ネタバレ上等の劇場版「ハサミ男」 その2
- 2019/08/09
- 20:30
劇場版「ハサミ男」(2005年3月19日公開)
の続きです。
さて、磯部たちから報告を受けた堀之内は、現場周辺を聞き込んでみてはどうかと提案する。慎重なハサミ男が、犯行前に下見をしていた可能性があるかもしれないと言うのだ。

下川「おい、カメラ坊や、お前の出番だ。遺体発見者たちの顔を盗み撮りするんだ」
進藤「それはオッケーですけど、あの、質問があるんですよ」
堀之内「なんでしょう?」
進藤「事件の日、樽宮由紀子が学校出たのは午後6時ってなってんですけど、授業は3時半に終わってますよね。少し遅すぎないですか」
カメラが趣味で最年少の進藤が、改まった口調で質問を呈するが、いきなり村木に頭を叩かれる。
村木「ばかっ、部活で遅くなったんだよ。報告書に書いてあっただろ」
堀之内「そう、弓道部」
進藤「ああ、そうか……」
何気ないやりとりだが、ここに真犯人を示す手掛かりが紛れ込んでいるのである。
また、進藤が写真が得意で、遺体発見者の顔を盗み撮りすると言うのは原作にもあるが、原作ではそのシーンにも、作者の巧みな伏線が張られている。
その後、知夏が安永と一緒に、由紀子の親友と喫茶店で会い、由紀子について話を聞くシーンとなるが、特にどうでもいいのでカット。
原作でも映画でも、由紀子の特異な性格の描写に多くの紙幅と時間が費やされているが、個人的には興味がないので詳述は避ける。
とにかく、由紀子は幸せそうな外見とは違い、知夏と同じようにあまり感情がない人間で、たくさんの男と付き合っていたのも、淫乱と言うより、男を散々夢中にさせてからポイと捨てるのが楽しくてやっていたらしいことが分かる。
由紀子の友人と別れ、マンションに戻ってきた二人。

安永「ファザコンか……感情のない子か……」
知夏「なによ」
安永「樽宮由紀子も実の父親がいなかった」
知夏「だから何、何が言いたいの?」
安永「……」
知夏「変な目、やめてよ、あんたなんかに何が分かるのよ」
安永のあてこするようなつぶやきと意味ありげな視線に、知夏はたちまち機嫌を悪くさせる。
その途端、チャイムが鳴る。

安永がすぐドアの方へ行くが、ここで、中央の壁に安永らしき男の写真が飾ってあるのが見えて、これがさりげなく安永の正体を示すヒントになっているのである。
訪問者は、磯部と下川だった。
さすがに冷静な知夏も一瞬立ち竦む。
原作では、訪れるのは磯部と村木のコンビで、知夏が鎮痛剤で自殺を図った直後のタイミングである。

磯部「申し訳ありません、二、三、またお聞きしたいことが出来まして」
知夏「あの、何か?」
磯部「あ、もしよろしかったら、前の喫茶店ででも」
知夏がドアを少しだけ開くと、磯部の顔が見えて、快活な口調で用件を述べる。
知夏、ドアを閉めてから、もう一度開け、「今、行きます」と答える。
まるで警察の目を恐れるような安永の態度に、ここでも観客は安永が実在の人物であり、ハサミ男だと言う確信を抱くのである。
知夏は大人しく喫茶店についていき、改めて発見当時のことを聞かれるが、付け加えて言うことは何もなかった。
もっとも、磯部たちの目的は、知夏を外へ誘い出して、進藤に望遠で写真を撮らせることだったのだが。
別れ際、「あの、お一人で暮らしてるんですか? 食事なんかどうなされてるんですか、一人で夕飯食べるのってイヤですよねえ」などと、磯部が知夏に、事件とはまるで関係のないことを親しげに語りかける。
知夏と別れた後、外で待機していた進藤と合流する磯部と下川。
磯部「どうだー?」
進藤「ばっちりっす、良いの撮れましたよ」
下川「女の子の写真はあまり用はないけどな……なんだ、お前、さっきの夕飯の話?」
磯部「いや、あの子見てると痛々しくて……さっきドアの隙間からあの子の部屋か見えたんですよ。女の子だったら、ふつう花とか飾ってあるじゃないですか。なんにもないんです、寒々しい壁だけ」

磯部「あんな部屋で、たったひとりでコンビニ弁当なんか食べてるのかなぁと思って……」
進藤「先輩、春来てません?」
磯部「うるせえなっ」
およそ刑事らしからぬ慨嘆を漏らして、後輩にまでからかわれる磯部だった。
このように、映画では磯部が知夏に好意を持ってることは早い段階で明らかにされるが、原作ではその辺も巧妙に読者には隠されていて、ひとつのどんでん返しになっている。
また、磯部の知夏の部屋に関する感想も、主観トリックを見破る大きな手掛かりになっているのだが、たいていの観客は、特に気にせず聞き流してしまうだろう。
一方、知夏……と言うか、安永は、磯部から2本目のハサミのことを聞かれた後で、警察しか知りえないその情報を、さっきの雑誌記者に電話でリークする。
知夏「なんであんなこと、週刊誌に教えてやったの?」
安永「もう一丁のハサミのことは警察側の切り札さ。犯人しか知りえない真実って奴だ。重要な事実を隠しておいて容疑者にぶつけて動揺させる。それが警察の手口だ」
知夏「私たちは容疑者なの?」
安永「だろうね、だから教えてやったのさ、マスコミが報道すればもう切り札にならない」

雨の降る晩、磯部たちが出先から署に戻ってくると、村木が大量のハサミを机の上に積んで、何やら考え込んでいた。
村木「おい、磯部、ちょっと見てみろ。こっちが凶器のハサミ、こっちがお前が茂みの中で見付けたハサミだ。この二丁のハサミ、どう思う?」
磯部「どうって……」
村木「じっくり見ろ、特に先端を」
村木に言われて、二枚の写真を見比べていた磯部、片方は先端がツルツルしているが、もう一方は表面が粗いことに気付く。
つまり、それぞれのハサミは、別々の人間によって研がれたのではないかと村木が言うのだ。
磯部「じゃあ、現場には、本物のハサミ男と、ニセモノのハサミ男がいたってことですか?」
村木は、さらに、1番目と2番目の被害者に使われたハサミも、先端がツルツルに磨かれていたと言う。

磯部「どういうことですか?」
村木「ここからが複雑なんだ、いいか、樽宮由紀子の喉に刺さっていたのは、こっちの手抜きのハサミで、お前が発見したのがツルツルの方なんだ」
磯部「それじゃあ、こういうことですか、樽宮由紀子を殺したのはニセモノのハサミ男で、本物のハサミ男が遺体発見者になったってことですか」
村木「そういうことだ、すぐに警視正に知らせろ」
村木に言われて、磯部は堀之内の携帯に電話を掛ける。
堀之内が来るまでの間に、ファストフード店で健三郎と知夏が話すシーンがあるが、特にどうでもいいのでカット。
やがて、堀之内はずぶ濡れになって目黒西署にやってくる。
だが、村木の推理を聞かされた堀之内は、あまり感心した顔を見せなかった。

堀之内「突飛過ぎませんか、本物とニセモノが偶然同じ場所に居合わせたと言うことですよね」
村木「え、そりゃまあ、そうなりますが」
堀之内「そんな偶然、どうやって証明しますか? ハサミを2本とも完璧に仕上げる時間のないまま犯行を行ったと言う可能性だってありますよ」
堀之内の的確な反論に、ベテランの下川が迎合するように、
下川「まぁ、そりゃそうだろうなぁ。樽宮由紀子を付け狙っていて、たまたまチャンスがあって、ハサミが仕上がらないままやってしまったってことも……」
堀之内「実はね、捜査本部の意見もそうなんです」
磯部「捜査本部の意見?」
さらに堀之内は、捜査本部でも、早い段階でハサミの研ぎ具合が違っていることに気付いていたとも明かし、所轄の刑事たちを落胆させる。
だが、堀之内が短時間で署に駆けつけたことには、もっと別の意味があったことが後に明らかになる。
競技場のような建物のそばを、知夏と安永が話しながら歩いている。
独自捜査を進める彼らも、健三郎とのやりとりで、貴重な手掛かりを得ていた。

安永「犯人は、あの日僕たちが会ったハンバーガー中年である可能性が強いね」
知夏「……」

安永「良くやった、一歩前進だ」


安永が、珍しく知夏を誉めて、頬を触ろうと手を伸ばすと、知夏はびっくりしたように飛びのく。

知夏「……」
麻生久美子さんの、このおどおどとした態度と、反抗的な目付きが実に可愛いのである!
安永は、何事もなかったように、
安永「あ、そうか……そうだ」
知夏「何よ?」
安永「由紀子の実の父親は生きている筈だ。もしかしたら彼がハンバーガー中年なのかも知れない」
その後、二人が由紀子の家を訪れ、線香を上げたり、由紀子の母親から事件現場に案内してくれと頼まれて現場に出向いてあれこれ話すシーンがあるが、特に面白くないのでカット。
ただ、とし恵の話で、安永の言った由紀子の実の父親は、ちゃんと葬儀に来ていたことが分かり、あっさりその推測は崩れる。

一方、目黒西署の刑事たちは、現場周辺、あるいは由紀子のマンション周辺を、日高と知夏の写真を持って聞き込みを開始する。
その様子もしっかり描かれているのだが、彼らがもう一枚の顔写真も住民に見せていたことが、後に分かる。それは磯部だけが知らされていないことだった。

昼飯時、磯部が立ち食い蕎麦屋にいると村木も入ってくる。
磯部「見ましたか、週刊誌?」
村木「何かあったのか?」
磯部が雑誌を広げ、箸の先で示した記事は、現場でもう一本のハサミが発見されたと言う、安永が流した特ダネだった。
村木「先に手ぇ打ったって訳か」
磯部「僕らがこの話をしたのは遺体発見者の連中だけですよ、こんなことしたの日高ですよ! 決まってますよ。こんな聞き込みなんかしたって無駄ですよ、日高引っ張りましょうよ」
村木「ま、目撃証言はあったんだけどな」
村木、何気なくつぶやくが、その途端、磯部が血相変えて詰め寄る。

磯部「目撃者、いたんですか、本当に?」
村木「駅前のハンバーガーショップでな」
村木、何とも言えない困ったような顔で答えるが、磯部はすっかり興奮して、即座に堀之内に知らせてくると店を飛び出し、村木を慌てさせる。

堀之内「そうですか、とうとう出ましたか」
村木「はい」
堀之内「日高なんですね」
村木「駅前のハンバーガーショップで店員が目撃してます」
堀之内「そりゃ凄い」
村木たちの報告を聞くと、堀之内も高揚を抑え切れないと言った様子で、すぐ大々的な捜査を開始しようと意気込むが、上井田に、やんわりと、もうしばらく内輪で捜査すべきだと言われ、あっさり納得する。
堀之内「やあ、やっぱり僕は捜査の素人だなぁ、はっはっはっはっ、どーんと来ーい!」
刑事たち「……」
途中から嘘だが、いくら偉くなっても、管理人にとって阿部ちゃんは、永遠に日本科学技術大教授・上田次郎なのです!
一方、知夏はまたしても自殺しようとしていた。今度はクレゾール石鹸液である。

キッチンで、薬壜から、傍目には梅酒のような色合いの液体をグラスに注ぐと、寝室から安永が見ているのも構わず、一気に飲み干す。

知夏「うう……う……」
飲んだ途端、グラスが手から落ち、自身もドンッと尻餅をついてしまう。

苦しそうに胸を押さえていたが、前のめりになりながら、石鹸液と唾液と胃液の混交物を床に勢い良くぶちまける。

知夏「うっ!」
床に倒れ込んで、芋虫のように身をよじらせながら、キッチンペーパーに幾度も嘔吐を繰り返す知夏。
管理人がこのシーンを初めて見た時、綺麗な女性の嘔吐している姿に美しさやエロティシズムを感じたことを告白せねばならない。
別に、人が苦しんでいる姿を見て愉快に思っている訳ではないのだが、何と言うか、若い女性が見栄や気取りをなくして、ありのままの自分をさらけ出しながら、必死に生きようとしているところに惹かれるのかも知れない。
あるいは、単に私がド変態なだけなのかも知れないが。

呻きながら、床を這いずって、寝室のベッドの上に身を投げ出して荒い息をつく知夏。
安永「また死に損なったね」
知夏「誰のせいよ? 私がこんなに苦しむのは誰のせいよ? あなたがひどいことばっかりするからでしょ?」
知夏、部屋を出て、ハサミを持って戻ってくると、安永に突きつけ、自分を殺してくれと頼むが、安永はすげなく拒否する。
安永「僕には君は殺せない。僕は君の為にいるんだ」
知夏「嘘よ! あなたはいつも口だけよ、あたしのことなんかどうでもいいんでしょ? 美人で清潔で頭の良い女の子が好きなんでしょう? 勝手にそう言うタイプの子探せば? あたし、出てく」
いつになく激しい口調で叩き付けるように言うと、知夏は上着を引っ掛けて部屋を出て行く。
こうして見ると、まるっきり恋人同士の痴話喧嘩のようであったが……
原作では、クレゾール自殺を図った後に、初めて安永(原作では医師とだけ呼ばれている)が現われるのだが、最初から60歳くらいと書かれていて、台詞も、常に人を煙に巻くような、皮肉とあざけりとペダントリーに満ちたもので、映画のように、ドライだがロマンティックな雰囲気は微塵もない。
知夏は、夜の繁華街をあてもなく彷徨った後、ガードレールの前にしゃがみこんで、ふと、家族や友人からも感情が全くないと評されていた由紀子が、何故、ハンバーガー屋では、あんなに楽しそうに笑っていたのか、今更ながらその理由を考えるのだった。

知夏(どうしてあんなに楽しそうだった?)

知夏(君には、感情がなかった……男遊びをしていた……目がガラス玉だった……それなのにどうして、あんなに楽しそうに笑っていた?)
知夏、立ち上がって歩き出すと、俄かに雷鳴が轟き、大粒の雨が落ちてくる。

やがて土砂降りの大雨となり、知夏はずぶ濡れになって歩いていたが、そこへ日高が近付いてきて、あれこれと話し掛け、遂には路地裏に引き摺り込んで、けしからぬ振る舞いに及ぼうとする。

磯部「日高、離れろ、離れないと暴行容疑でパクるぞ、こっちはその方が都合が良いんだ」
だが、密かに日高を尾行していた磯部が、進藤が制止するのも振り切って飛び出し、日高を追い払う。
ここで、漸く、観客に、日高と言うのが安永ではなく、こっちの男の名前だと言うことが明示される。
原作にはないシーンだが、ちなみに進藤は、目の前で女性が暴行されそうになっているのに、「内緒で尾行していたのがバレるから駄目です」などとほざいて、磯部を引き止めているのである。
フィクションの中では正義の味方の刑事が、さすがに婦女暴行を止めようとしないのは、いくないと思う。
知夏は、自分をいたわる磯部を煩そうに振り切ると、礼も言わずに立ち去る。
結局、知夏が帰るところはあの部屋しかなかった。

キッチンのテーブルに座っていた安永を見て、意外そうに「いたんだ」とつぶやく。
安永「あいにく何処にも行くところがなくてね」

安永「血が出てる……」
知夏「転んだんだ」
安永「ここに座って」

安永に言われるまま、安永が指差したところにぺたんと座る知夏が可愛いのである!

安永は、手馴れた様子で知夏の腕の傷に包帯を巻いてやる。
安永「よし、これで良い」
知夏「私が戻ってきたの、いや?」
安永「嬉しいよ」
知夏「一人でいるのが好きだったんじゃないの?」
安永「そんなことはないさ」
翌日、磯部は勝手な行動をした廉で、上井田から丸一日の謹慎処分を受けてしまう。もっとも、それは杓子定規の規則によるものではなく、あの後、日高が交番に駆け込んで、磯部たちのことでクレームを入れたのが原因だった。

磯部「あの野郎……絶対ワッパ嵌めてやる」
進藤「はい、先輩、これ……」
鼻息を荒くさせる磯部の目の前に、進藤が数枚の書類を置く。
磯部「なんだ、これ?」
進藤「例の、遺体発見者の彼女の調査記録、借り出しといてあげましたよ……結構、複雑な少女時代だったみたいですね」
磯部「複雑?」
進藤「中学の時に不登校になったそうです。で、高校の時に父親が借金苦で自殺……」
しかも、知夏は父親の飛び降り自殺を目の前で見て、強いショックを受けたらしい。
ただし、原作には知夏の過去について具体的なことはほとんど書かれていない。
原作では、父親は健在で、逆に母親が不幸な死に方をしたことが仄めかされているが、映画ではそれを逆にしたような設定である。
磯部「痛々しいな、父親の死体を目の前で見たのか……」
彼女の不幸な境遇を知って、磯部クンがますます知夏に惹かれたことは言うまでもないっ。

進藤「仕事戻りましょうよ、ちょっと気になることあるんすよ。これ見て下さいよ」
磯部「なんだ、こりゃ?」
進藤、自分の世界に入りかけた磯部の肩を小突くと、パソコンに画像を映し出して磯部に見せる。
それは、ハサミ男事件の現場に残された足跡だった。

進藤「スニーカーの種類は違うんですけど、同じ人間の足跡なんです」
磯部「どう言う意味だよ」
進藤「だから、人はそれぞれ靴の減り具合が違うじゃないですか? ほら、これ一緒でしょう?」
磯部「確かにそうだな」
磯部、そんな明々白々の証拠を何故鑑識が問題にしないのかと疑問を提示するが、
進藤「サイズちっちゃいんですよ、23.5……女物なんです」
磯部「女?」
進藤「ハサミ男って言うから、男ばっか捜してるじゃないですか、だから鑑識が見落としたと思うんです」
この足跡の問題も、原作には出てこない要素である。
そんな重要な手掛かりを突きつけられても、磯部はまだ犯人が女性などとは夢にも思わず、ハサミ男と一緒に女性がいたのではないかとピントの外れたことを考えるのだった。
しかし、少なくとも原作のヒロインは、とても用意周到な殺人鬼なので、全ての現場に足跡をべたべた付けていたとはちょっと考えにくいんだけどね。だいたい、二人目の江戸川の殺人現場は、下はすべてコンクリートだったので、あんなにはっきりと足跡が残るだろうか?
さて、またしても知夏の自殺チャレンジの時間となる。

知夏が淡々と、寸胴で煮込んでいる得体の知れないもの。
豆腐とおがくずを混ぜたような感じだが、これ、実は大量のタバコなのだ。
これも原作どおりだが、撮影現場では、原作そのままに本当にタバコを煮込んでしまったところ、とてもじゃないけど耐えられない強烈な悪臭がして、監督も往生こいたらしい。

だから、知夏が小さな鍋にアクでも取るように掬ったドロドロのタール、ニコチン成分は、チョコレートを溶かしたものが使われているそうな。
それを一口飲んでみて思わず吐きそうになる知夏。
原作では、煮汁を茶漉しで濾過したり、砂糖を加えて煮詰めると言う「工夫」が描かれるが、映画ではそこまで細かくはやらない。
安永は、相変わらず無関心で、ソファに座ってワイドショーを見ている。


思い切って黒い粘液を飲み下すが、たちまち目の前がくらくらしてきて、部屋がぐるぐると回転し、
知夏「あー、ああ、ああ……」


そのまま床に崩れ落ちるようにぶっ倒れてしまう。
物音に振り向いた安永が、またテレビの方を向いてしまうのが笑える。
その3へ続く(明日やります)。
の続きです。
さて、磯部たちから報告を受けた堀之内は、現場周辺を聞き込んでみてはどうかと提案する。慎重なハサミ男が、犯行前に下見をしていた可能性があるかもしれないと言うのだ。

下川「おい、カメラ坊や、お前の出番だ。遺体発見者たちの顔を盗み撮りするんだ」
進藤「それはオッケーですけど、あの、質問があるんですよ」
堀之内「なんでしょう?」
進藤「事件の日、樽宮由紀子が学校出たのは午後6時ってなってんですけど、授業は3時半に終わってますよね。少し遅すぎないですか」
カメラが趣味で最年少の進藤が、改まった口調で質問を呈するが、いきなり村木に頭を叩かれる。
村木「ばかっ、部活で遅くなったんだよ。報告書に書いてあっただろ」
堀之内「そう、弓道部」
進藤「ああ、そうか……」
何気ないやりとりだが、ここに真犯人を示す手掛かりが紛れ込んでいるのである。
また、進藤が写真が得意で、遺体発見者の顔を盗み撮りすると言うのは原作にもあるが、原作ではそのシーンにも、作者の巧みな伏線が張られている。
その後、知夏が安永と一緒に、由紀子の親友と喫茶店で会い、由紀子について話を聞くシーンとなるが、特にどうでもいいのでカット。
原作でも映画でも、由紀子の特異な性格の描写に多くの紙幅と時間が費やされているが、個人的には興味がないので詳述は避ける。
とにかく、由紀子は幸せそうな外見とは違い、知夏と同じようにあまり感情がない人間で、たくさんの男と付き合っていたのも、淫乱と言うより、男を散々夢中にさせてからポイと捨てるのが楽しくてやっていたらしいことが分かる。
由紀子の友人と別れ、マンションに戻ってきた二人。

安永「ファザコンか……感情のない子か……」
知夏「なによ」
安永「樽宮由紀子も実の父親がいなかった」
知夏「だから何、何が言いたいの?」
安永「……」
知夏「変な目、やめてよ、あんたなんかに何が分かるのよ」
安永のあてこするようなつぶやきと意味ありげな視線に、知夏はたちまち機嫌を悪くさせる。
その途端、チャイムが鳴る。

安永がすぐドアの方へ行くが、ここで、中央の壁に安永らしき男の写真が飾ってあるのが見えて、これがさりげなく安永の正体を示すヒントになっているのである。
訪問者は、磯部と下川だった。
さすがに冷静な知夏も一瞬立ち竦む。
原作では、訪れるのは磯部と村木のコンビで、知夏が鎮痛剤で自殺を図った直後のタイミングである。

磯部「申し訳ありません、二、三、またお聞きしたいことが出来まして」
知夏「あの、何か?」
磯部「あ、もしよろしかったら、前の喫茶店ででも」
知夏がドアを少しだけ開くと、磯部の顔が見えて、快活な口調で用件を述べる。
知夏、ドアを閉めてから、もう一度開け、「今、行きます」と答える。
まるで警察の目を恐れるような安永の態度に、ここでも観客は安永が実在の人物であり、ハサミ男だと言う確信を抱くのである。
知夏は大人しく喫茶店についていき、改めて発見当時のことを聞かれるが、付け加えて言うことは何もなかった。
もっとも、磯部たちの目的は、知夏を外へ誘い出して、進藤に望遠で写真を撮らせることだったのだが。
別れ際、「あの、お一人で暮らしてるんですか? 食事なんかどうなされてるんですか、一人で夕飯食べるのってイヤですよねえ」などと、磯部が知夏に、事件とはまるで関係のないことを親しげに語りかける。
知夏と別れた後、外で待機していた進藤と合流する磯部と下川。
磯部「どうだー?」
進藤「ばっちりっす、良いの撮れましたよ」
下川「女の子の写真はあまり用はないけどな……なんだ、お前、さっきの夕飯の話?」
磯部「いや、あの子見てると痛々しくて……さっきドアの隙間からあの子の部屋か見えたんですよ。女の子だったら、ふつう花とか飾ってあるじゃないですか。なんにもないんです、寒々しい壁だけ」

磯部「あんな部屋で、たったひとりでコンビニ弁当なんか食べてるのかなぁと思って……」
進藤「先輩、春来てません?」
磯部「うるせえなっ」
およそ刑事らしからぬ慨嘆を漏らして、後輩にまでからかわれる磯部だった。
このように、映画では磯部が知夏に好意を持ってることは早い段階で明らかにされるが、原作ではその辺も巧妙に読者には隠されていて、ひとつのどんでん返しになっている。
また、磯部の知夏の部屋に関する感想も、主観トリックを見破る大きな手掛かりになっているのだが、たいていの観客は、特に気にせず聞き流してしまうだろう。
一方、知夏……と言うか、安永は、磯部から2本目のハサミのことを聞かれた後で、警察しか知りえないその情報を、さっきの雑誌記者に電話でリークする。
知夏「なんであんなこと、週刊誌に教えてやったの?」
安永「もう一丁のハサミのことは警察側の切り札さ。犯人しか知りえない真実って奴だ。重要な事実を隠しておいて容疑者にぶつけて動揺させる。それが警察の手口だ」
知夏「私たちは容疑者なの?」
安永「だろうね、だから教えてやったのさ、マスコミが報道すればもう切り札にならない」

雨の降る晩、磯部たちが出先から署に戻ってくると、村木が大量のハサミを机の上に積んで、何やら考え込んでいた。
村木「おい、磯部、ちょっと見てみろ。こっちが凶器のハサミ、こっちがお前が茂みの中で見付けたハサミだ。この二丁のハサミ、どう思う?」
磯部「どうって……」
村木「じっくり見ろ、特に先端を」
村木に言われて、二枚の写真を見比べていた磯部、片方は先端がツルツルしているが、もう一方は表面が粗いことに気付く。
つまり、それぞれのハサミは、別々の人間によって研がれたのではないかと村木が言うのだ。
磯部「じゃあ、現場には、本物のハサミ男と、ニセモノのハサミ男がいたってことですか?」
村木は、さらに、1番目と2番目の被害者に使われたハサミも、先端がツルツルに磨かれていたと言う。

磯部「どういうことですか?」
村木「ここからが複雑なんだ、いいか、樽宮由紀子の喉に刺さっていたのは、こっちの手抜きのハサミで、お前が発見したのがツルツルの方なんだ」
磯部「それじゃあ、こういうことですか、樽宮由紀子を殺したのはニセモノのハサミ男で、本物のハサミ男が遺体発見者になったってことですか」
村木「そういうことだ、すぐに警視正に知らせろ」
村木に言われて、磯部は堀之内の携帯に電話を掛ける。
堀之内が来るまでの間に、ファストフード店で健三郎と知夏が話すシーンがあるが、特にどうでもいいのでカット。
やがて、堀之内はずぶ濡れになって目黒西署にやってくる。
だが、村木の推理を聞かされた堀之内は、あまり感心した顔を見せなかった。

堀之内「突飛過ぎませんか、本物とニセモノが偶然同じ場所に居合わせたと言うことですよね」
村木「え、そりゃまあ、そうなりますが」
堀之内「そんな偶然、どうやって証明しますか? ハサミを2本とも完璧に仕上げる時間のないまま犯行を行ったと言う可能性だってありますよ」
堀之内の的確な反論に、ベテランの下川が迎合するように、
下川「まぁ、そりゃそうだろうなぁ。樽宮由紀子を付け狙っていて、たまたまチャンスがあって、ハサミが仕上がらないままやってしまったってことも……」
堀之内「実はね、捜査本部の意見もそうなんです」
磯部「捜査本部の意見?」
さらに堀之内は、捜査本部でも、早い段階でハサミの研ぎ具合が違っていることに気付いていたとも明かし、所轄の刑事たちを落胆させる。
だが、堀之内が短時間で署に駆けつけたことには、もっと別の意味があったことが後に明らかになる。
競技場のような建物のそばを、知夏と安永が話しながら歩いている。
独自捜査を進める彼らも、健三郎とのやりとりで、貴重な手掛かりを得ていた。

安永「犯人は、あの日僕たちが会ったハンバーガー中年である可能性が強いね」
知夏「……」

安永「良くやった、一歩前進だ」


安永が、珍しく知夏を誉めて、頬を触ろうと手を伸ばすと、知夏はびっくりしたように飛びのく。

知夏「……」
麻生久美子さんの、このおどおどとした態度と、反抗的な目付きが実に可愛いのである!
安永は、何事もなかったように、
安永「あ、そうか……そうだ」
知夏「何よ?」
安永「由紀子の実の父親は生きている筈だ。もしかしたら彼がハンバーガー中年なのかも知れない」
その後、二人が由紀子の家を訪れ、線香を上げたり、由紀子の母親から事件現場に案内してくれと頼まれて現場に出向いてあれこれ話すシーンがあるが、特に面白くないのでカット。
ただ、とし恵の話で、安永の言った由紀子の実の父親は、ちゃんと葬儀に来ていたことが分かり、あっさりその推測は崩れる。

一方、目黒西署の刑事たちは、現場周辺、あるいは由紀子のマンション周辺を、日高と知夏の写真を持って聞き込みを開始する。
その様子もしっかり描かれているのだが、彼らがもう一枚の顔写真も住民に見せていたことが、後に分かる。それは磯部だけが知らされていないことだった。

昼飯時、磯部が立ち食い蕎麦屋にいると村木も入ってくる。
磯部「見ましたか、週刊誌?」
村木「何かあったのか?」
磯部が雑誌を広げ、箸の先で示した記事は、現場でもう一本のハサミが発見されたと言う、安永が流した特ダネだった。
村木「先に手ぇ打ったって訳か」
磯部「僕らがこの話をしたのは遺体発見者の連中だけですよ、こんなことしたの日高ですよ! 決まってますよ。こんな聞き込みなんかしたって無駄ですよ、日高引っ張りましょうよ」
村木「ま、目撃証言はあったんだけどな」
村木、何気なくつぶやくが、その途端、磯部が血相変えて詰め寄る。

磯部「目撃者、いたんですか、本当に?」
村木「駅前のハンバーガーショップでな」
村木、何とも言えない困ったような顔で答えるが、磯部はすっかり興奮して、即座に堀之内に知らせてくると店を飛び出し、村木を慌てさせる。

堀之内「そうですか、とうとう出ましたか」
村木「はい」
堀之内「日高なんですね」
村木「駅前のハンバーガーショップで店員が目撃してます」
堀之内「そりゃ凄い」
村木たちの報告を聞くと、堀之内も高揚を抑え切れないと言った様子で、すぐ大々的な捜査を開始しようと意気込むが、上井田に、やんわりと、もうしばらく内輪で捜査すべきだと言われ、あっさり納得する。
堀之内「やあ、やっぱり僕は捜査の素人だなぁ、はっはっはっはっ、どーんと来ーい!」
刑事たち「……」
途中から嘘だが、いくら偉くなっても、管理人にとって阿部ちゃんは、永遠に日本科学技術大教授・上田次郎なのです!
一方、知夏はまたしても自殺しようとしていた。今度はクレゾール石鹸液である。

キッチンで、薬壜から、傍目には梅酒のような色合いの液体をグラスに注ぐと、寝室から安永が見ているのも構わず、一気に飲み干す。

知夏「うう……う……」
飲んだ途端、グラスが手から落ち、自身もドンッと尻餅をついてしまう。

苦しそうに胸を押さえていたが、前のめりになりながら、石鹸液と唾液と胃液の混交物を床に勢い良くぶちまける。

知夏「うっ!」
床に倒れ込んで、芋虫のように身をよじらせながら、キッチンペーパーに幾度も嘔吐を繰り返す知夏。
管理人がこのシーンを初めて見た時、綺麗な女性の嘔吐している姿に美しさやエロティシズムを感じたことを告白せねばならない。
別に、人が苦しんでいる姿を見て愉快に思っている訳ではないのだが、何と言うか、若い女性が見栄や気取りをなくして、ありのままの自分をさらけ出しながら、必死に生きようとしているところに惹かれるのかも知れない。
あるいは、単に私がド変態なだけなのかも知れないが。

呻きながら、床を這いずって、寝室のベッドの上に身を投げ出して荒い息をつく知夏。
安永「また死に損なったね」
知夏「誰のせいよ? 私がこんなに苦しむのは誰のせいよ? あなたがひどいことばっかりするからでしょ?」
知夏、部屋を出て、ハサミを持って戻ってくると、安永に突きつけ、自分を殺してくれと頼むが、安永はすげなく拒否する。
安永「僕には君は殺せない。僕は君の為にいるんだ」
知夏「嘘よ! あなたはいつも口だけよ、あたしのことなんかどうでもいいんでしょ? 美人で清潔で頭の良い女の子が好きなんでしょう? 勝手にそう言うタイプの子探せば? あたし、出てく」
いつになく激しい口調で叩き付けるように言うと、知夏は上着を引っ掛けて部屋を出て行く。
こうして見ると、まるっきり恋人同士の痴話喧嘩のようであったが……
原作では、クレゾール自殺を図った後に、初めて安永(原作では医師とだけ呼ばれている)が現われるのだが、最初から60歳くらいと書かれていて、台詞も、常に人を煙に巻くような、皮肉とあざけりとペダントリーに満ちたもので、映画のように、ドライだがロマンティックな雰囲気は微塵もない。
知夏は、夜の繁華街をあてもなく彷徨った後、ガードレールの前にしゃがみこんで、ふと、家族や友人からも感情が全くないと評されていた由紀子が、何故、ハンバーガー屋では、あんなに楽しそうに笑っていたのか、今更ながらその理由を考えるのだった。

知夏(どうしてあんなに楽しそうだった?)

知夏(君には、感情がなかった……男遊びをしていた……目がガラス玉だった……それなのにどうして、あんなに楽しそうに笑っていた?)
知夏、立ち上がって歩き出すと、俄かに雷鳴が轟き、大粒の雨が落ちてくる。

やがて土砂降りの大雨となり、知夏はずぶ濡れになって歩いていたが、そこへ日高が近付いてきて、あれこれと話し掛け、遂には路地裏に引き摺り込んで、けしからぬ振る舞いに及ぼうとする。

磯部「日高、離れろ、離れないと暴行容疑でパクるぞ、こっちはその方が都合が良いんだ」
だが、密かに日高を尾行していた磯部が、進藤が制止するのも振り切って飛び出し、日高を追い払う。
ここで、漸く、観客に、日高と言うのが安永ではなく、こっちの男の名前だと言うことが明示される。
原作にはないシーンだが、ちなみに進藤は、目の前で女性が暴行されそうになっているのに、「内緒で尾行していたのがバレるから駄目です」などとほざいて、磯部を引き止めているのである。
フィクションの中では正義の味方の刑事が、さすがに婦女暴行を止めようとしないのは、いくないと思う。
知夏は、自分をいたわる磯部を煩そうに振り切ると、礼も言わずに立ち去る。
結局、知夏が帰るところはあの部屋しかなかった。

キッチンのテーブルに座っていた安永を見て、意外そうに「いたんだ」とつぶやく。
安永「あいにく何処にも行くところがなくてね」

安永「血が出てる……」
知夏「転んだんだ」
安永「ここに座って」

安永に言われるまま、安永が指差したところにぺたんと座る知夏が可愛いのである!

安永は、手馴れた様子で知夏の腕の傷に包帯を巻いてやる。
安永「よし、これで良い」
知夏「私が戻ってきたの、いや?」
安永「嬉しいよ」
知夏「一人でいるのが好きだったんじゃないの?」
安永「そんなことはないさ」
翌日、磯部は勝手な行動をした廉で、上井田から丸一日の謹慎処分を受けてしまう。もっとも、それは杓子定規の規則によるものではなく、あの後、日高が交番に駆け込んで、磯部たちのことでクレームを入れたのが原因だった。

磯部「あの野郎……絶対ワッパ嵌めてやる」
進藤「はい、先輩、これ……」
鼻息を荒くさせる磯部の目の前に、進藤が数枚の書類を置く。
磯部「なんだ、これ?」
進藤「例の、遺体発見者の彼女の調査記録、借り出しといてあげましたよ……結構、複雑な少女時代だったみたいですね」
磯部「複雑?」
進藤「中学の時に不登校になったそうです。で、高校の時に父親が借金苦で自殺……」
しかも、知夏は父親の飛び降り自殺を目の前で見て、強いショックを受けたらしい。
ただし、原作には知夏の過去について具体的なことはほとんど書かれていない。
原作では、父親は健在で、逆に母親が不幸な死に方をしたことが仄めかされているが、映画ではそれを逆にしたような設定である。
磯部「痛々しいな、父親の死体を目の前で見たのか……」
彼女の不幸な境遇を知って、磯部クンがますます知夏に惹かれたことは言うまでもないっ。

進藤「仕事戻りましょうよ、ちょっと気になることあるんすよ。これ見て下さいよ」
磯部「なんだ、こりゃ?」
進藤、自分の世界に入りかけた磯部の肩を小突くと、パソコンに画像を映し出して磯部に見せる。
それは、ハサミ男事件の現場に残された足跡だった。

進藤「スニーカーの種類は違うんですけど、同じ人間の足跡なんです」
磯部「どう言う意味だよ」
進藤「だから、人はそれぞれ靴の減り具合が違うじゃないですか? ほら、これ一緒でしょう?」
磯部「確かにそうだな」
磯部、そんな明々白々の証拠を何故鑑識が問題にしないのかと疑問を提示するが、
進藤「サイズちっちゃいんですよ、23.5……女物なんです」
磯部「女?」
進藤「ハサミ男って言うから、男ばっか捜してるじゃないですか、だから鑑識が見落としたと思うんです」
この足跡の問題も、原作には出てこない要素である。
そんな重要な手掛かりを突きつけられても、磯部はまだ犯人が女性などとは夢にも思わず、ハサミ男と一緒に女性がいたのではないかとピントの外れたことを考えるのだった。
しかし、少なくとも原作のヒロインは、とても用意周到な殺人鬼なので、全ての現場に足跡をべたべた付けていたとはちょっと考えにくいんだけどね。だいたい、二人目の江戸川の殺人現場は、下はすべてコンクリートだったので、あんなにはっきりと足跡が残るだろうか?
さて、またしても知夏の自殺チャレンジの時間となる。

知夏が淡々と、寸胴で煮込んでいる得体の知れないもの。
豆腐とおがくずを混ぜたような感じだが、これ、実は大量のタバコなのだ。
これも原作どおりだが、撮影現場では、原作そのままに本当にタバコを煮込んでしまったところ、とてもじゃないけど耐えられない強烈な悪臭がして、監督も往生こいたらしい。

だから、知夏が小さな鍋にアクでも取るように掬ったドロドロのタール、ニコチン成分は、チョコレートを溶かしたものが使われているそうな。
それを一口飲んでみて思わず吐きそうになる知夏。
原作では、煮汁を茶漉しで濾過したり、砂糖を加えて煮詰めると言う「工夫」が描かれるが、映画ではそこまで細かくはやらない。
安永は、相変わらず無関心で、ソファに座ってワイドショーを見ている。


思い切って黒い粘液を飲み下すが、たちまち目の前がくらくらしてきて、部屋がぐるぐると回転し、
知夏「あー、ああ、ああ……」


そのまま床に崩れ落ちるようにぶっ倒れてしまう。
物音に振り向いた安永が、またテレビの方を向いてしまうのが笑える。
その3へ続く(明日やります)。
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