするのは不粋なので、最初だけ一部マスクしておいた。


 あと、最初に断っておくと、DVDの画質はあまり良くないです。是非HDリマスター版を出して欲しい。

 
 冒頭、新幹線の高架橋を後景に、田んぼのど真ん中に聳える鉄塔に、制服姿の女子高生が自転車で向かってくる。

 鉄塔の下の空間には、既に若い女性と中年の男性が立って彼女の来るのを待っていた。

 
 ヒロインの知夏(麻生久美子)と、その相棒とも言うべき安永(豊川悦司)と言う男である。

 もっとも、ヒロインはともかく、安永の方は劇中、その名を呼ばれることはなく、その正体が明らかになるのは中盤になってからである。

 で、早速ネタバレしてしまうと、この安永と言う男は、[かつて自殺した知夏の父親であり、彼女の作り出した妄想人格なのだ。だから、映像ではっきり見えるが、彼は実在せず、やってきた女子高生にも知夏の姿しか見えていないのだ。原作では、常にいる訳ではなく、ヒロインが自殺を図ったときなどに現われて会話を交わす程度だが、映画では、ほぼ出ずっぱりで、分かりやすく言うと、知夏の守護霊]みたいな存在なのである。

 知夏は、何か口実を設けてその女子高生を呼び出したのだが、何の疑いもなくやってきた彼女を、あっさり喉に鋭利なハサミを突き刺して殺してしまう。

 ちなみに原作では、既に二人の女子高生を殺し、ヒロイン、すなわち「ハサミ男」が、これから三人目の標的の住まいに向かうところから始まっている。

 映像では、主犯はトヨエツで、知夏は嫌々それに協力させられているようにしか見えず、観客は当然、「ハサミ男っちゅうのは、トヨエツのことなんじゃ」と思い込まされる仕掛けになっている。

 タイトルおよびOPクレジット後、今度は、江戸川端の鉄橋の下に呼び出された女子高生が、同じく知夏と安永のコンビによって殺される様子が描かれる。無論、ここでも手を下すのは安永である。

 知夏はその瞬間「やめてーっ!」と絶叫しているが、原作のヒロインは完全にやる気マンマンの殺人鬼である。ヒロインが殺人鬼と言うのは異色の設定だが、実に魅力的なキャラクターとして描かれている。

 ただし、ヒロインの一人称では、自分のことを「でぶ」だと決め付けているので、安っぽいロマンティシズムを求める読者(管理人のこと)は肩透かしを食らうのだが、終盤で実際はメチャクチャ美人だと判明するので安心である(何が?)。映画では、最初から麻生さんの顔が出てくるので、美人だと言うことははっきりしている。

 
 二人目の殺人から半年後、テレビのワイドショーで、コメンテーターが、いつまで経っても犯人を捕まえられない警察を非難している。

 磯部「消せよ!」

 デスクの上から、テレビの前の進藤刑事に命令するイケメン。

 目黒西署刑事課の刑事・磯部(樋口浩二)、警察サイドの主人公とも言うべき人物である。

 進藤「でも、マスコミにすりゃハサミ男サマサマですよね、ネタがなくなりゃやってんだから」

 他に、年配の下川刑事(清水宏)、課長の上井田(石丸謙二郎)など、目黒西署の刑事たちはほぼ原作どおりに設定・配置されている。個々のディテールではだいぶ違いがあるけどね。

 
 続いて、自由が丘駅に降り立った知夏と安永。

 三人目の犠牲者・樽宮由紀子を殺す下調べの為に、彼女の自宅マンション周辺を下見に来たのだ。

 原作では、そこに行くまでの過程などがかなり詳しく記してあるが、映画では実にあっさりしている。

 二人は、ちょうど、学校から帰宅中の由紀子を見つけ、尾行する。

 
 知夏「髪も染めてないし、ピアスもしてない。希望通りでしょ」
 安永「うん、美人だな」
 知夏「美人で清潔、成績優秀、そう言う子が好きだもんね」
 安永「身辺調査からはじめようか」

 彼らのやりとりでも、標的は安永の好みに合わせてセレクトされているように、観客には聞こえる。

 由紀子は、途中、モールに立ち寄り、そこでコートを着た中年風の一緒になると、近くのハンバーガーショップに入っていく。

 
 知夏「誰だろう?」
 安永「……」

 男はこちらに背を向けているが、向かい合った由紀子の表情は、店の外からでも鮮明に見えた。

 
 無論、話している内容は分からなかったが、不意に、由紀子がおかしくておかしくてたまらないという風に笑い出したのが、彼らの印象に強く残る。

 
 知夏「わかった、相手はお父さんだ」
 安永「どうして分かる?」
 知夏「だって、あんなに楽しそうに笑ってるじゃない」
 安永「ファザコンらしい台詞だね」
 知夏「うるさい」

 時折見せる、知夏のぶっきらぼうな台詞に萌えまくりの管理人であった。

 原作では、ほとんど男のような喋り方をするのだが、映画ではそれほどでもない。

 安永が、彼女の自宅も見ておきたいと言い出したので、二人はその場を離れ、鷹番のマンションへ。結局、知夏の相手の顔は見えずじまいだった。

 
 由紀子の住むマンションの直下の路上に立ち、知夏が資料を手に家族構成などを説明する。既に周囲は薄闇に包まれていた。

 安永「とりあえずこの辺は分かった。周りをもう少し見ておこう」

 
 その後、高架橋の下を歩いて、小さな公園の中に入った二人は、公園の茂みのそばに意外なものが横たわっているのに気付く。

 
 樽宮由紀子の死体だった。

 制服姿で仰向けに横たわり、喉には銀色のハサミが突き立っている。

 
 知夏「……」
 安永「……」

 しばし、無言で立ち尽くす二人。

 
 安永「僕じゃないぞ」
 知夏「じゃあ、誰?」

 慌ててその場を離れようとするが、そこへ見知らぬ男が声を掛けてきたので、知夏は逃げるのはやめて、単なる死体発見者のふりをする。

 その男……映画ではだいぶ後まで名前が分からないのだが……日高は、交番に知らせに行くと言って公園を出て行く。その間、安永にアドバイスされて、知夏は用意していたハサミを茂みの中に投げ捨てる。さらに、持っていた由紀子の資料をまるめて口に入れ、嚥下してしまう。

 この、紙を丸めて飲み込むと言うのは映画のオリジナルである。

 さて、ほどなく、所轄の目黒西署から捜査員たちがやってくる。

 
 下川「おい、遺体発見者かな」
 磯部「でしょうね」

 遅れてやってきた下川と磯辺。

 
 池のほとりで、松元から事情を聞かれている知夏たちのシルエットを、離れたところから二人が見る。

 これも、観客に、刑事たちには、知夏、日高、安永の三人が見えているように思わせる為の仕掛けなのである。

 現場は、既にビニールシートで覆われていて、それをめくろうとした磯辺を、先着の村木が制する。

 村木「本庁の指示がない限り、中入れねえぞ」
 磯部「ちょっと覗くくらい、いいでしょ」

 磯部、ビニールシートをめくり、懐中電灯で遺体を照らす。喉に突き立っているハサミがはっきり見える。

 磯部「ハサミ男?」
 下川「厄介なことになったな、こりゃ」

 
 最後にやってきたのが、課長の上井田であった。

 上井田「本庁の指示が出ました、現場の保存をしつつ、周辺の捜索に当たれ、と……」
 村木「所轄は現場に手ぇ出すなって訳ですか」
 上井田「うふ、まぁ、そう拗ねないで……まあ、慣れて」

 目下のものにも丁寧な言葉遣いをする上井田、いかにも頼りない昼行灯みたいな上司のように見えて、実はそうでなかったことが後に判明する。

 なお、管理人、以前のレビューでも書いた気がするが、最初見たとき、こいつが真犯人ではないのかと睨むと言う、快挙を成し遂げている。

 仕方なく、磯部たちはビニールシートの周囲を調べていたが、運良く、磯部が知夏が投げ捨てたハサミを発見する。

 
 続いて、知夏が自宅マンションのフローリングの上で、ビニール袋を頭に被って、苦しそうにどったんばっ
たんしている姿が映し出され、観客の度肝を抜く。

 
 知夏「ハッハッハッ……」

 ビニール袋の下の、知夏の美しい喘ぎ顔。

 
 ソファの横をつかんで半身を起こし、自らビニール袋を切り裂いて、荒い息を繰り返す。

 その間、同居していると思われる安永は、奥のソファに座ったまま、平然とタバコをふかしていた。

 安永「また、死に損なったか」
 知夏「こんなやり方で死ぬ奴がいるなんて信じらんない」
 安永「そう言う人は睡眠薬を併用してるんだよ、そうすれば眠ってる間に窒息できる」

 安永は、知夏にコップの水を渡してやりながら、由紀子を殺した真犯人を探して、ハサミ男の「汚名」を晴らすべきだと知夏に告げる。

 この知夏の自殺チャレンジは、原作、映画、どちらでも印象的なお楽しみシーンになっていて、この後も何度も出てくる。

 もっとも、原作では先にクレゾールによる自殺があり、続いて殺鼠剤、三番目にこの窒息死となっている。クレゾール自殺は、映画では窒息死の次に出てくるが、殺鼠剤、および首吊りなどは省略されている。

 ついでにそれぞれの自殺を実行順に並べておこう。

 原作 クレゾール→殺鼠剤→窒息死→タバコ→鎮痛剤→首吊り→拳銃

 映画 窒息死→クレゾール→タバコ→拳銃

 原作では、自殺の理由は特に書いてない(覚えてない)が、映画では、自分を罰する為に行っていると解釈できなくもない。いずれにしても、もっと確実に死ねる方法があるのに、いちいちこういう変な自殺行為を繰り返すのは、自殺というより自傷行為に近いのではないだろうか。原作では、ほとんど「趣味」の域に達していたが。

 さて、目黒西署で、最初の合同捜査会議が開かれる。

 磯部たちが軽口を叩きながら会議室へ向かおうと廊下へ出て行く。

 
 磯部「マルサイも来てますかね」
 下川「バカ、お前、こんなところで!」

 
 磯部「何言ってんすか、自分だってこないだ……」
 村木「場所考えろよ、犯罪分析心理官殿だ! 殿!」

 何気なく、最近、警視庁に新設された犯罪心理分析官のことを通称のマルサイと言ってしまった磯部、たちまち先輩たちから集中砲火を受ける。

 
 堀之内「マルサイで結構ですよ」
 磯部「……」
 堀之内「科学捜査研究所の堀之内です。よろしく」

 と、歩きかけた彼らの背後から気さくに声を掛けたのが、その犯罪心理分析官の堀之内であった。

 演じるのは、今や押しも押されぬ大スターになってしまった阿部ちゃんである。

 
 磯部「目黒西署の磯部です」

 磯部、差し出された手を、何のためらいもなく握り返し、自己紹介する。

 背後で先輩たちが畏まって敬礼しているのにも気付かず。

 原作では、堀之内はもっと風采の上がらない中肉中背の男なので、阿部ちゃんではちょっと体格が良過ぎて、ミスキャストではないかと思う。

 ここで、知夏がバイトをしている氷室川出版社の様子が描かれる。

 そこは、進研ゼミのような添削式通信教育を手掛けており、知夏は、そのデータベースから、由紀子や他の二人の被害者をピックアップしていたのだ。

 原作では、出版社での仕事や同僚たちの様子がかなり詳しく記されているが、映画ではほとんどすべてカットされている。

 続いて、捜査会議の様子。

 特に面白くないので省略するが、上層部でも、三つの事件が全てハサミ男による犯行だと考えていた。

 
 原作にはない、署の宿直室(?)での、いかにも男やもめの集団と言った感じの磯部たち。

 村木が、醒めた口調で「どうせ所轄は雑用専門……」とつぶやくが、そこへ上井田が現われる。

 続いて、その背後から堀之内警視正が顔を出したので、みんな慌てて立ち上がり、敬礼する。

 
 スーツに着替え、堀之内の部屋の壁際に、まるで職員室に呼び出された小学生のように、しゃちほこばって立っている刑事たち。

 
 堀之内「実は磯部君が発見したもう1本のハサミの件で来て頂きました。犯人は慎重な性格です。犯行時にハサミを2本用意した可能性が強いと思います。しかし犯人は、そのうちの1本を犯行の際に落とした。犯人はそれに気付き慌てて引き返した。しかしその後、茂みに捨てなければならない状況に追い込まれた……」
 村木「……あ、そうか、警察に所持品検査をされる恐れがあったんだ」

 堀之内の、彼らを試すような謎掛けの答えに、最初に気付いたのは村木だった。

 磯部はそれを敷衍して、自分自身に言い聞かせるように推論を組み立てていく。

 磯部「ハサミ男は落としたハサミを取りに戻った。そのとき誰かに見られた。だから奴は逃げたら危険だと判断し、そのまま公園にとどまった」
 堀之内「そうです、遺体発見者として」
 松元「まさか、あの連中のひとりがハサミ男?」

 原作ではかなり捜査が煮詰まってからだったと思うが、映画では、早くも死体発見者に疑いの目が向けられることになる。

 しかし、観客を騙す為とはいえ、松元の「あの連中」と言う言い方は明らかに不自然だよね。

 「あの連中」と言われたら、安永、知夏、日高のことを指すのだと反射的に思ってしまうが、実際は、(互いに面識のない)知夏と日高の二人しかいなかったのだから、「あの連中」などと言う筈がないからだ。

 
 磯部「そうだ、遺体発見者がハサミ男なんですね!」

 単純な磯部は興奮気味に結論を出すが、堀之内は軽く笑って、現段階では自分の想像に過ぎず、捜査会議に掛ける訳にも行かないと言い、この線はあくまで非公式な捜査でなければならないと主張する。

 磯部「じゃ、どうするんです?」
 堀之内「正直に言います。僕はあなた方のような捜査の専門家ではないんです。警視正と呼ばれていますが、僕はただの精神分析医に過ぎません」

 さらに、率直に自分の能力の限界を告げ、自分の代わりに現場に行き、様々な情報を集めて来て欲しいと言い出す。そして、堀之内が指名したのが、いささか頼りない磯部であった。

 
 堀之内「君は僕と気軽に握手してくれました。なかなかそう言う素直な人は少ないんですよ。みんなマルサイと言って敬遠しますからねえ。どうです、二人三脚でハサミ男を捕まえてやりませんか?」
 磯部「はっ、光栄です!」

 さて、由紀子の葬儀の日、知夏も安永に勧められて参列することになる。真犯人につながる手掛かりが得られるかも知れないからだ。

 葬儀場の周りには、当然、人の不幸を視聴率を稼ぐネタとしか思っていないマスコミ連中が大勢集まっていて、会場に向かう由紀子の同級生たちに無遠慮にカメラやマイクを向けていた。

 会場には、磯部と下川も来ていた。

 下川「遺体発見者が来てるぞ」
 磯部「えっ、あの連中がなんで?」
 下川「仏心さ、どんな残虐な犯人でもひとっかけらの良心くらいは持ってるもんだ」
 磯部「でも、マスコミがこんなにうじゃうじゃ来てるのに」

 しかし、2本目のハサミの存在だけで、遺体発見者の中にハサミ男がいると断定するのはいささか乱暴な推理のようにも思える。

 当然、彼らは日高をハサミ男だと考えているのだが、もしハサミを取りに公園に引き返して知夏に見付かったのなら、その場で知夏も殺すのが普通ではないか? そこはまるっきり人通りのない場所なのだから、殺そうと思えば簡単に殺せただろう。

 また、日高に知夏を殺すつもりがなくても、自分ではなく知夏に交番に行かせ、その間にハサミを池の中に投げるとか、あるいはハサミを持って公園から逃げるとか、他にやりようがあったのではないか。街灯もない公園の中で、知夏が日高の顔をはっきり覚えている筈がないのだから。

 なにより、日高がハサミ男だったら、自分から率先して交番に行くなんてことをするだろうか?

 かといって、磯部たちは知夏のことを疑っている素振りは全くない。「ハサミ男」と言うマスコミのつけたニックネームに惑わされて、連続殺人犯がうら若き女性などとは露ほども思っていないのだ。

 閑話休題。

 知夏は、原作ではちゃんと焼香しつつ、親族や親戚の中に、由紀子が殺される直前に会っていたハンバーガー中年がいないかどうか確かめるのだが、映画ではそもそもハンバーガー中年の顔を見ていないので、後ろの隅の席に座ったまま、遠くからそれらしい背格好の男がいないかどうか見るだけである。

 
 そこへ、安永が、ちゃんと喪服を着て入ってくるのがちょっと笑える。

 喪主である、由紀子の義理の父親が挨拶するが、背格好などから見ても、明らかにハンバーガー中年とは別人だった。

 知夏「じゃあ、あの時ハンバーガー屋にいた男はなんなの?」
 安永「親戚のおじさんかな?」

 
 彼らの斜め前方には日高も座っていて、時折、こちらに視線を向けてくる。

 原作同様、途中で由紀子の弟の健三郎が会場を飛び出して何処かへ走り去ってしまう。

 
 磯部「あの子、確か被害者の弟ですよね」
 下川「義理のな」
 磯部「そうか、複雑な家庭だったんですよね」

 それを見ながら、二人が樽宮家の家族構成について話す。

 樽宮夫妻は再婚だが、それぞれ連れ子がいて、夫・一弘の子供が健三郎、妻・とし恵の子供が由紀子だった。つまり、由起子と健三郎の間には血縁関係がないのだ。

 また、下川の口から、由紀子に2000万の保険金が掛けられていたことが明らかになるが、これは原作にはない映画オリジナルの設定である。未公開シーンでは、さらに、夫がリストラされたが、由紀子の保険金2000万があって助かった……と言うような夫婦の会話が出てくる。

 磯部「ほんとですか?」
 下川「受取人は母親のとし恵だ」
 磯部「でも、犯人はハサミ男なんですよねえ?」

 まぁ、これは単なる観客への目くらましに過ぎず、樽宮夫婦は事件とは何の関係もない。

 知夏は、最後まで葬儀にハンバーガー中年らしき男が現われなかったのを確かめると、安永と一緒に外へ出る。日高も後を追いかけるように同じ方向へ歩き出す。

 
 彼らが交差点で信号待ちをしていると、雑誌の編集者と名乗る女性が声を掛けてくる。

 
 記者「私、ハサミ男を取材してる者です、どうも……」

 揃って記者の方を向く知夏たち。

 
 「三人」は喫茶店で、彼女の取材を受けることになる。

 もっとも、取材に乗り気なのは日高だけで、発見者になったことをむしろ誇らしげに、記者相手にあることないこと盛んに話しているが、知夏と安永はむっつりおし黙ったまま。

 
 その最中も、日高は知夏が気になるのか、ちょくちょく視線を向けてくる。 

 
 知夏「じろじろ見ないでよ」

 
 日高「すいません……つい」

 ここで、知夏が安永に対して言った文句を、ちょうど知夏の方を見ていた日高が自分に向けられたものだと勘違いして謝るシーンが、なかなか笑える。

 雑誌記者は帰り際、日高に水を向けられ、ここだけの話ということで、由紀子が外見のイメージとは違って、手当たり次第に男と寝ていた、いわゆるヤリマンだったことを教えてくれる。それは知夏にとっても意外な新事実だった。

 喫茶店から出たところで、日高が知夏を食事に誘うが、知夏はシカトして歩き出す。

 これなんかは、観客に対するヒントになってるよね。安永のような男がそばにいるのに、日高が知夏を誘うとは考えられないからだ。

 
 刑事の声「日高光一38歳、東都工業大学卒業後、正業には就いてません。金持ちの息子だそうです」

 雨の中を帰っていく知夏と安永の映像に、松元刑事の声が被さる。

 原作を知らない観客は、当然、それがトヨエツのことを指しているのだと思ってしまうのである。

 その2へ続く。
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コメント

No title

 よく考えて見ていないとわかりづらい内容のようですが面白そうですね。
まず豊川悦司、阿部寛、麻生久美子という豪華なキャストに驚かされます。(清水宏という役者は名バイプレーヤーとして知られていますが1960年代に活動していた映画監督とは別人に決まってますね)
「ハサミ男」という題名が際物的な印象を受けたのでしょうか。
あまり関係ありませんが麻生久美子―木村多江―譜久村聖(モーニング娘)という謎のラインがあるように感じました。

Re: No title

コメントありがとうございます。

時間掛けて書いたのに反響がなかったので、割りと気落ちしていたところなのです。

>  よく考えて見ていないとわかりづらい内容のようですが面白そうですね。

個人的には大好きですが、人を選ぶ作品のような気がします。

レビューでは触れてませんが、音楽も実に良いのです。

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zura1980

Author:zura1980
70~80年代の特撮、80年代のドラマを中心に紹介しています。

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