第12話「怪獣シュガロンの復讐」(1971年6月18日)

幕開けから、勇壮なワンダバが鳴り響く中、MATジャイロから隊員たちがパラシュートで降下するという、見事な特撮。
現在、MATは3ヶ月に一度行われる特別訓練の真っ最中なのだ。
制服姿のおえらいさんたちが見守る中、加藤隊長が厳しく隊員たちに号令をかけている。

続いて、二人一組でバズーカを砲を構えて撃つ射撃訓練。
バズーカ砲は、ガニ股で撃つとカッコ悪いことがこれで証明された。
だが、その最中、郷は、背後の山をウサギを抱いて軽やかに走っていく黒髪の美少女の姿を目にする。
加藤「郷、何をしてる?」
郷「……」
南「郷、ぼやぼやするな」

続いて、隊員たちが燃える輪の中を潜り抜けていくという、別名
「ワシらは動物園のトラか?」訓練。

凄いのは、丘隊員も、女優本人が普通に輪の中に飛び込んでいることである。
根性あるなぁ。
その後も、急な斜面をロープにつかまって登攀したり、地雷原の中を走り抜けたり、過酷なトレーニングが息つく暇もなく続けられる。

ここで、その荒々しさと対照的な、小鳥さえずる森の中で、ウサギを野に放してやる、あの美少女の姿がインサートされる。
それを、

次の、怪獣の書割に向かって死に物狂いで銃を撃つ、別名
「これって縁日の射的じゃねーか!」訓練の後に貼ると、
静香「ははっ、チョーウケるんですけどっ!」 と、笑っているように見えるから不思議である。
それはさておき、男性隊員に続いて、ジープから飛び降り、

意味もなく一回転して、股間のシワシワをくっきりと浮き上がらせつつ、

若干IZAMみたいな顔をして、銃を撃つ丘隊員がラブリーなのである!
丘隊員も、しっかり、的(テレスドン)に当てているのだが、
加藤「丘隊員、何してる?」 何故か、彼女だけ隊員にこっぴどく叱られるのだった。
納得いかねえ。
と、その演習場は、最近出来たバイパスのすぐそばにあり、ちょうどそこを通りがかったバイクの若者三人の興味を引き、なにしろ、知能指数0なもんで、立ち入り禁止もなんのその、その中に乱入して隊員たちの周りを走ってからかう。
南「どけ、危ないぞ」
バカ1号「ダダーン、ダダーン、いいねえ、怪獣はー」
岸田「あっちへ行けーっ!」
バカ2号「気取るなよ、どうせ怪獣ごっこじゃねえか」 ま、確かにそう言われても仕方のない面もある……
もう少し長居していたら、訓練中の誤爆と言うことで三人揃って始末されているところだったが、加藤隊長にガミガミ怒鳴られて、三人はほどなくその場から走り去り、なんとか命拾いする。

だが、演習場を出た直後、今度はさっきの美少女・静香を見付け、なにしろ知能指数0の稀に見るバカたちなので、文字通り「ヒャッハーッ」と笑いながら、彼女を追いかけて森の中を爆走する。
彼女も必死に逃げるが、足が少し悪いこともあり、森を抜けた先にある吊り橋の手前で追いつかれてしまう。

バカ1号「お、ビューティフルじゃんかー」
ま、ウルトラシリーズのドラマ演出は総じてお上品なので、そんなバカたちも、せいぜい一緒にバイクにお乗り遊ばしませんこと? おほほほほ……と、誘うだけで、当然予想されるような不埒な行為には踏み出さないのが残念、いや、さいわいだった。
それでも、見知らぬバカ三人に取り囲まれて静香が激しく恐怖したのは確かで、まるでその心に感応したかのように、周囲の山肌が崩れ落ち、地中から巨大な怪獣シュガロンが現れ、三人に襲い掛かってくる。
もっとも、具体的にどんな目に遭ったのかは描写されず、次のシーンでは、バカ1号がタンカで救急車に担ぎ込まれ、

バカ2号が、ますます呆けたような顔で座り込んでいると言う、いまひとつ煮え切らない展開となる。
ここは、是非、三人ともきっちり死んで欲しかったところだ。
加藤「おい、いったい何があったんだ?」
バカ2号「娘が……娘が、怪獣……」
それでも、バカ2号はうつろな目で宙を見据えながら、僅かな手掛かりを示す。
その場に居合わせた現地の駐在は、娘と言うのは、吊り橋の向こうの山の中に一人で住んでいる静香と言う少女のことではないかと考えを述べる。
駐在「とにかく、変わった娘ですよ」
郷「あの時の娘だ」
その後、実際に怪獣の暴れまわった痕跡が発見されたので、

加藤「その静香という娘さんをほっとくわけにもいかんな。郷、谷へ行って避難させろ」
郷「わかりました」
加藤「我々はここにキャンプして、警戒態勢に入る。勿論、夜にはキャンプファイヤーをやるぞ!」
隊員たち「ひゃっほう!」
言うまでもないが、途中から嘘である。
一人で森の中に踏み込んで少女の姿を捜し求めていた郷の耳に、小鳥のさえずりに混じって、せせらぎの音と、子守唄のような歌声が聞こえてくる。
郷が密かにある期待を抱きながら、音のするほうへ急ぐと、

滝壷の中で、あの少女がまっぱになって泳いで……はおらず、単に滝の下にしゃがんで黒髪を櫛で梳かしているだけだった。
郷、
「全裸ちゃうんかーいっ!」と言う、魂の叫びを飲み込む。

それにしても、ほんとに平安時代のお姫様のように長くて綺麗な黒髪である。
言い忘れていたが、静香を演じるのは日印ハーフの久万理由香さんである。真理アンヌさんの妹ね。

郷「おい、怪獣が出るんだぞ! 僕はMATの郷秀樹と言うものだ。君を保護しに来たんだ」
そこは、黒い古富士泥流層のいたるところから、滾々と清流が流れ出す実に美しい滝であったが、それもその筈、この滝こそ、日本三大名瀑にも数えられ、天然記念物にも指定されている、静岡県富士宮市の「白糸の滝」なのである(多分)。
劇中では、白神山と言うらしいが。
静香はさっきのことがあったので郷の姿を見るなり怯えて逃げ出すが、郷も必死で追いかけて森の中で捕まえる。

静香「私のことはほっといてください」
郷「そうはいかんよ。君の安全を守るのが僕の任務なんだ」
静香「怪獣はここへは来ません!」
郷「どうしてそんなことが言える? 三人の男が襲われてるんだ。怖くないのか」
静香「怖くありません!」
郷が何度言っても静香は従わず、その体を突き飛ばして森の奥へ消えてしまう。

その夜、再びシュガロンが現われ、あの吊り橋を一撃で粉砕してしまう。
郷、なかなか少女を発見できず、野宿を覚悟するが、ちょうどその視線の先に、粗末な山小屋から漏れる明かりが見えた。
果たして、そこが静香の住まいだった。

静香「帰ってください!」
郷「怪獣がバイパスを襲ったそうだ」
静香「どんなことがあろうと、私はここを離れません」
郷「その訳はなんだ? そんな危険を冒してまで、何故こんな山奥に住みたいんだ? もしかしたら君があの怪獣を操ってるんじゃないのか?」
頑なに避難を拒む静香の態度に不審を抱いた郷、ふと、そんな疑惑を口にする。

静香「ええっ?」
郷「はっはっはっ、冗談だよ」
こともなげに言う郷だが、とても冗談のようには聞こえなかったぞ。
郷「でも、あの怪獣は何故この谷を襲わないんだ? 君は何故怖くない?」
静香「……」
郷、落ち着いて家の中を見回すと、そこらじゅうに、同じ画家の手になると思われるたくさんの絵が飾ってあることに気付く。
しかも、それらはすべて、年齢は違えど、同じ少女をモデルに描かれているようだった。
郷「ウシヤマ? 牛山?」
静香「父の描いた絵です」
郷「もしや、牛山武画伯では?」
静香が頷いたのを見て、
郷「牛山画伯は自分の娘ばかり描くので有名だった。その娘さんが君って訳か」
意外にも、静香は郷でさえ知っているような有名な画家の娘であった。

ナレ「牛山画伯は今から15年前に5歳の娘と共に突如姿を消した。その行方は杳として知れなかった」
静香の整った横顔に、名古屋章の声がかぶさるが、それに続けて、割りと最近描かれたと思われる静香の絵が映し出される。
郷(壮絶に似てねえ……) いや、似てないこともないのだが、こんな絵描いて貰っても、あんまり嬉しくないことは確かである。

郷「こんなところに隠れ住んでいたのか。しかし、何故?」
静香「失踪の原因は私の交通事故でした……」
幼稚園の時、自動車事故に遭って下半身不随になると医者に言われた静香を、画伯はこの山へ連れて来て、必死にリハビリを行わせたのだと言う。
その甲斐あってか、静香は多少足に障碍が残ったものの、普通に歩けるようになったのだ。
翌朝、牛山画伯の墓に手を合わせている郷と静香。
しかし、郷が妙齢の女性と一緒に一晩過ごしたと言うのに、その辺の細かい描写がスパッと省略されているのは物足りないなぁ。

郷「牛山画伯は車の走らない場所を探したんだ。だからこんなところに……」
静香「父の理想郷でした」
郷「静香さんがここを離れたがらない訳が分かったよ」
郷、ふと周囲を見渡すと、
郷「この一帯は溶岩になってる。そうか、あの怪獣は蛇と同じく硫黄が嫌いなんだ。だからこの谷に近付かないんだ」
静香「シュガロンはとても大人しい怪獣だったんです。裏山にパイパスが開通してからですわ、急に乱暴者になったの」
郷「縄張りを荒らされて怒ったのかな」
静香「まさか」
郷が冗談めかして言うと、静香も顔をほころばせる。
駐在は静香のことを変わり者といっていたが、実際は、ごく普通の気立ての良い娘のようであった。
しかし、いくらなんでも、こんな山の中でうら若い女性がひとりで暮らしているというのはリアリティーがない。そもそも、生活費とかはどうやって工面しているのか。まぁ、父親が有名な絵描きだったから、金はあるんだろうけど、それならなおのこと、こんな何もないところで仙人暮らしと言うのも非現実的である。
せいぜい、普段は町に住んでいて、たまに山荘に泊まりに来る……くらいで良かったのではないか?
あるいは、既に静香は亡くなっていて、絵に込められた画伯の思いが実体化して、郷の前に人間の姿となって現れる……と言うような幻想譚のほうが、今回の舞台にはふさわしかったかもしれない。
いずれにしても、こういうリリカルなプロットと、シュガロンのような不粋な怪獣は相性が悪い。
今回のエピソードが、発端は面白そうなのにあんまり面白くならなかったのは、そこらへんに原因があるのではないだろうか。
話が先走ったが、ほどなくシュガロンが加藤隊長たちの前に現われる。
隊長たちは、死にそうな顔で銃を撃つが、一切効き目なし。
昨日のあの特別訓練は一体なんだっだろうと言う虚しさに襲われる。
MATジャイロで上空を飛んでいた丘隊員がロケット弾を撃ち込むも、これまた効き目なし。

思うに、やってる感を出す為に、毎回、隊員の周囲で起こる爆発の方に予算を使いすぎて、肝心のMATの対怪獣装備が貧弱になっているのではないだろうか?
だが、今回はMATが余計な攻撃を加えたせいで、シュガロンが理性(?)を失い、いつもは入らない筈の静香の住む谷に入ってきてしまう。

静香「今まで一度も来たことがなかったのに」
郷「眼をやられて方向感覚を失ったんだ。避難してください」
静香を逃がして自分も銃を撃ちながら、内心、
「MAT、使えねーなー!」 と、心の中で毒づく郷であった。
おまけに、この後、シュガロンの吐き出した火炎弾で静香の家が燃え、父親の絵を取りに戻った静香が煙に巻かれて命を落とすという最悪の結果になるのだから、はっきり言ってMAT、今回に限れば百害あって一利なしの存在であった。
色々あって、郷がウルトラマンに変身してシュガロンを倒すが、役立たずのMAT隊員の前に、白樺の林の奥から、静香をお姫様抱っこした郷が現れる。

郷「静香さん、しっかりするんだ。死ぬんじゃないぞ」
郷の必死の願いも空しく、

郷「ああっ……」
静香はだらりと仰向けに頭をのけぞらせ、儚い一生を終えるのであった。
郷「静香さん、静香さん!」
ラスト、静香の遺体を父親の墓のそばに埋め、その冥福を祈っているMAT隊員。

郷「隊長、あの怪獣は牛山画伯の化身だったのではないでしょうか」
加藤「牛山画伯?」
郷の言葉に目を見張る加藤隊長だったが、やがて「そうかもしれない」と言うように、ゆっくりと頷く。
郷「死んだ牛山画伯が怪獣になって娘を守ってた」
上野「そんな……バカなこと言うな」
郷「牛山画伯は車を嫌ってここに移り住んだ。だから開通したばかりのバイパスを襲ったんだ」
加藤「そう言えばMATジャイロの爆音を聞いて吠え立てていたな。オートバイが襲われたのもそのせいかもしれん」
南「吊り橋を壊したのも、町から来る人間を防ぐ為だったんだろうか」
上野は言下に郷の想像を否定するが、加藤隊長も南も、その説を補強するような事実を付け加え、

丘「きっとそうよ、あの怪獣は静香さんを守ってたんだわ」
髪型はNGだが、相変わらずお綺麗なユリ子姫も、それに同意するのだった。
岸田「奇抜過ぎるけど、この際、なんか信じたい気もするな」
堅物の岸田までそんなことを言うのを聞いて、
上野「でしょー? 俺もそうじゃないかと思ってたんだー」 隊員たち「……」
しかし、仮にシュガロンが牛山画伯の化身だったとしたら、いくら方向感覚が狂ったからって、父親が、娘の家に火をつけるかね?
郷がそう思いたくなるのも分からないではないが、単なる偶然だったというのが正解ではないだろうか。
ともあれ、僅かな間の触れ合いだったが、郷の胸には、森の妖精のようにはかなげで美しい静香の姿が強く焼き付けられていた。

山頂付近に白い雲がたなびいて、実に美しい富士山をバックに、山を下っていく隊員たちの姿を映しつつ、幕となる。
以上、前記したように、プロットの割りには大して面白くない作品だった。
冒頭の訓練シーンのせいでドラマ部分が短くなったこと、シュガロンの正体が曖昧なままだったこと、きっちり死ぬべき三バカが死なずに、死ぬ必要のない静香を死なせるというトンチンカンな結末が、敗因ではなかっただろうか?
殺せば良いってもんじゃないんだよ!
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